上空十数メートル付近飛行中、村から船が止めてある方と反対側のでっかい山の中腹に避難する村人たちとそこへ向かう村長&エリーたん発見……。
あれ? 確か俺このミニ診療所もどきに入ってからそう話し込んでない(殆どが無言状態)けど既に町がゴーストタウン状態なんですが?
結構小さい村だけど皆が皆避難する速度が半端じゃないな、あれか逃げ足は雑魚敵とモブキャラの特権ってか。
というか村長もう山の入り口にまで差し掛かってるし、エリーちゃん抱えて俺が診療所出る十秒程度でこの百メートル走りきったのか……。
お年寄りをあなどっていたかも知れんな、あとそういや診療所の中でも避難する音とか聞こえなかったけど防音設備が整ってるのか?
それとも実はこの村の人は全員ジャパニーズNINJAだとか? 得体も知れない忍術でドロンってか?
冗談かましてる場合じゃないや……あ、あの一人村中央の広場でアホ面かましてるのはうちの第一船員ニック君じゃないかって人質いないし。
どさくさで逃げられたなあのアホ、これは船に帰ったらちょっとHANASHIAIが必要だな……刃九郎は、まぁ俺ニックについてろとしか言ってないから命令違反でもないしセーフで。
んでもって? この島を囲う形でいちにー……八隻の海軍船、と? あの馬海軍共はこんなグランドライン入り口で戦争でも起こす気か?
それ以外に海賊船含む船が全く見えないから奴らってのは十中八九海軍で間違いないな、近海の海賊のほうがよっぽど楽だったのに。
八隻って準バスターコールだよな、まさかここをオハラみたいに地図から消そうってわけじゃあないだろうな? ……だったら十隻でバスターコールしてくるか。
今の所情報がなさ過ぎてなんとも言えんな、やれやれ行く先々の島で異変が起きて退屈しないわ、まぁ暇で眠くなるよりはいいのかな。
さて、俺にはいくつか選択肢がある訳だが……まぁとりあえずはそこのニックを拾ってから考えるとしようかな。
飛行を解いてニックの真後ろまで急降下、チッついでに背後からOSHIOKIしようと思ったのに風の音の所為で気づかれたか。
「せ、船長! よかったてっきり見捨てられるかと思ったよ!」
「見捨てませんよ、今この場に人質がいないことに対する罰をまだ与えてないですし」
「ヒイッ!? ち、ちがうんです船長これはあのほらバタバタしてるなーって思ってたらいつの間にか」
「それ言い訳にもなってないですしなにより見苦しいです、男なら一本や二本失うことを覚悟しなさい」
「一本二本って何の単位!? 髪の毛とかだよね腕とか骨じゃないよね!? この年で体が足りてませんとか洒落にならないですよ!!?」
「無能に脳は必要アリマセンよね?」
「まさかの頭蓋骨から脳にかけてのコース!? でも頭蓋骨とか脳って本って数えないからまさかの脳神経!!?」
やっぱこういう時ニック面白いわ、もうニックの役割ウソップみたいなムードメーカーってのも有りかもしれないね、ちょっと考えとこう。
てか漫才やってる場合じゃないよねそういや、んーまぁこのまま村見捨てて逃げちゃってもいいけど海上で海軍船に囲まれる可能性があるからちと厳しいか。
風を操るっても船の減加速ができる位だし、相手の船を転覆させる事もできない事はなさそうだけどそんな風起こしたら自分の船にまで被害受けそうだし。
うーん……やっぱその辺の細かい風の加減は修行しないといけないな、できるようになったらもう海上戦闘はさいきょーなんだけどね。
という事は陸上で全滅させてやったほうが安心できるかな、まぁ本当にあれがバスターコールで島にバカスカ砲弾打ち込まれるようならそん時は考えよう。
殆ど運任せだな……神様にでも祈っとこうかな、うん祈る神様思いつく限りで軍神と祟り神と魔界神しかいないわ。
とにかく村人追っかけて事情を吐かせた上でノリと気分で行動決定、しかし我ながら平常運転すぎて困るね。
「さて、行きますか」
「ヒィッ!! ごめんなさいゴメンナサイまだこの歳で彼女もできないまま死にたくないです!!」
「あーもーうるさい、貴方への罰は船の上で与えますから」
「う……そ、そうだ船! 船長オーバークルーズ号どうしよう!?」
「……まぁ海軍があの海賊旗見て海賊船じゃないと判断してくれれば」
「な、なるほど、確かにあのマヌケな旗なんてジョリーロジャーに見えない……! 船長まさかそこまで計算して……」
いやいやそんな尊敬に満ちたキラキラ目を男から向けられても困るんだけど、しかも計算したわけじゃないし……ってあと今きめぇ丸を馬鹿にしたな?
まぁニックへのペナルティに追加しておくとして、勘違い……してくれるといいなぁ、まぁ希望は持っておこうレベルで。
いやでも……保険はかけておくに越した事はないよな、とりあえず刃苦労を船に置いておくか。
「刃九郎、貴方は船番を……海軍が船を沈めようとしてきたら片っ端から海の藻屑にしちゃって結構」
『了解しました』
相変わらず命令をするや否や直ぐに船に飛んでいく刃九郎、どっかの紐にもこのくらいの有能さが欲しいね。
ざっと見て大体海軍船が島に到着するまで五分村まで来るのに三十分、いやあの山道でも走れば十分は短縮できるかな、能力者だったらもっと早く来れそうだし。
更にあの山の中腹の避難場所を見つけ出すのにあの人数でもかなりの時間掛かりそうだな、島を形成するくらいでかい山だし。
時間はそう長くはないけど超切羽詰ってますって訳でもないって感じかな、んじゃさっさとあそこまで飛んでいきますかっと。
……そうだ、ついでにニックへのお仕置きも兼ねてみようかなフフフ。
「よいこらしょっと」
「……あれ? 船長なんで俺の後ろ首持ってるんです? えちょっと待って首がぐえっばばば!!?」
よーいどんで軽くスピードをつけて山の周りを三週、もちろんニックは後ろ手で宙ぶらりんにぶら下げたまま。
二週目後半から悲鳴も聞こえなくなったけど死んではいないでしょ多分、まぁ刃九郎との修行見てる限り頑丈さには定評があったし。
んでもって避難場所に到着、比較的木がなくて開けた平らな場所にざっくらばんに掘られた隠し穴……隠し穴? いやもうちょっと隠そうとしようよ。
どんだけ山広くても二メートル×二メートルの土がひっくり返ってたら明らかに不自然だろ常識に考えて、土かぶしたらいいってもんじゃないよ?
ちょっと周りの草集めて敷いとこう……うーん微妙だけどさっきと比べたら百万倍こっちの方がましだわ。
んじゃお邪魔しますっと……あ、穴の蓋(木製)どけたら上にカモフラージュしてあった草がばさって落ちた……。
もう気にしないことにした、うわ中薄暗恐っ! いやもうちょっと明かりの事考えようよっていうかこの島の人本当に評価していいかどうか悩むな。
妖怪の目が利いてなけりゃ完全に真っ暗だな……ていうかあややって鳥目じゃないんだな、カラスって夜目利くのか?
まぁ利くんならなんでもいいか、天然の穴にしては壁の整い方が綺麗過ぎるから人工的に掘ったのかなこの穴、それとも元々あったのを綺麗にしたのか?
うーんやっぱり一人で推測するにはこの村の人達の事は謎に包まれすぎだな、お……薄ボンヤリと光が見えてきたぞ。
うわ……この広さはもう穴っていうか空洞だな、村一つの人間全員入ってその倍くらい釣りがある。
真ん中の明かりは……なんだあれ、石? なんか石っぽい様な水晶っぽい様なモンが水色っぽい感じに光ってる。
その光石(仮名)の隣にいるのは村長さんと妄想少女エリーちゃんか、おっとこっちに気付いたな。
「……きたか」
「ええまぁ、いやーそこらにあるただの村かと思えばまさか海軍に追われるお仲間だったとはねぇ」
「貴様ら海賊と一括りにするな、我々は犯罪者なんぞではない」
「さいですか、よいこらしょっと」
とりあえず村人達のいるスペースとは別の不自然に開かれた入り口付近のスペースのでっかい岩の上にニックを下ろす。
寝言でなんか助けを求めてる気がするけど気のせいだろうん、まぁうるさかったんで腹に一発拳いれて黙らせた。
死ぬ? まぁ大丈夫なんじゃない? ギャグ補正掛かってたら火でも爆発でも妖怪の拳でも死にゃしないよ。
んでもって俺はそのでっかい岩の隣にあった変な形(例えるなら海岸にあるあの、波止める宇宙人みたいな名前の奴に似てる)に腰掛ける。
「さて、これで場所と時間は整いました……話してもらいますよいろいろと」
「……本来なら部外者である貴様に話す必要はないが」
「こんだけ面倒事に巻き込まされて今更部外者なんて水臭いですねぇ、犯罪者じゃなくても今私達は同じ穴の中にいるのですから」
「ふん……あまり、聞いても貴様が楽しい内容でもないと思うがな」
最後の最後まで面倒くさい引き伸ばしをする村長だったが、観念したのか一呼吸置いて昔話を始めた。
鴉は海に夢を馳せる
第二十六話 『気に入らない』
SIDE ??? ~昔話~
これは昔の話、グランドラインの半ばのとある島のとある村で男の冒険家と女の医者の間に女の子が生まれた。
男と女の経緯については省かせてもらおう、それを語ると人の人生を纏める事になるのでとても長くなってしまうから。
少女は何の変哲もなく生まれ祝福され育ったが、少女が齢六つ程になった頃ある異常が起きた。
といっても周りからすれば何も異常がないように見えただろう、異常が起きたのは少女にだけなのだ。
言葉を覚えた少女の頭の中に、何者かが語りかけてくるのだ。
もう一度言っておこう、少女は何の変哲もなく日々を過ごしてきたし、その日が何かしらの特別な日だった訳でもない。
少女は唯の人の子であるし、この世界の特別――悪魔の実を食べた能力者――だった訳でもない。
唐突に少女に響く謎の声は少女に様々な知識を与え、人の身では生涯で知ることのない様な事まで教え込んだ。
少女は天才とされ、母親の医学を学んでは齢九つで母を超え父の冒険知識を学んでは十になる頃にはまるで自ら秘境に行き幾年も冒険した様に知識を曝け出した。
村人が挙って流行り病に倒れた時、村を救ったのは少女の母親ではなく少女であった。
村が嵐に揉まれて飢餓に苦しんだ時、村を助けたのは少女の父親ではなく少女であった。
その時には既に少女は天才ではなく、神童とまでされていた。
その噂を聞きつけ他の島から数え切れない程の人が少女の知識に感嘆の息を漏らし、数々の天才が心をへし折られた。
そして……ついに少女は、世界政府の役人にその知識を曝け出した、いや曝け出してしまった。
これ程までの才知、おそらく海賊に悪用されようものならば海軍は未曾有の被害を食らうことだろう。
そう考えた海軍は、少女の身柄を海軍に預けるように村に言った、いや言ったというのは正しくないかもしれない。
世界政府の言葉は海賊の蔓延るこの時代には絶対的な強制力があったから。
しかしもう少女の存在は村に無くてはならない物になっていた、少女の父母は既にこの世にいなかったから。
いや、そんな事は関係なかったのだろう、医者も冒険家も世界政府に掛かれば少女の両親よりも優れた者を用意できる。
少女は、少女の知識は神と同様にされ、村では一種の宗教と化していたのだ。
村人は世界政府に黙って島を、村を捨てて逃げ出した、当然それはこの時代では世界に対する反逆行為に値する。
だがそこに……少女を守ろうとする意識はなかった、村人は打算的な欲で少女の知識を守ろうとした。
そして、その打算的な欲は今村人達を殺そうとしている。
少女の声は村人達を助けようとはせず、黙っているだけだ。
これが真実、とある不幸な少女のありのままを語った真実だ。
村長は……果たしてこの真実の何割を語り、何割を隠したのやら。
人間なんて、真実を見れば結局はそんなものなんだろう。
SIDE OUT
SIDE アヤ ~避難用地下空洞~
「これが真実だ……この村のな」
「……ふ、くく、あっははは!」
「何だ? 何が可笑しい!」
「可笑しい? おかしいのはあんた等でしょう? 『我々は犯罪者なぞではない』でしたっけ? あはははは!
犯罪者じゃない? 犯罪者なんかよりもっと低俗で馬鹿みたいじゃないですか! 唯の自業自得に一人の人生巻き込んで!
ええ? 自分勝手で醜くて! いやそれだったら海賊も一緒のようなものですかね?」
指をさして笑う俺に村人は誰一人として言い返してこない、逆切れする奴も、涙を浮かべる奴もいない。
そうだよなぁ、逆切れしたって泣いたって言い返したって今この現実が変わるわけでもないもんな、自分達が許されるわけでもないもんな?
謝罪も反省も後悔もこんな風になったら全く意味がない、誰も許してくれないし現状もどうにだってならない。
自分達の私利私欲で勝手に滅びてくれるのは結構、心底どうでもいいしそんな様子、見たら見たで俺の食う飯が旨くなるだけだし。
助けてやろうだなんて微塵にも思わないけど……一つだけ、一つだけ気に入らないな。
未だに石の上でうめき声を上げているニックの脇腹を靴の底の地面につける部分で蹴り上げた。
「げはっ!?」とかいう悲鳴と共に起き上がるニックにとりあえず人差し指で額をはじいて目を覚まさせ、そのまま胸倉つかんで顔を引き寄せる。
「ニック、この村人達を見張ってろ……誰も逃がすな、さっきの様に」
「え? あ……せ、船長?」
「返事は」
「は、はい」
いい返事だ、さて……じゃあ気に入らない部分だけ、いつもみたいに、自分の好き勝手に俺が無理矢理変えてやるとしますか。
入り口の木の板を蹴り上げて外すと、暗闇に慣れた目が痛くなる光とそれを塗りつぶす位の数百人の人影が飛び込んできた。
もう既に囲まれてたって訳か、それでもまぁ銃弾とか爆弾で穴を吹き飛ばそうとされなかっただけ幾分かましか?
穴から這い出てくる俺に数十の銃口と数百の視線が向けられる、まぁ銃も視線も、今の俺には大して恐がるようなもんでもないけど。
所狭しと周りをぐるっと囲む海軍の中から格別にでかい、正義のコートを肩から背負った大男が俺の前に歩み出てきた。
三メートルくらいの体の上の顔にはふざけている様な笑顔が張り付いていて、見てるだけで吐き気がしてくる。
「海軍本部准将のコープだ、えーと? 君は……旋風のアヤで間違いないかな?」
「ええ、間違いありませんよ」
「あのスモーカー君を赤子扱いしたという話は聞いているよ? 何故そんな力があるなら正義のために使えないのかな?」
「女の子を大勢の人間で追い掛け回すことが正義なら、私は悪人で十分です」
「君は分かっていないね? あの子が一体どれだけ恐ろしい存在であるか? あの子が海賊に悪用されれば世界がどれだけ歪んでしまうか?」
「へぇ、『悪用』ですか……女の子を、人の人生をモノ扱いするような輩にそんな事諭されたくないです」
「海賊に利用されれば物扱いなんて易しい「もういいっつってんだよクソが」」
思いっきり天狗のスピードを最大限利用してその巨体の懐に飛び込んで、脇腹から肺に向けて膝を打つ。
人間じゃ絶対に反応できない一撃を、持てるだけの妖怪の力による絶対的な暴力を、この目の前のクソ野郎に向けてぶつけた。
悲鳴を上げる暇も無くその巨体が周りの海軍と木を巻き込んで、数十メートル先まで飛んでいくのを俺はまるで他人事みたいに見てた。
我ながら馬鹿みたいな力だ、頭数も道具も策もこの力の前では何の役にも立たないって位の。
いいね、折角持ってる力なんだから……この力で俺は気に入らない事を無理矢理捻じ曲げて俺が気に入る方向にしてやる。
そう思うとなんだか凄い爽やかな落ち着いた気分だ、眠気も迷いも強風にぶっ飛ばされたみたいだ!
「さて、私が此処に立った以上此処は人間絶対禁制の御山の領域……此処に立入らんとする欲深き人間共は、
旋風に吹かれて山を転げ落ちるがいいわ!」
たとえ百人千人一万人に囲まれてたって関係ないね! こうやって向き合ってしまえば後は小細工無しで思いっきり風を吹かせてしまえばいいだけだ。
今の俺は天狗だ、妖怪だ、人間に遠慮なんてする必要もないしな、ましてやこんなカス共に。
いきなりトップを失ってうろたえる阿呆共に向けて団扇を思いっきり仰ぐと、山の土が捲れ返ってその上に立っていた海軍が纏めて宙へ放り出される。
反対方向ではその煽りを受けてそこら中の木が根元から千切れ飛んで、海軍の人の群れの中に次々に突っ込んでいく。
人間が紙吹雪みたいに舞う、その中心にいる俺にはかすり傷一つどころか埃一つだって付く事はない。
銃弾だって風の壁にはじき返される、サーベルは持っている奴が吹き飛ばされる、能力者も例外なく宙に浮いては地面に叩き落される。
楽しい、愉しい! 力を手に入れたら犯罪を犯したくなると聞いていたけどまさかここまで面白いなんてな!
なんて言ったらいいんだろう! ゲームでチートを使って遊んでいるような、なんでも世界が思いどおりになりそうな充実感!
これだけ力があったらやりたい事がやりたいだけできる! これほど楽しい事が果たしてあるのか? いや、無いね!
竜巻を起こせば人が飛ぶ、突風を起こせば森が剥がれる、なんだろ……興奮するね!
数百人いた海軍が半分以上吹き飛ばされ、残った奴らが尻尾巻いて逃げ出す所がまた面白い。
ゾクゾクする、なるほど……これが海賊か、これが自由か! 時代が来るのも分かるね。
はは、はは……って、もう誰もいないじゃん、もっとこの優越感に浸らせてくれたっていいのに。
しかしまぁ自分でやっておいてなんだけど酷い状況だな、山一面が荒野になっちゃってるし。
倒れてた奴も飛ばされた奴も回収されちゃって、ここに残るは俺一人、と。
すごい疲れた、あーテンション上がると楽しいけど下がった時の、この虚無感と孤独感……はぁ。
しかしまぁ、とりあえず一個だけ決めた、海軍は敵だ。
そういやオハラでも集団リンチみたいに多で少を虐めるような真似してたしな……全員がそうとは言わんが。
とにかく海軍は敵だ、決めたからにはもう海軍相手に容赦もしてやらん。
何より俺が気に入らないからな。
さて、もう帰ろう、帰りたい。
すでに(俺が蓋を蹴飛ばしたから)開いている穴に飛び込むと、村人とニックから信じられない様な物を見る目で見られた。
まぁ一人で海軍八隻分の人数と張り合って無傷で帰ってきたらそりゃあそうなるか。
でも幻想郷じゃよくある事です、うん、ゆかりんだったら一瞬であの人数位空気にできるし。
さて……あとニックは何故俺を見て怯えてるんでせう? そんなに俺が恐いか? まぁ力的に恐いだろうけどさ。
「ニック、帰りますよ」
「は、はい分かりました」
「……うわ従順なニックって気持ち悪」
「サラッと酷い!? あれ……いつもの船長?」
「貴方にとって船長とは何人もいる者なのですか?」
「いや違うけど……」
……あーそういやさっきなんか虫の居所悪くてニックに語感強くして命令しちゃったかも、それが原因か。
まぁ今は大分すっきりしてるしもう大丈夫だと思う……多分ね、んであとこの村から食料もらうんだっけ。
いやもういらない、この村から一刻も早く去って家に帰りたい、じゃなくて船に帰りたい。
まぁ何も貰わずに帰るってのもあれなんで。
顔を下向けてるどうでもいい村長をおいて、その隣にいるエリーちゃんを肩に担ぐ。
「え……?」とかいう声がエリーちゃんからしたけどまぁ気にしない、村人も村長もその行為に対して何も言わないし。
まぁなんか言ったって力尽くで黙らせるけど、あ首筋に入ってくるロングヘアーがくすぐったい。
さて、こんな辛気臭い穴とっとと抜け出しちゃいますか、この村の今後? 知ったこっちゃねぇ。
外道と呼ばれようと気に入らない村の今後まで面倒見てやる気も無いな、ていうかそれは聖人君子のやる事だ。
「ニック、早く」
「え、あ、はいはい」
「ぁ……あの……」
「話は後で聞くからねー」
勇気を振り絞って話しかけてくるエリーちゃん、だがアヤ意外にもこれをスルー。
とにかくこんな天使をこんな腐れ村に置いておけるか、俺は船につれて帰るぞ。
もたもたしてるニックの後ろ首を再び掴むと、俺は穴が見えなくなる様即効で飛んでいった。
エリーちゃんが恐くない程度に早く、だけど。