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No.36097の一覧
[0] お兄ちゃんの忘れ物[れおまる](2012/12/09 22:48)
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[36097] お兄ちゃんの忘れ物
Name: れおまる◆bc1d25fb ID:95e2fdc9
Date: 2012/12/09 22:48
「あのさあ、お兄ちゃん」
「何だ?言いたい事がありそうだな、明乃」

今にも笑い出しそうなお兄ちゃんに向かって、教科書に挟まっていたメモ用紙を見せた。

「読んで、これ」
「¨今日は2人とも遅くなるから、先に寝てて。ご飯は冷蔵庫にあるから¨」
「どっちに聞いたの?」
「さっきお袋から電話あったんだよ」
「回りくどい事しないで直接言ってよ!」
「普通に言ったらつまんないだろ。こうした方が達成感があっていいだろう?」

学校から帰ってきたらいきなり自分の部屋に呼ばれた。
そして、机の上に¨本棚を探せ¨と書かれたメモがあった。

指示の通りにしたらまたメモを見つけて、そこには¨トイレを探せ¨と書かれていて・・・

後は台所とかベランダだとか、色んな所を捜し回った挙げ句、結局自分の部屋に戻ってきた。
一番最初のメモがあった場所から何センチも離れてない場所に、お母さんからの伝言が記されたメモがあったのだ。

というか、お母さんから聞いた話をお兄ちゃんが口頭で伝えれば済むことなのに・・・

「そうか、明乃には宝探しの楽しさが分からないか。まっ、男のロマンだからな、わかり合うのは難しいよな」

別に今に始まった事じゃないので、今更何かを言うつもりにもならない。
昔からお兄ちゃんはお母さんやお父さんから聞いた事をメモに残し、それを隠した場所を分からなくさせる為の罠を張るのが好きだった。
私も小学生まではその遊びが楽しかったんだけど、中学生になった今では惰性で付き合ってあげている。

それでも、特にお兄ちゃんを避けるという事は無かった。
小学生の時とは違って、いつも一緒にいるなんて事は無いけど、仲は良い。
たまに2人で買い物に行くし、映画を見たりもする。

友達はみんな変だ、なんて言うけど私はそう思ってない。
多少の距離は出来ても私とお兄ちゃんは離れる事は無いのだ。

兄妹はそういうものだって、別に疑問に思う事もなく思っていた−


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『すぐ慣れるさ。寧ろ最初が肝心だからな、怯まず自分から話し掛けるんだ。構えなくていい、相手は同じ新入生だからな』
「うん。ありがとう。ごめん、いきなり電話しちゃって。じゃ、またね、お兄ちゃんも頑張って」
『おう、明乃も頑張れよ。友達くらいお前ならすぐ出来るさ。じゃあな』


携帯を枕元に置いて、ベッドに背中を投げ出した。

持ってきた荷物も全部運んだし、もうセットも完璧だ。
あとは明後日の入学式を待つだけ・・・


「・・・もうすぐ大学生かあ」


まだ実感は湧かないけど、こうしてるともう高校生じゃないんだな、と思ってしまう。
卒業式の夜に感じたものとは違う寂しさが、私の胸の中に漂っていた。


寂しさはあるけど不安じゃないのは、お兄ちゃんに相談したお陰かもしれない。

寧ろ、私なんかよりもお兄ちゃんの方が不安だろう。
間もなく入社式を迎えて、新しい世界へ旅立っていくんだから、緊張しない理由が無い。

・・・それでも、お兄ちゃんは電話したらすぐ出てくれて、しかも相談相手になってくれた。


「・・・・全然顔見てないなあ。最後に会ったのいつだっけ・・・・」


お兄ちゃんが大学に通うために家を離れて一人暮らしを始めたのは、もう4年前か。
まだ2年生までは長い休みの時は必ず帰ってきていた。
お母さんの料理を美味しそうに頬張って、私にこんな旨いの毎日食えて幸せ者だな、って言ってたっけ。

あの遊び・・・もう大学生になってからはしなくなっちゃったよね。
別にもう楽しくなかったけど、いざやらないとなるとちょっと複雑だった。

3年生になったらもう就活の準備を始めて、確かその年は帰ってこなかったんだ。
それで、4年になって、内定を取ってから凱旋帰宅って形で帰ってきた。
あの時は自分の事みたいに嬉しかったなあ。

「お前、喜びすぎ。相変わらずブラコンだな」と笑われた。

・・・まあ、自分でも薄々そう思ってましたけど。

お兄ちゃんが好きでなんで悪いの?って、ちょっと悔しかったら言い返した。


その後もう一度会ったから、その時以来だ。
凱旋帰宅が夏休みで、次に会った時が確か今年のお正月・・・・・・

はい、ブラコンです。
でも別に変な感情は無い。目の前にいてもドキドキしないし、普通に手も握れる。
特に異性として意識する事はないし、只の仲良しな兄妹だよ。

思い出に浸っていたらお腹が鳴った。
取り敢えず、今日は外に行こう。散歩も兼ねて−


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


今日は近くのコンビニの位置だけ覚えて帰る事にした。
一度に沢山頭に詰め込んだら覚えきれないから、少しずつ覚えていけばいい。
何か今日は色々動いて疲れちゃった。早目に寝よう・・・


「よう、明乃」


階段を上がると私の部屋の前に、お兄ちゃんが立っていた。

「な、なんでいるの?!」
「驚いたか。実はさっきの電話、改札の前でしてたんだぜ」
「住所・・・教えたっけ」
「お袋に聞いた。俺の家から離れてるんだな、3回も乗り換えたぞ」

突然の来訪に驚いて、うまく言葉が出てこない。

「えっ、えっ、マジ?なんで私の家が分かっ、あ、あの」

お兄ちゃんは慌てる私に微笑みかけて、後ろのドアを親指で指した。

「中で話そうぜ。ここで騒いだら近所迷惑だからな」
「は、はい、そうします」

私は慌てたら騒いでしまうのを、お兄ちゃんはちゃんと分かっている。
何とか落ち着きを取り戻して、鍵を開けた。


「おー、俺んとこより広いな。全く、生意気な部屋に住みやがって」
「ここより狭いの?お兄ちゃん可哀想」
「うるさい、大きなお世話だ。でも、住んだら慣れるよ。何だかんだで俺も4年いるし、引っ越すつもりも無い」
「住めば都、か・・・」

お兄ちゃんと話したら、すぐに落ち着く事が出来た。
そこでやっとお兄ちゃんがスーツを着ているのに気付く。

「何でスーツなの」
「・・・引っ張りすぎだろ」
「だって今気付いたし。お兄ちゃんがサプライズするから」
「おほん、実はな、似合ってるか明乃に見てほしくてな」
「それだけの為に来たの?」
「うん。でも、責任重大だぞ。お前の言葉次第でお兄ちゃんの社会人としての未来が決まる」
「また大袈裟に・・・」


全体をざっと見渡し、次に細かい部分を観察していく。
黒に近い濃い目のグレーのスーツ。ネクタイは派手でも押さえ目でもない普通の色で、ちゃんと結べている。

特におかしな所は無い。
でも、お父さんに比べるとまだ着慣れてない感じがした。
お父さんのスーツは皮膚みたいに体と一体化して違和感が無いけど、お兄ちゃんはまだまだ初々しく見える。

・・・なんて言ったら怒るだろうし、余計な事は言わなくていいだろう。

「似合ってるよ」
「本当か?」
「うん、変なふうには見えないと思う」
「良し、わざわざ来た甲斐があったな。悪い明乃、トイレ貸してくれないか?」
「うん。玄関の左にあるよ」

お兄ちゃんは足早にトイレに駆け込んでいった。
勢いよく水音がして、思わず笑ってしまった。


「ふう、じゃ俺帰るわ。いつになるか分からんが、またな」
「もう帰るの?お茶くらい出すよ」
「いやいやいいよ、気を遣うな。じゃあな、明乃。ありがとう」


意外と帰る時はあっさりしてるのだ。
でも、友達とは違うから別に無理に引き止めたりはしない。それが兄妹、だろう。


「・・・・・社会人、かあ」


まだ先の話だけどそんなに遠くはない。
その時は、お兄ちゃんにスーツ姿を見せるのかな。

・・・どんだけブラコンなんだよ、なんてつっこまれそう。自分だってシスコンなのに。
いくら何でも笑えない。今の私なら有り得そうだから。


「・・・ん?」


携帯に着信・・・誰からだろう。
いや、違う。メールだ。
まさかお兄ちゃんから・・・?


――――――――――――
題名 お兄ちゃんの忘れ物
――――――――――――
本文 トイレ


何コレ?
まさか届けろってこと?冗談でしょ。
もう、お兄ちゃんてばどこか抜けてるんだから・・・

仕方なくトイレに入ったけど、それらしい物は見当たらなかった。
私をからかう為にメールしてきたのかなぁ・・・或いは、さっきの照れ隠しとか。

ため息をついて出ようとしたら、トイレットペーパーの上に何か有るのを見つけた。


・・・メモ用紙だ。

それを見た瞬間、頭の中に懐かしい記憶が蘇る。

「回りくどいんだから。ヒントがあったら、達成感とか無いでしょ」

嬉しくて呟きながら、折り畳まれたメモを開いていく。
ここに、お兄ちゃんが本当に伝えたかった事が書いてある・・・・・・


¨いきなり来てごめん。
 4月からお互い新しいスタートだけど、俺達はずっと兄妹だ。何も変わることは無いだろう。
 口で言うのは恥ずかしいからこういう形で伝える。明乃、頑張れ。  お兄ちゃんより¨


自分で見つけたんじゃないけど、私は初めてこの遊びで達成感を得た。

でも、ゴールじゃない。

これからがスタートなんだ−


〜〜おしまい〜〜


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