歌で思い出せたのは美羽ちゃんだけだった。
ならばと、ねねからの情報でみんなが食事を差し入れたり、外食に誘ってくれるようになった。
「愛紗?」
「見た目は料理長が作る物に劣るかも知れませんが、えぇ……どうでしょう、お口に合えば」
愛紗が持つ皿に盛られたのは……チャーハン?
どう考えてもチャーハンには使いそうにないイモリやら魚やらがはみ出している。しかも姿はほとんど残ったまま。そういう盛り付けなんだろうか?
手遊びとか言ってるし、愛紗が作ったみたいだな。
料理下手というベタスキルの持ち主だったのか。
……これならイベント有りそうだし、食べるしかないのか。
愛紗の眼差しにも期待の色がこもってるし……。
レンゲを手に取り深呼吸。……あまりの刺激臭に目が痛い。
「いざ、実食!」
「……思い出し……た……」
見た目通り、というか、それ以上の破壊力でした……。
おかげで愛紗の記憶を入手したけどね!
「ご主人様?」
「忘れちゃっててごめん」
「ご主人様! 記憶が戻ったのですか?」
「うん」
震える手で愛紗を抱きしめる。
記憶と同じ香り。
同じ感触。
うん、そうだよ! おっぱいは怖くないんだ!!
「もう俺以外の男のとこへは行かせない」
「……はい。約束します」
俺が泣くより先に愛紗が泣いてしまった。
女の子泣かせちゃったって焦って、もらい泣きすることすらできなかったよ、俺。
次に来たのは袁家の連中。
「どーだアニキ!」
「おっさんかおまいは!」
猪々子たちが得意気に差し入れてくれたのは、料理といっていいか疑問なものだった。
ぶっちゃけ、女体盛り。
「調理はあたいの嫁だから、ぜってえ美味いぜ。盛り付けは麗羽さまで斗詩が器なんだから完璧っしょ!」
猪々子は運搬担当かな。袁紹もいるけど猪々子一人で運んできたし。
「ど……どう、ですかぁ?」
器となってる俺の嫁のはずの娘が赤い顔で聞いてくる。
そんなこと聞かれても……いや、これは食べない方が失礼なのか?
「う、うん。美味しそうだよ」
「当たり前ですわ! ……納得してないんですのよ。わたくしと猪々子さん以外に可愛い斗詩さんを味あわせるなんて」
ええと、料理じゃなくて器の方を味わうことになってるんですが。
……この場合は間違いでもないのか?
スタンディングポジションを取った双子を誤魔化しながら悩む。
「斗詩がどうしてもって言うんだもん。しょーがねーじゃん」
「な、なんか私が言い出したみたいに……」
もしかして二人に押し切られたのかな。
可哀相に。早く解放してあげよう。
俺は、意を決して箸を手に取った。
「思い出した……」
俺は嫁である斗詩の記憶を入手した。
ついでに、猪々子と袁紹の記憶も。
「はい、そこまでにしてあげてね」
斗詩の胸に吸い付いてる猪々子と袁紹を止める。
「いいとこなのに邪魔すんなよー」
「また今度。……うん、今度こそは猪々子の願い叶えてあげるから」
斗詩を起こして俺の上着を貸す。
この部屋から出る時どうするつもりだったんだろ?
「もしかして文ちゃんのことも思い出したんですか?」
「もう殴られて起きれなくなるのは嫌かな」
「わ、わたくしのことはどうなんですの?」
なぜか赤い顔で袁紹が聞いてくる。
袁紹か。三周目では反董卓連合で会ったぐらいしか思いでないんだけどなあ。
「ええと……綺麗な色だったよ」
意味がわかったらしい斗詩が赤い顔でジトっと見てくる。
「色ですの? とにかく思い出すくらいにわたくしを美しいと思ってらっしゃるのですのね。おーっほっほっほ! よろしいですわ! わたくしの真名を差し上げますわ!」
なんだか流れがよくわからないけど、俺は麗羽の真名も手に入れたのだった。
愛紗も斗詩も、無印恋姫†無双の拠点イベントで記憶を入手できた。
真のイベントじゃなくても大丈夫のようだ。
まあ、それがわかっても記憶を入手するまで、無印のイベントだとか思い出せないからあまり意味がないのだが。
嫁以外の娘も、記憶を入手できることが判明した。
……どっちも食事絡みだ。春蘭の「貴様は食い意地がはっているのだ」という幻聴が笑い声とともに聞こえてくる。
早く他のイベントでもなんとかしたい。
入手した愛紗の記憶を頼りに作戦を立ててみた。
まずは愛紗と桃香と散歩する。
記憶には愛紗ともう一人が街を散策中に子供たちと遊んでいるというイベントがある。
残念なことにもう一人の姿は不鮮明だけど、たぶん桃香か鈴々ちゃんだと思う。
猪々子や麗羽みたいに、嫁じゃない娘の記憶を入手できるのかを確認しよう。
「すみません、鈴々も探したのですが、姿をくらましてまして」
「いいよ。……なんか避けられてるみたいだし」
「鈴々がご主人様を避けるなど!」
いや、本当に避けられてる。
「たぶん、俺が鈴々ちゃん越しに季衣ちゃんを見てるの、嫌なんじゃないかな?」
「え?」
「無意識の内にさ、季衣ちゃんもそうなんだよなあ、とか鈴々ちゃん見てるとつい思っちゃうんだ」
だって似てるんだもん二人って。
小っちゃいのにもの凄く強くて、大食漢。身長も同じくらい。
……違うところもあるけどさ。
「なんか仲悪いみたいだから口に出したことはないけど、鈴々ちゃん鋭いとこあるみたいだから気づいちゃったんじゃないのかな?」
「なるほど。鈴々ならありえます。……以前、と言っても二周目の時ですが私が魏にいる時、季衣がよく私に構ってくれていました。たぶん気を使ってくれていたのでしょう」
ああ、それ、俺が頼んだんだっけ。
「その時に私も鈴々を思い出したのです。二人はよく似ていますから」
うんうんと俺も頷く。
「そのことを言うと季衣は似てないよと怒るのですが、それでも私の相手をしてくれました。いい子です」
「俺の嫁さんだもん」
愛紗が微笑む。
季衣ちゃんの四度目の初めてをいっしょに奪った仲なんだよね、俺と愛紗って。だから愛紗も季衣ちゃんを憎からず思っているのかも知れない。
……会いたいなあ季衣ちゃん。
あれ?
そういえば桃香は?
会話に参加していないので、ふと気づくと子供と遊んでるというか、子供に遊ばれている桃香がいた。
「愛紗ちゃ~ん、ご主人様~~~」
半泣きで助けを求めている。
これだ!
キタ!!
「思い出した!」
狙い通りに俺は桃香の記憶を入手することに成功した。
「さて、目的も果たしたことだし桃香を助けようか」
「ご主人様、もしや?」
「うん。桃香のこと思い出したよ。愛紗のおかげかな」
そう、桃香のイベントはやっぱり愛紗とセット扱いだった。季衣ちゃんと流琉、春蘭と秋蘭みたいに。
「桃香さまも喜ばれます!」
「お待たせ。助けにきたよ」
「ご主人様~」
桃香を連れて帰ろうとしたら子供達が残念そうに落ち込む。それを見て桃香もまだ残ると言うので俺たちもいっしょに遊ぶことになってしまった。
「こんな時こそ鈴々がいればいいんですが」
「そうだね、次はいっしょにこよう」
……子供達と遊ぶのはとてもハードだった。
魏にいた頃、身体を鍛えていなければぶっ倒れていたかもしれない。
そう、今俺の背中で眠る桃香のように。
これもイベントであったよな。一気に詰めてくるのか。
「桃香さまはこのところ、かなり張り切っておいででした」
ああ、書簡とかたくさんあったなあ。
「ごめん、俺が手伝えればいいのかもしれないけど……」
俺はいまだに読むのがやっと。女の子の記憶は戻るのに、読み書きとか、乗馬とかの記憶は戻っていない。
だから、勉強と兵士の鍛錬に混ざっての身体作りが多くて、桃香を手伝うことはできなかった。
……おや?
「どうしたの? 意外そうな顔をして」
「いえ、ご主人様は桃香さまを避けておられた気がしていましたので」
「俺が?」
この背中に感じる二つの膨らみを?
「はい。事あるごとに、決断するのは桃香さま、と頼られるのを嫌っておいででした」
「……それはあったかもしれない。桃香は俺がいない方がしっかりするかな、って」
なんでそんな風に思ってたのかな。
思い出せないシステムとかストーリーに関係することなのかもしれない。
「ごめん、まだよく思い出せない。……こないだみたいに俺がいない時でもちゃんと決断して欲しかったのかも?」
「ご主人様は桃香さまに期待されてるのですね」
どうなんだろう。
それに俺が桃香に期待することって、なに?
「愛紗や雛里ちゃんたち俺のお嫁さんが選んだ主だよ。期待しない方がおかしいでしょ」
誤魔化し気味に言ってから不意打ちで愛紗にキスしてさらに誤魔化す。頬にするつもりだったんだけど愛紗が合わせてくれたんで、唇に。
「ご主人様……」
「これ以上は桃香が起きちゃうから、ね」
俺は内心の焦りを隠しながら城へ帰ったのだった。
いったい俺はなんのために劉備軍にいるのだろう?
いまだ華琳ちゃんの記憶を取り戻せてないというのに!
一周目、二周目の俺は華琳ちゃんの魏軍にいたらしい。そんな記憶も女の子絡みだが、ちゃんとある。
なのになんで三周目は劉備軍に?
そこのところが、大事な部分が思い出せない。
嫁たちに聞いても、目を逸らせて教えてくれなかった。
雛里ちゃんにしつこく頼み込むと、華琳ちゃんを満足させるためと、やっと教えてくれた。
華琳ちゃんは満足できる戦いを求めていたらしい。覇王って言っていたからそうなのかもしれない。
三周目のスタート時に桃香たちに拾われたからちょうどいいと、劉備軍で華琳ちゃんと戦う決意をしたらしい。
……本当なの、と聞いたらあわわわと焦っていたので、まだなにかあるのかもしれない。
部屋に戻り、一人で悩む。
もしかしたら、華琳ちゃんと喧嘩でもしてしまったんだろうか。
嫁を増やしすぎたのが原因?
いや、俺が魏にいた時はそんな感じじゃなかった。
じゃあ、華琳ちゃんではなく俺の方に劉備軍につく理由があった?
一周目、二周目は終末を避けられずに終わってしまったらしい。三周目は華琳ちゃんが真のフォームでいることで終末は避けられると俺が言っていたそうだ。
三周目は劉備軍の勝ちで終わるんだろうか?
でも、魏は強い。雛里ちゃんや朱里ちゃんの話では、蜀を手に入れた上で呉と同盟しなければ勝負することすら、らしい。
三国志、読んでおけばよかったか。
後でまた雛里ちゃんたちと相談しないとこれ以上はわからない、か……。
……人の気配で目が覚める。考え事しながら寝ちゃったらしい。
子供達との遊びはやはりハードだったようだ。ベッドで悩んでいてよかった。そのせいで寝落ちしたのかもしれないけど。
ベッドの横に立っている人影。暗いんでよくわからないけど愛紗かな? やっぱりさっきのキスじゃ物足りなかったのかもしれない。
寝ぼけてた俺は刺客かもとか考えもせず、人影をベッドに引きずり込んだ。
「ご、ご主人様?」
愛紗ではないその声で俺の目が覚める。
「桃香!?」
「今日、ご主人様がおんぶして帰ってくれたって愛紗ちゃんに聞いたから……」
「あ、うん。お礼言いにきたのか」
「で、でも、ご主人様が望むんでも、お礼じゃなくて……ご主人様とするならお礼じゃなくて」
なにを言って……両腕の中に納まってる桃香に気づく。
赤い顔で潤んだ瞳。こ、これはイカン!
慌てて腕の力を緩めたら、桃香は逃げるどころか、俺の頭をがっちりホールド。目を閉じて迫ってくる桃香の顔。
「…………ちゅっ!」
唇を奪われた。
おんぶイベントの後は桃香キスだったのを思い出した。
けど、キスの後は桃香が去っちゃうんじゃなかったっけ?
「畳み掛けられた……」
桃香のイベントをコンボで決められたあげくに、いたしてしまったんですが。
これがメインヒロインのパゥワー?
そういえば桃香ってメインヒロイン?
「なんでいきなり……?」
「だってずっとご主人様に嫌われてるって思ってたのに、急に優しくなったから嬉しくなっちゃって、つい」
「え? 俺が桃香を?」
「うん。でもわたしに期待してるって愛紗ちゃんから聞いたから、勘違いだったみたい」
てへ、と舌を出す桃香。
これはあれか。
もしかして俺がツン状態だったのか。
ずっと桃香を避けていたのに、おんぶしたり期待してるなんて聞かされたら、デレきた! って思っちゃうのはわからなくもない……。
「身体、大丈夫?」
つい両方使っちゃったけど、やっぱり愛紗も呼んだ方がよかったかもしれない。
「うん。ご主人様の双頭竜ってそういう意味だったんだねー」
「え? ……まさかそういう意味なのか?」
自分の股間に意識がいってしまう。
双頭竜ってこの双子のことだったなんて。
街で子供達が歌っていたのが、まさか俺のムスコのことだったなんて……。
「うふふふっ、ご主人様のはじめて、もらっちゃった♪」
あまりの羞恥プレイを知り意識がとびかけていたが、桃香の台詞ではっとする。
そ、そうだ。記憶はあるけど、この身体はついさっきまで童貞だったんだ……。
二本同時に脱童貞なんて……。
なぜか、不機嫌そうな華琳ちゃんの顔が浮かんだ。
童貞卒業してからすぐに諷陵から出陣。
戦闘の記憶がない俺としては初陣なんだよね。
男になった直後のタイミングで戦闘って、死亡フラグっぽい。
桃香が妊娠しちゃってたら確実にそうだよね。ずいぶんと溜まってたからたっぷり出しちゃったんで怖いなあ。
戦いは怖かったけれど、恋が守ってくれたんでなんとか生き残れた。
あと、拠点イベント以外でも記憶入手できるってのが判明した。
入手できた相手は紫苑と璃々ちゃん。
もちろん桃香の説得のおかげで仲間にもなってくれている。
「なんか初対面の方がイベント扱いで思い出しやすいってのは複雑な気分だ」
紫苑のエロイベント思い出せても非処女だからあんまり嬉しくないし。
あ、でも璃々ちゃんにお父さんて呼んでもらうのはいいかもしれないな。うん。