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No.35850の一覧
[0] the white witch, (Fate/SNキャスタールート) 【完結】[bb](2012/11/21 02:55)
[1]  冬の森[bb](2012/11/17 03:55)
[2]  金砂の少女――ある約束(1)[bb](2012/11/17 03:56)
[3]  金砂の少女――ある約束(2)[bb](2012/11/17 03:57)
[4]  黄金の王、裏切りの魔女、――, like Kamran(1)[bb](2012/11/17 04:02)
[5]  黄金の王、裏切りの魔女、――, like Kamran(2)[bb](2012/11/18 05:38)
[6]  黄金の王、裏切りの魔女、――, like Kamran(3)[bb](2012/11/18 05:35)
[7]  the white witch, 1――新たな契約[bb](2012/11/19 02:20)
[8]  the white witch, 2――穏やかな幕間[bb](2012/11/20 18:37)
[9]  胎動(1)[bb](2012/11/20 18:58)
[10]  胎動(2)[bb](2012/11/20 18:59)
[11]  the white witch, 3――ある約束[bb](2012/11/20 19:52)
[12]  崩壊の前奏曲(1)[bb](2012/11/20 20:14)
[13]  崩壊の前奏曲(2)[bb](2012/11/20 20:15)
[14]  崩壊の前奏曲(3)[bb](2012/11/20 21:26)
[15]  the white witch, 4――「覚醒」, I am the bone of――(1)[bb](2012/11/20 22:02)
[16]  the white witch, 4――「覚醒」, I am the bone of――(2)[bb](2012/11/20 22:02)
[17]  the white witch, 4――「覚醒」, I am the bone of――(3)[bb](2012/11/20 22:03)
[18]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(1)[bb](2012/11/21 01:07)
[19]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(2)[bb](2012/11/21 01:08)
[20]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(3)[bb](2012/11/21 02:21)
[21]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(4)[bb](2012/11/21 02:23)
[22]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(5)[bb](2012/11/21 02:24)
[23]  the white witch, the blade boys――白き魔女、剣製の少年(6)[bb](2012/11/21 02:25)
[24]  エピローグ[bb](2012/11/21 02:54)
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[35850]  the white witch, 3――ある約束
Name: bb◆7447134b ID:7d3b8248 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/20 19:52
 ……頭に靄がかかっている。俺の意識は希薄になって、夢見心地でおれを見てい
る。
 浜辺に来て、と彼女は言った。それは彼女からの初めての頼み、おれが断る理由はない。待ち合わせは夜だったけれど、こっそりと抜け出してくるのはなんてことない。
 剣は成った。この日の為に創りあげた概念武装。おれは魔術師じゃない。だから剣には、未だ何の魔術も篭っていない。けれど彼女なら、きっと一流の礼装に仕上げられる。だからこれが、手先の器用さ――剣製しか取り柄のないおれからの、精一杯のバースディ・プレゼント。
 どれ位待っただろうか。そもそも、具体的に待ち合わせの時間を決めていなかったんだけれど、それでも随分な時間が経っていた。
 これは彼女に文句の一つでも言ってやろう。
 そんなことを考えながら、けれども何故か楽しい待ち時間。疲れるから座って待っていようかと思ったところで、遠くに彼女が見えた。今宵は新月、月明かりもなく真っ暗だけれど、何故だが彼女の周りは明るい。おれを待たせたことに焦っているのか、彼女は全力疾走している。……そんなに急ぐことはないのにと思う
 けれど、一生懸命向かってきてくれているのなら正直嬉しい。愚痴の一つも考えていたけれど、ここは素直に迎えることにしよう。
 彼女の姿が近付いてくる。遠目にもすぐ分かる。いつものマントみたいなローブに、肩までのびた蒼色の髪。それに手を振ろうとして――もう一つの人影に気付いた。
 おれの知らない誰か。……誰だろう? 遠目にも、明らかに常人とは違う――それこそ英雄じみた威容。彼女とその誰かが近付いてくる。
 そうしてすぐ側まで来て彼女は――(虚ろな)――笑顔で俺に言う。一緒に来てほしい、私達とあれに乗りましょうと。
 その示す方向には一隻の船。確か、この前この国に来た船だ。
 なぜ、と問う間もなく、促されるままそれに近付く。
 急げ、と叫ぶ誰か――精悍な男性。その声のまま、彼女と共に船に乗る。
 船上には沢山の知らない人々。おれと彼女、最後に男が載ると、急発進で出航する。
 連れていくのかという男の問いに、ええ、と応える彼女。
 何がなんだか分からないけれど、すべきことが一つだけある。何にせよ、このプレゼントを渡さないと。
 そう思って声をかける。振り向く彼女。
 出航した船、大急ぎで海原へ向かう。……その後方から、遥かな唸り声が轟いた。






「the white witch, 3――ある約束」


「ん……」
 朝の気配に自然と目が覚める。今が何時かを確認しようと思い、時計を探す。
「……またやったか」
 見ようとした所で現状に気が付く。時計はおろか布団すらない。ここは土蔵、どうやら鍛練の後、そのまま眠ってしまったらしい。
 さて、と気合いを入れて立ち上がる。とりあえず朝飯、その前に現在時刻の確認、プラス着替え。俺は土蔵を出て、居間の方に向かった。



「あら坊や、おはよう」
 居間に入ると、既にキャスターが起きていた。
「ああ、おはよう……って朝早いんだな」
「そうかしら、坊やが遅いんじゃなくて?」
 そう言われて時計を見れば、時刻は六時半過ぎ。確かに寝坊したが、世間的には早い時間だと思うぞ。
「とにかく顔でも洗ってらっしゃい。もうすぐご飯もできるから」
「む、朝飯つくってるのか」
 何だか仕事をとられた気分…いやとられたのか。というか寝起きであの料理を食べることになるのか。
「何か言って?」
「何も」
 心の声に反応するキャスターを置いて、洗面所に向かうことにする。まあ朝飯だし、食材もほとんどないし。あれで不味いものをつくれる方が才能だし。味付けするようなものもほとんどないだろうから、変なものは出てこないよな……と思っておこう。



「さて、それじゃあ食べましょう」
 顔を洗い着替えも終わり、朝食なわけだが。
「いただきます」
「……いただきます」
 メニューはいたって簡単。トーストにサラダ、目玉焼きだけである……というかそれしかなかったわけだが(麺以外)。
 まずはサラダに箸をつける。野菜は丁寧に切り揃えられ、盛り付け方も綺麗だ。キャベツがなかったんでレタスなのはおいといて、一番怖かった目玉焼きもいい感じで、なかなかに絶妙な半熟加減。
 サラダと目玉焼き、それに紅茶を一口。一通り箸をつけ、密かに出来栄えに感心する。
「坊や、パンが冷めるわよ」
 来たよこれ。折角感心していたところで、"ソレ"の話をされた。
「……キャスター、これは」
 視界から、意識の中から(故意に)外していた"ソレ"を認識してしまう。
「何か文句でも?」
 そんな俺に対し、笑顔のキャスター。くそう、怖い。…このメディアでキャスターめ、ニュースでも報道してろよー、とか訳の分からない愚痴をこぼしてみる……無論心の中で。
 まあ、つまりだ。
「真っ黒焦げ」
 だった。
「何 か 文 句 で も ?」
 あくまで笑顔な悪魔のキャスター…うん、ホント怖いぞ。
 けれども、こと料理に関しては、そんな威圧に負けるわけにはいかない。そんなモノに衛宮士郎が負けるなどあり得ないのだ。
「キャスター」
「何よ」
 だから言わないと。俺が全ての料理人の想いを代弁出来るように。
「それはトーストじゃなくてだな、」
 たとえこの身が朽ちることになろうと、俺が俺として――厨房の主(マスター)として在る為に。
「――ただの炭じゃないかと」

バキッ

 殴られた……ってこういう時は普通ビンタとかじゃないのか。
「うるさいわね、いいから黙って食べなさい!
「ああ、食べるけど――」
「食べるけど、何……ってどうしたのよ坊や」
「……いや、何でもない。いただきます」
 何にせよ、残すつもりは毛頭ない。角の方から、真っ黒なパンをかじる。

 全く、それにしても。
 殴られて、っていうのも何だが。何かほんの少し前――誰かに同じように殴られたのを思い出してしまった。そうして、その誰か後ろに。綺麗に佇んでいたのは誰だったか――
 その記憶を脇においやる。…教会でもそうだったけれど。気が付けばそれを思い返しそうになる。
 それが未だ、今の自分には辛すぎる。…だからもう少しだけ。いつか乗り越えるその日までと――(目を背ける自分を容認した)――



「それじゃそろそろ行くか」
「ええ」
 朝食も食べ終え、支度をして玄関に立つ。バスの時間も予定通り。昨日の約束通り、新都へ向かうことにする。
 がらがらと玄関を開け、空は気持ちの良い青色、絶好の外出日和。折角だからおもいっきり楽しもう――
「って、あれ?」
「どうしたのよ」
 ふと思い出して、バスの時刻表を確認する……げ、やっぱり。
「……走るぞ」
 言うが早いか、キャスターの手を取って走り出す。
「ちょ、何が――」
「時間間違えてた!後二分でバスが来る!」
「なっ――」
 喋る間もなく駆け続ける。全く、気持ちの良い一日だってのに。やっぱり、慌ただしく始まったのだった。



ブロロロロ

 バスの発車音が響く。
「……」
 俺達の目の前、バスは無惨にも
「はあ……ぎりぎりだったわね」
 まさに発進するところで、待っていてくれた。
「ああ。てかアウトだったんだけどさ」
 何にせよ乗れて良かった。これを逃せば次は三十分後だし。
「全く、私は肉体労働は苦手だって言うのに……」
 ぜいぜいと息を切らすキャスター。それでも何とか落ち着こうとしている。
「……それで、どれ位で着くの?」
 バスに乗ったのは初めてなのだろう、けれどあまりキョロキョロするのも恥ずかしい、そんな感じで訊いてくるキャスター。
「歩いて一時間もかからないから、バスなら十分ちょいじゃないか?」
 かくいう俺も、バスに乗るのは随分久しぶりだ。節約兼鍛練として、新都に行く時は歩いていっていたし。
 走るバスから見える景色は、自転車のそれとはまた違う。久方振りに乗った俺も、実は少し楽しかったりする。
 キャスターは外を見ている。その視線の先は分からない。ただ俺には。ここからは見えない、柳洞寺を見ているのではないかと思えた。
「何よ」
 俺の視線に気付いたのか、キャスターが言う。
「いや、別に 」
 けれどもそれは、俺が訊くことではないのだから――

「待ちなさ~い!」
 と、突然の叫び声、むしろ怒鳴り声。それはバスの外から、窓越しでも聞こえる騒がしさで、
「なんだ……って藤ねえ!?」
 走り去るバスから、一瞬だけ見えた光景。患者用の服を着た虎が見えた……てことはあれか、病院から脱走中か。現在進行形で。
 全くどうしようもない大人だな……と思いながらも、元気な姿に笑みが溢れる。大丈夫とは聞いていたけど、実際にああいう姿を見ると安心出来るわけで。
「坊や?」
「いや、なんでも」
 怪訝そうに言うキャスターに、しかし顔のにやけは収まらない。
 無事だったものもある。嬉しいんで、このまま。久しぶりの外出を楽しもう。



ブロロロロ、プシュー

 降車用のドアが開く。運賃を入れてバスを降り、伸びを一つ。
 十分ちょっとと言ったが、所要時間は約二十分。思ったより時間がかかったとも思ったけど、まあこんなものだろう。
「やっと到着ね」
 先に降りていたキャスターが呟く。その顔は僅かに青い――酔ったのか。
「新都は初めてか?」
「いえ、何度か来たことや……視ていたことがあるわ」
 それはそうか。戦争中なんだ、街の全容位は把握しているんだろう。答え
が何か変だったのはおいといて。
「それで何処へ行くんだったかしら」
「ああ、新都フードモールだから、あっちか」
 チラシの地図を確認し、指で示す。
「そう。それじゃあぱっぱと済ませましょう」
「ああ」
 買い物の後、時間があれば少し位街を周って行けるだろうし……ってやっぱりデートなのかこれ。
「坊や」
「ああ、今行く」
 交差点を渡って、俺達は目的地へと向かった。



 新都フードモール。広告によると、様々な食材店が軒を連ねた、この街に作る
には無謀としか思えないショッピングモール。実際はそれ程大きなものではないが、それでも野菜などはおろかどこでとってきたのか分からないような食物まで売っているらしい。
 とはいえ全て聞いた話だ。こういうものはやはり、実際に来てみないと分からない。
「で、来たわけだけど」
 しょぼい。ぱっとみてしょぼい。第一印象からしょぼい。
「……」
 キャスターは無言だ。その気持ちは分かる。
「これじゃ深山の商店街と変わらないぞ」
 別に深山を馬鹿にしているわけじゃないけど。わざわざ遠出してこれじゃ、正直あんまりにもあんまりだ。
「とにかく、行きましょう」
 気を取り直してキャスターが言う。…まあオープンセールなのは事実だし、そのおかげかそれなりに賑わってもいるし。買い物自体に困ることはなさそうだ。

 モール内に進む。一応アーケードになっていて、天井には屋根がついている。
 とりあえず最寄りの店へ。見た目普通の八百屋だ…中もそうか。値段は…微妙。
 いらっしゃい!と威勢の良い店主に会釈して、別の店を覗くことにする。
 キャスターは黙ってついてきているが、明らかに退屈そうだ。その内魔術で値引きさせるとか言わんばかりの雰囲気。
 ……とりあえず一通り見て廻って、早めに買い物を切り上げるとするか。



 二時間後。
「よし、こんなもんかな」
 大きめの袋二つ分の食材を抱えてそう言った。結構時間はかかったけど、キャスターは退屈そうにしている……かと思いきや、普通に買い物に参加していた。
 店主の世辞を巧くかわし、的確に値切ってもらわんとする。何というか凄く主婦が馴染んでいた……本人には言ってないけど。
 いやしかし、それにしてもだ。どうも俺はこのショッピングモールを舐めていたらしい。
 確かに始めは普通の店が多かった。値段はまあそれなり、それこそ本当に深山町の商店街という感じだった。……だがその中心に近付く度、奥へと進む度に、その真の姿が現れ始めたのだった。
 あるラインを越えたところから、まず客層が変わった。日常と非日常、本来なら有り得ない来訪者達。近所の主婦の方達はなりを潜め。代わりに現れるのはいかにもな食通達と…国籍不明な方々。人種入り乱れた謎ストリート、この町の未来が本気で心配になってくる。
 ……そうして。その中に一つ、在る。特に異彩を放っていたのが、とあるカレー食材店だった。スパイスの店でもなく料理屋でもない、カレーを"創る"ことに特化した食材店――その様はまさに華麗百景。カレーの為の食材のみが所狭しと並んだ異界法典だった。店主の眼鏡さんに捕まっていれば、きっと餌食になっていたことだろう……。
「坊や、どうしたの?」
「いや、何でも」

 閑話休題、現実に戻ってくる。何にせよ買い物は終わった。時計を見れば、
時刻は十二時過ぎ。
「とりあえず昼飯にしよう」
「そうね、頃合いだし」
 手近な店を探し……流石にこの通りにはないか。
「街の方に行ってみないか?この辺じゃ料理店もないし、まだ時間もあるし」
「別に構わないけれど」
 そう言うキャスターに頷き、フードモールを出る事にする。正直こういう状況で昼飯を食べるような所なんて全然思い付かないけれど。きっと何とかなるだろう。ただの買い物なのに、何故だろう、そう思える位に楽しかった。



 それからはあっという間だった。適当な店で昼食をとり、何と無く辺りを見てまわることにした。手近なデパートに入って洋服なんかを見て、小休止の後同じようなことを繰り返す。……キャスターが妙に可愛らしい服に興味を示していた(が、決してそのコーナーには近付かなかった)のはおいておいて。その後は水族館へ行き、映画なんかはキャスターが興味無さそうだったので中止。そしてまた、ブティックやらを廻ったりした。
 そうしてこれからどうしようかと考えていた所で、前方に顔見知り発見。その人物――すなわち一成に声を掛けようとした所、全力でキャスターに止められた。

 その結果、現在。無理矢理手を引かれ入った手近な店は、何とも高級感の漂う、アンティーク調の喫茶店だった。
「……キャスター」
 不満げにうめく。考えてみればキャスターは柳洞寺を拠点にしていたんだ。だから一成と顔を会わせたくないというのも、何か理由があるのだろう。……けどさ。
「正直この店は勘弁して欲しかった」
 高級感の漂う店は、それに見合ってお値段も高級だった。一番安いのでも樋口さん一人じゃ足りないってのは、正直無いと思う。
「うるさいわね。私だって、アルコールの入っていない飲み物なんて興味無いわよ」
 自分は悪くないと言わんばかり、いやむしろ悪いのは俺だと言わんばかりの雰囲気で言われた。……なんでさ。
 かくいう俺も、紅茶よりは日本茶派なわけで、紅茶ポット一杯に千五百円はつらい、というか痛い。……安売りの為に来たのに、完全に矛盾している。
「どうしたもんかな……」
「何だかね……」
 はあ、と溜め息二つ。
「お客様、御注文はお決まりですか?」
「これ二つ」
 タイミング良く現れたウェイターに、一番安いやつを注文する。
「あん?坊主、値段で選んだな。悪いことは言わねえ、こっちにしときな」
 今日のお勧めってやつだ、と笑うウェイター。俺が選んだのとは百円しか変わらない。……まあ、それ位ならいいか。何か節約がどうでもよくなる程出費したし。……いや、しかし。
「それじゃ、それ二つ頂戴」
「おう」

 迷う暇無し、即答するキャスター。……いいけどさ。
 注文を待つ。静かな場所、静かな時間。聞こえるのは、コチ、コチ、と柱時計の音だけ。
 キャスターは無言、俺も喋らない。けれどけして嫌ではない沈黙。気が付けば陽も落ちかけて、西陽が朱く眩しい。
 まるで時間が止まっているような(止まってほしいと願う)――戦争なんて嘘の様な時間。背中がむずむずする様な心地良さの中、キャスターは無言。その表情は、読めない。
「どうしたの?」
 おれの視線に気付いたのか、彼女はこちらを向いた。
「何を考えているのかなって」
「別に何も。……ただ、こういう時間も悪くないかと思って」
 微笑むキャスターは、まるで のまま。魔女の烙印なんて、嘘みたいに。
「そういう貴方は、何を考えていたのかしら」
 質問を返された。……む、切り返しが巧いと言うか何というか。そういう所も彼女らしいとおれは思う。
 答えなんて求めていなかったのだろう、彼女は柔らかな雰囲気のまま――魔術師の顔で、言った。
「こういうのも悪くはないけれど……けれど、戦いは終わっていないわ」
 だから、この時間がいつまでもに続くことはないのだと。おれの心を読む様に――自分自身に言い聞かせるように。
 ……けれど。そうであっても、おれは――
「お客様、お待たせ致しました」

コト

 テーブルに紅茶が置かれる。それが合図。会話を切り上げ、俺達は紅茶に集中する。
「……あら、おいしい」
 意外そうなキャスターの声。感想は俺も同じ。美味しい紅茶は本当に美味しいんだな。
 ごゆっくりと微笑み、男性はカウンターへと戻っていく。


「ん……ごちそうさま」
 と、キャスターが飲み終わったみたいだ。俺も丁度飲み終わったし、
「それじゃ行きましょう。陽も傾いてきたし、休養はもう十分でしょう」
 また先に言われた。本当、そんなに分かりやすいんだろうか、俺は。
「さあ」
「ああ」
 促され、席を立つ。
 休養はもう十分。その意味は分かる。キャスターは否定するだろうけど。俺が    を失ってしまったこと、きっとそれを慰めようとしてくれていたんだ。
 ……そして、きっとこれで最後。聖杯戦争の終わりは見えて、こんな時間を過ごすことなんて、過ごせる時間なんて、きっとない。それは全くの真実だろう。

 なら、訊かないと。最初で最後の休日、彼女が求めた平穏な日々。

 ――それが、

「キャスター」
 振り返るキャスター(しょうじょ)。

「――楽しかったか?」

 その言葉に、彼女は。
「そんなこと……いえ、」

「――ええ」

 綺麗なままに、微笑んだ。


 一緒に出かけるというだけの、本当にちっぽけな約束。

 ――けれど。

 誓いはここに、果たされた。


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