「してやられたって訳か」「冷静に言ってる場合じゃないですよ!?」 現在地上本部は現在テロリストによって壊滅状態まで追い込まれていた。ジャミングによる通信妨害の為に中との連絡は遮断。「通信妨害がきついな、ロングアーチどうなっている?」 前線メンバーを引き連れて現場を走る。現状隊長陣達が中の為、全員の指揮を千早が執っていた。<外からの攻撃は現在止まっていますが、中の状態は不明です> 悲痛な声が聞こえてくる。「最上隊長、あたし達が中に入ります。なのはさん達を助けに行かないと」 スバルが提案するとティアナ達全員が頷く。 現状が解らない以上、直接中に入って状況を打破するしか方法は無い。<本部に向かって航空戦力……><は、早いっ!?> 中に入ろうと全力で駆ける千早達にロングアーチより情報が入る。<……ランク、オーバーS> ここに来て新手か……仕方が無い。「そっちは私が対応する。地上は前線メンバーで対応をさせる」 本来なら一緒に行った方がいいのであろうが、状況的にオーバーSが相手となればこちらもそれ相応の対応しないと状況がさらに悪化しかねない。「大丈夫ですか?」 不安そうに声をかけるティアナ。 まあ、確かになのはやフェイトに比べると空戦は余り得意ではないからな。 とはいえ、消去法でいけば自分が行くしかない。「問題無い、幼女分も補給している。それに、最近ヴィヴィオのおかげで過食気味だ。空戦もいける」 大丈夫なのか、大丈夫でないのかいまいちよく解らない返答ではあるが気持ち悪い事だけは理解できた。「とにかく地上は任せたぞ」「「「「はい!」」」」 これ以上議論している暇は無いとばかりに指示を出す千早。その号令に返事をし中へと駆けていくスバル達前線メンバー。それを確認するとさらに駆け出す。「さて、行くかガングニール」<イエス・マイマスター> そのままバリアジャケットを羽織ると地面を蹴り空へと上がる。<こちら管理局、貴官の飛行許可と個人識別票が確認できない。直ちに停止を> 本部に向かい飛行する人物を捕らえ警告を発する千早。しかし、相手は一向に止まる気配が無い。<それ以上進むなら、迎撃に入る。繰り返す、これ以上進むなら迎撃に入る>「ん? あれは……」「旦那?」 そのまま本部まで高速で飛行していたが、急に何かの気配を感じ停止するゼスト。彼の停止を不信に思い振り返るアギト。「止まれと言ったはずだが?」「……」 眼前で立ちふさがる一人の人影。「誰だ? こいつ」「アギト、下がっていろ」 自分の方へ下がるようにアギトに言う。何故だろうか、目の前の人物に不安を感じる。「ふむ、妖精か……リィン曹長以外にもいたのか……」 感慨深そうに呟く青年。「しかし、リィンとはまた違った、なんというか勝気で元気な感じがいい……」 彼のアギトを見る目が違う。その瞳に恐怖を感じるゼスト。それは猛獣が獲物を品定めするようなそんな殺気だった目でない。どちらかといえば慈愛に満ちた優しい目でアギトを見ている。しかし、何故か安心できない。これは……「貴様、もしやロリコンでは?」「Yes,I am」 誇らしげに答える千早。その姿を見てゼストは確信した。 間違い無い。奴はロリコンだ。 そして、前にルーテシアが言っていた事を思い出す。『機動六課にはロリコンが存在する』 奴の与太話かと思っていたが、まさか本当に実在するとは思ってもみなかった。そして、そのロリコンが自分の前に立ちはだかっている。 互いに無言でにらみ合う。その様子に息を呑むアギト。「さて、できれば退いて欲しい。小さき者に慕われている人とはできれば争いたくは無い」「断る」「どうしてもか?」 千早の提案に二度目は無言で槍先を突きつける形で答える。「そうか、仕方が無い」 同じく右拳を突き出すと半身で構える。「旦那!」 既に戦闘体制を整えたゼストに近づくと二人光を放つ。「これは?」<融合!? 危険です! マスター> アギトと融合したゼストが静かにこちらを見上げている。「くっ……卑怯な」「すまんな、先を急いでいるのでな」<はあ!? 旦那が卑怯だって? 融合だって立派な魔法だ>「そう怒鳴るなアギト、奴の言う事ももっともだ」 自分の事を卑怯者呼ばわりされたことに腹を立てるアギトを静かにたしなめる。確かに相手からすれば二対一、卑怯者呼ばわれりされても仕方が無い。しかし、それでも先を急ぐ理由が彼にあった。 目の前で憤慨する青年には申し訳ないがこのまま押し通してもらおう。 そう思い柄を握る手に力を込めるゼスト。「私が幼女に手を出せないと知って融合するとは、貴様はそれでもロリコンか!」「……」 掴んでいた槍を思わず落とすところだった。「は?」「は? では無い。敵とはいえ小さき者にそこまで好かれておきながら、盾に使うとは言語道断、ロリコンの風上にもおけん!」 怒りを露にしながらこちらへ向かい指を指す。「いや、俺はロリコンでは……」「問答無用!」「!?」 左足に力を込め空を蹴りそのまま駆け出し間合いを詰める。思わぬ発言に油断をしていたゼストの眼前まで詰めると、そのまま右の拳を顔面へと繰り出すが……「……どういうつもりだ?」 拳は彼の眼前数ミリの所で止まっていた。「油断させてどうかしようというつもりなら無駄だ。それとも舐めているのか?」 騎士として己を侮辱された事に対し怒りを露にするゼスト。「貴様を殴れば中にいる小さき妖精にダメージがいくのであろう? 例え、どんな状況であれ私は小さき者に対し手を挙げる事はできん!」「……」 魂の篭った叫びが木霊する。彼は例え敵であっても、小さき者には一切手を出さない。「そんな事では死ぬぞ?」 槍による一撃が襲うも辛うじて避ける。「例え死ぬ事になったとしても、それだけは貫き通させてもらう」 敵であれ、味方であれ、小さき者には一切手を出さない。 そして何より……「それに、先に行かせる訳にもいないんでな」「そう、うまくいくかな?」 少し腰を落とすと槍の切っ先をこちらへ向け、突進してくる。それをギリギリの間合いで避けると追撃する。「当てる気が無い攻撃に意味は無い」 そのまま魔力弾を難なく弾き、本部へと進もうとするも<バインド?> 光の鎖で彼を縛りつけ動きを止める。「だから、行かせる訳にはいかないと言ったはずだが?」<こんなもんで、旦那とあたしを止められると思うな!> ゼストが力を込めると鎖が切れる。「!?」 鎖が切れた一瞬を狙い、間合いを詰める。「何度も言うが、当てる気の無い攻撃に何の意味も無い」「なら当てるとしよう」<旦那!?> そのまま思いっきり拳を突き立てる。 直撃する! そう判断したゼストが槍を前に防御の構えをとる。 そのまま槍に思いっきり打撃を与える。 思いのほか重い一撃だったのか、少し後ろへと下がるゼストに「要は体に当てなければ良いまでのこと」 両拳をガチャンとあわせると、構えなおす。「そんな事で勝てると思っているのか?」<そうだ、そうだ、馬鹿かこいつは> 確かに身体に直接ダメージを与えなければ、中にいるアギトへのダメージも無い。しかし、それでは先ほどとなんら変わりは無い。 つまり向こうに勝つ要素はまったくないはず、一体何を考えているのか理解できない。「だが、時間は稼げるだろ?」 余裕の笑みを浮かべる。なるほど、それが目的か……「確かに、時間がかかればこちらが不利になるか……」 千早の考えに気づいたゼストは心の中で小さく舌打ちする。奴は自分がアギトと融合した辺りから倒す事をまったく考えていないかったのである。「防衛ライン復活までの時間稼ぎか」「それしか思いつかなかったのでな」 確かに、現状では最良の策ではある。防衛ラインが復活すれば、ゼスト一人では目的を達するのが困難になってくる。しかも、向こうにはオーバーSが何人か控えていれば尚更だ。「なるほど、ただの変態では無いということか……名は?」「管理局機動六課シルバー分隊 隊長 最上千早だ」「そうか……ゼストだ」 お互い名乗りをあげると、第二ランドを開始するのであった。