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No.35850の一覧
[0] the white witch, (Fate/SNキャスタールート) 【完結】[bb](2012/11/21 02:55)
[1]  冬の森[bb](2012/11/17 03:55)
[2]  金砂の少女――ある約束(1)[bb](2012/11/17 03:56)
[3]  金砂の少女――ある約束(2)[bb](2012/11/17 03:57)
[4]  黄金の王、裏切りの魔女、――, like Kamran(1)[bb](2012/11/17 04:02)
[5]  黄金の王、裏切りの魔女、――, like Kamran(2)[bb](2012/11/18 05:38)
[6]  黄金の王、裏切りの魔女、――, like Kamran(3)[bb](2012/11/18 05:35)
[7]  the white witch, 1――新たな契約[bb](2012/11/19 02:20)
[8]  the white witch, 2――穏やかな幕間[bb](2012/11/20 18:37)
[9]  胎動(1)[bb](2012/11/20 18:58)
[10]  胎動(2)[bb](2012/11/20 18:59)
[11]  the white witch, 3――ある約束[bb](2012/11/20 19:52)
[12]  崩壊の前奏曲(1)[bb](2012/11/20 20:14)
[13]  崩壊の前奏曲(2)[bb](2012/11/20 20:15)
[14]  崩壊の前奏曲(3)[bb](2012/11/20 21:26)
[15]  the white witch, 4――「覚醒」, I am the bone of――(1)[bb](2012/11/20 22:02)
[16]  the white witch, 4――「覚醒」, I am the bone of――(2)[bb](2012/11/20 22:02)
[17]  the white witch, 4――「覚醒」, I am the bone of――(3)[bb](2012/11/20 22:03)
[18]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(1)[bb](2012/11/21 01:07)
[19]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(2)[bb](2012/11/21 01:08)
[20]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(3)[bb](2012/11/21 02:21)
[21]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(4)[bb](2012/11/21 02:23)
[22]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(5)[bb](2012/11/21 02:24)
[23]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(6)[bb](2012/11/21 02:25)
[24]  エピローグ[bb](2012/11/21 02:54)
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[35850]  the white witch, 2――穏やかな幕間
Name: bb◆7447134b ID:7d3b8248 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/20 18:37
「the white witch, 2――穏やかな幕間」


 そして現在、午前九時を回ったところ。俺は居間に座っていた。
 ……暇だ。
 台所からは、とんとん、と調子の良い音が響いてくる。

 それはつい先刻のことだ。いつも通り(普段より大分遅くはあるが)朝食を作ろうとした俺に、
「そこで待っていなさい、坊や」
 言うが早いか、キャスターが台所へ行ってしまった。どうやら、というか明らかだが、食事を作ってくれるらしい。
 正直、不安だ。何というか彼女は炊事、いや家事全般が駄目な気がする。それはあくまでも直感、しかし未来視じみた予感がする。というかこの先のオチが見えるような。
「いや、大丈夫だよな。キャスターなんだから、薬の調合とかも得意だろうし」
 そうだ、印象だけで中身を決めてしまうのは良くないし。きっと大丈夫だ。
「坊や」
「はいごめんなさい!」
「? とにかく出来上がったから、運ぶのを手伝って頂戴」
「ああ、分かった」
とにかく食事だ。正直空腹も限界だし、素直に頂くとしよう。



 そうして朝食を運んできたわけだが。
「……」
 俺は思わず沈黙していた。
「どうしたの、坊や」
「……まともだ」
「どういう意味かしら!?」
 キャスターの料理は、思いの他まともだった。芳ばしい朝餉の匂いは、こちらの食欲を誘う。素直に美味しそうだ。
「いや。キャスターって、料理とか出来たんだなって」
「当然よ。要領は調薬と似たようなものだし。柳洞寺でも、私がマスターの食事を作っていたのよ」
「へえ」
それは意外だ。あのキャスターが、そこまでマスターに尽くしていたなんて。ひょっとして、根は純真だったりするんだろうか、こいつ。
「ほら、早く食べなさい。折角作ったんだもの、冷めてしまってはもったいないわ」
 そこで、はてと首を傾げる。
「って、キャスターは食べないのか?」
「何を言っているの。私はサーヴァントなのよ?」
 それに、キャスターはそう答える。そうか、サーヴァントは霊体、基本的に食事はいらないんだったっけ。……彼女は特別、何故か俺からの魔術供給が無かったから、食事でそれを補っていたんだった。 だからキャスター自身はあえて食事をする必要はない。
 だが、
「だとしても、食べられないわけじゃないんだろ?折角美味そうなご飯を作ってくれたんだから、どうせならキャスターも食べないか?」
 そうだ、何であっても彼女がここにいる以上、美味しい思いはした方が良いに決まっている。食事は皆でした方が良いに決まっているし、何より。
「俺だけ食べて、キャスターは黙って見ているだけなんて、そんなのは駄目だ」
 本心から、そう思う。
 その言葉にキャスターは、
「……ええ、貴方がそう言うのなら、私はそれに従いましょう」
そう、懐かしそうに微笑んだ。
 正直、キャスターは超がつくほどの美人だ。そのキャスターに微笑まれると、何というかつまり……というわけで、ぷいと顔を背ける。
「まあ、実を言うと柳洞寺でも食事は頂いていたし。って、どうしたのかしら坊や」
「いや、何でもない」
 何とか気持ちを落ち着けてそう答える。危ない、こういう所がばれたら思う存分いじられる気がする。それこそ遠坂クラスで。はは、笑えない。
「ま、まあともかく。ほら、俺の分の余りもあるだろ。足りない分は二人で分ければ何とかなるだろうから、折角だし二人で食べよう」
 どうにかごまかし、キャスターを促す。その食事。二人分には少し足りないけれど、一人ではなく二人で食べるのなら、不足分は気にならないだろう。



 というわけで、キャスターの手料理を初体験したわけである。
「……」
 見た目は良かった。美味しそうな匂いでもあった。
「ちょっと、食べたんだったら何か言いなさいよ。美味しい!とか美味い!とか絶妙!とか」
 プラス評価限定か。
「……」
 けれども沈黙は続く。
「……」
 そうして一通り食べてみた後、ついに俺は口を開いた。
「絶妙――」
「ふふ、当然よ」
「――に味が微妙」
「何よそれ」
「いや、言葉通りなんだけど」
 そう、キャスターの料理は、一応料理にはなっている(一部怪しいのもあるが)。だが正直味付けがおかしい。何というか、ストライクと思いきやフォークボール、みたいな感じだ。
「……それはつまり」
「美味い、とはいえない」
「へえ、私の料理にケチをつけるつもりかしら?」
 と、途端に暗いオーラを立ち上らせるキャスターさん。……コワイヨ、マジデ。
「いや、でも嘘を言っても仕方ないだろ?別に料理自体は悪くないんだし、そんなのは訓練すれば上達するだろうし」
 だが、いくら怖くても嘘をつく気はない。……思えば桜に料理を教えた時もそうだった。大切なのは向上心、これは何についても言えることだと思う。
「ふん。あの人は文句なんて言わなかったんだけど……嘘をつかない、という点では似ているのかもね」
 ぼそりと何かを言うキャスター。何か悪口を言われている気もするけど、どことなく嬉しそうだ。
「なんだって?」
「何でもないわ。それより、そんなに偉そうなことを言う以上貴方は料理が出来るんでしょうね?」
 む、俺に矛先を向けてきたか。出来ないならホルマリンね、なんて言ってるし。
 だが甘いぞキャスター。少なくとも厨房において、衛宮士郎が破れることなど……そんなにないのだ。
「よし分かった。それじゃ、昼飯は俺が作るから」
 あくまで自然に言う。キャスターもそれを了承した。……ふふふ、みてろよ。
「それじゃ昼飯をお楽しみに……ごちそうさま」
 そう言って立ち上がろうとする。
「あら?言葉の割に全部食べているじゃない、坊や」
「? そんなの当たり前だろ。気持ちのこもった料理を残すわけないじゃないか」
 不思議な質問に、当たり前の返答を返す。いや、白米の上にお好み焼きをのせられたりしたら別だけど。
「な、気持ちなんて別に」
「お茶でも入れてくるよ」
 まだ何か言っているキャスターを置いて厨房に向かう。
 キャスターの手料理、味は確かにヘンテコだったけど、手間がかかっているのは良く分かった。ここは、秘蔵の茶葉で応えるとしよう。



 食後の一服。衛宮家基準で最高級のお茶を飲みつつ、こたつで茶菓子にテレビ。何ともまったりとした時間である。
 ずず、と一口お茶をすする。向かいにいるキャスターも同様。何とも和の雰囲気に馴染んでいる。
 しかしお互い無言のままだ。何というか、こう言う状態は苦手だったりする。
 とにかく何か話そうと思い立って、
「「あの」」
 言葉がかぶった。
「何かしら」
「いや、お先にどうぞ」
「そちらこそ」
 何とも気まずい。そういえば、契約してからまだ一日目だもんなあ。
 とはいえこれではらちがあかないので、俺から話すことにする。
「俺、昨日の契約の後から気を失ってたみたいなんだけどさ。あれからどうなったんだ?」
 あの後遠坂は帰ったんだろうけど。見たところ家の破損箇所も直ってるみたいだし。
「どうもこうもないわよ。あのお嬢さんが家を出ていって、私が貴方を部屋に運んだだけ」
「あれ、でも屋根とか直ってるぞ」
「ああ、それはついでに直しておいただけよ。簡単な魔術よ、大したことではないでしょう?」
 と、平然と言うキャスター。……俺としては大した魔術だと思うんだけど。
「というかそもそも何で俺は倒れたんだ?」
 そこでふと疑問が浮かぶ。まあ昨日も色々あったわけだから、単に疲労が限界を超えただけ、と言えばそれまでなんだけど。
「何故も何もないでしょう。坊や程度の魔力の持ち主が、サーヴァントと再契約をして平然としていられるとでも思っていたの?」
「え」
 どういうことだろう?再契約とか言われても、土蔵で彼女を召喚したあの時は別に以上はなかったんだけども。
 そんな俺にキャスターは呆れ顔で言う。
「だから、サーヴァントと再契約すれば召喚の時程ではないとはいえ、それなりに魔力を持っていかれるのよ」
 ああそうか、と、それで納得が言った。彼女との契約には不具合があったらしく、俺からの魔力供給が全く出来なかったんだった。それどころか例の治癒能力、あれは逆に彼女の魔力が俺に流れてきているからだろうと、遠坂が言っていたっけ。
 その旨をキャスターに伝えると、彼女は一瞬だけ驚いた顔をして、それから考え込み始めた。
「……成程ね。ええ、それなら現状もあまり不思議じゃない。理由はまだ分からないけれど……」
 すっかり自分の世界に埋没しているキャスター。何だか遠坂みたいだが、もしかして魔術師っていうのは皆こんななのだろうか。そう思いながらも黙って待つ。経験上、この状態の人に話しかけるとろくな事がない。
「そうね。そう考えるとどうしようもないのかしら、これは」
 そこで思考が一段落したみたいなので、声をかけてみることにする。
「良く分からないけど、納得したのか?」
「ええ。まあ、坊やに話しても仕方がないことだから、気にしなくていいわ」
 そうかと納得する。俺に分からないようなことなら、話を訊いても仕方がない。
「で、キャスターの話は」
「え?」
「だから、今ので俺からの話は終わったろ。次はキャスターの話だ」
「え、ええ、そうだったわね。勿論覚えているわよ」
 ……忘れてたな。
「で、なんなんだ?」
「別に大したことではないのよ。先程の話で疑問も解決したし。ただ、貴方の体は大丈夫なのかって」
 確かにそうだ。先の戦いの傷は、彼女が消滅するまで働いていた治癒能力のおかげか、大分回復している。
「見ての通り大丈夫。背中にまだ少しだけ違和感があるけど、特に問題はないぞ」
 ありのままを伝える。
「背中、ね。まあ、痛みがないのならいいでしょう。けれどもうセイバーはいないのだから。私のマスターである以上、無茶は控えなさい」
 それは彼女なりの心配の表現なのだろう。
「分かった。無理はしないよう気を付けるよ」
 だからそう答える。契約を交している以上、俺の命は俺だけのものではないのだから。
「ええ、分かればいいわ……」
 と、キャスターの動きが止まる。
「どうしたんだ?」
「このお茶、なかなか美味しいわね。……お代わり」
 すっと湯飲みを差し出すキャスター。こうして、お茶の時間は過ぎていくのであった。



「さて、どうしようか」
 昼飯の準備まではいささか時間がある。かといって、暇だから出かけようともいかないわけで。
「暇だ」
 聖杯戦争中にも関わらず、こんな台詞を吐いてしまったりする。
 けれども、ここ数日あまりに色々なことがありすぎて、こういう時間はなかった。ゆったりとした時間、あまり深く考えず、足の向くままに過ごしてみよう。

 そう考えて、行き着いた場所。
「……参ったな」
 それは先日まで毎日のように、朝食後に通っていた場所――つまり道場だった。そうして、何とは無しに竹刀を握ってしまっている。
 朝食後の鍛錬、それはもう体に染み付いてしまっていたのだろう。その上たった数日の事だったのに、まるで昔からずっと続けていたかの様に、竹刀まで握ってしまっている。
 そうして、こうしていると嫌でも彼女のことを、

 ――それは駄目だ。

 ……気持ちを切り替える。俺は未だ、その事実を受け入れ切れてはいない。自分の中で答えを見出せていない以上、その行為は無様なものにしかなり得ない。

「……よし」
 何にせよ折角道場に来たんだ。することがないなら、素振りでもして――

「坊や、何してるの?」

 そう思った所にキャスターが現れた。そちらを見ずに、俺は答える。
「何してるって見ての通り。どうせ暇だから、素振りでもしてようかなって」
「素振り? 別にいいけれど、そんなことをして何か意味があるのかしら?」
「別に意味なんて無いけどさ。強いて言うなら、少しでも戦いを勝ち残れるようにというか」
 意味がないと言えば確かにそうなんだけど、ただそれを認めるのも癪と言うか何と言うか。咄嗟にそんなことを言って――言ってしまい――キャスターが、そう、と言いかけてにやりとする。
「そんなことをしても、何の進歩も望めないわ。どうせなら、魔術の回避訓練なんてどうかしら」
 ……はい? と振り返ると、何やら魔力を漲らせたキャスターが、とても楽しそうに笑っていた。
 嫌な予感、いや確信を持ちながら何も言えない俺に、
「じゃあ、上手く避けなさいな」
 とても良い笑顔で、キャスターは――

 ギュンッ!

「うわっ!?」
「次!!」
「ぎゃっ!?」
「次!!」
「ちょ、まてっ」
「問答無用!!」

 魔術をぶっ放して来たのでありました。

「死ねぃ!!」
「わっ、今死ねって!!」
「気のせいよ!」
「っ、今掠ったぞ!!」
「それでこそ修練よ」
「な、なんでさ~!?」

 そんな感じで、昼前までこってり絞られたのであった。
 ……うう、サーヴァントってこんなのばかりなんだろうか。



「死ぬかと思った」
 あの地獄からしばらく後。ようやく落ち着いた俺は、再び居間でまったりしながら、ジト目でキャスターに言った。
「あらそう」
 その返答がこれである。私は悪くありません、と言いたげな表情。
 ……だが甘い。そういう奴に限って、内心罪悪感を持っていたりするものだ。コレ、経験則。どこかのあかいあくまからの。
「死ぬかと思った」
「そう」
「死ぬかと思った」
「……」
「キャスター」
「なに?」
「死ぬかと思った」
「……」
「死ぬかと――」
「うるさいわね!!掠り傷で済んだんだし道場に損壊は与えなかったんだし、別に良いでしょう!」
 赤くなって怒鳴った後、それは少しは悪いとは……だのと呟くキャスター。こいつ、やはり遠坂タイプか。
「うん、まあいいんだけど」
 実際、ためになったといえばなった気もするし。
「……坊や、ひょっとしてこの私をからかっているのかしら?」
「いや全く」
 ……遠坂に似ているとは言っても、そこはやはり魔女とか呼ばれていた方なわけで。下手に怒らせるとどうなるか分かったもんじゃない、だからこの位にしておく。
「ふん、まあいいわ」
 興味がなくなったのか、話を切り上げるキャスター。そのまま自然にテレビのリモコンを手に取る。
 めまぐるしくチャンネルが変わっていく。昼ドラはやってないの? なんて言いながらリモコンを押すキャスター。……ホント、英霊ってのはこんなやつばばかりなんだろうか。
「ピン子は何処よ、ピン子は」
 文句を言いながら、またチャンネルを変える。

「……では次のニュースです」

「あれ、これって」
 画面が映像、古い山道に切り変わる。何の変哲もないローカル局のニュース番組。そこに映ったのは、一成の実家、柳洞寺だった。
「……」
 不意にキャスターの表情が険しくなる。それもそうだろう、何せこの前まで拠点にしていた場所なのだから。

「――本日未明、深山町にある寺院で、男性の遺体が発見されました」

「!」
 
遺体、という言葉に思わず反応してしまう。

「遺体に外傷はなく、死因は現在のところ不明。引き続き、調査を続けるとの――」

 死因が不明? なら原因ははっきりしている。この町、この状況において、理由は聖杯戦争に決まっている。
 ……ぎり、と奥歯を噛み締める。死んだのが魔術師か、それとも一般人なのかは分からない。…けれども、犠牲者が出たことには変わりないんだ。
 だから考えてしまう。もし、俺に力があれば。俺がもっとちゃんとやっていれば、この人は死なずに済んだのではないか――

「ここで続報です」

 そんなことを考え、うつむいていた俺の耳に、ニュースキャスターの声が響く。それでふと顔をあげて、

「遺体の身元が確定致しました。深山町柳洞寺在住の教師、葛木宗一郎さん」

 その名前を、聴いてしまった。
「……葛木、先生が?」
 彼が柳洞寺に住んでいたというのは知らなかったが、そんなことはいい。そんなことよりも、俺の知っている人間が。俺達の身勝手な戦争の為に、死んでしまったというのか。
「……くそっ!!」

 テーブルを力一杯に叩く。この戦い、俺は一人の犠牲者も出したくないと思った。その意味を、身近な人が死んで、今更に実感するなんて。
「……キャスター、もういいだろ。テレビ、消してくれないか」
 いたたまれなくなり、そう言った。葛木先生の分、なんて言うつもりはない。命は一人に一つ限り、代用なんて出来ないんだから。けれども、その死に意味があるというのなら、それは俺がつくる。この先に、決して犠牲者なんて出さない。
「キャスター?」
 と、無言のままのキャスターを見る。
「テレビ、消しても」
 いいか、と。……そういいかけた所で、その様子に気付く。
「……」
 キャスターの表情は変わらず、あくまで無表情のままだ。

 けれども、おれには分かる。そこに込められた、ただ唯一の感情は――

「……ええ、もういいわね」
 それだけ言って、キャスターはテレビを消した。その意味。マスターが死んでしまったといったキャスターと、柳洞寺で死んだ葛木先生。それは詮索してはいけない、俺が入り込むべきでない領域だ。だから、そこから導かれる意味を深くは考えず、思考を切り替える。


「そうだ、キャスター」
「なにかしら」
「アサシンってどうなったんだ?」
 話題を逸らし、ふと思ったことを切り出してみる。
 アサシン。彼女にさえ拮抗したというその剣豪は、柳洞寺の門番だったとその少女は言っていた。それなら、少なくともキャスターと協力関係にあったということだけど。
 その問いに、ふん、と顔を逸らすキャスター。
「知らないわよ、あんなヤツ。……全く、肝心な時に役に立たないヤツだったから」
 とっくに消えているでしょう、というキャスター。
 ……そうか、それは残念だ。
「なぜかしら」
 表情を読まれたのか、キャスターが不服そうに訊いてきた。
「だってさ、アサシンとは協力関係にあったんだろ? まだ生き残っているなら、また協力しあえたかもしれないじゃないか」
 俺がアサシンに会ったのはほんの一瞬だったけれど、アイツは、気に入ったヤツを裏切るようなことはしない、そう断言できる。だから、生き残っているなら、きっとキャスターに協力してくれたと思う。
「随分アサシンを高く買っているのね、坊や」
「え」
 それに、不服そうに睨みつけてくるキャスター。
「いや、俺はだな」
「いいから、お昼の準備でもしてらっしゃい。不味いものをだしたら、承知しませんからね」
「あ、ああ。分かった」
 有無を言わさぬ迫力に、黙って従うことにする。
「それじゃ、期待しててくれ」
「ええ、不味い料理の代償を考えておくわ」
 不味い決定か。そう口に出すのは怖いので、黙って厨房に向かう。
 しかしさっきのはなんだったんだろう。やっぱり、マスターが他のサーヴァントを誉めたりしたら悔しいものなんだろうか。
 それなら少し嬉しい。俺みたいな半人前の魔術師でも、マスターとして認めてくれてるってことなんだから。



 その戦場に、俺は一人立ち尽くしていた。精神を集中する。イメージする
のは、常に最強の自分。
「……さて、やるか」
 というわけで、昼飯を作ろう。

 厨房(戦場)の準備を整え、食材を取り出す。目的は唯一つ、キャスターを満足させる料理を創り出すこと。
 先程のお茶、あれは確かに美味だったろうが彼女を満足させるには至らなかった。故に。
 今度こそはと、創る料理の名は"焼そば"。
 誰もが俺が和食を作ると予想しただろうが、それは間違いだ。……冷蔵庫から賞味期限のやばい麺が沢山見付かったからなんだけど。藤ねぇめ。
 だが、焼そばを雑な料理と一言で片付けてしまうなど有り得ない。本当に美味いそれを作りたいのならば、あらゆる作業、あらゆる調理に高いスキルが必要だ。故に、この場この戦いにおいて、これ以上にふさわしい料理など……沢山あるけど……まあ、焼そばもありだろう。
 言うまでもなくこれは戦いだ。彼女を満足させられなければ相応の代償が待っている。
 故に、その呪文を紡ぐ。
「――麺製開始(クッキング・スタート)」
 全身の細胞、全身の感覚神経を稼働させる。
 ここに、調理は開始された。

 野菜を切り、その後に肉を切る。無論、フライパンは温め始めている。家
庭の厨房では、火力が足りなすぎる。それは紛れもない事実。……だが、そんなのは関係ない。火力が足りないのなら、調理の腕で補ってやる――!!
 動作は際限無く加速し、その速度は主観的に光速を越える。
 調理過程を組みあげる。包丁はまな板上を踊り野菜は中華一番の様にボールに収まり麺は程良くほぐれフライパンは加熱し野菜を入れ肉を入れ麺を入れ、あらゆる行程を完了(クリア)し尽くし――

 ――ここに、ソースを絡めて麺を成す――!!!

「出来た」
 作った焼そばを持って、居間に向かう……くそぅ、呑気に昼ドラを見てるし。だがその余裕もここまでだ。
 行くぞキャスター、お腹の準備は十分か。



ぴこぴこ
「……感想は?」
 昼飯を出し、キャスターが食べ始めたところで。徐に訊いてみた。何せある意味こっちの命がかかっている。正義の味方が飯が不味かったから殺された、なんて笑い話にもならないし。
ぴこぴこ
 対してキャスターは無言だ。箸は進んでいるから不味いということはないだろうけど……
「おい、キャスター」
ぴこぴこ
 返答はない。
「なあ、キャスター」
ぴっこぴこ
 返答はない。ないが、
「美味いんだろ?」
「な、なにかしら?」
 ようやく口を開くキャスター。
「だから、飯が美味いんだろって」
「ふ、ふんっ、不味くはないわ」
ぴこぴこ
「そうか」
 その言葉に、思わず顔が綻ぶ。
「な、何よ、美味しいとは言ってないのよ?」
「ああ、そうだな」
 それでも、顔の緩みは止まらない。
「…ふんっ」
 ぷいと横を向いてから、食事を再開するキャスター。
ぴこぴこ
「……」
ぴこぴこ
 うん、満足してるみたいだ。
ぴこぴっこ
 何で分かるかって?
ぴっこぴこ
 いや、動いてるから。耳が。
 食事中、一口毎に長い耳をぴこぴこ動かしているキャスター。何とも分かりやすく反応する耳である。……ちょっと触ってみたいし。そんなことしたら殺されそうだが。
 穏やかな光景、平和な日々。うん、俺もぱっぱと食べてしまおう。


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