二周目二度目の公孫賛と趙雲との対面。
今度は出て行こうとする趙雲を追っかけず、すぐにメンマ小壷を投げる。
「これは?」
「餞別。返さなくていいから。行ってらっしゃい」
壷を眺めながら去っていく趙雲。
よし! 死亡フラグ回避できたかな? あの瓶重かったしね。
たった一人で出陣した趙雲を救出、というか合流した愛紗の部隊。
頃合いを見て撤退した愛紗たちを追って黄巾党の先陣が突出。鈴々ちゃん指揮の兵たちによって囲まれる。
数の不利を朱里ちゃんの策で誤魔化しながら防戦していたけど、黄巾党の背後を公孫賛軍が襲った時に攻勢に転じ、逆転勝利。
何も出来なかった一刀君はどこか悔しそうだけど、俺は死ななかったことにほっとしていた。
ちなみに前回なぜ死んだかと言えば、朱里ちゃんの作戦詳しく聞けなかったんで愛紗の部隊に混じって突撃しちゃったんだよね。そりゃ死ぬわ。
一刀君とともに愛紗、趙雲を出迎える。
「お気遣いかたじけない北郷殿。あと……」
俺を見る趙雲。そういえば今回はまだ名乗ってなかったっけ。
「姓は天井、名は皇一。字はないよ」
字、なんかいいの考えようかな?
「天井殿の差し入れも感謝する」
よかった。悪い印象はないみたい。
「結局あれ何だったの?」
「メンマ。お腹空いてたら力出ないからね。なんか食べ物あげようと思ったんだけど、鞄から咄嗟に出せたのがアレだけだったんだ」
本当はすぐに出せるようにしといたんだけどね。もちろんバッグん中でメンマ汁ぶちまけない様に厳重に封もしておいた。
「最良の選択をしたのだな」
「メンマが最良?」
ああ一刀君、今の君は知らないだろうけどそれはNGだよ。
「よろしい。ではなぜメンマが最良かを……」
思った通り、趙雲のメンマ談義が始まってしまった。
「え? 公孫賛のとこ出てくの?」
長い長いメンマの話がやっと終わったら、そんなことを言い出す趙雲。
趙雲てもう一刀君の味方になっちゃうんだっけ? 予定が狂うなあ。
公孫賛のとこへ行った方がいいのかな、俺。
「……まずは魏の曹操だ。あれほど有為の人材を愛し、そして上手く使える人間はそうそうおらん」
あれ、考え事してたらいつのまにか華琳ちゃんの話題に?
「うん。華琳ちゃんはいいよね。凄い可愛いし!」
「え? それって曹操の真名? 皇一さん、曹操の知り合いなの?」
まずっ。曹操って聞いただけで嬉しかったから真名言っちゃったよ。なんでこう二周目の俺は迂闊かな。
「ほう、どのような関係かは気になりますな」
「ええっと。なんて説明すればいいんだろ? ……うん。知り合い、でいいのかな?」
二周目まだ結婚式してないから夫婦じゃないし、恋人……だったら嬉しいけど確認してないし。セフレ? 二周目はまだヤってないし。っていうか二周目まだ直接会ってないよ! 道場だけだよ! 会いたいよ!!
前世で夫婦だった、とか言ったら引かれちゃうもんなぁ。
長考してたらまた話に置いてかれていた。
趙雲はこれから主探しの旅に出るって言ってる。
よかった。まだ一刀君のとこには行かないのね。
なのに愛紗が一刀君を推薦。待ってってば。今だと困るのよ、俺が。
趙雲は一刀君と俺を見て微笑みを浮かべる。あれ、なんで俺も? メンマはあれで終わりですよ。
一刀君も仲間になって欲しいって趙雲を口説き始めた。
後で仲間になるから今は待って一刀君。
それを断る趙雲。よし。意見が変わる前に俺も動こう。
「趙雲、俺もいっしょにじゃ駄目かな?」
「えええっ? 皇一さん?」
「ほら、文官見つかるまでって約束だったけど、朱里ちゃんがいるから俺はもう不要でしょ?」
「不要だなどということはありません! あなたの存在がどんなに助けになったか」
「ありがとう愛紗ちゃん。そう言ってもらえるだけで嬉しいよ」
やべっ、泣きそう。……でもここで折れたら出て行けなくなる。
「はわわ、わ、わたしのせいで……」
「違う、違うよ朱里ちゃん。元々、俺はある人を探して旅をしてたの。一刀君たちのとこにいたのもたまたまだったんだよ。だから泣かないで」
「な、泣いてましぇん」
いや鼻声で言われてもね。そんなに責任感じないでいいのにな。
「それに趙雲がいっしょだから、旅も安全でしょ」
「なるほど。私は用心棒ですか」
「地味なおっさんといっしょが嫌なら仕方ないって諦めるけどさ」
「ほう」
一瞬、趙雲の槍が光ったかと思うとその先になにかぶら下がっていた。
「え? あれ?」
俺の眼鏡!?
さらに俺の前髪をかき上げる趙雲。
「かような佳き男との旅も悪くはありますまい」
げっ。なんてことしてくれるんだ!
「なにこのイケメン! 地味眼鏡の定番としても二枚目すぎでしょ」
俺を見つめて一周目と同じ反応する一刀君。なんか懐かしいな。
「こ、皇一殿!?」
愛紗、顔赤いよ?
「おお! おっちゃん綺麗だったのだ!」
鈴々ちゃん、綺麗より格好いいって方が男は喜ぶんだよ。
「はわわ……ご主人様と皇一さんが!?」
いや朱里ちゃんなに言ってるのさ?
「眼鏡返せ」
趙雲から眼鏡を回収。装着して前髪を直す。
「じゃ、行こうか」
早いところここから逃げ出したい。
「では……さらばだ」
みんなが混乱してる中、趙雲を引っ張って急いで出立。
趙雲のせいでちゃんとお別れできなかったじゃないか!
その後、趙雲が別れを告げにいくと公孫賛から給金といっしょに馬を受け取る。
やっぱり公孫賛いい人みたいだな。真だと口では悪く言っていても趙雲と公孫賛は友達みたいだったし。
……友達、か。
「なあ、趙雲は程立と戯志才って知ってる?」
「さて。聞いたことがあるような?」
この反応、まだ真・華琳ちゃんが完成してないのか、趙雲がとぼけているのか迷うとこだな。
一刀君ゴメンナサイ。
その日は朝一の日課、セーブ1への記録よりも前に俺は反省していた。
なんでって?
恐る恐る隣を見る。
スヤスヤと眠る常山の昇り竜。
ヤッちまった……。
どうしてこうなった?
陳留を目指す俺と趙雲。昨日は久しぶりに宿をとった。趙雲は酒とメンマを摂取しに出かけていったけど、俺は久々に布団で眠れるって喜んですぐに寝たはずだ。
寝たはず……だんだん思い出してきた。夜中に股間に違和感を感じて目覚めた俺。
久しぶりの布団が俺から奪われ、かわりになにかが覆いかぶさっている。
「え?」
賊? ……じゃないよね、これ。とっさに枕元の眼鏡を装着する。
「趙雲?」
「おや、起きてしまいましたか」
「なにやってるの?」
間抜けな問い。まだ頭が完全に起きていない。
「真実の追究、ですかな?」
「真実?」
「天井殿に伺った枕事の真実」
はっ、として自分の股間を確認。そこはもう遮るものがないどころか、ツインタワーが完成していた。
違和感の正体はこれか!
「見たなっ!?」
慌てて側にあった掛け布団を手繰り寄せて股間を隠す。
「なるほど。それが女に入ると。男の身体とは不思議なものですな。ああ、見るだけでなく感触も確かめさせて頂いた。次は……」
「つ、次!?」
「味もみておこう」
やめて! 蜘蛛じゃないのよ。
だんだんと俺は状況を把握していった。
こうなった原因はさらに遡る。
真・華琳ちゃんが完成しているか気になった俺は、趙雲に聞いてしまったのだ。「枕事のことってどれぐらい知ってる?」って。
他の娘なら無理だろうけど、趙雲はこういう話題平気っぽいのでなんとか聞けた。
結果、趙雲の性知識は無印レベルであることが判明。真・華琳ちゃんが未完成なことがわかった。
それで済めば良かったのだが、話の途中で俺が吹き出してしまったのが気に触ったのだろう。俺を問い質す趙雲。
仕方なく軽く性教育。趙雲はかなりショックを受けたようだった。……この時の大雑把な説明がマズかったんだろうか?
「頼むから誰にも言わないでくれ!」
「私が男女の睦事を言いふらすとでも?」
「いや、俺の身体のこと」
「む? まさか大きく硬くなるというのはおかしいのか? 私を騙したと?」
布団の中に手を突っ込もうとする趙雲。やめて! 暴発しちゃう!
「そっちじゃなくて、本数! 普通は一本!」
「え?」
「二本あったら入れる時困るじゃないか!」
「……言われてみればたしかに」
やっと納得したのか布団から手を離してくれた。
「なんとか隠し通してたのに……」
トイレとかでも周りを気にしながらだったのに……。まさかこんなバレ方をするなんて。
「泣かれんでも……。これではまるで無理矢理手篭めにしようとしてるみたいではないか」
その通りじゃない?
「もういいだろ? 嘘じゃないってわかったんだろ?」
「いえ、まだ実践が済んでおりませぬ」
「処女は大事にしなさいって言ったでしょ!!」
なんてこと言い出すのこの娘は。そこに正座しなさい。
「いい! 一度膜破っちゃったら再生しないの! 処女喪失は人生で一度きり。大好きな相手が見つかるまで大切にとっておきなさい!!」
まったくもう。一刀君のためにとっておけってば。
「ふむ。天井殿に初めて怒られた気がするな」
そうだっけ? メンマ食べすぎとか注意しなかったっけ? ああ、あれは小言扱いだったのか。
「ですが、処女でなくてもいいという度量の大きな男に惚れればいいだけのこと」
度量の小さい男で悪かったな!
「私はこれでも百戦錬磨で通っておりましてな。今更処女だなんだと格好がつきますまい」
いや自称ビッチって言われても困るから。非処女カッコ悪い!
「だからね、双方の合意がない行為は嫌なんだってば」
「ならば、口止め料ということで」
「え?」
「貴殿の身体の秘密、誰かに自慢したくなってきましたなぁ」
げっ。相手の弱みをネタに身体を要求、って陵辱ゲーの主人公ですかアンタは。
「メンマじゃ駄目か?」
「無論」
「酒でも?」
「ええ。たとえ両方でも」
くっ、逃げ道はないのか? ……死んでセーブ1からやり直せばこの危機からは逃れることができる。でも、まだ自殺はしたことがない。痛いの嫌だし。
どうする俺? どうすればいい一刀君。どうすれば……。
「朝から泣いていると運が逃げますぞ」
起きたのか趙雲。
「運がないから泣いてるんだよ」
「私の初めてを奪っておいて運がないとは贅沢ですぞ、皇一殿」
一刀君ゴメン。俺は自分の秘密を優先してしまった。
「奪ってない! 趙雲に押し売りされた。そもそもアレは……」
「星」
俺の言葉を趙雲が遮る。
「星でよいと申したではありませぬか。もはや他人ではありますまい」
「ぐっ。……いいか、アレは数に入らない。星の正式な初めてはまだだから!」
「あんなに幾度も私を求められたというのに冷たいお方だ」
……溜まってからなあ。旅の間、星がいっしょだったんでセルフバーニングもままならなかったし。
「と、とにかく秘密は守ってくれよ。特に曹操たちには秘密だから!」
「この趙子龍、口は堅い」
「信じてるよ」
もうすぐ陳留につくはずだ。気をつけよう。
二周目の俺、やたら迂闊……うっかり属性でも追加されてしまったのだろうか。
陳留についてすぐ、嬉しいことに警邏中の楽進と兵たちを発見。うん、真モードへ順調に進んでいるのかな?
「あの、ちょっといいですか?」
「はい」
「曹操様にお目通り願いたいんですが」
いきなり城にいっても華琳ちゃんに会う前に追い返されそうだし。
「どちら様で?」
くっ、いきなりの迂闊。まず自分から先に名乗るのが大事なんだよね。
「俺は天井皇一。こっちは趙子龍」
「天井殿?」
「うん。曹操様の知り合い。伝えてもらえればわかると思うけど、ええと」
「あ、おっちゃん!」
俺を呼んだのは季衣ちゃん。駆け寄ってくるその隣には同じくらいの背の少女。典韋ちゃんだ。無事に華琳ちゃんの部下になったんだね、よかった。
「おっちゃん、やっと帰ってきたんだね」
「お知り合いですか?」
「うん。ボクたちのお婿さん!」
嬉しそうに言う季衣ちゃん。
周囲から冷たい視線を感じる俺。「このロリコンめ」って楽進や警邏中の兵の目が言っている。なんか典韋ちゃんは凄い睨んでいるし、星は……あれ?
「星? おーい」
なんかフリーズしている星を揺さぶる。
「はっ、はは……ふははははははははははっ!」
いきなり大笑いする星に俺たちは驚く。
「ど、どうした? だいじょうぶか?」
頭が。
「いや失敬。私の誘いになかなか乗らなかったのはこういうことでしたか」
しきりにうむうむって頷いている。こういうことってどういうことだろう。……深く考えない方がいいか、うん。
「おっちゃん、早く華琳さまのとこへ行こうよ!」
季衣ちゃんにぐいぐいと引っ張られて俺は城へと向かった。
「やっときたわね」
俺を迎えてくれた華琳ちゃんはほぼ真の衣装だった。うん。可愛いなあ。
「ただいま、でいいのかな?」
「さっそく行くわよ」
オカエリナサイも言ってくれずに今度は華琳ちゃんが俺を引っ張る。
「行くってどこへ?」
「閨よ」
げっ。
「こ、こんな真っ昼間っから?」
「そんな些事に拘るあなたではないでしょう?」
「もしや曹操殿とも?」
あ、星を紹介するの忘れてた。
「あら趙雲いたの?」
「さすが曹操殿。私のことをお知りとは」
「私に仕えに……いや、私が仕えるべき器かどうか見定めにきたのね」
さすが華琳ちゃん。一目でそこまで……って一周目でも星はこうやって各地を回ってたんだっけ。
「そこまで見抜かれるとは」
「いいわ趙雲。あなたもいらっしゃい」
「ちょ、ちょっと待って。いきなり閨に誘うなって」
「?」
なんでって顔で俺を見ている。
「久しぶりに会った妻を満足させる。それが夫の務めではなくて?」
「妻!? やはり曹操殿まで……」
「説明してないの?」
「いやだって今回はまだ結婚式してないし……指輪なくなっちゃったし……」
「呆れた。そんなことを気にしていたの? そんなのが無くても皇一は私のものよ」
くぅ、嬉しいことを言ってくれる。即座に抱きしめる俺。
「ありがとう! ありがとう華琳ちゃん!!」
「また泣いてるのね」
「ゴメン……」
謝ったら思い出した。もっと謝らなければいけないことを。
「もう一つゴメン。閨は無理」
「どういうこと?」
華琳ちゃんを離す。
「身体に異常があるって言ったろ。だから閨は……無理なんだ」
「春蘭!」
「はっ」
いつの間に? さっきまでいなかったよね春蘭?
「首を刎ねよ」
「えっ?」
「悪く思うなよ天井!」
俺に迫る春蘭の剣。
それを防いでくれたのは星だった。
「一応、皇一殿の護衛も請け負っておりますのでな」
「ほう。我が剣を受け止めるか……だが、無駄だったようだ」
はっとした表情で振り向く星。
その時俺はもう、華琳ちゃんの大鎌によって首を刎ねられていたのだった。
「なんでいきなり殺すかな!?」
道場で問う俺。
「確かめなさい」
「え?」
「引継ぎを確かめなさい!」
華琳ちゃんに言われて久しぶりに引継ぎを確認。
「う~ん。増えてないなあ」
確認しても、道場の人数は変わっていない。
「そう。趙雲あたりが増えていると思ったのだけど、本当に無理だったのね」
落ち込んだ声の華琳ちゃん。
そうか。俺が閨が無理だって言ったのを嘘じゃないかって確認しようとしたのね。
え? 星?
うん。ちゃんと星の処女は守ったよ、一刀君。
一つわかったことがある。どうやら後ろだけじゃ引継ぎできないみたい。
……星にはなんとか後ろだけで勘弁してもらった。処女は運命の人にとっておけってね。
その時やっぱり二本だと難しいのもわかった。余る一本の扱いが難しいのよ。
「顔がニヤケているわ」
「そ、そう? いやちょっと気になることがあるんだけど」
追求されそうだったので咄嗟に誤魔化す。
「気になること?」
再び引継ぎを確認する俺。
???
曹操
春蘭
秋蘭
桂花
季衣
???
やっぱり。
「華琳ちゃんの名前だけが真名じゃない?」
「なにを言っている?」
ああ、みんなには見えないのか。
「引継ぎ欄の名前がさ、華琳ちゃんのだけが曹操って」
言いながら空中の曹操の行をクリック。
「あ」
???
華琳
春蘭
秋蘭
桂花
季衣
???
「え?」
表示が変わったと同時に華琳ちゃんが声をあげた。引継ぎ欄から視線を移すとさっきまでと微妙に違う。
「服が……真のになった?」
完全に真の華琳ちゃんだ。
「こ、これは……」
「どういうことだ?」
春蘭と秋蘭も違いに気付いたらしい。
「もう一回試してみる」
再度華琳の表示をクリック。今度は反転していた行が元に戻る。
「華琳さまが!」
視線を戻すと華琳ちゃんが消えていた。慌ててもう一回クリック。表示は曹操に。
「華琳さまが戻った!」
ふう。やっぱり引継ぎナシも選べるのか。
「どうなっているの?」
そう聞いた華琳ちゃんは無印の衣装だった。
「たぶん……華琳ちゃんのモードを決定できるんだ、ここで」
言いながらクリックして表示を華琳に。服装が真のになっているのを確認したら引継ぎ欄を閉じた。
この時、道場主の孫策が微笑んでいたのを気にしなかったことを、俺はかなり後で後悔する。