本編では明らかにしなかった道場の正体です。
あくまで蛇足ですので、読めば本編で出さなかった理由がおわかりになると思います。
――――――――――――――――――――
「幼女を大きくさせない能力がいい」
「そんな能力でだいじょうぶか?」
「大丈夫だ。問題ない」
……随分変な夢を見た気がする。
相手は誰だったかわからないが、どんな能力が欲しいって聞かれたから、答えた。
自分があんな要求をしたことに苦笑する。
なんでもいいなら、もっと他にもあるじゃん、ねえ。
不老不死とか魔法とか。
……可愛い幼女が巨乳のビッチにならない能力ってのは悪くないか。
うん。
……で、ここどこ?
知らない天井というか、知らない部屋。
起き上がって周囲を確認したら、自分が寝ていたのはベッドじゃなくて作業台のような物。
それが乗っている床には魔方陣らしき模様がたくさん。
気味が悪い生物のレリーフだらけの壁。
そして、目の前には、巨大な爺さん。
作り物じゃなさそうだけど、もちろん人間でもないっぽい。
言った方がいいのかな?
「そんなでかいジジィがいるか」
「おお、目覚めたか、我が息子よ!」
でかいけど、かすれてる変な声。元気ないのかな?
「?」
息子? まさか俺のことじゃないよね?
辺りを見回すが、俺とでか爺さんの他には誰もいない。
「お、俺の親父は普通の人間だけど。あんた誰?」
ビビリながらも立ち上がり、なんとか聞いてみた。
「我が名はタムーア。この世界の主」
「この世界?」
「はざまの世界じゃ」
どっかで聞いた世界だな。
「苦心の末、やっと手に入れた特異点に我が力を注ぎ込んで生まれたのがお前じゃ。我が息子よ」
特異点? 力を注ぎ込んだ?
「息子よ! お前は我が仇を討つために生まれたのだ」
「生まれたってのか、改造されたみたいなんですが」
ショッカーの怪人は大首領の息子ですか?
「残り少ない力もほとんど全てお前に注ぎ込んだ」
俺の話、聞いてます?
……これってあれか?
神様転生?
なんか能力くれるって聞いた気がするし……。
「我が一族として、奴を倒すのだ!」
「やつ?」
「魔神ダークドレアム」
「だ……ダークドレアム?」
聞いた覚えがある。
戦った覚えもある。ただし、ゲームでだけど。
たしかドラクエ6の隠しボスだったはず。
破壊と殺戮の化身とか、物騒な名乗りをしていた。
「な、なんでそんな魔神と戦わなきゃいけないんだ?」
「戦う、ではない。倒すのだ!」
そんな無茶言われても。だって6のラスボスをボッコボコに……。
「タムーア? ……まさかデスタムーア、さん?」
目の前の爺さんの姿はたしかにデスタムーアの第一形態に似ている気がする。ただし、こっちの方が服も身体もボロボロだけど。
「奴に倒された時のわしがあまりにも……魔王の地位と誇りを失ったわしはデスの称号を捨て、ただのタムーアとなった」
ああ、たしかにダークドレアム戦じゃラスボスがギャグキャラと化してたっけ。
オリ主に蹂躙される踏み台転生者みたいだった。
「なんで俺が? 本当の息子とかいないの?」
「お前を探すために、様々な世界を渡った」
俺の質問はスルーですか。
「わしは見込みのある者を鍛えるために道場を作った」
「タムさんが道場を?」
「うむ。霊界ともリンクしている小さな世界だ。わしが選んだ者は、例え死んでもそこからやり直せる。そう、あの忌まわしき勇者たちのように」
俺がつけてあげた愛称もスルーですか。……6って主人公、勇者だったっけ?
「お前は、冒険の書を使うことができるはずだ。それを使えば失敗してもやり直すことができよう」
「これか」
もう何度も見ているウィンドウを呼び出す。
マジで冒険の書だったとはね。
「道場主ってのは?」
「その世界に詳しい死者だ。説明もなしでは息子候補も苦労するだろう」
はい。全然説明してくれなかったから、苦労しました。
「周回ボーナスってのは?」
「その世界から得られる祝福だ。だが、元とはいえ大魔王であったわしに祝福など望めまい。関係者も同じであろう」
……それであんな嫌がらせばっかりだったのか。
「……なんで俺が選ばれた?」
「わしが選んだ世界は、滅びの世界。やがて消え去る世界。世界の滅びをおさえつける者こそ、奴を倒す力を持っていよう」
たしかに終末ルート回避して、これからだって思っていたらこっちに来ちゃったわけだけど。
「元の世界に帰してくれ」
「奴を倒せたら、自分で帰れるぐらいの力は持っているはずだ。我が力を受け継いだのだからそれぐらいはできよう」
倒すの前提で話を進めるの、止めてくれません?
「俺、すっごく弱いんだけど」
「心配するな。わしが残りの力のほとんどを注いだのだ」
不安になって自分の身体を確認する。
「鏡どこ? ……あまり変わってないようだけど……おおっ!」
ずっと悩みの種だった双子が一人息子に戻っていた。
「安心するがいい。第二形態で元の数に戻る」
ぶっ!
「元の数ってなんだ! 第二形態って!」
「わしの息子だ、当然であろう。そして、わしからだけではない! 骨格にはゴールデンスライムから抽出した成分を注入」
「どこのクズリ?」
握り拳に力を入れてみるけど、爪は生えてこなかった。残念。
「やっぱアダマンじゃないから駄目なのか」
というか、父デスタムーア、母ゴールデンスライム?
「さらにとっておきの、対象の老化を防ぐ能力。これで強いが寿命の短いモンスターも長持ちさせることができる」
「い、今なんて……」
「対象の老化を」
「しまったぁ!」
さっき見た夢はこれだったのか!
……俺はなんてミスをしてしまったんだ!
「なんじゃ?」
「幼女を大きくさせない、じゃなくて、対象を幼女にする、な能力にすれば良かった! 俺はなんて愚かなんだ!」
それなら熟女も幼女にすることができる。いや、もしかしたらモンスターも幼女にできたかもしれないのに!
「……って、対象をってことは幼女以外にも使えるの?」
「無論だ。……ふむ。妖女か。さすが我が息子」
なにに感心してるんだろう。タムさんもロリコンなのかな?
「このはざまの世界にも何百年かぶりに人間を堕とした」
「もしかして俺の知り合い?」
「わからん。他にあと二人の人間がここにいる。できればお前のようにわが子として生まれ変わらせたかったが、わしにはもう力が残っておらん」
だからボロボロなのかタムさん。
「力試しに殺すもよし、道具として使うもよし。好きにするがよい」
「いや、それはちょっと」
やっぱり大魔王ってことか。……元だけど。
「幸い二人ともメスだ。お前の力も使えよう」
メスって。って、能力って女性限定なの?
「わしは最後の力でお前が憎きダークドレアムを倒すまで生き延びる。わしが死ぬ前に怨敵を打ち倒してくれ……」
眠ってしまったタムさんを手術部屋(?)に残して、俺は二人の人間を探しに行く。
……どうやらここは城らしい。家具とかタムさんサイズのもあったりする。
元とはいえ、大魔王の城なのにモンスターの姿がない。遭遇したら逃げようと思っているのだが。
玉座の間とおぼしき場所に二人はいた。玉座デカすぎ。
「えっと、フォズちゃんとリッカちゃん?」
「はい」
「え、ええ」
ナイスだタムさん。今ならあんたを親父と呼んでもいい!
俺の知り合いではなかったが、宿屋の娘とロリ大神官。能力のあるロリ。最高だ。
「私たちが絶望したから、ここへ堕ちてしまったの?」
たしか、はざまの世界ってそんな設定だったはず。
「うん。さらに俺は改造されて、その上難題を押し付けられた」
「そんな……」
「元のとこへ返してあげたいけど、タムさんもうそんな力もなさそうだしなぁ。探せば元の世界へ戻れる旅の扉……って、二人とも違う世界から来たっぽいなあ」
「え?」
フォズちゃんは7の、リッカちゃんは9の世界だよね?
「……いいです。今、元の世界へ戻ってもすぐにまたここへ戻りそうだし」
「……わたしも」
「そんなに深い絶望なのか?」
二人ともまだ主人公に会ってないのかな。
「ありがとう。ここに一人ぼっちなんて泣きそうだったんだ」
「でも、わたしなんかいたところで役にたてませんよ」
「そんなことはない! 美少女がいればそれだけで俺は嬉しくなれる」
これがむさいオッサンが二人だったら地獄でしかないだろう。
「え?」
「それにたぶん、君達はすごい役に立ってくれると思う。フォズちゃん、リッカちゃんなにか得意なことは?」
知ってるけどね。
自分を見直して、少しでも自信を取り戻して欲しい。
「わ、わたしは宿屋を」
「私は……転職を」
「うん。すごい助かるじゃない。……一番役立たずはやっぱり俺か。あ、でも改造されたからちょっとは強くなってるのかな」
呪文とか使えるのだろうか?
タムさん武器とか用意してくれてないかな?
「さて、どうしたものかな?」
二人と相談する。
「まずは現場の確認、かな? はざまの世界って言ってたけど、どんなとこなのかよく調べないと」
「食べられるもの、あるでしょうか?」
探索することになった。万が一の場合に備えて、三人でいっしょに。
モンスターいないといいなあ。
「とりあえずしばらくは大丈夫そうか」
現在地はやはり城だった。
ところどころ壊れて早めの復旧が必要そうだが、厨房はしっかりしており、食料も用意してあった。
城の内部に住むものはいなかった。
普通のサイズの調理器具や食器も見つかって、なんとか食事はできそうだ。
火をおこすのが大変そうだったので、今回は水とパンだけで済ました。たぶん、魔法で火をおこしていたんだろうな。フォズちゃんなら着火できるかもしれないか?
タムさんが一人で料理とかしてたんだろうか? ……なんか悲しくなってきた。
「大魔王としての立場と誇りを失ったって、嘆いてた。もしかしたら配下のモンスターに見限られてたのかも」
「何百年も一人で……」
泣けてきたので、パンと水を差し入れに行った。
「あれ……」
手術室(?)にタムさんの姿はなかった。
「どこ行っちゃったんだろう?」
「ここだ」
「?」
足元から声がする。
タムさんの声に似ているけど、もっと小さい。
「どこ? って!」
目の前の床に小さな小さなモンスターがいた。
「これがタムさん?」
フォズちゃんとリッカちゃんがテーブルの上のタムさんを興味深そうに眺める。
モンスター、おおめだまを小型化したようなその姿はまさしく某親父。サイズもあんな感じである。
「こめだま、ってところか。なんで目玉なんてアレっぽい姿に」
「ダークドレアムを倒す瞬間を見るためじゃ! 力もほとんど失ってしまったがこの姿ならお前と共にいけよう」
じゃって口調までアレっぽくせんでも。
「落ちたら危険かも」
無事なベッドは一つだけ。巨大なまさしくキングなサイズのベッド。旧タムさんってガタイでかかったもんなぁ。
枕もあったが大きすぎて首が痛くなりそうだ。
「せめてシーツぐらい換えようか」
三人がかりでシーツと布団カバーを交換。
かなりの重労働だった。
その日は三人で寝た。
とはいっても、俺は二人から離れてだけど。
タムさんは俺のそばにいた。やっぱり寂しかったのだろうか?
翌日、リッカが見つけた巨大な鋏で布団を解体。同じく巨大な針が見つかり数組の布団セットが完成。
旧タムさんサイズってことは自分一人で裁縫とかしてたんだろうか。
探せば食器のように普通サイズのも見つかるかもしれないな。
小目玉タムさんの案内もあって城の構造をだいたい把握した。
ただ、この姿になる時に記憶もかなり失っているみたいで、そんなに役にはたたなかった。
次は外の調査。
けど、狭間の世界ってモンスター強いんじゃなかったっけ?
早くレベル上げてルーラ覚えて、元の世界に帰れるか試したいんだけどなあ。
俺が戻りたい世界ってどっちだろう?
生まれた世界か、それとも終末が回避できた世界か。
ルーラでどっちにも行けるようになるといいな。
危険なのでリッカちゃんとフォズちゃんを残し、城から出発する。
装備は、鋼の剣と鉄の盾。それが、城で見つかった一番いい装備だった。
「他の品は配下がわしの下から去る際に持ち出してしまったんじゃろう」
なんて迷惑な。
あと、みつかった鎧は重いし、呪われているものしかなかった。
「わしの息子なのじゃから、呪いぐらいは余裕で無効じゃぞ」
そう言われても呪われたら外せなくなるので、試す気にはならない。
恐る恐るフィールドを散歩してると、モンスターに遭遇。
出てきたのはドラクエお馴染みのスライムだった。
「わしの力が落ちて、この程度のやつがおるとは。情けないのう」
肩の上で嘆くタムさん。
でも、これなら勝てるかもしれない。
「俺たちの戦いはこれからだ!」
……俺は逃げ出した。
やっぱりもう少し、呪文とか他の能力確認してからにしよう!
<あとがき>
という、ドラクエSSの外伝的な話が恋姫†有双でした。
恋姫†有双では、無理に明かさなくてもいいかと思い、本編では触れていません。
セーブ&ロードと道場の設定だけもってきたわけです。
タムさんはたくさん道場を用意したので、これが恋姫†有双のアフターとは限りません。
タムさん
オリ主にセーブ&ロードの能力を与え、自分の力を受け継がせ、破壊と殺戮の化身ダークドレアムを倒せと命令する謎の老人タムーア。
その正体は「デス」の称号を失った元大魔王。つまりドラクエ6のネタラスボス、ヘタレ魔王と名高いデスタムーア。
狭間の世界を創り出す程の強大な力を持つが、ダークドレアムに敗れて力を失い、「道場」を創るのがやっとだった。
オリ主を息子と呼び、ダークドレアムが倒される瞬間を見るため、最後に残った力で小型な大目玉のようなモンスター(小目玉?)となる。そのまま某親父のようにオリ主についていく。
恋姫†有双にも登場させようか迷いましたが、必要なかったですよね。