「ああ、妖精っていたんだな……」 たまにリビングからリモコンが消えることがあった……そうして、キッチンで発見する事が何度か……そうか、それは全て妖精の仕業なんだな…… …… …………「はい?どうなんでしょうかねぇ?」 小さな妖精が、小さく首を傾げながら答えてくれる。ああ、やはり妖精はいるんだ。最近は年増にしか絡むことが無かったけど……「ああ、生きていてよかったと私は思う」<私もです。中々遭遇しなかったので喜びもひとしおです> 一人とデバイスがまるで感動したように語り合う。涙を流しながら静かに笑みを浮かべる「え~と、うん。とりあえず、状況説明しよっか……」「「「「……はい」」」」 何かかわいそうな物でも見るような自愛に満ちた視線を送られる。さて、彼が上機嫌で自室で一杯(ジュースであるが)やろうかと思った所でアラートが鳴り響き、同じく新人達のデバイスの説明をしていたなのは達と共にヘリに乗り込み現場へと急行している最中である。 ヘリの中で現状を説明するなのは、現在山岳リニアレールで輸送中のロストロギア『レリック』が発見されたらしい、しかも列車は暴走状態で山岳を駆け巡っている。しかもその周辺には新型のガジェットも確認されており、現在は部隊長補佐であるグリフィス・ロウランの指揮の下列車の管制を取り戻そうと試みている状態。その報告を受けたはやてが、スターズとライトニングを現場へ派遣するよう指示、自身も聖王教会から現在帰ってくる途中である。フェイトも市街地から飛行許可をとって直接向かう事になっている。「ふむ、空と列車内のガジェットを破壊、重要貨物室にあるレリックの回収というのが今回の任務という事だな」 なのはの説明を噛み砕いて確認する。その言葉に静かに頷き返すなのは。しかし、周りを見回すと初任務ということもあり新人たち、特にエリオとキャロは緊張しているようで、かなり表情が堅い「うん。空は私とフェイトちゃんでなんとかするから、フォワードの子達のフォロー頼めるかな?」 真面目な雰囲気、仕事モードに入っているなのはに対して「了解、スターズ分隊、ライトニング分隊共に守ろう」<Yes Sir> 空気を読んで真面目に敬礼しながら返事を返す千早(ほんともったいないなぁ……いつもこうだといいのに……) あの特殊な癖さえなければと、苦笑しながら彼を見つめるなのは「本来、12歳以上には興味は無いが、今は機嫌がいい。俺の中の年齢制限を18歳以下にしておこう。フフフ……L18といったところか、滅多にお目にかかれないぞ」 前言撤回、やっぱりロリコンだ……「さてっと」 彼女の中で自分の評価が急激下した事など気にする様子も無く、新人達へ近づく千早。そういえばフェイトちゃんに、絶対キャロとエリオに近づけないようにと約束してたなと思い出しながら、何かあったらとりあえず殴ろうと構えつつ見守るなのは「ん~ティアナとスバルは問題ないか……ふむ」 ぼそぼそと呟きながら、彼女らに近づく彼を見守る。もちろんいつでもデバイスは展開できるように、念のために視線でヴァイス陸曹にいつでもハッチを開けるれるよう指示してあるのでいつでも排除は可能だ。「……」 彼の視線の先にはキャロがいた。彼女は力無く顔を俯かせ、隣にいるエリオの声も届いていないようである。膝の上に座っているフリードも心配そうに彼女を覗き込んでいる。元々気弱な性格の彼女は初めての任務ということもあり、考えが悪い方向へと作用しているようだ。 そうして、彼は徐に片膝を着くと震えている彼女の頭に手を優しく置いた。後ろでなのはが、やさしくレイジングハートにいつでも展開できるように語りかけた。 キャロは突然訪れた重みに顔をあげる。そこには自分と同じ視線を合せ静かに笑みを浮かべる顔があった。「キャロ君、実は私はロリコンだそうだ」「……はい?」 この人は何を言っているのだろうか。後ろではいつでも排除できるように静かに立つなのは「ふむ、君が不安になるのはわかる。初任務がロストロギア関連だしな」「はい……」 優しい、それは優しい声で語りかける千早。ヴァイスはいつでもハッチを開けれるように構えつつ操縦桿を握っていた「だが怖がる必要はない、不安になる必要もない。君は自分のできることをするだけだ。安心したまえ君の傍にはロリコンがいる」 うん、それ安心できない。寧ろ不安しか残らないんだけど?そろそろかと、視線をヴァイス陸曹へと送るなのは「いいかい?真のロリコンとは幼女と少女を絶対泣かせたりしない。私はそんじょそこらのロリコンではない一流の変態だと自負している」 とりあえず、言っている意味はまったく理解できないが、彼が一流の変態だってことは理解できた。さてこのまま空へ叩き落とそうかと思っているなのはを他所に、優しく語りかける「君は機動六課に必要なんだ。君の魔法はみんなを守ることができる。何より君は優しくて格好いい。それは弱さではなく強さだと思うぞ」「優しい、強さ……」 千早の言葉を噛み締めるように呟く「だから、ほんの少しだけでいいから、勇気を出してみよう。それだけで世界が変わったように飛べるはずだ」「勇気……」 そう呟くと視線をあげるキャロ、そこには優しい笑みで自分を見つめる千早がいた。何も心配ない大丈夫だと言わんばかりの表情をする彼に、彼女は視線を合せることができないでいた。警戒していた、なのはも彼の思わぬ行動に驚愕していた。 キャロの優しい性格は教導している彼女自身よく理解していた。それは彼女のポジションでは適切な特徴といえる事であり、実際彼女のサポートはフォワード組にとってかけがえのない戦力になっていることは確かである。だが、その優しさが逆に弱さになっている今の彼女では駄目だ。他のメンバーと戦場に立ち、共に戦うという明確な意思をもたなければ何も意味が無い。かといってこればかりは自分で気づいていくしか方法が無いので、自分があれこれ言っても効果は無いと思っていた。しかし、目の前の自称一流の変態は、そんな彼女の背中を後押しするように優しく語りかけているではないか……そんな彼に少し、感心するなのはだったが「そう勇気だ……だからこれを着て一緒にお風……」「……レイジングハート」<……動かないでください> 懐から紺色の何かを取り出そうとした千早の後頭部にレイハさんを突きつける……というか、ゴリゴリ当たって痛い「……ちょ~と見なおしたと思ったのに……やっぱり千早君は変態さんなんだよね?」 後ろを振り返ると恐ろしい顔で笑みを浮かべる『元』少女がいた「……誰が『元』少女なのかな?わからないよ?千早君?」「ふむ、まさかと思うが、今も少女だと思って……いやなんでもない」 今にも何かが後頭部に発射される気がしたので、これ以上のコメントを避ける千早「ぷっ……アハハ」 そんなやり取りをしていた二人の後ろから笑い声が聞こえてくる。キャロである。見ると表情も未だに堅いが大分和らいだ感じである「ふふ、良い感じで力が抜けたみたいだね?キャロ」「なのはさん……はい!」 今度は元気な表情で返事を返すキャロ。もう大丈夫これで安心して戦いの場へ行けると思うなのは「ふむ、計画通りだな。元気になったところで終わったら一緒にお風呂に入ろうか?」 まだ懲りてないのか、立ち上がると満面の笑みで語りかける千早「はい!」 ……別の意味で不安が残った「ちょっ!ちょっとキャロ本気?」「それは絶対駄目だよ!」 黙ってみていたティアナとスバルもこれに対しては口を出してきた「え?だってお風呂入るだけだし……」「キュキュル?」 一人と一匹は何がいけないいのかわからないと言った感じで、首を傾げる「い~い?キャロ、最上陸尉は変態なの。つまり、変態と一緒にお風呂に入るという事は」「絶対襲われるから、駄目だよ!」 理解していない彼女に対し必死に説得を試みる皆、思わぬところでフォワード組の結束力を見た気がする「……酷い言われようだが?俺一応上官だよな?」「あ、あはは……大丈夫そうだね?」 盛大にいじける千早に乾いた笑いを浮かべながら、皆を見回すと、踵を返して操縦席のヴァイスに近づいていく「ヴァイス君、後どれくらいかな?」「後、5分ってところっすかね?」「じゃあ、私は先に行くけど……無理しちゃ駄目だよ?後、千早くん、終わったら話があるから……」 そう言うと、ヘリのハッチを開ける。そうして、胸元の紅い宝石に合図を送る。「「「「はい!」」」」「了解……」 新人達の元気な返事と、若干ふてくされている千早を見送ると「スターズ01高町なのは……いきます!」 そのまま飛び立っていく…… ヘリから飛び出し、空中でデバイスを展開すると、そのまま魔力光を散らしながら高速で飛んで行く「さて、どっちがラスボスかわからんが……」 その言葉に苦笑する。作戦が終わった後に彼がどういう目に合うかが予想出来るだけに「まあ、さっさと終わらせようか」「「「「はい!」」」「んで、風呂だな!」「はい!」「キュキュル!」「「「それは……」」」 元気に返事するキャロに対して、深い溜息をつく他三人。揃って表情が心底暗い「大丈夫だ!私もそのあたり心得ている。裸だと色々とまずいからな。だからそんなこともあろうかと、これを用意している」 シャランと懐から紺色のスク水を取り出すと、皆に見えるように広げる。広げられたソレにはひらがなで『きゃろ』と書いたゼッケンがちょうど胸元の所に貼り付けられていた。盛大に引く若干二名……「さっきは邪魔されたが……なんと特別サービスだ!君たち全員の分も用意しておいたぞ!」 まるで、子供たちにプレゼントをあげるような感じで取り出す。しかも懐から万国旗を出すが如く次々に……「僕のもあるんですか!?」「あ、ティアだけ白い水着なんだ……」「スバル、お願いだから声に出さないで頂戴……」「ふむ、本来は12歳以上の君たちにはどうかと思ったのだが……やはり仲間はずれは駄目だろうという事で揃えさせて貰った。ちなみにエリオ君は当初男子用にしようと思ったのだが……」<私が提案しました!> 胸を張ったかのような声で、主張するガングニール。顔は見えないがきっと清々しい表情をしているだろう……「ちなみに色は私の独断で決めさせてもらっている。オーソドックスな紺色はキャロ君、本当は白にしようかと悩んだが、やはり定番は一番似合いそうな子にした。スバル君のイメージはブルーだと思ったのでこれだ。それからティアナ君はキャロ君についで白のイメージだったのでな。エリオ君はガングニールの強い要望でキャロ君とお揃いだ」 まったくうれしくない報告を嬉々として語る千早、「どうしよう?ティア……なのはさんみたいに突っ込みきれない」「私に助けを求めないでくれる?でも困ったわ。このままでは私達全員着る事になるわよ」「エリオ君、お揃いだね?」「え?これを着ろと……」 隊長陣がいない為、誰も彼を止められない。誰か彼を止めてくれと誰もが思った時「最上陸尉!!」 甲高い声が響く、皆が驚いて振り返るとそこには腰に手を当てながら頬を膨らますリイン曹長がいた。そうだ、彼女なら彼を止めてくれるはず、誰もがそう思った「リイン曹長、最上陸尉を止めてください」 最後の希望である彼女に助けを求めるティアナ「なんで……なんで……私のは無いんですか!私も一緒に着たいです!」 あ、駄目だった……彼女らにさらなる絶望が振りかかる「ふははははっ!甘いっ!甘いぞっ!」<そうです。激甘です。もう角砂糖にはちみつかけるくらい甘いです> 何が甘いんだろうか?というよりキャラ変わってない?というよりこの人(デバイス含む)気持ち悪い……と心の中で思うティアナ「私が君の事を忘れると思ったかね?ふっふっふ……中々苦労したよ。これを作るのには」 そう言うと手のひらサイズのスク水を取り出す。しかもご丁寧に胸元にも「りいん」っと書いたゼッケンが貼られている。ティアナは思った、無駄にクオリティ高いな、おい……「なら良いですっ!」 いいのかよ……もうここには味方はいないと諦めた……終わったら報告しよう全て包み隠さずにと思い現実逃避するティアナがいた……「さて、隊長達が空を抑えてくれているおかげで、降下ポイントまで何事も無く到着だ」 そんな空気を壊すように、ヴァイスが到着したことを知らせると、皆表情を固くする「それから、最上の旦那?そろそろ真面目にお願いしますよ?じゃないとまた説教ですぜ」 先ほどまでのやりとりを聞いていたようで、笑いを堪えながら言う「私はいつも真面目なんだが……ま、いっか。さて……」 大きく息を吐くと、皆を見回す。先ほどまでとは打って変わって真面目な表情な千早を見て、皆表情を固くする。「各人が自分にできることをしっかりと発揮し、無事終わらせる事。気負う必要はない、君たちの隊長が皆を守ってくれる。もちろん私も支援する。今回は年齢制限解除だ」 真剣な顔で低い声で静かに語る。自然と雰囲気が引き締まっていく……手元のゼッケンが気になるが、さきほどからチラチラ見える紺色が気になるが……「だから安心していきたまえ」「「「「了解」」」」 千早の激励に返事を返すと、まずはスバルとティアナがハッチ前に立つ「ティア、なんだろう……さっきまで緊張してたのがなくなっちゃった」「私も同じよ。認めたくないけどあの人のおかげね……」「不思議な人だね?」「そうね。気持ち悪いけど……あれどうするんだろう?まさか持っていくなんて……」 ちらっと千早の方を見ると、水着をたたんで椅子に置いている姿が見える。ご丁寧にゼッケンの部分を上に順番に並べているようである。「……やっぱ着ないと駄目?」「だから、私に聞かないでよ……今はミスしない事だけ考えるのよ」「ミスするより、アレを着せられる方が怖かったり……」「嫌な事言わないでよ……行くわよ!」「うん!」 キャロほどで無いにせよ初任務ということで緊張していた二人であるが、今はまったくといいほど固さが無くなっていた。その感覚を不思議に思いながら二人は同時に空へと飛び出した その後に続く年少組「一緒に飛ぼうか?」「……うん!」 まだ少し不安な表情のキャロに笑顔でエリオが手を差し伸べる。その光景をニヤニヤ……もとい温かい笑みで見つめる千早。そうして、二人は手を握り締めると駆けるように飛び出して行った 二人が恋人つなぎで、無事降り立つのを確認すると「さて、行くか」<行きますか>「私もいきます」 可愛い上司と変態上司が口を揃えるとハッチ前に立つ「最上陸尉」 飛び立とうとする彼の背中から声をかけるヴァイス「ん?」 首だけ後ろを向けて答えると「あいつらの事頼んますよ」 そう言うとサムズアップしながら、笑みを向ける「当たり前だ。私を誰だと思っている。私は小さき者を愛でる者……目の前で幼女たちが泣く事など無い」<YES 少女の涙は嬉し涙以外認めません> 眼前に見える列車を見つめながら、呟くと飛び立つ。その後に続くようにリインフォースがついていく。銀色に輝く光が見えなくなるまでそう時間はかからなかった…… ――― ――――――― 一方その頃、空を駆ける者がいた。高町なのはである。彼女は既に空の上でガジェットと光線状態にあった。飛行タイプのガジェットと空戦を繰り広げているが、完全になのは無双となっていた。彼女の任務は、新人たちへ奴らを近寄せない事、簡単に言えば迫り来るガジェットを殲滅するのが仕事である。そうして次々と倒していくと、馴染みある閃光が複数ガジェットに向かい飛んでくる。『なのは』『フェイトちゃん』『遅れてごめん』『全然、大丈夫だよ』 黒を貴重としたバリアジャケットを纏った、右手に死神の鎌を持った幼馴染が援軍として参上する。『じゃあ、遅れた分を取り戻そうかな』<Yes Sir> そう呟くと、自分の相バルディッシュに語りかけると大きく振りかぶると、ガジェットめがけて一閃すると、先端から金色の刃が回転しながら切り裂いていく『流石だね。フェイトちゃん』『なのはには及ばないよ』 空を優雅に駆る白と黒、そのコンビネーションの前に次々と落ちていくガジェット達、制限をかけられているとはいえ、この二人にかかれば物量は関係ないように思える。『そういえば、なのは。フォワードの子達は大丈夫だった?緊張していなかったかな?』『そうだね……スバルとティアナは特に問題無さそうかな?エリオもかな。ただ、キャロだけ少し心配かも知れない』『そうだね。あの子は優しいから』 なのはの言葉に、同意するフェイト『でも、大丈夫だよ?千早君がいるし』『……なのは、それが一番心配だよ』 思わぬ人物が出てきたので、顔を少し歪めるフェイト。未だに彼には耐性が無い彼女の表情に『あはは……フェイトちゃんはあんまり彼の事好きじゃないみたいだね?』『嫌いじゃないけど……ロリコンだからかな?』 千早の事を人間的に嫌いではない。嫌いではないけど受け入れられない。そんな感じで言うフェイトに対し『そうだね。千早君は変態さんだよ?でも……』『でも?』『彼はどうしようも無い変態だけど、ロリコンだけど、犯罪者一歩手前だけど、人のこと年増って言うし、熟女って言うし……私まだ19だよ酷いよ……』『な、なのは?』 後半愚痴になっている彼女に対して苦笑する『でもね?一つだけ信じられる』『それは?』 目を瞑り、そう呟くと『絶対、あの子達を泣かせる事はしないって』『そっか……』 満面の笑みでそう断言するなのはを見て、そう答える。何故か知らないけどなのはがそう言うなら大丈夫だろうと思い目の前の敵を破壊していく『そっか、なのはは、彼の事を信じているんだ』『どうしようもない変態さんだけどね』『うん、少し彼の事が解った気がする……』 そう呟くと、空を駆けていく。『幼女とは愛でるもの』そう語る彼の姿を思い出しながら、なるほど確かになのはの言う通りだなと考えを少し改めるフェイト。とはいえ、本当に10年前に出会わなくて良かったと思いながら……そうして、二人が駆け抜けていく後にはガジェットなど形も残らず落ちていくのであった……