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No.3649の一覧
[0] マブラヴ Unlimited~My will~ & False episode [葉月](2020/03/14 23:35)
[1] 第一話「紡がれた想い」 + プロローグ[葉月](2009/03/29 01:07)
[2] 第二話「遥かなる地球へ」[葉月](2009/03/29 01:09)
[3] 第三話「生きる理由」  第一節[葉月](2009/03/29 01:12)
[4] 第三話「生きる理由」  第二節[葉月](2008/11/16 06:57)
[5] 第三話「生きる理由」  第三節[葉月](2009/03/29 01:14)
[6] 第三話「生きる理由」  第四節[葉月](2009/02/01 21:03)
[7] 第三話「生きる理由」  第五節[葉月](2009/02/01 21:03)
[8] 第三話「生きる理由」  第六節[葉月](2009/02/01 21:04)
[9] 第四話「終わりなき悲劇」 第一節[葉月](2008/11/16 07:01)
[10] 第四話「終わりなき悲劇」 第二節[葉月](2008/11/16 06:52)
[11] 第四話「終わりなき悲劇」 第三節[葉月](2008/11/19 00:06)
[12] 第四話「終わりなき悲劇」 第四節[葉月](2008/11/23 04:48)
[13] 第四話「終わりなき悲劇」 第五節[葉月](2008/12/11 15:53)
[14] 第四話「終わりなき悲劇」 第六節[葉月](2008/12/11 15:52)
[15] 第五話「それは雲間に見える星」 第一節[葉月](2009/10/17 12:33)
[16] 第五話「それは雲間に見える星」 第二節[葉月](2009/02/01 20:51)
[17] 第五話「それは雲間に見える星」 第三節[葉月](2009/02/10 22:48)
[18] 第五話「それは雲間に見える星」 第四節[葉月](2009/02/10 22:47)
[19] 第五話「それは雲間に見える星」 第五節[葉月](2009/05/03 12:15)
[20] 第五話「それは雲間に見える星」 第六節 <終>[葉月](2009/12/14 01:02)
[21] 2008年12月16日 冥夜&悠陽&武、誕生日お祝いSS [葉月](2009/03/29 01:02)
[22] 2009年5月5日千鶴誕生日お祝いSS[葉月](2020/03/14 23:10)
[23] 2009年07月07日 純夏、誕生日お祝いSS [葉月](2009/07/09 01:47)
[24] False episodes ~St. Martin's Little Summer~[葉月](2009/04/25 19:26)
[25] Scene 1 「The butterfly dream」 ①[葉月](2009/09/27 23:55)
[26] Scene 1 「The butterfly dream」 ②[葉月](2009/05/03 12:12)
[27] Scene 1 「The butterfly dream」 ③[葉月](2020/03/14 23:10)
[28] Scene 2 「Sabbath」 ①[葉月](2009/07/02 23:15)
[29] Scene 2 「Sabbath」 ②[葉月](2009/07/29 01:14)
[30] Scene 2 「Sabbath」 ③[葉月](2009/12/14 01:52)
[31] Scene 3 「Waxing and waning」 ①[葉月](2010/03/31 09:38)
[32] Scene 3 「Waxing and waning」 ②[葉月](2010/11/18 00:55)
[33] Scene 4 「Conscious」 ①[葉月](2020/03/14 22:51)
[34] Scene 4 「Conscious」 ②(アサムラコウ様執筆)[葉月](2020/03/14 23:21)
[35] Scene 4 「Conscious」 ③(アサムラコウ様執筆)[葉月](2020/03/14 23:21)
[36] Scene 5 「Awakening」~Dreamhood's End~(アサムラコウ様執筆)[葉月](2020/03/14 23:21)
[37] False epilogue 「My will」 <終> (アサムラコウ様執筆)[葉月](2020/03/14 23:21)
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[3649] 第四話「終わりなき悲劇」 第一節
Name: 葉月◆d791b655 ID:c8808b2f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/16 07:01


「はあ……」

  真璃はメガフロート基地「ニライカナイ」から海上を眺めている。
  天中に上った太陽がメガフロートによって遮られ、大きくできた影によって海の色がより濃く見えた。

 「父様…MIAなんだって…母様」

  MIAとは作戦行動中に行方不明になったことを指す。 とは言っても、基地襲撃を受けて現地部隊が生存しているか?と言えば、
 ほぼそれはありえない。
  横浜基地が敵に占拠され「横浜ハイヴ」となって以降彼らの消息はつかめていない…つまりはほぼ間違いなく戦死という扱いの「MIA」
 なのである。
  真璃は空を…海鳥の姿がほとんど見えない空を・・・見上げながら、昨晩まりもから聞いた話を思い出していた。
  日本が落ちた後、世界もやはり同様に侵略を受け続けた。 結局G弾を供給するためのグレイ・イレヴンは確保できず、「弾切れ」とい
 う何とも情けない形でオルタネイティヴ5は終わりを告げる。
  最終的に残ったオーストラリアでは日米ソ欧が最後の反攻作戦実施を計画。 第4世代戦術機等の研究が続けられたが、増え続ける
 BETAの圧力に結局は間に合わなかった。
  このニライカナイは元々、日本本土からオーストラリアに逃げるための避難民移動基地であったが、オーストラリアが落ちてからは極
 東アジア難民の最後の領地となる。
  真璃にとってそれは、自分が考えていた歴史とは全く違う歴史。 栄光と希望の歴史ではなく、滅亡と絶望の歴史である。

 「……でも」

  だが、真璃は以前とは別の気持ちを抱いていた。 それは殿下の生き様や最後まで戦った人間達の闘いへの感情である。
  彼らの“生の熱さ”に、彼女は一種熱病にも似た感覚に囚われていた。
  そして自分の父親……つまり白銀武もそのような生き方をしたに違いないと、強く信じ込んでいた。 
  仲間を励まし、救い、そして最後は多くの敵を道連れにして散華……などというヒロイックな行為を彼女は夢想しているのだ。

 「私も…」

  この熱病にかかったとき、人間がとる行動は一つだけだ。

 「父様のように、生きたい……そうだ!
私、父様の分も地球で戦う! 私、地球で生きる!」

  周りの状況も考えず、ただひたすら自己の感情を優先する。 彼女がこれから取ろうとした行動もその例に漏れなかった。





 「ふー……ようやく昼休みね」

  神宮司まりも、五十路前が大きく体を伸ばしつつ歩いている。 その手には合成食パンが四つ。
  昨晩は結局、朝まで話し込んでいたため、午前中は非常に眠かったのだろう。 伸体中にあくびが漏れた。
  だが彼女の顔は笑顔だ。 答えは分かっている。 真璃だ。
  無理もない。 突然教え子が自分の所に帰ってきたようなものなのだ。
  しかもそれが一番対応に困った教え子と、一番扱いには困ったがなぜか印象に残っている教え子の娘だ。
  まりもにとって真璃は、半分娘のような感じなのだろう。

 「あの娘、どこに行ったのかしら……せっかく二人に紹介しようと思ったのに」

  真璃を探しつつ廊下を歩き続ける。 ふと、前から一人男兵士が走ってくる。
  その兵士はまりもの前にとまり、敬礼する。 それに対しまりもも軽く応えた。

 「ああ、いいところに来た。 伍長、途中で黒髪のロングヘアー、国連軍の制服を着た女を見かけなかったか?
見ない顔だから印象に残ると思うのだが」

  兵士は少し考え、その特徴に似た女を整備場で見たことを告げる。

 「整備場? なんでそんな場所に……」




 「何するのよ!」

  所変わって整備場。 ここでは、真璃の怒号が場一帯に響いていた。
  そのようにむくれる彼女の周囲を屈強な男達が囲んでいる。 雰囲気が明らかに悪いのが分かる。

 「私は戦術機の学校に通ってるの。 だから整備を手伝おうと思ってここに来たのに、何でこんなことするの!」

  横には装甲を外され複雑な機構をむき出しにした人間大の機械があり、その下にはボルトなどの部品が大量に散らばっている。
  彼女はこの機械の整備を手伝おうと部品を運んでいたが、目の前にいる整備員に無理矢理投げ捨てられたのだ。

 「手伝いなんていらねえんだよ! だいたい誰だテメエ? 見たことねえ面だが」
 「私は白銀真璃。 今日からこの基地で働こうと決めた、だから自分がまず出来ることをしようと思ってここに来たのよ」

  『今日から』という部分に整備員達は首を傾げた。 この基地で新しい人間が増えることはまずないからだ。
  ある整備員が、あっ、と声を挙げた。

 「お前まさか……昨日駆逐艦に乗ってきた……」
 「何!? こいつ外星系移民か!!」

  その声が出ると同時に一気に周囲の空気が変わっていく。
  男達の目が妙に殺気走り、手に持つ工具を握る力が強くなる。

 「何よ。 外星系移民だから、それが?」
 「……さっさと消えろ……」

  目の前にたつ男が、低い声で小さく呟く。

 「消えろって何よ? 私の質問には何も」
 「消えろって言ってんだ!」

  不意に胸ぐらが掴まれ、眼前に引き寄せられる。
  真璃は驚き、目を点にするしかなかった。 体が硬直し、背中に冷や汗が出るのが分かった。
  胸ぐらをつかむ男の表情は怒りに満ち、今すぐにも殴られそうな印象を真璃に与える。

 「え………」
 「聞こえないのか、俺は消えろと言ったんだぞ!」

  真璃は恐怖で体を震わせ、自由にしゃべることも出来なかった。 そして助けを求めるかのように横を向く。
  だが結局は同じだった。 周囲の男達の顔もこの男と何も変わらない。
  真璃はやっと気づいた。 自分が彼らから「憎まれている」ということに。

 「地球から逃げた奴が俺たちを手伝う? ここで働きたいだ? ふざけるな!!
 今すぐだ、今すぐ俺たちの前から消えろ! 分かったな!」

  グイッと強力に押され、転倒する。  真璃は上半身を上げ、男達を見た。
  …不意に、怒りがこみ上げてきた。 胸ぐらを離され、恐怖が薄らいだからか。
  キッ、と男を見、真璃は叫ぶ。

 「逃げたって何よ! 母様は逃げたんじゃない! 本当は地球にいたかったのに、人類を滅亡させないために移民になったんだ!
だいたいアンタ達何? 女に暴力ふるって、それでも男か!」
「こ・・・・・・このガキ・・・・・・」

 興奮してきたせいか真璃の目に涙が溜っている。 怒りにまかせた言葉がまだまだ矢継ぎ早に出る。

「最後の時まで誇りを失わず、命を懸けて戦った人達に恥ずかしいと思わないの!?
そんなんじゃいつまでたってもBETAに・・・・・・」

 言葉が止まる。 真璃は気づいた、男たちの表情が更に怒り…いや、憎しみに溢れたものになったと。

「…殺してやる…!!」

 男達が真璃に近づこうとする。
 その時、

「貴様等、何をやってる!!」
「まりもちゃ…大佐!」
「……」

 真璃の顔に笑顔が戻る。
 やった、自分の味方が来てくれた、という感じだ。

「白銀、どうしたの?」

 真璃は立ち上がり、まりもの方へ駆け寄る。
 そして先ほどまであったことを事細かに説明した。

「…………………私はただ皆の役に立ちたい、誇りを持って生きた人達のようになりたいって、それだけなのに」

 整備員達は皆、黙っている。 しかしその表情は明らかに苛ついているものだ。
 まりもは話を真剣に聞いているように見える。 だが、時折小さな溜息が出ていることに、話に集中していた真璃は気づいて
いないようだ。

「…なるほど。 よく分かった」
「ですよね。 大佐、よく…」

 話の途中にも関わらず、まりもは真璃から視線を放して整備員を見る。
 そして一度小さく溜息をつき、声をかけた。

 「すまなかったな、皆。 作業に戻ってくれ」  
 「……え?」

  男達は皆、黙々と自分たちの仕事に戻っていった。
  まりもの言葉が発せられてすぐ、場は機械音が響く当たり前の日常を取り戻した。
  中々変われなかったのは真璃だ。 
  まりもの対応に、「え、それだけ?」と頭の中が何度も反復している。
  自分の味方と思っていたまりも対応があまりにも拍子抜けだったために気が抜かれ、真璃は動けないでいた。

 「……白銀少尉」
 「……」
 「白銀!」
 「はい!」

  突然の大声にやっと正気に戻る。 慌てて真璃は、まりもの方へむき直した。
  そこには複雑な顔をしたまりも。

 「…ちょっとこっちへ来なさい」
  



 「・・・・・・」

 「納得いかない、って顔をしているわね」

  整備上の外、二人は開けた甲板に出る。
  冷たい風が吹き流れ、真璃は思わず身震いした。

 「さっき・・・・・・ここで働きたい、と言ったわよね」

  まりもの顔はとても険しい。 多少怒りがこみ上げてきているような、そんな印象を受ける。
  真璃はそんなまりもを見られず、視線をそらして口を開けた。

 「だっ……私は、父様のようになりたいと、そう思ったんです。 父様や母様の戦友達が生きた地球で戦いたいと、本当に心から思った
 んです。 だから」
 「だから手伝おうとした…そうね、それは聞いたわ」

  ふー、とまりもは大きく溜息をついた。 

 「白銀……あなたが地球へ来た目的、そして、任務は何?」

  え?と真璃がまりもの方を向いた瞬間、

 「貴様の任務は何だ、少尉!!」
 「は、はっ!」

  まりもの急な檄に思わず背が伸び、気をつけの姿勢となる。

 「地球のデータをバーナード星系に持ち帰ることです!」
 「そうだ、それが貴様の任務だ。 それ以上も以下もない。
 貴様も軍属ならば自分の任務を果たせ、いいな!」
 「……ぁ…ぅ」
 「いいな!!」
 「はい!」

  口ごもる真璃は一喝され、自分の意志とは関係なく肯定の返事を出てしまう。
  それを聞いたまりもはもう一度大きく溜息をつくと、腕時計を見、その場から真璃に背を向ける。

 「あ、あの、神宮司大佐」
 「私も仕事があるのでな、これで失礼する」

  背を向けたまま真璃を拒否する。 まりもは数歩歩いた後、ふと動きを止めた。

 「それから白銀……昔の人間を、自分の正当化のために使うのはやめなさい」
 「!!??」

  再び歩き出す。
  しかし、真璃は動けないでいた。 思ってもみなかった言葉に愕然とし、ただ俯くだけ。
  哀しみのような怒りのような…よく分からない感情が真璃に渦巻き、
  その場にしばらく、立ちつくすしかなかった。




 「………はぁ」

  真璃は柵に身を預け、憂鬱そうに海を眺めていた。
  冒頭と違い、海は真っ赤に染まっている。

 「……」

  ――私、何か間違ったこと言ったのかな

  先ほどあった事柄が何度も何度も反芻されていく。
  先刻までは多少イライラしていたが、今は逆に心が冷たさのせいで痛みを受ける、そんな錯覚に襲われている。
  『昔の人間を、自分の正当化のために使うのはやめなさい』
  この言葉を考えるたびに、胸が痛む。 何故か? 彼女自身言葉に出来ず、苦しんでいるようだ。

 「…私、そんなこと考えたこと無いもん…」

  今の自分が言える精一杯の言葉だった。 これで何回目だろう。
  しかしその言葉を発するたびに、ただわびしくなるだけだった。 そして眼に涙が溜まる、それの繰り返し。
  真璃が空を見あげると、薄く輝きだした星を見つける。 ふと、夕呼や霞の笑った顔が思い浮かんだ。

 「……帰りたいな……」

  ハァ、と溜息をつく。 同時に、海上からビューッと冷たく軽い風が真璃にあたる。 

 「寒! うう、そういえば霞お姉ちゃんからもらったマフラー、駆逐艦に置きっぱなしだよ…
 …はあ…・…戻ろう…」

  真璃は身体を起こし、海に背を向けた。 だが、

 「どけええええええええ!!」
 「へ?」


  (ドシーン!!)

 
 「わきゃああああああああああ!!??」

  何か小さな固まりが真璃にぶつかる。 真璃は柵に背中を預ける形となり、後ろ屈みになった体が3分の1ほど外に飛び出していた。
  ……つまり、このままじゃ海に落ちる……

 「お、落ちる! 落ちるううううううぅぅぅぅぅぅぅ!!」
 「いてててて…こんなところで何やって!……やって、るの?」

  ぶつかったのは12歳ぐらいの少年だった。 彼は打った頭を抱え、立ち上がる。
  …目の前にはリンボーダンスのような体勢で両手をバタバタさせた真璃…  
    
 「…何やってんの?」
 「落ちそうなんだよ!!」

  ググッと海の方に更に落ち込む。 真璃の慌てぶりが更に加速する。

 「ぎゃあああああああああ!! ダメえええええええ!!」
 「しょうがねえな」

  少年は真璃の腰を掴み、引っ張る。

 「きゃ!」
 「おわ!?」

  勢い余って二人とも転倒。 

 「…てて、何だよ…!?」
 「イタタタタ……」

  真璃は、少年の上に覆い被さる形で倒れている。
  一方少年は、自分の前にバーンと現れた豊満な胸に硬直するしかなかった。

 「ごめんね、大丈夫?」
 「あ、ああ」

  少年は顔を真っ赤にし、視点をずらす。
  ……ふと真璃の手が、優しく少年の頬に触れた。

 「え?」

  少年が前を向くと満面の笑みを浮かべる真璃がいた。 少年は端整な顔立ちの真璃から目が離せなくなっていく。

 「…な、なんデデデデデデデデ!!!」

  ギュ~~~~~っと少年の頬がつまみ上げられる。 真璃の表情は笑顔だが、頭に血管…そう、怒りで血管が浮いているのが少年に
 も見えた。

 「よく考えてみたら君がぶつかってきたのが原因なんだよね。
 マジで死ぬかと思ったわよ」
 「ま、マジ?デデデデデデデデ!!」

  つねる力を強める。  

 「ちゃんと周りを見なさいってお母さんから習わなかったのかな~~~??
 そんな子はお仕置きだぞ~~」
 「母さん……ヤベ、離せ!!」

  少年が急に暴れ出す。

 「こ、こら! 暴れるなー!」
 「うっせえよ! だったら早くどけよ!」
 「暴れられたら立てないわよ」

  バタバタバタバタ、と端から見たらよく状況が分からないだろう。
  少年が暴れ、女性がそれを力ずくで止めようとする。 逆なら充分そそる展開だが…

 「……タケルちゃん、何してるの?」
 「え?×2」

  二人が横を向くと、10歳ぐらいの女の子が鼻水を垂らしてこちらを見ていた。
  ……タケル? タケルがこの子の名前?
  真璃は少女が「タケル」と呼んだことに、強く衝撃を受けた。
  タケルという言葉を聞いて、自分の父親である「白銀武」を思い浮かべたからだ。

 「ス……スミカ……もしかして、まりも母さん、そこにいる?」
 「へ? まりも、お母さん?」

  あーなんとなく分かってきたぞ…と真璃は勝手に納得する。
  ……一方、スミカと呼ばれた少女は、ヒクヒクと顔を歪ませて返答を待っているタケルの方を向く。
  そしてすっごくイイ満面の笑みを浮かべた。

 「うん♪ まりもママなら、もうそこにいるよ~」
 「ひいいいいぃぃぃぃぃ」

  恐怖に引きつる声が響く。 ドカドカドカと大きな音を立て近づく不協和音。

 「そこにいるわね、タケル!」

  バーン!と扉を急に開かれる。 神宮司まりも、階級は大佐が鬼の形相で現れた。

 「貴方、またスミカを連れて危ないところに行っ……」

  扉を開いた先に現れる、よく分からない状況。
  スミカについては分かった。 立ってみているだけだ。
  しかし、タケルと白銀の状況…これは…

 「……白銀」
 「え? は、はい」
 「白銀って……年下好き?」
 「へえ?」

  と、真璃は今の状況がやっと分かった。
  いたいけな少年に覆い被さっている現状。 んで、両手を動かさないように固定させたこの体勢は…

 「あ、あれええええええ!?」

  真璃は顔を真っ赤にし飛び退く。

 「ま、まあいいのよ、白銀。 うん、私はそういうのには結構理解ある方だと思うし」
 「違います!」

  まりもは満面の笑みを浮かべている。 しかし真璃は分かった。
  笑っていない。 笑っていない、と。

 「いいのよ白銀~。 ほら、そういう嗜好の人っているらしいし…で、でもタケルにはちょっと早過ぎるとも思うのよね~」
 「話を聞いてくださいー!」

  涙目である。

 「うんうん、後でゆっくり聞くわね。 じゃあタケル、スミカ、行きましょうね」
 「へ、へーい」
 「はーい」
 「だから話を聞いて、聞いてください~」

  その場からタケルとスミカを連れて、離れようとするまりも。 何故か早足。
  涙目のまま「話を聞いて~…」と、よろよろついていく真璃。 何故か鈍足。
  気づけば辺りはすっかり暗くなり、星が空一杯に輝いている。
  闇の中、聞こえるのは波の音とニライカナイのモーター音。 そして真璃の、鈍い叫び声だけだった。

 




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