ここは、私立桜が丘女子高等学校(桜が丘高校)。
いつものような日常がある部室で行われていた。
「あずにゃ~ん」
ショートカットの髪の女の子が、ツインテールの女の子の身体に抱きついて、
「あずにゃ~ん」を繰り返している平沢 唯の姿があった。
後輩として、この問題部活『けいおん部』に入って半年が経とうとしていた。ロクに練習をせず、お菓子を食べる姿に飽き飽きしていた後輩ー中野 梓は、抱きしめる唯を腕で払った。
「やめてください。練習しましょうよ」
練習をしないことに釘を刺すものの、この部室には、今、唯と梓以外誰もいなかった。部長の田井中 律 律の友人 秋山 澪 お嬢様の琴吹 紬 は、用事で家に帰ってしまったのだ。
「いいじゃ~ん!あずにゃ~ん」
まったくお気楽な人なのだろう!後輩の苦言は、一切聞こえていなかったように、『あずにゃん』を連呼する。さすがに、梓もストレスが溜まっていた。
あの部活紹介で弾いた曲や姿に感動したのに、今は、あの時の姿が一切ない。
「唯先輩!」
とおもむろに、梓が唯を呼んだ。
「どうしたの?あずにゃ~」
唯が『あずにゃん』と言おうとしたときだった。
梓の頭の中で、何かがプッツンときたのだ!
抱きしめていた腕を薙ぎ払い、勢いよく立ちあがった。その勢いで、唯は尻もちをついてしまった。
「いたた‥どうしたの?あず‥」
立ち上がった梓の身体は、小刻みに震えていた。
唯は、立ち上がり、梓の身体に触れようとしたときだった。
「触らないでください」
「え?」
何を言われたのか?一瞬、分からなかった。どう答えていいか分からない唯は、硬直してしまったのだ。
「どうしたの?あずにゃん?」
そして、この何気ない一言に梓は、ついに暴走モードに突入した。
「あ!!!!あずにゃん!あずにゃんっていい加減にしてください。誰がいつ、『あずにゃん』って言うのを認めたんですか?練習もまったくしないで、私の身体ばかり触って楽しいんですか?こんな部活入らなきゃよかった。あの時、心が揺れたのに、あれは気のせいだったのかもしれません。唯先輩は、スキンシップするの大好きですね!でも、私は、嫌いなんですよ!いい加減にしてください!部活やめますよ!」
あまりの勢いに唯は、目に涙を浮かべてうつむいてしまった。
空白の5分が過ぎた。
唯は、うつむき。 梓は、鞄を片付けている。
梓が鞄を肩にかけて、部室を出る時だった。唯が、梓の元へかよっていった。
しかし、それは謝りに来たのではなかった。
梓の肩を掴み、梓の身体を自分の正面に合わせた。梓は、見るなり緊張で身体が固まってしまったのだ。
―唯は、梓の腕を引っ張り、部室の窓際まで連れていく。梓は、その腕を払おうとしたが、先ほどまでとは違う力の入った力を払う事ができなかった。
「離してください」 梓は、腕を離すように唯に話しかけた。
唯は、腕を離した。そして、梓の服の襟を掴んで自分の目線に梓の顔をもっていった。
「な‥なんですか?いきなり」
梓は、怯えていた。今までとは、違う唯に戸惑っていたのだった‥。
「梓ちゃんは、随分、溜まっていたようだね!でもね!この誰もいない部室で、本音を言ったら‥どうなるのか?分からなかったようだね!!!」
ドスっ
と梓の腹に唯の拳が突き刺さった。
「あっ!いきなり‥な‥にを」
「梓ちゃん!私に喧嘩売ったんだよね!覚悟できてるんだよね?誰も助けにこないよ。分かってる?」
ドス ドス
何度もお腹に唯の拳が突き刺さる。
「ぐっ‥痛いです」
梓は、あまりの恐怖に打ち負けてしまいそうだった。
そして、襟を離した唯は、右ストレートを梓の鼻面にかました。
バキィ!!!
「‥っ」
梓は、床に膝を落として、鼻を押さえた。鼻が熱くなり、手には真っ赤な血がついていた。
「なに‥するんですか?」
「え?嬉しかった?『まだ、やってほしい』って変態だな!しょうがない。反省するまで、やってあげるよ」
ニコニコしながら、梓の髪の毛を掴み、渾身の右ストレートを梓の顔に打ち込んでいく。
バキィ ドス ガッ ゴツ グシャ
「ゆ‥い‥ごめん‥な‥」
「聞こえないよ」
さらに、馬乗りになり、両手で梓の顔やお腹をひたすら殴っていく。
‥何分たったのだろうか?10分?30分?1時間?分からないほど殴られた梓の顔は、凄まじくボコボコになり、血をふいて痙攣していた。
「やりすぎちゃった‥でも、これで懲りたよね!帰ろうっと」
唯は、鞄をまとめて帰ってしまった。
さらに、何時間経つのだろうか?暗闇の校舎に、一筋の月光りが注いでいた。
梓は、ゆっくりと痛い身体を起こした。
女子トイレまで、壁を頼りに向かい、洗面所の鏡を見た。
そこに、映っていたのは、梓とは思えないほどの潰れた顔だった。制服にも自分の血がついていた。あまりのも痛々しい姿に梓は、固まってしまった。
こうしている間にも、時間は刻々と過ぎて行き、親にバレないように、
自分の部屋に入った。左目が潰れてしまったせいなのか?視界がよく分からない。
それどころか、あまりの出来事に恐怖と後悔が残った。
「『あんな‥ことしなければよかった。痛いのか?痛くないのか?分からない。明日から、どうしよう』」不安だけが残った
どんよりと疲れが溜まり、早く寝ることにした。
~「梓ちゃん!私に喧嘩売ったんだよね!覚悟できてるんだよね?誰も助けにこないよ。分かってる?」
『え?何言ってるんですか?先輩!』
ドス ドス
『痛いです!やめて~』
‥‥‥「やりすぎちゃった‥でも、これで懲りたよね!帰ろうっと」
待てよ!帰るな!
‥‥‥‥‥殺してやる。絶対に、後悔させてやる。
はっ!梓の顔から汗が噴き出していた。『なに‥今の感情?』
~朝 登校~
梓は、休むわけにもいかずに、学校に向かった。
「‥ちゃん」
誰かの声がした。後ろを振り返ると、思い出したくない顔が近づいてきた。
「どうしたの?あずにゃん。その顔、大丈夫?」
まるで、天使の顔を持つ悪魔のような言葉だった。
「あずにゃん?‥」
唯がゆっくりと、梓の顔に近づいて (調子に乗るなよ!わかったか?)
「は…はい」
唯の恐ろしさを知った梓は、唯に逆らう事さえできなかった。
‥‥‥殺してやる! 梓の脳裏に焼かれた感情は、未だ残っていたのだった。