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No.35850の一覧
[0] the white witch, (Fate/SNキャスタールート) 【完結】[bb](2012/11/21 02:55)
[1]  冬の森[bb](2012/11/17 03:55)
[2]  金砂の少女――ある約束(1)[bb](2012/11/17 03:56)
[3]  金砂の少女――ある約束(2)[bb](2012/11/17 03:57)
[4]  黄金の王、裏切りの魔女、――, like Kamran(1)[bb](2012/11/17 04:02)
[5]  黄金の王、裏切りの魔女、――, like Kamran(2)[bb](2012/11/18 05:38)
[6]  黄金の王、裏切りの魔女、――, like Kamran(3)[bb](2012/11/18 05:35)
[7]  the white witch, 1――新たな契約[bb](2012/11/19 02:20)
[8]  the white witch, 2――穏やかな幕間[bb](2012/11/20 18:37)
[9]  胎動(1)[bb](2012/11/20 18:58)
[10]  胎動(2)[bb](2012/11/20 18:59)
[11]  the white witch, 3――ある約束[bb](2012/11/20 19:52)
[12]  崩壊の前奏曲(1)[bb](2012/11/20 20:14)
[13]  崩壊の前奏曲(2)[bb](2012/11/20 20:15)
[14]  崩壊の前奏曲(3)[bb](2012/11/20 21:26)
[15]  the white witch, 4――「覚醒」, I am the bone of――(1)[bb](2012/11/20 22:02)
[16]  the white witch, 4――「覚醒」, I am the bone of――(2)[bb](2012/11/20 22:02)
[17]  the white witch, 4――「覚醒」, I am the bone of――(3)[bb](2012/11/20 22:03)
[18]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(1)[bb](2012/11/21 01:07)
[19]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(2)[bb](2012/11/21 01:08)
[20]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(3)[bb](2012/11/21 02:21)
[21]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(4)[bb](2012/11/21 02:23)
[22]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(5)[bb](2012/11/21 02:24)
[23]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(6)[bb](2012/11/21 02:25)
[24]  エピローグ[bb](2012/11/21 02:54)
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[35850]  黄金の王、裏切りの魔女、――, like Kamran(3)
Name: bb◆7447134b ID:9c7a4fc0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/18 05:35
 驚きは一体誰のものか。その場の視線を独占したその男。黄金の男は悠然と、真紅の眼でセイバーを見据えていた。
「久しいなセイバー。実に10年振りの再会だ……と言っても、お前には時間の感覚など無かったか」
 親しみを被ったような声で、男が嗤う。
「馬鹿な。何故貴方が現界しているのですか、アーチャー」
 対してセイバーにあるのは驚愕と、徹底的な敵意。
「セイバー、アーチャーって」
「無論あのアーチャーではありません。彼は、第四次聖杯戦争。前回の戦いにおいてアーチャーだった男です」
 前回の聖杯戦争……? だがそれはおかしい。聖杯戦争をが終了した後、サーヴァントが現界し続けられる筈がない。その疑問はセイバーも抱いているのだろう。
「前回の戦い、それは私が聖杯を破壊することで終わった。戦いの勝者でも無い貴方が現界し続けられる理由など」
 そんな筈はないとセイバーは言う。アイツが何故現界し続けていられるのか、それは分からない。だが一つだけ。
「セイバー、アイツはサーヴァントなんだろうけど、サーヴァントじゃない。アイツは霊体じゃない。俺や遠坂と同じように、肉体を持っている」
 それは間違い無い。それでも現界に魔力は必要だ。だがあの男には、魔力の供給元たる魔術師は必要であっても現世との繋がりとしての魔術師は必要ないだろう。
「なっ……」
 セイバーが驚愕する。…受肉したサーヴァント、それはつまり。あの黄金の男は願いを叶えたと言うことではないのか。
「それは違う。確かに我の願いは叶ったのかもしれんが。これは聖杯の奇跡(しんぴ)の為などではない。強いて言うなら呪いと言ったところか。セイバー、貴様が壊したあの聖杯、そこから溢れ出してきたモノを、我は浴びたのだ」
 聖杯の中身。それがどんなものであるかは分からない。だがこのサーヴァントはそれを呪いと称し、その呪いを浴びたことによって聖杯とのパスが出来たのだと言った。
「前回の聖杯戦争は不完全に終わった、故に聖杯は使い切られることはなかった。よって今回の聖杯には、前回の余りが使われている。ならばそこに繋がる我が現世にあるのも道理よ」
 そうだろう、と嗤う金のサーヴァント。
 ……どうやら、奴はセイバーしか見ていないらしい。俺もキャスターも眼中に無いという感じだ。だが、だからこそ迂濶には動けない。それをしてしまえば、あの男は、
「何者かは知らないけれども。私の邪魔をした罪、償って貰うわよ――!」
"――Αερο、Κεραινο"
 キャスターが魔術を紡ぐ。込められた魔力は、間違い無くA級。現代の魔術師には決して再現できない"高速神言"。その魔術が、あのサーヴァントを捉える。
 直前、ぱちんと指を鳴らす音が響き、空間が歪む。男の前に盾が展開する。7枚葉の皮の盾。キャスターの魔術、A級の五連弾。五つの神秘は、それ以上の神秘の前に容易く霧散する。
「そんな――!?」
 キャスターの驚愕。それを嗤って、男は、
「目障りだ雑種。――誰が攻撃を許可したか」
 死の魔弾を、繰り出した。
「く――」
"――Μαρδοξ"
 キャスターの前に結界が生み出される。イメージは石英。あのバーサーカーさえ凌駕する、絶対の守り。

――――

 水晶、というイメージがいけなかったのだろうか。不破の結壊はあまりに容易く、硝子のように粉砕された。
「ア――」
 彼女の守りとて一流だった。防げたものはある。ただ相手が超一流だっただけ。キャスターに迫る魔弾は三。それらが彼女の体を――
「アアアアア――!!」
 突き刺さる三つの宝具。両腕と左脚、剣はそこに突き刺さり、キャスターを封ずる。結果彼女の手足は拘束された形になる。
 その様を男は嗤い続ける。そうして、
「実力の差は分かったな。それでは終いだ。せいぜい良い声で哭け」
 最後の魔弾が現れる。当然のように一級の宝具。狙い過たず、その槍はキャスターを貫き消滅させることだろう。

 その光景を俺は見ている。圧倒的な力の差、戦いとさえ呼べない一方的な殺戮。

 ――それは、

 魔弾がまさに放たれようと、

 ――許していいことなのか。

 音速の魔槍、その矛先が彼女を捉えて、

 ――衛宮士郎が、―――が――

 背中の痛みが、爆発する

「メディア――!!」
 無意識の内に走り出す。
「シロウ、何を!?」
 セイバーの声は聞こえない。おれは自己に埋没する。
「うおおおお――!!」
 彼女の前に仁王立ちする。…あの魔槍。あれは掠ることさえ許されないモノだ。僅かでも当たれば、それで命を持っていかれる。
"――投影開始(トレース・オン)"
 だから、防ぐなら完全に。一撫での風さえも通さない――!!
 魔弾が迫る。八節を組み立てる。イメージは今ここに。ヤツが使ったその花弁。そっくりそのまま、
「投影完了(トレース・オフ)、」
 幻想を結びて盾となす――!
「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)――!!」
 展開される七枚刃。剣にして盾、盾にして刃。おれの全魔力を以て、絶対の宝具を防ぐ――!
「ガ――」
 魔槍がぶつかる感覚。想像以上の圧力。一枚目が砕け散る。七枚刃はおれ俺自身だ。自身を削って、相対する宝具の神秘を削り取る。
「ア――アア」
 二枚三枚――防ぎ切れない衝撃。だが止めないと。そうしないと、後ろで震える、その少女は――
「ア――アアああアああアアア――!!!!!」
 四枚五枚六枚――
 消滅する神秘。ぼろぼろの七枚目。…がきん、という音。

 静寂の中一陣の風が吹き渡る。あと、一押しだった。その一押しがあれば……最後の花弁は、引き裂かれていただろう。ぼろぼろの盾と傷一つ無い魔槍。だが、魔弾はここに停止していた。
「は――あ」
 だが体はぼろぼろだ。その上、この一撃を止めたとはいえども、奴は何の被害も負っていない。
「シロウ、どういうつもりです」
 セイバーの声が冷たい。それはそうだ。俺は敵のサーヴァントを、今まさに戦っていた敵を助けたと言うことになるのだから。
「……分からない。これは戦いじゃない、殺戮だ。そんなモノは許せない」
 きっとそれが理由。俺が、衛宮士郎がキャスターを助けた理由。それは事実。……ただもう一つ――
「興が削がれた。邪魔をするな、雑種」
 この場で唯一動じていない男。黄金のサーヴァントは何でもないことのようにそう言い。そうしてその後ろの空間が歪み始める。
「道化は好かん。まとめて消えろ」
 五つの魔弾。先程と同数の宝具が一斉に放たれる。そして俺にはもう、それを止める力は無い。飛来する宝具の群れ、それは俺を切り裂き、その後ろのキャスターをも殺し尽すだろう。
 宝具が迫る。もう目の前。そして今まさに、

――琴!!

 突き刺さらんとした宝具群。死の運命は、最大の護りによって、吹き飛ばされた。
「セイバー」
「シロウ、怪我は」
 俺を後ろにかばいながら、騎士王は英雄王に対峙する。
 ……そう、英雄王。先程からアイツが放っているのは紛れもなく宝具。幾多の宝具を使う英霊――そんなものがいるとしたら、同じ英霊では太刀打ち出来ない。どんな英雄にも――その英雄が強ければ強い程に――その死を決定付けた要因があるのだから。
「どういうつもりかしら、セイバー」
 自身を地に張り付けていた宝具が消え、剣の拘束から外れたキャスターが苦しげに言う。
「勘違いするなキャスター。私はマスターを護っただけだ。私の行動に、貴女は何の関係もありません」
 剣を構え直しながらセイバーが言う。敵対するサーヴァントを救おうとするという愚行に出た俺を。彼女は変わらず、マスターとして認めてくれていた。
「シロウ、貴方が何故こんな行動に出たのか今は聞きません。ですが、貴方はいつも無茶をしすぎだ」
 全く、と溜め息を吐くセイバー。……む、確かにそうかもしれないけれど。
「俺だって無理はしたくないさ。でも、無茶なことくらいなら――試してみる価値はある」
無理と無茶。不可能なことと困難なこと。いつだって俺は、その境を見極めていく。誰かを救うことが無理にならないよう、人々が幸せであるようにすることが、無茶の範疇を越えないように。
「全く、貴方は本当に手間がかかる。ええ、やはり私が護らねばなりません」
 そう、嬉しそうに語るセイバー。それはこっちの台詞でもあるけれど。今はその言葉に甘えておこう。
「そうか、そこの雑種はセイバーの寄り代だったな。……よかろう、今の愚行は許す」
 だからどけと。キャスターが殺されるのを黙って見ていろと、男は嗤う。……そんなことは出来ない。一度救うと決めた以上。俺は、諦めてはいけないんだ。
「退く気はないか。ならば死ね」
 二度は許さんと。その意思に応えるように、男の背後の空間が歪む。現れる十の刃。その全てが俺を捉える。
「かわせよセイバー。お前を殺す気はない。後で屋敷にいる魔術師とでも再契約させれば問題はあるまい」
 宝具が唸る。その猛りが、俺達を襲う――!
 飛来する十の宝具、向かい撃つ一の聖剣。圧倒的な物量差、それがセイバーを襲う。

――琴!
――琴琴琴琴琴琴琴琴琴!

だがセイバーは最良のサーヴァント。その全てを防ぎ尽す――
「邪魔をするか、セイバー」
 苛立たしげに見据え、男が言う。
「何故も何も、私はシロウの剣だ。マスターが戦うと言うのなら私が退くことは有り得ない」
「騎士の本分とでもいうつもりか。まあいい。ならば少し躾けてやろう」
 先程の倍。二十を越える宝具がセイバーを狙う。くそ、俺を護りながらの戦いでは、セイバーは攻勢に出られない。
「……ここは凌いで、敵の隙に宝具を打ち込みます。マスター、決してそこを動かないように」
魔力を使い切った反動で俺は満足に動けないし、それ以前に下手に動けば宝具の直撃を受ける恐れがある。故にセイバーは守勢の継続を選んだ。……俺は何も出来ない。下手に動けばむしろセイバーの邪魔になる。
「言っておくが、我は優しくはないぞ? 腕の一本は覚悟しておけ」
 二十の魔弾が放たれる。その様はまるでマシンガン。一発一発がミサイル級の弾丸が、人体を標的に迫ってくる――!

――琴琴琴琴!

「く――」

――琴琴琴琴琴!

 その雨を防ぎ切るセイバー。宝具とはいっても、それらはただ射出されているだけに過ぎない。二十の弾は、彼女を傷付けることは出来ないだろう。

 そう、砲撃がそれで終わりであったのなら。

 未だ魔弾が放たれ続ける中。英雄王が口を歪める。
「そら、どうしたセイバー!次だ、まだ続くぞ!」
 二十三十――更なる宝具が顕現する。続く一斉掃射。このままでは、いくらセイバーといえども限界が来る。
「く――う……!」
 その重圧にセイバーがうめく。仮に宝具を避けたり受け流したりしているのなら、彼女ならまだまだ持ち堪えられる。だが後ろに俺達がいる今、彼女は全ての宝具を受け止め、叩き落とさなければならない。もしこの中に特異な概念を持つ宝具でもあれば、それだけで終ってしまう、綱渡りじみた均衡。それでさえ、こうして終わりが見えてきている。

――琴琴琴琴……琴琴琴…琴!!

「次だ、これはどうかな!」
 銃撃は続く。それを防ぐセイバーは擦り傷だらけ。
 百を超える宝具がセイバーを襲う。それは駄目だ。これ以上は、受け切れない――
「あ……!」
 斬り付け、叩き、粉砕する騎士王。だが、たった一振り。その護りを抜けた一本が。
 ザクリ、と。セイバーに突き刺さった。
「セイ――」
「限界か。これで分かったろう、騎士王。我と貴様の格の違いが」
 一陣の風が吹く。男が嗤う。……くそ、何で俺は……!!
 うつ向いたまま固まっているセイバーを見据える。吹き荒ぶ突風。表情は読めない。旋風はますます強くなる。血に濡れた彼女。そうして、その唇は――
……待てよ、突風?

――その唇は、笑っていた。

 旋風が爆発する。姿を現す黄金の剣。
「隙を見せましたね、アーチャー…!」
「ぬ――!?」
 それはまさに予定通りだったのだろう。敵の一振りを受けたセイバーは、血に濡れた口でその真名を解放する。
「約束された(エクス)――」
「チィ……!」
 空間が歪む。ヤツが宝具を取り出そうとする。だが遅い。例えどんな宝具であれ、その出力においてあの聖剣を上回る宝具などあるわけがない。ヤツの優位性は、彼女に宝具を使わせた時点で崩れたのだ。
「――勝利の剣(カリバー)!!」
 聖剣が放たれる。何をも寄せ付けない最高純度の光の束。
 ヤツが剣を取り出す。全く無駄な――!?

 その、剣。ヤツが取り出した宝具。螺旋を描いたその宝具が。解析できない――!?
 その上男は、現れた宝具を手にした。射出するのではない――"持ち主"としてではない、"担い手"たるその動き。
 光線は加速する。収束した光は、発射時の倍の速さで敵に迫る。
 その、絶対の死に対して。

"起きろ、エア――"

 まるで、その空間のみ時間が止まっているかのように。悠然と、剣が回転を始める。
 目前に迫った金色の光。出力全開の妖精剣。

 まるでその光を喰らうかの様な、

「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)――!!」

 原初の地獄が炸裂する――!!
 灼熱の闇が咆吼する。次元を切り裂く神の魔剣、その全質量が――
 目前まで迫っていた聖剣の光。
 ――その全てを凌駕し、光速を越えて押し寄せる――!!

 ――轟――

 吹き荒れていた旋風は既に無く。残るのは無音の凪。静寂が場を支配する。
 ……声をあげる暇さえなく。聖剣は、ここに破れ去った。
「セイバー……?」
 それでも、俺は生きている。多少の熱波を受けながらも、宝具による重傷はない。
 立ち尽くした騎士の英霊。文字通り、その体を盾として。セイバーは俺達を、俺を、守り抜いてくれた。そうして彼女は。魔剣の全てを、その身に受けたのだ。
「……セイバー。愚かな真似を」
 英雄王が憎らしげに呟く。ヤツはセイバーを殺すつもりは無かった。彼女の反撃は、ヤツにとっても想定外だったのだろう。彼女に執着していたあの男は、自らの過ちでその存在を失おうとしている。
「おのれ――我の邪魔を――!!」
 ヤツにとって、自分が間違う言うことは有り得ない。故に、その怒りの矛先は、手近にいる俺に向けられた。
「貴様の下らぬ真似で、我の物が一つ失われた。その罪、償って貰うぞ」
 自分の手で殺そうと言うのだろう。ゆっくりと、英雄王は近付いてくる。
「お前の物だと!?違う、セイバーは誰の物でも無い!!」
 彼女を傷付けたこの男、コイツだけは許せない。そう、俺を守ると言ったセイバー。俺もまた彼女を守ると決めていたのに。
「黙れ下郎。耳障りだ」
 男が近付いてくる。拳に力を込める。魔力は空っぽ。それでも許せないものがある。
「抵抗は許さん。貴様はここで死ね」
 男の手には一振りの剣。先程の魔剣と比べれば、三流以下の宝具。だが、俺を殺すには十分過ぎる。
 やつとの距離が近づく。そこがその射程なのだろう。英雄王は、未だ立てない俺に、射線上にいるセイバーごと狙いを付ける。
「朽ちた騎士王など見るに耐えん。貴様とまとめて消し去ろう」
 男が剣を構える。俺は何も出来ないまま、それを見ている。
「死ね、雑種――!」
 振り下ろされる刃。そこから生じる衝撃波、それが俺を。
「……シロウは殺させない……!!」
 その、直前。最強の英霊が、その面を上げた。
「ぬ、貴様、まだ――!?」
 ぼろぼろの鎧、からからの魔力。死にかけのその体でセイバーは、
「約束された(エクス)、」
 光が収束する。
 先程とは比べ物にならない程に弱い光。それでも。
「勝利の剣(カリバー)――!!」
 放出された光は、衝撃波を消し飛ばし、更に英雄王へと肉薄する。
「チィ――!!」
 今度こそ、まさに想定外の一撃。それは英雄王に命中し、ヤツの左腕が蒸発する。
 あまりに弱くか細い光。だが、それは紛れもない聖剣の輝きだ。英雄王の一撃でわずかに軌道がずれたものの、その光は、英雄王の左腕を文字通り消滅させていた。
「……おのれぇぇっ!!」
 怒り狂う英雄王。一振りの宝具を顕現させ、力任せに射出する。
 まずい。セイバーは限界だ、アレをかわすことなど出来ない。そして、それは俺も同様。ろくに動かない体では、セイバーを守ることも出来ない――!
宝具が飛んで来る。軌道上にセイバーがいる。一秒が一時間にでもなったような感覚。コマ送りで飛んで来る宝具が、そのままセイバーを――
「――Anfang……!」
"――Κεραινο"
寸前、宝具が弾かれる。飛来する二種類の魔術弾。
「邪魔をするか、雑種……!」
 ヤツが唸る。二種類の魔術。一方は拳銃じみたガンド弾。タイミングを窺っていたのだろう、縁側で遠坂が構えている。
 そして、もう一方の魔術。瞬時に放たれた大魔術は、俺の背後から。
 神代の魔女、魔術師メディアのものだった。
「……キャスター」
「勘違いしないことね、坊や。私が生き残る為に、今セイバーに消えられては困る、それだけよ」
 俺の疑問に彼女はそう答えた。……だがそれは間違いだ。ヤツは今、セイバーしか見ていなかった。魔術を使う余裕があるならば、その余力で屋敷から逃げれば良かっただけの話だ。死に体のセイバーを助けることにメリットなどない筈。
……だが、それでもセイバーを助けようとしてくれたのだ。
 油断なく構える二人の魔術師。それらに目を向けることもなく、男は今にも消え去りそうなセイバーを見ていた。
「セイバーは終わりか。つまらん結果になったものだ」
 そうして踵を返そうとする。
「このまま去るというのかしら?」
 キャスターが言う。その疑問はもっともだ。このまま去る理由がない。
「興味が失せたといっている。セイバーが消える今、ここには何の用も無い。……我は多忙でな、これから鍵を取って来なくてはならん」
 ヤツの事情は俺には分からないし、今はその必要もない。アイツが去ってくれると言うのなら、何も言うことはない。ただ、一つを除いては。
「セイバーは消えたりなんかしない。……そんなこと、させない」
 その言葉を言う。たとえ、それを聞いてあの男の気が変わってしまうようなことがあろうと。それで俺が死ぬことになったとしても。これだけは、聞き流すことなんて出来ない。だがそれを、その欺慢を――金色の英霊は嘲嗤う。
「貴様が何をほざこうが、結果は変わらん。自身の無力に絶望しろ。――もとより、貴様のような雑種は、じき絶滅させる」
 そう言い残して、英雄王は去った。

 沈黙が訪れる。嵐の後の静けさ、動く者はなく、喋る者もいない。その静寂の中、
「―――」
ぐらり、と。セイバーの体が揺らいだ。
「セイバー!!」
 何とか動く様になった体で、這う様にして彼女に近付く。その場にくずおれるセイバー、何とかその体を受けることが出来た。
「セイバー!!」
 ぼろぼろの少女。腕の中の彼女の存在を確かめるように、その名前を呼び続ける。
「セイバー、セイバー!!」
「……シ……ロウ?」
それに彼女が反応する。良かった、どうやら無事――
「……すみません、シロウ。あの敵を……倒すことはできなかった」
「馬鹿野郎、そんなことはいい。それよりも、セイバーが無事で」
「……それに。どうやら、私は、ここまでの、ようだ……、これ以上貴方を守ることが」
 出来そうにない、と虚ろな眼で呟く。
「そんなことない、セイバーは消えたりなんか!」
 そんなのは嫌だ。そんなことは認められない。
「そうだ、魔力があれば!」
「止めなさい士郎。……分かるでしょう?」
 いつの間に近付いてきたのか、遠坂が言う。もう全て手遅れだと。セイバーは、助からないと。
「そんなことない……! いい加減なこと言うな遠坂、セイバーが消えるはずない!
 そんな筈はない、そんなのは嫌だ。子どものように喚き散らす。
 守りたいと思った、救いたいと思った少女。おれは――俺もそれを救えず。救いたいと思ったものをこそ救えないなんて。
 そんな俺に、遠坂は静かに、けれどとても強い声で言う。
「いい加減にしなさい衛宮君。……それよりも、彼女の言葉を聞いてあげて」
 ……それで分かった。遠坂も辛いんだ、そんなことは当然。でも、だからこそ。その事実を、受け入れなくては、いけないんだ。俺を守ってくれた剣の王。彼女を、綺麗なままで逝かせる為にも。
「リン、感謝……します。……シロウ」
 もう目も見えないのだろう、それでも彼女は真っ直ぐと俺を見据えてくる。
「明日は、偵察に……行けそうにありません」
「……ああ」
 ただ頷く。彼女の言葉を、一言も、聞き逃さないように。
「……でも俺は、やっぱり明日はデートのつもりだったぞ」
 それが本心。何と言おうが、俺はセイバーを女の子として見ていたんだ。
 そんな俺に、彼女は微笑いかける。
「……ええ。それは――実に貴方らしい」
 あくまで微笑んだまま。血に濡れた彼女は、苦しそうに続ける。
「……それに、ええ。戦いのためでなくとも――それでも、私も、楽しみにしていました」
 それが戦いのためでなくとも。聖杯戦争ではなく日常の一場面だったとしても。……あるいはそんな日々を過ごしてみたかったのかもしれないと彼女は言った。……それは、生前から。叶うことの無かった、ある少女の――ある少女の願い、全て遠き理想郷。その想いに、返せる言葉なんて無い。
「聞いて……いますか、シロウ?」
「ああ、聞いてる」
 弱く笑う少女。その眼には、もう光がない。見れば、足許から体が消えかけつつある。
「シロ……ウ。私は、貴方の剣として、役に、立てましたか?」
 終わりは近い。自分の体だ、それはセイバー自身が一番良く分かっているのだろう。だから最後に。騎士として呼ばれた自身のことを聞いてくる。
「勿論。セイバーがいなかったら、俺はここまで生き残ることなんて出来なかった。それこそ、あの時にランサーに殺されて終わってた」
 彼女の言葉に答える。俺が彼女と過ごした時間を告げる為に。その気持ちを、伝えきることが出来るように。
「そう、ですか。シロウは頑固で、融通が聞かないところがあるから……それはどうせ、治りはしないでしょうが……これから、気を付けるように」
 参った。全く、最後の最後でそんな心配をされちまうなんて。思わず笑ってしまう。でも。
「でもな、セイバー。確かに俺は頑固だし、弱くて、お前に守られてばかりだったけれど。……お前も猪突猛進というか、頑固で危なっかしいところもあったから」
 これが俺の本心。だから、最後まで告げないと。
「だから、お前が俺を守る剣となってくれるなら。俺は、その鞘となってお前を守ると決めていたんだ」
 果たせなかった誓い、それでもこの想いは本物だ。
「シロ、ウ。貴方は……」
そんな俺を、俺の全身を、セイバーは幽霊でも見たような顔で見据える。まるで俺の内側にある何かを透かし見るように。
 それも一瞬、一転彼女は微笑んで、
「そう、でしたか。貴方が私の鞘だったのか――」
 まるで唄うように、そんな言葉を口にした。
 その意味は分からない。けれども、彼女が微笑んでくれるのならそれでいい。それなら俺も。微笑って彼女を見送らないと。
「シロウ、泣いて、いるのですか……?」
 最早体の半分が消えかけている彼女。苦しいのだろう、けれども微笑ったまま聞いてくる。くそ、微笑ったまま見送ろうって、今決めたばかりなのに。
「……泣いてなんかいない」
 目頭が熱い。頬を伝うものを堪えながら、俺はそう言った。少しでも多く、彼女が幸せな記憶を持ち帰れるように。だが分かってる、そんな嘘、彼女には通じない。セイバーには、俺のことなんて全てお見通しなんだから。
「私はサーヴァントだ。消滅は、死では無いと言うのに……いえ、シロウには、そんなことは、通じませんね」
 そう言って微笑うセイバー。ほら、やっぱり見透かされてる。
 体の透過は止まらない。見れば、彼女の身体は。もう、上半分しか見えなくなっていた。
「……シロウ」
消滅は続く。エーテルが大気に還元されていく。もう本当に、これが最後。
「シロウ……」
こちらに、と視線で訴えかけてくるセイバー。もう喋る力も残っていないのだろう。促されるまま、彼女に顔を近付ける。 触れ合うほど近くで、彼女は囁く。

「……シロウ。私は、貴方を――」

 その言葉は最後まで続かない。ざあ、と吹く一陣の風。それは本当に一瞬。本当に彼女らしく、あっさりと。その風と共に、セイバーは消え去っていた。

「………」
 こみあがるものがある。頬を伝うものがある。後に残るものはなく、得たものはほんの一握り。己の無力は噛み締める程悔しいし、守れなかった事実は目を逸らしたくなる程に辛い。
 この戦いの中で、守りたかった一つの約束が出来た。……それを果たすことは出来なかった。それでも、俺は進んでいくのだろう。
 堪えていたものが溢れ出す。少女が求めた幸せ。沢山の人たちのそれを守るために、正義の味方になるために、こんな所で立ち止まりはしないけど。
 涙はやがて慟哭に代わり、俺は叫ぶように哭き叫び続ける。今回、いや以前から――俺は余りに無力だった。終わらない慟哭。この戦いにおいて、衛宮士郎は惨敗していた。


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