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No.36153の一覧
[0] 【SOS】毎日変な夢をみる件について【誰か助けて】(チラ裏より)[矢柄](2014/08/01 21:14)
[1] 001[矢柄](2014/08/01 21:14)
[2] 002[矢柄](2014/08/01 21:15)
[3] 003[矢柄](2014/08/01 21:16)
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[5] 005[矢柄](2014/08/01 21:17)
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[7] 007[矢柄](2014/08/01 21:19)
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[9] 009[矢柄](2014/08/01 21:20)
[10] 010[矢柄](2014/08/01 21:21)
[11] 011[矢柄](2014/08/01 21:22)
[12] 012[矢柄](2014/08/01 21:22)
[13] 013[矢柄](2014/08/01 21:23)
[14] 白銀武の憂鬱01[矢柄](2013/02/18 20:26)
[15] no data[矢柄](2014/08/01 21:40)
[16] no data[矢柄](2014/08/01 21:42)
[17] no data[矢柄](2014/08/01 21:42)
[18] no data[矢柄](2014/08/01 22:07)
[19] no data[矢柄](2014/08/01 22:24)
[20] no data[矢柄](2014/08/01 22:44)
[21] no data[矢柄](2014/08/01 23:49)
[22] no data[矢柄](2014/08/02 00:11)
[23] no data[矢柄](2014/08/02 00:33)
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[36153] 012
Name: 矢柄◆c8fd9cb6 ID:022f668f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/08/01 21:22
「違う、たかが純夏の胸ごときにっ、純夏のくせに!! 俺はっ、俺はっ!」

「たかがブラジャーごときに何をむきになってるのよ?」

「うが~~」

「白銀、いや、鑑、言葉遣いがまた変になってるわよ。…まあでも、あなたも大変ね」

「そうなんですよ。分かってくれるのはまりもちゃんだけなんです!」

「だからその呼び方はやめなさい」


施術後、白銀…、現在は『鑑』だが、彼の…彼女の部屋は地下19階の一室をあてがわれ、彼女は歩く機密として活動する事となった。

神宮司まりも軍曹にはかなりのレベルの機密が開示され、今は鈴や霞とともに白銀の再教育を行っている。まあ、どういう再教育かはあえて言うまい。ご愁傷さまとでも言っておこう。

白銀が00ユニットになったことで、彼の消されていたはずの多くの記憶が蘇り、彼の経験に反映されたようで、彼は一夜にしてA-01連隊のどの衛士よりも上手く戦術機を運用し、さらに指揮官としての才能まで見せた。

どうやら、彼の記憶の中での最高のキャリアで大隊を率いていた事もあったようだ。よって、まだ公式ではないが、鑑には大尉の地位が与えられることになるらしい。

とはいえ、白銀が乗るべき機体はXG-70シリーズであり、代役を生み出すまでは彼女を消耗の激しい戦術機に乗せるわけにはいかない。

よて、白銀の戦術機機動についてはA-01連隊の練度を上げるための要素になりこそすれ、現実にそれをBETAに直接ぶつける機会はほとんど訪れないはずだ。

特殊任務による白銀の死亡が伝えられた207分隊の動揺は激しかったが、神宮司軍曹の叱責によりそれなりに持ち直したらしい。

まあ、彼女らの戦術機操縦の腕は評価できるが、個々の衛士の能力で戦争の趨勢が変わるわけではない。

A-01連隊はいまだ2つの大隊と一個中隊を残存しており、戦力が整った無人兵器群とXG-70シリーズが加われば、桜花作戦までは保つと考えている。

00ユニットの完成は第四計画の事実上の本格的な発動を意味し、米国もまたこの流れには逆らえなかったのかXG-70シリーズの明け渡しに前向きになっている。

近く、XG-70は横浜基地に移され、装備の換装を行うだろう。そうなれば、佐渡島ハイヴ戦で口火を切り、一気にオリジナルハイヴ攻略へと持っていくことが可能だ。


「白銀がここまで使えるとは思わなかったわ」

「これで第四計画も安泰か。ですが、予備がないのが不安要素ですね」

「分かっているわ。今回の成功で人格移植についてのかなりの知見が得られたわ。特に被験者側からの情報が得られたのは大きいもの。早急に施術法の改良を行うべきね」

「新施術法の考案も並行してシミュレートします。最初は動物実験でしょうがね」

「お願い。00ユニットの運用評価試験も近く行うから忙しくなるわ」

「佐渡島ハイヴですか。できるなら施設の確保を行いたいところですが」

「そうね。その前にちょっとしたゴタゴタがあるみたいだけど」

「クーデターですか。面倒な事です」


帝国の国民の生活はそこまで困窮しているわけではない。

巨大人工浮島秋津洲の経済活動が軌道に乗った事で、国民生産は大幅に回復・改善し、食糧自給率については100%前後にまで上昇している。

人口こそ大幅に減ったものの、逆にそれは養う国民の数が減ったことを意味し、喰うに困る着るものに困るという事態は回避できている。

まあ、政治家というモノの多くは往々に無能に見えると言うのは理解できる。それは元の世界でも、こちらの世界でも、戦前戦後でも変わりない。

総論において一致したとしても各論で一致せず、保身と派閥抗争に明け暮れ、この危機的状況においてなお既得権益を守る事ばかり考える。

まあ、今に始まった事でもないだろう。少なくとも最悪の恐怖政治に至らないだけまだマシ程度といったところだ。

だからといって、近視眼的な思考にしがみ付いて、暴力でもって現状変更を迫ると言うのも考え物である。

そうして、12月5日、帝都守備隊を中核としたクーデター軍が決起し、政府・首都主要機関を制圧した。





「…ラダビノッド司令、それはどういうことですかな?」

「これは日本帝国の国内問題です。我々国連が帝国政府の要請も無しに干渉することでは…」

「最早一刻の猶予もすでに許されないはずです。この機を逃しては、後悔することになりますぞ」


中央作戦司令室においてラダビノッド基地司令と珠瀬国連事務次官が口論を繰り広げている。

先に発生したクーデターの鎮圧のために、国連軍横浜基地にアメリカ海軍第七艦隊を受け入れることを要請する国連事務次官と、帝国政府の要請なしに受け入れる事が出来ないとする基地司令が対峙する図だ。

クーデター自体はCIAが周到に準備を進めた計画であったが、G弾の致命的欠陥の発覚によって彼らの勢力は急激に減衰した。

同時に国連上層部の第五計画派はその力を増し、系外惑星への移民船の拡大が行われるようになっている。だが、それも第四計画の事実上の進展により一気に追いつめられたというのが現状だったはずだ。

が、一度種をまいてしまったそれは見事に芽吹いてしまい、ではこの機にと第五計画派と米国が再び手を組み、第四計画の接収を行おうというのが彼らの意図らしい。

だが、残念ながら彼らの思い通りには事は進まないだろう。

そもそも、国連軍横浜基地はすでにクーデター軍を単独で制圧できるだけの戦力を整えている。無人兵器群は既に秋津洲において量産され、一部は横浜基地に配備されていた。

しかし、警報に踊らされてこんな所に迷い込んできたバカ(元・白銀)が一人。


「で、中央作戦司令室に何の用だ」

「え、いや、突然警報が鳴って…。もしかしたら第五計画がって」

「違う。帝都でクーデターが発生しただけだ」

「あ、ああ、そうでしたね。確か、『物語』でもそんなことが…って!? 委員長の親父さん、総理大臣なんですよねっ? まさか?」

「場所を考えて発言しろ。ここには機密を知らない人間も、それを嗅ぎ回る犬もいる」

「犬とは随分な言い回しですな、高島博士」


唐突に現れる鎧衣課長。

夕呼さんとは利害が一致しており、それなりの関係を維持しているようだが、彼に白銀の、00ユニットが誰であるかを知られたくはない。表向き、00ユニットはアステルということで誤魔化しているのだから。

元・白銀、現・鑑純夏の髪は大きな黄色いリボンで纏められており、リボンに織り込まれたバッフワイト素子によるリーディングの阻害により、以心伝心の意思疎通は出来ない。

が、鎧衣課長からリーディングで情報を引き出したのだろう。榊首相以下の閣僚たちが無事であることを読みとったのか、すぐに落ち着いた物腰になる。

無人兵器、特にステルス能力と光学迷彩を取り入れた特殊作戦機が秘密裏に帝国に貸与されており、要人警護に用いられている。

首相以下の閣僚たち全員は現在その無人兵器の緊急避難スペースに入り込んで、帝都からこの基地に南下している。

いくつかの欺瞞やUCAV(無人戦闘攻撃機)を用いた妨害によって追撃を振り払っており、レーザー通信をUAVに中継させることで、彼らの無事は確認している。

まもなく彼らは湾内に待機している潜水艦に拾われるはずだ。


「要人護衛用無人戦闘機械…、存外頼りになりましたな。いや、あんなものが出来るとは、私もお払い箱にされそうですよ」

「あんなものは所詮ツールですよ。それより、用があるのは俺じゃないでしょう鎧衣課長」


数センチ程度の大きさで、光学迷彩を取り入れた昆虫にも似た特殊な情報収集端末は実際に完成している。

だが、情報は収拾するだけでは意味がない。大量の情報を取捨選択し、活かす事の出来る専門家チームがいてこそ、諜報という部門は意味を為す。

まあ、そんなことより、彼の目的は夕呼さんにあるはずだ。彼が手を加えた脚本はすでに動き出している。


「おや、つれないですな。そこの美しいお嬢さんをご紹介してはいただけないのですかな?」

「ただの女性仕官に興味を持つとは、情報省のキレ者も色ボケしましたか」

「キレ者とは過大評価ですよ。それより、ただの1仕官が首相の危機という重要情報を知っているとは思えませんが?」

「新しい俺の副官です。多少の機密には精通していますよ」

「ところで白銀武が死んだそうですな」

「それが?」

「いやはや、白銀武の死と00ユニットの完成。一見して何も関係なさそうですが……」


こういう人材は自分の味方である内は心強いが、敵に回すと厄介極まりない。

まあ、白銀武という彼ですらその正体を見破れなかった謎の存在がタイミング良くいなくなったことを考えれば、それを00ユニット完成と結び付けるのは自然かもしれない。


「あんたたち、何やってるの?」

「おや、香月博士ではないですか。奇遇ですな」

「では鎧衣課長、自分は失礼します。鑑、行くぞ」


夕呼さんが来たのを良い事に俺は白銀を連れて中央作戦司令室から離脱する。鎧衣課長の相手は俺には荷が重すぎるのだ。指令室から研究室に戻る途中、白銀は先の話の続きをしてくる。


「あの、自分も出撃するんですか?」

「いや、それは許されない。鑑純夏、君は地下で守られる側だ。だから、まあ運用評価試験がお前の初陣になるわけだ」

「純夏って呼ばれるの、いまだに慣れないんですよね…」

「そういえば、一人称は『自分』にしたのか。さすがに『私』は恥ずかしかったか?」

「いや、まあ…、じゃなくてっ、殿下はどうなるんですか?」

「A-01から二人ほど出向させる。一つは不知火・弐型の複座型で、御剣冥夜と同サイズの99式衛士強化装備を運ばせる予定だ。まあ、実際に将軍が現れるかどうかは未知数だが」


複座の弐型はCP将校をハイヴ内で活動させるために作られた、電子装備を充実させた機体だ。今回はそれを流用する形となる。


「そうですか…」

「しかし、鑑はいざとなれば撃てるのか?」

「え?」

「いや、俺から物語を読み取ったのなら、その結末も知っているだろう。君は撃てるのか、もしその状況になった時、御剣冥夜を?」

「それは…」

「不安要素は他にもある。分かっているだろうが、鑑純夏はBETAに凄惨な凌辱を受けた。君がハイヴなどをリーディングした際にそのイメージを読みとった場合、怒りによってお前の量子電導脳を保護するODLが急速に劣化する可能性は拭いきれない」

「………」

「今は良い。だが、君らの行く末は過酷だ。今すぐにとは言わないがな。だから、強くなれ白銀武。鑑純夏はお前にしか救えない」


そして物語は展開していく。

伊隅みちると速瀬水月の2名を07訓練分隊および第19独立警護小隊に同行する形で派遣。彼女らは南西、芦ノ湖南東岸へ搭ヶ島城の警備が任された。

伊隅大尉が搭乗するのは複座型の不知火・弐型の特殊機体。加えて水陸両用無人戦闘機械群が相模湾から上陸できるように手筈が整っている。

無駄骨に終わる可能性もあるが、夕呼さんは目があると読んでいるようだ。





「…博士の予測通りか。そこの二人、止まれ」


伊隅みちるは速瀬水月と共に将来A-01に編入されるだろう訓練兵たち、そして恩師たる神宮司まりも軍曹、近衛から出向している第19独立警護小隊の総勢12名の中隊編成により、搭ヶ島城の警備任務を命ぜられた。

ただし、警備はあくまでも表向きの理由であり、真の目的は政威大将軍の保護であるという。日本人としては、そのような栄誉に与ることは大変な名誉であるが、同時に畏れ多い事でもある。

そうして、搭ヶ島城での警護中、伊隅みちるは暗視モニターにより二人の身元不明者を発見、これに接近してその一人の正体を照合した。

煌武院悠陽、間違いなく政威大将軍殿下その人である。侍従の女性と一悶着ありつつも、鎧衣課長のとりなしにより場は落ち着く。


「この場所に君たちがいるとは…、香月博士の指示かね?」

「は」

「そうか。君がいるという事は、搭乗機は不知火・弐型…」

「複座仕様です。何故か御剣訓練兵と同サイズの99式衛士強化装備を持ち合わせていますが」

「そうかそうか。なるほど、いやはや、さすがは香月博士というべきか…」

「私には詳細は分かりかねますが」

「となるとHQは?」

「小田原西インターチェンジ跡です。近く突破されるかと」

「なるほど、CPは?」

「旧関所跡です」

「ふむ、畏れながら殿下、この者と御一緒下さい。多少窮屈ではございましょうが、緊急事態故ご容赦の程を…」

「わかりました。そなた、名をなんと申す?」

「国連軍横浜基地司令部直轄A-01連隊所属、伊隅みちる大尉と申します。ご尊顔を拝謁する栄誉に浴しましたる事、 身に余る光栄に存じます」


そうして、殿下に強化装備を装着してもらう。そのサイズはほとんどぴったりであり、殿下自身も驚いていた。

しかし、強化装備があるとはいえ、フィードバックデータが無い以上、ある程度の負担は避けられない。みちるは悠陽に酔い止めであるスコポラミンを服用していただく。

状況としては殿下が離城へと退避する際に、幾組かの囮を同時に関東圏の各鎮守府および城郭へと送り、30分前その情報をリーク、帝都での戦闘行動を抑止させた。

これに伴い決起部隊が各地へと部隊を移動。これに伴いこの地にも部隊が迫ってきている。

10分前には帝国厚木基地、小田原西インターチェンジ跡のHQが沈黙。明神ヶ岳山中において追っ手部隊と帝国軍が戦闘に入っている。

そこで神宮司軍曹は熱海新道跡から伊豆スカイライン跡に入り南下、敵が唯一我々を捕捉できる冷川料金所跡を抜ければ作戦はほぼ成功、そのまま白浜にて横浜基地所属の第11艦隊と合流する事が目的となる。

殿下は戦術機操縦の経験があるため、それなりの速度で巡航する事が出来る。ただし、武御雷はともかく不知火や吹雪では弐型の速度についていけない。

それでも撃震程度ならば引き離す事は十分に可能だろう。部隊は殿下の乗るこの機体を守るように南下、途中、米国の第66戦術機甲大隊と合流し、さらに南下する。

その間、横浜基地所属の無人機部隊が伊豆半島東岸より上陸。冷川料金所跡を確保したらしい。現在、上空をUCAVが制空権を確保しており、追っ手である決起部隊に米軍とともに攻撃を行っている。

途中、富士教導隊が冷川料金所跡に接近するが、無人戦闘機械群と米軍174戦術機甲大隊により押さえこまれ、進撃を停止。そのまま膠着状態とした。我々はそのまま冷川料金所跡を突破し、白浜へと向かう。

さらに途中、帝国軍671航空輸送隊の接近があったが、横浜基地より発進した増援のUCAVと衝突した。輸送機が36mm電磁投射砲を搭載するUCAVを前にして相手になるはずもなく、空挺作戦を目論んでいたらしい彼らの包囲網は不完全なものに終わる。

結果として決起部隊の増援はアメリカ軍第66戦術機甲大隊と正面衝突し、その間に我々の部隊は無事に第11艦隊との合流に成功した。

速瀬中尉などは暴れられなかったことに不満を漏らしていたが、まあ結果的には部隊から欠員もなく、無事に殿下を基地に送り届ける事が出来たので良しとするべきだ。





「虎の子のステルスUCAVを出さなくてすんだか」

「そんなモノまであるなんてばれたら、米国が発狂するものね」

「ステルス機自体は向こうも既に持っているでしょう。まあ、BETA相手には何の役にも立たない兵器ですが」


とはいえ、この先、人類がBETA大戦を挽回すれば、再び人間同士の争いが発生する可能性が高い。

UCAVは本来、対BETA戦の最終局面に用いられる予定であるが、その一部にステルス・光学迷彩を実装したものを開発している。

その姿は現実世界のX-47Bを若干鋭角にした形態をしており、今回は非ステルス型のもの32機がクーデター軍を相手に実戦証明を行った。

そうして将軍は無事に国連軍横浜基地に到着。先に脱出していた閣僚とともに電波を通して決起軍への即時戦闘中止の命がだされた。

その後の流れは物語のそれと同じである。大権は将軍へと返され、多くの間諜が摘発されたことにより帝国内における米国の影響は一気に減ずることになる。

まあ、重要なのは基地内の親米追随派やスパイなどを更迭できた事なのだが。

そして、207分隊の少女たちは先のクーデターにおける将軍の護送という重要な役割を果たした事で任官を果たした。

これに鑑純夏となった白銀が加わり、A-01連隊は00ユニット施術により失われた衛士を数の上である程度の補強が出来たことになる。とはいえ白銀は守られる側となるので、数には含められないが。

彼女らは現在、戦術機による訓練を行っている。A-01連隊には優先的に不知火・弐型が供給されており、その性能は実質的には第3.5、あるいは第4世代機と呼んでもおかしくは無い代物だ。

衛士の消耗と関節などの疲労を除けば事実上無制限に活動できるこの機体は、99型電磁投射砲を組み合わせる事で圧倒的な戦闘能力を発揮する。その目的はハイヴの攻略ただ一つだ。

XG-70シリーズは近く搬入される予定だ。そして、スケジュールが全て噛みあえば12月24日、物語よりも若干速く、第四計画による本格的な反攻作戦、甲21号作戦が開始される。


「甲21号作戦では極力XG-70の威力を見せないっていうのは本気なの? ロックウィードあたりがうるさそうなんだけど」

「00型電磁投射砲が効果を示している間は、切り札をBETAに見せたくない。XG-70が航空兵力の二の舞になることは出来うる限り避けたいですから」

「ふうん。まあいいけど。アレの次の目標はオリジナルハイヴだしね」

「ええ。あそこは他のハイヴとはわけが違う。BETA側が何を用意しているか分からない以上、オリジナルハイヴ攻略戦の要であるXG-70をBETAに知られたくない」

「まあいいわ。それより、あんたもあたしの代わりに接待受けなさいよ。帝国のお偉方、あんたのステルス技術と光学迷彩に興味津々よ?」

「帝国の戦術機とF-22Aとのキルレシオが7対1であれば当然でしょうね。しかし接待ですか。残念だが、俺は酒が飲めないので」

「嘘つきなさい、この間あたしとつきあったでしょ?」

「舐める程度にはな。ですが、酩酊するのは好ましくないんです」

「なんで?」

「元の世界の俺に悪影響が及ぶ可能性がありますから」







12月5日のクーデターが終息し、横浜基地国連軍、帝国軍が次の大反攻作戦に向けて本格的に動き出した。目標は佐渡島ハイヴ。

今回の甲21号作戦には世界初とも言うべき、大量の無人兵器と純粋水爆を大量投入するハイヴ攻略戦となる。

まあ、俺としては馴染みのある作戦でもあり、前のループではこの作戦により事実上、フェイズ5のハイヴの完全制圧を達成している。

その前に、旧『白銀』、現『鑑純夏』をA-01連隊におけるXG-70の直援、伊隅ヴァルキリーズ中隊を中心とした2個中隊に紹介する必要がある。

伊隅大尉が真実を知っているが故の配置だが、奇しくもそれは物語と同じ流れになっている。白銀の同期や、涼宮茜の分隊が配属されている事も同じ。

相違点はA-01連隊の戦死者が格段に少ないという事か。いまだ連隊規模を維持できていることは奇跡と呼ぶべきであろう。

A-01連隊は無人戦闘機械の実戦運用を既に行っており、その規模は既に師団と表現すべきものになっている。そこにXG-70が加われば、A-01単独でのハイヴ破壊すら夢物語ではない。

XG-70シリーズは初歩的な重力制御技術であるムアコック・レヒテ機関を搭載した航空機動要塞だ。全長130mの大重量物体が空を飛ぶと言うのは非現実的ですらある。

その最大の能力は、周囲10mに重力場であるラザフォードフィールドを発生させ、これによっては電磁波である光線属種のレーザー照射を完全に遮蔽することが可能である点だ。

さらに、重力制御によってもたらされる莫大な余剰電力は単独での荷電粒子砲の運用をも可能とする。その破壊力は一撃でハイヴ地表構造物を粉砕するほどである。

しかし、コンピューターの処理能力不足から従来はその運用に問題をきたしており、事実、有人試験の最中、荷電粒子砲を発射した際に生まれた多重重力場の影響で、12人のテストパイロットがコクピットの中でシチューになったという凄惨な事故を起こしている。

だが、00ユニットによる高度な情報処理能力が完全な重力制御を可能とする事により、その諸問題は解決された。

そして、サブジェネレーターとしての核融合炉と120mm電磁投射砲、36mm電磁投射砲の実装により、荷電粒子砲発射時に生まれる前面ラザフォードフィールドの消失という隙や、近接防御の充実を図ることができた。


「以上が凄乃皇弐型の性能だ。このXG-70シリーズの実戦配備を可能とした特殊なコンピューターは第四計画の精華であり、直援である君らはこれを死守することが最大の目的と考えてもらって構わない。では、これより君らの新しい仲間を紹介しよう。鑑純夏大尉だ。挨拶を」

「は。鑑純夏であります。新参者ですがよろしくお願いいたします」


一部、白銀の同期だった5人の少女が驚いた様な表情をしている。白銀から幼馴染の鑑純夏の名前を聞いた事があるのだろうか?

物語の細かいところは覚えてはいないが、彼女らも衛士となったのだから、問題となる行動は起こさないだろう。


「彼女はXG-70シリーズおよび第四計画が生み出した最新鋭のコンピューターを扱うべく養成された衛士だ。彼女はこの分野においては特に高い適性を持つため、XG-70シリーズの専任衛士となった。また、戦術機の操縦技術もずば抜けて高い。ただ、特殊任務につく事もあるため、たびたび香月博士や俺に呼び出されることがある。そのあたりを考慮して上手く付き合ってやってほしい。以上だ。伊隅大尉、鑑大尉を皆に紹介してやれ」

「は」


伊隅大尉が二個中隊の面々に鑑純夏となった白銀を紹介していく。神宮司軍曹たちの再教育の効果のおかげか、白銀は多少ボーイッシュな雰囲気を持つ少女に化けて、挨拶してく。

大尉というそれなりの地位が与えられているものの、夕呼さんの影響か、普通の部隊よりはくだけたかんじで挨拶が進んでいった。

速瀬水月などは、俺が戦術機の操縦技術も高い事を伝えたため、礼儀はわきまえど、どことなく好戦的な態度を取っている。そうして最後には白銀の同期への挨拶となった。

大尉という地位に緊張しているようだが、どこか釈然としない、そんな雰囲気が見て取れる。そうして顔見せが終わった後、合同のシミュレーター訓練が開始された。

その結果は、ほぼ確実にハイヴを制圧するという目覚ましいもの。今すぐにでもハイヴ攻略が可能ではないかと思わせるほどの結果だった。

評価としては、確かにXG-70の圧倒的な火力と防御力は確かにすばらしいものだったが、むしろ鑑純夏(元・白銀)の卓越した状況判断能力と戦術立案能力が印象に残る。


「どうだった、久しぶりの仲間たちとの時間は?」

「なんだか、騙してるみたいで気がひけます」

「そうか。だが、真実を告げるわけにはいかないからな。相談なら伊隅大尉か神宮司軍曹にしておけ」

「はい」

「訓練の内容は素晴らしいものだった。今度は戦術機で連中を揉んでやるのもいいだろう」

「バレませんかね?」

「特殊任務で盗んだとでも言っておけ。まあ、納得はしないだろうが、それ以上は突っ込むこともできんだろう。それに、白銀武が鑑純夏になったなどという荒唐無稽を信じる者はどこにもいないさ」


そうして、12月24日はゆっくりと近づいていた。







2001年12月24日、『甲21号作戦』は発動した。目標はH21佐渡島ハイヴ。

日本のやわらかい横腹に突き刺さった鋭いナイフともいうべきこのハイヴの排除は日本帝国の悲願でもあり、このため帝国からも多くの戦力が抽出されている。

俺は夕呼さんと一緒に作戦旗艦『最上』に乗っている。

こういう、HQに足を踏み入れるのは二度目。小沢艦長とも二度目の出会いであるが、彼にとっては初見だ。あいも変わらず赤色の燃えるような瞳をしている。

彼ら船乗りたちにとって、佐渡島は屈辱の地であるから、その感情は分からないでもない。だが、彼らの役目は後方支援という、戦艦乗りにはあまり面白くない役目である。

作戦の第一段階は00型超水平線電磁投射砲による核による面制圧だ。

新潟県に3基、海上メガフロートに2基という5門の1200mm水平線電磁投射砲から投擲される弾頭には500kt級の純粋水爆が4つ格納されている。

重光線級の迎撃が適わない速度で投射される核弾頭は、何の妨害も受けずにその威力を解放するだろう。とはいえ、迎撃を最小とするために戦艦による艦砲射撃がまず開始される。

そうして、


「00型超水平線電磁投射砲、斉射開始します」


矢は放たれた。

圧倒的な速度で地を這うように侵入する弾頭に、重光線級のレーザーが集まるが、その出力が十分でないまま砲弾は分離、四つの核弾頭はロケットにより再加速して敵陣の奥深くに侵入する。

そして、核弾頭はそのエネルギーを解放する。眩いばかりの閃光、そして巨大な火球が形成され、地表面にいるBETAたちを問答無用で蒸発させていく。


「これは…、なんという威力……。これが第四計画が誇る最新鋭兵器、00型超水平線電磁投射砲ですか。まさに神の鉄鎚と呼ぶべき一撃ですな」

「あくまでも人間が持つ技術の延長線上にある兵器です。それに、これとてBETAに対応されないとは言い切れません」


5門の砲が吐き出した、20の核弾頭は無事に作動し、巨大なキノコ雲をいくつも形成する。前日までの慎重な整備が実を結んだ結果だが、これから発射し続ける中で不具合が発生する事もあるだろう。

この時点で佐渡島の地表に存在するほぼすべてのBETAが消滅した事になる。10分の間隔をおいて次弾が装填され、地下や海底からBETAが湧きあがってくるのを待つ。

その間、衛星による情報から、撃ち漏らしたBETA群に対して佐渡島周辺に展開した帝国連合艦隊第二戦隊が、艦砲およびロケットによる長距離攻撃を開始した。

既に小型種のほとんどは熱線と爆風によって壊滅しており、防御の堅い突撃級や要塞級、そして重光線級の一部が残るのみだ。

そして、散発的な迎撃では砲撃を迎撃すること適わず、効果的に艦砲射撃は敵を粉砕していく。


「粟島沖の第五戦略砲撃大隊より徹甲弾の使用許可が申請されています」

「副司令、どういたします?」

「やらせましょう」

「副司令、徹甲弾とは?」

「ふふ、見ていればすぐに分かりますわ」


そうして、00型超水平線電磁投射砲による第二次斉射が開始される。その内の、佐渡島北東の海上に浮くメガフロートには国連軍第五戦略砲撃大隊が配備されており、今彼らが為そうとしているのは徹甲弾の使用。

そして、再び矢は放たれる。

猛スピードで突入する砲弾は、そのまま旧金北山に建設されたハイヴ地表構造物、モニュメントへと吸い込まれていく。

そして、徹甲弾の名を違わず、その砲弾はモニュメントの基部に容赦なく突き刺さった。そして遅れる事コンマ数秒、内部の8Mt級純粋水爆がその内包するエネルギーを咆哮するように解放する。

次の瞬間、モニュメントはその基部を破壊され、無残にも崩壊していく。


「おおっ……、モニュメントが崩れていく…」


地表構造物の倒壊。それを見た者たちは皆声を失い、そして我に返ってからは驚嘆と歓喜の声を喉が壊れるほどに叫んだ。

周囲から歓声が鳴り響く。それは人間が初めて明確にBETAに対しての反撃の狼煙を上げた瞬間でもあり、作戦が第二段階へ移行する合図でもあった。

作戦第二段階、信濃、美濃、加賀の戦艦三隻を基幹とした帝国連合艦隊第二戦隊が真野湾へ突入。同時に帝国海軍第17戦術機甲戦隊と一個師団規模の国連軍水陸両用無人戦闘機械群が雪の高浜へ強襲上陸し、砲撃による支援の下、橋頭保の確保がなされる。

続いて帝国軍機甲4個師団および戦術機甲10連隊および、国連軍無人化機甲12連隊からなる『ウィスキー部隊』を順次揚陸。ハイヴからの増援を誘引する。

ハイヴから誘引されたBETA群に対し、国連軍第四戦略砲撃大隊による00型超水平線電磁投射砲が砲撃を行った。

これにより増援である師団級BETAを封殺。海底から這い上がるBETAを撃破しつつ、増援を引き出し続ける。そして、作戦は弾三段階へ移行する。

両津湾に展開するアイオワ、ニュージャージー、ミズーリ、イリノイ、ケンタッキーの5隻を基幹とする国連太平洋艦隊と、大和・武蔵の2隻を中心とする帝国連合艦隊第三戦隊が制圧砲撃を開始。

同時に帝国海軍第4戦術機甲戦隊が旧大野を確保する。続いて国連軍3個機甲連隊と戦術機甲5連隊および、国連軍無人化機甲12連隊からなる『エコー部隊』が順次揚陸を開始した。

エコー主力部隊は北上、旧羽吉からタダラ峰跡を経由して旧鷲崎を目指す。これにより、BETAの増援は南北に引き裂かれると共に、両津市から『甲21号目標』の存在する金北山まで、敵は殆ど存在しなくなる。

この段階で、撃破したBETAの数は8万を数えた。さらに、ウィスキー部隊、エコー部隊共に損耗率は1%を下回るという奇跡的状況を生み出している。

そして、第四段階、軌道上を周回中の国連宇宙総軍艦隊より投下された、第6軌道降下兵団が再突入を開始。

軌道降下により強引にハイヴ内への進入路を確保した後、ハイヴへの突入が敢行される。同時にウィスキー部隊の一部も順次ハイヴへの突入を開始した。


「順調ですな」

「…恐ろしいほどに、ですが」

「第6軌道降下兵団、ウィスキー隊と合流しました」

「そうか」

「何故、降下兵団を先行させなかったのですかな?」

「それは無人兵器を運用する新しい戦術のためですわ艦長。無人兵器を盾にして、有人兵器の生命を出来うる限り守る。突発的事態に遭遇する事の多いハイヴ内での戦闘を考慮に入れてのものです」


自律思考型多脚戦車を先行させてのハイヴ侵攻は、しばらくは順調に進む。しかし、突如、地下からまっすぐに、まるで地面を垂直に掘り進むように、軍団級のBETAが這い上がる音紋が各部隊の報告から上がってきた。

各部隊は無人兵器を盾にこれに対抗するも、各所から無視できない被害が発生しだす。これにより、ハイヴ突入部隊は撤退を強いられる。まあ、予想通りの流れだ。


「馬鹿な、どこにこれだけのBETAが!?」

「落ち着いてください艦長。この事態は想定内です。ハイヴの地下に相当数のBETAが温存されている可能性は予測されていたことですわ」

「ハイヴへの突入と撤退を繰り返して、内部のBETAを全て誘引するのがプランBです」


そして突入部隊がハイヴから命からがら逃げ出し、BETA増援から距離を離す。そして残っていた無人戦闘機械部隊が合図を受け取ると、温存されていた無人兵器が1Mt級の純粋水爆のエネルギーを解放した。

これにより地下からはい出してきた4万以上のBETAを文字通り消滅させる。以降、同様の作戦が繰り返され、翌日25日までに総数20万近いBETAが葬り去られた。

しかし、同時に地下侵攻などの戦術によって核による制圧が使えない状況が生まれるなどし、各部隊にそれなりの損害が発生する。

しかし、その被害は当初想定された損耗率を大きく下回っていた。そうしてBETAの誘因がこれ以上出来ない状況に至り、作戦は第五段階へ移行する。


「BETAの積極的攻勢がなくなりましたな」

「もはや、守備隊といえるものしか残っていないのでしょう。ここからは掃討戦に入るのみです。副司令、A-02は今はどこに?」

「もうすぐ新潟県沖にでるわ」

「っ!? 今まで持ち場を離れなかったBETA群が突如上昇を始めました!!」

「…やはり、誘引されたか」

「そういうことね」


A-02の名を冠する凄乃皇弐型がハイヴへ接近したとたん、BETAの活動が活性化する。

構築された戦線を突破して、最後の軍団規模のBETAが地上にはい出してきた。兵站線への直撃により、一時的に戦線は瓦解寸前となり、BETAは凄乃皇弐型が近づく南岸へと押し寄せる。

しかし、それとて00型超水平線電磁投射砲の牙から逃れられるわけではない。

まるで笛にでも引き寄せられたかのように、一直線にBETAの群れが凄乃皇弐型へと直進するが、撃ち込まれた極超音速の砲弾が彼らの直上にて太陽の複製を生み出した。

そして最後のキノコ雲が上った後、もはやBETAの組織的な抵抗は以降見られる事はなかった。A-01連隊と凄乃皇弐型は堂々とハイヴの中へ侵入し、情報収集活動を開始する。

BETA残存勢力による散発的な抵抗を何度か受けたが、それにしたとして、新兵の実戦経験を養う程度で済んだのだから結果は良好だろう。

そうして12月25日1430、佐渡島ハイヴの制圧が宣言された。





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