「本当に二人だけなのね」
放課後の月村邸。
なのはとユーノと共に訪れたはずなのに、自分だけ別の部屋に通された事に若干の不安感をにじませるアリサ。
「事情の説明だけならみんな一緒でもよかったんだけど、アリサちゃんとふたりきりでないしょのお話をしたかったから」
そう言いながら、テーブルにカップを置くすずか。普段はそこで給仕をしているはずのファリンの姿すらない。この屋敷に居る忍もノエルもファリンも、みな翔太達の方に居るので、この場に居るのは本当にアリサとすずかの二人だけだった。
「ん、やっぱりファリンにはまだ届かないかな」
自らが淹れた紅茶を味わいながら感想を漏らす。ドジを踏むことは多いが、やはりファリンのメイドとしての腕はやはり一級品だということだ。広い月村邸を、ノエルとファリンのふたりで管理していることからもその片鱗は伺える。まあそのドジこそが致命的ではあるのだが。
アリサも一口飲んで、一息つく。
「それで、どんなないしょ話なのよ?」
「順を追って説明していくね。まずはこれがアリサちゃん達に内緒で私たちだけで昨日封印したカード」
そう言ってクロウカードを二枚机の上に置いた。
『時と水て…… なんやその無茶な二枚は。二人でよう対応できたな』
そのカードを見たとたん、アリサの胸元で金の鍵が感嘆の声を上げた。 アリサはカードの名前だけで何が起きたかまでは分からなかったが、ケルベロスの声から容易に封印できるようなカードではない事はうかがい知れた。ぴくんと片眉を吊り上げ、強い視線をすずかに向ける。その目は「やっぱり無茶をしたのね」と強く語っている。
「あの――」
『あー、アリサ? 水はともかく、時はちょい特殊なカードでな? わいら無視して独断専行したっちゅうわけやないと思うで?』
「……どういうことよ」
『そうやろ? すずか嬢ちゃん』
口を開きかけたすずかの言葉を遮って、アリサからにじみ出ていた怒気を鎮めたのはケルベロスだった。アリサも思わぬ方向からの横槍に、すずかに向けていた視線が弱まる。
すずかは内心でケルベロスのフォローに感謝しつつ口を開く。
「時は午前零時限定で時を二十四時間巻き戻す事が出来るの。実は私たちは昨日を四回繰り返してるんだけど、その中でも記憶を保持できるのは私と同じ銀色の魔力光を持った人だけなの」
「昨日を四回って……、本当なの?」
戸惑うアリサの言葉にすずかは頷いた。
「アリサちゃん達を巻き込まなかったのは、記憶の保持ができないから。仮に事情を話して協力したとしても、もし時を封印できなかったらアリサちゃん達はその日一日の出来事を忘れてしまう。その日一日を生きたアリサちゃん達がいなくなっちゃう」
今日を生きた記憶が明日に続かない。時が戻ってリセットされたとき、そこに居るのは別のアリサであって、"今この瞬間を生きたアリサ"ではなくなってしまう。
『すずか嬢ちゃんのゆうとることは本当や。時はそれができる。できてしまうんや』
「……それは、極論死と同義。だから私を巻き込まなかったってこと?」
巻き込まなかった理由を悟ったアリサは苦い表情を浮かべてすずかに問いかけた。
「うん。だから私と翔太くんの二人だけで対応しようとしてたの」
「……って、ちょっと待って、なんで翔太も記憶を保持できてるのよ。翔太の魔力光って、確か……」
ここで何かに気付いてアリサは言葉を止め、そのままの姿勢で数秒黙って思考する。
「……翔太の魔力光が変わるのって、この場合でも適応されるってこと? もしかしてクロウカードが使えるようにもなるのかしら?」
翔太の魔力光がユーノと同じ色に変わった時の事を思い出して、推論を立てたアリサ。その内容は寸分たがわず事実を言い当てていた。
「うん。翔太くんの魔力光変化は見た目の色だけじゃなくて、本質的な部分まで変わってるみたい。水を封印する時も、私一人の力じゃ封じ込められなかったけど、翔太くんが協力してくれたおかげで抑え込めたの」
『高位カードの水が封印できたのもそれが理由かいな。でも坊主の特性に最初から気付いとったわけやないやろ? 嬢ちゃんの口ぶりやと最初っから一緒に行動してるっぽいんやけど、一番最初の時の能力発動時になんで坊主は魔力光が変わっとったんや?』
ケルベロスの疑問に答えたのはすずかではなくアリサだった。
「確か昨日はもともと、習得した新しい魔法を試そうって話だったわよね。その過程ですずかの魔法が翔太に当たったってことかしら? で、そのままの状態で午前零時を迎えたってことでしょ」
「うん、それでだいたい間違ってないよ」
『ああなるほど。それがたまたま最初の日やったっちゅうわけやな』
断片的な情報から、起きた事を正確に推測していくアリサ。内容に間違いはない。話相手の頭の回転が速いと、説明の手間が随分省ける。大雑把ではあるものの、時封印にアリサたちの助力を求めなかった理由に関しては、そもそも対応できるのがすずかと翔太しかいなかったからという理由は説明する事ができた。
ただ、今回の話のメインはそこではない。アリサが目撃した、すずかと翔太の関係についてが本題だ。それを説明するなら、すずかはアリサに話さねばならない事がある。
「二人だけで時に挑んだのはそれが理由。でも、私と翔太くんとの間に起きたことはそれだけじゃないの。聞いてもらってもいいかな?」
言葉に込める雰囲気が変わった事に気付いたアリサは、居住まいを正して頷いた。
そここそがアリサが一番聞きたかった話。すずかがアリサと二人だけで話す理由。
「時の能力で無かった事になった最初の日に起きた事、それが全てのきっかけ」
それからすずかは語り出した。すずかと翔太、それとスピネル以外は覚えていない日々の間に起きた事を。
「――そうやって私たちは、今までとはちょっと違う、新しい対等な関係を作ったの」
長針が半周したころに、ようやくすずかは全てを話し終えた。
「………………………………」
秒針がきっちり三周したところで、話の初めの方からふさがらなかった口をようやく塞ぎ、アリサは物凄く難しい顔で額に手を当てて天を仰ぐ。
前提の話として必要だからと、翔太が書き出した小説二巻の内容がどういうものかを説明するところまではアリサもまだ相槌をうっていた。まだ読んでないのに内容ばらすんじゃないわよと、苦笑しつつ軽い文句も口をついていた。だが、続いて月村家の秘密にさしかかった所で息をのんで固まり、そしてすずかが灰になった部分で硬直した。その場でアリサが大きなリアクションを返す事が無く固まったため、すずかはその後の経緯も一気に話し終えた。
「……この期に及んで、こういう場面ですずかが嘘でたらめをいうはずがないってわかってはいるけど、それでも確認させて。 ……それって本当の話?」
内容がアリサの理解を超越しすぎて、いくらなんでも全てを信じるのは難しかった。
「うん、本当に起こった事だよ」
『間違いありません』
「そう……」
真摯なすずかの瞳と、スピネルの言葉を受けて、アリサは目を閉じて考え込んだ。
何回も思考が停止してしまうような突拍子もない事を聞いた気がするけど、すずかが言った事を全て真実だと信じる事にする。……信じるにはなかなか厳しい内容だけど、とにかくそれを本当の事だと信じないと話が進まない。すずかと翔太の間に起きたを話すのは、クロウカードの封印に際して必要なことだったわけじゃない。これだけショッキングな出来事なのだ、秘密にするほうが普通だ。それでも話したということはそれだけすずかはアリサの事を信頼しているということだ。信頼には信頼で答える。アリサの辞書にはそう書いてある。
「細かく言えばきりがないから、この場では一つだけ大事な事を確認させて」
本音を言えば、時間が戻っているらしいので身体的なことはともかく、心理的ないわゆるトラウマが残ってないのかとか、忌まわしいその瞬間、それぞれが何を思ったのか、色々聞きたい事もあったが、集約するとアリサの聞きたいことはこれだけだった。
「翔太とすずかの間に、本当に禍根はないの?」
「っ」
その問いに、すずかは少しだけ驚いて小さく息をのんだ。一番の核心をアリサは鋭く突いた。それでもすずかはすぐに落ち着きを取り戻し、特に焦りを浮かべることなくもう一度深く椅子に腰かけた。
そこから少しだけ時間をかけてすずかはゆっくりと思いを口に出す。
「……まったくないって言いきるのは、私も翔太くんも、きっと難しいと思う。……でも、そうだとしても私は、その負の気持ちも含めて付き合っていきたいって思ったの。
この気持ちを隠したり、見ない振りもしない。翔太くんにちゃんとぶつける。
私はこんなに痛かったって牙をたてる。
私はこんなに寒かったって血を貰う。
私はそれでも離れたくないって手を繋ぐ。
変に遠慮したり我慢しないってもう決めたの」
真っ直ぐアリサと向き合ったまま紡ぎだされたその言葉は、静かでありながら熱が込められていた。
そのまま二人は見つめ合う。目は言葉より雄弁に語る。瞳は逸れることも揺れることも陰ることもなかった。
「本気、みたいね」
「ん」
すずかはあえて言葉を介さず、やわらかな笑顔で答えた。
「……なら、私が横から言えることはないわ」
起きたことは非常識、本当は言いたい事も言いきれないほどある。だけどすずかの表情には嘘偽りなく納得していると書いてある。ならば、その時の記憶もないアリサにはもう何も口を出すことはできなかった。
そう言ったアリサの表情は、わずかに、本当にわずかだけ陰って見えた。だがアリサはそんな自分自身に気付かなかったかのように言葉を続ける。
「すずかは、さ」
どこか歯切れ悪く、視線を揺らしながら、それでも思いきったように口に出した。
「翔太の事が、特別……、ううん。遠回しに言っても仕方ないわね。……好き、なの?」
「っっ」
そう問われたすずかは、一瞬で身体を硬直させた。そして硬直が解けていくと同時に、じんわりと頬を染めていった。
「えっと……、やっぱりそう、なっちゃうのかな?」
アリサが今まで一度も聞いた事がないくらいに照れの成分を含んだ声で、途切れ途切れになりながらも慌てた様子ですずかが答える。
「で、でも、そのね、な、なんだかちょっといいなって思ってるだけで、まだ本当に好きって言う訳じゃ」
「まだって事は、時間の問題ってこと?」
「そ、ういうわけでも、ない、けど……」
尻すぼみに声がどんどん小さくなっていく。どんどん俯いていって、アリサからは表情が見えなくなる。でも髪の隙間から見えた耳は、真っ赤に染まっていた。
その様子に、アリサはオーバーリアクション気味にやれやれと手を広げながら、それでもどこか寂しそうな表情で、すずかのことを応援すると口に出そうとしたところで――
「私はすずかのことお応え――「アリサちゃんは」、え?」
「アリサちゃんは翔太くんの事、どう思ってるの?」
「え……、私?」
まさかこの期に及んで自分に話が向けられるとは思ってなかったアリサは、続く言葉が見つけられずあたふたとする。
その間に羞恥心をなんとか制御したのか、すずかが顔を上げてアリサに向けて口を開く。
「そもそも私がアリサちゃんだけにこの話をしたのはアリサちゃんが翔太くんの事をどう思ってるか聞きたいからだったわけで私は翔太くんの事ちょっと気になるなーって思ってるけどアリサちゃんこそ翔太くんのことどう思ってるのっ!?」
頬もまだ赤く、早口に一息で言いきった。どうやらまだテンパってるみたいです。
「そんなの、どうって言われても私は別に翔太の事なんてなんとも思ってないわよ」
「じゃあなんで昨日は私達を見て逃げ出したのっ?」
「べ、別に逃げたわけじゃないし大した理由なんてないっ」
「嘘っ いつものアリサちゃんだったら、勝手に行動してた私たちを怒るはずだよっ。それをしないで逃げ出したのは、その時の私と翔太くんの様子を見たくなかった、認めたくなかったからだよっ!」
いつしか二人ともテーブルに手をついて立ち上がり、顔を赤くして年齢相応の言い争いを始める。二人はその後も「違うっ!」「違わないっ!」と言い合いを続けた。
数分後。
「はぁ、はぁ……」
「はふぅ……」
言い争いも息が続かなくなって強制終了。今は二人とも揃ってテーブルにぐてっと上半身を投げ出している。さっきまでの剣幕はどこへやら、一周回って二人の間にはゆるい空気が流れる。なんだか熱くなって子供じみた言い合いをしてしまった事が言いようもなく恥ずかしい。いや、事実子供なのだからある意味当然ではあるのだが、いつもの自分たちは他の子に比べて大人びていると言う自負があるだけに、余計に子供っぽい行動に対して恥ずかしさが増してしまうのだ。
「はぁ~…… すずかの方こそどうなのよ」
「どう、って」
アリサは片腕を枕にした姿勢のまま、すずかにジト目を向ける。それでもその目は、変な意地を張っての争いはもういいでしょ? とも語っていた。
「『まだ』ってどういう意味よ。夜の一族っていうののことを受け入れてもらって、時間がループしてる間に起こった、その……、嫌な出来事があっても、それでもそばにいたいって思えるのに、それでも『まだ』なの?」
アリサのその問いに、すずかは少し視線を泳がせてテーブルにうつぶせになって顔を隠す。
「……なんだか、逃げてるだけじゃないかなって」
「どういう意味?」
顔を伏せているせいで少しこもったような声のすずか。その声に先ほどまでの照れの色はなく、逆に不安が浮かんでいた。
「私が本当に翔太くんの事が好きなのかは、本当にまだわからないの。
さっきも言ったように私は夜の一族。その秘密を一緒に抱えてくれる人じゃないと寄り添うことはできない。翔太くんは既に秘密を知って受け入れてくれた人。これから先に出会う人が、翔太くんと同じように受け入れてくれるかどうかはわからない。
……だから本当は好きなんかじゃなくて、近くに居る人に逃げて好きになろうとしてるのかもしれない」
すずかが将来他の人を好きになったとして、その人がもしも『夜の一族』を受け入れられなかったら、そこに待っているのは破局だけだ。すずかが抱える恋のリスクは普通の少女とは比べ物にならない。
その点翔太は、今現在すずかにとって受け入れられないリスクを抱えていない唯一の異性だ。わざわざリスクを冒して将来の出会いを求めるよりよっぽど楽だと言える。だからこそその事に気付いてしまったら、逆に自分の気持ちが本物なのか自信がなくなってしまった。
それを聞いたアリサは少し考えた後、自分の思いを語り出した。
「私はすずかじゃないから、本当のすずかの心根はわからないわ。私自身、恋するってことがどういうことかまだわかってないもの。……そうね、私は確かに翔太の事を意識してる。それは認めるわ。だけど、それが恋かって言われると、すずかと同じくよくわからないわ」
すずかがそこで「え?」と小さく呟いて顔を上げた。
「でも、アリサちゃん昨日のことは……」
すずかの中では、アリサは翔太の事が好きだからこそ嫉妬したのだという思いこみがあった。だからアリサを呼んだ。アリサから聞けば自分の気持ちも見えてくるのではないかと。しかしアリサはそこで小さく首を横に振る。
「そう、そうね。昨日、二人を見て私が感じたものは確かに嫉妬だったと思う。でもそれは翔太の事でと言うよりも、すずかのことでって要素の方が大きかった気がするわ」
すずかはその言葉の意味が読みとれず、首を傾けた。
「今さら口に出して確認するのも恥ずかしいけど、私とすずかって親友よね?」
「うん」
間髪をいれずにすずかは答える。
「私もそう思ってる。すずかもそう思ってる。だけど、すずかと私たちの間には、どこか見えない一線が引いてあった気がするの。本当に些細な部分かもしれないけど、私達とすずかの間にはどこかに遠慮があるって私はずっと感じていたわ」
「…………」
思い当たる節があるのか、すずかは小さく目を逸らす。
「でも、昨日の光景、すずかが冗談半分だったとしても…… ううん、冗談だからこそ、悪戯だからこそ。翔太に抱きついて悪戯をしようとしているその行動に、遠慮も躊躇も感じられなかった。私はそれが悔しかった。私じゃ引き出せなかったすずかを、翔太が引き出してたから。私の昨日の嫉妬心の源泉はそこだと思う
…………翔太に甘えるすずかを羨ましいと感じる気持ちも一部含まれるのは、まあ、その、……全く無かったとは言わないわ」
自分の中に生まれた感情を自己分析しながら、アリサは後半を顔を赤くして付け足した。
やっぱりそうなんだ、と言う感じで微笑むすずかの様子を横目で確認してしまったアリサは更に赤さを増す。
「でもっ」
それを振り払うように首を振って、誤魔化すように大きな声ですずかに向き直る。
「私とすずかの間にあった壁も、もうなくなったのよね?」
「うん」
翔太との間にはなくて、アリサとすずかの間にあった壁。それは夜の一族のことを知っているかどうかということだった。もしも、万が一、夜の一族の事が受け入れられなかった時に、アリサ達と離れ離れにならざるを得なくなった時、自分の心を傷つけないために、無意識のうちにすずかが引いていた境界線。それこそがすずかが引いていた一線だった。だが、それはもうアリサは踏み越えた。
もうすずかが"受け入れてくれなかったら"よいうifに怯える必要ない。
「だからすずかは私に対して、もう遠慮も躊躇も必要ない。心で思った通りに私にぶつけて欲しい。もし、もしも、私もすずかも翔太の事が本当に好きになったら、その時は本気でぶつかり合いましょう。今はまだ分からないなら、しっかり見極めていきましょう。私達が本当に翔太の事を好きなのか、それと、翔太が私たちみたいな美少女が想いを寄せるに値する男なのかもね?」
そう言ってウインクをする。すずかは一瞬きょとんとして、それからすぐにくすっと小さく吹き出した。
「何よ。私何かおかしい事言ったかしら?」
「自信満々だなって」
「ふふん。私もすずかも誰に誇れるくらいの美少女よ? そもそも翔太程度になんてもったいないわよ」
腕を組み胸を張って得意げなアリサ。それをみてすずかは更に笑みを深くする。
「そうだね。綺麗系のアリサちゃんの隣だと確かに翔太くんが霞んじゃうかも」
翔太の容姿は、それなりではあるがイケメンと褒め称えられるほどの器量ではない。むしろ十人並みという評価の方が当てはまる。無論これから成長するのだからどうなるかは分からないが、現状では見た目の面でアリサと釣り合ってるとは言えないかもしれない。
「綺麗系とか特に考えた事なかったけど」
自分が美人であるという自覚はあるものの、わざわざ分類して考えてこなかったアリサはその評価を始めて聞いたようだ。
「アリサちゃんは綺麗系で、なのはちゃんは可愛い系だよね」
「じゃあすずかはどうなのよ」
「私は綺麗で可愛い系」
事もなげにそう言うすずかに、アリサは一瞬目をぱちくりとしばたたかせる。そして堪え切らなくなったように笑い出した。
「いきなり言うようになったわね」
「だってもう躊躇も遠慮もいらないんだよね」
「もちろんよ」
アリサはにぃっと口角を上げ、すずかもふふふ、と上品に口元を隠して笑みを向け合った。
その後、とりとめのない談笑をしていた部屋にノックの音が響く。
「どうぞ」
すずかの言葉に、翔太がひょいっと顔をのぞかせる。
「そっちは話は終わったか?」
「うん」
「こっちも一応終わったけど、あれはどうする?」
"あれ"とは言うまでもなく夜の一族の件だ。なのはやユーノに対して時の説明は終わっが、夜の一族については翔太は説明できない。
一瞬だけアリサにちらっと視線を送る翔太。その意を察したすずかは微笑みながら軽くうなずいた。曰く「アリサには?」「うん、もう話したよ」である。
「うん、この際だから二人にも打ち明けるよ」
そう言ってすずかは立ち上がる。アリサも同じように立ち上がったかと思うと、素早く翔太の隣に並んで片腕をとった。
「ん?」
「そうときまれば早く行きましょ。二人が待ってるわ」
「おわっ」
アリサは片腕を抱くように翔太の事を引っ張る。そしてすずかを振り返って、にっと笑った。
「むぅ……」
そんな得意げな顔をされるとなんとなく面白くない。だからすずかももう片方の手をぐいっとつかんで引っ張りだした。
「え、なに、どうしたっ?」
まるで刑事ドラマで見る容疑者連行シーンのように両腕を掴まれた翔太がうろたえるのを余所に、アリサとすずかはにっこりとほほ笑みあって、ずんずんとなのは達が待つ部屋へと向かって歩き始めたのだった。
二人の気持ちは未確定。それは恋か友情か。気持ちを育てるのは翔太の魅力か、それともお互いに対する対抗心や競争心か。
いずれにしてもアリサとすずかの心は、成長という道を一歩一歩進んでいくのだった。