パイプが這いずり回る中空、そこに腰掛ける少女とチョコボ。眼下には慌てて街から出て行く人々。
「おーおー、逃げてる逃げてるぅ」
ピリリリリ ピリリリリ ピリ ピッ
手に握り締めていたPHSが光り、甲高い音が響く。通話ボタンを押して耳に当て、最近聞きなれてきた男の声に
耳を傾ける。
「んー?何々?」
『こっちから見ても退避完了ってカンジだ、やっこさんたちに不審に思われないようにちょっと小細工もしてみたぜ』
「どんな?」
『丁度襲い掛かってきたバケモンがいてな。それが複数だったもんで苦労したんだが…。
そいつらの爪とかが鋭くてな?それでほんとにガス管削って孔空けてきた。そばに同士討ちっぽく放置してきた』
「アホか!そこで大爆発起こしたらどうすんのさ!?」
『ってー…いきなり叫ぶなよ!鼓膜がジンジンする…』
「もー、ホント小細工にしても力技だよねーアンタは」
『うっせ!今から集合場所にいくからな!…怪我すんじゃねーぞ』
「…もう、そういうときばっかり色男モードねぇ…。分かってるって、アリガト」
ピッ
ピリ ピッ
「はい」
切った途端に成るPHSを即座に通話モードにし、耳に当てる。
『あらかたの退避は完了した模様です、これからどうすれば?』
「わたくしがお渡しした変装道具で変装したのち、7番街外の公園で待機。その後災害があるはずですので
それらの救助に当たってください」
『ハッ! …ですが、一人見当たらない者がいまして…』
「ああ、黒髪のツンツンした男でしょう?彼はかまいません。わたくしの子飼いですから。それよりも、貴方たちも気をつけて」
『了解しました。では』
ピッ
「ぅはっふー…」
ずるり、と音がしそうなほどに、自分の体を支えるパイプにもたれかかる。PHSはすでにポシェットの中。
【随分暗躍が馴染んできたみたいじゃんか】
「はー…、つっかれたー。幼稚園はまだしも、学校が通信制に出来たのはありがたいわ~」
こんなことばっかしてたら、小学校ダブるっちゅーねん。義務教育が無くてよかった。
ビバ赤ペン先生。こっちにも居たよ似たのが。…付いて来る実験セットが凄い楽しい。子供め、うらやましい…!
「アイスクリームをつくろう」セットがとってもたのしかったです。販売元はもちろん神羅。
Song dedicated to you
FF7:名無しのNANA- ロマンは男だけのものじゃない
【ていうか帰らねぇ?正直まじ怖えぇ】
「大丈夫、私も怖い」
頑強に組まれたパイプの上を這う、点検用の通路の上に私たちは居る。大人五人ほどが横に通れるほどの広さだけれども、流石に
中空30メートル以上はガチな場所に長々と居たくは無い。
「そういえば、「ガチ」っていうと「ガチホモ」って言葉しかおもいうかばな」
やらないか
【ほんっとうにお前はネタ脳な!】
泣きたくなってくる!
失敬な。
「ま、それはおいといて~。さっさと帰って用意しよ、用意」
【シルキスご飯よろ】
「ざけんな家畜。いくらすると思ってんだ。で、何本もってく?」
【ま、ステ(ータス)は打ち止めっぽいし。途中途中で買い足せばよくね?3束くらいでいこう】
「うぃ」
そんな会話をしつつ、通路を戻っていく私たちの足元で、黒髪のボインを乗せたチョコボ馬車がウォールマーケットへと向かっていった。
気付いたがメンドクサイしあんまりかかわりたくないので無視して帰った。
「クラウドの女装姿、ちょっとはみたかったなぁ…」
【幼女がうろうろしてたら売り払われるぞ】
「だぁよね~」
うむ、至極残念である。
さて、用意が終わったら…神羅ビルのロビーで民間人にでも混ざってようかしら?運がよければクラウドたちから逃げ惑う
NPCになれるかもしれないし?ウププ。
【俺は?】
「神羅ビルの駐車場で待っててヨ」
カツカツと通路を歩きながら、今後の予定と持っていく荷物の相談。チョコボで稼いだお金はダテじゃない。
さあさあ世界がはじまってゆくよ。
テントに食糧、そして水。お金とアイテム、ハニーに載せて、冒険の旅に出発しよう。
そして数時間後、スラムは潰れた。落下物に当たって大怪我をした人はいたが、奇跡的に死者は出なかった。
私の頬が、これ以上ないって言うほど、ニンマリと持ち上がった。
・
・
・
・
「よっ…と。これでいいかな?」
【ん。まだまだイケる。全速力でも走れそうだ】
「おお、頼りになるゥ」
デパートのアウトドアショップの店員さんに、ゴールドカード+現ナマをちらつかせて用意させたキャンプ道具を
手際よくハニーの鞍の後ろと、両横にくくりつけていく。
この日のために何回か練習したしね!
ちなみに鞍はウェスタンタイプ。でも鐙の部分は金属と合皮で作ってある。二人(一人と一匹?)して
「どんな鞍が互いに負担がかからないか」ってグリングリン牧場で頭ひねりあって作った自信作だ。…いや、私が
作ったわけじゃないけどさ!ちなみにウェスタンタイプ、っちゅのは股の前の辺りにグリップがあるんだよ。
【いいなぁ、ナナ。俺もアウトドアショップ行きたかった…】
「ムッフッフ、羨ましかろう!私はアウトドアグッズ大好きだからな!水の濾過装置も作っちゃうぞ?」
【いや、それはやりすぎだろ。…?なにそれ】
エマージェンシーブランケットや折りたためるホボクッカー。「無くしたらマジピンチ」の類を最終チェックしている
私を、黄色い口ばしがつつく。私が手に持っているのは、そこそこに嫌な色合いのカサカサした棒が繋がった板。
重量感のないそれを放り投げ、幾度か一人キャッチボール。
「これは着火材。耐水性があって、濡れてても火を近づければボッといっちゃうのさ」
【・・・ファイアでよくね?】
ヒュボッ!と私の手のひらから火の玉がハニーをかすって地面に当たる。
「きゃっ☆いやですわ! ナナったらうっかりやさん!チョコボさんのシルキスのお野菜を
あ や う く フ ァ イ ガ で 消 し 炭 に す る と こ ろ で し た わ !」
お 前 ご と な
万感の思いを込めた視線でハニーを見つめる。ごくり、と彼の(性別上は彼女だけれど)喉が動く。
【ごめんなさい、そうですよね。アウトドアはロマンが大切ですよね。魔法なんかの火よりもマッチや着火具での
炎が最高ですよね!ごめんなさい!】
「うふふ、チョコボさんたら。ロマンがわかるなんて、素敵ですわ☆うっふふふふふふふふ」
【アッハハハハハ】
「うっふふふふふ」
【アッハハハハハ】・・・・・・・・・・・
そんな楽しい(?)時間も過ぎ、ネオンが輝く夜へと空が染まってゆく。
彼と、彼らが交差する時が近づいていた。
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あとがき:とりあえずここまでが削除前のものです。ではでは~