罪深い男は言った。
「あの時は、つらく悲しい過去という夢を見続けていたんだ」
罪深い女は言った。
「自分自身を可哀想だと思い込んで、ただ悲劇に浸るヒロインになっていたの」
罪を背負った男は言った。
「友と自分に降りかかった災難を、ただ認めずにうつむくばかりだった」
「そこから逃げ出したいなら助けてあげる。
けれど、貴方達は逃げたいの?それとも」
「勝ちたいの?」
Song dedicated to you
FF7:名無しのNANA- 戦略的撤退という名の勝ち戦 そのいち
「いわゆる、スキマ話とか補足話。閑話なのね~」
【身もフタもねー!】
彼女この家に来てから一年経ち、彼女が引き起こすハラハラするような行動にも義父と家政婦がなれたころ。
喧嘩の「け」の字もなかったような家に、低音と高音の怒鳴り声が交差する日が一日だけあった。
彼女が初めて家を空け、一人で - と言っても、保護者代わりのガードマンつきだったが - ゴールドソーサーへと向かってしまったのだ。
義父も、付き人付きで出かけるならば、同じ大陸ならばまだ安心は出来る。
しかし彼女はその年齢にしては達者すぎる置手紙を残して海を渡ってしまった。
心配していたからこその怒声。しかし、義父が知るはずもない彼女の真の年齢は、高い。成人女性の心が幼い体の中に収まっている。
彼女も、悪いとは思いつつも自分の身の回りを囲む過剰な保護から逃げたかった。外見はともかく、中身は大人なのだから。
すまないと思っているからこその怒声を上げた。
その後、二人の仲は急速に冷え切ったが、彼女はあきらめなかった。
置手紙をして大陸のどこかに出かけても、その手紙を一瞥するだけの義父に毎日手紙を書き続け、強情な義父を折れさせたのだ。
軽く半年の攻防だった。
「負けたよ」
そうあきらめたように笑う義父に。
「ナナはライゼン大佐の娘だもん!【流石は大佐の娘さんだ】って言われちゃうくらいなんだから」
彼女は鮮やかに笑い、舌足らずの口調を初めて、義父の前で改めた。
アゴス・ライゼン。
再び自分の娘に陥落し、目じりが垂れ下がる親馬鹿になった瞬間である。
そして、彼女が義父から全幅の信頼を置かれた瞬間でもあった。
それはまだ「はじまり」よりも前のできごと。
・
・
・
「よし、情況説明はついたナ」
爽やか、というよりも寒風と表現したほうがいい温度の風が吹きすさぶ高所で、少女は高らかにのたまった。
額にフライトゴーグルと、長く二つにおろした三つ編み。腰まである暖かそうなコートにミトンを嵌めた完全防御な姿。
【いや、まったく付いてないよ!?】
分厚い金属を叩いたかのようなショック音が幻聴できそうなほど、傍らでモコモコと座り込んでいたチョコボが、
唐突にしゃべりだした少女に突っ込んだ。
「黙れ」
【…ヒーン!】
今、彼女とチョコボが仁王立ちしているのはニブルヘイムを遥か遠くに望む山の上。大陸のど真ん中に近い山。
そして爆音が頭上を裂き、もう一方の眼下の目的物である円形の湖に降りていく。
まるで操縦者の思考をトレースするかのように、おっかなびっくり下っていくヘリコプターを見下ろし、思わず苦笑が浮かぶ。
「がんばれ~、おっじさま~」
ほんのりと「顔中ボコボコにされた彼の人との再会」を期待しながら、再び視線をニブルヘイムへと向け、既に自分の身長を越し
出したチョコボを見上げる。
「じゃ、ウチらは小父様たちが来るまで鉄板ドアでも叩いてますか」
【了解~】
まるで、父親に「ちょっと角のコンビニでおつまみ買って来てくれない?」と頼まれ「いいよー!」と頷く位の気軽さで、チョコボの脇を叩く。
今だモコモコの黄色い羽毛布団になっていたチョコボは、更に羽をモコモコと動かし、乗りやすいように鞍を下げた。
鐙(あぶみ)に足を掛け、軽やかに鞍の上にまたがると、少女は額に乗っていたゴーグルを引き下げて目を覆う。
「クェエエッ!!」
普段の会話ではない「単なる鳴き声」を高らかに上げて、チョコボは今だ幼さを残す巨体で立ち上がり、一気に険しい山を疾走していく。
寒暖の激しさ故に、地面にへばりつくようにして生息する植物達を出来るだけ避けながら下る様は、まるで灰色の山を滑り落ちる
金色の流星のようだった。
ずんずんと近づいてくる小さな村。既にかつての住民は一人もいない、神羅に造り上げられた「罪隠しの村」。そしてその
村をじっと見つめる少女は、しばらく考え込み、カッと目を見開き叫ぶ。
「えーと…”嘘だっ!”?」
【まあ、罪隠しとか言われたら雛見な沢な村を思い浮かべるけどさ…。言っとくけど、ナタ振り回すなよ】
「えー、チョコボのなく頃に-罪隠し編-とかダメ?」
【ダメー!すっごい怖いからダメ!「【ごめんなさい】」シーンで脱落した俺を舐めるな!】
「うっわ脱落早っ!富竹さんしか死んでねー!」
地面に這い蹲る草の背が高くなり、そして風景は森へと変わってゆく。
騒ぎ立てる二人(一人と一匹)に目を見開いて動きを止める熊の目の前を通り過ぎ。
襲い掛かろうと前に立ちふさがった狼を知らないうちに踏みつけ蹴り飛ばし。
「お持ち帰りィー!」と笑いながら少女が冗談で振り回した釘廃材(釘バットにあらず)がチョコボのスピード+ナナの振り回し。
さらに脳天にクリティカルヒットという奇跡を起こし、ドラゴンをぶちのめした。いつの間にかレベルが一つ上がっていた。
なんやかやで、二人は偽物のニブルヘイムへと到着したのであった。
「あれ?レベル上がってる」
【まじで?ラッキーじゃん】
そして二人は、その足をまっすぐに神羅屋敷へと向けて歩き出す。
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あとがき:どうもお久しぶりです、Mです。
尋常じゃないまでのスランプに陥り、もうどうしていいかわかんなくなって、楽しい行為のはずの創作行為が苦痛にしか
感じられずにないちゃったりしました。こんにちは、情緒不安定!
そしてなんとなく復活。
気まぐれにこっそり一本投稿しちゃったりしましたが、流石に二本も投稿はやっぱりアレだよね、ということで削除しました。
いつか全部終わったら、また投稿したいなぁ。