「空ってこんなにも気持ち良いのねー」
地表よりも雲に近い上空で、アリサがめいっぱい腕を伸ばして太陽の光を浴びて、背中に生えた白い羽をぴこぴこと動かしてご機嫌をしめしている。
太陽とアリサの延長線上に浮かぶ翔太は、片目を閉じて手をかざし、まるで光に祝福されているかのようにその全身を光が覆う光景を目にしたが、錯覚か幻視と思い改めてアリサの感傷を打ち切るように努めて冷静に言い放つ。
「現実逃避はいいからさっさと訓練に戻れ」
「……ちょっとはのんびりさせてくれたっていいじゃない」
翔の封印から数日。全員飛べるようになったということで、足並み(正しくは翼並み?)をそろえるために飛行訓練をするようようになった。
管理世界のミッドチルダにおいて、飛行魔法はそれなりに扱いの難しい魔法として知られている。"浮く"だけなら何とかなる者も多いが、"飛行"となると浮力、推進力、姿勢制御と最小に絞っても三種類の操作を同時並行しておこなわなければならないうえ、なおかつ飛行状態で戦闘に耐えうる段階まで考えると、難易度はその比でない。
先日までそのレベルに達していたのは翔太のみ。なのはやすずかでは暴走した大樹の枝から逃れる事が出来なかっただろう。
ただ、それではこの先後手に回る可能性があるということで、アリサが飛べるようになったのを機に全員の飛行魔法の技量を上げようとユーノが提案したのだった。
その訓練の一幕を振り返ってみよう。
「とりあえずなのはは難しい事考えずに好きに飛べばいいよ」
「うん!」
なのはは機動性はそこそこに、急加速効果をもつフラッシュムーブという魔法をくみ上げ、瞬間的な速度では翔太と並んだ。好きこそものの上手なれ。
「すずかはここが空中だと考えないで自慢の運動神経を活かしてみればいいんじゃない?」
「試してみるね」
すずかは跳を用いた空中多重跳躍を操り、瞬間的に跳で軌道を自由に変えることができるようなった。その無軌道でトリッキーな動きは、翔太でさえも翻弄できる。
対するアリサは――
「じゃあオチ担当いってみよう」
「どうせあんたたちみたいにとべないわよわるかったわねっ!!」
『人生そんなもんや』
背中の羽を逆立たせてそっぽを向く。ケルベロスも思わず苦笑いだ。
速度は遅く、旋回も大回り。精密操作は言うに及ばず、飛翔そのものにも手間取る始末。まるで初めて教習所でハンドルを握ったかのようなたどたどしい飛行だった。
「ごめんね、うまく教えられなくて」
教習所の教官よろしく、アリサの肩に乗ってできる限りのアドバイスを続けるユーノがいった。
いつも通りであれば魔法の教師役にはミッドチルダで魔法をしっかりと修めたユーノが適任となるのだが、アリサが扱う翔のクロウカードに関してはユーノが教えられることはなかった。
ミッド式とクロウカードには大きな違いがある。ミッド式にとって魔法とは術式を組み、そこにエネルギーとしての魔力を流して実行する、科学の延長線上にある技術だ。だが、クロウカードはそうではない。
『クロウカードを扱う魔法で大事なんは強固で柔軟なイメージや。"翔"っちゅー言葉の概念をどうとらえて、どう発揮するかは術者次第っちゅーわけや』
「言葉の概念?」
「スピネル、どういう意味?」
『……ふむ。では波と言われて思いつくのはなんですしょう、マスター?』
すずかの疑問に、スピネルが問題を提議する。
「えっと、大波、小波、さざ波、荒波、津波とかかな?」
『それらは全て水に関する言葉ですね。ですが水以外にも波はあるでしょう』
「なるほど。音波とか電波ね」
得心がいったように頷くアリサ。
「……ひょっとして波動拳が撃てたりする?」
傍らで聞いていた翔太がとあるゲームの最もポピュラーな技を思い浮かべる。
『できると信じてやればできます。無論、こじつけや言葉のイメージから離れれば離れるほど魔力の消費は増えますが』
『逆にゆーたらその言葉のイメージの範囲内なら、魔力次第で何でもできるっちゅーことや』
「さすがロストロギア…… 術式から結果を導き出すんじゃなくて、術者が想定した結果あり気の魔法形態なんだね」
学者でもあるユーノが興味深げに呟いた。
そこでさっきから黙って話を聞いていたなのはが、頬に人差し指を当てながら思いつきを口にする。
「ということは、アリサちゃんは空を飛ぶイメージが足りないってことなの?」
「…………あ」
痛いところを突かれた、みたいな表情を浮かべるアリサ。どうやら正解のようである。
「なるほど。大方人間は空を飛べないという固定観念が邪魔してるとかそんな感じか?」
『ジュエルシードやクロウカードにまつわる事件にかかわっとるんやから、そこらへんの常識はもうどっかへ投げやった方がええで?』
「うーー。わかってるけど、どうもこう空を飛ぶイメージがつかめなくて……」
現にある程度飛行できている以上、それなりにこの非常識を受け入れているようではあるが、やはりどこか"常識の壁"を破れていない。
『そこはもう練習あるのみやな。ひたすら飛んで、飛行する感覚をなじませるのがえーと思うで』
「うう、私自分がこんなに頭固いとは思わなかった……」
ちょっぴり凹んだアリサだった。
そんなこんなで、時間があれば空に上がって訓練の日々を続けていた。今もアリサは只管飛び、その隣でなのははアリサが飛行のイメージがしやすいように自由に飛んでサポートをしている。ユーノは地上から見つからないように認識阻害の結界を発生させている。
翔太とすずかはというと、地上で別行動中だ。ジュエルシードやクロウカードの痕跡がないか街中を練り歩いていた。
すずかが魔力感知の魔法について実用に足る才を持っていたため、ユーノなしでも探索が出来るようになっていた。無論精度はユーノに到底及ばないが、数メートルの距離とはいえ封印状態のジュエルシードの位置を感知できるようになった。
「学校周辺の路地はこれで粗方歩き終えたけど、どんな感じ?」
「うーん、この辺りに魔力反応はないみたい」
『誰かが拾って移動する可能性もゼロではありませんが、この辺りはもう探索範囲から外しても良いしょう』
一通り歩き回って、近くの児童公園で一息つきながら今日の成果を確認する。"何もなかった"というのも立派な成果だ。そこですずかの顔を正面からじっくり見た翔太が、ふと気付く。すずかの顔色が少しだけ悪い。目の下に隈のようなものも見える。
「すずか、もしかして体調悪い?」
「そんなことは……」
「でもさ、なんだかんだで休みなしだから疲れたまってるんじゃないか? 塾も習い事も手を抜いてないし、遊びに行けばジュエルシードやクロウカード。気が休まる暇なかったろ?」
翔太は魔法に出会ってから、丸一日ゆっくり休んだ日がなかった事を思い出す。ただ翔太は空を飛ぶことがストレス解消になっていて、飛びさえすれば精神的にリフレッシュができるので大して疲れは感じていない。なのはも同様だ。
しかしすずかは溺れたり捻挫したりと一番ひどい目にあっていて、疲労がたまっているのかもしれない。そう思った翔太は心配気な視線をすずかに向ける。
「大丈夫だよ。あ、翔太くんが書いているあの世界の続きが気になって寝不足なのはあるかもね?」
「あー、あれか。だから最後まで書き終えるまで待てって言ったじゃん」
数日前に、書いているところまでのとある魔術の禁書目録の二巻を翔太から借りてすずかは読んでいた。
ライトノベルとはいえ、小説一冊分ともなると書くのはそれなりの時間を要する。手描きという制限がある状況ではなおさらだ。
翔太の一日のスケジュールは、朝は家の道場で兄妹と一緒にトレーニング、昼は学校、放課後はジュエルシード・クロウカード探し、夜は家族の相手と、それなりに忙しい。寝る前の数時間しか書く時間が取れない。だが、そこは開き直って授業中も書くことにしたのである程度は改善されている。……担任教師は涙目だが。
速く書くだけならなんとでもなるが、字の綺麗さも能力の再現度合いに影響するうえ、誤字などもっての外。毎頁毎頁真剣に取り組まなければならない。
その上、一巻の使用した欠落分を優先して書くので、どうしても二巻の進行は遅くなってしまう。何せ二巻は一巻ほど便利な攻撃手段が揃っていない。インデックスのところに魔女狩りの王を残してきた描写があるので、ステイルは炎剣しか使えないし、アウレオルス=ダミーの瞬間錬金はもしも人に刺さったら怖すぎるので使えるわけがない。さりとて二巻がなければ一方通行が出てくる三巻を書く事が出来ない。地味に"順番通りに書く"という制限があるので飛ばすことはできないのだ。
余談となるが、翔太が能力を使う条件に"単行本単位で書き上げる"という制限も存在する。現在二巻は単行本単位では書き上げてないわけだが、その前に読まれた場合はどうなるのかというと、例え書きかけの場合でも読まれさえすればちゃんと頁に力は込められる。
使えるようにするには書き上げる必要があるが、その前に読まれても無駄にはならない。その特性上、翔太が書きながらすずかが読んでいるという状況は、能力使用可能状態に至るまでの時間の短縮になるのだ。
ただ、すずかの方は、翔太が先を書くまで先が読めないフラストレーションがたまると言うデメリットも存在する。
翔太が書く"とある魔術の禁書目録"の小説は、"異世界で実際に起こった事を書きだしている"という設定である。本当のところは違うのだが、すずか達にはそう説明している。実際にそういう異世界は存在するのであながち嘘ではない。
ともあれ、すずかにとって禁書の物語は異世界のこととはいえ、"現実に起こっている事"と認識してる。それは現実であるが故にハッピーエンドが約束されているわけではない。何が起こるかわからない。そこに"これは作られた物語だから主人公達は大丈夫"という安心感が持てないのだ。
翔太が書いていたのは、インデックスが戸締りも忘れて『戦場』へと駆けた場面までだ。先が気になって寝不足になるのも致し方ないと言える。
(それだけと言うわけでもなさそうだけど)
それでも、ただの寝不足と見るには表情が暗いと思う翔太だが、その視線に黙って微笑を返すすずかを見て気付かない振りをすることにした。
「なるべく急いで続きを書くよ」
「うん」
「さて、今日のところはこれで終わりにするか。アリサ達は――」
「今ゆっくり降りてきてるみたい」
感知魔法で正確な位置を把握しているすずか。その感覚に違わず、数秒後にアリサ達は翔太とすずかの前に降り立った。
「どんな感じ?」
『ちょいと最高速度が上がっただけや。先は長いで』
「うっさい!」
こちらも前途多難のようだった。
「今日は月村家のお茶会にお邪魔することになりました」
「翔太くん、誰に向かっていってるの?」
「気にするな」
土曜日のうららかな午後。
月村家の広い敷地の中をノエルに案内されながら、肩にユーノを乗せたなのはとその手を引く恭也の後ろを翔太は歩いていく。ノエルの手には翔太が祖母から持たされた菓子折りと、恭也が持ってきた翠屋のケーキがあった。
お茶会なんていってるが、一応作戦会議という名目もある。
翔がある以上、これから先使うことはないだろうけど、浮と跳のように、組み合わせて別の魔法を作りだすことができることをこの間知ったアリサとすずか。
それなら今手持ちのカードを組み合わせるとどんなことが出来るだろうか、という話になって今日ここで相談することになった。学校で堂々と魔法のことを相談するのはまずいので、月村家で開催と相成った。
一緒に来た恭也は、すずかの姉である忍と愛の語らいでもするのだろう。
「あちらで皆さんお待ちです。お飲み物をお持ちしますが、何がよろしいですか?」
屋敷には入らず、庭のテラスへの入り口でノエルが尋ねてくる。
「俺はコーヒーを。ブラックで」
「俺はミルクティー」
「あ、じゃあ私も」
「はい、かしこまりました」
恭しく頭を下げて準備に向かうノエルを見送り、恭也は忍のもとへ、翔太となのははすずかとアリサが待つ席へと向かう。
その道行きで、家の中に庭というよりも森とも言えるスペースがあることに、思っている以上にお嬢様なんだなーと今さらながらに実感する翔太だった。
「お待たせ」
「よう」
「いらっしゃい」
「さ、なのははここに座りなさい」
アリサが軽く椅子を引いて促す。なのはは素直にそれに従って座り、ユーノは肩から降りてテーブルの一角に座ったが、よくよく見てみると椅子は三つしかなかった。
「俺の席は?」
「馬鹿には見えない椅子がそこにあるわよ?」
「……うん、俺には見えていたからな!」
「え、椅子なんて、もが」
「なのはちゃん、しー」
『また無駄な意地の張り合いを……』
あえて突っ込まずに、とりあえず空気椅子に挑戦してみる翔太。なのはが馬鹿だと自白、もとい正直に指摘しようとしたがすずかに止められる。
そう、これは翔太とアリサの意地比べ。そこ、バカらしいとか言わない。
翔太の足が限界を迎えるの先か、アリサがいたたまれなくなるのが先か。呆れているユーノの視線をよそに、唇をゆがめて不敵な笑みを向け会う。ちなみにユーノが念話なのは、それなりに近い位置に恭也や忍がいるからだ。
「今日は何も起こらない限りはゆっくりしましょ」
「そう言ってるとなんか起こるんだよな。最近」
「気にしてても始まらないし、お茶にしよう?ファリンが持って来てくれたみたい」
「お茶とケーキお持ちしました~」
「ありがとうファリンさん」
月村家のメイドであり、ノエルの妹でもあるファリンがなのはのお土産のケーキとティーセットをトレイに乗せてやってくる。結構ドジなところがある人なので、皆が転びやしないかとハラハラしたが、今日は無事にテーブルまで到達できたようだ。
ただその代わりの失敗はちゃんとあった。
「はぅあっ!?翔太さんの分を忘れてきました!」
「いじめかっ!」
椅子の件とも折り重なってついつい突っ込んでしまった。
「違うわ。いじってるだけよ」
「いじめっ子の言い訳かっ! つーか違いがわからんわ!」
「どうぞ、椅子とお茶です。許してあげてください、アリサ様は翔太様の気を引きたいのですよ」
「ち、ちがうわよっ!!?」
恭也と忍の方の配膳は終えたのか、いつのまにかノエルが翔太の分の椅子とお茶を持って背後に立っていた。
「ありがとうございますノエルさん。なるほど、アリサは小学生男子的な行動をとっているというわけですね。ここは広い心で受け入れてあげま、しょぅっ!?」
「だから違うって言ってるでしょ!」
『ちょっ、アリサひどいで!』
スコーンと翔太の額に当たったのは、他に手頃の物がなかったのか太陽の鍵だった。
赤く染まった頬を膨らませて、投げた格好のままそっぽを向いた。
「うふふ。ではごゆっくり」
「ごゆっくり~」
そんな様子が微笑ましいのか、やわらかく微笑みながらノエル、ファリンの姉妹は翔太たちのテーブルから離れていく。
「ふんだ!」
「まあまあアリサちゃん、お茶でも飲んで落ち着いて」
「もういいから冷めないうちに飲もうぜ」
「そうだね」
すずかがアリサをなだめ、翔太たちは4人同時にさきほど注がれたミルクティーを口に含む。
が――
「「「っ!?」」」
「ぶふぉっ!?」
『うわっ!翔太きたなっ!?』
アリサ達女子三人は顔をゆがめ、翔太は思わず吹き出してしまった。その一部がユーノに振りかかっていた。
「あっま!? 何これ砂糖どれだけいれたんだ!?」
「こ、これはちょっと……」
「水、水が欲しいわ!」
「すごく、甘い」
砂糖と間違えて塩を入れた前科から、ファリンがお茶の葉じゃなくて砂糖の塊でも入れ間違えたんじゃないかと思う翔太。
「ぐはっ!」
「きょ、恭也っ!?」
見れば向こうの席の恭也も机に突っ伏してプルプル震えてる。恭也は幼いころから桃子の新作お菓子の実験台になり続け、結果甘い物が苦手になっていたのだ。そんな人にとって今回の甘さは劇薬だったようだ。
「わーーっ!? ご、ごめんなさーい!」
とりあえず月村家のトラブルメイカーのファリンがぺこぺこと頭を下げてカップを回収していく。
「あ、ちょっと待ってファリン、私もキッチンに案内して」
「どうしたの? アリサちゃん」
「ちょっと気になる事があって!」
そう一言を残して、テンパった顔をして走るファリンの後をアリサが追っていった。
「どうしたんだろう?」
「さあ、一刻も早く水が飲みたかったんじゃね? あー、口の中が甘ったるくて気持ち悪い……」
「翔太くんって甘いもの苦手だったの?」
「いや、そーでもないけど、ものには限度があるって」
そんなふうに翔太達が会話で時間をつぶして数分後、アリサが戻ってきた。
一枚のクロウカードを手に。
「え?どうしたんだそれ?」
「さっきの、こいつの仕業だった」
そう言ってアリサが差し出したのは甘のカードだった。
「ノエルさんやファリンには見えなかったのかもしれないけど、こいつ厨房中の食材に魔法をかけてたわよ」
『こいつはものすっごい悪戯好きやからな……。まあ封印したから効果は切れとるとは思う。多分』
「そこは言いきってほしいかな?」
すずかがちょっぴり怯えた顔で言う。切れてなかったら月村家の食卓が大変なことになる。
「この子はどんなことができるカードなの?」
『読んで字のごとく、食べ物や飲み物を甘くできる。お菓子を作ることもできるな。甘いの限定やけど』
「ビターチョコとかは無理ってこと?」
『あのちょっと苦い奴か? 作れんこともないけど、魔法で作るくらいなら買った方が労力は少ないと思うで』
「ジュエルシードや他のクロウカード探しには……」
『まあ、使えんカードやろな。精々が嫌いな食べもんの味を変えるのに使えるくらいやな』
「……これを作ったやつは何を考えてたんだろうか」
『……きくな』
とりあえず、大した労力を使わずカードゲットということでよしとしておこう、と納得する翔太達。
よほど甘いのが苦手なのか、未だに恭也の顔色が優れないみたいだった。
『それにしてもよく気づきましたね。甘はクロウカードの中でも最低位のカード。このカードが放つ微弱な魔力をアリサ嬢は感じたのですか?』
前回浮に気付いたスピネルでさえも気付かなかったほどの魔力しかもたない甘。アリサ以外全員が気付かず、なおかつキッチンにいたということは、視認もできない場所にいたはずなのに。
「うーん、この間の空を飛んだ日から、なんとなく調子が良いのよね。確信があったわけじゃなくて、なんかいるかもって思っただけなんだけど」
「行ってみたら本当にいた、というわけか。アリサの魔力感知能力が上がってるとかそういうことか?」
「実感はないんだけどね」
アリサを中心にそんな話をしていたら、ファリンが淹れなおしたお茶を持ってきたので一旦切り上げる。
注がれたミルクティーに慎重に口を付け、今度はほどよい甘さでちゃんと飲めたので、本来の目的だった作戦会議を始めることになった。
「とりあえず手持ちのカードを一回全部確認させてもらっていい?」
「えっと、私の方は影、浮、翔、地、そして今日捕まえた甘の5枚ね」
「私は跳と波の2枚」
なのはの言葉を受けて、テーブルの上にカードを並べる二人。
「結構偏りがあるな。そもそも太陽属性のカードと月属性のカードって同じ枚数なのか?」
『ええ。月、太陽共に26枚ずつです』
属性関係があるのは封印時だけなので、あまり気にする必要はないかもしれない。
『こん中で一番強力なんはやっぱり地のカードやな。土や岩を作りだしたり操ったりできるで』
「カード単独で一つの町に地震が起こせるくらいだもんね……」
「これは他のカードと組み合わせなくても強そうだけど」
「でもさ、こんなのどうだ?」
そう言って、翔太は地のカードと波のカードを手に取る。
「岩の波、ロックウェイブ。攻撃力超高そうじゃね?」
「……それを使わなくちゃいけないような怪物とは遭遇したくないわね」
「確かに」
「うーん、それじゃこんなのはどうかな」
すずかが影と浮を手に取る。
「普通影って地面にしか映らないから、影は地上でしか使えないって思ってたんだけど、浮と組み合わせれば影そのものを浮かべることで空でも使えるように出来るんじゃないかな」
「あ、ホントね。さすがすずか、冴えてるわ! 私が思いついたのはこれ」
地と翔を重ねて見せるアリサ。
「翔の翼の属性を岩に変える。飛ぶスピードは遅くなりそうだけど、自分の身を包むようにすれば防御力が高そうだと思わない?」
「守るだけじゃなくてうまく振り回せば鈍器のようにも使えるわけか」
「あ、確かに。……今度岩の翼で翔太を殴ってみていい?」
「お断りだよっ!」
「あ、そうだ!こんなのどうかな?」
波と甘を手に取るなのは。
「えへへ、ジュースの波~」
「うんうん。可愛い可愛い」
そんな感じでケーキを口にしつつ作戦会議とはほど通りじゃれあいをしていると、ここのところある意味おなじみとなった感覚が翔太たちを貫いた。
――キィン
「……ジュエルシードだね」
「すごく近い感じがする。うちの敷地内かな?」
「もう! 折角楽しくなってきたのに!」
「休もうっていうと必ず出てくるよな」
『もういっそ毎日休もうとしてた方がはよ見つかるんちゃうか?』
さすがにそれは暴論だけど、今のところそうなっている現実に翔太たちはそろってため息を漏らす。
『落ち込んでても仕方ないよ。行こう!』
「そうだな」
飛び出したユーノを追って、ジュエルシードの反応を感じた場所に駆け出した。