「あたしも行く」
と、千枝の言い出すのはもちろん予想通りであったし、じっさい彼女は期待を裏切らなかった。
「なんでさっきから来るな的なフンイキ出してんの? それとなんでそんな早足なの? ちょっと待ってよ」
「コンパスの違いだよ」
来て欲しくないからだよ――悠は下駄箱に内履きを放り込んだ。
週最後の課業を終えた生徒たちで、正面玄関はなんとはなし浮き立つような賑わいがある。今日ここから押し出される生徒たち全てが来たる日曜への輝かしい希望で足取りも軽く――などということもなく、そのうちのひとりたる悠の足は重い。
「ねえ、なんで仲間はずれにすんの? 来られちゃまずいワケでもあるの?」
「いや、仲間はずれなんてしてねーけど……だからなんも面白いもんなんかねーんだって」陽介は弱り顔を隠せていない。「こないだ行ったときと同じだし、だいたいお前そういうのフキンシンとか言ってなかったっけ?」
「小西先輩がらみのこと見たいなんて言ってないでしょ」千枝は口を尖らせた。「だいたいあたしが行くのダメならどーして花村はいいの」
「……ほら、俺オトコだし」
「うわ女性差別! 鳴上くんなんとか言ってやってよ」
「がっかりだな。女子だと思ってた」千枝に見られないように陽介を睨みながら、「ほんとうに誰もいないって言ってたんだな、陽子ちゃん」
「何度も何度も言いましたわよ悠子ちゃん、クマは俺らが出てってから誰も入ってないって言ってましたですわよ」
三人は他の八校生の群に混じって雁行しつつ、濡れそぼる対の染井吉野を潜った。行き先は無論、ジュネスの家電売場である。
昼あたりから降り頻っていた雨はつい先ほど、八校生の放課に配慮したかのようにぴたりと止んでいた。めいめい手に持った傘は巻かれたままだが、路面は水浸しで、千枝が悠たちに前後して行ったり来たりするたび、彼女の靴から盛大な飛沫が飛び散るのだった。
「今日はよく降るよな。スカート穿いてくればよかった」悠は婉曲な抗議を試みた。
「チョロチョロすんなってお前、水飛んで来てんだけど」陽介は単刀直入に訴えた。
「あーごめん、ぜんぜん気付かなかった。これでいい?」飛んで来る飛沫が増えた。どうやら抗議のつもりだったようだ。
校門下の坂を下って一度道を折れれば、ジュネスの赤い看板は曇天に隠れもない。これから千枝を伴って行くのがあそこだけなら、なにも問題はなかったのだが。
(陽介のやつ、なんで里中のいる前で言うんだ……来たがるのは目に見えてるじゃないか)
悠はひっそりとため息をついた。
ジュネスへ様子を見に行っていた陽介が帰って来たのは、二限目終了のチャイムが鳴ったあとすぐであった。
「クマ、誰も入って来てないって言ってる」
席に戻って来るなり、悠の机に手をついて、陽介は開口一番、低い声でそう言ったのである。彼の顔にはすでに「なんで?」と大書してあり、それはすぐさま悠の面に複写された。
「……なんで?」
ふたりはなかよくお互いの顔を読み上げたのだった。
(じゃあ、なぜ映る? どういう経緯で映る?)
今まで仮にでも立てることのできていた法則は、これで全てご破算となった。振り出しに戻るどころの話ではない、すごろくを売ってる店から探し始めるくらいの後退と言える。
(山野アナより前の、ただ映るだけだったマヨナカテレビに戻ったってことなのか? それとも山野アナも小西先輩も、テレビに入れられていない時点からすでに映っていたのか? だとしたら、その空白を繋ぐものって……なんなんだ?)
このありがたい土産のおかげで、悠は三限目以降、まるで居眠りに集中できなかった。おまけに六限目の終わってすぐ、陽介はだれ憚ることなく悠に、
「お前すぐ来れる? なんなら俺さきに向こう行ってっからさ」
などと不用意に宣ったものだから、
「え、向こうって、ふたりともきょう向こう行くの?」
果たして千枝が腰を浮かせた。陽介は失言を覚って焦ったが、もう手遅れである。ほかならぬ「向こう」へ行ったひとりなのだ、ほかの誰が気に留めなくても、彼女が「向こう」という言葉に隠語の響きを聞きつけないわけがない。
なんとか煙に巻かねばならぬ。悠はあらゆる手段を用いて濛々たる煙を巻き起こしたが、なにか隠そうとする意図はまったくのところ筒抜けで、千枝はジト目で換気扇を回し続けるだけ。二番手の陽介は彼女の食いつきを信じてカンフー映画の話題を振るも、つい口を滑らせて清朝中国の辮髪を「みつあみハゲ」などと評したせいで彼女の逆鱗に触れ、無影脚とかいう技の実験台にされたあげく自らの制服で床の雑巾がけに精を出した。
かくして男子勢の姑息な隠蔽はあっさり看破された。のみならず、昨日の悠たちの冒険の顛末を訊きそびれていたとして、彼女はこのタイミングで謝罪込みの詳細を求めて来る。ここでも陽介は下手を打った。簡潔に早希の遺品を見つけた旨のみ悠が説明する合間に、千枝の質問に答えてシャドウやペルソナの存在を、間接的にとはいえ仄めかしてしまったのである。
(そもそも天城の安否を確かめてたとき、テレビに入れられても打つ手はあるなんて言ってたもんな、こいつ)
先にテレビの中に入った三人中、最大の慎重派であった彼女も、事ここに至ってついに旺盛な好奇心を抑えかねたらしい。
「あたしも行く」
と、千枝の言い出すのはもちろん予想通りであったし、じっさい彼女は期待を裏切らなかった。
「鳴上くん、例のブツ、忘れてないよね?」
千枝は悠たちを追い抜いて、後ろ歩きにそう言った。出し抜かれまいとしているのだろう。ここで走りでもすればまたぞろ中段蹴りを喰らいかねない。
「なに、なんだよ例のブツって」
「それなしにはいられないんだ、里中は」悠は沈痛そうな面持ちになった。「身体に悪いからあんまり大量に摂取しないで欲しいんだけど……」
「ちょっとそこ、誤解を招くような言いかたしない!」
「……それって、白かったり、粉っぽかったり、注射したりするヤツ?」
「注射なんかしないよ。火で炙るんだ」
「里中お前……!」
「ただの肉だっつの! ゴハンおごる約束!」千枝は半ば笑っている。「ハンバーグ! もしくはステーキでも可!」
「あー、例の携帯の使用料ね」
「里中はキャリア変えたほうがいい。五分で千三百円なんて暴利だ」
「あたしが決めたプランじゃありませーん。あと二分のぶん忘れてるよ悠子ちゃん」
「天城越えは金かかるなあセンセイ、御愁傷さん」陽介は無責任にへらへら笑っている。「ま、なんか前に何万もするコンサートのチケット用意して玉砕した奴とかいたらしいし、それ考えりゃまだいいんじゃねーの?」
「そそ、安いもんでしょ? 雪子と仲良くなれるんならさ」
「どうも誤解されてるみたいだけど」悠は首を傾げた。「おれ、天城越え狙ってるなんて言ったっけ?」
「へ、違うの?」この物言いは心外だったらしい、千枝が眉根を寄せた。「なんか電話でいいフンイキだったし、前も手紙かくとか言ってたじゃん」
「手紙って、悠が天城に?」
「ラブレター書くって、転校してきた日に」
「中国語でね」
「え、お前、中国語わかんの?」
「わからないよ」
「……じゃ、書けねーじゃん」
「もちろん。書く気ないんだから」悠は肩を竦めた。「冗談のつもりだったんだけど」
「……鳴上くんって、雪子のこと、実はなんとも思ってなかったり?」
千枝の面に一瞬、さっと非難するような色が刷かれた。が、陽介の見咎める暇もなく、それは曖昧な笑顔に取って代わった。
「思ってるよ、いろいろ、明るいうちは言えないけど」
「いい、言わんでいいからね」
「もう千三百円はらって天城本人に言ってみようかな」
「叔父さんに通報されんぞお前」
「実は冗談抜きで朝されかけた」
「ちょ、ひとの携帯でなに話してんの……!」
「天城が本命じゃねーとしたら、じゃあ、だれ狙ってんの?」
「里中」
千枝は後ろ歩きのまま、自分の足に蹴躓いてひっくり返りそうになった。危うく傍らの陽介が彼女の腕を捕らえる。
「はあっ? なに言い出したのこのひと!」千枝はみるみる赤くなった。「狙ってって、あたっ、あたしって!」
「おま……いまサラッとスゲーことを」
「あと陽子ちゃん」
「陽子ちゃ――アホか!」陽介は赤くはならなかった。「俺そーいうシュミねーからな!」
「今はおれにあるかどうかって話だろ」千枝の傘を拾い上げながら、「天城はその次くらいで検討中」
「どういう基準だよ」
「知り合った順」
「あっそ……気の多いこって」
ジュネスの真向かいの交差点で、三人は赤信号に阻まれて立ち止まった。
ふと見上げていた信号機に、悠は小さな違和感を覚える。すでに何度か見たはずだったのが、やけに新しいのに今さらながら気付いたのである。この辺りではほかに見られないLED発光のタイプで、おそらくはジュネス進出の余波でこの交差点が拡張されたかして、そのときに換えられたものと思しい。黒地に規則正しく放射状に並んだ赤い粒々は、ほの暗い電球式よりもずっと強く人工を匂わせている。
「なんか浮くな、あの信号」
「信号?」千枝は悠の視線を追って、答えを見付けられずに首を傾げた。「浮くって?」
「新しすぎてさ、そぐわないっていうか」
異物感があるのだ。それは鄙びた田園に忽然と現れた標識のようだった。飛び地した都会の切れ端を示す目印、たまたま河に落ちてあらぬ方へ流れていった種が、所を得て結んだ珍かな石榴の幾顆。
「ゲオ、できんだってさ、そういや」赤信号を見上げたまま、陽介がぽつんと言った。「あのジュネスの脇んとこ、いまいくつか造ってる店あるじゃん。あれのどれか」
無論、ジュネスの集客性能を見込んでの展開に違いない。こうして飛び地は拡大して、いつの日か石榴は珍しいものではなくなるのだろう。この地特産の柑橘かなにかをひっそりと枯らしながら。
「ゲオって?」千枝が首を傾げた。「店? 何屋?」
「ビデオレンタルとかゲームとか売ってる……え、お前ゲオ知らんの?」
「……知ってたら訊かないし」
「へー……あ、じゃあサトミタダシとかは?」
「知らないっつの。誰よそれ」千枝は不機嫌になった。「つか田舎者あつかいやめてくれます?」
「ヒットポイントカイフクスルナラ」ふいに陽介が歌い始めた。「キズグスリート、ホーギョクデ」
「ヒンシタイヘンナカマヲタスケル」三小節目からは悠も参加した。「チガエシノタマトハンゴンコー」
「なんか久々に聴いたな、コレ」
「なに、急に、なんで歌い出してんの……?」千枝は困惑している。
「そっか、この辺りないんだ、サトミタダシ」
「あんま探してねーけど、沖菜にもなかったな、確か。でもゲオはあった気が――」
「ねえって、今のなによ、ヘンな歌」
「店ん中でずっと流れてんの、こういうのが。意味わかんねーけど」
「店って?」
「サトミタダシ。ま、知らねーだろうとは思ってたんだ」陽介はニヤニヤしている。「ここいらじゃ訊くやつみんな知らねーって言うし」
「店なの? つか店の名前なの?」
「うん、ドラッグストア」
「……なに考えて名前つけてんの? それひとの名前でしょ?」
「言うと思った。みんなそう言うんだよな」
「社長の名前なんだっけ、確か」
「だったかな。ヘンだけど覚えやすいだろ。けっこう有名だし、東京じゃどこ行ってもあったし」
千枝は悠のほうをちらちら見ながら「東京のノリってちょっと変わってるよね」と重々しく宣った。彼女の中の東京像に著しい歪みが生じてしまったようだ。
歩行者信号が青に変わった。
「なあ、ところでお前ってさ」
歩き出してほどなく、陽介がいくぶん改まった声を出した。
「え、おれ?」
「あー、あのさ、なんか教室でちらっと聞いたりしたんだけどさ」
「うん」
「で、まあ、いい機会かなって、なんか思っちまって……」
「思っちまって?」
陽介はもじもじし始めた。
「ホントに、答えたくないならぜんぜん、別にいいんだけどさ」
「……朝も思ったけど、おまえって前置き長いよな」
「悪かったな、訊きづらいんだよ」
「単刀直入にどうぞ、気にしないから」
「じゃ訊くけど、お前って、マジでその、そっち系のシュミあんの?」
どうやら先の話の続きらしい。
「そっちって、どっち?」悠はとぼけて首を傾げた。
「そっちだよ、わかんだろ? えっとほら、あの、ホ……いや、男同士でアレだよ、こう、そういうふうにさ、思ったりするやつ」
陽介は指示語と代名詞を駆使しつつ、赤面しながら自己検閲に躍起になっていた。彼のあれこれ言葉選びに苦心して顔色を変えるのは見物である。
「つまり、訊きたいのって、男色のこと?」悠はせいぜい深刻そうに見える貌を造った。「おれが同性愛者かって訊きたいのか」
「こ、このさいはっきり訊いときたいん、だけど」
「……そう」
悠はすぐには応えず、デリケートな問題に踏み込まれて傷ついた少年を演じながら、黙って横断歩道を渡った。じき店舗の入口が見えてくる。彼の言葉を待って陽介――ついでに千枝も――の身を強ばらせるのが、背を向けていてもわかるようだ。
「あ、やっぱいいわ悠、忘れてくれ!」陽介はとうとう音をあげた。「言いたくないならさ、別にいいから……」
「里中も気になる?」悠はジュネスの入口の近くで立ち止まって、ようやく口を開いた。「そういうヤツが身近にいるかもって」
「ええっと……なん、というか、気になると言えばまあ、気になる、かなー、なんて……」
悠は振り返ってふたりを手招いた。陽介も千枝も不安いっぱいの面持ちで、それでもそろそろと近寄って来る。
「顔、寄せて。あんまり大きな声で言えないから」
きっとふたりにはわかるまい、それでも自分はこれから恥を打ち明けるのだから――ふたりは言われるまま、顔を伏せて恐るおそる顔を寄せて来た。耳元に爆弾を仕掛けられるとでも言わんばかりの態度である。
「おれってさ、なんかバカげた、冗談めいたことばかり言ってない? いつも」
この質問は少しく彼らを困惑させたようだった。ふたりとも眉根を寄せて、要領を得ない貌をしている。
「まあ、言ってる、かな」
「バカげたっていうか……まあ、冗談いってるね、しょっちゅう」
「あれって、なんていうか、処世術の一環なんだ。ひとって笑わせれば好感を持ってくれるだろ、だから口を開くときは、そんなことばかり考えてる。こないだ転校してきたときなんてまさにそうだ」
好感を与え、快いことをしてやれば、周りは好意を持ってくれる。好意を持てばひとは積極的になる一方、その対象を尊重して遠慮するようになる。この尊重と遠慮のラインに築く城壁こそが、なによりも堅固なのだ。孤独という楽土を守るためには社交性の砦が必要不可欠で、学校中にあまねく敷衍されたスクールカーストの桎梏から逃れるために、肝心なのは教室の中の「快い異物」となること――これが悠の処世術であった。
「それで、おれの言ってることって、ウソも多いんだ。要は相手を笑わせれば、ちょっと愉快なヤツだって思わせればいい話だしさ、実際あとのことなんて大して考えちゃいない。さっきの天城の手紙にしたってそうだ、言いっぱなしってやつ」
顧みるだにまこと下らない、愚かしい処世術であった。なんとなれば彼はついこのあいだまで、周りの少年少女たちを同じ人間だとは思っていなかったのだから。彼らによい餌をやり、住みよい小屋を建ててやり、首輪の鎖を長めにとって優しくしてやるのは、ひとえにやかましく吠えさせず、我が家へ立ち入らせないためだった。
「不誠実だと思う? こういうヤツ」
「え、いや、いいんじゃない? あたしだって冗談言うし、ウソ言うし、ぜんぜんフツーだって」
「誰だってそうじゃね? お前だけじゃねーよ、そういうの」
いともうるわしき尊重と遠慮! 彼らがもっぱら好意に幻惑されてこう言っているのを、悠はよくわかっていた。そう仕向けている己のやりようを間違っていると理解できた今でも、しかしもはや自身の一属性となってしまった、この軽口を止めることは彼には難しい。せめて今の悠にできるのは、このラインに基礎を打たないこと。煉瓦を積み上げて矢狭間を穿ち、その向こうから彼らを蔑視する――こういう行為を二度と試みないことである。
「そう言ってもらえるとありがたいけど……で、さっき陽介の言ってた、同性愛の件」
「お、おう」
「それもいま話した事情の弊害ってやつ。もちろんウソだ、そんなシュミはない」悠は笑ってふたりから顔を離した。「まさかそんなふうに誤解されるとは思ってなかったけど。でもまあ、これも身から出た錆だよな」
「だよな」一転、陽介は快活になった。「いや俺もマジになんかしてなかったけどさ、井坂とかがさァ」
「へー……花村さっきすごい脂汗かいてたじゃん」
「うっせ」
ささやかなわだかまりは解け、三人は朗らかにジュネスの入口を潜った。ちょうど悠たちと同じ構成の八校生がひと組、エレベーターを待って喋っているのが見える。テナントスペースのたぐいは二階からで、一階は広告や地域情報の掲示板を廻らしたエレベーターホールになっているのである。
「誤解、解いといたほうがいいぞ、一部にはされてっから」
「へえ。まあ追々ね」
「鳴上くん冗談で言ってんのかマジメに言ってんのか、ときどきわかんないからね」
「里中と話すときだけは全部マジメ」
「ほらまた出た」
「いや本当に。里中にさっきみたいな誤解をされてなくてよかったよ、同性愛だなんて」
「お、里中ねらわれてんぞ」
「うっさいから」
「狙ってるのは里中だけじゃない」
「天城もだろ」
「え? そっちは検討中って言ったろ、狙ってるのは陽子ちゃん」
「……は?」
ポンと音がして、エレベーターの扉が開いた。怪訝そうに立ち竦むふたりを後目に、悠は前の三人組について中へ入った。
「同性愛なんて誤解も甚だしい。おれ両性愛者だから」陽介と千枝と、ついでに背後の三人の視線を感じながら、悠は会心の笑みを漏らした。「男も女も大丈夫だからさ――乗らないの?」
陽介の言ったとおり、クマは誰も入っていないと繰り返すばかりだった。
「絶対に? ひとが入ればすぐわかる?」
「すぐにはわからんクマ」何度しつこく質問をされても、クマはいっこうに倦まない。「でもキミたちまた入って来るかもって、クマ今まで何度も匂いを嗅いでたクマ。気配もないし、シャドウだって静かクマよ」
クマは加えて、自分の鼻や感覚には自信があるが、それ以上に人間の存在を確信させるのはシャドウたちであると述べた。
「シャドウは人間がどこにいるかはわからないけど、人間が入ってきたことは必ず察知するみたいなんだクマ。クマの鼻がたまたま詰まってたって、シャドウたちが騒ぎ始めなきゃ、それは誰も入ってないってことクマ」
「……陽介」
「わかんねーな、こればっかりは」陽介は力なく諸手をあげた。「ま、つまり、誰もいないってことなんだろーな」
「じゃあ、どうして映る……」
「テレビが犯人の、その、殺気? みたいなのを映し出してるとか」
「今まで映ってきた有象無象も?」悠は腕を組んで、熊よろしくその辺りをウロウロ行き来した。「じゃあなぜその犯人限定になる。どうして殺気限定になる。その殺気を仲介する力って? 十二時限定なのは?」
「……わかんね」
テレビの中で起こったこと、というのなら――なぜテレビの中にこんな世界と法則とがあるのか、ということに目を瞑れば――まだわかる。しかし、その囲いの外からなにがしかの力、例えば犯人の殺気だの意志だのがテレビに働きかけるというなら、犯人以外の人間のそれが反応しないのはおかしい。犯人の特殊性という言葉で片付けようとするなら、彼はなにがしかの力で特定の属性を持つヴィジョンをテレビへ入力することができ、かつそうする意志がある場合か、テレビの側でそれだけを弁別して、なんらかの目的のために出力する意志がある場合に限られる。
いずれにせよ、最低でもどちらか片方が、もう片方へ働きかけようとする能動的な具体が必要なのだ。
(考えられるとすればふたつ。犯人が自分の狙う人間を故意に、予告のような形で決まった時間にテレビへ『発信』しているか、テレビの側の何者かが彼の特殊な力を、おそらくは犯行を阻止する目的で『傍受』しているか……)
犯人がターゲットの予告をしているというのはいささか小説的で、現実には非常に考えにくい。なにせデメリットしかないのだ。かといってテレビの世界の側について言えば、目下「能動的な具体」などというものは、
「……どしたクマ、なんかついてるクマ?」
「んん、なんでもないよ」
このとぼけた着ぐるみくらいである。
(もしくは、ひょっとしたらいちばん可能性が大きいかもしれないけど、今までと同じ、ただ映るだけのマヨナカテレビに戻ってしまったか。もし犯人のものに限らず無作為に『受信』するというのなら、あるいはこれが元々のマヨナカテレビ現象を説明するかもしれないし……)
授業中に考えていたとき何度もそうしたように、悠は結局この考えに戻って来てしまう。しかしここでエンジンを切ろうとすると決まって、かのイゴールの警告が耳を突くのである。なにかが起こっている。それは進行しつつあって、今この瞬間にも彼の開墾した小さな耕地にヒタヒタと忍び寄っている。――悠はふたたびアクセルを踏み、もう何度も通った路を左見右見しながらイライラと走り始める。
「そーいえば、あの女の子はこないクマ?」
ふと、クマが思い出したように言った。
「あー、里中かァ」
「来ないよ。残念だけど」
「はやくコレ渡したいクマ」クマの手には例の眼鏡が握られている。「あの子のなまえって、サトナカナニチャンクマ?」
「サトナカニクエっつーんだ、あいつ。肉枝」陽介はしれっとウソをついた。「肉が好きだから肉枝な」
「ニクエチャンクマね」
(里中が聞いたらなんて言うか……もっとも、その機会はまずないだろうけど)
悠はひっそりと失笑した。
今日が土曜日であることも手伝ってか、たまたま家電売場がひとで賑わっていたのは幸いであった。これを口実に、見咎められずに入るのは難しいからということで、本日の「テレビの中の世界旅行」は表向き中止ということになっている。
もっとも、千枝はなかなか諦めようとしなかった。早々と中止宣言するふたりをなんとか翻意させようと、「ちょっと待ってみよっか」とか「今なら行けるじゃんほら早く!」とか「一時間後にもう一回こようよ」などと、遊園地行きを断念しようとする親を口説いてかかるこどもの執念で食い下がって来る。悠も陽介もことさら愚鈍を装って、いかにも「べつに今日じゃなくたっていーし、どうしても入りたいってわけでもねーし」という態度を貫き、千三百円の金と一時間以上の時間をかけてなんとか彼女を追い返すことに成功したのだった。
「つぎ入るときはぜったい声かけてね。仲間はずれダメだかんね!」
これが千枝の捨て科白である。
「仲間外れか」と、陽介が独りごちた。同じことを考えていたようだ。「なにもしたくてしてるわけじゃねーけどな」
「里中をここに入れちゃいけない。理由はわかってるよな」
「わかってるよ――クマ、いろいろあってさ、里中は連れて来れねんだ。わりーけど」
「ニクエチャン、こないクマ?」
「ああ。つかニクエとか言ってる時点で来られても困るし」陽介は苦笑している。「里中には詳しく話さない。それでいいんだろ」
「教室でここの話をするのも禁止だぞ」
「わかってますって、あの学校のはついうっかりだって……で、悠」
「んん」
「ペルソナ」
「……やるか。もうクマに訊けそうなことはなさそうだし」
「今夜のマヨナカテレビでさ、またなにかわかるかもしれないし、そんときまた考えようぜ」
と言って、陽介は制服の胸ポケットからタロットカードを取り出した。
「陽介、それ、授業中も机の上に出してただろ」
「え、なんかまずかった? 俺ら以外みえねーし、別に問題ないだろ」
「隠しておいたほうがいい。この一連の事件の犯人にはたぶん、それが見える」
「あ、そうか、テレビの中に入れるんだもんな」
「犯人がおれたちと同じような、こういうタロットを持ってるかどうかはわからないけど、もし持ってるとしたら見られるのはまずい。こっちの素性がバレる」
「つったって、見た目タダのカードだし」
「タダのカードは発光したりしないだろ」悠は財布の中からタロットを取り出した。「ちなみにそれ、制服の胸ポケット越しでも光が漏れるんだ。もっと厚いものに包んで携帯したほうがいい」
「わかったよ、そうする」
陽介は悠たちから少し離れて、スタジオの中央辺りまで移動したあと、タロットを指に挟んでポーズを取った。なんとなくスポットライトを待っているような雰囲気がある。
「よし準備万端。で、どーやって出すの?」
「それなんだけど、なんというか、口で言って理解してもらえるかどうかいまいち……」
「あのさ、こう、ヒーローものっぽくしたらパッと出てくるとか、ねーかな。ペルソナーって」
悠はしばらく「なに言ってんだコイツ」とばかりに眉根を寄せていた。
「……おまえの言葉を借りるなら、ねーよ」
「うっわ、バッサリ切り捨てやがった」陽介は苦笑して、より複雑かつ外連味たっぷりのポーズを取った。「ゆうべ夜中の二時まで練習した変身ポーズなんだ、誰がなんと言おうと一度は試すぜ、俺は!」
「そもそも変身なんてしないんだぞ……」
「あーあー聞こえない。ま、いっぺんやらせてやってくれよ」陽介はあくまでウケを狙うつもりらしい。「いくぜ――ペルソナッ!」
叫びざま陽介は跳び上がって、身体を反らせて回転しつつ、手にしたタロットを天高く突き上げた。――朝方に話していたナントカ土下座に想を得たと思しい、こんな騒々しい「変身ポーズ」を夜中の二時まで練習していて、果たして家族から苦情は来なかったのだろうか。
「気は済んだ?」
陽介の返事はなかった。それどころか、着地した姿勢のまま身じろぎもしない。あるいはこちらの冷やかな反応を恥じたものか、笑い飛ばしたほうがよかったなと思い直す暇に、クマの喫驚する声が耳を打った。陽介の背中に覆い被さるような恰好で忽然と、身長四メートルほどの巨人が現れたのである。
「ヨ、ヨースケも出せるクマか!」
(まさか本当に出てくるとは……いったいどういう原理なんだ? あれって)
あんなやりかたでペルソナが出てくるならなんの苦労もない。ひとによって喚び方が違うのだろうか? いずれにせよ、陽介に少しでもわかりやすく説明しようとあれこれ考えていたのは壮大な徒労に終わったようだ。
「陽介! たぶん混乱してると思うけど、落ち着けよ!」
陽介はなおも声に反応せず、代わりに巨人――陽介のペルソナが勢いよく立ち上がって、自分の身体をしげしげと見回し始めた。
悠のペルソナとの類似点といえば、仮面を着けていることとその大きさくらいのもので、見てくれにはかなりの違いがある。末広の裾に迷彩柄を配した、白いライダースーツ様のツナギに、上半身から首までを深紅のマフラーが巻き付くといった出で立ちで、その両手に人間を輪切りにでもできそうな巨大な手裏剣を握っている。胸を半ばほども覆い隠すV字の飾りがひときわ目を引いた。
ミッキーマウスの耳のような張り出しのある、奇妙な黒い仮面が、ついと悠のほうを向く。
(なんというか、ずいぶん派手なんだな、陽介のヤツは)
胸の巨大なV字は燦然たる金色である。ほとんど黒と鋼色で構成された悠のそれとは対照的だ。
「陽介あんまり動くな! 自分の身体を蹴飛ばすぞ! おい!」
先と同じに陽介の反応はない。なにかおかしいと思う間にも、しゃがんだままの彼の身体が横倒しになって、力なく床に頽れてしまった。
(意識がないのか? おかしい、おれのときと全然ちがう!)
「センセイ、ヨースケ寝てるクマ!」クマが及び腰で悠の許へ駆けてくる。「聞こえてないクマよ!」
ひとしきり自分の身体を改めたり手足を振り回したりしていた巨人が、ふいに悠の目の前までのしのしやって来た。初めてシャドウと対峙したときに痛感したような、「操縦」の困難さを微塵も感じさせない、滑らかな動きである。
「陽介?」
彼はなにか悠に訴えるように、賑やかにがちゃがちゃ動き始めた。ガッツポーズを取ったり、目にも留まらない素早さでシャドウボクシングを始めたり、その場で十メートルほどもジャンプしてみせたり、両手に持った巨大な手裏剣をびゅんびゅん投げて見せたりと、とにかく落ち着きがない。
「陽介あぶない! 動くな! クマ離れて!」悠は慌てて後退りながら怒鳴った。「陽介っ! くそ、聞こえないのか!」
「センセイ、ペルソナ喚ぶクマ! このままだと踏み潰されるクマー!」
(一発くらわしてやろうか!)
悠は中っ腹になってペルソナを喚んだ。――途端、耳では聞くことのできなかった「声」が、彼のもうひとつの感覚を通してあたまに響き渡る。悠は殴りつけようとして振り上げていた矛を下ろした。その「声」はしきりと悠の名を呼んでいたのだ。
(これ、陽介のペルソナの声なのか? ペルソナでしか聞けないのか?)
『悠! 悠! んだよ聞こえねーのかよ!』
「陽介、聞こえてる!」
『おいって! クマ、お前はどうだ! クマ!』
(ダメだ、おれが喋るんじゃない、ペルソナだ。ペルソナで話さなければ)
駄々っ子みたいに暴れる巨人から逃げ回りながら、悠は未知の感覚の中からなんとかこうとか、手探りで「こうではないか」くらいのやり方を読んで取った。さしずめ自分の口を動かさずに、鏡写しの自分の口だけを動かすとでも言うような、非常にもどかしい作業である。
『陽介うごくな! 止まれ!』
陽介のペルソナがぴたりと制止した。
『なんだよ聞こえてんじゃ――』
『黙れぶん殴るぞ!』さすがに忍耐も限界である。『おれたちを殺す気かっ! とにかく落ち着け、動くな、そこに座れ!』
いかにもしぶしぶといった様子で、目の前の巨人がその場で正座した。
『なあこれスゲーじゃんか!』巨人は座ったままひっきりなしにうごうごしている。『なんかもう、なんつっていーのか、とにかくスゲーよ! じっとしてられねー!』
『じっとしてくれ! おまえのつま先がちょっと引っかかるだけでも命に関わるんだぞ!』
『あ、わりー……へへ、でもさ、なんだよお前こんなことできたのかよ!』
陽介は異様な興奮状態にあるようだった。
『陽介、とにかく、まずペルソナを引っ込めるんだ』
『ええ? もちっといいだろ、それに引っ込めろったってやり方わかんねーし』
『生身の身体は動かせないのか?』
『生身って』巨人が身体を捻って、横たわる陽介の肉体を振り返る。『あー……あれ?』
『どうなんだ』
『動かすったって、いや、できそうにないけど』
「センセイ、どーしたクマ……?」
クマは不安げにしている。ペルソナ同士の会話の聞こえない彼には、この悠と巨人の無言の見つめ合いはさぞや不気味に映ることだろう。
「いま陽介と会話してる」
「ひょっとして、テレパシークマ?」
「まあ、そんなところ」なかなか当を得た表現である。「ちょっと静かにしてて、説教してるから」
『とりあえず陽介、なんとかしてペルソナを収める方法を探せ』
『つったってなァ、どうすりゃいーんだかね。それよりもっとイロイロ試してみてーんだけど』
まるで他人事である。
『……その恰好のまま向こうに戻るつもりなら、急に背が伸びた理由くらい説明できるようにしておけよ』
悠はつめたく言って、陽介の身体に駆け寄った。クマもペルソナを避けるような形でくっついて来た。
(よかった、息はしてる)
先にクマの言ったとおり、陽介は眠っているように見えた。おそらく彼を起こせばペルソナは消えるか、少なくとも悠のペルソナと同じような状態になるのだろう。――してみると、ペルソナは本体の意識がなくても自立しうる、ということになるのだろうか。
「わからないことだらけだ」
「なにクマ?」
「ううん、独り言。――おい陽介」彼の身体を乱暴に揺する。「陽介、起きろ!」
反応はない。
「……ひっぱたいてみるクマ?」
二、三度、平手で頬を打ってみる。かなり強めにやったつもりだったが反応はない。脇の下を抓っても耳元で大声を上げても同様で、刺激という刺激になんの反応も示さない。陽介はいたって安らかに見える。
(これ、ただ眠ってるんじゃない。なにか変だ)
ふつう覚醒しないまでも、不快気に唸るなり身体を捻るなりしてもよさそうなものだが、彼は微動だにしないのである。睡眠というより昏睡状態、それもそうとう深いものに陥っているらしい。
「ヨースケ鈍いクマねー」
『陽介』
『なんだ? それよりおい見てくれよ、俺いま浮いてるし!』
自分の身体に起きている異変などどこ吹く風で、陽介のペルソナは楽しげにその辺りを浮遊している。
(コイツ、誰の身体のことだと……)
『……陽介、このままだとおまえ死ぬぞ』
巨人が轟音とともに墜落した。
『はあっ? なんで!』
『呼びかけても叩いても起きない。呼吸がどんどん弱くなってる、脈も』悠はわざとらしく陽介の手首を取って、力なく頭を振って見せた。『たぶんペルソナのほうにタマシイが移ったんだ、この身体は死につつある』
『バッ、バカ言ってんなってこの薄情者! なんとかして起こしてくれよ!』
巨人は両手であたまを抱えながら猛然と腿上げを始めた。
『死にたくないなら考えるんだ。おれにはどうしてみようもない、おまえの問題なんだ』
『お前はどうやってたんだよ! 戻るの!』
『おれの喚んだときはこの身体とペルソナが両立してた、見てただろ? こういうのは初めてだ、可哀想だけど、わからない』
巨人はがっくりと膝をついて「うう、マジかよ……」と我が身の遠からぬ夭逝を嘆き始めた。人間がそうするのならともかく、奇抜ないでたちのペルソナが妙に人間くさい仕草でそういうことをすると、絶望もなんとはなしコミカルなものに見えてくる。
(ちょっと薬が効きすぎたかな)
そろそろ本当のことを話そうかと口を開きかけた途端、にわかに巨人の姿が薄れて、悠の目の前で煙のように消えてしまった。
「あらー、消えちゃったクマよ」
「……あらー、だな、ホント」
陽介が土壇場でペルソナの消し方を編み出したのだろうか――じき横たわる彼の口から呻きが漏れて、寝返りを打つようにして横向きになった。「タマシイ」とやらが身体に戻ったのだろう。
「おはよう陽介」
彼はすぐに返事をせず、ひどく夜更かしした翌朝に叩き起こされたような様子で、しばらくウンウン唸ったり蠢いたりしていた。意識を失っていたのはほんの十分程度のはずだったのに、時間に比してその寝覚めはかなり悪い。やはりただの睡眠ではないのだ。
「ヨースケ、だいじょうぶクマ?」
「うお……あれ、戻れた?」陽介は大儀そうによたよたと立ち上がった。「あーあたま痺れる……んだよコレ……」
「ちょっと待ったほうがいい?」
「んん、ちっと待って……いや、待たんでもいいわ、よくなってきた」
「だいじょうぶクマ?」
「大丈夫、だと思う。あーのど渇いた」
「それで? 陽介」
「へ、なにが」陽介はきょとんとしている。「あー、おはよう?」
「挨拶じゃない。どうやってペルソナを消した」
「どうやってって、わかんねーよ、とにかく必死で……でも」陽介の表情がふいに明るむ。「あれ、なんつーか、凄かったな。お前あんなことできたんだな」
「おれの知ってるやりかたとかなり違うみたいだけど。とにかく、わからないならもう一度やってみよう、喚ぶ方法と戻す方法をちゃんと確立しておかないと。やれるだろ?」
「おま――いま死にかけたんですけど俺! もうできねーだろあんな危ねーこと!」
「死にはしないだろ、少なくともあの状態で何日も経たない限りは」
「え……だってお前なんか呼吸が止まるとか脈がどうとか」
「ああ、あれ? ウソウソ」
と、笑って否む悠に、陽介が猛然と躍りかかった。
「ちょっオメー冗談で済むと思って――!」
「ちょっと待て待てって! そもそもおまえが――!」
「俺がどんだけテンパったかこの――!」
「いったい誰のおかげで戻れたと思って――!」
「マジで本気で死ぬかと思ったんだぞテメ――!」
「おれが言わなきゃ遊んでたんだろうがこの――!」
「キミたち、ケンカはよくないクマよ……あのうふたりとも、ケンカは」
クマの控えめな仲裁もむなしく、ふたりは掴み合いのケンカを始めた。
「オメーを殺してここに埋めてやる! 完全犯罪だ!」
「それが彼の最期の言葉でしたって墓に彫ってやる!」
そして掴み合いが殴り合いになるのに、大した時間はかからなかった。