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No.36468の一覧
[0] 【ゼロ魔×MH】外伝 モンスターハンターシエスタ[ババゴルモン](2013/02/28 17:33)
[1] プロローグ[ババゴルモン](2013/02/19 22:18)
[2] 一話[ババゴルモン](2013/01/11 01:51)
[3] 二話[ババゴルモン](2013/02/19 22:24)
[4] 三話[ババゴルモン](2013/01/12 22:27)
[5] 四話[ババゴルモン](2013/01/12 19:07)
[6] 五話[ババゴルモン](2013/01/16 16:11)
[7] 六話[ババゴルモン](2013/02/19 22:34)
[8] 七話[ババゴルモン](2013/02/21 22:50)
[9] 八話[ババゴルモン](2013/02/21 23:10)
[10] 九話[ババゴルモン](2013/02/26 19:52)
[11] 十話[ババゴルモン](2013/02/26 21:21)
[12] 十一話[ババゴルモン](2013/02/28 17:31)
[13] 十二話[ババゴルモン](2013/03/02 22:40)
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[36468] 一話
Name: ババゴルモン◆21e0c61c ID:30545001 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/11 01:51
トリステイン王都のトリスタニアの町は大きい。その面積もさることながら住民の数も非常に多く、それだけ経済も活発な場所だ。
日の落ちる時刻となれば、昼の大通りの喧騒とは少し違った顔をトリスタニアは見せる。
繁華街の一角のここ、酒場である『魅惑の妖精亭』は今日も繁盛しているようで、給仕の女性たちは忙しそうに働いている。
その際どい衣装を客たちは横目で見ながら、機嫌良く酒を飲んではお気に入りの娘に声をかけるチャンスを窺っているようだった。
中には過剰なスキンシップをしかける不埒な客もいるようだが、接客する女の子たちも慣れたものだ。
胸部や臀部に伸びる手を笑顔でかわし、時にはわざと別の個所に手を誘導するなどなかなか逞しい働きを見せている。
賑やかな場の裏の厨房では店主の娘ジェシカが料理と酒の準備を、学院を旅立ったシエスタは皿洗いをしていた。

「ごめんなさいねシエスタ。着いてすぐに手伝い頼んじゃって」
「いいのよジェシカ。しばらくここのお世話になるし、おじさんにはいろいろ助けてもらってるもの」

従妹同士ということもあり二人の容姿は似ているものだった。
だがジェシカの性格は控えめなシエスタとは逆に、社交的かつ男女ともに明るく接することもあり人の輪の中心にいるような人物だ。
それを生かし店の売り上げに最も貢献しているらしく、いまだチップの額で彼女の売り上げを上回る娘はいないらしい。

「でも久しぶりねシエスタに会うのも。それになんだか綺麗になったわ」
「もう!そんなことないわよ」

照れるシエスタをジェシカはケラケラ愉快に笑う。
従妹が魔法学院の使用人を辞めると言いだした時は驚いた。
なにせ国一番の教育機関の下働きとはいえ、激務でも給金はなかなかのものだ。
それを目の前の少女はあっさりと捨て、かつての曽祖母と同じ道を行くと言う。
なによりその決心には思い人を探し出すというのも理由の一つらしく、年頃の自分としては非常に気になる話題だ。

「そういえばアルビオンにはすぐ出発するの?」
「それがね、タルブに寄った時にお父さんに泣きつかれたのよ。お願いだからしばらくは目に付く所にいてくれーって」
「あはは、おじさんらしいね」
「そりゃそうよ!いくら強いって言ったってね、あなたは女の子なのよシエスタちゃん!」

二人のガールズトークに乱入したのは一人のオカマだった。
大柄で筋肉質な肉体にピッチリとした紫のタンクトップにパンツ姿は実に奇態であり、クネクネとした動きがそれにブーストをかけている。
このオカマ店主のスカロンからジェシカのような美少女が生まれてきたことは、神の福音か悪魔の悪戯のいずれかであろう。
しかし娘を心配する父親の気持ちというものは理解できるらしく、スカロンはシエスタに強い口調で言った。

「で、でもおじさん」
「ノンノン、お店ではミ・マドモワゼルよん」

腰振りを激しくシエスタの言葉を否定するスカロン。その様子にシエスタは苦笑いした。

(私が小さい時は普通の男の人だったと思うんだけど)

ミ・ドモワゼルと言いなおしたシエスタにスカロンは満足そうに頷いた。

「父親って言うのはね、どれだけ年が経っても子供、特に娘は可愛くてしょうがないのよ。
だから義兄さんがあなたを案じているのもわかってあげて、ね?」

力強いウィンクを送るスカロンの姿は不思議な力を持っていた。母性と父性を持つからこその説得力だろうか。

「それと前にお仕事が欲しいって言ってたけど、私の方からいくつか紹介できそうなのがあったから見繕っておいたわ」
「本当ですかおじさん!?」
「んもーぅ!ミ・マドモワゼルよぉ!!」
「ありがとうございますミ・マドモワゼル!」

彼からの紹介とはトリスタニア近郊の採集クエストやタルブへの商人の護衛といった安全なものがほとんどだった。
正直に言えば、モンスターを相手取って自分の実力を高めたいシエスタとしては少し思う所があった。

(っといけないいけない。ガートさんも言ってたじゃない、信頼のない者にお仕事はこないって)

自分の心に生まれた慢心や不満を押し殺し、シエスタは気合いを入れた。



翌日の朝、背に覇弓、腰に矢束と剥ぎとりのナイフをさし、厚手の服を着こんだ野外採取に適した格好のシエスタがいた。
依頼受諾後すぐに行動するため準備を整えたのだ。
依頼を受ける場所の名は『駻馬の鬣亭』。幅広い依頼を主に扱う酒場らしく、スカロンの紹介状を手にシエスタはその軒先にいた。
荒々しい馬の頭と酒杯の彫られた看板の下の戸をくぐると、酒場の盛りの時刻でないせいか店内は閑散としていた。
カウンターにはどこか疲れた雰囲気を放つ妙齢の女性、店主か店番の人間かが手元のグラスを磨いていた。
シエスタが入ってきたにもかかわらず、まるでそこに誰もいないかのように見もしない。

「……すみません、スカロンさんの紹介の者ですが」

差し出した紙切れに店員はようやく顔を上げた。目線は合わさなかったが。

「ずいぶん若いのね、お嬢ちゃん」
「…お嬢ちゃんじゃないです。シエスタです」
「知ってるよ、そう紹介されたからね」

この態度にシエスタはむっとしたが、自分程の歳の女が傭兵染みた仕事をするのを考えればこの態度も仕方ないかと思いなおす。
女からの依頼はトリスタニア近郊、と言っても徒歩で二日かかる森林地帯での薬草の採集だった。
そこは以前にオーク鬼が目撃されたらしく、採集に行くのをどの人も自粛していたとのことだ。
最近は目撃例もほとんど無いため、こういった依頼が出てきたらしい。
危険も考えられ、かつ薬草の需要もあるため採集の依頼にしては実入りがいいのはそういう理由のようだった。
内容もスカロンから聞いたものと相違ないことを確認したシエスタはこの依頼を受けることにする。
運が良ければオーク鬼との戦闘訓練も積め、討伐の報奨金も期待できるかもしれない。
オーク鬼は人に積極的に危害を加える妖魔であるため、討伐した証があれば頭数に応じた報奨金が貰えるのだ。
既に準備は終えてきている。シエスタは女の店員に一声かけて、『悍馬の鬣亭』を後にした。



『魅惑の妖精亭』ではスカロンがメニューの仕込みのため台所に立っていた。そこに店内の掃除を終えたらしいジェシカがモップを置く。
今日は鶏を使うらしく、スカロンは慣れた手つきで鶏の腹の中に香草を詰め紐で縛っていく。

「シエスタ大丈夫かしら、ねえパパ?」
「…タルブ育ちなんだから野盗相手なら心配ないと思うけど……。それに彼女、義祖母ちゃんの同業さんから手ほどきを受けたらしいじゃない?」

シエスタからスカロンにあてた手紙、それには自分が曽祖母と同じようなモンスターハンターになること、
それに当たって伝手を紹介して欲しいこと、そして同封された人相書きの男性を見かけたら教えてほしい旨があった。
一応タルブに知らせたが、彼女の母親からは思いっきりやってくれと返ってきた。

(まったく、誰に似たのかしらねえ……)

自分の娘に似た少女の顔を思い出して苦笑し、スカロンは最後の鶏の下拵えを終えた。



小麦袋を載せた屋根のない荷馬車の端で、シエスタはぼんやりと空を見上げていた。
目的の森林地帯はラ・ロシェールの途上にあり、運よくそこへ向かう荷馬車の業者と交渉して相乗りさせてもらえたのだ。
相手はシエスタの背負った、見慣れないが強そうな弓を一瞥して護衛に使えると判断したのだろう。
何はともあれ体力が温存できたのは幸運だった。まあ徒歩でこの依頼に望んでもシエスタの体力が尽きることはなかっただろうが。
目的の森は深くもなく小さくもなく、どれかと言われれば『渓流』に近い森だろうか。
森に踏み入ると僅かではあるが人の通っていた細い道があった。その道の地肌が見える轍の部分にまばらに雑草が生えていた。

(…もしかして薬草採りの道?)

行く先を遮る木々を払い、緑草の浅瀬を掻きわけて進んでいけばひらけた空間に出ることができた。
木立ちから日の光が斜めに差し込み、ボロボロの小屋の様な家屋が一軒照らし出されていた。

(誰かが住んでいたのかしら?)

畑もあるようだがずいぶんほったらかしにされたようで、食用に向かぬ草が生え放題だ。
日が暮れたらここを借りようと考えながら、シエスタは薬草を求め奥へと分け入る。
それから程なくして薬草の繁茂地を見つけ、持参した籠に詰めるだけ詰めてみたがそれでも薬草は溢れんばかりに茂っていた。

(誰も採らないでいたっていうのは本当みたいね)

地面に膝をつけ採取していたせいで凝った腰と首に手を当てながら、真上から下がり始めた太陽をシエスタは見やった。
深い森では、昼の真天の太陽が地に下りる時刻になればあっという間に暗くなっていく。夕闇ほどの時刻となれば真夜中になったのかと錯覚するほどである。
慣れぬの森でのこれ以上の探索は危険と判断したシエスタは、とりあえず荒れた家屋のあった場所まで戻ろうとした。

「……荷物を、食べ物をよこせ!!」

だが行く先を塞ぐように人影が草むらから飛び出してきた。
まだ少年といえる年頃の男の子が、手に持った鎌を威嚇するかのように振りかざしていた。

「え、ええ?」
「はやく、食べ物おいていけぇ!!」

よく見ればこちらに突き出した鎌の穂先が震え、怯えるように凄んでいるのがわかる。この様子にシエスタは少年の視線に合わせるようにしゃがんだ。

「ねえ僕、そんな危ないの振り回してると怪我するよ?」
「お、お前馬鹿にしてるんだろ!?本気だぞ!本気なんだからな!」
「食べ物なら、はいこれ」

シエスタがとりだしたのは見事なきつね色に焼きあがったこんがり肉だ。
どこから取り出したのかはわからないが、視覚に強烈に訴えるその誘惑に、少年はシエスタの顔とこんがり肉とを見比べる。
少年の戸惑った視線をシエスタは笑顔で返し、促すようにこんがり肉を少年に近づけた。距離が縮まったことで少年への焼けた肉の誘惑が強くなった。

「ご、ごめんなさい!!」

何を思ったのか強盗の少年はシエスタとの距離をあけ頭を下げた。少年の行動にシエスタは呆気にとられる。

「どうしたの…?」
「お、お姉さんみたいな人に俺、脅して……本当にごめんなさい!」

シエスタとしては別に襲いかかられてても対処することは容易であったため、戸惑いはしても後れをとることはなかっただろう。
よく見れば襲撃者はまだ親に甘えるほどの年頃だった。こんな子供が何故こんな森の奥にいるのだろうか。

「ねえ僕、なんでこんな所で追い剥ぎなんてしたの?それにどこに住んでるの?」
「…俺は、ここで妹と住んでるんだ。大人たちに、うちの家は村八分にされて……」
「え……?」

少年の言葉はシエスタにとって、意味は知っていても耳慣れぬものだった。
その理由はシエスタの家が町の有力者であったこともそうだが、村八分というのは貧しい村生活のなかで、
なんとか生きていくために住民たちの結束を強めるためにできあがったものともいわれる。
タルブが村であった頃、シエスタの曽祖母が行ったハチミツ産業の創出によって村は裕福になり、
シエスタが生まれる頃には村八分という存在そのものがタルブから消えていたのだ。

「……ヨソ者の母ちゃんと父ちゃんは一緒になったから、うちは村を追い出されたって聞いた。その母ちゃんも、妹を生んで死んじゃった」

焦点の合わない深い目で、少年はここでない場所を見ているかのようだった。その目に少しの気味悪さを感じたシエスタは努めて明るく振る舞おうとした。

「と、ところでお父さんは?狩りに出かけたの?」
「父ちゃんは、オーク鬼に村が襲われたとかで外にいったきり。俺、父ちゃんにここにいろって言われて、ずっと妹を守ってる……」

泣きそうな目で告げる少年の姿に、シエスタは郷里の弟を思い出していた。
姉として歳下の面倒を見てきたシエスタに、この男の子を放っておくことなど出来なかった。

「…よかったらお家まで案内してくれる?お肉ならまだあるから、妹と一緒に食べよ?」
「本当!?ありがとうお姉ちゃん!」

はじけんばかりの笑顔を自分に向ける少年の姿に、シエスタの胸はほのかに温かくなった。
同時に父親を待つ子供の姿に、自分を案じているタルブの父親を思い出した。
自分の行いにいつも口うるさい親ではあるが、全ては自分の身を案じての言動だということは分かっている。

(でも、わかっててもなぁ……)

そこではっと辺りを見回すと、いつの間にか少年の家らしい家屋のある空間の入り口だった。遠目に、走る少年の姿が家屋の中に吸い込まれるのが見えた。

(迂闊だった、猟場での物想いは厳禁って教わったのに)

弛んだ気持ちに気合いを入れ、シエスタは少年の後を追う。
はずだったのだが、先ほど家の中に入ったはずの少年が顔を真っ青にして家を飛びだし、シエスタに向かって泡を食ったかのように走ってきた。

「お姉ちゃん!!妹、妹がいない!!」
「なんですって!?」
「いっぱいいっぱいあし跡あって、それで、妹が、オーク鬼に攫われたんだきっと!!」

錯乱したように叫ぶ少年はそう言うや否や森の中に走り出す。子供とは思えないその速さは、放っておけば見失うことが絶対だろう。

「ま、待って!待ちなさい!」

シエスタもすぐに追いかけたつもりだった、少年がこの場の土地勘に長じていたのか追いつくことはできないでいた。

(まさかオーク鬼の所に!?)

焦るシエスタはなんとか少年を引きとめようと走るが、まるで追いつくことができなかった。
ついにシエスタのスタミナが切れその場で息をつくことしかできなくなった時、
あともう少しで木々が途切れるという所まで自分が来ていることに気付いた。
息を調えたシエスタが木陰から先を見ると、ひらけた場所に川がはしり、むき出しになった岩肌の一点にぽっかりと開いた洞穴が見えた。

(オーク鬼!?あの洞窟を根城にしているのかしら)

その洞窟の入口には二匹のオーク鬼が立っていた。茶色いシミが点々とついた皮鎧に、真っ黒に汚れた腰巻と棍棒と言う恰好は、醜悪な妖魔らしかった。

(あの子の姿がないってことは、まだ大丈夫……。)

もし混乱した少年がこの場に乱入すればよい結果にならないことは明白であろう。故にシエスタは背の覇弓を遺憾なく使うことを即決した。

(今のうちに、狩ってみせる!)

背から覇弓を展開しながら矢筒から鉄矢を引き抜きつがえる。瞬時に引き切った矢を離せば、それはシエスタの思い描く軌跡を描く。
矢は一匹のオーク鬼の胸部に吸い込まれ貫通し、槍の様な巨大な矢は岩肌にその屍体を縫い止めた。
折り畳められた弓を構え矢を放つまでに二秒たらず、放たれた矢がオーク鬼を食い破るのに半秒以下。
わずかな時間で、シエスタは熟練の傭兵が苦戦するというオーク鬼を狩ってみせた。
隣にいたもう一匹は、矢を胸から生やして痙攣する仲間に理解が追いついていないようだったが、うろたえ、次いで耳障りに鳴き始めた。

(仲間を呼んでるのかしら?それなら好都合なんだけど)

シエスタの心の呟きは正解だった。甲高いその鳴き声に洞穴から一匹二匹、ちょうど十匹のオーク鬼が現れた。
盛んに互いに鳴き合ってる所から混乱しているようで、息絶え磔られた仲間の姿に悲鳴をあげているようだった。
シエスタはそれに心動かさないまま矢を四本引き抜き構え、まるで狙わずに撃ったかのように無造作に矢を放つ。
仲間を呼ばせるため原形を残すよう加減した射撃ではない本気の拡散矢は、妖魔の集団を破るべく空を裂き進む。
そこからは一方的な蹂躙だった。本来は中距離から放って十全の威力を発揮する拡散矢だが、それは対巨大モンスターの話である。
人間大の大きさ、強さのオーク鬼にとっては、シエスタの拡散矢は貫通矢の一斉掃射を受けたかのような威力だった。
シエスタが五度目の攻撃をどうするか考えた時には、串団子のように身体を縫い止められたオーク鬼たちと、
まるで爆散したかのようなオーク鬼だった赤い塊が散らばっていた。

(……これ報奨金もらえるかしら?)

やりすぎてしまった状況にシエスタがこめかみを掻いていると最後の一匹が息絶えたようで、その場で生きているのは木陰に潜んだシエスタだけになった。
洞穴の中を探索すると、浅いその奥には吐き気を催す異臭とこびりついた血、凄まじい量の人骨が散乱していた。
そこにあの少年も妹らしき姿も見つけることはなかった。薄暗いその洞窟の中で、シエスタは眉間にしわを寄せここまでの出来事を考えていた。

(森の中で怪我して動けない?そういえばあの子どこを走っていったの?それに妹とやらはどこに?)

考えてみれば自分がただの子供に追いつけないというのも腑に落ちない。
それとこんな森の中で子供だけで生活するというのも非常識染みている。

「でも、探さずにはいられないよね……」

呟きは誰に聞こえることも無く岩肌に跳ね返った。



日が暮れるぎりぎりまで少年の探索をしていたシエスタだったが、人影なぞついに見つけることはなかった。
辺りは闇に包まれ、梟だろうか間延びした鳴き声が耳に入ってくる。明かりは手に持つ松明の灯り一つだけだった。
シエスタはあの家屋の扉の前に立っていた。そしてある考えを、出来れば外れてほしい予想を胸に扉を開けた。
中は埃の匂いにうっすらとすえた臭いがした。乾ききった干物のような甘い臭い、その源は壁に寄りかかった影からだった。
シエスタの持つ松明に照らされた先には、子供ほどの体格で背を丸め、縮こまるように我が身を抱きしめたミイラが転がっていた。

「そんな、嘘……」

そのミイラの身につけている服には見覚えがあった。自分のさしだしたこんがり肉に目を輝かせた、あの少年が身につけていたものだった。
シエスタの眼から、涙が一筋流れた。その流れはより大きく広くなり、気がつけば彼女はその場にしゃがみこんで嗚咽していた。
言葉にならない想いがシエスタの胸でグルグルと回り、それが外に出ようと涙になっているかのようだった。

(なんで…?どうして……?)

意味の成さない疑問にシエスタが陥っていると、粗末な家屋にいたはずが今の自分がぼんやりとした空間にいることに気付いた。
そして先ほどのミイラと同じ格好で、少年が小さくうずくまっていた。

『オーク鬼に攫われた妹を、俺は見捨てたんだ』

目の前の少年の声が、何故か当人からでなく周りの空間から聞こえるように響いた。

『追いついた時に奴らの洞穴から妹の悲鳴が聞こえて、中に入ろうとしたけど、俺は耳を塞いで逃げだした。
怖くて、誰かに助けてもらいたかったけど、後悔しながら泣いてここに戻って、膝を抱えて、抱え続けて』

少年の声にはその時の後悔と自分への怒りがあった。そしてシエスタの視線の先で、徐々に少年の身体がミイラのそれに変わっていく。

『そのことを今まで忘れてたけど、お姉さんがオーク鬼を倒してくれた時に全部思い出した。
父ちゃんもオーク鬼に喰われたこと。俺が妹を見捨てたこと。自分がそのまま餓えて死んだこと』

膝を抱えた少年の身体は、完全にミイラの物に戻っていた。

「お姉さん」

声はシエスタの背後からのものだった。その声に彼女が振り替えると、無表情の少年が自分を見ていた。

「父ちゃんと妹の仇をとってくれてありがとう。騙す形になったけど、本当に感謝してるんだ」

そこで少年は一息つくと、押し黙ったシエスタに再び言葉を投げた。

「お姉さんは、強いんだね……。俺みたいな弱虫とは、大違いだよ」
「……私は、強くなんかないよ。私も大切な人を、守れなかったから……」
「え?」

そこからシエスタは語った。
自分のこと。モンスターハンターのこと。自分の先生でもあり大切な人でもある人物のこと。
守ると決めていたのに、最後にはその人を失ってしまったこと。

「私は大切な人を守れなかった。だから強くなりたい、もう二度と大切なものを失わないように。守りたいものを、守り続けることができるように」
「……俺も、いつかなれるかな?妹や、父ちゃん母ちゃんを守れたかもしれないくらい、強くなれるかな?」

終わった身でこの問答に意味はあるのだろうか。
それは残酷な問いだったのかもしれないが、シエスタは少年の縋るような視線をしっかりと受け止めていた。

「その思いを忘れずに、自分の求める強さに向かって行けば、可能だと思う。少なくとも私は、そう考えてるよ」

微笑んだシエスタにつられてか、無表情だった少年の表情にも色がついた。

「俺も、お姉さんみたいになりたい……。モンスターハンターに俺もなって、みんなを守りたい……」
「なれるよ、きっと。あなたならなれる」

肯定の言葉に少年は顔を嬉しさに歪ませ、涙をこぼした。

「ありがどう゛!……ざようなら、お姉ざん………」

少年はそう言い残し、消えていった。



トリステインの『悍馬の鬣亭』は今日も閑古鳥が鳴いていた。
やる気なさげな女がグラスを磨く乾いた音だけが聞こえ、表通りの喧騒から切り離されたように静かだった。
そんな時、今日は珍しく客が入ったようだ。背に大弓を背負い、どこか田舎娘のような純朴さを感じさせる娘だった。
その娘、シエスタは依頼の品が詰まった籠をカウンターに置いてから、オーク鬼の報奨金はどこで受け取れるかと問うた。

「詰め所に行きな。鼻か耳でも持っていけばいいけど、あんた何匹獲ったんだい?」
「十ほどです」
「ふぅん……、ホラじゃないことを願うよ、お嬢ちゃん」

自分の言葉に苦笑する娘を見て、雰囲気が変わったことを感じて女店員は笑みを浮かべた。

「それにしても、ずいぶん汚れがひどいねあんた。その歳で土遊びでもしたのかい?」
「…お墓を、作ってました」
「へえ、墓かい。そいつは一体だれの墓なんだろうね?」

シエスタは少し困ったように首を振った。女店員は手元の動きを止め、曇り一つないグラスを置いた。

「あんたにとって人の命は軽い物かい?吹けば飛んでしまいそうにさ」
「いいえ……。人の命は重い、重いはずです」

目を細めた女を背にして、シエスタは詰め所に行くため店を後にしようとした。

「待ちなシエスタ。せっかく酒場に入ったんだ、今日はサービスにしとくからひっかけていきな」

振り返ったシエスタは女店員の目線とぶつかった。初めて正面から見たその女の眼は、暗くはあったが澱んだものではなかった。
薦めるカウンターの上にはジョッキグラスに注がれたばかりの麦酒が、催促するように泡が膨らみ弾けている。
無言でカウンター席に座ったシエスタは礼の言葉を呟き、それを一気にあおった。その麦酒は、初めて飲んだかのように苦かった。


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