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No.36294の一覧
[0] こんなNARUTOは嫌だ[さば](2013/02/24 01:08)
[1] こんなNARUTOは嫌だ2~もう一人の化け物~[さば](2012/12/27 04:07)
[2] こんなNARUTOは嫌だ3[さば](2013/01/01 22:00)
[3] こんなNARUTOは嫌だ4の1[さば](2013/02/24 01:47)
[4] こんなNARUTOは嫌だ4の2[さば](2013/04/07 23:03)
[5] こんなNARUTOは嫌だ5[さば](2014/03/28 03:58)
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[36294] こんなNARUTOは嫌だ3
Name: さば◆cc5fc49e ID:f15c353b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/01 22:00
 木の葉を照らしていた太陽が赤い夕日へと変わり、里を囲んでいる山の中へと吸い込まれていく。数羽の烏の鳴き声とアカデミーの鐘の音が、木の葉の一日がもうすぐ終わろうとしている事を知らせている。
 アカデミーの生徒達は授業を終えると、それぞれの家族が待つ家へと帰り始める。気心の知れた者同士で集まっては道草をしたり、おしゃべりをしたりと、忍者という過酷な道に進む前の生徒たちはまだ甘える事の許される学生生活を送っていた。

 誰もいなくなった教室の中に、ナルトは一人残って窓の外を眺めていた。
 窓の外には楽しげに語らいながら帰宅していく生徒達の姿がみえる。彼らを待っているのは、暖かい家庭だ。きっと、きょう一日の出来事を家族に話し、母の美味しい手料理を食べ、家庭のぬくもりのなか暖かい布団で眠り、一日を終えるのだろう。

 ナルトの目は自然と落ちていく夕日へと向かう。
 しかし、ナルトは自分よりはるかに恵まれた環境にいる同級生達を羨んだり、落ちていく夕日に孤独となった我が身を重ね合わせてセンチメンタルな気分に浸る、なんて事は全くなかった。
 ただ、落ちていく夕日を凝視しながら、誰もいない教室のなかで静かに一人言をつぶやく。

「……あの夕日…………うちは煎餅に似てるんだってばよ」

 うちは煎餅とは、その名の通りうちは一族が専売していた焼き菓子の名称である。里の米と水、秘伝のタレ、そしてうちは一族伝統の火を使って焼き上げた、里の名物にもなった美味しい焼き菓子である。
 その声名は近隣諸国にも広まり、お歳暮時には数多くの発注が舞い込んできたらしい。
 しかし、あの事件をきっかけにうちは煎餅を作る者はいなくなってしまった。

「……もったいないってばよ……ここで終わらせるには、あまりにも」

 沈んでいく夕日を銘菓うちは煎餅になぞらえながら、ナルトの独白は続く。

 (作る者はいなくなってしまったが、うちはの集落にはまだ秘伝のタレや煎餅のレシピが残されているはずだ)

 金こそが正義であるナルトにとっては、作る者がいなくなったうちは煎餅の利権を見過ごせる訳がなかった。
 一族伝統の火はこの世から消えてしまい、味は数段落ちるかもしれないが、うちは煎餅の消失を悲しむ声も多いはず。タレやそのレシピさえ手に入れる事ができれば、うちは煎餅にはまだまだ充分な収益を得る可能性が含まれていた。

 ナルトの脳裏に、アカデミーで同じクラスの、ある同級生の顔がよぎる。里全体が大騒ぎとなった、あの事件により一族でただ一人の生き残りとなった少年。
 事件直後は生き残った自らも死んだかのようになり、しばらくすると周囲の者が心配になるほど日に日にやつれ始め、最近は狂ったかのように時と場所を選ばず修行を始めるようになった奇妙な同級生、うちはサスケ。

 この奇妙な同級生であるサスケに対し、ナルトはある種の恐怖感を抱いていた。
 サスケが普段何気なくナルトを見る目には、里に住む多くの者がナルトを見ているのと同じく、偏見が含まれた目でみていたかもしれない。しかし、ナルトは産れた時よりこの偏見と差別に晒されて生きてきたので、別に気にするような事はなかった。かといって、サスケから日常的な迫害を加えられた訳でもない。
 何に対して恐怖していたのかというと、ナルトはサスケの日頃の無表情さに、強い警戒心とともに恐怖していたのだ。

 ナルトはアカデミーの内外で、よく悪戯や失敗を演じる。皆、ナルトの悪戯や失敗に対しては、笑ったり、怒ったり、侮辱したりと、ナルトの望む反応を示した。
 しかし、サスケという奇妙な少年だけは、ナルトのいかなる道化に対しても、全くの無反応なのであった。
 多くの里の人間を道化によって欺いてきたナルトにとって、いかなる手を尽くしても道化が通じなかったサスケという少年は、自らが演じてきた道化そのものを見透かされているような気がしてならなかった。

 アカデミーで徴収される教材代等の学費が無くなったり備品が紛失した際、まっさきに疑われるのはナルトであった。実際、ナルトは大事にならない程度を見てアカデミーから様々な物を盗んではいた。
 そういった場合、ナルトは持ち前の道化を演じる事により、『馬鹿だけどそんな事をする少年ではない』という印象を一部の生徒や教師たちに印象づけ、ナルト自身の不幸な境遇というのも彼に有利に働き、いくつもの無罪を勝ち取ってきたのだ。
 そういった道化が全く通じていなさそうなサスケは、ナルトにとっては、いつ自身の道化が皆の前で糾弾されてもおかしくない存在であった。もし、そんな事が大勢に知れ渡れば、ナルトが今日まで築き上げてきたものが、一気に崩壊してしまう事を意味する。
 道化を演じるたびに自尊心や誇りといったものを少しづつ失っていき、日々の屈辱に耐えながら形成してきたものが、サスケの告発により水の泡となってしまう可能性があるのだ。その可能性に怯えながら、ナルトは道化を演じなければいけなかった。
 
 サスケ本人はナルトの本性を知っている訳でもなく、ナルトが道化を演じている間は、何か別の事を考えていただけなのであった。
 しかし、ナルトにとってはサスケのこの無反応という反応が、道化を演じた時に見せる暗く遠いサスケの目が、己の道化を見透かされている気がしてならず、アカデミーにおける唯一の恐怖となっていた。


 ナルトは長く見つめていた夕日から、校庭へと視線をずらす。その片隅では、一人の生徒がしきりに上下運動している姿があった。
 その生徒は、ナルトが先ほどから夕日を見ながら思いを巡らせていたていた少年、サスケだった。
 サスケはうちは一族の黒い装束を上下に揺らし、腕立て伏せをしている様子であった。

「……腹、くくっていくしかねえってばよ」

 ナルトにとってサスケの存在は、不気味そのものであったが、目の前に転がりそうなうちは煎餅の利権を無視する事もできなかった。
 うちは煎餅を狙う者にとって、唯一の生き残りであるうちはサスケは、避けては通れない道である。
 
(本性は見透かされているかもしれないが、うまくやれば、奴を籠絡できる可能性もある。そうすれば、俺の一抹の不安も、少しは解消される訳だってばよ)

 道化の通じない相手ならば、その存在に怯えたまま道化を演じるよりも、いっそのこと本性を曝け出して付き合った方が楽な事もある。もしもサスケが真実を優先するようなら、金で解決するしかない。
 金こそが正義と考える少年は、酷く打算的な考えを巡らせると、教室の窓からうちはの末裔を見下ろし、そのの口角が醜く歪めた。。

「……ナルト、君か?」

 後方からの突然の声に、ナルトは慌てて本性である醜い顔から、良く言えば純真な少年の顔に、真実を言えば呆けた道化の顔へと瞬時に切り替える。

「あっ!ミズキ先生!」

 声の主はミズキという、アカデミーの教師であった。
 いつも生徒に対しては笑顔を絶やさないミズキという教師は、教え方も優しく、生徒の中では非常に人気のある教師であった。ナルトの道化に欺かれている教師でもある。

「どうしたんだい、教室に残って……また、イタズラでもしようと考えてたのかい」

「そんな事、ないんだってばよ!」

 ミズキはいつものように優しげな笑みを浮かべながら、窓際に立っていたナルトへと近づいてくる。
 これからうちはの末裔と接触し、『交渉』しようとしていたナルトは、心の中で舌打ちをしつつミズキに向き合った。

「あっ!ミズキ先生、ちょっと見てほしいものがあるんだってばよ!」

 無邪気な生徒を演じるナルトは、変化の印を結ぶ。すると、煙とともにナルトの姿は金髪全裸の美女へと姿を変えた。

 『お色気の術』
 人間の欲望は、金へと直結する。アカデミーへ入学しても忍術というものに興味を示さなかったナルトが、唯一『金になりそうだから』と、忍術の基本として習う変化の術を応用させて編み出した術である。
 この術はナルトが道化に徹する際にも有用な、彼にしてみれば使い勝手の良い術であった。
 ミズキに対してこの術を発動させたのは、いつもの道化を演じるためであり、また、ナルトの本来の性質といえる悪戯好きの気持ちも少しはあったのかもしれない。

 金髪全裸の美女へと姿を変えたナルトは、新聞のピンク欄や成人向け雑誌の表紙によくありがちの、卑猥なポージングをとった。

「じゃ~ん!お色気の術なんだってばよ!」

「…………ナルト君」

 ミズキは金髪全裸を目の当たりにし、深いため息をつくと顔をしかめた。

「そんな悪戯ばっかりやってると、また留年しちゃうぞ……それに、その手の術は、法で禁じられているじゃないか。そもそも未成年なんだし……留年どころか下手をすると逮捕されてしまうよ」

 ミズキのいう事は、もっともな事であった。

 変化の術というものは、大変便利な術であり、ナルトのような半端な忍者でも容易に習得できる術でもある。この手の術を使ってナルトのような小悪党が術を悪用できないよう、木の葉の法によって縛られているのだ。
 何気なく金髪全裸の美女に変化したナルトであったが、木の葉の法に照らし合わせてみれば、まず『未成年忍者におけるナンタラカンタラ』という条例にひっかかり、公然猥褻罪にも当てはまる。変化を使って風俗でもしようものなら、待ってましたとばかりに風営法がやってくるのだ。里の警備を取り仕切っていたうちは一族がいなくなったとはいえ、忍者大国木の葉の警察力を侮ってはいけない。
 一昔前ならば、男が女に変化してこっそりサービスするという行為が闇で行われていたが、もともとそういった趣味がない人の被害が多くなってしまい、社会問題にもなった。そして、忍者の変化に対しては消費者の警戒感が高まり、法の規制も強化され、『違法風俗』は近年ではさっぱり息をひそめている状態にある。
 いずれにせよ、忍者が跋扈するこの世界で、術をネタとする商売は非常にやりずらくなっているのだ。

「……ちぇっ、ミズキ先生は引っかかんないなぁ……イルカ先生なら一発なのに」

「フフ、イルカ先生は純粋だからね」

 ナルトは術を解くと、ミズキもいつもの笑顔に戻る。そあいてその手をナルトの頭へと置いた。

「もう日が暮れてしまうから、早く帰りなさい」

 そう静かに言うと、ミズキは教室を後にした。
 ナルトは『はぁ~い』という気の抜けた返事をしつつ、ミズキが完全に教室から出ていくまで目で追った。その顔は徐々に元の醜悪なものへと変貌していく。

 教室を出て、廊下を歩いていく音が聞こえる。ナルトは心の中で大きく舌打ちをすると、すぐさまその視線を校庭の片隅へと移した。
 サスケはいまだに校庭の片隅で、上下運動を繰り返している。

(しめたっ、まだ居る!)

 サスケの姿を確認すると、ナルトは急いで教室を出た。うちはの末裔と交渉をするために。
 その顔には、再び邪悪な笑みが浮かびあがっていた。






「クッ…………グ……」

 誰もいなくなった校庭の片隅から、苦しそうな声が定期的なリズムをもってこぼれている。アカデミーの授業が終わってから今に至るまで、サスケはこの場所においてひたすら修行に励んでいた。
 行っているのは腕立て伏せという、至ってシンプルなトレーニングではあるが、体重を支えている両手の指を回数を重ねるごとに減らしていき、今は親指と人差指を残すだけとなっている。まだ成長途中である指の関節や筋肉が負荷に耐えきれず悲鳴をあげているが、『痛くなければ、鎮まらぬ』というサスケ独自の理論に基づき、苦痛に耐えながら腕立て伏せをしているのだった。

「クソッ……忌々しい夕日め」

 汗を滴らせながら、落ちていく夕日を睨む。
 下校途中に見かけた美しい赤い夕日が、サスケには女性の叩かれた尻のように見えてしまい、あえなく発情してしまっていたのだ。夕日は次第に落ちていき、その半分は山の影へと隠れたが、サスケにとってはいまだ半ケツの状態であった。
 夕日を見て発情してから、サスケはかなりの回数の指立て伏せをこなしたが、その下半身は一向に治まる気配を見せない。事態が長丁場になる事を覚悟しつつ、己の体重を支えている指を更にもう一本減らそうとしているとき

「……サスケ」

 と、名を呼ぶ声が聞こえた。

「……ナルト、か」

 不意に名前を呼んだのは、先ほどからサスケを教室から監視していたナルト。サスケは指立て伏せの姿勢を崩さず、声の主のナルトを見上げた。
 
 校庭にカラスの鳴き声が響く。風が冷たくなってきたのは、もうすぐ日が完全に沈む事を教えていた。両者は互いの名前を呼んだきりで、何もしゃべらぬままとなってしまった。
 サスケにしてみればまともに話した事がないナルトが急に現れたのが疑問であり、ナルトはサスケが腕立て伏せではなく指立て伏せをしていた事と、地面に滴り落ちている汗の量が尋常ではないことを見て、『何故こんな修行をしているのだろう』と改めて疑問に思ったからだった。
 長く続くと思われた両者の見合いは、一塵の風が巻き起こした木々のざわめきをきっかけに終わった。

「……何のようだ」

 両者の沈黙を破ったのはサスケだった。相変わらずの姿勢を崩さぬまま、逆光により真っ黒な影となっているナルトを睨む。

「いい話があるんだってば……まあ、聞いてくれ」

 ナルトはサスケの前にかがみこむようにして座ると、さっそく交渉にとりかかった。

 うちは煎餅までなくしてしまうのは、もったいない。
 集落には煎餅の作り方が残っている、それを譲ってほしい。
 今すぐにとは言わないが、いずれうちは煎餅で一儲けするつもりだ。
 もちろん、分け前はある。俺が六でお前が四でどうだ。
 他の連中に勝手に手をつけられるより、こっちの方がマシだろう。

 周囲の同級生達と同じように、ナルトに対して『落ちこぼれ』という認識であったサスケは、馬鹿が戯言を言い始めたと相手にしないつもりでいたが、ナルトの話し方が普段のものとは全く異なっており、何より異様だったのはドス黒い雰囲気をその身に漂わせていた。。聞くつもりのなかった耳も、ナルトのその異様な雰囲気にのまれ、サスケは知らず知らずのうちに耳を傾けていた。
 しかし、その内容はあの『落ちこぼれのナルト』が話している事とは思えず、また、一族の生き残りとして許しがたいものであった。
 四だ六だという、金の問題ではない。一族が残したものを商売にしようとするナルトの精神が、情欲のなかほんのわずかに残されていた一族の誇りを傷つけられたような気がしたのだ。
 ナルトの交渉の内容は、あまりにも酷いものであり、聞いていたサスケの血をみるみる引かせていった。そうやってようやく血が別のところに回り始めた少年は、一族を侮辱された怒りを露わにする。

「ふざけるな……聞かなかった事にしてやる。消え失せろ」

 立ち上がりナルトを睨むのは、性欲の塊ではなく、一族の末裔うちはサスケだった。その眼は情欲の炎ではなく、一族を侮辱された事に対する怒りで燃えていた。

「悪い悪い、そう怒んなってば」

 ナルトはものすごい剣幕で睨みつけてくるサスケに、なだめるように手で遮る。怒りの眼差しをそらそうとしないサスケに

「六四は言い過ぎたってばよ、五分五分で、どうだ」

「てめぇ!」

 この期に及んでも金で決着をつけようとするナルトに、サスケの怒りはピークに達する。
 ナルトの胸倉をつかみ、問答無用の一発を顔面に入れようとした、まさにその時だった。

「待ちなさいっ!」

 女性の鋭い声が校庭に響く。その声は非常に通った声であり、気迫がこめられた声であった。
 サスケの拳がナルトの顔面の目前でぴたりと止まる。

「何をやってるの二人とも!」

「あ……紅先生」

 煙とともに二人の前に姿を現したのは、アカデミーの女教師夕日紅であった。
 まさに女盛りを迎えたこの女性は、アカデミーではくのいちクラスを担当しており、忍者としても上忍の位につく、才色兼備という言葉がふさわしい才女であった。

「なんで喧嘩になったのか、先生に教えてちょうだい」

 紅は腰に手をあてると、二人の顔を覗き込むように前かがみの姿勢となる。
 サスケは掴んでいたナルトの胸倉から手を放すと、視線をそらすように首を垂れた。ナルトは頭の後ろに手を組んでそっぽを向いている。

「もう……黙ってたらわかんないでしょ」

 紅の手がサスケの顎へと伸び、そのまま上へと持ち上げられる。今にも泣き出しそうなサスケの顔が、紅の前に晒された。
 そして、先ほどと打って変ったサスケの様子の変化を、ナルトは蛇が獲物を捉えるように敏感に察知した。

「サスケに『お色気の術』を教えてやろうとしたんだってばよ。でも、断ってきたから、それで……」

「ま……お色気……」

 ナルトは小さい声で、しかし充分に聴きとれる程度の音量を持ってつぶやくように言った。サスケは向けられていた視線から解放される。
 喧嘩の理由がどうでもよさそうな事であると知り、紅は

「ケンカは両成敗、もうケンカしちゃダメよ」

 と、二人のおでこを軽くこずいた。
 サスケの脳裏に、一族を滅ぼした兄の顔がよぎり、懐かしい映像が再生される。しかし、彼の中で沸き起こるまったく別の感情により、その映像は瞬時にしてかき消された。

「さ、仲直りの握手をして……ね」

 紅の優しい言葉に導かれ、ナルトは印を作った手をしぶしぶと前に出す。サスケもその指に、ぎこちなく自身の指を重ねた。
 辺りを赤く照らしていた夕日はすっかり沈み、反対に月の頭が山際からのぞかせている。虫を寄せ付けてはやまない電燈が、校庭に残された三人を照らしていた。

「せっかくの同級生なんだから、仲良くしなきゃ」

「はぁ~い」

「…………」

「それと、ナルト君、今日の事はしっかりイルカ先生に伝えておきますからね!」

「えぇ~」

「えぇ~、じゃないでしょ、まったく……捕まるわよそのうち」

 ぶつぶつと小言を言い残しながら、紅は煙とともに闇の中へと姿を消した。くのいち特有の、いい匂いを周囲に残して。
 二人っきりとなった少年達は、誰もいなくなってしまった校庭を見たまま、しばらく立ち尽くす。耳障りな虫の羽音と犬塚家の遠吠えが、二人の耳に鳴り響いている。

「ナルト……」

 沈黙を先に破ったのは、またしてもサスケの方だった。声の調子から、激昂はしていないようだった。

「……お前の言っていた、うちは煎餅、くれてやる」

「えっ!ホント!?」

 思わぬサスケの言葉に、ナルトは喜びを隠しきれず声を高くした。

「煎餅は集落の角の煎餅屋が作っていた。どうせだれも居ない……あとは好きにしろ」

「やった!六四だな?六四でいいって事だな!?後悔しても知らねえってばよ!」

 ふっかけたつもりで提案していた六四が成立し、ナルトは夢でも見ているのではという気持ちになっていた。

「好きにしろと言った……その代わり、ナルト……頼みがある」

「な、何だよ」

 浮かれてはいたナルトだが、人に頼みごとをするような人間ではないサスケが、頼みごとと深刻な顔をしているので思わず身構えた。うちは煎餅の利権を譲ってもらったてまえ、何としてでもサスケの頼みごとを聞いてやらねばいかぬ。
 ナルトは生唾を飲んで、サスケの言葉をまった。

「……ナルト……俺を…………殴ってくれ」

「はぁ!?」

 ナルトは我が耳を疑った。変わった奴だとは思ってはいたが、ここまで変わっているとは思わなかったからだ。

「ソレ、ホントに言ってんのかよ!?」

「本当だ……!早く、やれ!」

 サスケはナルトに向き直ると、早く殴れと言わんばかりに背筋を伸ばした。冗談を言っている様子は微塵もうかがえず、表情は真剣そのものだった。
 サスケの妙な依頼に、ナルトは躊躇する。しかし、取引先の要望を反故にする訳にもいかない。疑心暗鬼のままに拳を握りしめ、依頼を果たす準備を整えた。

「そ、それじゃあ、ご希望のように今から殴ってやるけどよ……煎餅は俺の物だし、分け前は六四で決まりだからな!後になって四の五の言うなよ!」

 ナルトは言質をとるように念を押し、交渉の内容を確認した。
 サスケは何も言わぬまま、ナルトの言葉に対してうなずいている。。
 妙な気分になりながらもナルトは拳に力を込め、サスケの腹をめがけて殴った。

 ナルトの右拳がサスケの腹にめり込む。
 殴られたサスケは思いのほかナルトの力が強かったのか、数歩後ろへとよろめく。しかし、すぐ様その足取りをまた前へと戻し、うめくような声で

「まだだ……まだ、足りん…………もう、一発、こい!」

 再びナルトの前に立つと、さらにもう一撃を要求した。

 ナルトの頭の中は、目前の狂人に対する疑問で埋め尽くされていた。
 なぜ、このような要求をしてくるのか。
 一体、何が目的なのか。
 その答えがわからぬまま、目の前の同級生はさらにもう一発と要求してくる。未知のものとは、恐怖となりうる。
 ナルトは何とかして答えの糸口を見つけようと、苦しそうに肩で息する狂人の様子を凝視した。
 頭から首、その息遣い。胸、腕、腹…………ナルトの観察がちょうど腰から下へ移ろうとしたとき、サスケの下腹部に明らかな異変が生じている事がわかった。
 自然に、ナルトは自身の拳をより一層強く握りこむ。

「な、何でお前、勃起してんだってばよぉ!」

 絶叫に近い声でナルトは叫んだ。これは、少しでも恐怖を消し去ろうという、本能の声だった。ナルトの汗は冷や汗へと変わり、総身は悪寒により鳥肌がたっている。

「バ、バカッ!……早く、殴れ!」

「ひぃっ!ば、化け物っ!」

 サスケの言葉に押されるように、ナルトは殴った。渾身の力を持ってして振りぬかれたその拳は、サスケの顔面を的確にとらえていた。
 殴る直前にナルトが発した言葉は、皮肉にも自身が言われ続けていた言葉であった。


 ナルトにとって、サスケは恐怖であった。 


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