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No.35651の一覧
[0] PERSONA4 THE TRANSLATION(ペルソナ4再構成)[些事風](2014/11/03 16:25)
[1] 序章 PERSONA FERREA[些事風](2014/11/03 16:25)
[2] 一章 REM TALEM MINIME COGITO[些事風](2012/10/27 23:54)
[3] 国を去り家を離れて白雲を見る[些事風](2012/10/27 23:57)
[4] マヨナカテレビって知ってる?[些事風](2012/10/28 00:00)
[5] ピエルナデボラシーボラ![些事風](2012/10/28 00:03)
[6] 出れそうなトコ、ない? ひょっとして[些事風](2012/10/28 00:07)
[8] 死体が載ってた……っぽい[些事風](2012/10/28 00:27)
[9] ペルソナなんぞない[些事風](2013/03/05 00:17)
[10] でも可能性あるだろ?[些事風](2012/10/28 00:34)
[11] バカにつける薬[些事風](2012/10/28 00:36)
[12] シャドウじゃなさそうクマ[些事風](2012/10/28 00:41)
[13] 吾、は、汝[些事風](2012/10/28 00:46)
[14] 俺はお前だ。ぜんぶ知ってる[些事風](2012/10/28 00:53)
[15] ノープランってわけだ[些事風](2012/10/28 00:56)
[16] 旅は始まっております[些事風](2012/10/28 01:05)
[19] 二章 NULLUS VALUS HABEO[些事風](2014/11/03 16:26)
[20] あたしも行く[些事風](2013/01/15 10:26)
[21] それ、ウソでしょ[些事風](2013/03/05 21:51)
[22] 映像倫理完っ全ムシ![些事風](2013/05/12 23:51)
[23] 命名、ポスギル城[些事風](2013/05/12 23:56)
[24] あたしは影か[些事風](2013/06/23 11:12)
[25] シャドウ里中だから、シャドナカ?[些事風](2013/07/24 00:02)
[26] 脱がしてみればはっきりすんだろ[些事風](2013/10/07 10:58)
[27] 鳴上くんて結構めんどくさいひと?[些事風](2013/10/14 17:36)
[28] セクハラクマー[些事風](2013/12/01 15:10)
[30] アギィーッ![些事風](2014/01/31 21:58)
[31] かかってこい、あたしが相手だ![些事風](2014/03/04 21:58)
[32] クソクラエ[些事風](2014/04/16 20:30)
[33] あなたは、わたしだね[些事風](2014/06/15 15:36)
[34] とくに言動が十八禁[些事風](2014/07/26 21:59)
[35] コードレスサイクロンユキコ[些事風](2014/09/13 19:52)
[36] 自称特別捜査隊カッコ笑い[些事風](2014/09/24 19:31)
[37] ッス[些事風](2014/11/03 16:29)
[38] oneirus_0d01[些事風](2014/12/14 18:47)
[39] 三章 QUID EST VIRILITAS?[些事風](2015/03/01 16:16)
[40] ええお控えなすって[些事風](2015/05/17 00:33)
[41] キュアムーミンだっけ[些事風](2015/10/18 13:01)
[42] おれ、弱くなった[些事風](2015/11/20 10:00)
[43] 中東かっ[些事風](2016/03/02 00:50)
[44] バカおやじだよ俺ァ[些事風](2016/05/15 16:02)
[45] ここがしもねた?[些事風](2016/08/16 15:11)
[46] 腕時計でしょうね[些事風](2016/11/15 13:03)
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[35651] ッス
Name: 些事風◆fe49d9ec ID:25dc5972 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/11/03 16:29



 メシなんかジュネスのフードコートでささやかに済ませりゃよかったんだ――悠は早くも後悔し始めていた。あんなところで散財している余裕などなかったというのに……
「悠ほら、これ」
 御康から八十稲羽へ戻る電車の中で、彼は自分のなにげなく口にした「防弾チョッキ」とやらがいったい、どれだけ高価なものであるかを初めて知ったのである。陽介の差し出したスマートフォンの液晶画面には、『防犯グッズ バレットプルーフ』なる店のホームページが載っていた。
「防弾チョッキってこういうのだろ? ほら」と、陽介が商品情報をタッチして示して見せる。「ちっと驚きだけど、通販でもフツー買えるんだな。つか誰が使うんだこんなもん」
 防弾チョッキが防犯グッズにカテゴライズされるというのも驚きだが、それらの値段から受けたものに比べればなんでもないことだ。
(ぜ、ぜんぜん足りない……!)
 目の玉が飛び出るとはこのことである。底を見ても五万を下らぬ。上を見れば六桁に達する。悠の財力ではあり金はたいてもふたり分に届かない、といったところ。無知な彼はひとりあたま二万前後でこと足りるだろうと手前勝手に考えていたのだった。
「これから行くトコってアレだろ、里中。だいだら」
「そーそー。なんかヘンなものいっぱい売ってるって話の」千枝は菜々子とあっち向いてホイに興じている。「カンダハルがなんかそういうの見かけたとか言ってたんだ。ヨロイとかオノとかバクダンとか――じゃんけんポンッ」
「あっちむいてホイ!」菜々子が気を吐いた。
(カンダハル……爆弾……?)
「ぐあっ、また負けた! くっそー菜々子ちゃん強すぎ!」
「菜々子ジャンケンつよいんだ。でもお父さんジャンケンよわいからオソダシする」
「そっかあ……じゃあほら、雪子、ウデ出して」
「だからなんで? 意味わかんないよ、なんでわたしなの?」
 この他愛のない遊技にはなぜか、負けたほうが雪子にしっぺいを食らわすという謎のルールが設けられているらしく、彼女は最前からピシピシ打たれながら抗議の声を上げ続けていた。
「俺も店前とか通るくらいで中は入ったことなかったけど……どういう店だよヨロイとかオノって」陽介は携帯を仕舞って吊革に寄りかかった。「しかもなんでんな店が八十稲羽の商店街にあんだよ。客なんかつくのか?」
「ナイフも売ってれば常連になるんじゃないか、おまえ」
 いっそその辺りのホームセンターから集められる材料で自作してしまうか、とも考えたが、それを装着して長いあいだ動き回ることが想定される以上、素人仕事というのはいかにも心許ない。そもそも店に売っている鉄板やら合板やらを継ぎ接ぎしたところで、重量を度外視するにしても戦場における防具として機能するかどうかもわからない。
 いや、思うにそんなものが相応に機能するならおそらく防弾チョッキメーカーなどは成り立たないのだ。高いコストにはやはりそれなりの理由があって、悠たちは現在、余儀なくそれらが求められているのである。
(とすれば、しなきゃならないのはただひとつ……)
 一行は八十稲羽駅に到着後、その足で商店街へと直行した。そのあいだ中、悠は皆から少し遅れてとぼとぼ歩きながら「しなきゃならないの」を大いに試みていた。
 金――どこから探してくればいい?
「じゃんけんポンッ!」
「あいこでしょ!」
「うぐっ、六連敗だもー!」千枝は牛みたいにモーモー叫んで悔しがっている。「もーなあんで負けんのォ? 菜々子ちゃんなんかコツとかあるの?」
「ちえちゃんかちたがってるからダメ。だからまけるの」菜々子の面は大涅槃を得た高僧さながらである。「こころをミズみたいにするの。ムになるの。ムッ!」
「お、オス、タメになります……つかさいきんの小学生ってスゴいですね。ムですかそーですか」千枝は小学一年生相手にすっかり恐れ入った様子。「考えるな、感じろ! ってヤツですねシーフォー。はいじゃあ雪子、こっち来てー」
「ちょっとまだ説明してもらってないってば……なんで千枝たちの勝負の結果がわたしに……!」
 しきりにルール改正が叫ばれた甲斐もあってか、雪子に食わせられるしっぺいはこの時すでに廃止されていた。代替として提案されたデコピンがただちに可決採用されてはいたが。
「受けてみよ必殺のワンインチデコピン……ほあっちょ!」
「イターッ!」
 雪子はのけぞって叫んだ。
(こいつらから取るっていうのは、ナシだ。ムだ)
 皆から集金する、という考えを、悠は早くから捨てていた。陽介も千枝も「今月はキツい」のだし、かといって来月ならユルくなるのかと言えばそういうわけでもなかろう。彼らの月々の小遣いと言えばせいぜい多くて一万ほどだろうし、慈悲を捨てて陽介のバイト代を残らず接収したところで、とうてい目標の額に達するとは思われない。
「痕ついてる? 血とか出てない?」雪子は痛がって額を撫でている。
「あー超でてるよ。もーわっさわさ出てる」千枝はニヤニヤしている。
「……ちょっと千枝こっちきて、ねえこっち。ちょっといいからほら」
「やだぜったいやだって。ちょっ、やだっつのこっちくんなギャー!」
 雪子の凄惨な復讐が始まった。
 陽介たちふたりと違って彼女はそれなりの貯金を有するようだったが、むろんこれを当てにするなどはもってのほかだ。仮に彼女が喜んでそれに応じるとしても、それは足りぬであろう捜査隊の活動の穴埋めを金銭によって強いるようなものである。またそうして徴収した金で購ったなにものをも、陽介や千枝が自らに許して身に纏うとは思われなかった。自らのポケットから一銭も出さないまま、苦労人の同級生にそれほど高価なものを唯々諾々と「買ってもらう」などとは、いかにお調子者のふたりとはいえさすがに立つ瀬がなかろうというもの。
 いや、たとえ彼らが許しても悠の自尊心はそれを許さないだろう。彼は自称特別捜査隊の隊長として、ただひとり自らの力だけで才覚しなければならないのだ!
「ここだここ。とーちゃくー」
 皆を先導していた千枝が立ち止まったのは、以前に遼太郎から教えられていた書店の、その右隣に建つ小体な店舗の前であった。
(……ここ、なに屋?)
 一見してなにを商っているのかさっぱりわからない店である。廂にリベットと鉄錆とで装飾された『だいだら.』との看板がかかっているだけで、千枝のもたらした物騒な情報を裏付ける物品はどこにも見られない。磨りガラスに遮られては店内の様子も覗えない。店名の「だいだら」というのがなにかの専門用語で、それを知るひとならピンと来るのだろうか。
『貴金属・時計買取、高額査定。詳しくは店主まで』
『部品製作・加工ご相談下さい。新型MC・CNC工作機械完備』
『モニュメント・オブジェ・看板等の設計製作いたします。お気軽にご相談下さい』
『貴方だけの輝き……オーダーメイドジュエリー承ります』
『稲羽の伝統工芸品・城根焼取り扱ってます。製作教室予約受付中』
『検索! 当店ブログ→ダイダロス巽のArt de l'homme』
 入口の戸にこんな筆書きのポスターがペタペタ貼ってある。とりあえず甲冑鍛造と爆弾製作を請け負う旨のものは見当たらなかった。
「防弾チョッキなんか売ってんのか、ここ」と、陽介が悠の胸中を代弁した。「明らかに小売店っぽくねーぞ。店ってより工房ってカンジ? ポスター見る限り」
「売ってるって言ってたんだってば、カンダハルが」と、千枝が口を尖らす。「聞いたの二ヶ月くらい前だけど。バクダン売ってたとかって超よろこんでたもん」
「里中、カンダハルって――」
「わたしここの店主さん知ってる。たしかタツミさんっていって……すごいコワモテのひと」雪子は菜々子をちらと見た。「うーん、菜々子ちゃん見たらちょっと怯えちゃうかも……」
「コワモテってなあに?」と、菜々子。
「顔がコワいんだ、ここのお店のひと。あと声もちょっとコワいかな。喋りかたもコワかった気が……ていうかもうおおむね見た目ぜんぶコワいかな……」
「カンダハルってなあに?」
「え? ええと……千枝、カンダハルって誰?」
「あれ、雪子しらなかったっけ? カンダハルって――」
「まあ三人ともさ、ここでゴチャゴチャ言ってたって始まんねーし」と、陽介が千枝を遮った。「とにかく入ってナカ見てみようぜ。どんなんなってるか俺ちっと興味わいてきた」
「…………」
 陽介は悠に膝裏を蹴られて尻餅をついた。
「うおっ! ちょ、なにすんだお前!」
「足が滑った」
 陽介の言うとおり、とりあえず中に入ってみなければ始まるまい。悠は彼の抗議を無視して「だいだら」の入口の引戸を開けた。中に入る前に素早く左腕のメモヴォクスを外して、それを裾で拭ってポケットに突っ込む。
(父さん、信じてるよ! これは安物じゃないんだろ?)
 店に張られたポスターの中に『時計買取、高額査定』の字を見つけた時点で、悠は腕時計を売ろうと決めていた。
 それなりに愛着はあったが背に腹は代えられない。目下、彼の持ち物の中で金に換えられそうなものはほかになかったのである。その時計はアメリカの父から高校入学のお祝いに送られてきたもので、一緒に郵送されてきたメッセージカードによれば、
『MEMOVOXという時計です。お父さん奮発しました。安物じゃないよ。いいものだから大事にしてね』
 とのことであった。ひょっとしたら中古でも十万くらいにはなってくれるかもしれない。のちに売却されたことを知れば彼もさぞ悲しもうが、そうしなければ怪死を遂げた愛息の形見として仏壇を飾ることになるかもしれないのだ。このほうがどれほどかマシであろう。
 店内は先に見たコニシ酒店のように、幅こそそれほどでもないものの奥行きのある、いわゆる鰻の寝床状である。薄暗い黄色い照明がいくつか、天井に掛け渡された鉄骨梁――満遍なく錆を刷いているからには、おそらくは装飾として追設されたものと思しい――からぶら下がっていて、四方の壁に掛け巡らされたハンガーを不気味に照らし出している。そこに掛かっているものが絵画や掛け軸であるなら雰囲気も出ようが、
「ヨロイ、あるね」
「斧もあんぞ……」
 後ろについて入ってきた陽介たちが店内を見回して、恐るおそるといったふうに感想を漏らした。外の明かりに慣れた目には判然としないが、おそらくはそこここに置かれた棚にも鎧や斧の兄弟親戚が詰まっているのだろう。あるいはじき爆弾も見つかるかもしれない。火気厳禁のポスターは要らないのだろうか。
 入口周辺にレジは見当たらなかった。どうやら店の奥にあるらしい。
「……天城は?」
「菜々子ちゃんと外で待ってるってさ」と、千枝。「ここには入れないほうがいいだろって」
 英断である。雪子はただ「おおむね見た目ぜんぶコワい」ここの店主を見せまいとしたのだろうが、ここで菜々子にアレはなんだコレはなんだと質問攻めにされても答えられそうにない。もし答えてやってそれが遼太郎にリークしでもしたら、悠は鎧を求めてもう一度ここへ来なければならなくなる。
「ふたりはそのへん見てて」
「お前は?」と、陽介が訊いた。その手には鉄製の籠手が嵌められている。「な、これどうよ、よくね? サイズでかすぎだけど。これなら破片とか飛んできても防げねーかな。こう、カキンって」
「おほっ、太極剣あったよ太極剣! これはなにげに血が騒ぎますなー……」千枝は棚から中国ふうの長剣を引っ張り出してきた。「重っ、つか高っ、二万以上するよコレ。でも欲しいなー、あーでも剣のトーロとか知らないしなー」
(大喜びだなこのふたり……)
「おれはちょっと、防弾チョッキのこと訊いてくるから」
 時計を売るところはこのふたりに見られないほうがよかろう。陽介たちに待つよう言い置いて、悠は店の奥へ入っていった。ほどなく棚の陰から現れたレジカウンターには、
(留守か?)
 誰もいない。もちろん、誰かいれば入口を開けたときなにかしら反応しようものだ。どうしよう、しばらく待ってみるか、奥へ声をかけてみようか――と、少しくその辺りをウロウロしていると、
「客か?」
 じきカウンターの奥の暖簾を潜って、この店の主人と思しい男がのっそりと出てきた。雪子もひとが悪い、「おおむね見た目ぜんぶコワい」だなどとよくも言ったものだ――悠は危うく飛び上がるところだった。
(ヤ……ヤクザ……?)
 その男は「おおむね」どころではない、全身あますところなくコワかったのである。
 身長はまず百九十を下るまい。彫りの深い、「いま奥でちょっと二、三人刺して来ました」とでも言わんばかりの三白眼は、悠の目の高さよりだいぶ高い位置にあった。プロレスラーも裸足で逃げ出す筋骨隆々たる体躯。色黒の肌を覆うTシャツの、肩口からチラリと垣間見える入れ墨。凶暴そうな顔に交差して走るふたつの大きな疵は、大いにその物騒な由来が偲ばれるというもの。つるりと禿げ上がったあたまの、鬢から鼻の下にかけて渡された山賊みたいな髭はどうだ! 彼が生まれてこのかた鏡を見たことがないというのでなければ、まさか他人に好印象を持ってもらおうとして生やしたものではあるまい。見てくれだけで判断するなら彼が「その筋」の人間であることに疑いようなどなかった。
「なんの用でえ」
 これで声がボーイソプラノだったらまた別種の恐ろしさを醸し得たろうが、あいにくこの男のしゃがれ声は宗家正統派一子相伝の部類である。悠は気圧されてちょっと黙ってしまった。が、
(こういう手合いは怖がって下手に出ちゃダメだ、舐められる……)
 ましてこれからこの追い剥ぎじみた大男を相手に、時計の値段交渉をしなければならないかもしれないのだ。言いなりになってはならぬ――彼は両の拳を握りしめて自らを叱咤した。
「トイレ借りに来たように見える?」
 あえてぶっきらぼうに返してみる。あるいは男が機嫌を損ねるかとも思ったものの、彼はこれといって気にしたふうもない。こういう受け答えに慣れているのだろうか。
「確認だけど、おじさんはこの店のオーナー?」
「トイレの掃除夫に見えたかい」
「プロのね。表のポスターに高額査定って書いてあったから、持ってきたんだけど」
「時計?」
「うん」
 店主は「見せてみろ」とばかりに無言で手を出した。この革手袋みたいな手に時計を載せたら最後、「こいつに免じて命だけは助けてやらあ、安い買い物だったなあ。帰んな」とでも言い放たれそうだ。しかし拒否すれば「そんなら仕方ねえ、サイフとタマも頂こうかい」などと蛮刀片手にカウンターから飛び出して来ないとも限らない……
(ビビり過ぎだ鳴上悠! 曲がりなりにもこんな平和な田舎に店を構えるような人間だぞ、そこまで非常識なことをするはずはない!)
 たぶん――悠は先ほどポケットに放り込んだ時計を取り出した。
「…………」
「……どう?」
「……まあ、待っときな」
 彼は時計を受け取ったなり、大して価値のないもののように胡散臭げにじろじろ眺め回していたが、じき椅子に座って覆い被さるようにしてそれを検め始めた。じっくり時間をかけながらその合間に顔を上げて、折々悠のほうをチラチラ窺うのが不気味なことこの上ない。かの時計が非常な値打ちものであるとわかって、「さてこのガキを殺して裏庭に埋めるにゃあどうしたらよかろう」などと案じているふうでもある。
(いったい何分かかるんだろう……)
 悠はふと時間を気にして、ポケットから携帯電話を取り出した。現在午後二時を少し過ぎたところ。遼太郎はまだまだ帰っては来まいが、そろそろ夕飯の買い物へ行かなければ……
「四十万」
 にわかに店主がそう呟いた。悠は危うく飛び上がるところだった。
「……四十、万?」
「四十万だ」
(そ、そんなに高いものだったのか!)
 思わず喉が鳴る。
 中古で四十万なら輔はいったい、この時計をいくらで購ったのだろう。送られてきたときは箱や付属品の類こそなかったものの、キズひとつない新品同様の状態だったのだから、まさか四十万より安かったと言うことはなかろう。これが吝嗇家の妻に知れたら彼こそここで鎧を誂えねばなるまい。鳴上輔の親バカここに極まれり、である。
 しかしなんにせよ渡りに船とはこのことだ。四十万円もの高値で売れるなら問題は解決したも同然、それだけあれば防弾チョッキ四人分など余裕でまかなえてしまう。おつりでもう一回あの鰻屋へ繰り出して大盤ぶるまいしてもいいし、入口で待っている陽介たちにそれこそ籠手でも剣でもナイフでもなんでも買ってやれる。いやいやそんなものより手の出なかったあの本この本もこの機会に――
(待て、待て鳴上悠っ! 落ち着け、それは早計に過ぎる!)
 あたまの中に次々と花開く物欲の薔薇を、悠はあわてて理性のブラッシュカッターで刈って廻った。こんないかにも「強盗でござい」とでも言わんばかりの曲者が果たして、馬鹿正直に適正な値段など呈示するだろうか? 本当はあの時計はもっともっと高価で、この男は「これくらい出しておきゃあこのガキも文句はあるめえ」などと高を括っているのかも知れないではないか!
 悠はたちまち猜疑心の――さらに言えば欲望の――虜になった。
「なんでえ。不満か」
「……百万以下では売るなって言われてる」
 とっさにこんな言葉が口をついて出てくる。言い過ぎか? いや、こんな手合いにはこのくらい言ってやったほうがいいのだ! 悠はあふれ出る手汗を躍起になって拭う。
「百万だあ……? 帰んな」
 店主は「なにをこのバカな小僧め」とでも言わんばかりである。よし、そちらがそう出るなら……
「邪魔したね。帰るよ」
 手を出して返せと手招く。果たして店主の面にかすかな動揺が走る。
「まあ、待ちな」
(そら見ろ! やっぱり安く買い叩くつもりだったんだこのハゲ!)悠は内心でほくそ笑んだ。(このおれがやすやすと騙されるとでも? そこらの高校生と一緒にするなよ……!)
「じゅうぶん待ったよ。ほら、返してよ」
「……ものを知らねえやつだ。百万っつったらおめえ、定価と大して変わらねえじゃねえか。ほれここ、見てみろ」と言って、店主が悠の時計を示す。「わかってんだろうが、風防にでっけえキズが入ってる。他にもガワに小せえキズはあるがな、まずこれがいっとうマイナスだぜ」
 悠は内心で呻いた。その疵は一週間前、燃える天城屋旅館において蒙ったものである。まあ見えるんだしいいか、などと楽観していたのだが、こんなふうにして巡り巡って来るとは思わなかった。
(それにしても……元は百万以上もするのか、あれ。そんなもの手首に巻き付けてたなんてな)
「そう。それで?」と、悠はあえて強気に出た。「いくらなら買うのか金額を出してもらわなきゃ。もし上乗せする気があるんなら」
「四十五万」
「おれはものを知らないかもしれないけど」鼻で嗤って続けて、「おじさんは交渉を知らないなあ……ほら、返して」
「じゃあ五十万出そう。イヤなら持ってけ」店主はカウンターの上に時計を置いた。「ヨソを当たってみな、どうせここへ戻ってくることにならあ」
「じゃあね。トイレ借りにならそのうち寄るよ」
 と言って時計を取った悠の手に、ガバッと店主のそれが覆い被さる。
「……六十万。これが上限だ、これ以上は採算が取れねえ」
「九十万」
 店主の目が驚愕に見開かれる。
「お、おめえよくもそんな……!」
「ねえおじさん、こっちだってこのまま帰ったんじゃあ親父に対して面目が立たねえんだよ。百万との差額をどう言い訳したらいい?」
 目の前の大男の影響であろうか、悠はこの怪しい値段交渉にすっかり嵌ってしまっていた。こういう場所でこういう男を相手に、精一杯の低い声で父親のことを「親父」だなどと呼んでみせるというのは、それはそれである種の快感を伴うものである。面と向かって輔を「親父」と呼びなどしたら彼はたぶん泣き出すだろうが、
(どのみち売ったことが露見すれば父さんは泣くんだ……せめて安売りだけは絶対にしない!)
「この時計はさあ、おじさん、うちの親父が高校入学の祝いにってことで、はりきってよこしてくれたもんなんだよ」もはや気分は極道の息子である。「ちっと入り用でね、悪いけど売るぜって言ったときァ、そりゃあ親父もいい顔はしなかったさ。でも売るからには二束三文にできねえってのァ、わかってもらえると思うんだけどねえ」
「親不孝もんが……んなのァそっちの都合だろうがい」
「こっちの都合さ。だからこっちの都合で値段も決める。売る店も決める。どうすんだい親孝行のおじさん」
「……てえしたクソ度胸だぜ、こんなボロ時計に九十万の大枚を叩けってかい。おめえもおめえのオヤジもよくよくものを知らねえ」
「で、おじさんは交渉を勉強中ってわけだ――手ェ、放してくんない? 次からは授業料とるぜ」
「七十万だ、これで承伏しねえならもう止めねえ!」と言って、店主は苦渋も露わに手を引っ込めた。「その代わり、ヨソで突っぱねられてすごすご戻ってきたってもう買取にゃあ応じねえ」
「…………」
「トイレも貸さねえ。ヨソの高額査定とやらがどれだけしょっぺえか、そっちこそ勉強してくりゃあいいや」
 このあたりが手の打ちどころか――悠は静かに鼻息を吐いた。
「七十八万、一括、交渉成立。いい買い物したねおじさん」
「…………」
 店主は苦虫を噛み潰したみたいな顔をしている。悠のほくほく顔とは対照的である。少し強引な取引だったかも知れないが、不服なら交渉を打ち切ることだってできたはず。利益を見込めるからこそ彼もここまで食い下がったに違いないのだ。同情するのは筋違いというもの。
(今は自分を褒めてやるところだろう? ほぼ倍額の値上げ交渉、初めてにしちゃ快挙じゃないか! それもこんな怪物相手にさ)
 悠の時計はあらためて怪物の手に渡った。
「おめえ、高校生かい」と、店主が低い声で訊いた。
「そうだよ。高二」
「おめえみてえなクソガキァ初めてだぜ。涼しいツラしてこんなもん持ち込んで、目上の人間によくもまあペラペラと大層なクチを……」
「へえ、目上だったの? あとでよく言って聞かせとくよ」
 店主の恨み言も悠にとっては称讃の類である。今日はいい日だ――彼は勝利の余韻に浸った。
「……ところでおめえ、見ねえツラだな」
 余韻も長くは続かなかった。
「そう? 気のせいだろ」
「いいや、俺ァいちど見た人間の顔ァ忘れねえ。おめえはただの一度も見たこたねえ、ここらのもんじゃあねえはずだ、よそもんだろう」
「…………」
「どうなんだ」
 ここで否んでのちにボロが出て、この男の「一味」に尾行されたあげく堂島家の住所がバレるなどという事態になるのはまずい。悠は内心の動揺を押し隠して「よそもんだからなんだよ」と突っ張った。
「そうかい。で、おめえ、どっから来た」
「……サンノゼ」
「サンノゼェ……?」店主の眉根に皺が寄る。恐ろしさは三割増しになった。「で、名前は」
「なんで?」
「言えねえってのかい」
「諸岡」
「下の名前は」
「訊いてどうするんだよ。陽介だけど」すまぬ陽介――ふたたび両の手に汗が滲んできた。「つぎは口座番号でも訊く気かよ。カネは現金で払ってもらうぞ」
「……そうだったな。いや、つまんねえこと訊いたな」と言って、店主はカウンターの下から一枚の用紙を取り出した。「どのみちここに書いてもらうんだ、訊くのも迂遠な話だった」
(コ、コイツ……!)
 彼が悠に呈示したのは、こういった中古品売買の際に取り交わされるには至極ありふれた売買証明書である。二枚綴りのその用紙には住所氏名年齢生年月日電話番号と、ついでに未成年においては保護者氏名とを記載する欄が設けられていた。住所? 電話番号? 保護者氏名? 遼太郎の名を書いてあとで電話されでもしたらどうなるだろう? この大男の手を煩わせることなく悠は裏庭の肥やしとなるに違いない。
(なんでこういうとこだけ普通の店と変わらないんだ! くそ、どうする……)
「ほら、どうしたい。おっとすまねえ、ボールペンがなきゃあ書けねえよなあ」
 悠がなにかしら後ろ暗いものを抱えているらしいということに、どうやら店主は気付いている様子。その態度は先に手玉に取られた鬱憤を晴らすかのようで実に楽しげである。
「…………」
「……ほら、名前の次は住所だ、モロオカくん。住所を書くんだ、いま住んでるとこのことだぜ。電話番号は携帯不可だぜ。それとモロオカくんは未成年なんだからよ、保護者の名前も要るぜ」
 遼太郎のことはさて措くとしても、まさか言われるままそんなことを書いてよこすわけにはいかない。この男が先にやり込められた腹いせにどんな嫌がらせをしてくるか知れたものではないのだ。家には菜々子もいる。彼が子供の誘拐を趣味に持っていても不思議とは思われない。
「……おじさん、あのさ」と、悠は控えめに打ち明けた。「時計売るのはちょっと見合わせようかと思う」
「おいおい、てめえで交渉成立っつったんだろうがい、いまさらだぜ。それよりなんで住所が書けねえんだい」
「理由なんてあるもんか、書きたくないからだ」もはや開き直るしかない!「これを書けなきゃ売買は成立しないはずだ。ほらっ、返してくれよ! やっぱり親父の――」
「鳴上くーん、ここマジすごいって」
 悠はカウンターに寄りかかって崩れ落ちそうになる膝を懸命に支えた。
「なんかもー宝の山だって。今月もうちょっと――」
 果たして棚の陰から顔を出したのは千枝である。彼女はこれまた中国ふうの槍を抱えてことに上機嫌であったが、カウンターの中に収まった店主の姿をひとめ見るなり一転、血相を変えて「ちょおっ!」と後退った。
「あ、えーと、あのっ、すいませんホント、戻してきますから……」
「あーいいんだいいんだお嬢ちゃん、この店にあるもんは全部さわっていいんだ。なんなら外に持ってって振り回すかい」と、店主は愛想よく続ける。「それより、ちっと訊きてえんだけどな、お嬢ちゃんいまこの兄ちゃんのこと、なんて呼んだ?」
(里中やめろ! 頼む!)悠は必死に念を送る。目を見開いて凝視する。(気付けこのバカ! おまえ言ったらあとでどうなるか……!)
「へ? 鳴上くんです、けど。このひと鳴上くんです」
 千枝の顔には「圏外」と大書してあった。
「……へえ、いい名前じゃねえか、ナルカミくん」
「え? へへっ、でしょー? ってあたしの名前じゃないっつの」千枝はにこにこ笑っている。「ところでえーと……鳴上くん、なんで睨んでんの?」
「…………」
「よしよしナルカミね……ナルカミ? どっかで聞いたような聞かねえような……」店主の顔が怖さ三割増しになる。「ああお嬢ちゃん、ついでにカレシの下の名前も教えてくんねえ」
「カレ――あははカレシじゃないです違います。あたしカノジョじゃないです」
「婚約者だよ。結婚したらナルカミじゃなくなるから」と、悠は低い声で言った。「いいからおじさん、早く返せよ、警察呼ぶぞ。その顔じゃ困るだろ」
「だあれが婚約者だっつの」千枝が脇腹を狙って槍でツンツン突いてくる。「ウソです違いますから。ただの友達ですから」
「おじさんホントに警察呼ぶぞ。フェアじゃないから教えとくけど、叔父が刑事なんだ。おじさんみたいなヤツを追いかけるのが仕事のね」
「へえ、ならオバさんは検事でアニキは鑑識で、ジイさんは警視総監ってわけだ」店主は端から信じていない。「まあ落ち着きな。そんなにとんがるめえよ、婚約者にアイソ尽かされるぜ。どうも顔色が優れねえようだがよォ、さっきの威勢はどうしたいナルカミくんよ」
「婚約者の前だから自制してやってるんだろ。いいかげんにしないと――」
「悠ー、ここマジでスゲーって」
 悠は灰になった。
「おいヤベーって悠、ここ宝の山だって。あーくっそ今月もうちっと――」
 果たして棚の陰から顔を出したのは陽介である。彼は千枝と同じような手順を経て「ちょおっ!」と後退った。
「あっ、すんませんマジですんませんホント、戻して来ますから!」
「いいっていいって。オジさん無粋なこたァ言わねえよ、オトコならみんなそういうのに憧れるってもんだぜ少年。それ、抜いてみたかい」
 と、店主に笑いかけられると、陽介はすっかり警戒心を解いて、持ってきた刀の鞘を払って「えへへ……ッスよねえ」などとへらへら笑い始めるのだった。
「そうかいそうかい、ナルカミユウくんてのかい」
「……返せよ」
「交渉成立って言ったろうがい。まあ今日のところはよ、お近づきのしるしってえことで、こんなものァよしにしとこうや」店主は売買証明書をふたつに裂いた。「オレとナルカミユウくんの仲だ、口約束でも仁義は通るさ。言い値もちゃあんと耳そろえて出すぜ。信用ならねえってのかい」
(なるわけねーだろ! 鏡みたことないのか?)
 悠は心の中で毒づいた。
 しかし時計を返してもらえないのならもう、金を受け取って早々に引き上げて、こんなところには二度と近づかないようにするしかなさそうだ。
 この男が本気でなにかしてくるようなら、それこそ刑事たる叔父に相談すればよい話である。なにしろ額が額であるからして、この一件、裏庭の肥やしは冗談にせよたしょう強引な詮索は免れまいが、なにも法に触れることをしているわけではないのだ。遊ぶ金が欲しかった、こんな高額なものとは思わなかった――この一点張りでどうとでもなる。
(そう、天城がこの店主の名前を知ってたな、確か)
 こちらの素性を押さえられはしたが、こちらもまた先方を知らないわけではない。まして小体ながら堂々とこのような店まで構えている。冷静になって考えてみればこの男が正業に就いていようがそうでなかろうが、善良な一市民に対してそうそう大っぴらに狼藉を働くことなどできないはず。見た目に騙されてはならぬ、この男はそれほどの脅威にはなり得ない……
 悠は静かに鼻息を吐いた。
「じゃあ、いいよ、おじさんの言うとおりでいい」
「よおし。じゃあよ、また近いうちに寄りな」
 店主はニヤニヤ笑いながらこう言い放った。
「え……だっていま、耳そろえて出すって」
「おいおいナルカミくんはものを知らねえなあ。これから真贋を調べにゃならねえんだぜ、ニセモンだったらどうすんでえ。そりゃ時間もかからあな」
「って言ったって、じゃあ、いつ来れば」
「近いうちさ」
「近いうちって!」
「近いうちは近いうちだ。遠くねえ日だ」
「…………!」
 やられた――顔から血の気の引くのを感じる。それはそうだ、渡すのならもちろん金と引き替えでなければならなかったのだ! 持ち逃げされたらどうする? 売買のやりとりを聞いていない陽介たちは証人たり得ない。知らぬ存ぜぬそんなものはこの店にないと突っぱねられれば、いったい売買証明も交わしていない悠にどうしてみようがあろう。
 彼はすっかり打ちのめされてしまった。かたや世間見ずの高校生、こなた百戦錬磨のヤクザ。この戦い、もとより役者が違い過ぎたのかもしれない。自分はアエネアスに挑むラウススに過ぎなかったのでは……
「さ、用は済んだかいナルカミくんよ。そっちのふたりもゆっくり見てってくんな。できれば買ってくんな」
「……ふたりとも、帰ろう。天城たちを待たせてる」
 もはやこの山賊の頭目じみた怪人を信じて、彼の言う「近いうち」にふたたび訪ないを入れてみるしかない。悠は陽介たちを促して悄然と踵を返した。
「悠、ここの店主さんとなんかあったのか?」
 と、陽介が耳打ちしてくる。もちろんあったとも、友人の裏切りがね! 説明するのも忌々しいので悠は無視して済ませた。
「でも見た目はアレだけどさ、ここの店主さん、なんか意外といいひとそうじゃん?」と、千枝も顔を寄せてくる。「鳴上くんもブッキラボーだよ、よくないよそうゆうの。敬語つかおうよ敬語ォ。むこう年上なんだからさあ」
「…………」
 千枝は悠に脇腹をつつかれて飛び上がった。
「おふっ! ちょ、なにすんの!」
「手が滑った」
「今日はいろいろ滑るんだな、お前」陽介が呆れたように言った。
(まったくだ、滑り通しだよくそっ)
「ふたりとも、そのおもちゃ、買わないんだったらさっさと戻して来いよ」今日は厄日だ――悠はふて腐れた。「買うんだったら離れて歩けよ。他人のフリするから」
「なんでお前そんなスネてんの」
「鳴上くんなんかカンジわるー」
「そこがよくて婚約したんだろダーリン」
「婚約してにゃ……してないっつの」槍の石突きが飛んできた。
「で? けっきょく防弾チョッキは買えなかったんだな」
 陽介の言葉は質問というより確認の色が強かった。もともとそれほど真面目に受け取ってはいなかったのだろう。
「ま、さすがにあんなたっけーもんホイホイ買えねーよな。ムリムリ。べつの方法考えようぜ」
「……そうだな、いくらなんでもな」
 ため息をつくのに忙しい悠を置いて、陽介と千枝は持っていた「おもちゃ」を戻しに店内へ散って行った。
(最初からあの男の言うまま、四十万で手を打ってればよかったんだろうか)
 いや、どだいこんなヤクザな店に持ち込んだのがまずかったのだ。きょう食事に出かけた御康でだって探せば買取店のひとつもあったろうに。ちゃんとしたカタギの、ちゃんとした値を付けてくれる店が。父になんと言って詫びればいい? このまま知らぬ顔をされたらもう泣き寝入りするしかないではないか……
「あ、ここにいた!」
 猫背になってため息を連発する悠の背に、カウンターの向こうから店主のものではない、若い男の声が飛んできた。
「向こう電気つけっぱだって。あとアマゾン来てっぞ」
「今日だったか。受け取ったか?」と、店主が暖簾を振り返る。
「受け取ってねえよ、玄関で待ってる。呼鈴いつ直すんだよ、配達のひとマジで困ってたっつの」
「おお、ちっと行ってくらあ。すぐ来っからここいてくれ」
 暖簾を潜って現れたのは、悠とそれほど変わらないであろう年ごろの、上背のあるがっしりとした少年だった。薄墨色のツナギの上半身を脱いで両袖を腰に縛り付けた、ちょっと一服中の工員といったいでたちである。
(あのヤクザハゲの子供かな。どうもそれっぽいな)
 まさか悠の言う「ヤクザハゲ」氏と同等とはいかぬにせよ、その少年は彼に似た色濃い不品行と暴力との匂いを纏っていた。
 悠の立っている位置からでもそれはわかる。黒いタンクトップの肩から伸びる、逞しい二の腕に刻まれた髑髏のタトゥー。高い鼻と耳とを穿って飾る銀色のピアス。あたまに巻かれたタオルに見え隠れする、真っ白に脱色された短髪。こめかみの傷痕。白目の勝ったやぶにらみ気味の鋭い目。低い声、野卑な口調。この悪魔の館の跡取りと言われればさもあろうとも思えるような、いかにもふさわしい誂えたような不良少年。
「おいカンジ、お客さんだぜ、挨拶しとけよ」
 店主がカウンターを去りしなに、思い出したように悠を示してそう言った。
「いいお客さまだ。粗相のねえようにな」
(なあにがいいお客さまだ! カモの間違いだろこのヤクザハゲ……!)
 背負ってきたネギとナベを奪われてダシまで取られた悠のこと、この店主の科白は皮肉っぽい勝利宣言にしか聞こえない。恨めしげに彼の背を見送る彼に、件の少年があごを突き出すようにして、
「ッス」
 と、朴訥な、会釈らしい仕草をした。





 なにか眠気を誘うような律動が、規則正しく身体を突き上げ続けているのを感じる。
「ナルカミユウさま、お目覚めあれ」
 目を開けると――そこは電車の中だった。悠はワンボックスのひとつに腰掛けて、鼻の長い不気味な小男と相対していた。
「…………」
「おはようございます。ナルカミユウさま」
 小男の隣に座るブロンド美女が悠に挨拶する。
「あれ、ここって……」
「お久しぶりでございます」
「お久しゅうございますな」
(そう、そうだ、ベルベットルームだ、ここは!)急速に記憶が蘇ってくる。(ええと確か、この鼻の長いのが)
「……あなたは、イゴール」
「はい」と言って、小男は持っていたタンブラーを軽く持ち上げた。「覚えやすい名前でございましょう? それゆえに付けられたとも申せましょうが」
「で、あなたが」
「覚えておいででございますか?」話を振られた女がにこっと笑って、持っていた塗りの重箱を軽く持ち上げた。「大ヒント。花言葉は『秘めたる愛』でございます」
「クリサンセマムさん」
 女――マーガレットの笑顔が固まった。
「まあまあ、自己紹介は先に終えているのですから、このくらいにしておきましょうか」イゴールは含み笑いながら続ける。「なにはともあれ、ようこそベルベットルームへ」
「ふたたびお会いできて、なにより、でございます」マーガレットは奥歯にものの挟まったような口調である。「まだはっきりとはお目覚めでないご様子ですが」
「いえ、目なら完全に醒めてますよ、クリサンセマムさん」
 ふと思いついて身を乗り出すと、悠はイゴールの持っていたタンブラーをひょいと奪った。小男のまぶたのない、まんまるの目に微かな驚きが閃く。
「おや」
 終始ものしり顔で澄ましきっているふたりの、微笑の張りついたその顔の色を変えてやれたのはなんとも小気味がよい。ひとまずはこれでささやかながら、先にさんざん驚かされたことへの復讐は済んだことにしてやろう。
(これ、なんだろう)
 奪ったタンブラーの中身はウィスキーかなにかと思しい。このまま突き返すのもなんなので、悠はその琥珀色の液体を氷ごと一息に飲み干した。
(……うまい)
 彼にウィスキーを喫した経験はなかったが、その液体は心中ひそかにこうであろうかと想像していたとおりの美味である。
「どうでございますか、お味は」と、イゴールが訊いてくる。
「いいですね。なかなか」氷をボリボリ嚙み砕きながら、「意外とおれって、いけるクチなのかもしれない」
「フフフ……早熟なあなたにはあんがいお似合いやもしれませんな。しかし」イゴールの蜘蛛の足のような指が伸びてきて、タンブラーをやんわりと取り上げた。「お飲みになるのは夢の中だけにとどめておかれますよう」
「へえ、どうして」
「それはご存じのこと。あなたは未成年であるからして、現実の世界では法に触れましょうほどに」
「うちの叔父は未成年の飲酒に寛容なんです」
「……そのう、これは個人的なお願いでもございます。夢の世界と現実の世界ではけだし、ものの味もいささか違って感ぜられるやもしれませんぞ」
「イゴールがそう言うんなら、じゃあ、止めておきます」機会があったら是非とも試してみなければ。「それで、けっこう久しぶりですけど、またなにか用ですか」
「これはつれないことを仰る。我々は旅の仲間ですぞ」と言って、イゴールは窓際のサイドテーブルに置いてあったボトルからおかわりを注いだ。
「まだ名前も覚えて頂いていない間柄ではありますが」と言って、マーガレットは膝の上で重箱をふたつに分けて割り箸を割った。
 彼女の食べようとしているのは鰻重である。それも箱の意匠も中身も寸分違わぬ、かの篁で餐した中串と同じものであった。
「マーガレット、それって……」
「これはたいそうおいしいのでございましょう?」マーガレットは喜色満面である。「楽しみでございます――いただきまーす」
「その節はとみにお楽しみだったようで、なによりでございますな」イゴールはウィスキーをひとくち啜った。「ちょっと今までのあなたにはないことだったのではございませんかな?」
「そんなことはないけど」
 と言って、悠はなんの気なく窓の外に目を向けた。外は相変わらずの闇一色。籠もった律動音がこの電車のトンネルにいることを教えていたが、どうもベルベットルームにいる限り外へ出ることはないらしい。
 窓にはただ悠たち三人の姿のみ映っていた。が、じきそれらに混じってなにか小さく、どこかに寄り集まって騒ぐひとの集まりのようなものが見えてくる。それは目を凝らすうちにもどんどん大きくなっていって、ついには窓の向こう数メートルほどの位置にまで近づいてきた。
 もはや目鼻立ちも判別できる距離である。男がふたりに、女がふたり、窓の向こうで卓を囲んで座っている。
(なんだ、あれ、まさか……)
 まさかもまさかである。それは篁の奥座敷に座ってさざめき笑う、悠以下「自称特別捜査隊」四人の姿であった。
「……よい景色でございましょう? この旅の醍醐味ですぞ。いや実にすばらしい」
 イゴールの賞揚も耳に入ってこない。いきなり窓を透かして映画が始まったことを驚く余裕もない、悠は身じろぎひとつできずにいた。窓の向こうの四人のうちの、あのいちばん背の高い少年……
 あれはいったい誰だ?
「あれはあなたです。ナルカミユウさま」マーガレットが見透かしたように言った。「まああのように楽しげに……もしこの次にまた機会がありましたら、わたくしもぜひご相伴させて頂きたいもの」
(ウソだ、あれはおれじゃない、おれはあんなに……)
 大口を開けて下品に笑ったりしない。あんな馬鹿みたいに大仰な身振りはしないし、あのように口を尖らせて不満げに話そうとはしない。気味悪くニヤニヤしたりしない。不審者みたいにキョロキョロしない。子供みたいにそっぽを向いたり俯いたりなんかしない。おお、おれはかつてあんなことはしなかった、したことなんかない、冗談にさえ!
「面白おかしく変えてるんだろう! 悪趣味にもほどがあるぞあんたたち!」
 悠の剣幕と瞋眼とに、しかしイゴールとマーガレットは訝りも驚きもせず、ただ静かに慈愛の視線を返すだけである。
「いいえ、あれはあなたのふだんの姿です」と、イゴール。
「違うおれは、笑ったかもしれないけど、あんなふうに笑いはしなかった! 確かに!」
「あんなふうに笑っておられました」と、マーガレット。「あなたのお友達も、あのあなたを、ずっとご覧でしたよ」
「ウソだ、そんなバカな……」
「そらご覧なさい、まだまだ続きがございますぞ」
 高潔に、賢明に、理性的に。常にそうあることは確かにできまい。それでも今までの人生、あたう限りそのように振る舞ってきたつもりだった悠にとって、別して友人たちの前ではなおいっそうそのように努めてきたはずの彼にとって、窓の向こうに代わるがわる映し出される映像は立ち直れなくなるほど衝撃的なものだった。が、目を背けたくても彼はそうできない。鰻屋の次はあの燃える天城屋旅館だ。窓の向こうの悠は雪子のシャドウに「お姫さまだっこ」されて、みなの笑いものになっていた。
「…………」
 遡ってポスギル城内。悠は手紙に目を落としたまま螺旋階段を降りている。無表情に一抹の不機嫌を刷いた、性格の悪そうなイヤな顔で、彼はにこやかに話しかける千枝を無視していた。場面が変わる。大の男が女子みたいに内股になって床にへたり込んで、陽介と千枝とクマとになにごとか励まされている。この映像にはみな一様に音がなかったが、この男の情けないなよなよした醜態といったら、泣き言を漏らすのが聞こえてきそうなほど。
 悠は自分の喉から変な呻き声が出るのを聞いた。
「絶景かな絶景かな、春の眺めはなんとやら……」馬鹿にしているのか感心しているのか、イゴールはさも面白げにそう言って続ける。「値万両、万々両、ではございませんか。これだから旅はいい」
 少年がふたり、人型のイラストの描かれた床に転がっている。一様に股間を押さえて、苦しげに、片方などは顔を歪めて泣きさえしている。泣く少年が少女へと代わった。千枝がジュネスの入口のガラス戸に肘を押し当てて、もう片方の腕で目を擦っている。しゃくり上げている。彼女に向かって指を突きつけて、目をギラギラさせて、怒りに燃えて口をパクパクさせているあの少年……
 あの少年は誰だ?
 自分でも情けないとは思っても、悠は涙の溢れるのを堪えることができなかった。彼は窓の向こうの千枝と同じに袖で涙を拭った。
 映画はたぶんこれがラストだろう。もっとも見たくなかったもの――少年がふたり、殴り合いの喧嘩をしている。いや、殴り合いではない、背の高い方が一方的に殴りかかっているだけで、背の低いほうは必死でそれを去なして、ただ防御に徹するのである。彼の面、陽介の面に満ちたあの忍耐と焦燥との色、友人を打ってしまったことへの隠れもない後悔の色。
 彼の相手は誰だ?
(おれだ。あのチンピラはおれなんだ……)
 いったい陽介に殴りかかる悠の、なんと醜い顔をしていることだろう。ただただ一撃されたことへの仕返しに、怒りに我を忘れて歯を剥いて、溜飲を下げてやろうとだけ考えている、向こう見ずで単純で思慮のない、愚かなガキの顔。それは悠の考える自分自身と対極にあらねばならないはずの男の顔であった。
「あなたは以前、このように考えたことがございましたな――自分の捨てられて顧みられなかった火床に、怒りの埋火を見出したのは大いなる驚きであると」
 イゴールの問いかけに、悠はひとつ洟を啜って、黙って頷いた。窓の向こうの映画は終わっていた。
「……もはやあなたにもおわかりのはずですな。もちろんそんなことはなかった。あなたは怒りのひと、感情のひとです。あなたはあなたのお母上に対しても人並みに怒りました。あなたの周りにいるひとたちに対しても、ちゃんと怒りを覚えておられました。あなたは実際、よく怒りましたとも。ただ遠くにいたから、近くに寄せ付けなかったから、なにより省みなかったから、彼らもあなたご自身も、ナルカミユウの怒りの面を見ずに済んだだけのこと。セネカを繙いてみても、屈原を援用してみても、あなたはついにあなたの蔑んでいた人々と変わりはしなかった」
「…………」
「挙世みな濁り、われ独り清めり。衆人みな酔い、われ独り醒めたり」マーガレットが箸を置いて、歌うようにそう言った。「汨としてわれ将に及ばざらんとするがごとく、年歳のわれと与にせざるを恐る」
「朝には岡の木蘭をとり、夕には州の宿莽をとる」イゴールが引き取る。「歳月が水の流れのように自らを待たないことを恐れて、朝な夕なに時を惜しんで、高潔に、賢明に、理性的にあれかしと努める――ほんとうのあなたとはいささか隔たりがございましたな」
「これを見せるために、おれを呼びつけたのか、あんたたちは」と、悠は口の中で呟いた。「やっぱり悪趣味だ。あんたたちは悪魔だ、やっぱりそうだった」
「これは手厳しい。つれないことを仰せだ」
 と、言ったきり、イゴールもマーガレットもしばらく無言で、めいめいの食べ物なり飲み物なりに集中していた。
「……おれは怒りっぽくてへこみやすくて感情的で、思慮が浅くて、性格の悪い卑しいバカだ。よくわかりました」
 ややあって、悠がなかば捨て鉢になってこう漏らすと、イゴールはようやく顔を上げてにこっと笑った。
「ねえ、ナルカミユウさま。ですがいったい、そうでない人間がどこにいるというのです」
「けだしひとはみな、あなたのように考えます」マーガレットがふたたび箸を置いた。「そうして、そんなあなたを好ましく思うお友達もおられるのです。先の団欒の光景をお忘れでございますか?」
「あなたは決して感情的ではありませんし、お若いかたとしては思慮もじゅうぶん深くていらっしゃる。欠点を指摘されれば認めるにやぶさかでもない。あなたはあるいはバカかもしれませんが、愚かではない。愚か者にこの部屋へ入る資格は与えられません」と、イゴール。「ただ、あなたの考えるようなあなたではなかったというだけのこと。先ほどこの窓の向こうに映ったあなたは、いわばあなたのシャドウであるとも申せましょう。あなたは自らのシャドウを受け入れることによって、あなたのペルソナと呼ぶ力を手に入れられた。そうではございませんでしたかな?」
「いちど遭えばそれで終わりってわけじゃあ、ないんですね」
「そのとおり」イゴールは得たりと頷いた。「あなたは遭い続けて、見詰め続けるのです、理解し続けるのです。あなたの生きている限り、その道に終わりなどございません」
「あなたのペルソナと呼んだ力は、黄金でできたトロフィーではございません。名誉を証すメダルではございません」マーガレットが引き取る。「手にしさえすればもう苦労はおしまいで、決して失われず、それから先は好き勝手に使えるといったような終身の特権ではございません――だからこそ、その力は貴いのよ」
「……あなたたちを悪魔だって言ったことは、謝ります」
 と言って、悠はふたりに軽くあたまを下げて見せた。
「なんの、あるいはほんとうに悪魔やもしれませんぞ。それ、この鼻などはいかにも悪魔然としてはおりませんかな?」
 イゴールは自らの長い鼻を指さしておどけて見せた。
「まったくでございます。主の鼻といったらウフフ……もうこの世のものとはウフフ……」
 マーガレットはイゴールに睨まれてそっぽを向いた。
「とりあえず、お礼を言ったほうがいいんでしょうね」悠はため息をついた。「いいものを見せてくれて、ありがとうございました。正直、ちっとも嬉しくはなかったけど……」
 イゴールとマーガレットは異口同音に「どういたしまして」と言った。
「ペルソナを使い続けるために必要なことだったんなら、もう仕方ないですし……そう、こっちの話になりますけど、ペルソナ使いもずいぶん増えたんです。子供っぽいって笑われるかもしれないけど、捜査隊なんかも結成したりして」
「いったい誰がそれを笑えましょう。すばらしいことではございませんか」と、マーガレット。「あなたがたはお互いをお互いの杖にするのと同様に、お互いの鏡ともなるのです。有意義なことですよ」
「ありがとう」実際に結成したのはおれじゃないけど。「イゴールの言ってた謎にも、ひょっとしたら遠くないうちに手が届くかもしれない」
「ほう、謎に、でございますか」イゴールはなぜか怪訝そうな顔である。「なるほど……しかし、ペルソナ使いが増えたからといって、そのゆえに手が届くかどうかというのは、はてさて、わたくしにはしかとは解りかねますが」
「だって、人数がいれば戦力になるでしょう? 謎を解くための」
「おや、あなたの言う謎とは、解くために戦力が要るのですか?」
 悠とイゴール、両者の眉根に皺が寄った。おかしい。なにかが食い違っている。
「え? いや……違うんですか? イゴールが言ったんですよ、謎とはこの一連の事件の犯人のことだって」
「いいええ」イゴールはさも愉快げである。「わたくしはそのようなことを申し上げてはございませんよ。よく思い返してごらんなさい」
(いや確かに……あれ、声が)
「ああナルカミユウさま、お名残惜しゅうございますが、どうやらお時間のようですな」イゴールが持っていたタンブラーを窓越しのテーブルに置いた。「現実のあなたが目覚めようとしているのです。我々の旅の語らいはひとまず終わりといたしましょう」
(ちょっと待ってください、それじゃあ謎って)
「あなたが旅をお続けになる限り」イゴールは明らかに面白がって笑っていた。「フフフ……我々は必ずまた見えます。そのときは必ず切符をお持ちくださいませ」
(やっぱりあんたは悪魔だ! じゃあいったい――)
「それでは、ごきげんよう」







《あとがき》


 これで本編二章は終了になります。
 予想以上に長くなりましたが、二章にはこれから先に繋げていくための「気付き」を一通り出しておかなければならなかったというのもありましたし、ふたり同時攻略というのも手伝ってどうしても短くできませんでした。三章はこれより短くなります。なるはずです。おそらくきっと。
 ちなみにいちばん最初の脳内プロットでは、実はこの二章の内容も一章のうちに含まれていました。寒気がします。


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