<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.36007の一覧
[0] 魔法少女の夜(魔法使いの夜 SS)(『プリズマ☆イリヤ』アニメ化決定記念【一発ネタ】)[中村成志](2012/12/01 17:36)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[36007] 魔法少女の夜(魔法使いの夜 SS)(『プリズマ☆イリヤ』アニメ化決定記念【一発ネタ】)
Name: 中村成志◆53f4cf1b ID:9fdaa5ea
Date: 2012/12/01 17:36



「それで、蒼崎たちは変身しないのか?」

「 へ? 」






        魔法少女の夜







夕食も終わった午後八時半。
私たちは、珍しく居間のソファで、思い思いに読書にふけっていた。

とは言っても、有珠はいつものとおり魔術書。
私は、ティーン向けファッション誌の最新号。
それは、別に珍しい事じゃない。

珍しいのは草十郎で、7~8冊の本をテーブルに積みあげ、1ページずつ丹念に読み進んでいる。

「なんで、こんなとこで本読んでるのよ」
と聞けば、
「俺の部屋には電気が無いから。
 借りた本だから、早く読んで返さないと申し訳ないだろう?」
いつもどおりの笑顔で答える。

……まあ、電気の無い部屋(屋根裏部屋とも言う)に押し込めたのは私たちだから、文句を言う立場でもない。
しかし、コイツが教科書以外の本を熟読しているのを見るのは初めてだ。
本には書店のカバーがかかり、内容までは分からないのだが―――

で、最後の1ページを読み終わり、しばし瞑想にふけったコイツが、おもむろに発したのが、前述の一言。



「……。
 『変身』――って、なによ、それ」
あまりにも意外な問いかけに、半ば機械的に問い返す。

「ステッキを振るって光を発したり、ピンクや紫のピタピタの服に着替えたり、ひらひらしたマントで空を飛んだり、ものすごい光の弾丸で敵を殲滅したりしないのか?」

「……最後のなら、青子が日常的にやっているけれど」
私と同じく、ぽかん としていた有珠が、これも機械的に突っ込む。

ステッキ振るって、ピタピタひらひらの服に変身して、飛行や攻撃……って、つまりそれは。

「ちょっとアンタ、その本、見せなさい」
言うより先に、私はテーブルに積みあげられた本に手を伸ばす。
カバーを外して、表紙を見ると、


     『Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ 第1巻』


「 …… 」
やたらピンクの背景に、やたらピンクのひらひらコスチュームを着た童女が、ステッキ握ってキメポーズを取っている。

これはえーと、あれだ。
日本文化が生み出した、SONYに匹敵するワールドワイドのジャパンオリジナル。

『魔法少女』。


「蒼崎も有珠も、魔法使いと魔女なんだろう?
 この主人公の女の子が言うには、魔法を使う人間は、みんなステッキを持って変身して、正義のために闘うんだそうだ。
 蒼崎たちなら実行可能なんじゃないか?」

とっても実務的に、おそらく純粋な好意で、人に変質者行為を勧めてくる、純朴少年。
魔弾を連射する前に、一応会話をしてあげようとする、自分自身の寛容さを褒めてあげたいくらいだ。

「……あのね、草十郎」
重いおもいため息を一つついたあと、私は彼に向き直る。
とりあえず一般常識を説明しようとした、その矢先、


     どどどどどどどどどど


玄関先付近から聞こえる、なにやらけたたましく物騒な物音。
それは、あっと言うまもなく居間にまでたどり着き、律儀にドアを開けたのち、室内に乱入した。

『素晴らしい!
 実に、すばらしい発案だ、草十郎君!!』

平蜘蛛のように地面に伏せ、八本の足を器用に動かし、茶の長い髪を振り乱して、それは私たちに迫る。
あっけに取られる私たちの前で、それは すっく と直立し、髪を30本の指で梳いたあと、改めて私たちに向き直った。

……思い出したくもないけれど、思い出さずにはいられない。
半年前の、ミラーハウスでの闘いで、私が葬った自動人形。
その作り主は、当然―――


『青子と有珠が、魔法少女!
 さすがの私も、そこまでは考えつかなかった。
 その案を実行すれば、青子に死ぬほどの生き恥を提供することが出来る上、有珠のコケティッシュな姿を思う存分堪能したいという、私の欲求も、余すことなく満たされる。
 やはり君は、私が見込んだだけのことはあるな!』

ばんばん、と二本の腕で草十郎の肩を叩き、二本の腕で頭と背中を撫で、残る二本の腕で日の丸扇子を打ち振るう人形。
ものすごく不本意だが、顔や背格好は、私に瓜二つである。

「橙子さん、もう帰ってきたんですか?
 呪いのせいで、この町には、当分入れないって聞きましたけど」
がっくんがっくん揺さぶられながら、草十郎が律儀に質問する。

そう、この人形の創造主は、間違いなく私の愚姉。
妹の命を狙うのはまだ良いとしても、その刺客を当の妹そっくりに作り上げる変態だ。

『いや、今の時点では、まだ準備が整っていない。
 なので、この『青子人形 改』に発声機能を持たせ、私の声だけでも届けようと思ったんだ。
 ほんの嫌がらせのつもりで、邸内に侵入させたのだが……いやあ、行動とは起こしてみるべきものだな。
 ちなみに腕が増えているのは、前回、「蜘蛛なのに足が六本しかない」という突っ込みが、某所からあったためだ。
 これなら、某国宝仏バスターも楽々こなせるぞ』

     はっはっは

と胸を張り、高笑いする人形。
顔は能面のごとき一枚絵なので、無表情がとても怖い。



「……話は終わり?
 じゃあ草十郎、そろそろ離れなさい。一撃の下に葬ってくれるわ」

「青子。邸内での魔弾展開は禁止よ」

「心配しないで、有珠。あの時のように、後ろ蹴り上げで天井に突き刺すから」

「だから、屋敷に被害を及ぼすなと言っているのよ」

『ああ、言っておくがこの『青子人形 改』は、前身と違ってオリジナルと同程度の体重を持っているぞ』

「 は? 」

『前回の敗因は、私の創作能力があまりにも優秀で、中身を軽量化しすぎてしまったが故だからな。
 これには、50㎏超の概念融合性爆縮エーテルを隙間に詰め込んである。
 ショックを与えると、白犬塚ごと吹き飛ぶから気をつけるように』

「 …… 」

「青子、やはり外でやって」

優雅に紅茶を啜りながら、有珠が駄目を押す。
――爆薬だけで50㎏って、私の体重をいくつだと思ってんのよ。


『まあ、些細なことは後回しにしてだ。
 今は、草十郎君のプランを詳細に検討しようじゃないか。
 まずは、なんといってもコスチュームだが……』

姉貴――実際は私そっくりの人形なんだけれど、意地でも認めてやらない――は、そのまま当然のような仕草でソファに腰を下ろす。
六本の腕で草十郎を拘束したままなので、傍目には私がコイツを膝抱っこしているように見えて……

「――橙子さん。
 どうでもいいんですが、そろそろ解放してもらえないでしょうか。
 なにか、先ほどからどんどん体調が悪くなってきて」

ああ。
姉貴の胴間声で掻き消されてたけど、この人形も《呪いの自動詠唱》で動いてるのか。
そりゃ、ずっと羽交い締めにされてたら、一般人のコイツが衰弱するのも無理はない。

『む、そうか?
 青子の『きゃー、私の顔で私の草十郎を抱きしめたりしないでー』的な狼狽を見物するのも楽しかったのだが……』

「誰がだれに対して狼狽してるってのよ、この変態姉貴!!」

「蒼崎、この状態で銃撃されると、俺がすべての弾丸を受け取ることになるんだが」

「いいのよ、かえって手間が省けるから!」



そんなこんなの混乱状態ののち。

『ふむ。この本が、君の提案の基か。
 なるほど、リリカルな絵面に血湧き肉躍る展開。要所要所でお約束のイベントも外さない。
 なにより、主人公が十歳の少女というところが素晴らしい。
 正に大人の男性のための魔法少女モノだな』

足を大きく組み、マンガのページを器用にめくっていく人形。ちなみに、腕の四本は背中に収納したため、外見上は普通の人間のようだ。
……って、なんでこいつ、私の隣に堂々と座ってるのよ。

それはともかく、私たちも思い思いの巻を手にとって、その内容に目を走らす。
正直、そんなことしてる場合じゃないし、この人形を叩き出せば済むことなんだけど。
うかつに障れば爆発する、っていうんだから、悔しいけれど相手の出方を待つしかない。

まあ、確かに姉貴の言うとおり、可愛い絵で内容もなかなか読ませる。
平凡な女の子のもとに、ある日突然、意志を持つステッキがやって来て、
『魔法少女、やりませんかー?』
常識で見れば荒唐無稽以外の何物でもないけれど、意外なことに魔術面での矛盾というのは少ない。
―――「大師父」とか「第二魔法」「平行世界」なんていう、ピンポイントな単語まで出てくる。

いやいや、最大の疑問は……

「なんなのよ、この『2012年11月26日 初版発行』って」
奥付を見て、私は唸る。
なんで、今から四半世紀あとに発行されるマンガが、ここにあるんだ。

くっくっくっ と姉貴が笑いながら同意する。
『正にな。単なる誤植にしては全巻がそうだし、いたずらにしても念が入っている。
 これはどこで買ったのかね、草十郎君?』

「いえ、見知らぬお爺さんがいきなり目の前に現れて、押しつけていったんです。
 『同居のお友達といっしょに読めば、とても楽しいことになるから』と」

「……おじいさん?」
なにか、とても不吉な予感がする。

「うん。
 白い髭を生やしていて、すごく頑丈そうな体つきで、黒いマントを羽織っていて、七色に光る剣のようなものを腰にぶら下げていた」

「 ――― 」

「ああそういえば蒼崎、しばらくしたら君に会いに行くからよろしく、って言ってたぞ。
 なんでも、世界に4人しかいない仲間同士だから、って。
 ……知り合いじゃないのか?」

「ここに、来る、ですって?」

「うん。漫画はその時に返してもらうからって」

目眩のあまり、テーブルに突っ伏す。
正面で有珠も、眉間の皺に指を当てている。
そして姉貴は、

『ははははは!
 あの爺いも、とうとう同業者の前に顔を出す気になったか!
 アレの絡むイベントが、近々西の方であるそうだが……
 あの《万華鏡》からこんな本を渡されたんだ。いよいよ期待に応えないと、命に関わるぞ、青子』

実に実に楽しそうに、高笑いする。いや、表情は全く変わらないんだけど。

「人ごとだと思って、無責任に煽るんじゃないわよ!
 草十郎!アンタもそんな怪しい爺いから、ほいほい物を受け取ってくるんじゃない!!」

「しかし蒼崎、あの人も魔術関係の人なんだろう?
 怪しいのは当たり前だと思うんだが」

……ダメだ、この男。
あまりにも身近にその手の関係者が溢れているので、魔術師が魚屋かラーメン屋と同じくらいありふれた職業だと思っているらしい。

『まあ、観念するほか無いな。安心しろ。プロデュースはすべて私が担当してやる。
 まず、衣装合わせからだが……』

「さも決定事項のように議事を進めるんじゃない!
 有珠!あんたも何か言ってやりなさい!このままじゃ私たち、本当に」

「それで、静希君はどの子が好み?」

「そうだな。主人公の子も可愛いけれど、この黒髪の女の子も良いんじゃないか?
 なんとなく君に雰囲気が似ている」

「……そう?」

「そこぉっ!『全然関係ありません』てな顔して、マンガ読みふけってるんじゃない!!」

しかも、なんで頬寄せ合って、一冊の本を覗き込んでるのよ、アンタたちは!

「失礼ね、青子。
 私はこれでも、真剣に衣装選びに取り組んでいるつもりよ」

「―――取り組むな、っていうのよ。だから」

忘れてた。
この子は、服装のことに関しては、とことん無頓着なのだ。ハレの日を除いて、365日学校の制服を着ているくらい。
隣にいる莫迦が気に入りさえすれば、ひらひらゴスロリだろうが、魔法少女ルックだろうが、抵抗無く袖を通すだろう。

脱力して頭を抱える私を置いてけぼりにして、話は進んでゆく。



『この漫画を読む限りでは、コスチュームは動物をイメージしているらしいな。
 主人公は小鳥、その相棒は……蝶か?
 なかなか愛らしいが、青子と同年代のこの二人は、些かいただけない。ネコとキツネのロリータファッションなど、俗悪極まる』

ページをめくりながら、眉をひそめる姉貴。いや、顔は動かないんだけどそんな風に見える。なかなか芸達者だ。

『ここはやはり、男性の意見を聞かねばな。
 草十郎君、まずは有珠を見て、どんなイメージが浮かぶ?』

いきなり話を振られて、きょとん とした顔をする草十郎。

「いめーじ、ですか?
 ……そうだな。いろいろ浮かぶけれど、有珠は『蝶』っていう感じがしますね、なんとなく」

蝶、か。
確かに、有珠の儚げな美しさ、不思議な印象、浮世離れした性格は、揚羽蝶とかを連想させる。
……鱗粉を夜な夜な振りまいてるんじゃないか、といったところも含めて。

『ふむ。相変わらず、見かけによらず見立てが鋭いな、君は。
 蝶、というと、この漫画に出てくる、黒髪の少女が、そのイメージの服装だが』

カバーのカラーイラストを、姉貴が指さす。
紫を基調とした、競泳水着なんじゃないか、っていうくらいピタピタの、背中と腋丸出しの衣装。
サイドだけのスカートと、スワローテールのマントが申し訳程度にくっついている。

―――なるほど。これは、有珠にも似合いそうだわ。
着ている子は十歳くらいだけれど、さっきも草十郎が言っていたように、顔立ちや髪型が何となく有珠に似ている。
スレンダーで、ちょっとロリっぽい(本人に言うと怒るけれど)有珠が、これを着たら……

……うわ。
似合うどころの騒ぎじゃないじゃないの。

草十郎も同じ想像をしたのか、感心したように有珠と、カバーイラストとを見比べている。

その視線を浴びて、あの子はもう紅玉リンゴみたいに真っ赤になって、でもまんざらでもない、ってな顔をして……


『有珠については、満場一致だな。腕によりをかけて、コスチュームを仕上げよう。
 では次に、愚妹だが』

愚妹言うな、馬鹿姉貴。
しかし、再び意見を求める橙子の視線に、草十郎は顎に手を当てて考え込んでいる。

「……蒼崎のイメージ、ですか。うーん」

目を閉じ、黙考する草十郎。
そんな彼を見て、我知らず胸が高鳴る。

べ、別にどんなイメージを言われたって、私がその服に着替えるわけないんだけど。
でもまあ、やっぱり、気になることは気になる、わよね。ほら、参考意見として。
私も一応、有珠の相棒なんだから、やっぱり主人公の子みたいに、小鳥?
いやいや、いくらなんでもそこまで図々しくないわよ、私。
けど、こっちのツインテールや縦ロールみたいにネコやキツネってのも、
でも、これはデザインが最悪なんであって、主人公たちみたいにもっと可愛らしくデザインし直せば、
……って、なに私、すっかりその気になってるのよ!

悶々としている私をよそ目に、草十郎はたっぷり3分、熟考し、おもむろに口を開く。
思わず固唾を呑んで見守る、私たち。



「蒼崎のイメージ、と言うとやっぱり―――砲台?」


「「『 …… 」」』



時が、止まる。
硬直して、立ちつくすことしばし。

ぱたり、と
何か音がして、そちらを振り向けば、有珠がソファに倒れ伏して、痙攣していた。
あくまでも無表情に、額に汗を浮かべながら、必死に胸とお腹を押さえている。ああ、とてもツボに嵌ったようね。

『く、くはは、ははははは!
 砲台!砲台ときたか!!
 最高だ、草十郎君!これ以上青子に会うイメージは、ご、げほげほっ、お、思いつくべくも無い!!』

有珠とは違った意味で無表情のまま、爆笑する橙子。
人形なのに咳き込むことすら出来るなんて、悔しいけれどやっぱり優秀なのね、姉さん。

そんな、なんだかとっても清々しい心持ちを抱きながら、私は元凶に指先を向ける。

「じゃあ、草十郎。さよならの前に、ひとつだけ聞くわ。
 どうして私のイメージが、砲台なの?」

『魔弾をフル装填しておきながら言う台詞ではないな、青子』

「外野うるさい!
 草十郎、今日という今日ははっきりさせてもらうわよ。
 アンタ、私のことを普段、どういう目で見てるわけ!?」

「……蒼崎、ひょっとして、怒っているのか?」

「怒らいでか!!
 なんで有珠が蝶で、私が砲台なのよ!?
 百歩譲って物騒なモノをイメージするのは仕方ないとしても、生き物どころか有機物ですら無い物を選ぶか、普通!?」

「いや、俺としてはとても素直な気持ちを表現したつもりなんだが」

「余計悪いわ!!」

怒鳴りながらも、草十郎の きょとん とした顔を見ているうちに、私はだんだん馬鹿馬鹿しくなってきてしまった。
コイツは、明らかに本音のままを言っている。
いや、反応から見て、褒め言葉として発言した感すらある。
まったく、この世で一番始末に負えないのは100%の善意だ、って言葉があるけれど……

「それと、漫画を貸してくれたお爺さんが言っていたんだ。
 『未来のマジックガンナー、人間ミサイルランチャー、もしくは宇宙戦艦嬢によろしく』と」

「あの糞爺いが、元凶かああぁっっ!!」

なによ、そのあからさまに物騒な異名のオンパレードは!
もう、あったまに来た。
会ったこと無いけれど、ここに来るっていうんなら上等じゃない。双方納得のいくまで、拳で会話してあげるわ!!

『落ち着け、青子。
 いくら貴重種の魔法使い同士と言えど、向こうは半分人間ですらない妖怪だぞ。
 千年以上の時を重ね、無数の平行世界を経験する、正真正銘のバケモノだ。
 十八年しか生きていない小娘に、勝ち目は無い』

冷静に、本当に楽しそうに口を挟む、自動人形。



『まあ、あの爺いが現れた時のことは、あとから考えても遅くはないだろう。
 とにかく、これでコスチュームは決まった。
 正直、『砲台』をイメージした魔法少女ルックというのは、作るのが少々難儀だが……』

「だから、作らんでいい!
 ていうか、どんなコスチュームよ、それ!!」

この姉貴のことだ。
ゴスロリどころか、某モビルスーツの出来損ないみたいな、キャノンとキャタピラ付いたようなシロモノを持って来るに違いない。


『次の問題は、変身シーンだな。
 やはり定石どおり、呪文とともに服が吹き飛び、全裸となったのちに光が各々のパーツとなって体に装着されていくことが望ましいが……
 ふむ、なかなか難問だ』

こっちの突っ込みを歯牙にもかけず、議題を勧めていく橙子。
なんか、ものすごい問題発言を挿んでいるようにも思える。

「難問、って橙子さん。ただ着替えるだけじゃ駄目なんですか?」

草十郎の質問に、姉貴はやれやれ、と肩をすくめ、大きなため息を吐きながら首を振る。しつこいようだが、芸達者な人形だ。

『草十郎君。君は、もう少し世間の常識というものを学ばなければならない。
 魔法少女モノの魅力の八割五分は、変身シーンにあるんだぞ?
 いくら主人公が可愛かろうが、ストーリーが面白かろうが、これをなおざりにしたのでは、コアなファンは定着しない。
 まれに、このシーンを省略した回なども見受けられるが、言語道断だ。印籠を出さない副将軍に等しい』
「はあ」

橙子の、拳をふるう力説に、そういうものですか と素直に頷く草十郎。
――たしかに、コイツには世間の常識を学ばせなければならない。でないと、何を吹き込まれるか分かったもんじゃない。

「でも、蒼崎も有珠も魔術師なんだから、それくらいのことは簡単に出来るんじゃ」

『彼女たちと暮らして半年以上は経つだろうに、君はまだ魔術が万能だと思っているのかね?
 魔術とは所詮、一般常識外の理(ことわり)をなぞった物理の結果だ。現代科学と大差は無い。
 理を超えるには、『魔法』を持ってくるしかないんだ』

魔法少女を題材に魔術の限界を語るな、って気はするけれど、橙子の言っていることは正しい。
仮にこの例で言うと、呪文と同時に衣服を粉々にし、その原子をもって全く異なる衣服を再構築し、光とともに体に装着させ、しかもその衣服に魔術礼装を仕込まなければならない。

一つひとつを分割すれば、膨大な術式の果てに実現できるかもしれない。
しかし、それらをまとめて十数秒の間に(番組によっては1分以上かかることもあるようだが)行うことは、事実上不可能だ。
周りの人間を洗脳している隙に、物陰で着替えた方がよっぽど手っ取り早い。


『だが、手はある。
 要するに、呪文とともに、普段着の青子と入れ替わりに魔法少女ルックの青子が出現すればいいんだ』

ニヤリ と橙子は笑って(くどいようだが、気配で分かる)ものすごく物騒な気配を漂わせる。

『私が、二人の人形を作ろう。当然、それにはコスチュームを着せておく。
 本当なら、物質転送で人形と生身を入れ替えるのがベストだが、コストを考えれば姿隠しの呪を活用する方が良いな。
 発光、普段着の粉砕等の演出効果は、それこそ魔術の得意技だから、問題無い。
 あとは、呪文をスイッチとして、二人の魂を人形に転送させるようセットしておけば、難問はすべてクリアされる』

「ちょっと待ちなさい!なによ、そのチカラワザ!!
 いや、その前にあんた、『魂の転送』って言った!?」

『ああ。ちょうどその術式を実行しようと思っていたところだから、実験としてはちょうどいい。
 心配はいらない。理論上は完璧のはずだ。まあ、今のところは片道コースで、一度行うと元の体には戻れないが』

「なに非道なことサラッと言ってんのよ!」

『お、そうだ。
 この方式を取るなら、何も実年齢に固執することもないわけだ。
 この漫画のように、十歳の青子、十歳の有珠の体を作って、コスチュームを着せれば良い。
 喜べ青子。これなら、『砲台』でない衣装も似合うぞ』

「人の話を聞け!
 ていうか、そこまで行ったら、別の意味で犯罪でしょうが!!」


なんか、さっきから叫びっぱなしで喉が嗄れてきた。
もう一人の被害者である相棒に、応援を頼もうとして

「……静希君は、十歳の私は、嫌い?」

「いや、どんな有珠でも有珠は有珠だから、俺は別に良いけれど。
 でも、子どもに戻ったら、生活していくのに大変だろう?」

「―――そうね。
 そういうわけだから橙子さん、小児化は、青子だけということに」

「なに、アンタらまで計画に参加してんのよ!!」

『む、そうか。有珠の子ども時代は、今とはまた違った愛らしさがあったから非常に残念なのだが。
 しかし、作るだけなら良いだろう?』

「それくらいなら、かまわないわ」

『そうか。良かったな、草十郎君。妹が二人出来るぞ』

「はい、楽しみにしています」

「アーンーターらーはーああぁぁっっ!!!」



『さて、最後の議題としては、ネーミングだな』

「 …… 」

突っ込んでも突っ込んでも、誰も相手にしてくれないのが、こんなにも疲れることだとは思わなかった。
もうどうにでもして、って感じで、私はソファにへたり込む。

「ネーミング、ですか?」

『そうだ。力あるものには、それに相応しい名が必要だ。
 いくら嬉し恥ずかしい衣装で悪と闘っても、名乗るのが『蒼崎青子』『久遠寺有珠』では、ロマンもなにも無いだろう?
 正体を一発でバラすのも興醒めだ。
 リリカルでコケティッシュで、それでいて強そうな覚えやすいマジカルネームを考えなければならない』

うむうむ、と腕を組んでうなずく人形。

『腹案は、いくつかある。
 王道だが――《魔法使いアリー》《魔女っ子ブルちゃん》というのはどうだ?』

「「 …… 」」

「橙子さん、いくらなんでも古すぎます。
 1960年~70年代でしょう、それは」

『そ、そうか?
 子どものころ、再放送で何度も見ていたのだが……』
微妙に寂しそうに、肩を落とす姉貴。

『では、ぐっと新しく、《魔法のプリンセス ミンキーアオ》《魔法の天使 クリーミーアリ》では?』

「それでも、今の時代設定より5年以上前ですよ」

『《花の子アオアオ》というのもあるが』

「アオアオ重ねるなあっ!」
ここは突っ込まないといけない気がして、叫ぶ。

「時代戻りました。70年代最後です」

『意外と妥協しないな、君は。
 それではいっそのこと、律架と唯架も呼んで、《ブレザー戦士》とでも名乗るか?』

「そこまで行くと、進みすぎです。あと5年は待たないと」

「……ちょっと、草十郎」

ここで、疲れも忘れて思わず口を挟む。

「とっても気になるんだけど。
 なんでアンタ、そのジャンルにそんなに詳しいわけ?」

コイツが生まれ育ったのは、テレビはおろか電気さえも通っていない、山の奥だと聞いた。
なのになぜ、そんなにテレビ番組の趨勢に通じているのだろう。
しかもピンポイントの、かなり限定されたコアなジャンルに。

「 ?
 山で、大人の人から教わったんだけど。
 現代に生きていくための必須事項だから、って」

「 …… 」

コイツの故郷は、奥深い山の中でいったいなにを作ろうとしていたんだろう。


「とにかく橙子さん。
 仮に律架さんと唯架さんを入れたとしても、四人です。最低あと一人はいないと、あれは成立しません。
 できればあと四人、それと幼女も一人。
 あ、もしかして橙子さんが入るんですか?」

頼むから、物理学の数式を解くときのような真剣な眼差しで、こんな話題を熱く語らないで欲しい。
なんか、純朴で爽やかな田舎少年、というコイツのイメージが、ガラガラと崩れていくような気がする。

そんな草十郎の台詞に、姉貴はさも心外だ、という風に腰に両手を当てる。
『莫迦を言え。
 何が哀しくて、私がそんな変質者もどきの格好をしなければならないんだ。
 ああいうのは、他人に着せてその滑稽さや可愛らしさ、それと紙一重の異常性を堪能するからこそ味がある。
 自分で着てしまえば、もはや醜いナルシシズムに過ぎないじゃないか』

胸を張って、堂々と自説を展開する私の実姉。ああ、改めて思います姉さん。あなたは最低だ。

『心配しなくとも、適役はちゃんといる。
 この間、リデルが来たんだろう?』

「「「 …… 」」」

『アレなら、ちょっとおだてれば喜んで参加するはずだ。
 いや、変身コスチュームより普段着のほうが魔法少女しているから、ギャップの妙が感じられないか?』

メイ・リデル・アーシェロット。
つい先日、嵐のようにこの三咲町に現れ、さんざん場をかき回したあげく、去っていったピンク女。
確かに、彼女ほどこの議題にふさわしい奴はいない。いろいろな意味で。

頭を抱える私の隣で、有珠も口に掌を当て心底うんざりした顔をする。草十郎でさえ、重いため息を吐いて俯いている。
それほどまでに、あのピンクが私たちに残した爪痕は大きいのだ。



『まあ、いきなり戦隊モノにすることもないだろう。まずは、二人の業界デビューからだ。
 プリクラだかマニキュアだかいう番組も、もとは二人だったんだからな。
 ネーミングについては、各自宿題ということにしよう。
 さて、議題もまとまったことだし、あとは実行に移すだけ。
 あの爺いが来たら、すまないが1ヵ月ほど待ってほしいと伝えておいてくれ』

そう言って姉貴(自動人形)はおもむろに立ち上がると、

     がちゃがちゃがちゃん

収納していた四本の腕を無駄にスムーズな動作で伸ばし、べたり と腹這いになった。

「な、ちょっと待ちなさい橙子!
 まさか、本気でやるつもり!?」

『心外だな。私はやると決めたら、いつでも本気だぞ?』

くるり と首だけを180度回して、姉貴は私をにらみつける。

『ああ、お前たちのデータは充分に取ってあるから、人形作りについては心配するな。
 本番までに、コケティッシュな変身ポーズとリリカルな呪文を考案し、練習しておくように。
 では』

そう言って、姉貴はテーブルの上にあった8冊のマンガをむんずと掴むと、


     どどどどどどどどどど


来たときと同じく律儀に居間のドアを開け、多脚を器用に動かし、目にもとまらぬ速さで私たちの前から消え去った。



「―――た、大変だわ!早いとこ追いかけて、捕まえないと!!」

呆然としていたのもつかの間、私は慌ててソファから立ち上がり、居間を飛び出そうとしたのだが、

「なぜ?」

相棒の、本気で不思議そうな問いかけに、本気でずっこけた。

「なぜ?じゃないでしょう!
 このままあの馬鹿姉貴を放っておいたら、私たち、本当に魔法少女という名の変質者に変身させられるのよ!?
 それでもいいの!?」

「静希君が気に入ってくれるのなら、私は別にかまわないけれど」

「 ~~~~っ
 あんたは!それ以外の行動原理が無いのかっ!!」

激昂する私と、嫌になるくらいいつもどおりの有珠との間に割って入ったのは、第三の男だった。

「いや、有珠。
 俺も蒼崎に賛成だ。早く追いかけないと」

「「 ? 」」

意外なところでまともなことを言う少年に、有珠ばかりか私まで首を傾げる。

「橙子さん、どさくさに紛れて漫画を全部持っていってしまった。
 借り物なのに、汚しでもしたらあのお爺さんに申し訳ない」

「私らの名誉より、マンガのほうが大事なのかアンタは!!」

「静希君が困るのなら、私も困るわ。
 椋鳥を探索用に全羽放つから、急いで屋敷を出ましょう」

「もーいいわよ!私が悪かったわよっっ!!!」



こいつらとは価値観がとことん違うと、改めて思い知らされつつ。
とにもかくにも、私たちは洋館を飛び出した。

やがてやってくるだろう、第二魔法の使い手とか、不安と頭痛のタネは尽きないけれど。
とりあえず今は、目の前の火種を消すのが最優先。


待ってなさいよ、橙子。
あんたの野望を打ち砕いて、自殺モンの恥から、絶対に逃れてみせるんだから!!








     ------------------------------


   《 次回予告 》



草十郎が持ってきたマンガから、突如抜け出した、ロリッ子魔法少女二人。
あの第二魔法の爺いめ、また気まぐれで世界をしっちゃかめっちゃかにする気ね!

イリヤ?
ミユ?
作品系列違うのに、我が物顔で、パタパタ飛び回るんじゃないわよ!

ああもう!
これじゃ、姉貴の思惑どおり、変身するしかないじゃない!!
行くわよ、アリス!って、こら逃げるな!!



次回、
《蒼きマジョシャン ファイブズ☆ブルー》

『ドキッッ  初体験 赤方偏移!!
~三咲の空はリリカル・バーニング!』


来週も、
あなたのハートに、
拡散波動砲!!










     ------------------------------


   《 モブシーン集 》



「平行世界で、私のニセモノが出回っている気配がするわ!」
「晩メシまでには帰って来いよ、遠坂」


「志貴!このままじゃ、私のアイデンティティーが奪われちゃう!」
「―――いい加減、トシ考えろよ 八百歳……」


「マスコットにしてあげるわ。ありがたく思いなさい、駄犬」
「イヌって言うなあ!」


「やっぱり、時代はマジカルじゃなくてケミカルだと思うんですよ、秋葉様」
「いいから、夕食の支度をなさい」


「ししょー!なんだか、呼ばれてる気がするんです!」
「都古。お前が拳の先に、何を見るかだ」



     ------------------------------



















真っ赤な嘘です。続きません。
続きっこありません。
だれか、続けて。



感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.027644872665405