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No.36335の一覧
[0] 【短編連作】玄人のひとりごと 年末版【ネタ】[giru](2014/12/29 08:08)
[1] 2012年[giru](2014/12/29 02:31)
[2] 2013年[giru](2014/12/29 07:46)
[3] 2014年[giru](2016/12/17 17:34)
[4] 2015年[giru](2015/12/31 01:50)
[5] 2016年[giru](2016/12/31 00:35)
[6] 2017年[giru](2017/12/31 19:09)
[7] 2018年[giru](2018/12/27 00:01)
[8] 2019年[giru](2019/12/30 22:49)
[9] 2020年[giru](2020/12/30 00:19)
[10] 2021年[giru](2021/12/28 02:32)
[11] 2022年[giru](2022/12/26 02:11)
[12] 2023年[giru](2023/12/28 22:37)
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[36335] 2012年
Name: giru◆2ee38b1a ID:266cdb3f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/12/29 02:31
 とある町の、とある雀荘。
 年末の忙しない時期の中、それでも牌を握らずにはいられない四人の男が卓を囲んでいた。
 既に閉店間際であり、彼らの他に客の姿は無い。

「もう、今年も終わりだよな~」

 ぽつり、とメガネをかけた中年男――東尾が呟いた。

「そうそう。今年も色々あったなぁ」

 無精ひげを生やした男がしみじみと応じる。
 そして、対面に座る丸顔の男――西田が、やや得意げに牌を握り締めて言った。

「ま、2012年といえば、まずはやっぱこいつかな」

 捨てた牌は五筒。
 牌に込めた意図を東尾と、もう一人、無精ひげの男はすぐに察した。

「おお、オリンピックか」

「確か男子体操で、28年ぶりに個人総合金メダルとか言ってたっけなぁ」

 レスリングも良かった。いやいや、水泳や卓球だって……
 和気あいあいと盛り上がる面子を尻目に、卓を囲む最後の一人、和服に長髪の男――南倍南(みなみ・ばいなん)は胸中で一筋の汗を流す。

(まずい。毎年この時期の麻雀は、この手の話題で盛り上がってるウチにやられっちまってんだよな……)

 過去に受けた数々の屈辱を思い出し、とにかく今日こそは、手堅く打とうと心に決める。
 そんな南の決心を知ってか知らずか、東尾が気楽に牌をツモり、そして捨てた。

「ま、俺はオリンピックよりもこいつだな」

 東尾の捨て牌は東。

「ああ、スカイツリーか」

 納得した西田の言葉に、東尾が頭をかきながら照れ臭そうに笑う。

「いやー、カミさんと娘が連れてけってうるさくてさ」

 だが、これには南も口を挟まずにはいられなかった。

「しかし、開業したばっかりじゃ、人ゴミがすごかったんじゃないのか?」

 南の言葉に、ふっと東尾の目が遠くなる。

「ああ、その通りでよ。何でカミさんも娘も、あんな元気にはしゃげるんだ? こっちは行くだけでクタクタだってのに……」

 その時の疲労を思い出したのか、言葉の中には哀愁が満ちていた。

「……家庭持ちは大変だな」

 これには流石に若干の同情を禁じえず、唸るように呟きながら、西田の捨て牌を待って牌をツモる。
 残念ながら不要牌であったため、そのままツモ切りし――その捨て牌に、無精ひげが反応した。

「お、そいつでロン! 満貫だ!!」

「ぐ!?」

 手堅く打とう、と思った側から満貫の放銃は痛い。
 ぎりぎりと悔しさに歯軋りをしてしまう。
 が、無精ひげが倒した手をよく見ると……

「……っておい、その手は7700だろうが」

「あれ、バレた?」

「粉飾決算してんじゃねぇぞコラ!」

 悪びれもせずに答える無精ひげに、南も思わずツッコんでしまう。

「そういやオリンパスの粉飾決算で逮捕者が出たのと同じくらいの時期だっけか? 天皇陛下がバイパス手術したのって」

 仕切りなおしの次局。
 西田が思い出したように話題を出し、白を捨てる。
 だが、その目は何かを期待するようにきらきらと輝いていた。

(こいつまさか、牌白(ハイハク)でバイパスって言いたいんじゃ……?)

 そしてツッコミを待っているのだろうか。
 あまりにくだらなさ過ぎるオヤジギャグにツッコむ気にもなれず、脱力しながら四索を捨てる。

「あ、そうそう、四索で思い出したけど、フィギュアスケートも今年は日本勢がすごかったよな」

 今度は東尾が南の捨て牌を見て、話題を挙げてきた。

「なんだ、お前スケート見てんの?」

 よほど意外だったのか、無精ひげが目を丸くしながら言った。
 流石に自覚している部分もあるのか、東尾も指摘に苦笑する。

「いやー、娘がハマってて、隣でよく見てるんだわ。女子でも四回転するとかすごいよな」

「おおかた、その回転の間に見えるフトモモが目当てなんだろ」

「い、いやだなあダンナ! ひ、人聞きの悪いこと……!!」

 南の指摘に東尾がぎくりと肩を震わせ、から笑いしながら牌を捨てる。

「あ、それロン! IPSだ!」

 捨て牌に顔を輝かせ、得意満面の笑みで西田が自牌を倒した。

「げぇ!?」

「IPS? それ、ソーズにチュンのメンホンだろ?」

 だが、倒された牌姿は索子と中の混一色であり、無精ひげは思わず首を捻ってしまう。
 バイパスでスルーされたのがよほど不服だったのか、よくぞ聞いてくれましたといわんばかりに、西田は胸を張って解説する。

「IP(いっぱい)のS(ソーズ)だ!」

(……相変わらずしょーもないオヤジギャグで一気に波に乗りやがるな)

 南は呆れ混じりに小さく感嘆を漏らす。
 ひょっとすると、中も山中教授のつもりなのかもしれない。かなり苦しいが。

「ちくしょー、せっかくのトップが……」

 無念を滲ませながら、東尾が点棒を払う。

「まあまあ、日本も民主党から自民党にトップ交代したじゃんか」

「アメリカはオバマ大統領のままだよ……」

 次局もずっと落ち込みを引きずり続ける東尾に、見かねた無精ひげがフォローする。
 消え入るように答えながらツモり、そして捨てる。

「う……! それかぁ~!」

 東尾の捨て牌に、西田が露骨に反応した。

「ちくしょ~……その隣、隣が来てくれれば……」

 無精ひげの順番を経て、西田がさも無念そうに牌をツモり、そして溜息と共に捨てる。
 そんな上家の様子は、当然の事ながら南も見ていた。

(何だ、ひょっとしてすぐ側の牌がアタリか? ならスジ打ちで……)

 だが、南の出した牌を、西田の視線が鋭く射抜いた。

「ロン! 倍満!」

「げっ!? おい、山越し狙いか!?」

「くっくっく、ダンナ。ウイルス感染したパソコンみたいに遠隔操作されてくれたな」

「くだらねー手を使いやがって!」

 毒づきながら、それでも律儀に点棒は払う。

(くそ……コレで俺がドベかよ!)

 倍直は痛い。
 これで東尾を下回って、南自身が4位に転落してしまった。
 何とかして挽回しなければ。
 そうは考えるものの……

 ――次局
「ツモ、平和のみ」

 ――次々局
「ロン、白ドラ1」

 次局も、更に次々局も無精ひげが軽く上がってしまう。

「ええい、安手で流しやがって! テメーは格安航空会社か?!」

「いやー俺は今2位だし、このままでいいかなって」

 せっかくのメンタンピン三色を安手で潰された南が青筋を立てて怒鳴るが、無精ひげは陽気に笑うのみ。
 その後の局でも軽い点棒移動は続くが、南は依然として4位から這い上がる事が出来なかった。

 ――だが、オーラスでとうとう鬼手が来た。

(来たぜ……! 萬子の純正九蓮宝燈テンパイ! こいつで上がれば一気に逆転だ!)

 残り4順。萬子もそこそこ河に出ているが、逆に言えば、他の面子も握れば萬子が出る可能性は高い。

(来い、来い、来い、来い……!)

 1順、2順、3順するも、自身もツモれず、面子からもなかなか萬子が零れない。

「そういや、この事件も首謀者捕まって一段落したっけな」

 南の内面の焦りをよそに、西田が能天気に一索を捨てる。

「そいつはオウムじゃなくて孔雀だろーが!」

 己の役満が成るか成らぬかの瀬戸際に能天気なオヤジギャグをかまされ、耐え切れず怒鳴りつけてしまう。

(今は金環食よりも萬子が見たいんだよ!)

 自らがツモった一筒を、投げつけるように捨てる。

「おいおい、あんま荒れるなよダンナ。いくらオレ達しか客がいないからって」

 東尾。捨て牌・三索。

(ええい、くそ……!)

 結局、萬子ならばどれを引いてもアガリという状況にも関わらず、河底にまでもつれこんでしまった。

「そーそー。せっかくこの暮れに集まってるんだから楽しまなきゃ」

 半ば祈るような気持ちで無精ひげの河底ツモを見つめ、そして――

(南無三……!!)








「テンパイ」
「テンパイ」
「テンパイ」

 南の前で、三人が宣言と共に牌を倒す。
 そしてその牌姿に、南はあんぐりと口を開けてしまう。

(ま、萬子が全枯れ……!?)

 残りツモれる可能性のあった萬子は、残らず三人が面子として用いてしまっていたのだ。
 純正九連が成らぬ徒花であったと知り、今年最後の勝負でドンケツとなった事実に、がくりと脱力する。
 灰と化した南の様子に、そこまで落ち込むほどの手だったのか、と下家の東尾が南の手牌を倒す。

「ああ、ダンナは九連テンパイだったんだ」

「それであれだけ噛み付いてたのか……」

 東尾の言葉に、無精ひげも納得顔になる。

「それで上がれないって事は、流石、人類(マンズ)滅亡説が流れた12月って事だな!」

 西田のくだらないオヤジギャグは、既に真っ白に燃え尽きた南の耳には、もはや届いてはいなかった。


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