「千早君?何が見えてるかしら?」「指を三本立てた年増が見える……冗談だ、だから私のリンカーコアを握るのをやめたまえ」 にっこり笑いながら、恐ろしいことをするシャマルに苦笑しながら謝罪する千早「……まったく、そんなんだからいつもなのはちゃんに撃たれるのよ?」 ため息をつきながらやんちゃ坊主を窘めるように言うと、医療器具を片付ける。模擬戦でのあの出来事の後、ティアナと共に医務室に連れて来られた千早。本人は大丈夫だと言いはるも流石にダメージがあったのか、ベッドについた途端意識を失っていた。「しかし、かなり眠っていたようだが?今何時だ?」「えっと……9時ちょっとかしら?」「流石はなのは、快眠導入砲撃とは……恐れ入る」「そう考えれる貴方が、時々うらやましいわ……」 外の様子を見ると真っ暗であった。流石に寝過ぎたなと首をゴキゴキ鳴らしながらため息をつく「ん……あれ?」 ちょうどその時隣で寝ていたティアナも目を覚ました「ん?」「あら?ティアナも起きた?」 目覚めた彼女に声をかけるシャマル、起きたばかりなのか少しボーっとしているティアナ「シャマル先生……?」「ここは医務室ね。昼間の模擬戦で撃墜されちゃったのは覚えてる?」「……はい」 彼女の言葉に模擬戦での出来事を思い出すティアナ、そういえば誰かに助けられたような……「なのはちゃんの訓練用魔法弾は優秀だから身体にダメージは無いと思うんだけど……」「ふむ、確かにあの圧倒的絶望感、虚無感と言っていい。あの感覚は病み付きになるな」「変態は黙っていてくれる?」「む……わかった」「最上隊長……」 顔だけこちらへ向けてにこやかな表情で言われ、渋々了承する千早。シャマルに窘められている彼の姿を確認すると、心配そうに声をかけるティアナ。同じ医務室でベッドに座っているので、もしかしたら自分のせいで怪我をさせてしまったのではないかと……しかし、ベッドから降りようとした所で、今の自分の姿に気づく。彼女の上半身は肌着を着ているので大丈夫だが、問題は下であった。いつもの訓練用のズボンは無い……愛用の黄色い下着が見え、シャツの裾からは太ももをさらけ出していた。思わず恥ずかしさに表情が赤くなる「……見ました?」 少し厳しい目で千早を睨むティアナに「ふむ、安心しろ。年頃の女性の肌には興味が無いのでな」 真面目な顔でそう言われると微妙な表情になってしまう。彼女も一応年頃の女性であり、それなりに色々と気を使っているし、気にしている。それを異性にまったく興味が無いと言われてしまってはそれはそれで傷つくティアナ「ロリコンの言うことは放っておいて……どこか痛いとこある?」「いえ、大丈夫です……」 どこか諦めたような表情で言うと、ズボンを渡すシャマル。それを苦笑しながら受け取ると「……9時すぎ!?えぇ!夜!?」 傍にあった時計を見て驚くティアナ。「すごく熟睡してたわよ?死んでるんじゃないかって思うくらい。最近、ほとんど寝てなかったんでしょ?溜まってた疲れがまとめてきたのよ。余り無理してはダメだよ?」 彼女の顔を覗き込むように言うと「……はい」 俯きながら返事をするティアナ。それを確認すると、医務室から立ち去るシャマル。後に残されたティアナと千早の間に気まずい空気が流れる。主にティアナの方がであるが……「あ、あの!」「ん?」「すみませんでした。私のせいで……」「なんのことだ?」「そ、その……あたしを庇って……」「何を言っている?私はただ、どこまで痛みを快楽に変えられるか試しただけに過ぎん。些かやり過ぎたようだが」「……」「とりあえず穿いたらどうだ?まあ、君が見せる事に快感を覚えるのが趣味ならばかまわないが?」 じっと下を向いているティアナに向かい、ため息混じりにそう告げると「えっ……ち、違いますっ!?って!いつまで見てるんですかっ!?」 顔を真っ赤にしながら恥じらうようにシャツの裾を伸ばしながら隠すティアナ、そうして慌ててズボンを穿くのであるが……「君がさっさと穿かないのが悪い。何が悲しくて君みたいな娘のパンツを見るはめになるとは……散々だ」「……それは、それで納得できないのですが……」 通常であれば襲われても仕方が無い状況なのに、まったく興味が無いと言われて、流石に項垂れるティアナであるが、そんな彼女を無視して話を続ける千早「それで?何が言いたい?何も無ければ私は戻るぞ」「はい……その……」 そう言うとティアナは胸の内を話しだす。周囲との実力差、自分を凡人として認識している事、焦り、焦燥などなど、自分は置いて行かれるのではないかと、前回のスタンドプレーも、そして今回の模擬戦もそれが原因でこうなってしまったと、ポツリポツリと語る彼女の言葉を黙って聞いている千早。「私はきっと弱い……だから少しでも強くなろうと努力しなければならない。証明しなければいけない……だから少しくらい無茶したって、死ぬ気でやらなくちゃ強くなんてならない。そう思って……」 俯きながら全てを語るティアナの表情は酷く悲しそうであった。「ふむ……」 そんな彼女の姿を眺めつつ顎に手を当てながら考える千早。確かに彼女は年増……16歳、しかしながら、まだまだ大人とはいえない。いわば大人と子供の中間である。自己嫌悪、周りとの差を感じ絶望する……ああ、これは確か……「中二病か……」「え?ちゅう?」 違います……しかし、ティアナ=中ニ病と断定した千早は「まあ、一過性のものだが……なるほど……いずれ解る時が来るやも知れん」「でも、私は重大なミスをしました。そして模擬戦でも……」 そこまで言うとまた塞ぎこむティアナ、そんな彼女に苦笑しながら「まあ、私が言うのもなんだが、なのははお前をものすごく大事にしていると思うぞ?」「……」 余り納得ができない……そんな表情で千早の方を向くティアナ「なのはが戦技教導隊の出身なのは知っているだろう?」「はい……」「戦技教導隊は『言葉を交わす前に拳で語れ』ってところでな……とりあえずぶちのめせば理解するだろうし、それでも理解できないのならもっとぶちのめして理解しろってことだ」「……」「何が言いたいかわかるか?」「はい……」「つまりだ、なのは……高町教導官は『コミュ障』ということだ」「はい……え?」 とんでもない事を言い出した……「頭を冷やせと言っては『ズドン』話があると言っては『ズドン』それが彼女だ」「え?えっと……」「慣れろ。寧ろ快感と思え」「はあ!?」 慣れろって、しかも、快感って……この人は何を言っている?といった感じで驚いた表情で見つめるティアナ「いいか?考えても見給え。あの悪魔のような笑みで辛辣な言葉を投げかけくる。そして『ズドン』」「……」「それに慣れる事によって君はまた強くなるのだ」「強く……」「フェイトを見てみろ。彼女は昔なのはの全力全開の『ズドン』を食らっている……しかし、今はどうだ?」「はい、なのはさんと同じくらい強いです」「つまりだ。彼女の『ズドン』を喰らうことで君は強くなる」「……」「君は今、一皮向けたのだ。何故そう悲観的になることがある。寧ろ喜ばしい事だ」「……そうなんですか?」「ああ、そうだ。いいか?君は自分を凡人だと思っている。しかし、私からすれば君は凡人ではない」「凡人じゃない……?」 自分が凡人でなければどれほどいいだろうかと常に感じていたティアナはその一言に驚いたように千早の方を見る「そうだ、君の中には素晴らしい能力が眠っている……」「そんなものがあるわけ……」「そんなことは無い、君は風……風のランスターだ」「風のランスター……」「そうだ、君は風なのだよ」「私は風……」「そうだ、風は何ものにも縛られない」「風は……何ものにも縛られない」 千早の言葉を1つずつ噛みしげながら吐き出すティアナ、いつしか彼女の瞳には光がさしていた……「他人と比較する必要などない……君がこれまで一生懸命頑張った分は、必ず何かに活かされる。これ以上考える事など必要か?」「必要無いです」「なら、結構」 そう返事をするティアナに満足そうな笑みを浮かべると、また静かになる室内「最上隊長は……」「ん?」「最上隊長はなんでそんなに強いんですか?」 そう疑問を投げかけるティアナ。なんとも素直な問いかけをした彼女自身少し驚いていた。今まで意地やたてまえに囚われ一人で抱え込んでいたことが馬鹿馬鹿しいと……その表情は清々しく晴れやかであった「ふむ、それは私がロリコンだからだ」「ロリコンだから?」「そうだ、ロリコンとは幼女が好きで、少女が好きで、彼女達の笑顔を守るのが使命。例え蔑まれようとも、避難されようともかまわん。彼女らの笑顔の為に強くならねばならない……そう、幼女の為なら死んでも後悔は無い」 ティアナが見つめる先には、無邪気な顔で笑いかける千早の姿があった。彼女は改めて思う。この人はすごいと、そしてロリコンを勘違いしていた事を、彼には階級とかそんなものには興味は無い。囚われた心では自由な心には叶わない……でも、いつか、自分もこの人と同じとはいわなくとも、隣に並べるくらいに強くなろうと誓うティアナであった…… 一方その頃、訓練場にて一人モニターに向かい確認作業をしているなのは「なのは」「フェイトちゃん」 そんな彼女に声をかけながら歩いてくるフェイト、少し表情が暗い「さっきティアナが目を覚ましてね。スバルと一緒にオフィスに謝りに来てたよ?」 二人隊舎まで歩きながら、ティアナが目を覚ましたことを報告するフェイト「そう……」 それを聞いて少し俯くなのは、模擬戦での事を思い出したのか表情は暗い「なのはは、訓練場だから明日朝一で話したらって伝えっちゃたんだけど」「うん、ありがとう。でもごめんね。監督不行き届きで、フェイトちゃんやライトニングの二人まで巻き込んじゃって……」「あ、ううん、私は全然」「ティアナとスバル、どんな感じだった?」 やはり模擬戦での事が気になるのか、俯きながらも二人の様子を聞くなのは「そうだね……スバルはまだちょっとご機嫌斜めだったかな?」「ティアナは?」「どちらかというと、なんかスッキリした表情だったかな?」「え?」 思ってもいなかった返答に少し驚くなのは「うん、なんだろう。今回の事も納得したような感じだったよ」「そうなんだ」「意外だった?」「うん」「その辺りは千早に聞いたらいいよ」「え”なんでそこで千早君が……」 思わぬ人物の名前があがったことに少し表情を引き攣らせる。そういえば、あの時間に入ってきてたなと思い出す……思い出すが……思い出したくない。あの状況で割って入ってきて、人を指さして、せ、生……とかありえない。デリカシーの欠片もない…… そんななのはのなんとも言えない表情に苦笑しつつフェイトは「なんでも医務室で千早と話したみたいだよ」「そ、そうなんだ……」 一体何を話したんだろうと不安になるなのは、ティアナが千早の事を良く思っていないのは知っていた。真面目なあの子からすれば、それは当然の事であろう。だから……だからこそ不安なのである。経験上、千早とか変わった人間がろくな事にならない。何故なら、彼女の目の前でにこやかに話す親友がそうだ。最初は目を合せるのも嫌がっていた彼女が、ある時を境に変わってしまった……それは180度どころか一周回って、540度くらい変わった……まさかと思うと嫌な汗が背中から流れてくる。「う、うん、まあ、明日の朝ちゃんと話すよ。フォワードの皆と」「うん」 不安を抱えながらフェイトへ返事をすると二人一緒に隊舎へと戻っていくのであった…… ああ、ギャグが足りない……もうちっと説得力があればいいのですが、まあ、こんなもんだと思う……また汚染者を増やしてしまった。これがハーレム要素か!? 20130416修正しました