「ふむ、中々に痛い死ぬ」 窓から差し込む太陽の光で目が覚める。全身に走る痛みに本能的に死を悟ったのかつい本音が出てしまった。ここが病室で、自分の置かれている状態を理解するにそれほど時間はかからなかったが、とりあえず周りの状況を確認する。 身体は……一応動くが、指先ひとつ動かすだけで激痛が走る。まあ、多分重症なんだろうな。とはいえ、この世界の医療技術は控えめに言って現代の100年先をいっている。二~三日で退院できるだろう。と前向きに勝手に思ってみる。「最後に幼女が向いたリンゴを食べたい」「目覚めて早々言う事がそれか」 大きな溜息が聞こえる。視線の先でピンク色の尻尾がゆらゆらと揺れていた。「目が覚めて最初に見るのがお前とはどんな罰ゲームだ」「そうか、思ったより元気そうだ。どれもう一度意識を飛ばそうか? なんならもう二度と目覚めないよう首と胴を」 そのまま手刀を首筋に添える。「重症患者になんて言い草だ。これだから年増は……」「ふっ……その様子だと大丈夫そうだな」 そこで笑うか……「まあ、思っていたよりはな。しかし、やはりというか勝てなかったか」「ああ……」 シグナムより事の顛末を確認する。どうやら俺はゼストにコテンパンにのされたようだ。まあ仕方が無いあの時は時間稼ぎと色々と縛りがあったからな。と言うのは言い分けだな。「お前のデバイスが必死に助けを叫んでたからな。後で感謝することだ」 シグナム曰く今まで聞いた事が無いくらい悲痛な声色だったそうだ。それは悪い事をしたな、今度子供達の戯れる姿のデータでも入れてやるとするか。「それで、他の状況は?」「そうだな……」 陳述会襲撃の方も善戦したとはいえ、かなりの被害を受けたそうだ。そして六課のメンバーもスバルを筆頭にかなりの被害を蒙っていた。「そうか、そこまで被害が大きいとはな」「それに……」 珍しく歯切れの悪い様子で俯くシグナム。いつもと違うその様子に違和感を感じざるを得ない。「ヴィヴィオに何かあったか?」「!? 知っていたのか」 驚いた表情でこちらを見る。「いや何となく……強いて言えばロリコンの勘だ」「そうか……」「ああ……」「それで? どうなった」 六課も襲撃されほぼ全壊、防衛に出ていたザフィーラが重症、シャマルを含め職員達が重軽傷を負ったそうだ。そして、ヴィヴィオが奴等に攫われたと…… 室内に重苦しい空気が充満する。シグナムは無言でこちらを見つめる。「……お前は大丈夫なのか」 静かな室内に響き渡る言葉。初めて投げかけられる不安要素を含んだシグナムの言葉。 彼女は思った、目の前の男にとってヴィヴィオは母親を名乗りでた高町よりも大切に思っている存在、言わば玉である。その玉を奪われた、その事実は彼にとってどれほどのショックか解らない。「……っ」「!? 何をしている!」 思いきって身体を起こそうとすると激痛が走る。思わず駆け寄るシグナム、しかしそれを静止するとそのまま上半身を起こし「っ~痛い」 そのまままた元に戻る。「当たり前だ。重症なんだぞ? 一体お前は何がしたいんだ」「……足りない」 小さく声を絞り出す。「何だ? 何が足りない?」「……血が足りない……後、幼女成分も足りない……ありったけの食料と、後幼女少年動物あらゆる小さき者を網羅した映像を持ってこい!」「はあ!? 何を言って……」「持ってこい!」 上半身を起こしシグナムの胸倉を掴むと顔を寄せ、そのまま強く命令する。思わず顔を逸らして「解った! 解ったらから少し大人しくしておけ!」 と吐き捨てるように言うと部屋から出て行く。彼女が出て行った後またベッドに身体を埋める。やはり無理に動かしたのが祟ったのか全身に走る激痛に耐えながら一人ごちる。「大丈夫か、か……」 まったく笑えない。何がロリコン・オブ・ロリコンだ。たった一人の幼女を守れずにロリコンを名乗っていた事に怒りを覚える。「いいだろう……奴らに理解させてやろう」 そうだ、ここで終わりではない。ここで終わらせてはならない。 ロリコンとは小さき者を守る剣…… ロリコンとは小さき者を守る盾…… ロリコンとは小さき者を包む翼…… ロリコンとは小さき者を愛し、小さき者を守り、小さき者の笑顔を何よりも大切に思う騎士であり従撲。そうだな奴らに……ジェイル・スカリエッティに……「真のロリコンの恐ろしさを」 この後、大量の食料と少年少女が戯れる映像データを持参したシグナムと共に看護師から思いっきり叱られた事は言うまでもなかった。 瓦礫の山で一人現場検証をしているティアナ。状況を確認すればするほど溜息しか出ない。ボロボロになった建物を不安な表情で見上げる。 これから一体どうなるんだろうか? ティアナ脳裏にあるのは陳述会の一件、親友のスバルは重症、キャロやエリオも軽症ではあるが入院中。何より意識不明で重体のヴァイス陸曹と最上隊長の事が頭から離れない。二人の重傷者でしかも隊長クラスがとなれば士気が下がるのも無理はない。特にティアナにとって二人は尊敬する存在なだけに。「思っていた以上に酷いな」 そんな彼女の後ろから聞き覚えのある男の声がする。「最上隊長!? 意識不明の重体だったんじゃ!?」 振り返り声の主を確認したティアナは混乱した。何しろ3日前まで意識不明の重体で集中治療室で面会禁止と伝えられていたのだから。「え? なんで? 3日前までは……幽霊? 死んだんじゃ?」「ああ、昨昨日までは指一本動かすのも激痛が走ったな。というか勝手に殺すな」 とりあえずチョップしておいた。「あう、すみません」 叩かれた頭を摩りながら頭を下げる。「最上隊長、身体の方は?」「そうだな7割といった所だ、戦闘以外なら問題無い。他の隊員達も峠は越えた。シャマルとヴィータは復帰しているしな、とはいえ細かい検査は必要なようだが」「そうですか、よかった」 安堵した表情で応える。しかし、やはりこの目でみるまでは心配なんだろうか不安な様子は拭えない。検証といった仕事が無ければ今すぐ駆け出して病院に見舞いに行きたいのだろうが、今は堪えているといった感じにもとれる。「それでこっちはどうだ?」「今、高町隊長が中を調査中です」「様子は?」「いつも通りです。いつも通りしっかりお仕事をされています。負傷した隊員のこととか、攫われちゃったヴィヴィオの事とか確認……」 そこまで言って口を塞ぐ。ティアナは後悔した、なのは以上にヴィヴィオを溺愛していた彼の前で無神経な発言をしてしまったと、しかし、そんな彼女の気持ちを知ってか知らぬか彼女のバインダーを受け取ると「後は私が引き継ぐからティアナも病院に顔を出してくれば良い」 見舞いに行くように促す。「ですが……」「かまわん、行ってやれ」 最初は拒んだティアナであったが、千早の言葉に礼をするとそのまま駆けて行った。それを確認すると現場検証を開始するのであった。 現場での仕事も終わる頃にはすっかり暗くなってしまった。そのまま何の気なしに隊舎内を回っていたら、見慣れた影が二つ。「ん?」「あっ、千早」 千早の存在に気づいたフェイトだったが少し気まずい表情でこちらへ笑顔を向ける。見ればなのはがフェイトに抱きつき涙を流している所だった。「ふむ、ここは空気を読んで立ち去るとしよう」「そんな発言している時点で、空気読めていないと思うの……」 踵を返した彼の背中の方からいつも通りの突っ込みが聞こえてくる。振り返ると涙を拭いながら、無理な笑顔を向けてくるなのはが見えた。「まあ、俺は幼女以外に気を使う気は無いからな」 いつも通りの彼の態度に笑みを浮かべる二人。しかし、それは弱々しい。「今、7割だ……」 二人に両手を向ける。左手は五本全て指を開き、右手は二本開いた状態で。その意図が理解できず首を傾げる。「傷は塞がった、痛みも大分マシになった。後は……」 一枚のスクール水着を開く。そこには平仮名で『ヴィヴィオ』の文字。「ヴィヴィオを救って一緒にお風呂に……痛いじゃないか」 思いっきり後頭部を殴られてしまった。グゥで……「当たり前なの、というかどっからそれ出したの? それにいつお風呂に入る約束したの?」「ん? 陳述会の前の晩」「勝手な約束しないで、ていうかヴィヴィオがそんなこといいって言うはず」「いんや、即答だったぞ?」「嘘!?」「じゃあ、その時は私も一緒に入ろうかな?」「フェイトちゃん!?」「なのはも一緒に入れば大丈夫だよ」「大丈夫 じゃないよ!? ていうかなんで皆でお風呂入る話になってるの?」「ふむ、何を言っているか解らないが安心しろ。俺は成熟した女性には一切欲情しない」「色々な意味で安心できないよ!? それ!」「なのは落ち着いて、その時は千早は女の子だから」「そうなのか?」「いやいや、確かに変身魔法があるからって……それ以前の問題だよ」「というか、何故裸で入る前提なんだ? 水着着用に決まっているだろ?」「そ、そうだよね……」「え?」「フェイトちゃん……」 項垂れるなのはに思わず笑ってしまうフェイト、それに釣られたのか同じく笑顔を浮かべるなのは。そこには先ほどまでの悲壮感は一切なくなっていた。「ありがとう。フェイトちゃん、千早君」「うん、絶対助けよう3人で」「当たり前だ。俺を誰だと思っている? 俺は……」「「ロリコンで変態」」「……変態は余計だ」 また笑い声が木霊する。そうして長い一日が過ぎていくのであった。