実戦マジ怖い。
何度気を失いそうになったことか。
強力すぎる護衛のおかげで俺のとこまで敵兵がくることはまだなかったけど、顔見知りの兵士が死んでたり、敵兵だった死体を見たり。
十年後の俺、よくこんなの慣れたなあ。
「ちゃんと寝てやがるですか?」
寝不足気味の顔をねねに気づかれた。
寝不足なのは別に毎晩桃香が寝かせてくれないから、というワケではない。
夢見が悪いせい。
ここのところ、死んだ兵士が「死んでロードしてやり直してくれ」って言ってきたりする夢とかよく見る。
その兵士が俺の能力知ってるはずもないから、幽霊とかじゃなくてただの俺の思いこみとか強迫観念とかなんだろうけど。
わかっていてもぐっすり眠れない。
……ばれちゃったついでに、ねねに相談したら添い寝してくれた。恋もいっしょにだ。
いまだ記憶を取り戻していない女の子と寝ることに緊張したせいか、その日は嫌な夢は見なかった。
ねねは俺が思い出すことを期待していたらしく、それが叶わずにがっかりとしていたけれど。
あと悪夢は見なかったけど緊張であんまり眠れなかった。
そんな日が続いたある朝、張々という名のねねの犬に起こされた。
犬とはいってもセントバーナードっぽい大型犬、その重さで俺が潰れる。
なんとかその下から脱出すると、ねねだけでなく恋までいた。
疲れている俺のために愛紗が休みをくれて、ねねと恋とピクニックへ行けということらしい。
眠れてない、ってのはねねに黙っているように頼んでいたけれど、愛紗にはばれていたのかな。
「兄殿?」
「ご主人様?」
張々に跨ったねねの先導で山を歩いていたら、二人のことを思い出した。
「家族のこと、忘れちゃっててごめん」
家族の思いでっぽいイベントで記憶復活ってのは関係あるのかな?
その後、恋が川でセキトを洗うために脱ぐという無印イベントも発生。
……なぜか俺がねねに怒られた。
劉備軍は紫苑の勧めで巴郡を攻めた。
紫苑推薦の厳顔、魏延を仲間にいれるためだ。
一戦して力を示さないと納得してくれないなんて理由で。
「仲間になってもらうんだったら、無駄に兵を死なすことないのに」
またさらに眠れなくなるのかな。
十年後の俺、よくこんなの慣れたなあ。
「けれど桔梗、焔耶ともに頼りになる者たちです。戦ってでも仲間に入れる必要があります」
愛紗が言うには、厳顔と魏延は二周目でも劉備軍、その時は北郷軍の武将になっていたらしい。
ならばきっと、戦うのが正しいんだろう。
結局、厳顔は鈴々ちゃんとの一騎打ちの末、仲間になった。
一騎打ちで済むなら、兵が戦わないで済んだのに!
桔梗の記憶が復活したけれど、もっと早く思い出せれば、と落ち込む俺だった。
魏延も戦いに敗れたからっていうよりは、桃香の魅力で仲間に。
焔耶の記憶も戻った。
……ますます落ち込んだ。
桔梗と焔耶についての知識があれば、桔梗と鈴々ちゃんの一騎打ちだけで、後は桃香が説得すれば二人とも仲間になった可能性が高い。
セーブスロットがもっとあったら、巴郡戦が始まる前のセーブを残しておけるのに。道場へ行くことがあったらそこからやり直すのに。
十年後の俺だったら、すぐにやり直したんだろうか?
……いや、そもそも知識があるんだ。最初っから一騎打ちだけにしたのかもしれない……。
うう、ネガティブになってばかりもいられないか。
取り戻した記憶で明るい材料を探そう。
……じゃないときっと俺、おかしくなる。
桔梗は非処女でした。残念!
年上処女ってカテゴリーは好みなのに。
桃香のおかげで俺も、おっぱい平気になったのが確認できたのになあ。
そういえば桃香としちゃったことがばれて愛紗に説教された後、桃香も俺の嫁ってことになった。
十年後の俺は、抱いた娘は全部嫁にしていたってのは本当らしい。
「大事な処女をもらったのだから、嫁にするのが当然。と仰ってましたな」
「一応、抱く前に嫁になってくれるか? って確認はしてくれました」
星と斗詩が教えてくれる。
「ああ、双方の同意とかにも拘っておりましたな」
それは当然でしょ。
しかし……処女厨で独占厨か。我ながら面倒くさいやつだったみたいだな、十年後の俺。
「戦いが全部終わったら結婚式をしようと楽しみになさっていました」
へぅ、と月ちゃんが頬を染める。
でも、それって死亡フラグだよね。だから二周目もうまくいかなかったんじゃないの?
「ボクたちは知らないけれど、一周目では魏の連中とは結婚式したらしいわね」
驚きの詠情報。
俺が華琳ちゃんたちと結婚式!?
って、そんな記憶もちゃんとあるんだよね。肝心の華琳ちゃんのウェディングドレスは思い出せないけどさ。
……愛紗は北郷一刀の嫁になってたみたいだし、思い出したくない記憶もあるみたいだ……。
結局やっぱり俺は落ち込んでいたけれど、一緒に寝に来てくれたねねの様子もおかしかった。
「大丈夫か? 辛いんなら今日は一人で寝るからいいよ」
「……大丈夫じゃないのです」
「そうか」
そろそろいい加減、あの悪夢にも慣れないとな……。
「ねねは大丈夫じゃないのです。悩んでいるです!」
「ねね?」
ねねと共にきていた恋も驚いている。
「ねねは、兄殿と恋殿のどっちが大事かわからなくなってるのです!」
「え?」
俺と恋?
「兄殿は婿。しかし、恋殿も我が主……」
「えっと、どうしてそんなことで悩むの?」
「恋殿としたいのです! 兄殿なら恋殿とねねができるです。……でも、恋殿が兄殿に汚されるのも嫌なのです」
いきなりぶっちゃけすぎ!
確かに今の俺なら二人とできるだろうし、そんな記憶もある。二周目のねねも流琉と一緒にしたし。
なんか、もう片方のジュニアの感覚、つまり自分といっしょに抱かれている方が感じられる、って俺にはよくわからない報告もあるし。
「兄殿の毒牙にかかるくらいなら、ねねがほしいのです! でもそれには兄殿のち●こが必要なのです」
うん。たしかにねねは大丈夫じゃない気がする。言ってることが矛盾している。
「……恋がほしい?」
恋が首を可愛く傾げるものだから、ねねがさらに興奮してるな。
どうすればいいんだろう?
「……俺が大事ってのは?」
「兄殿がねねのことを忘れて構ってくれなくなると寂しいです」
思わずねねを抱き上げる。
「ああ、俺が忘れちゃって寂しい思いさせちゃったもんなあ。ごめん」
「そうじゃないのです。恋殿が魅力的すぎるから夢中になって、兄殿はねねのことなど忘れてしまうです」
「もう忘れない。可愛い妹のこと、大好きな嫁のこと、忘れない!」
ねねを抱きしめる腕に力をこめる。
そっとキスをする。
「ご主人様、ねねをいじめるの、駄目」
ねねが恋に奪われた。
「いじめてるわけじゃないよ。大好きの証明」
「……大好き? ……恋も」
俺の唇が恋に奪われた時、ねねの瞳が光った気がした。
「これで恋殿も兄殿のお嫁さんなのです!」
翌朝、ねねは上機嫌だった。
もしかしたら悩んでいる素振りもねねの策だったのかもしれない。軍師らしく。
……そんなことはないか。
「……恋もご主人様の嫁?」
「うん。……もしかして嫌?」
ふるふると首を振る恋。よかった。
「ありがとう」
そういえば嫌な夢は見なかったし、疲れたせいかぐっすり眠れた気がする。
「ありがとう、ねね、恋」
もう一度二人に礼を言った。
霞が見廻りに行くというので、俺も誘われた。
あんまり話す機会もなかったしちょうどいいかと、それに応じる。
こんな時はいつも護衛としてついてきてくれる恋とねねは、霞がいれば大丈夫と珍しくいない。恋の家族の食料調達に出かけている。
「そういえば恋とねねと同じとこにいたんだっけ?」
「せや。後は華雄がいればみんなおるんやけどなあ」
華雄か。袁紹軍にいたはずなんだけど、今はどうしてるんだろう?
「この辺でええか」
小川で小休止して、兵隊さんたちと距離を置く霞。俺にはついてこいってことは、なにか話があるのかな。
「ウチってさ……魅力無いかな?」
いきなりの霞の質問で、俺の記憶がまた一つ復活。
霞に関することを思い出した。
……って、このイベントは無印の霞のエッチイベントなはず。この先にエロシーンの記憶がある!
「ウチの処女、あげる」
エロシーン回避のために、霞が魅力的なことを力説して納得してもらおうとしたが失敗したようだ。
「簡単にそんなこと言うんじゃありません! 処女は大事にしなさい!」
あんまり話したことない霞といきなり、ってのはどう考えても駄目でしょ、うん。
「あ、霞に魅力がないってわけでは決してないから、そこんとこ誤解しないように」
「せやけど、やっぱ」
「違うの! 俺は嫁になってくれる娘としかしないの!」
「嫁なってもええよ。愛紗も嫁なんやろ?」
……もしかして、それが狙いか?
そういえば、二周目で霞とした約束叶えてあげられなかったな。
「嫁になってくれるのは嬉しいけど、処女もらうのはまた今度かな」
「なんでや! やっぱりウチなんて興味ないんやろ!」
違うってば。
霞にそっと口付けする。
「こんなとこで、そんなことしちゃ可愛い霞の裸、俺以外のやつに見られちゃうでしょ。兵隊さんとかにさ」
「あ……」
「それにね、俺の相手は一人じゃ大変なんだ。ましてや初めてだったら余計にね。だから愛紗と相談してみて」
「愛紗と?」
萌将伝の霞だったら無理だろうけど、無印イベントをこなす霞ならきっと大丈夫だよね。
赤い顔の霞といっしょに待機していた兵隊さんのとこに戻ったら、兵もなんか様子が変だった。やっぱり覗いていたか。
翠とたんぽぽちゃんが俺を遠乗りに誘ってくれた。
ここのところ、落ち込んでいたのを察したのかもしれない。
翠の麒麟を借りる。頭のいい馬で乗馬にいまだ慣れてない俺のいうことも聞いてくれる。
三人と三頭で走っていたら、翠とたんぽぽちゃんの記憶が戻ってきた。
「俺のお嫁さんはいるか?」
「ここにいるぞーっ!」
たんぽぽちゃんが片手を挙げながら返事してくれる。
「皇一、もしかして?」
「うん。思い出したよ。競馬場での翠と俺との二人だけの秘密とかも」
「★□△○×っ!?」
うん。この翠の焦った顔も覚えているのとおんなじだ。
「安心して。誰にも言わないから」
「ええーっ! たんぽぽ、知りたいなぁ♪」
「ひ、秘密だっ!」
誤魔化すように翠は馬の速度を上げて、俺たちを置いていってしまう。
「残念。でも、思い出してくれてよかった」
たんぽぽちゃんの可愛い笑顔に、俺も思い出せてよかったと思うのだった。
「ご主人様、どういう事ですか?」
霞を連れて寝室にやってきた愛紗。
やっぱり怒っているなあ。変に誤魔化さずに素直に言った方がいいかな?
「霞の初めて、いっしょにもらって」
「なっ!」
「ウチを女にしたって!」
霞も愛紗に縋りつく。
「霞も嫁にするつもりですか」
「……霞も納得してくれている。それに、二周目の霞と約束してたんだよ、俺」
後半は霞には聞こえないように愛紗の耳に囁いた。
「約束?」
「愛紗が俺を置いて行っちゃったんで、約束を果たすことができなかったんだ」
二人で呑んだくれてたっけ。愛紗の毛をお守りにしたりもしたなあ。
「そ、それを持ち出すのはずるいです……」
愛紗はいまだに、二周目俺を置いて北郷一刀のとこに帰ったことを気にしている。俺が酷く落ち込んだとかも聞いたせいだろう。
「……わかりました。霞、覚悟はいいな」
「優しぃしてな?」
いや、それは俺に言ってほしかった。
もちろん優しくするけどね。
「ご主人様はやはりご主人様です」
「……十年後の俺と同じだった?」
愛紗は初めてじゃなかったけど、全く問題ない。
奪ったのは十年後とはいえ俺だし、その記憶もある。
「はい」
霞の初めてをもらった後、双子が両方愛紗にお世話になったのも関係してるのかな。
白蓮の記憶が戻った。
その時は、仮面白馬でも山中での初体験でもなかった。
思い出したイベントは酔っ払い白蓮。
……なんか残念だった。
そんなこんなで俺が記憶復活したり嫁を増やしたりしてる間に、劉備軍は益州の攻略を続けた。
軍師たちの策もあり順調に州都成都を制圧し、そしてその情報を益州全土に流す。
桃香が蜀の王になると、呉から同盟の使者がきた。
ずいぶん手回しいいな。きっと前もって準備してたんだろう。
使者としてきたのは二人の少女、大喬と小喬。
人質として蜀に残るらしい。
「この二人では人質にはならないでしょう」
愛紗がため息。
「そうだよね。人質なんていらないよねー」
勘違いした桃香に雛里ちゃんが説明する。
「い、いえ、大喬さんと小喬さんもご主人様のお嫁さんなんです」
そりゃ裏切られても殺せないよね。
でも、俺はたぶんこの二人を送り出してきただろう冥琳の思惑がわかった。
だって二人の記憶が手に入ったから。そのためにこそ二人を寄越してくれたんだと思う。
そっか。双子になったジュニアの片割れは大喬ちゃんのだったのか。
「大喬ちゃん、孫策と一緒にいなくていいの?」
「……おじ様、記憶が?」
「うん。二人のことは思い出したよ。」
君たちは覚えていないだろうけど、三人で大泣きしたことも。
だから早く孫策と冥琳と一緒にいられるようにしてあげたい。
……孫策が北郷一刀と結婚したら、大喬ちゃんの扱いややっこしくなるなあ。
他の男には渡したくないけど。
どうしたもんかな?
<あとがき>
現時点での劉備軍メンバー
嫁(記憶復活済)
桃香、愛紗、翠、蒲公英
白蓮、斗詩、美羽
恋、ねね、霞
大喬、小喬
嫁(記憶なし)
星、雛里
月、詠
非嫁(記憶復活済)
紫苑、桔梗、焔耶
麗羽、猪々子
非嫁(記憶なし)
鈴々、朱里