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No.36314の一覧
[0] 【完結】化粧町怪奇譚(現代・閉ざされた田舎町)[寛喜堂 秀介](2013/02/18 02:32)
[1] 化粧町怪奇譚 第弐話 白沢家[寛喜堂 秀介](2012/12/31 20:02)
[2] 化粧町怪奇譚 第参話 くらまし地蔵尊[寛喜堂 秀介](2013/01/01 10:06)
[3] 化粧町怪奇譚 第肆話 水の江神社[寛喜堂 秀介](2013/01/01 20:10)
[4] 化粧町怪奇譚 第伍話 山鐘楼[寛喜堂 秀介](2013/01/05 20:08)
[5] 化粧町怪奇譚 第陸話 影仏の洞[寛喜堂 秀介](2013/01/06 22:15)
[6] 化粧町怪奇譚 第漆話 ホウジ稲荷[寛喜堂 秀介](2013/01/10 21:28)
[7] 化粧町怪奇譚 第捌話 西入り谷の崖様[寛喜堂 秀介](2013/01/15 00:38)
[8] 化粧町怪奇譚 第玖話 泥仏様[寛喜堂 秀介](2013/01/28 01:39)
[9] 化粧町怪奇譚 第拾話 雛[寛喜堂 秀介](2013/01/28 08:34)
[10] 化粧町怪奇譚 第拾壱話 籠の鳥[寛喜堂 秀介](2013/02/19 19:25)
[11] 化粧町怪奇譚 第拾弐話 けしょうまち[寛喜堂 秀介](2013/02/18 01:59)
[12] 化粧町怪奇譚 第拾参話 黒沼繭[寛喜堂 秀介](2013/02/19 19:56)
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[36314] 【完結】化粧町怪奇譚(現代・閉ざされた田舎町)
Name: 寛喜堂 秀介◆f631922d ID:55280d8f 次を表示する
Date: 2013/02/18 02:32

※この作品は、小説家になろう様にも投稿させて頂いております。




序章 ゆめうつつ


 さらさらと、沢の音。
 霧のなか、ひとり歩く。
 手を伸ばせば、指先も定かでない。
 おまけに足元は石だらけ。まるで、話に聞く三途の川のよう。

 怖くて、不気味な景色。
 行き道も帰り道もわからず、それでも歩く。

 その先に、ふいに人影が生じた。
 驚きの声をかろうじて飲み込み、一歩、前へ。
 目と鼻の先。濃い霧の中、そこまで近寄って初めて、姿があらわになった。

 少女だ。
 年頃は七、八歳。
 白装束で、目を見張るような冴えた黒髪の少女。


「なにをしているの?」


 尋ねると、少女は不思議そうに首を傾けた。
 吸い込まれそうな深みを持つ、黒い瞳。顔の造作は、あどけないがはっきりと美しい。


「なぜ、こんなところにきたの?」


 少女が、逆に問い返してきた。
 とっさに答えかねていると、少女はまた、口を開く。


「もうかえりなさい。ここは、こわいところよ」


 少女が踵を返す。
 世界が、また白で覆われる。
 沢の音までが、遠ざかっていく。
 天に向かって引き揚げられるような感覚を覚え、そこでようやく気づいた。


 ――ああ、これは、夢なんだ。



第壱話 不思議の郷


 はっと目を覚ます。
 バスの中、居眠りをしていたのだと気づいて、とっさに外を見る。
 窓から見えるのは、田舎の田園風景。一面青々とした田んぼが広がっており、おまけのように民家がぽつぽつと見える。

 バスの中に目を転じる。
 車内に他の乗客の姿は見えない。
 居るのは自分と運転手の二人だけ。マンツーマンだ。
 居眠りする前には、まだ十人ちかい乗客が居た。どうやらけっこうな時間寝ていたらしい。

 などと考えていると、唐突にバスが減速を始めた。


『川上原ぁー。川上原ぁー。終点です』


 運転手のアナウンス。
 降車予定の場所である。
 シート周りには、私物が広がっている。


「すみません! 降ります!」


 運転手に声をかけながら、あわてて荷物をまとめる。
 それから料金を払い、もう一度運転手に頭を下げてから、とっくに停車していたバスから飛び降りた。

 その、鼻先。
 女の子の驚いた顔があった。
 バスの降車口の真正面に立っていたのに気づかず、いまにもキスしそうな至近距離に迫ってしまったのだ。


「す、すみません!」


 あわててつんのめり、それから頭を下げる。
 その真上から、鈴を転がすような声が降ってきた。


「サトリちゃん?」


 困惑したような、少女の声。
 その、呼び方に、思わず頭を上げた。
 きゃ、と、少女が声を上げたが、構わず彼女の顔を見つめる。
 白のワンピースに、日除けだろう。麦わら帽をかぶっている。年のころは十六、七。目を見張るような冴えた黒髪に、優しく整った顔立ち。
 間違いない。面影がある。なによりこの俺、青峰佐鳥あおみねさとりをサトリちゃんなどと、尻がむずがゆくなるような名で呼ぶ人間は、この世では一人しかいない。


「雛、か?」


 白沢雛しらさわひな
 子供の頃、父の田舎であるこの場所に来るたび一緒に遊んだ、いとこの少女だ。
 記憶にある姿より、はるかに成長している。とはいえ、俺と同い年、今年十九になることを思えば、いくぶん童顔と言えるかもしれない。

 そんなことを考えながら、彼女の顔をまじまじと見つめていると、少女が恥ずかしそうに身じろぎした。


「そ、そうだけど……サトリちゃん。あんまりじろじろ見ないでよう。恥ずかしいよ」


 顔を赤らめる少女。
 悪い、と言いながら、俺は手を差し出した。


「あんまり美人になってて驚いたんだ。最後に会ったのが中一の夏だから……ちょうど六年ぶりか?」

「び、美人……ふぇ」


 ほほを朱に染め、照れながら、雛は手を握り返してくる。
 その、俺の手が。いきなり。
 ぽろりともげた。


「ええっ!? あ、う、あうううあ!?」


 見事にパニックを起こす雛。
 手の中に残った俺の右手をお手玉しながら、右往左往。
 もちろん人の手など簡単にもげるはずがない。よくできた作り物だ。本物は長袖のシャツの中。


「落ち着け。これ見ろ、これ」


 びっくりするほど純粋な反応に、苦笑しながらネタばらし。
 長袖から本当の手を出して見せる。
 さらに悲鳴が上がった。


「てっ!? 手が生えてきたようっ!?」


 なんだこの反応、かわいすぎる。
 記憶の中の、小学生の頃の雛そのままだ。
 こんな彼女が見られただけでも、暑い中、わざわざ長袖を着こんできた甲斐があったというものだ。

 それからしばらく。
 ようやく落ち着いた雛は、やっと俺のいたずらに気づいて、ジト目を向けてきた。


「まったく、サトリちゃん。電話で話して、大人っぽくなっちゃったな、とか思ってたのに、そういういたずらっ子なとこだけ変わってないんだから」

「悪い。俺も、あんまり久しぶりだったからさ。緊張ほぐすのに、ちょうどいいかと思って」


 実際、いまのやり取りで完全に以前の二人に戻った感がある。
 六年間も会っていなかったとは思えないくらい、彼女に壁を感じない。


「じゃあ雛。しばらく世話になるけど、よろしく」


 今度は本物の手を出して、握手を乞う。
 雛は、警戒混じりに手を伸ばしてきて、そっと手を合わせてきた

 白い。それに、冷たい手だ。
 夏の暑さの中、不思議なほど冷えた手に心地よさを感じながら、俺は雛の手をしっかりと握りしめた。


「うん。こっちこそ、町の変な風習押しつけちゃってごめんね? 来てくれて、ありがとう」


 言いながら、彼女は微笑む。
 その笑顔が、記憶の中にある雛よりずいぶんと大人びて見えて、すこし、どきりとした。






 化粧町けしょうまちという名の町がある。
 某県にある、山間の小さな町だ。
 周囲をすべて山に囲まれ、外に通じる道はただ一本。
 中央線すらない細い舗装道路は、町の中心、川上原かわかみはらまでしか届いておらず、他の道はすべて未舗装。

 そんな閉ざされた田舎町だ。
 奇妙な風習の一つや二つあってもおかしくない。
 それこそが。白沢雛が「奇妙な」と形容する、その風習こそが、俺がこの化粧町に呼ばれた理由だった。

 化粧町の人間は町の内と外を強烈に意識する。
 外への出入り口である峠をさかい峠と呼ぶほどだ。もちろん“さかい”は“境”つまり境界の意だろう。

 内は安全で、外は穢れている。
 だから、外に出た化粧町の人間は、穢れを払う必要がある。
 そのための儀式が、“禊の儀”。外部に出た人間が定められた年齢の時に行う、穢れ払いの儀式だ。

 以上、すべて雛からの受け売りである。


「――でも、びっくりしたよ。雛から俺の携帯に、いきなり連絡が入ってきたときは」


 まばらな民家の間を通すように、細く伸びた未舗装の道。
 じりじりと照りつける夏の日差しの下、肩を並べて歩きながら、俺は雛に話しかけた。


「ごめんね、いきなり」

「いいよ。別に」


 軽く手を振り、ふと付け足す。


「いや、むしろ嬉しかったな。なつかしい声が聞けて。なにしろ、六年ぶりだったからな」

「ごめんね。連絡できなくて。どこへ連絡したらいいかわからなくて」

「それはこっちもだよ。親父やお袋が事故で死んで、お袋のじいちゃんの世話になってたんだけど……なにしろ画家で根なし草だったからな。年のわりにあっちこっちに渡り歩いて、目まぐるしいったら」


 そのうえ、絵を描くのに邪魔だからと携帯も持たない。
 俺にはやさしい、いい祖父なのだが、気づかいとか、人づき合いとかそういったものが苦手な人なのだ。


「ほんとにね。お父さんも怒ってた。小さい子連れまわすくらいなら、家で預かるのにって」

「まあ、白沢のじいちゃんが早くに亡くなってたからな。叔父の家に放り込むくらいなら、わしが孫の面倒をみるって聞かなかったからなあ」

「心配したよ? 連絡取ろうと思っても、足跡もつかめないし。サトリちゃんが大学に進学して一人暮らしするようになって、初めて連絡先がわかったんだから」


 本当に、よく突きとめてくれたものだと思う。
 祖父が白沢の家への連絡先など知るはずもなし、俺の方からもまったく連絡が取れなくなっていたのだ。


「でも、ありがとうな。俺を探してくれて」

「ふぇ?」


 声をかけると、雛がきょとんと首をかしげた。
 そのしぐさは、ひどく幼いものに見える。


「おかげで、またこの町に来れた。俺、じいちゃんは定住してないし、小さいころ住んでた家は借家で、もう別の人が住んでるしで、ここくらいなんだよ。ちゃんと故郷って呼べるのって」


 感謝の念を込めて、雛の肩に手を置く。
 雛は、すこしほほを染めて、口元を綻ばせる。


「サトリちゃん……って、ふぇーっ!? また手がっ!?」


 ぽん、とまた俺の手が取れたのを見て、雛がまた悲鳴を上げた。
 この歳でその純粋さはどうなんだろう。田舎育ちだからなのだろうか。


 ――ほんと、変わらない。かわいいなあ。


 心の中でつぶやきながら、雛に笑いかける。
 空は青々として曇る様子はなく、田では青々とした稲穂が天に向かい伸びている。
 なつかしい故郷の田舎道を、いとこの少女と歩きながら、なんとなく、この山野に向けてつぶやいた。


「ただいま。化粧町」


 と、横で聞いていた雛が、急に前へ走り出る。
 くるりと振り返った彼女は、田舎道の真ん中に立つと、出迎えるように礼をし、言った。


「おかえり、サトリちゃん」


 日の光に溶けるようなその笑顔は。
 俺の心臓を、驚くほど強く打った。



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