汜水関の戦い。
先鋒を命じられた劉備軍だが華雄を誘き出すのにてこずる。
こちらの挑発に乗ってこない。二周目の時は簡単に出てきてくれたのに。
俺の嫁で引継ぎがある詠が言い聞かせてあるんだろうなあ。
なので挑発の路線を変更。
「華雄!」
「華雄」
「華雄!!」
華雄の名を連呼する劉備軍。
まるでシスターズのファンのようなノリだ。
さらに。
「猛将!」
「猛将!!」
「良将」
「良将!」
称える声が汜水関に響く。
思わず「イジメかっ!!」って言いたくなるのをぐっと堪える俺。
「あわわ。な、なんて恐ろしい攻撃……」
雛里ちゃんが帽子で顔を隠して震えてる。
「そ、そうなの?」
うーん、桃香にはまだわかんないか。
「例えばさ、敵軍から桃香のことを、大徳とか癒しおっぱいとか称える声が聞こえてきたらどう思う?」
「それは……恥ずかしいかも」
頬を赤く染める桃香。
「まあ、華雄はこんなことで恥ずかしがらない性格だろうけど。でも、猛将とか言われてたらその気になるかもしれないし」
「うん、期待に応えなきゃって思っちゃう」
うんうんと頷く桃香。
いや、納得されてもね。
本当のとこは孫策がくるまで罵声を続けるの嫌なだけ。
華雄のこと知らないわけじゃないし。……いっしょに白蓮助ける旅をした二周目の華雄とは別人とはわかっているけど。
孫策がくれば華雄も出てくるだろうしね。
協力を約束してくれた孫策軍が援護に来てくれた。
「なにやってんの?」
呆れた顔の孫策に説明。
「……蓮華には効きそうね」
嫁にしたい君主一位、とか、美尻、とか連呼されて真っ赤になってる蓮華が浮かぶ。……いいかも。
「まあでも、華雄には通用しなかったみたいだし、挑発お願いします」
そして、華雄は因縁のある孫策の挑発によってやっと出てきた。
「劉備! 作戦通り、華雄は私が。張遼はあなたが相手をする。それで良いな?」
ここで華雄を捕獲、仲間にしたかったんだけど、そうはいかないらしい。
「霞も引継いでてくれたらなあ」
ここで張遼を仲間にできたら月ちゃんと詠の救出とか楽になるのに。
「……霞も嫁にするつもりだったのですか?」
愛紗が俺を睨む。戦場のせいか、いつも以上に怖い。
「ど、どっちかっていうと、霞が愛紗を嫁にしたがってたんだよ」
「なっ!」
それで動揺したのか、愛紗は張遼と遭遇できず、華雄、張遼共に虎牢関に退却してしまった。
ほぼ真・呉ルートの通りに進んじゃったか。
「逃がしちゃったのだ」
二周目だと、鈴々ちゃんが華雄を倒したんだったよね。
「まあ、今は汜水関を攻略できたことを喜ぼう」
俺も死なずにすんでるし。
超銀河フラグクラッシャーなリーさんのマークをイメージしたこの兜のおかげかな?
兜の角を撫でながら真桜に感謝する。
「げぇっ! 関羽!」
孫策に協力の礼を言いに行ったら一刀君もいた。
……一刀君、君にとってはネタなのかもしれないけど、愛紗にそれは止めてあげて。
「君が孫呉の天の御遣いだね?」
「あんたは?」
「俺は天井皇一。字も真名もない、って言えばだいたいわかるよね?」
「あ、あんたが……冥琳たちの?」
値踏みするような一刀君の視線。
「うん。俺の嫁に手出ししたら泣いちゃうよ」
冗談抜きでマジに泣くから、俺。
「ははは……大丈夫だよ、なんか避けられてるみたいだから、俺」
力なく笑う一刀君。
「ごめんね、種馬の仕事の邪魔しちゃって。ええと、北郷君、でいいんだっけ?」
「ああ、名乗り遅れました。北郷一刀です」
一刀君に右手を差し出す。
「嫁は渡せないけど、仲良くしよう」
一刀君は微妙な表情で頷いて握手。うん。一周目の一刀君みたいに仲良くしたい。
ふと見ると、桃香と孫策もがっちりと握手を交わしていた。
その後、自陣に戻ってから「華琳さんと敵対したらごめんなさい」と謝られた。
俺と一刀君が初対面してる間に、孫策たちとそんな話してたのか。俺の嫁のことを気にしてくれるのは嬉しいけど。
「それは後でじっくり話そう。今はそれより……ちょっと愛紗と話があるから」
「あの一刀君は、愛紗の主だった一刀君とは別人だから……」
あんな言い方されてショック受けてるだろうなあ。
「……わかっていたのに、そっくりで驚きました」
「愛紗……元主にあんな……」
なんて辛いんだ。
「ご主人様が泣くほどのことではありません」
「けどさ」
「もはや、私の主は桃香さまだけです。そして……大事な男の人はご主人様だけ」
辛いだろうににっこりと微笑む愛紗を抱きしめる。
「愛紗ぁ!」
「ですから、ご主人様がなぜ泣くのです」
俺はしばらく愛紗の胸で泣き続けたのだった。
虎牢関では袁紹軍と曹操軍が先鋒。
戦功が欲しいんだろうけど、虎牢関には呂布もいるし心配だ。
飛将軍の相手なんて大丈夫かなあ。
曹操軍の武将は引継ぎで呂布の強さを知ってるからまだいいとして、斗詩のことが不安な俺。
なんか疲れてたみたいだし。
「孫策軍の動きにも気をつけてね」
劉備軍のみんなに注意を促す。
呉ルートならこの機を利用するはず。
予想通り、記憶通りに前線に乱入していく孫策軍。
後方の袁術軍を消耗させるため、敵を引っ張ってくつもりなんだろう。
敵部隊が出陣すると同時に反転する孫策軍。
けれど、呉ルートと同じようで、違った。
虎牢関から出てきたのは深紅の呂旗を掲げる部隊だけ。華雄は釣れなかったらしい。
詠も張遼も城門から出てこない。
……これは、詠の作戦?
呂布が出てきたのに斗詩と文醜は逃げずに迎え撃つ。
後に斗詩に聞いた話だと、潜ませた兵士と投網を用意しており、呂布を捕獲するつもりだったそうだ。
一周目で一刀君たちが、二周目で俺たちがやった作戦。それを知ってる斗詩が真似しようとしたんだろう。
その投網がいつのまにか、やたらに派手な物になっていたせいで、地味で目立ちにくい投網を確保するので忙しくなり疲れはてていたらしい。
しかしそれも無駄になってしまう。
「恋殿の戦いの邪魔はさせないのです!」
ねねの指示で火矢が放たれた。斗詩と文醜にではない。
潜んでいた兵士たちを目掛けて。
「やべっ! 気づかれてた」
「ふふん。ねねにはお見通しなのです」
斗詩と文醜はなんとか無事に逃げたが、網を焼かれて呂布に蹂躙される袁紹軍の被害は大きなものだった。
そのまま、敗走する袁紹軍を追い、勢いづいて袁術軍にまで到達する呂布たち。
孫策たちの望み通りに袁術軍にも甚大な被害を与える。
袁術ちゃん大丈夫かなあ。
ロリっ娘の無事を願う。
適度に損害を与えたと判断したのか、迅速に引き上げて行く呂布隊。
ねねだったら袁紹とか袁術ちゃんを討ち取ってとか、一気に勝利にとか言いそうだけど、それはしない感じ。
やっぱり詠の作戦か。
呂布の強さを見せ付けるっていう。袁紹や袁術ちゃんの首とっても戦は終わらないしね。
むしろ、お荷物がいなくなって連合軍強化?
「こ、攻撃した方がいいかな?」
桃香が迷う。
劉備軍は撤退中の呂布隊を攻撃できる位置にはいるけど。
「愛紗、星、鈴々ちゃん、どう?」
「我ら三人でかかれば……けれど、この混乱では桃香さまとご主人様を守るために一人は残さねばなりません」
呂布の実力を知っている愛紗。引継ぎしていて、二周目のこの時期よりも愛紗、星とも強くなっているにもかかわらず、さらに鈴々ちゃんもいなければ、か。他の軍の武将も協力してくれないと無理っぽい。
孫策軍が仕掛けるかとも思ったけど、虎牢関から出てきたのが呂布隊だけだったので、用心したのかそれとも袁術軍を消耗させたことに満足したのか追撃はなかった。
実際、呂布の撤退が始まると、それを迎えるかのように張遼隊が出てきたし。
袁紹軍の被害が大きくて陣形を立て直すのに時間がかかったのもあり、連合軍は混乱し、呂布隊、張遼隊が虎牢関に引き上げるのを許してしまった。
呂布の強さはやっぱり天下無双。
俺の可愛い義妹嫁ねねのサポートもついて、ますます手が付けられなくなっている。
ノれば強いって詠もねねを評価してたはずだし、手出し無用か。
一周目、二周目で成功した投網捕獲はもう通用しまい。
呂布の捕獲は諦めた方がよさそうか。
翌日、偵察から虎牢関が無人との報告。
えっと、今度は魏ルート?
この状況で難攻不落の虎牢関を捨てるっていうのは……もしかして月ちゃんの身になにかあった?
詠、月ちゃんの顔が広まるのを恐れて虎牢関に連れてきてなかったのかな。
「虎牢関を突破しよう」
月ちゃんが心配だ。袁紹が出るのを待ってなどいられない。
「罠かもしれません」
軍師に止められて結局、袁紹が関を抜けるのを待つことになってしまった。
都での攻城戦が始まって数日。
うん。まだ月ちゃんは無事みたい。よかった。
その後はやはり魏ルートと同じく、昼夜を問わず攻め続けるコンビニ作戦。
二周目では使ってってなかったから、詠も対策考えてないっぽい。
数日続けたら、決戦を挑んできた。
展開も魏ルートと同じ……とはいかなかった。
まず、連合軍の勝ちが見えてきたあたりで愛紗と雛里に説得してもらって、ねねと呂布、その部下たちに投降してもらう。
投網で捕獲なんて必要ないでしょ。
もちろん、仲間になってもらうよ。
俺は鈴々ちゃんたちと都に侵入。
月ちゃんと詠を探す。
「ええと、たしかこっちであってるよな?」
「お兄ちゃん、どこへ向かっているのだ?」
「……俺の嫁さんとこ」
もしかして、と期待していたらやっぱり、二周目と同じ場所で月ちゃんと詠は待っていてくれた。
「……遅いじゃない」
「皇一さん……」
駆け寄って二人まとめて抱きしめる俺。
「ま、待たせちゃってごべんねぇ」
「ボクたちをどうするつもり?」
「お兄ちゃんは二人を助けにきたのだ!」
泣いてる俺にかわって、鈴々ちゃんが言ってくれた。
うん。無事な月ちゃんと詠を見て、抱きしめてほっとしたらなんか涙がね。
「泣いてる場合か!」
「そうなのだ。早くみんなのとこに戻るのだ!」
詠と鈴々ちゃんに急かされて俺たちが移動しようとした時、連合軍の兵と遭遇した。
「あちゃー、遅かったか」
真桜?
「先こされちゃったのー」
「さすが隊長です」
沙和と凪まで。
「もしかして」
「せや。ウチらも月ちゃんたちの確保命じられたんや」
そうか。
三羽烏も二周目でこの場所、知ってたもんなあ。
「華琳ちゃん、月ちゃんのお茶、気に入ってたし」
「へぅ」
「沙和、真桜、城の制圧に向かおう」
「いいのか?」
「だって月ちゃんたち連れてったら、隊長また泣いちゃうのー」
うう、否定できん。
「月ちゃん、詠、隊長のこと頼むで」
いやそれ逆でしょ。
「……ありがとうございます」
深々と頭を下げる月ちゃん。
凪たちも一礼して、城へと向かっていった。
こうして、なんとか俺は死なずに月ちゃんと詠を助け出すことに成功した。
華雄の行方は不明。
討ち取られたという話も聞かないから、生きていると思う。
味方にしたかったと白蓮が悔しがっていた。
この後、袁紹と戦うことになるから戦力ほしいだろうし、二周目でも仲良かったみたいだからね。
そして、反董卓連合の残る一つの心配だった春蘭の左目が無事。
三周目でもやっぱり眼帯したままなんだけど、その下の目は健在。それを守るために眼帯も強化されているはず。
張遼との戦いでその強化眼帯が役に立った。……わけではなく。
「馬騰ちゃんに敗れて降った?」
「ああ。いい土産ができたな」
えっと、本調子の馬騰ちゃんってどんだけ強いの?
馬上で張遼に勝つって……恐るべしロリBBA。
張遼も華雄も手に入れられなくて、華琳ちゃん悔しがってるだろうなあ。
月ちゃんと詠の確保を失敗した三羽烏、お仕置きされてなきゃいいけど……。
「兄殿!」
「ねね!」
久しぶりの義妹兼ロリ嫁を抱き上げる俺。
「お、下ろすのです!」
「嫌だ。こないだ会った時、話できなくて寂しかったんだ」
「そ、それは悪かったのです。季衣にも怒られたです」
季衣ちゃんに?
「ねねをいじめたら駄目」
「恋殿! こ、これは苛められてるわけじゃないのです」
「違う?」
首を捻る呂布。
二周目の時は捕獲した時、卑怯者って恨まれてると思って苦手意識あったけど、今は違う。その小動物的動作も可愛く見える。
ふと見ると、愛紗もうっとりと呂布を眺めていた。
二周目で愛紗、呂布と仲良くなってたのか。
愛紗が一刀君のとこへ戻るって時、呂布にも引き止めるのを手伝ってもらえばよかった。
「俺は天井皇一。ねねが世話になったね。ありがとう」
ねねを抱き上げたまま自己紹介した俺。
「ちんきゅ?」
再び呂布が首を捻る。
「……ねねの兄殿なのです」
「……兄?」
「うん。義理だけどね。あとね、ねねは俺のお嫁さん」
「こ、こんな小さい子まで!?」
驚いたのは桃香。
そりゃ驚くよねえ。
「ねねは小さくなんかないのですぞ!」
朱里ちゃんがあまり驚いた様子を見せないのは、もう慣れたのか、それとも雛里ちゃんに俺の嫁さんのこと聞いたのかな?
「……ねねのお婿さん?」
「うん。よろしく」
「……恋」
「真名をくれるの?」
「……うん」
「俺には真名がないんだ。ごめんね」
ねねのおかげか、二周目でもらえなかった呂布の真名を貰えてしまった。
その後ねねを下ろして、月ちゃんや詠もみんなと真名交換。
「よろしくね、月ちゃん、詠ちゃん、恋ちゃん、ねねちゃん」
桃香、嬉しそうだなあ。
「やっぱり、ボクたちは死んだことにされるワケね」
「ごめん。侍女として働いてくれると嬉しい」
「はい。ご主人様のためにがんばります」
月ちゃんまでご主人様か……。
メイドさんにご主人様って呼ばれるのか。救出できて本当によかった。
仲間も増えたし、これから先も大変だろうけど、なんとかなるといいなあ。