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No.35850の一覧
[0] the white witch, (Fate/SNキャスタールート) 【完結】[bb](2012/11/21 02:55)
[1]  冬の森[bb](2012/11/17 03:55)
[2]  金砂の少女――ある約束(1)[bb](2012/11/17 03:56)
[3]  金砂の少女――ある約束(2)[bb](2012/11/17 03:57)
[4]  黄金の王、裏切りの魔女、――, like Kamran(1)[bb](2012/11/17 04:02)
[5]  黄金の王、裏切りの魔女、――, like Kamran(2)[bb](2012/11/18 05:38)
[6]  黄金の王、裏切りの魔女、――, like Kamran(3)[bb](2012/11/18 05:35)
[7]  the white witch, 1――新たな契約[bb](2012/11/19 02:20)
[8]  the white witch, 2――穏やかな幕間[bb](2012/11/20 18:37)
[9]  胎動(1)[bb](2012/11/20 18:58)
[10]  胎動(2)[bb](2012/11/20 18:59)
[11]  the white witch, 3――ある約束[bb](2012/11/20 19:52)
[12]  崩壊の前奏曲(1)[bb](2012/11/20 20:14)
[13]  崩壊の前奏曲(2)[bb](2012/11/20 20:15)
[14]  崩壊の前奏曲(3)[bb](2012/11/20 21:26)
[15]  the white witch, 4――「覚醒」, I am the bone of――(1)[bb](2012/11/20 22:02)
[16]  the white witch, 4――「覚醒」, I am the bone of――(2)[bb](2012/11/20 22:02)
[17]  the white witch, 4――「覚醒」, I am the bone of――(3)[bb](2012/11/20 22:03)
[18]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(1)[bb](2012/11/21 01:07)
[19]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(2)[bb](2012/11/21 01:08)
[20]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(3)[bb](2012/11/21 02:21)
[21]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(4)[bb](2012/11/21 02:23)
[22]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(5)[bb](2012/11/21 02:24)
[23]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(6)[bb](2012/11/21 02:25)
[24]  エピローグ[bb](2012/11/21 02:54)
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[35850]  崩壊の前奏曲(3)
Name: bb◆7447134b ID:7d3b8248 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/20 21:26
「貴様はいつぞやの雑種か。こんな場所に何の用だ」
 英雄王が嗤う。……右手にサクラを引きずって。
「桜を離せ」
「桜……? ああ、これのコトか」
 右手のソレを、まるでゴミを見るかのように扱って――
「テメエ―――!!」
 許さない。救うべき全て、救われるべき全てを傷付けようとする、その邪悪は。衛宮士郎が、許せない……!
「――待ちなさい!!」
 いつの間に具現していたのか、キャスターが俺を腕で制す。
「止めるな! アイツは桜を」
「落ち着きなさい。貴方にも分かる筈よ。あの子は死んでなんかいないわ」
「え――?」
 それはどういう、と思ったところで、ほとんど無意識に桜を"解析"する。
 ……確かに、生きている。
「落ち着いたわね」
「ああ、けど、何で」
 桜を掴む右手には、一振りの剣が握られている。それは、
「――布都御魂(ふつのみたま)」
 それは太古に伝わる伝説の剣。"ふつ"という名の通りの切れ味と、兵に活力を戻したという浄化の力を併せ持つ霊剣。日本刀とは反りが反対であるが、そのカテゴリは間違い無く"刀"――切りたいもののみを切り裂く名刀だ。
「けど、それなら何を」
 彼女を殺したのでないとすれば、ヤツは一体何を切ったというのだろうか。
「この剣が気になるか、雑種。これは所持者の切りたいもののみを切り裂く魔剣。この女の心臓に余計なモノが混じっていたのでな。それを殺しただけのコト」
 ヤツの言うことは分からないが。良かった、桜は無事だ。ならすべきことは変わらない。
「桜を離せ。彼女は、聖杯戦争とは関係無い」
 間桐は魔術師の家系であっても、桜は一般人なんだ。
「何も知らんのか。それに、ほう。セイバーの後釜にその女と契約したのか。雑種同士お似合いではあるが」
「――なに」
「坊や。その子はライダーのマスターよ」
「え?」
 桜が、マスターだって?そんな筈がない、だってライダーのマスターは慎二だったはずだ。
「そこの魔女は知っていたようだな。それでいてこの場所に来るとは、目的はこの女の抹殺か?」
「違う、俺は桜の様子を見に来ただけだ。……桜に危害をくわえるつもりなら、俺は」
 そうだ、桜が魔術師だろうとそんなコトは関係無い。毎日見たあの笑顔は、本物だって信じられる。
「私はマスターの方針に従うまでよ。馬鹿なことだとは思うけれど、この坊やがその子を救うと言うのなら、私もその為に全力を尽くす」
 その言葉が、今は限り無く頼もしい。俺も躊躇無く後先無く、出来る限りの全てを尽くせる。
「ク、揃いも揃って話にもならん。我の用はこの女だけ、貴様等には何の用も――微塵の興味も無い。我も忙しいのでな、このまま引くのなら放っておいてやるが――」
「そんなコトは出来ない。いいから、桜を置いてさっさと失せろ」
「――邪魔をするなら、容赦はせん」
 殺気が膨れ上がる。英雄王の瞳が爛々と、嗜虐的に輝く。圧倒的な戦力差は真実。けれど、ここに戦いが始まった。



 だが場所が場所だ。戦うには狭すぎるこの場所では、アイツであっても存分に
は、

 戦えないはずだと考える前に、男の背後に現れる、十を越える剣、剣、剣。その全てが俺達を貫かんと合図を待つ。場所も時間もお構い無しだ。あれが宝具である以上、遮蔽物なんて弾避けにもならないだろう。なら、ここでの戦いはむしろ俺達にとって不利だ。
「――外に出るぞ。キャスター、人避けを頼む」
「済んでいるわ」
 その返事を頼もしく思い、ヤツが剣を放とうとする直前、後方へと跳躍する。脚にはキャスターの補助がかかり、一足飛びで間桐の敷地を出た。
 直後、一秒前の俺達の居場所に剣が突き刺さる。それを視認しながら、俺は自己に埋没した。
「――投影開始(トレース・オン)」
 ヤツを倒せる幻想なんて想像できない。故に、具現するのは最も馴染むその双剣。夫婦剣、干将・莫耶だ。
「来るわよ」
 キャスターは構えず平静のまま。だが魔力が凝集し、護りさえも張っている。
「ああ」
 この場の目的は、あの男を倒すことじゃない。もとより無策で、いや例え策があった
としても勝てる相手ではない。桜さえ助け出せれば、後は離脱するだけ。今すべきことは、俺達に戦意があるよう見せかけてヤツの気を桜から逸らす事だ。
「――っ!!」
 悠然と屋敷を出てくる英雄王。その背後から放たれる第二群。横っ飛びで避わし、何とか着地する。
「雑種だけに良く動く。だが、貴様等に興味はないと言った」
 間桐の敷地から出てきたその男は、あくまでも不遜に。緊張感など微塵もまとわず、俺達に対峙する。
「坊や」
「ああ、分かってる」
 男は片腕。流石に桜を抱えたままでは戦い辛いんだろう、彼女は屋敷に放置してきたようだ。俺達の作戦は、どちらかがヤツを引き付け、もう一人が桜を助けるだけの時間を作ること。
「衛宮の屋敷には既に基点を施してある。あの子さえ連れて来れば、後は空間転移する(にげる)だけよ」
 そんな業が出来るのはキャスターだけだろう。一度逃げ切れば、英雄王が来るまでに何らかの対策を練ることができる。
「まあ、問題は」
 更なる魔弾が顕現する。
「……隙なんてどうやってつくるのか、ね」
"――Μαρδοξ"
 護りの魔術が紡がれ、放たれた剣を防ぎ切る。
 問題はそれこそ山積みだ。このままでは力押しでねじ伏せられるし、一人でアイツを引き付けておくなんて、二人でも難しいことをしなければならない。
「隙は必ずある。今は我慢よ」
「ああ」
 けれど糸口が無いわけでもない。今ヤツが放った宝具は、キャスターの護りを破ることも出来ないものだった。その上、放った数はたったの三。俺達に構う時間などないと言いながら、本気の宝具を放ってこない。あくまでいたぶり、格の差を思い知らせようとでも言うように。
 俺達が突くのはそこだ。ヤツが油断している今、更なる隙を見せた時――どちらかが間桐の屋敷へ突入し、桜を救う。油断を突かれれば一瞬の膠着が産まれるものだ。その間に何とかして合流し、撤退する。
 無茶な作戦だ。ヤツがしびれを切らす前、油断している時を見極めないといけない。突破口はそれこそ針の穴のようなもの。けれど無理なわけじゃない。無茶な作戦なら、試してみる価値もある。



 宝具を避わし、防ぎ、叩き落とす。その様はまるで無限のループのよう。けれど限界は当然あり。魔力量、肉体的な疲労が俺を蝕んでいく。
「どうした、防ぐだけか、雑種共!」
 ヤツが嗤う。隙だらけに見えて、その実そんなモノは見い出せない。
「くそ……!」
 変わらない攻撃に悪態を吐く。ヤツは依然手を抜いているのに――現状をどうにもできない、なんて。
「キャスター、このままじゃ」
 こっちが先に参ってしまう。何か手を打たないと、このまま押しきられて終ってしまう。
「機会を待ちなさい、と言ったでしょう。とにかく今は――」
 その瞬間。思わぬ光景に、沈黙した。
「些か飽きた。戦力差は理解できただろう――もう死ね」
 眼前には二十を越す弾丸。ヤツが、本気で俺達を殺さんとし始めている。
「――キャスター」
「……もう猶予は無いようね。仕方がない、ここは私が、」
「いや、ここは俺がしのぐ。キャスターは桜を頼む」
「何を。貴方じゃあれは防ぎきれない」
「俺じゃあ桜を救いに行けない。なら、ここは俺が時間を稼ぐ」
 キャスターの眼を見据える。視線はそのままに、頼むと頭を下げて。
 溜め息を一つ。ふん、と漏らして、キャスターの姿が消えた。
「何のつもりだ、雑種」
 英雄王が言う。サーヴァントも連れず、単身で対峙するつもりかと。それには応えず、俺はヤツを睨み付ける。
「何でもいい。来いよ英雄王――俺を殺すつもりなんだろ」
 その言葉に、嘲笑と、絶対の殺意が返ってくる。
「ク、良かろう。死に急ぐのならば、早々に消してやる」
 絶対の殺気、それは全て俺に向けてのものだ。それこそが俺の狙い。ヤツの注意を全て俺に向ける、それが俺のすべきこと。
 ヤツの背後、二十の宝具は消え去って、再度宝具が顕現する。その数は三、数量において、先程に比べれば大したモノではない。
 だがそれだけだ。宝具の質という点において、先程までとは段違い。今視えるそれらは、間違いなく一級の神秘達だ。
 思わず舌打ちをする。予想はしていたけど、それらの宝具は一流で。俺に防ぐことなんて、まして避わすことも出来ないだろう。あの時中庭でヤツの攻撃を防いだ七枚葉――アイアスの守りを以っても、防げるのは一つか二つ。その上俺の体は半壊してしまうだろう。
「ホント、どうしようもないな」
 それが率直な意見。サーヴァント相手に、衛宮士郎のスキルなんて通用しない。赤い騎士の言葉は残酷なまでに真実だ。
 ならどうするのか。桜を助ける、その為に時間を稼ぐには。ヤツと対峙する為に、俺に出来ることは――
「……そんなの、決まってる」
 考えるまでもない。俺の実力は悔しいけれどこの程度だ。ならその中で出来ることをするだけ。ロー・アイアスで防げるものがあるのなら、防げるだけの――命の限りの、盾を創るだけだ。
 英雄王が片腕を挙げる。途端、宝具が脈動し、発射の合図を待ち望む。
「では死ね、雑種」
 ぱちん、と指を弾く音。同時に、魔弾が射出される。
「――投影(トレース)、」
 既に編んでいたイメージ。ヤツの号令に合わせ、古の皮の盾を投影して、
「……え?」
 宝具が炸裂する。閃光の如き三弾は当然の様に――誰もいない、虚空に向かって放たれていた。
「ア――」
 小さな悲鳴が溢れる。……ぐさり、と。何もない空間に、宝具は確かに突き刺さり、
「アアアアア――!!!」
 不可視であったそれが、当たり前の様に串刺しにされ――地面に落下する。
「キャスター!」
 くずれ落ちたキャスター、その両腕に突き刺さった宝具。眼前には、朱に染まったキャスターが――
「下らんな。その様な浅慮、我が気付かぬとでも思ったか」
 ヤツが嗤う。俺達の計画など、始めから解っていたと言う様に。
「アーチャーとして現界した我に、貴様の魔術等見破れんとでも思ったか――王である我が、そんなモノ、看破出来ぬ筈があるまい」
 キャスターは倒れたままだ。桜を助け出す、たった一つの隙も失われてしまった。
「やはりつまらぬ。ここまでだ下郎」
 英雄王の背後。容赦の無い、本気の宝具群が具現する。その数――悠に十を越えている。
 そして。
「まずはお前からだ。精々良い声で哭け」
 その標的は、俺ではなく――
「キャスター……!!!」
 彼女は今動けない。見れば、先程の宝具は両腕だけでなく、右脚をも貫き――以前の様に彼女を地に張り付けている。
 彼女の護りでは防げない。見るまでも無い、飛来する宝具は一流で、キャスターには防ぎ切れないモノだ。
 ――そうして、俺にもアレは防ぎ切れまい。如何なアイアスとて、使い手が俺では不完全だろう。それこそ人間を越えでもしない限り、あの宝具を防ぎ尽くすのは不可能だろう。
 走る、キャスターの前へと。
 ――この行動に意味はあるまい。何をしても俺では防ぎ切れず、十余の魔弾はキャスターをも殺し尽くすだろう。
 けれど逃げることなんて出来ない。救えなかった少女と、救い得ない彼女。それでも俺は、正義の味方として――
 ヤツが嗤う。その先に迫る宝具群。俺のやるべきことは決まっている。何であれ、ありったけの魔力を籠めた盾を――

「シロウ、駄目よ……!!」

 ――直前、背後の声を聴いた。シロウ、と。ただ俺の身を案じる、その声を。
 救いたかった――救えなかった金砂の少女。そうして、今。俺は、何をしようとしているのか。
 ありったけの魔力?不可能でも逃げない? そんな馬鹿な考えで、俺はここに立っているのか。
 そんなのは間違いだ。助けられないけれど助けようとする、じゃあない。助けると決めたならば――俺が本当に正義の味方を目指すのならば――

――必ず、救うんだ

「――オ」

 思考はほんの一瞬で。考えろ衛宮士郎。この状況、絶対の死を回避する手段を……!!
「――オオオオオオ……!!」
 俺の力では防げない。現在の俺、人間に過ぎない俺には何もかもが足りない。
 このアイアスでは防げない。俺が知るアイアスは英雄王の複製品、担い手のいないアイアスには使い手の経験というモノが存在しない。

 なら、自分は。一体何をするべきなのか

「……っ!!」
 始まるのは、背中の灼熱。俺は俺のままで――激痛が、何をすべきかを訴えてくる。

――おれは既に体感している。頭でじゃない、体がその感覚を理解しているだろう

――意識せずとも、自分であれば一端を手にすることも出来るだろう

――救え救え救えすくえスクエスクエすくエ救エスくエ……彼女を救ってくれ……!!


 かちん、と。頭の何かが、ソレに触れる――

 吹くのは強い風。命令するのはその世界。

 モドレモドレモドレモドレモドレモドレモドレ

――何処に?
――何に?

 ノボレノボレノボレノボレノボレノボレノボレ

――何処へ?
――何を?

 サカノボレサカノボレサカノボレサカノボレ

――どうして?
――何の為に?

 オノガ――ヲ、
  サカノボレ――!!!

――視えるのは、一面の荒野と。無数にある、それらの■だけ――


「アアアアアア!!!」
 戻ってくる現実世界。間近に迫る死と、嘲笑う黄金の男。
 すべきことは解った。覚えているのは僅かだが、それでも始まりは忘れていない。
 片腕を上げ、意識を自己に集中する。ほんの少しだけ理解出来た経験と。ある言霊の最初の一節。

 ”――I am the bone of my sword."

 創るモノ、その名称は変わらない。変わったのは、僅かに識った経験の蓄積だけ。
 眼前の宝具群、それら全てを視認しながら、

「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)――!!!」

 全てを防ぐ、七の花びらを創り出す――!!

 展開する七枚と、激突する宝具群。ミサイル級の衝撃が幾重にも重なって、俺を破壊せんと迫って来る。襲う宝具は、その全てが一級品だ。英雄王の持つアイアス、その複製品――俺の能力では防ぎ切れない。
 けれど、
「――アアア」
 一滴残らず、持てる魔力を絞り尽す。とめどない魔力が、七枚葉を強化する。
「――アアアアアア……!!」
 盾は魔力に応え、宝具の神秘を削り取る。
 それでも敵の宝具は一流で。不完全な理解では、その威力を削り切れない。
 魔力を注ぎ続ける。俺という器を越える魔力量が、アイアスへと流れて行く。
「――アアアアアアアアア………ッ!!!!」
 一枚二枚三枚――六枚目までが破壊され――

 そうして、最後の一枚。……それは、まるで以前の再現。
 ぼろぼろの一枚と、からからの魔力。……けれど、全ての魔弾は停止していた。



「――貴様、何をした」
 ぐらりと揺らぐ頭。満身創意の体に、英雄王の声が響く。その態度に変化は無い。だが声音には幾ばくかの驚きが混じっている。
「今の宝具は貴様に止められる様なモノでは無かった筈だが」
 有り得ない状況に、ヤツは混乱しているようだ。……今まで見出せなかったヤツの隙が、今ここに存在していた。
 だがそれはこちらも同じ。それ以上に、俺もキャスターも動ける状態じゃない。皮肉なことに、桜を助けられる状況にあって、助けに行ける状態ではないのだ。
「――坊や」
 キャスターの声が聞こえる。この状況は不味いと、今の内に撤退を考えるべきだと。桜の救出はおろか、それすらも不可能だと承知の上で。
「まあ良い、元より貴様等に興味はない。詰まらん見世物ではあったが、それなりに楽しめた」
 再度ヤツが腕を挙げ、同時に宝具が出現する。それらは全て、たった今防いだものと同ランクのもので。今の俺達に、それを防ぐ術なんて無い。
「終わりだ雑種。――ああ、そも始まってすらいなかったが」
 男が嗤う。立ち上がろうとする足に、力は入らない。
 その瞬間はまるでコマ送りの様に。ゆっくりと、英雄王が指を鳴らそうとする。まさに死の合図。その音が聞こえた瞬間、衛宮士郎は死ぬだろう。
 擦れ合う親指と中指。終わりはまさにこの瞬間。
 それでも体は動かず。どうしようもない肉体で、せめて心は負けないようにと男を見据える。
 それが最後。……そうして、

 ――パチン

 その終わりが、響くことはなかった。
「ぬ――」
 一声唸って、英雄王が腕を下げる。それを、ただ見据え続ける。
「――チ、どうやら感付かれたかれたようだな。思いの外早かったか」
 忌々しげにそう呟いて、男はこちらに背を向ける。
「なんの……つもりだ」
 一声発する毎に、体が激痛を訴えてくる。それを無視して、俺はその敵を睨み付けた。
「マスターに感付かれたようでな。一応契約を交しているのだ、戻れと言われたのなら戻る――雑種にかまう暇は無くなったということだ」
 こちらを振り向かず、ヤツが嗤う。俺達には、止めを刺す必要もないと。
「それに、器は不完全に満ちている。これ以上完成に近付けるのは、我の本意ではない」
 その意味は分からない。だがそんなことよりも。
「……桜を放せ。傷付けるのなら、許さない」
「まだいうか。いや、我はあの女を傷付けるつもりなどないぞ?大事な鍵だ、壊れては困る」
「な――に」
「あの女は聖杯として利用する。プールしていた魔力を流し込めば――まあ、ヒトの部分は壊れるだろうが」
 桜を、聖杯に?まるで意味が分からない。……けれど。
「……断るのなら、お前を殺す」
 そんなコトは不可能だ。けれど、ヤツが"悪"だというのなら、俺はあいつを許すことなんて出来ない。
「ほざけ雑種。下らん妄言は弱者の象徴――くく、無様だな」
 肩で嗤って、ヤツは間桐の屋敷へと向かう。桜を、連れ去ろうとしている。
「待――」

「――聖杯(のろい)は霊脈に降臨する。追いたければ追ってこい――その時は、殺してやる」

 振り返ることも無く、そんな言葉を告げられた。
 それを最後に、ヤツの姿が視界から消え去り。
「く――そ……っ!!」
 自分の声も良く聞こえない。
「……――!!」
 後ろから、誰かの叫び声。それが何を言っているのかは分からず、響くのはノイズ混じりのな雑音だけ。
 薄れ行く意識と、倒れ行く体。最後に見上げた空からは、いつの間にか雨が降り注いでいた。

 ――俺は、また、護れなかった。


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