「戦の前にぶっとい死亡フラグ立てなくても……」
結局捕まり、なぜか正座させられている一刀君が愚痴る。
「そうだ、華琳さまとの結婚など認められるか!」
その隣に春蘭も正座させられていた。
理由は俺を殺しそうだったから。
いや殺しそうどころか、しっかり道場へ送られたけどね。
だって俺って暴走春蘭の一撃だけでもあっさり死ぬし。萌将伝一刀君の耐久力が羨ましい。
「ご主人様、こんなに大勢と結婚するつもりですか?」
一刀君の前に仁王立ちの関羽。
「大勢って……」
「私、鈴々、朱里、星、翠、紫苑、月、詠、恋、霞、孫権、孫尚香、陸遜、甘寧。これが大勢でないと?」
十四人か。一日二人でも一週間かかるな。
「まあ待て愛紗。それではまるで、お前一人だけで主と結婚したいと怒ってるようだぞ」
「な!」
メンマの言葉に関羽は途端に真っ赤になった。わかり易すぎる。
「ずるいのだ。鈴々もしたいのだ!」
「そうだぞ愛紗、あ、あたしだって!」
馬超も赤面。
「むむ……」
「は、はわわわ」
唸る関羽、はわる孔明。
「愛紗ちゃん、ご主人様を独り占めしたい気持ちはわかるわ。でもそのために他の娘を泣かすようなご主人様かしら?」
関羽を説得するおっぱい未亡人。
「わ、私が納得いかないのはなぜ曹操といっしょなのかと……」
あ、矛先変えた。
しかも俺に。人質やってたおかげで魏勢で話しかけやすいのって、俺になるのかな。
「いっしょにやった方がいいと思うけど」
「信用できん!」
「でも、関羽だって式中に華琳ちゃんが花嫁泥棒しに乱入してくるよりはいいんじゃない?」
「な!」
無印華琳ちゃんは関羽をかなり欲しがってたからね。後ろで秋蘭も頷いてるし。
「それとも一刀君と結婚するのが……って冗談ですから武器下ろして」
ああもうメンドクサイ娘だ。
「こいつを殺すなら加勢するぞ」
さらにメンドクサイのが混じってきた。君は正座してて。
「春蘭、今俺を殺すと、嫉妬に狂って無理心中しようとしたとか噂されるかも」
「難しいことを言っても誤魔化されんぞ」
「ええと、俺のことが大好きな春蘭が、華琳ちゃんに大好きな俺を取られないために、俺を殺して独り占めしようとした、ってみんなが言うかも」
うん。無茶苦茶言ってるね、俺。
ロリじゃない女性相手に緊張することが多い俺が、春蘭相手に軽口を叩けるようにまでなったのは、慣れとあと腹上死時に恥ずかしいところを全部見られたのも大きいのかもしれない。
魏の娘たち相手にはもうちょっとしか緊張しないんじゃないかな、普段は。
「そ、そうなのか?」
「そんなわけないでしょう!」
今度は猫耳軍師か。
「男ってだけでも罪なのに、華琳さまの夫になろうとするなんて許されない大罪よ。さっさと殺しなさいよ!」
俺以上に無茶苦茶言ってる。殺したって道場行くだけで無駄なの忘れないで欲しい。
「おっちゃん、ちびっこに珍しい鞄あげたって本当なの?」
まだ喚き続ける桂花を押しのけて季衣ちゃん参上。
「あのランドセル?」
「なんであんなやつに!」
「本当は季衣ちゃんに渡そうと思ってたんだけどね」
「ボクに?」
「うん。季衣ちゃんにはいっぱいいっぱいお世話になってるから。でも、製作を頼んでた店主が変に気を利かせてこっちに送ってくれたんだ。せっかくだから、張飛ちゃんに試してもらって改良型をつくろうかと」
「おっちゃんがくれるなら、あれでいいのに」
不満気に口を尖らせるが、頬が赤い季衣ちゃん。
可愛いなあ。なでなでしようかな?
「季衣には贈り物を用意しておいて、妻になる私にはないのかしら?」
俺より先に季衣ちゃんを撫でている華琳ちゃん。
まるでバスの降車ボタンを先に押されたような、俺のこの右手の立場は?
「あれは元々、偽白装束の衣装を作った時に頼んでいたものだから。人質になってから用意しようとしたものじゃない。第一、華琳ちゃんへの贈り物を用意できるほどの金がない」
「給金なら出しているわ」
「え? だって俺人質してるから兵士の仕事してないし」
まあ城に軟禁状態だったんでお金は使わないですんでいたけどね。
「おっちゃん、お金なくてごはん食べられなくてそんなに痩せちゃったの?」
季衣ちゃんの頭上の華琳ちゃんの手に俺の手を重ねた。一瞬華琳ちゃんが反応したが、そのままいっしょに季衣ちゃんを撫でる。
「人質としての手当ては出すと、ちゃんと連絡させたはずだけど……桂花」
「は、はい」
華琳ちゃんと重なる俺の手を睨んでた桂花がビクリ。
「伝えたわね?」
「そ、それは……それぐらい知っていて当然かと……」
ああ、嫌がらせで情報がストップされていたのね。
って人質手当て? そんなのあったんだ。
「罰が必要ね」
桂花にこう言う時の華琳ちゃんは輝いてるなあ。
そう思って手も離さずにうっとり眺めてたら、とんでもない事言い出しました。
「桂花、皇一と結婚なさい」
「……は? 華琳さま、今なんて……」
俺と同じようにうっとりしていた桂花の表情が一瞬で真っ青になった。
「聞こえなかったの? 仕方ないわね、もう一度言ってあげる。皇一と結婚なさい」
「それが罰ってあんまりじゃない?」
主に俺に精神ダメージって意味で。
「北郷があんなにお嫁さんもらうのに、こっちは私だけなんて悔しいじゃない!」
「それなら華琳ちゃんが嫁にもらえばいいんじゃ? こっちじゃ女同士でもアリなんだろ?」
孫策周瑜と二喬とか。
「私の嫁の数が、北郷の嫁より少ないのはもっと悔しい!」
「そ、そういうもんなの?」
「ええ」
なんという複雑な乙女心。
「だから春蘭、秋蘭、季衣。あなたたちにも結婚してほしいのだけど」
桂花のは命令でこっちはお願いか。
って。
「ちょ、ちょっと待って!」
「なぜお前が止める?」
そりゃ止めるでしょ。
「春蘭は俺と結婚したいの?」
「嫌だ!」
「ぐっ。春蘭なのにそうきっぱりと言われるとすごい傷つく」
なんか全人格を一言で否定された気がする。
「まあ俺も嫌だけど」
「なんだと貴様!」
冗談だよ。剣出すほど怒らなくてもいいじゃない。
「落ち着け姉者」
「だが」
「花嫁衣裳を着てみたくはないか?」
「む? それは女として生まれたからには憧れるものはあるが……」
うん。たとえ馬鹿の春蘭でもウェディングドレスは似合うに違いない。
「その隣には同じく花嫁衣裳の華琳さま。見てみたくはないか?」
「うむ。見たい!」
「見たいに決まってるでしょ!」
桂花までもが納得する。当然だ。俺もすごく見たい。
「ならば結婚式を挙げるしかあるまい」
「そうか」
「いやちょっと。秋蘭はいいの?」
「なんだ? 我ら姉妹に不満があるというのか?」
「なんだと貴様!」
だから春蘭は剣しまって。
「いやそうじゃなくて」
「ならば季衣か? たしかに季衣にはまだ早いかもしれんが」
「え? おっちゃん……」
泣きそうな目で俺を見る季衣ちゃん。
「くっ。ズルいぞ秋蘭」
華琳ちゃんと共同作業なでなでを再開。
「季衣ちゃんは、俺みたいなおっさんと結婚してもいいの?」
「おっちゃんだったらいいよ」
そんなあっさり?
「ちびっこには負けらんない!」
「そういうもんじゃないでしょ?」
ああもう可愛いなあ。華琳ちゃんが微笑んでるのもわかる。
二人とも可愛すぎるので思わずまとめて抱きしめた。
殴られた。
殴られた。
蹴られた。
死なない程度には手加減してくれてるみたいだけど、すごく痛い。
まとまりかけたと思ったら、まだごねてる方がいました。
「や、やっぱり結婚なんて……」
「お姉ちゃん!」
「蓮華さま、政略結婚と割り切ってでも結婚して下さい」
この場で唯一のおっぱい軍師が眼鏡を光らせた。その技をマスターしているとは。評価を改めねばなるまい。
「穏! ……蓮華さま、穏はこう言っておりますが蓮華さまのご意思のままお決め下さい」
「思春はそれでいいの?」
「はっ」
「わかったわ。思春もいっしょなら、私は結婚しよう」
なんだ、甘寧のためだったのか。
「ああ、冥琳にもいてもらいたいな」
「そうだな。さっさと倒して参加してもらおう」
孫権に微笑む一刀君に関羽の眉がピクリ。
「それは、嫁としてですか?」
「い、いや、新婦の親戚としてです」
そんなこんなで周瑜との戦いの後、一刀君たちと俺たちの合同結婚式が開かれることとなった。
同盟を内外に知らしめるデモンストレーションでもある。
なんか戦が前夜祭扱いになってるような。
てゆうか、その戦のための会議じゃなかったの? これ。
華琳ちゃんたちと魏に帰った俺。
しかし婚前交渉などまったくなかった。
「まずはその身体を治しなさい。また腹上死したいの?」
俺のことを心配してくれてるらしい。
初めて華琳ちゃんの手料理にありつけた時は涙が出た。
俺の胃を察してお粥が多かったけれど。
「すごい美味い!」
「当たり前でしょう。残したら承知しないわ」
兵士としての訓練。
訓練は有難いことに春蘭が稽古をつけてくれた。
「華琳さまの夫となるのだ。少しはマシになってもらわんとな!」
シゴかれました。体重戻るの、遅れそう。
有難すぎるイジメであった。
季衣ちゃんが溜め込んだ書類の手伝い。
「もうこんなに?」
「おわったらご飯にしようね!」
俺の膝の上に座ってる季衣ちゃん。仕事の効率は下がっているけど当然それは言わない。
「おわったら、ね」
たぶん、おわる前に中断して食事して徹夜、かな。
そして華琳ちゃんに命じられた結婚式の準備。
桂花と秋蘭も一緒にきてもらっている。
「らんどせる、いかがでしたか?」
「送ってくれてありがとう。なかなかいい出来だったけど……」
ランドセルの製作を頼んだ店で店主と再会。
「こんな感じで」
「なるほど」
本題であるウェディングドレスのことを相談。
もちろん俺がウェディングドレスに詳しいはずもなく、役に立ったのがコミケカタログ。サークルカットがわずかにでも説明の手助けとなっていた。
「これが天の花嫁衣裳か?」
店主が書いたイラストで雰囲気を掴んだのか、秋蘭がふむと頷く。
「試作品ができたらすぐに持ってきてくれ」
「ん? あの人形、もう直ったの?」
「いや、華琳さまの身代わりに散った人形は命令により廃棄されたからな。姉者がまた新たにつくったのだ」
桂花には聞こえぬように互いの耳元で囁く。
「なにひそひそ話してるのよ」
「いや、桂花のはベールに猫耳つけた方がいいのかな、って」
「べえる?」
店主のイラストを指差す。
「ほら、この被り物」
「変じゃないかしら?」
それ言ったら普段の猫耳フードも変だけど。
「桂花らしくていいんじゃない?」
「らしくて? あんたが私のなにをわかるって言うのよ、この泣き虫強姦魔!」
「少なくとも身体の隅々まで知っているのではないか?」
「な!?」
ちょっと秋蘭さん、なに食わぬ顔でなに言ってるんですか。
たしかに腹上死の時にアレやコレや色々しましたけど。
「私たちのどれすの大きさを的確に指示しているではないか」
「ああ、それか。あってるかな?」
「後は本人が合わせれば問題あるまい」
後ろで桂花がぶつぶつと思案中。
「華琳さまのの大きさまで合っているなんてやっぱり殺すしか……」
「後は指輪を買いたいんだけど、どこがいいかな?」
ドレスと季衣ちゃんのランドセルを頼んで店を出てから、二人に相談。
「指輪?」
「うん。天じゃ結婚式の時に指輪の交換ってお互いに指輪を付け合うんだ。左手の薬指にね」
「ほう」
「で、それが既婚者の証みたいなもんだから、たいていはみんな指輪をずっとつけてるんだ」
給料三ケ月分、っていうのは黙っておこう。人質手当てって思ったよりもかなり多かったけど、指輪がいくらぐらいするのかまったくわからないし。
「なんで左手の薬指なのよ?」
自分の左手を見ながらの桂花。
「たしか、左手の薬指には心臓と直接繋がる血管があるって伝えがあるんだ。本当にそうかは知らないけど」
「なるほど。互いに相手の心臓を握り合うというワケね!」
そんな意味だったっけ?
「桂花はそんな指輪なんてしない、って言うと思ったんだけど?」
「華琳さまと同じ場所に指輪をするのよ!」
「ああ、意匠は同じにするつもりだから」
「しかもおそろい!?」
だってみんなの分、別々に選ぶのって大変そう。
夜。
部屋は兵士の宿舎から城へ移されていた。
安全上の理由らしい。今更干吉は俺を直接狙ってこないと思うけどなあ。
寝る前はたいてい泣く。
魏に戻ってから信じられないくらい幸せで。
だから余計に辛くて。
この世界が終わるのがわかっていてもどうしようもなくて。
今もし死んだら、ロード3から始めるという誘惑に耐えられるだろうか?