静かにページをめくり、字を追う。
孤独は全く感じない。
ずっとこうだった。
一人でじっとしていると、
珍しくモンモランシーが遊びに来た。
「……何か用?」
「……用はあると言えばあるんだけど、
んー、まずはそうね、お茶を持ってきたわ。お話しましょ」
どういう風の吹き回しだろう。
でも、お茶はキライじゃない。
彼女はお茶を点てながら、身の回りの些事について話し始めた。
「前回貸した『メイドの午後』はもう読んだかしら?」
「おもしろかった……」
彼女はよく話す。
少し、つらい。
「……」
「……」
黙っていると、私の頭から、とくとくとお茶がそそがれた。
お礼をしないといけない。
「ありがとう。お礼は何がいい?」
「実は【精霊の涙】が欲しいのよ。ちょっとその、バカやっちゃって……」
「分かった」
私は体の形を変え、霊力をちょっとずつ一点に集める。
その部分が次第に粘土を得て、私の胸から浮かび上がっていった。
それはぷかぷかと、モンモランシーの持つ小瓶の中に漂ってゆく。
「ありがとう。これで解呪薬を作れるわ。それとね、もう一つお願いがあるんだけど……」
彼女は私に、ラグドリアン湖の水位を下げるよう要請した。
どうしたものか悩むが、やはりこちらにも譲れないものはある。
「……それはダメ」
~つづく~
~~~~ side ミシェル ~~~~
「……どうだ、シエスタ?」
「はい、けっこうです」
「ふう……。これで次の締め切りまでは首がつながったな。次はどういうのを書けばいいと思う?」
「そうですね……。最近、叙述トリック風の小技に頼り過ぎかなって思うんですよ。
そろそろ先読みされるかもしれませんし、思い切って手法を変えるとかどうでしょう」
「うーん……。しかし一度やってしまうと、そういう仕掛けなしじゃ物足りなく感じそうで……」
「じゃあ、ちょっと参考にコレ読んでみます?ちょっと前から校内新聞に投書されてる人気作品です」
「どれどれ……」
~~~~
【ダルシニとアミアス】 P.N.アジシオ・ハロー
「ねぇダルシニ~。また街で声をかけられたよ~」
「それがどうしたの?」
「あのね、私その人の名前を思い出せなかったの~」
「ああ、そういうことってあるわね。気まずいのよね」
「うん~。もうヒヤヒヤだったよ~。そういう時に限って、名前が必要な会話になりそうでさ~」
「でも、人の名前を忘れるなんて失礼よ」
「そうでもないよ~。そのオジサンも私のこと間違えて、ノワールって呼んでたし~」
「ま、私には関係ない話よね」
「もう~、ダルシニはいつも冷たいんだから~」
~~~~ side ミシェル ~~~~
「どうですか、ミシェルさん」
「……」
まるでワケが分からん……。
しかしシエスタがすすめるほどの作品だ。
うかつに「つまらない」なんて言えば、「感性が古いからだ」と言われかねない。
コレは、スゴク面白いはずなんだ。
きっと何かがあるはず。
なんとしてでもその秘密をモノにせねば……。
……。
……この『語尾を延ばしている』のが特徴なのか?
確かに、これなら誰がしゃべっているかも分かりやすいが、そもそもキャラは二人しか居ないわけで……。
だめだ、やはり分からん。
「すまん……作者の狙いがさっぱり分からん……」
「あ、間違えました。それ、アニエスさんに添削を頼まれた原稿でした」
「……」
……あの人は私の前世あたりに何か因縁でもあるのか?
「こっちが今流行ってるほうの作品です。なんでも東方の『モエ』というジャンルだそうで」
今度は間違いないだろうな……。
「ペンネーム、ヒリガル・ボーイか。どれ……」
~~10分後~~
「どうですか?」
「……触りを見ただけだが、率直に言って、フツーの生活を書いているだけに見えるな。
魔法使いの女の子が使い魔を召還したり、ルーンの力で強くなったり……。
そんなモノわざわざ小説で読まなくても、学園でいくらでも見られるんじゃないか?」
「今はそういうのがウケるんですよ。日常系とか空気系っていうそうです。
でも、その作品は中盤からが急展開なんですよ。もうちょっと読めばモエの深さが分かると思います」
「じゃあ、もう少しだけ……」
~~30分後~~
「なるほど、面白いな……」
「でしょう?!」
「心を壊された祖母の為に葛藤を押し殺しながら戦う、この少女がイイ。この健気さには引き込まれるものがある。ただ……」
「ただ?」
「敵地でベリーダンスを踊る意味が分からんのだ。それまでのシリアスな展開が台無しではないか?」
「何を言ってるんですか!!そこはまさに『待ってました!!』の展開じゃないですか!!」
「そ、そうなのか?」
「絶対にリアリティがないとダメなんて、間違った固定観念ですよ!!
ストーリーの芯さえブレなければ、演出上の寄り道は凄く効果的なスパイスなんです!!」
「ううむ……。確かに『お婆ちゃんの心と幸せを取り戻す』というテーマにはブレが感じられないな……」
「そうそう、わかってきたじゃないですか!!」
「……一つだけ聞くが、この作風でバッドエンドとか、そういう残酷な展開はナシだぞ?
というか、まさかこのお婆ちゃん死んだりしないだろうな?私はそういうの苦手だぞ?」
「フフフ、作者と私を信じて最後まで読んでください」
~~1時間後~~
「ね?めでたしめでたし、だったでしょう?」
「ちょ、ちょっとコメントは待ってくれ……。
固定観念が邪魔をして、お婆ちゃんがベリーダンスを踊るハッピーエンドがなんというか……」