※このssはゼロの使い魔だけでなくハーメルンのバイオリン弾きの知識があることを前提に書いています。
「あんた誰?」
それがピンク色の髪をした少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、後に数々の冒険を共に乗り越えることとなる運命の使い魔へ発した最初の言葉だった。
【短編】ゼロの使い魔~使い魔は人類の守護神~(xハーメルンのバイオリン弾き)
「はっはあ~! さすが『ゼロ』のルイズだぜ。使い魔召喚の儀式で人間を呼び寄せやがった!」
「おいおい、普通ありえないだろ。というか本当に召喚したのか? そこら辺にいた平民を金で雇って爆発を目隠しにして、あたかも召喚しましたって見せてんじゃねえの?」
「なっ、そんなことするわけないでしょ! ちゃんと私は魔法を使っって召喚したわよ!」
周りの聞き捨てならない言葉に少女、ルイズは堪らず怒鳴り返した。ルイズの周りには彼女と同じようにマントを羽織った年頃の少年少女達が大勢いた。
ルイズが周りの少年少女らを対処し始めたため放っておかれる形となった召喚された使い魔候補の人間はというと、
「……え~と?」
少年、もうそろそろ青年と呼んでもいい年頃の男の子だ。彼は現在の自分の状況に認識が追い付いてない様で少々困惑した様子で首を左右に振り辺りを見回した。
(ここはどこだろう?)
いまいち現状がわからない少年は一番新しい記憶を思い返してみる。
(確かボクは、ベースに操られた体をフルートやクラーリィ達のおかげで取り戻すことで来た。そしてこの手でベースをメギドの火で滅ぼした後、母さんの魂とともにフルートに後を託して……それにしてもフルートは美しく成長していたなぁ……ふふふ)
などと自分の現状確認より妹のことを思い出してニヤニヤしだした少年に対し、周りの対処に一段落付けたルイズは先程質問したのに自分のことを無視し全く反応しない少年に詰問した。
「ちょっと、誰だって聞いてるのに無視するってどういうつもりよ!」
問い詰められた少年はようやくルイズのことに気づき右手で頭をポリポリと掻きながら謝る。
「あ、ごめんなさい。ちょっといまいちどういう状況なのか分からなくって……って右手がある!?」
少年は自分の右手を凝視しながら驚きの声を上げる。
(いや、右手だけじゃない。体全体が正常な状態に戻っている!)
少年は自分の体全体をくまなく見わたす。少年が驚くのも無理はない。何故なら、
(ボクの体はボロボロに崩れて滅びたはずなのに……!)
そう、彼の肉体はベースに操られ魔族に関わりすぎたためにまるで古く朽ち果て風化した石像のごとく崩壊したはずだった。
(一体どういうことなんだ。いや、それを言ったら現在の状況もよくわからないんだけど……)
少年は再び思考の海へ潜ろうとしていたがそれは失敗に終わる。
「ちょっと聞いているの! 何よ右手があるって? 当たり前のことじゃない! まったく平民のくせして貴族の私を無視するなんてどういうことよ……って、よく見たらあんたのその服法衣みたいね。
もしかしてブリミル教の神官様だったりするの?」
反応したと思ったらまたしばらく無言で考え込み始めた少年に話しかけたルイズであったが少年が来ている服が一般的な平民が着るような服ではなく、ハルケギニアの主教であるブリミル教の神官達が着る法衣に似ていることに気づく。
「えっと、確かに故郷じゃ大神官の地位についていたけど今君が言ったブリミル教?の神官じゃないよ」
とりあえず自分の肉体のことは後回しにし、ルイズの質問に答えることを優先する少年。
「え、ブリミル教徒じゃないのに神官だったってことは……あんたもしかして異教徒?」
ルイズは少年の答えに驚きつつさらに質問したところで先程からルイズ達を傍観していたギャラリー達、ルイズの通うトリステイン魔法学院の生徒の一人が動き出した。
「何、異教徒だと!?」
「ひい~! 突然アンデルセン君が異教徒という言葉に反応して小さいお子様たちに見せていけない顔にぃぃぃぃぃ!!!」
「げえぇ! アンデルセン君は普段は温厚で優しくニコニコ笑顔がよく似合うまさしく紳士と呼ぶに相応しい好青年なんだけど、異教徒とエルフは見つけ次第撲殺するという狂信者なんだぞ!」
「止めろ! いくら『ゼロ』のルイズといえど初日に自分の使い魔が撲殺されるなんて可哀そうすぎる!」
「そうだな。今日も失敗魔法でパンツ見せてくれたことだし」
「ああ、普段もあいつの爆発のおかげで吹き飛ばされた女子達のパンツが見れたりして俺達の性活に潤いを与えてくれてるからそれくらいしてやるか」
「ちょっと何よそれ、聞き捨てならないわねー!」
「男子ってばサイテー!」
「ちょ、今のは冗談だってば!」
「うるせー、ごちゃごちゃ言ってないで早く手伝いやがれ! アンデルセン君は水のスクウェアで戦闘時はオートリジェネ使ってるからダメージ与えてもすぐ回復するんだよ!」
「こちら第三班、目標まったく止まりません! 至急応援を請う、繰り返す至急応援を請う!」
「ぶるるぅうああああああああああああああああ!!!!」
わーわー、ぎゃーぎゃー、ドカバキッ、メキャグシャッ!
先程まで初めて自分の使い魔を召喚して嬉しそうに仲良く話し合っていた生徒達の雰囲気は今や一変して阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
「えーと、ど、どうしよう。とりあえず明日からパンツが見えないように工夫するとして、そうだ! ミスタ・コルベール!」
まさかこのような騒ぎになるとは思ってもいなかったルイズはこの召喚の儀式の引率者である魔法学院の教師、『炎蛇』の二つ名を持つジャン・コルベールのことを思い出した。
実はルイズと使い魔候補の少年の近くにずっといた40代前半にしては頭の毛が寂し過ぎる男、コルベールはルイズの呼びかけにすぐ答えた。
「何でしょう? ミス・ヴァリエール」
「何でしょう? じゃありません。この状況を何とかしてください!」
「わかりました。ではミス・ヴァリエール、そこの彼とさっそく使い魔契約を交わしてください」
「はあ!?」
コルベールのまさかの提案に驚きの声を上げるルイズ。
「なんで今契約を交わさなくちゃいけないのですかミスタ・コルベール!? この状況で頭おかしくなったんですか! むしろ再召喚をしたいんですけど!
頭だけでなく中身の脳みそまでツルツルになったんですか!?」
「フフフ、別におかしくなってはいませんよ。今から理由をきちんとお教えします。それと使い魔召喚は昔から続く神聖な儀式、再召喚は絶対認められません。そして最後に……」
そういってコルベールはかけている眼鏡を右手でクイッと押し上げギロリと音がしそうなほど鋭い眼つきでルイズを睨む。心なしか体全体がプルプル震えているように見える。
「私の、頭は、ツルツルでは、ありません、まだ、ちゃんと、髪の毛は、あります!!!!」
「す、す、すみませんでした~!」
一言一言力を込めて注意するコルベールの言葉を聞いて頭を膝小僧につきそうなくらいまで下げて謝るルイズ。
彼が本気で怒っていることをルイズは言葉ではなく心で理解した。
(今の迫力は本気で怒ったエレオノール姉様に匹敵するほどだったわ。エレオノール姉様に結婚の事を聞くのと同じくらいミスタ・コルベールに頭の事を触れるのはやめといたほうがいいみたいね)
『禁句ネタ 姉に結婚 蛇にハゲ』 るいず、心の俳句(季語無し)
そのようなことをルイズが考えているのをよそにコルベールがなぜ今すぐ使い魔契約をしなくてはいけない理由を話す。
「いいですか、貴方の生家ヴァリエール公爵家の始祖はトリステイン王家の庶子で彼の偉大なる始祖ブリミルの血を引いています。
ということは貴方の体にも始祖ブリミルの血が流れているということですよね?」
「はい、そうですね」
コルベールの言葉に少々誇らしげにうなずくルイズ。
「次に契約した使い魔というのはその主であるメイジと一心同体と言われています。使い魔の不始末は主の不始末。また逆に使い魔の功績は主の功績という風に」
「はい。私も確かにそのように習いました」
これまたコルベールの言葉にうなずくルイズ。
「つまり貴方の契約した使い魔を傷つけるということは貴方を傷つけるということ、そして貴方を傷つけるということは貴方の体に流れる始祖ブリミルの血を傷つけるということ、それは最終的に始祖ブリミルを傷つけるということになるのです。
敬虔なブリミル教徒であるミスタ・アンデルセンならこの説明を受ければそちらの召喚された少年を撲殺しようとするのをやめるでしょう。
ですから私は貴方にこの騒ぎの解決策として使い魔契約をしてくださいと先程言ったのです」
「そ、それはちょっと強引すぎませんか? 幾らなんでも普通はそんな説明で納得するなんてありえませんよ」
コルベールのあんまりな理屈にさすがにツッコみを入れるルイズ。
「そうですね。確かに普通の人はこんな説明で納得しません。ですが納得してしまうから彼は狂信者なんですよ。もし彼の考えを理解してしまったらミス・ヴァリエール、貴方は彼と同じ存在ということになってしまいます」
(……アレと同じ存在)
コルベールの言葉にルイズは少し離れたところでぶるあ、ぶるあ言って同級生達を笑顔で吹き飛ばしているアンデルセン君を見る。
「(そんなの御免こうむるわ)……納得はできませんがこの状況を収めるために仕方がありませんね」
「賢明な判断です。さあ早く契約を交わすのです。もうあまり時間がありませんよ」
アンデルセン君とルイズたちの距離はもう少しで10mを切ろうとしている。今のところ男子生徒達ががっちりスクラムを組んで「ふんぬらばっ!」と叫びながらなんとか押さえつけているが、いつ突破されてもおかしくはない。というか魔法を使えよお前ら。
「ちょっとあんた、何ボケッと突っ立ってるのよ! 早くこっちに来なさい!」
ルイズは惨劇をニコニコしながら見ている使い魔候補の少年(どうやら彼は何かの催し物だと思っているらしい)を怒鳴って呼び寄せた。
「ああごめんよ。それでどうしたんだい?」
少年は謝りながらルイズに近寄る。その無邪気な態度が無性にルイズの癪に障る。
「どうしたんだいじゃないわ。一体誰のせいでこうなったと思っているのよ」
(貴方が不用意に異教徒と言ってしまったからですね。さらに言うなら彼を召喚してしまったからですね)
さっさと事態を終息してしまいたいので心の中でツッコむコルベール。
「まあいいわ。私のような美少女とキ、キ、キ……できるんだから感謝しなさい!」
これから異性とキス、しかもファーストキスをするということで恥ずかしさと緊張から若干頬を染めながら叫んでしまうルイズ。
「? 途中よく聞こえなかったけどとりあえずありがとう?」
「はあ、なんだか緊張していた自分がバカみたい。なんなのよあんた……」
少年の返事に少々呆れてしまうルイズ。そこでまだこの少年の名前を聞いてないことに気が付いた。
「そういえばあんたの名前なんて言うの? 私の名前はルイズよ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
「あ、ボクの名前は……」
名前を言おうとして少年は少し言葉に詰まる。
(……そういえばこうやって誰かに自己紹介するのも15年ぶりくらいかな)
たったそれだけ、自分の名前を言うだけの事なのに頬が緩むのが止められない。少年は心の底からあふれ出てくる笑顔とともにルイズに己の名を告げた。
「ボクの名前はリュート。スフォルツェンド公国の大神官さ!」
後に「虚無の守護神」、「ハルケギニアの魔人」と後世に語り継がれるリュートの新しい人生の始まりである。
終わり
あとがき
終わりよければすべて良し!
続きはネタが思いつけば書くかも。