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No.36123の一覧
[0] 【チラ裏より】(SAO) Sword Art Online―EXTRA ギルドユニオンのキセキ [まつK](2014/06/10 18:20)
[1] 1話[まつK](2012/12/14 14:59)
[2] 2話[まつK](2012/12/14 15:24)
[3] 3話[まつK](2012/12/20 16:16)
[4] 4話[まつK](2013/01/08 21:53)
[5] 5話[まつK](2013/03/09 20:35)
[6] 6話[まつK](2013/03/18 23:36)
[7] 7話[まつK](2013/05/31 19:33)
[8] 8話[まつK](2014/06/10 18:19)
[9] 9話[まつK](2014/05/25 20:11)
[10] 10話[まつK](2014/06/01 19:48)
[11] 11話[まつK](2014/06/10 18:17)
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[36123] 4話
Name: まつK◆7a02f718 ID:a22fad09 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/08 21:53
静かな喧騒とでも言えばいいのだろうか。
騒ぎ立てているわけはなく大勢の人が集まってできる特有のざわめきが街の広場にあった。
ここはいつも比較的人通りが多い場所ではあるが今日はいつも以上に人が多い。
あふれていると言ってもいいのかもしれない。
集まった大勢の人々は、大半が時折あたりを気にするようにしては静かに何かを待っているようだった。
かくいう私たちも日頃なら街の外へ狩りに行っている時間帯なのだが、今日は街であることを待っていた。
今日は第二層ボス攻略の予定日だった。
そして今まさに攻略組はボスと対峙している時間帯だろう。
順当に行けば、第三層への街開きが行われる。
ここにいる大勢のプレイヤー達は、言い方にやや語弊があるかもしれないがそれを楽しみにここへ集まってきている。
新しい世界が開かれ、現実への帰還が一歩進む瞬間を待っている。
私たちも似たようなものだがもう少し具体的な事でその瞬間を待っていた。
ある意味今までの私たちの行動の終着点にして重要な中間点、第三層ではギルドを組織できるようになるのだ。

「速報キタァァァ。ボス攻略完了。損害は……なぁぁしぃ!ブラボォォォォッ!」

ボス攻略組みから、連絡を受け取った誰かが叫び声をあげる。
待ちわびていた報告に、静かだった周囲から歓声が上がり、次第に辺り一帯へと広がっていく。
攻略が失敗するとも思っていなかったが、犠牲者ゼロというのは朗報だ。
一階のフロアボスでは犠牲者が一人出ていたので、その前例を早くも破れた事は喜ばしい。
私は静かに人心地ついた。
これであと少し経てば転送ポータルが開放され、第三層への道が繋がる。
活気づいてきた広場で私達一団は静かに待ち続け、程なくして開かれた第三層へ一番乗りで乗り込んだ。

ポータルで転送が終わると私の視界には、居並ぶフロアボス討伐を無事にを終えた攻略組みの姿、ではなく無人の広場が広がっていた。
第一層攻略時も今のように無人だったのだが、攻略組に何か問題が起きたのだろうか。
続々と転移してくる後続のプレイヤーたちも予想外のことにやや戸惑いの声をあげていた。
先に進むにしても、なにか労いの言葉を一言なりかけてからにしたかったのだが。
あたりを見渡すと、広場に向かって走ってくる、一人のプレイヤーを見つけた。
私たちが一番最初にここへ転移しているので、向こうから走ってくるということはボス攻略に参加したプレイヤーだろう。
黒目黒髪にやや線の細い顔つきで全身黒ずくめの見覚えのない少年だ。
最も最前線にいる攻略組みとは、ほとんど面識はないのだが。
その少年は広場にいる私たちを見つけると、何故かしまった、という顔をして広場を駆け抜けようとその速度を上げた。

「そこの人、攻略組がどうしているのか知りませんか?」

広場を通り過ぎようとしていた少年に向かって、叫ぶように問いかける。
少年は広場を半ば過ぎたところで急制動をかけてとまり、困ったような顔でこちらを向いた。

「あの、すいません。攻略組みの人ですよね?ほかの方は?」

「ああ、そうだけど……」

自分がやってきた方向をしきりに気にしながら曖昧に頷く。

「ほかのやつらは……そう、もうすくここにやって来る、アス――紅白のおめでたい色をしたプレイヤーがいるから、そ

いつに全部聞いてくれ。それじゃあ俺はこれで」

閃いたとばかりにそれだけを告げ、敏捷値の限りといった全速力で走り去っていった。

「……今のはなんだと思います?」

「んー、ザ・逃亡者?」

答えを求めのの問ではなかったのだが、ディエスからは予想外の単語がでてきた。

「逃亡者?」

「そ、アタシの勘によるとコレは……オンナだね」

そう言ってクスリと笑いながら、先ほどの少年がやってきた方向を見る。
私もそちらへと視線をやると、先程と同じくこちらへやってくる人影が見えた。
今度やってきたのはディエスの予想通りといっていいのかともかく、少女のプレイヤーだった。
彼女の容貌は、もし私が妻と出会っていなかったら、目を奪われていたであろうと思わせるほどに、整ったものをしていた。
私が知らないだけで、アイドルやモデルだったとしても不思議には思わない。
紅白――というには、やや暗みがかっていたが――の出で立ちをしているので、彼女がさきほど少年が言っていたプレイヤーなのだろう。

「あの、すいません。さっきここにキリ――黒ずくめの無愛想な顔したプレイヤーが通りませんでしたか?」

彼女は忙しない口調で言った。

「うん、さっきここを通ったけど、なに、さっきのやつ何かやらかしてたわけ?」

ディエスが眉を顰め、必要以上に心配そうに尋ねる。
見慣れていないだけなのかもしれないが、心配そうな表情の彼女はどことなく、芝居がかっているように見えた。

「いえいえ、違います。彼はなにかしたわけじゃありません。ただちょっと……その……」

否定の声を上げながらも、視線はあさっての方向を向いており、ややバツの悪い表情をしている。
その顔とディエスの言葉、先ほどの少年の態度から、なんとなく年頃の少年少女間の問題なのだと思い至った。
それならばと、私はふたりの会話に割って入った。

「ところですいません。あなたもフロアボス攻略に参加していた方ですよね?」

「あ、はい。そうですけど」

「それならまずは、感謝の言葉を述べさせてください。ありがとうございました」

私は深く腰を追って礼を取る。
この言葉にも行為にも一切の偽りはない。

「あ、あの、そんなお礼だなんて頭を上げてください。わたし一人の成果じゃないですし、それにわたしはわたしの出来る事をしただけで……」

慇懃な態度の私に対して、あくまで謙虚な態度の彼女は見た通りの非常にできた娘さんだった。

「うん、そうだった。アタシからも礼を言わせてもらうよ。アリガト」

私の様子を見ていたディエスもややフランクな態で続いて礼を述べる。
それらを聞いていた周りにいたプレイヤー達が次々と集まって礼を述べていく。
そして次第に大きくなっていく人ごみに、称えるべき今日の勇者がいることに気づいた今まで賞賛を贈る相手がいなかったことに肩すかしを食らっていたプレイヤーたちが歓声を上げながら殺到してきた。
善意で集まってくるプレイヤー達に、彼女も初めは笑顔で対応していたが、視界を塞ぐほどの人垣ができるとその余裕もどこかへ行ってしまっていた。

「ちょっと待って、私はキリト君を――」

彼女の上げる声を歓声がかき消す。
どこからか紙吹雪が舞い、有志のプレイヤー達が感謝の演奏と喜びの歌を歌う。
彼女はみるみるうちに十重二十重と押し寄せる人波に囲まれてしまった。
私とディエスはそんな彼女を背に、静かにその場を離れた。

「もういいのか?」

一連の出来事を見ていたジュリエットが、やや呆れたように言う。

「はい。ボス攻略組は彼女以外はまだ来ないようなので、先を急ぐ事にしましょう」

「で、でも、あれって放っておいていいんですか……?」

ロミオが戸惑いがちに指差す先には、群衆に胴上げのアクションをされ悲鳴を上げる少女の姿があった。
胴上げアクションは、その参加の人数にが増えるほどって上がる高さも高くなり、広場いっぱいの人に担がれた彼女は、ちょっと非常識な高さまで放り上げられていた。
ちなみにこのアクションはモーションを途中でキャンセルすることが可能で、投げっぱなしにすることができる。
その際放り上げられていたプレイヤーは高さに応じた落下ダメージを受け、瀕死やレベルが低い場合死に至ってしまうことがあり、実際テストの際にこれが原因で死亡したプレイヤーが出て参加者全員が赤ネなったという笑い話もある。

「街のなかで圏内ですから、大丈夫です。さあ行きましょう」

ロミオは納得していない顔だったが、周りのメンバーが動き始めると小さく「見なかったことにしよう」と呟いて皆のあと続いていった。
広場には空から少女の悲鳴が降り注いでいた。

ギルドを立ち上げるには《始まりの街》にいる、ギルド管理NPCに所定の手続きを行うことで立ち上げることができるその際に必要なものが3つほどある。
まず第一にレベル10以上のプレイヤー。
ギルドリーダーになるキャラで、今回は私がこれを担うことになり、今のレベルが11なのでクリア済み。
二つ目に現金10万コル。
現時点で、この金額を一人で贖おうとすれば結構な大金である。
だが、例えばこれを10人で分割するなら、一人1万コルになり何とでもなる金額になる。
私たちを含め、ギルドの加入に内諾をもらっているプレイヤー達が既に数十人いるので、そこからのカンパで、その他の諸経費も含めこちらもクリア済みだ。
そして三つ目になるのが《白のエンブレム》と呼ばれる一種のクエストアイテムだ。
第三層にいるNPCから受けられるクエストの報酬となっており、これが枷となってギルドの結成を第三層まで伸ばしていた。

「さーて、お願いしますよー」

第三層主街区にいるクエストNPCに半ば祈るように話しかける。
今のところ細かなクエストに対してはテスト時から仕様の変更はないが、攻略に影響を与えると思われるギルドの結成に関わることだ、フロアボスのことを聞くと油断できない。
ここにいる全員が息を飲む。

「クエストの方はどうだ?」

「はい、えーと、大丈夫です。事前の情報と変わりありません」

声を上げてきたジュリエットに告げると、皆から安堵のため息がもれた。

「それでは皆さん、事前に割り振った分担通りにお願いします。途中で何かありましたら安全を優先で。それではお願いします」

『応ッ』

全員で掛け声上げ、クエストが開始された。
このクエストはクリアまでに二つの段階に分けられている。
ギルド結成用クエストの為か、どちらの段階もパーティー以上での遂行が推奨されている。
第一段階はお使いクエストになる。
先ほどのNPCから渡されたアイテムを指定の場所に持っていき、そこで代わりのアイテムを受け取ってくるというスタンダードなものだ。
ただ、その持っていく先が一五箇所と多く、場所も第一層から三層まで満遍なくあるので、マップの広さと相まって一人では全力疾走で走り回っても、丸一日掛けても終わらないだろう。
もちろん私たちはそんな時間をかけるつもりは微塵もなく、正しくパーティープレイでクリアを目指す。
その為に今日はいつもの六人に加え、有志の協力者六人からなるパーティーを作り12人でことにあたっている。
2つのパーティーでそれぞれ二人ひと組に別れ、各々が2~3箇所を分担して廻る計画だ。
それぞれのペアが分かれて街を出立していく。
私もディエスとペアを組み、第三層の三ヶ所を廻ることになっていたので、街を抜け早速開かれたばかりのフィールドを脇目もふらず走っている。

「それにしても、さっきのアレはなにさ?」

第三層の主街区を出てすぐのフィールドは第一層と同じく、見通しの良い平坦な草原が広がっている。
街道をはずれ、目的地まで一直線に向かっているがモンスターに絡まれる心配もなく、暇になったディエスが少しむすっとした顔で雑談を始めた。

「さっきのというと、女の子のことですか?」

「そうそう、ものすっごいカワイかった娘」

「確かにちょっと見ないレベルで整った容姿の子でしたね。アバターだと言われても驚きません。あー、でも、ディエスもさっきの子には負けてないと思いますよ」

「その取ってつけたような言い方は、感心しないなー」

「いえいえ、本当ですって。ディエスもさっきの子と合わせて、私がリアルで見た美人さんベストスリーにはいっていますよ」

ここで見たものをリアルと呼んでいいものなのかはさておき、ディエスの容姿がさっきの少女に負けていないことは事実なので、私は実直な態度を貫けた。

「んー、でも、そのナンバーワン、ナンバーツーって、奥さんと娘さんで、それ以外が同率ナンバースリーなんでしょ?」

ディエスの半ば呆れ顔だ。

「ええ、そうです。でも、ナンバースリーは今のところ二人だけですので」

「ま、それなら許してあげよう」

相変わらずの呆れが顔だったが、その口調はまんざらでもなさそうだった。

「って、話が逸れた。さっきの娘のこと、どうしてさっきの娘の邪魔したのさ?まあ、面白かったからよかったけどさ」

「まあ、確かに普通に考えたら女の子の味方をするべきなんでしょうけど」

年頃の少年と少女つまらない理由でもめているなら、とりあえず少女の味方になるのは大勢の同意を得られる行為だろう。
ディエスも頷いて同意する。

「ただ、まだあの少年にあの少女の相手は早いと思いまして」

「まさか……嫉妬?」

ディエスがそんなことを微塵も思っていないことは、釣り上げられた口元を見ればよく表れていたが、それでも憮然とした面持ちをして反論する。

「それこそまさかです。もう少し色々経験を積んでもらいたいという先達からの親心です。そうじゃないと彼女方が色々と強そうでしたから、彼のほうが参っちゃうんじゃないかと思いまして」

「へー、おじさん優しいんだねー。アタシは男子なんか、砕け散ってそっから苦労して這い上がるくらいで、ちょうど良いと思ってるのにさ」

普段なら私もその方向性に賛成するのだが、こんな世界になっているのだ、普段より少し優しくあることも悪くないだろうと思う。
ともあれディエスはひとまず納得したようだった。

「それじゃあ、次ね。ロミオとジュリエットの件なんだけど――」

話をしながら走り続けているが、見通しの良い平坦なフィールドはまだしばらく続く。
ディエスとの雑談も今しばらく続くようだった。

三時間ほどで担当していた箇所を廻り終え、街に戻った。
街の盛り上がりは、若干落ち着いたものになっていたがまだ普段に比べれば賑やかだった。
道すがら。先ほどの少女にであったら気まづいだろうなとも考えていたが、幸いにも出くわすこともなかった。
集合場所には先に戻っていたペアが三組おり、私たちが四番目となり予定通りだ。

「戻りました」

「たっだいまー」

「お疲れさん。クエストの収集品だ、まとめておいた」

先に戻っていたジュリエットから、三組分のアイテムを受け取る。

「ありがとうございます」

それから数分の後、五つ目パーティーが戻ってきて、さらにその数分後最終組のジークフリートとヒースクリフのペアが戻ってきた。

「いやー、やはり一番最後になってしまいましたか」

予定通りなのだが、少し残念そうな様子のジークフリートからクエストアイテムを受け取る。
これで全て揃ったことになった。

「お二人共お疲れ様です。ディエスがあちらで昼食を作っていますからお昼にしましょう」

二人を連れだって昼食を作っている近くの民家に向かう。
民家に着くと先に食事をとっていたメンバーたちから、最後に到着した二人におつかれと労いの言葉が投げかけられた。
昼食は民家に備え付けのテーブルの上に置かれており、まだ昼食をとっていない残り三人では到底消費できるとも思えない量が例によってあった。
メニューは手早く食べることを意識してか、十種類近くのサンドイッチと数種類のジュースがあった。
適当にジュースと三つのサンドイッチを選び昼食にした。
最近のディエスの料理は、味こそ以前と変わらないがその種類は目に見えて増えていた。
料理の種類がたくさんあると、その中には個人の嗜好にマッチした料理もあり食事をとることが楽しみになっていた。
初期の段階で貴重なスキルスロットを、戦闘と関係ない料理技能で埋めたディエスの英断には感謝しきりだ。
昼食と短い休憩を取ったあと、私たちはクエストの第二段階を開始した。
こちらの内容はシンプルに討伐となっている。
街から少し離れた山に巣食うゴブリンの集団とそのボスを倒して来いというものだ。
今度は私たち12人が一団となって街を出立した。
目的地までは一応道が続いているのだが、途中からが道幅はそれほど広くもなく両側が急な斜面になっている山あいの道となり、モンスターと遭遇した際に回避が難しい地形となっている。
クエスト当該地域に近づくと、最初のゴブリンを発見した。
《ニゲル・ゴブリンスカウト》、黒ずくめの格好をした矮小な亜人の偵察兵だ。
片手に武器の短剣を持ち三匹からなる集団を作って、このあたりを巡回している。
このゴブリンたちは常に集団で行動する特徴をもっている。
三~五匹程度で集団を作り、巡回や待ち伏せを行っており、その集団の一匹にでも発見されると一丸となって襲いかかってくる。
一匹なら適正レベルであればソロでも難なく倒せるだろうが、複数匹集まると討伐の難易度と時間は加速度的に増していく。
そうして討伐に手間取っていると、ほかに巡回している集団とリンクし泥沼に陥ってしまうというのはよくあることだ。
そうならないためにはいくつかの手段があるが、今回私たちは最もシンプル方法を選んだ。
火力と速さだ。

「第一ゴブリン発見、いきます」

私を先頭に、パーティーは列を成して足を止めることなくゴブリンの集団へ向かう。
最も射程の長い突進系ソードスキルの射程に入ったところでスキルを発動。
システムのアシストによって、走っていた体がさらに加速されあたりの景色が流れていく。
一瞬で十数メートルの距離を移動し同時に標的のHPを二割ほど削る。
スキルを使ったにしては与えたダメージが少ないことに寂しい思いを覚えるが、タンカーなんてこんなものだと割り切る。
短い硬直時間の後、標的を二匹目に変え単発のスキルで攻撃を行いつつ、三匹目が狙える場所に移動する。
無傷の三匹目がここでこちらに攻撃を仕掛けてきたが、当たるに任せ反撃に《シールドバッシュ》――盾で殴りつけダメージと短いスタンにかける――を放つ。
先制攻撃で二匹のターゲットを取り、一匹をスタンにしたところで、それ以上敵に構わず前へ向かって走り抜ける。
その私を追いかけるように二匹のゴブリンが方向を変えたところで、私に続いてスキルで一足飛びに間合いを詰めてきたディエスの両手剣と、ジークフリートの両手斧が炸裂する。

「せぇぇぇぇのッ」

ディエスとジークフリートの二人は、そのまま続けてゴブリン三匹を綺麗に巻き込んだ、両手武器得意の範囲攻撃スキルを交互に二発放ってゴブリンを追い抜いていく。
そして最後にジュリエットの片手剣による二連スキルで一匹、ロミオの槍が二匹をまとめて貫いて、敵は全滅。
十秒に満たない短い戦闘は、比喩でなく駆け抜けるように終わった。
走る速度をやや緩め、最後尾を走っていたヒースクリフと後続のパーティーが追いついて来るのを待つ。

「やれやれ、私の出番は無しか」

攻撃に参加できなかったヒースクリフは表情こそいつもどおりのクールさを保っていたが、口調の端に物足りなさを感じているように聞こえた。

「それなら次は、先頭をヒースクリフさんどうですか?」

「……了解だ。それでは次から交互にやることとしよう」

ヒースクリフが頷いて了承したところで、後ろからもうひとつのパーティーがリーダーをお願いしていたアキラというプレーヤーを先頭に私たちを追い抜いていく。

「おっと、悪いが次のやつらは俺たちの担当だぜ?」

追い抜いていくアキラの顔にはこれからの戦闘を前にも雄々しい笑が浮かんでいた。

「大丈夫、わかっていますよ」

今度はヒースクリフを先頭にした私たちパーティーは、アキラ率いるパーティーの後ろを追随する。
するとすぐに次のゴブリンの集団が見えた。

「いくぜ!」

アキラたちは私たちと同じく、縦列を作り進行方向に合わせ若干進路を調整した後、ゴブリンたちに向かって突撃していった。
綺麗に列を成してゴブリンに向かってヒットアンドアウェイを決めていく様子は、後ろから見ているとまるで昔映画で見た戦闘機の攻撃シーンの様に思えた。
取りこぼしがないことを見届けて、走る速度を上げアキラのパーティーを追い抜いていこうとすると、その頃にはもう次の獲物の一団が見えた。

「行くぞ」

ヒースクリフの短い一言で彼を先頭に、列になって獲物への進路をとる。
このようにして私たちは、スキルのクールタイムを走る速度で調整し、二つのパーティーで交互に、あるいはタイミングを合わせてゴブリン達を蹴散らし、山道を踏破していった。
敵を倒しそこねたり、誰かが疲労の声をあげれば足を止めて休息をとる予定だったのだが、私たちは一定のリズムを保ったままゴブリン達を倒し続け、気がつけば山の最奥ボスの姿が見える所までたどり着いていた。
流石にそのまま突入する訳にもいかず、安全地帯で休憩を取ることにした。
腰を落ち着けてから、いくらか減っていたHPをポーションを使って回復する。
普段とは違い同格に近いレベルのモンスターとの連戦ではあったが、思った以上に疲労感はない。
メンバーの顔を見回しても疲れを見せているものはおらず、どちらかといえば余裕を感じさせる顔のほうが多く見て取れた。
その中でも一際余裕のありそうなディエスが軽妙なステップで、座っている私の方へ向かってきた。

「おじさん、おじさん、この先のボスどうする?」

ディエスが声を上げると全員の視線が私に集まった。

「そうですね」

私はここからは直接見えないがボスのいる方向を見やる。
この先の通路を少し行った先の広場に、ここのボス《ニゲル・ゴブリンチーフ》この辺り一帯のゴブリンの族長がいる。
族長らしく、スカウト、ソルジャー、ウォーリアの混成五匹からなる集団四つを周りに従えている。
戦闘が始まればチーフを含め21匹が一斉に襲いかかてくる。
攻略するにあたって、定石ならば周りを囲まれる広場での戦闘は避け、道幅の狭い通路に引っ張り込んで少しづつ取り巻きから倒していくところなのだが……。

「ロミオ、ここまでの道中の感想はどうでしたか?」

私に向かっていた視線がロミオへと向かう。
その視線の圧力に若干あたふたとしたものの、しっかりとした口調で答えた。

「わ、私は普段とちょっと勝手が違いましたけど、いつの間にかここに着いちゃってた、って感じです」

一寸目を閉じて考える。
不要な危険は避けるべきだが、目の前にある危険をただ避けるだけではいつか行き詰まることになるかもしれない。

「速戦でいきましょう」

事前に考えていたプランのうちの一つを口にする。
私が立ち上がると、ほかの座っていたメンバーも立ち上がり、立っていた者も頷いたり手を振ったり全員に異論はない様子だった。
休憩もそれで切り上げとなり、私たちはボスのいる広場へと向かった。
敵の知覚範囲に入らない位置でゴブリンチーフと相対する。
ほかの個体よりふた周りほど大きな体躯に、少し上等な装備をしていた。

「いきます!」

「オッケー」「ラジャー」「応ッ」「承知」

私の声にそれぞれが一際大きな声で応え、先ず私たちのパーティーが広場を目指して駆け出した。
私たちが広場に入ったところで、最初に取り巻きのゴブリン達がこちらに気づき左右から押し迫ってきて、それから少し遅れる形で正面からチーフがやってきた。
私はここに来るまでの戦闘と同じく、突進系のソードスキルをチーフに対して使い、取り巻きの間をすり抜けるように一気に肉迫しそのまま奥へと駆け抜ける。
ほかのメンバーも間を空けずに私に続き、全員が通路からボスを起点に反対側へと抜けた。
広場の奥は進行不可のオブジェクトによって行き止まりとなっている。
行き止まりで辿り着くと、それを背に全員で小さな半円を作るようにしてゴブリン達を迎え撃つ姿勢を取った。
開けたところで敵と対峙するといっても、背後に壁があるとすれば一度に相手取るのは多くても正面に三匹。
味方と隣り合っていればその数はさらに減る。
ゴブリン達は足の速いものから順に襲いかかってきて、結果としてこちらを包囲するような形になったが、半数程度は攻撃に参加できずに固まっていた。
それでも、周りを囲まれていることの重圧と複数匹からの攻撃は相当なもので、特にこいつらも使ってくるソードスキルは直撃を受ければ、結構な量のHPを持っていかれる。
右前方から打ちかかってくる《ニゲル・ゴブリンソルジャー》を武器で打ち払い、ソードスキルを放とうとしていた正面にいる《ニゲル・ゴブリンウォーリア》を《シールドバッシュ》で止める。
皆上手く対応できたようで、今のところ大きくHP減らされているものもいない。
私たちは包囲されたままでゴブリン達の攻撃を受け続けているが、目の間にいるゴブリンの三回目の攻撃を防いだところで状況が変わった。

「どおぅりゃぁぁぁぁぁッ」

遅れて広場に入ってきたアキラ達のパーティーが、一固まりになっているゴブリン達に背後から裂帛の気合とともに攻撃を仕掛けてきた。
包囲している状況から一転して前後から挟まれる形になったゴブリン達の密集しているところにうまい具合にスキルがきまり、面白いように敵のHPが減っていった。
それを見て次に動いたディエスとジークフリートが状況を決定づけた。

「せいりゃぁぁぁぁッ」

ふたりの放った範囲攻撃スキルによる一撃は、その一撃で半数のゴブリンを葬り去った。
敵からの圧力が減った残りのメンバーは相互に連携を取り、前後で挟まれているゴブリンから一匹づつ仕留めていった。
さしたる時間もかからずに取り巻きのゴブリンが全滅し、最後に残った《ニゲル・ゴブリンチーフ》を全員で取り囲み止めを刺して無事討伐完了となった。

『お疲れ様ー』

倒して即沸きということはないとは思うが、念のため安全地帯まで場所を移して、全員から自然と声が上がりようやく一息ついた。
広場に突入してからここに戻るまで、三分とかかっていなかったはずだが、正直ここ山を登ってくるよりよほど疲れた気がする。
見れば安全地帯に着いて気が緩んだのか、ロミオがその場にへたり込んでいた。

「これでクエストもおしまいですね~」

「ノンノン。遠足は家についてただいまを言うまで、クエストは報告して報酬をもらうまで終わりじゃないよん。もう少し修行が必要だねー」

ディエスが気取った口調でロミオをたしなめるが、ジュリエットがそれに指摘の声を上げる。

「確かに一理ある。が、それを言うならディエス。ここでそんなことを言ってフラグを立てるお前も、まだまだ修行が足りてないんじゃないか?」

ゲーム世界の道理を的確に捉えたジュリエットの指摘に、ディエスは破顔して肩を竦め天を仰ぐ。
ジュリエットの指摘の意味がわからず、隣できょとんとはてな顔を浮かべるロミオとの対比がやけに絵になっていて、私たちはそれを見て全員で声を上げて笑ってしまった。
そうしてひとしきり笑った後で全員で街への帰途に着いた。
幸いなことにディエスのフラグは立っていなかったようで、何事も無く無事街へとたどり着くことができた。
クエストをNPCに報告し報酬の《白のエンブレム》を手に入れる。
これでこのクエストは終了なのだが、私たちの今日の目的はまだ終わっていない。
喜びの声を上げることもなく、そのままの足で転送ポータルを経由し第一層《はじまりの街》ギルドNPCへと向かう。
陽が沈み始めるまではまだもう少し時間がある。
狩りを終えて戻って来たにしては早すぎる時間帯に、完全武装で足早に街を駆け抜けていく私達へ街にたむろしているプレイヤーから奇異の視線が向けられているのが感じられた。
向かった先のギルドNPC周辺には他に主要な施設もなく、宿として使える物件も少ないので普段はほとんどひと気がないのだが、今日は少なくないプレイヤーの姿が遠目に見て取れた。
私たちが近づいていくと昼間の街開きにはさすがに劣るものの、歓声をもって迎えられた。
そこにいたプレイヤー達はどれも見覚えのある顔だった。
今日この日にギルドを立ち上げることはあらかじめ交流のできた何人ものプレイヤー達に伝えてあった。
アキラ達の様に事前に協力を確約してくれていた者もいたが、多くは保留もしくはギルドができてからという回答をもらっていたのだが、目の前の光景は多くの者が協力する側を選んでくれたことを教えてくれたいた。
同時に、この四十日間に及ぶ活動の成功とゲーム攻略がまた一歩進んだことを理解して、思わず立ち止まって大きく息を吐いた。
突然足を止めた私にディエスが何事かと一瞬だけ怪訝な表情を浮かべたあと、一転微笑んで私の手を取った。

「お疲れ様、でもまだだよ」

頷いて顔に笑顔を浮かべる。
集まってくれていたプレイヤー達に手を振って答え前に進み、ここにいる全員が見守る中で短い手続きを済ませる。
私がリーダーとなり所定のコルとアイテムを支払い最後にギルドの名前を入力する。
そして、私たちのギルド《ユニオン》が出来上がった。
私は振り返ってここにいる全員を見回したあと声高に宣言した。

「お待たせしました、皆さん。さあ塔の攻略を始めましょう」


後書き

年末の忙しさは異常……

私の中でゲームでギルドを立ち上げる時のイメージがこんなんなんですが皆さんはどうでしょう?

次話 ギルド組織編予定です。




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