「おっし、全機撃墜……」「こっちもだ、召喚士は追いきれなかったがな」「だが、いるとわかれば対策が練れる」 戦闘も終え、アイゼンを肩に担ぎながらため息をつくヴィータ、そのまま合流したザフィーラとシグナムもまた戦闘を終えていた。<そっちはどうなんだ?> ヴィータがホテルの方を心配し、念話を送ると<ん、こっちも無事終わった所だ> 千早から返事が帰ってくる<ん?なんかお前声が変じゃねえか?><ああ、少し魔力を消費したのでな、途中で変身が解けたようだ><そっか、後で合流する><了解> 念話を切ると、シグナムが心配そうな表情で「あっちはどうだ?」「向こうも全機撃破、新人達も大丈夫だと、ただ、戦闘の影響で千早の変身が解けたらしいけどな」「そうか、安心したか?」「ばっ!?そんなんじゃねえよ!」 意地悪そうな顔で言うシグナムに照れながらぶっきらぼうに返事するヴィータ。なんだかんだいって新人達のことが気になって仕方が無い様子である「なら問題無いということか」「ああ、けが人も出てねえし」 安堵した様子で、語りあう二人に対してため息をつきながら「本当にそう思うのか?二人共」 ザフィーラが聞いてくる「?何かあるのか?」 そんな彼に疑問を投げかけるシグナム「確かに、ガジェット襲撃に関しては問題無い。だが、今最上が元に戻ったと言ったな」「?だからどうしたんだ?」 ザフィーラの言葉に意味が解らないと言った表情で問いかける「お前たちは、奴が『変身魔法で女性になっていた事』を忘れたのか?つまり変身は解けても服装はそのままで……」「あ……」「げっ……」 そこまで説明を聞いて、はっとなる二人……「如何!緊急事態だ!主に報告せねば……」「そんなことしても遅せえ!ここはリミッターカットの申請をしてアイゼンの染みに……」「いや、ここはレヴァンテンの錆に……」 ザフィーラはため息をつきながら、先ほどまでの緊張感が一気に瓦解していくのを感じる。最上千早という人物が原因であるのだが、あの男はやはり理解できない。とはい、ヴィータが取り乱す姿は何度も見ているが、我らが将であるあのシグナムがここまで取り乱す事は奴と出会うまで見たことが無かった。ベルカの騎士として威厳ある彼女であるが、最上絡みとなると歳相応の女性の反応を示す。そんな彼女の姿に苦笑しつつ、あの男にかかれば烈火の将も形無しであると感じるのであった「二人とも落ち着け、今はまだバリアジャケットの状態だから問題無いだろう」「そ、そうだな……」「……とりあえず戻ろうぜ」 ザフィーラの言葉に頷きながら盛大にため息をつく二人と一匹、あの男と出会ってからろくな事がない。そう思いながら歩き出すのであった…… 同時刻ホテル玄関前「……幼女の気配が……消えた?」 ガジェットの残骸を踏み抜きながら、遠くを見つめ呟くと、周りを見渡す。そこいらに散らばる残骸からは黒煙があがっており、全機撃破したことを確認すると「ふむ、終わったか……」 安堵した表情でごちる。後ろの方を確認すると、ライトニングの二人も少々疲労しているものの大きな怪我も無く無事な様子である「二人とも無事で何より、ん?ティアナがいないようだが?」「はい、裏手の警備に」「スバルさんも一緒です」「ふむ……」 ホテル玄関前裏側「ティア?向こう、終わったみたい……だよ?」 千早たちがいる場所の裏手側で待機するスバルとティアナ、敷地の外側を向いたまま立ち尽くすティアナに遠慮がちに語りかけるスバル「私はここを警備してる……あんたは、あっち行きなさいよ……」 振り向かず彼女に答えるティアナ、彼女が落ち込んでいる事は長年コンビを組んできた経験から理解をしている。しかし、なんと声をかけたらいいかわからない。気まずい空気が現場を漂っていた「あのね……ティア……」 勇気を振り絞り声をかけるも「いいから、行って」 そのまま、そっけなく返されてしまう事に少し悲しくなるスバル、どうすればいいのかわからない「ティア、全然悪くないよ。アタシがもっとちゃんと……」「行けってっ!いってんでしょっ!」 尚も声をかけるが、とうとう怒らせてしまった事に更に悲しそうな表情になるスバル「……ごめんね。また、後でね……ティア……っ!」 しばらくティアナの背中を見つめていたが、そのまま走り去っていくスバル。彼女が去った事を背中越しに確認すると、外壁にもたれかかりながら「っ……私は、私はっ……」 悔しさの余り、むせび泣くティアナ。今更ながら自分のやったことに後悔と自責の念に包まれ、彼女の心に暗い影を残すのであった……「えっと……報告は以上かな?」 調査班が現場検証している端で、集合するスターズ、ライトニングのメンバー。帳簿を見ながら報告内容を確認するなのは、その隣にはフェイトもいる「……で?千早君はいつまでその格好でいるのかな?」 若干眉を引き攣らせながら、千早の方へ声をかける「ん?何かおかしいところでもあるのか?」 彼女の視線を無視しながら、答える千早。バリアジャケットを解き、局員用の制服姿である彼の姿を確認しながらフェイトが「ん、女の子の千早もいいけど、それはそれで似合ってるよ」 満面の笑みで感想を述べる。今の千早の姿は男性の状態で女性用の局員の制服を着込んでいる。元々中性的な顔立ちと線の細い体型の為、違和感は無い。タイトスカートから見える生足が無駄に艶かしくらいである。そんな彼の姿に対して「うん、もう私は突っ込まないけど、とりあえず着替えてきてね?」 にこやかな笑顔で、ひきつりながらフェイトの言葉をスルーするなのは。大分耐性がついてきたのであろうが「気にするな。それより……」 同じく空気をスルーして、気にもとめないで報告を続けようとすると「着・替・え・て・き・て・くれるかな?」「……わかった」 そのままふんわりとした笑顔を、眼前まで近づけられて迫られると渋々了承する千早。そのままホテル内へと去っていく「後、フェイトちゃん。今晩少しお話があるから」「え?私は無いよ」「い・い・か・ら」 同じく、笑顔で彼女の方へと迫るなのは。その背中には仁王像が見えた……「……ん、わかった。なのは」 渋々返事をするフェイト。その光景を見つめながら苦笑する三人。しかし、ティアナは俯きながら何かを考えているようであり、表情も暗い「えっと、ちょっと脱線したけど……」 コホンと咳払いをすると、また真面目な顔で仕切りなおすなのは「現場検証は調査班がやってくれるけど、皆も協力してあげてね。しばらく待機して何も無いようなら、撤退だから」「「「はい」」」 なのはの言葉に、返事を返す三人。その間もずっとティアナは下を向いたまま反応が無い。そんな彼女の姿を確認すると「で、ティアナは?」「……」「ちょっと、私とお散歩しようか?」「……はい」 二人、別の場所へと移動するのであった…… 着替えも終わり、現場検証をまだ続けている六課メンバーのいた場所へと戻ってきた千早。「あ、千早、着替え終わったんだ……」 着替え終わった千早を見つけたフェイトはどこか残念そうに声をかける「ん、まあ、こっちの方がデフォだからな。それより聞いてくれ」「何?」「着替えのついでにホテル内の様子を見てきたのだが、とてもかわいい女の子が迷子になっていたのだよ」「そうなの?大丈夫だった?」「ああ、幸いすぐに親御さんが見つかったので問題は無かったのだが、お礼にこれをもらった。思わぬ所でご褒美がもらえたようだ」 愛おしそうに、ポケットからビー玉を取り出すと無邪気な笑みを浮かべる「それは、よかった」「やはり、子供は親と一緒が一番だ。あの安堵した表情を見ると疲れも吹っ飛ぶ。やはり子供は良い」「千早は、優しいんだね」「当たり前だ。ロリコンとは……」「無垢な天使を護る永遠の守護者だもんね」「ほう、フェイトも解っているじゃないか」「うん、私もいつかなれるかな……あの子達の守護者に」 そう呟くと、現場検証しているキャロとエリオの姿を見つめる。その表情は慈愛に満ちていた。そんな彼女の姿に満足そうな笑みで「なれるさ。君にはロリコンの資質がある」「そうかな?でも、そうだと嬉しいかな」「ああ、二人で守ろうではないか小さき者が安心して住める世界……ロリトピアを」「うん」 二人熱いまなざしで腕をガシッと合せる。その笑顔は清々しいくらい晴れやかであった。ちなみに今、なのははというと、ユーノ氏と逢引中である。しかし、後でその様子を聞いたなのはは、現場にいなかったことを激しく後悔することになるのであるが、それは割愛することにしよう……そうして無事今回の任務は終了したのであった ホテルでの現場検証も終え、隊舎にて解散する六課のメンバー達。そうして、解散した後、隊長陣達だけ別の場所に集まっていた ヴィータの提案でエントランスに集まる高町、フェイト、ヴィータ、シグナム達、ティアナの事で少し聞きたい事があるらしい「訓練中から時々気になってたんだよ。ティアナの事」「うん」「強くなりたいなんてのは、若い魔導師なら皆そうだし、無茶も多少するもんだけど時々ちょっと度を超えている。アイツここに来る前に何かあったのか?」「うん」 ヴィータの質問に少し暗い表情で頷くなのは、昼間の無茶な行動の件は彼女らの耳にも入っており、その理由を知っているなのは、フェイト、理由を知らないヴィータ、シグナム、2人はなのはの方へと視線を向ける。 静かに語られるティアナが管理局に入った理由。彼女の兄、ティーダ・ランスターは若干21歳で一等空尉にまで昇ったエリート魔導師であった。しかし、違法魔導師を逮捕する任務において、民間人を庇った為、違法魔導師を取り逃がしてしまう。また、その時の傷が原因で帰らぬ人となってしまった。その当時の、心無い上司が「犯人を追い詰めながら取り逃がすなど首都防空隊の云々」と無能の烙印を押し公表したのである。当時10歳のティアナにとって、それは深い心の傷として残っているのであろうと……「これだから年増は……」 そこまで聞いて一人ごちると立ち上がる千早「千早?」 急に立ち上がった彼に声をかけるフェイト、それを無視してなのはの方へと視線を向けると「さて、今その上司はどこにいる?」「え?本局にいるんじゃないかな?」「ふむ、今からそいつに人誅を与えに行く」「ちょ、ちょっと待ってよ!?行くって管理局に殴りこみに行くつもりなの?」「ああ、当時10歳……当時10歳の幼女の心に傷を残したこと……万死に値する。今のティアナが例え年増であったとしても当時は10歳、私はロリコンとして粛清せねばならないのだ」「駄目だって!?いくらなんでも無茶苦茶だよ?それに一時期問題になって今は反省してるはずだよ!?」「関係ない」「関係ないって……それに、ほら?一人じゃ……」「千早、私も手伝うよ」「フェイトちゃん!?」「ふむ、来るかフェイトよ。」「当たり前だよ。それに、もし、キャロがそうなったら私は許せないと思うから」「ふふふ……良い目をしている。では行こうか修羅の道を」「うん、私のバルディッシュが血に飢えている」「だから二人とも!?落ち着いて!?」 慌てて二人を止めるなのは、今まで一人だったのが二人になったことで突っ込みきれなくなりつつある。そんな三人を呆然と見つめながら「どう思う?」「あたしに振るんじゃねえ。とりあえず二人共ぶっ叩くか?」「いや、今回はテスタロッサがいる。そう簡単にはいかんぞ?」 と冷静にどう対処しようか話し合うヴィータとシグナム。千早だけなら暴力という名の突っ込みで終わるのだが、今回はフェイトが絡んでいる為容易に手が出せない「ちっ……しゃーねえな。あんま使いたくなかったけど、奥の手を使うしかねえか」 埒があかないと判断したのか面倒くさそうに呟くと立ち上がり、千早の方へと向かうヴィータ。そうして彼のすぐ傍まで近づくと一度咳払いをして「コホン……あー」 少し頬を紅くすると、意を決した表情で抱きつくと「千早にいちゃん……ひ、膝枕してもらっていい?」 上目遣いで囁くヴィータを前にした千早は「……何……だと……?」 そう呟いたまま固まってしまうのである「千早の鼓動が……止まった……?」 その光景を見たフェイトが、驚愕していると「……テスタロッサ、そろそろ戻ってこい」 彼女の肩を掴むと苦笑しながら声をかけるシグナム「ああ、うん。ちょっと暴走した。反省してる」 そう言うと、また元の位置へと戻っていくのであった。そのまま肩まったまま静かに座る千早を見て盛大にため息を吐くなのは。彼女は思ったなんでこの人はこんなに現場を混乱させるのだろうか、しかし、それと同時に先程までの重苦しい空気が瓦解していくのを感じるのであった…… その夜、訓練スペースに明かりが灯っていた。ティアナがクロスミラージュを起動し、ターゲットをすばやくロックする訓練をしているようだ。風呂あがりに外の空気を吸おうと散歩していた千早は、ティアナの姿を見つけたので近づくと、不意に木の影から呼びかけられる「ん?ああ、最上の旦那、どうしたんですか?」「ん、ヴァイス陸曹か、君こそ何を?」「あれですよ、あれ、ヘリポートから見えましてね。気になったんで来たってわけでさ」 そう言うと親指で彼女を指さすヴァイス。「帰還してからずっとかれこれ4時間くらい経過してるんで、そろそろ止めねえと」「ふむ」 ヴァイスの説明を聞き、そういえばなのはから彼女が必死になる理由を聞いたなと思いながら、後半何故か記憶が無いなと思いながらティアナの方へと視線を向ける。なるほど鬼気迫る表情でマーカーをロックし続けている。しかし、その動きはかなり緩慢になっていた。「集中力も切れてきているし、これ以上は負担がかかりすぎる。旦那止めてもらえますかい?」「ふむ」 ヴァイスに頼まれ、一緒に木陰から出て行く「ふむ、ティアナよ自主訓練か?」「えっ……」 不意に声を掛けられ集中力が途切れたのかロックをミスしてしまう。それと同時にターゲットが消える「今日は出勤もあったんだ。それぐらいで切り上げたらどうだ?」「ヴァイス陸曹も、お二人ともいつからそこに?」 肩から息をしながら質問するティアナ。顔色も余りよくは無い、それだけにかなり無茶をしている事が伺える「ヘリの整備がしてたらお前さんの姿が見えたんでな」「覗いてたんですか?」 怪訝な表情を浮かべるティアナに肩をすくめるヴァイス「まあな、しかし、お前さん、夕方から休憩無しでずっとやってるだろ?」「凡人ですから、詰め込んで練習しないとうまくならないもので」 彼の言葉を無視して、後ろを向くティアナ。少しイラついているようにも見える「凡人ねえ……」「ふむ、余り自分を過小評価しすぎだな。余り年増を褒めたくは無いがティアナはすごいとおもうが?」 今まで無視していたティアナであったが、千早の言葉に一瞬睨みつけると「そんな事ありません!」 大きな声をあげると、そのまま千早の方へと迫り「最初から強い貴方には、何が解るって言うんですか?」「いきなり隊長になって!あっというまに陸尉になったエリートの……貴方に!」「人間じゃないって……ロリコンで変態で……化物の貴方なんかっ!」「ティアナ!!」 感情をぶつける彼女をヴァイス陸曹が怒鳴りつける。その声にハッとなるティアナ、感情にまかせて自分は彼に何を言った?そう思いながら千早の方を見るティアナ「化物か……ロリコンや変態はよく言われるが、そうか化け物か」 そこには怒っている訳でも、呆れているわけでもなく、やさしく、それでいてどこか悲しそうな笑みを浮かべる千早「あ、あたし……」「ん?気にするな。私がロリコンであることも変態であることも事実、そしてそれが一般的に異常であることも理解している。君からすれば私という存在が化物に見えるのであろう?」 静かに語る千早を見て、徐々に冷静さが戻っていくティアナ「まあ、例えロリコンであろうと変態であろうと、化物であっても私は君の上官。そして幼女は特別な存在であり至高であるが、ロリコンが幼女以外を心配しない道理もない。故に君も大事な仲間だと認識しているのでな。まあいい、私はもう戻るが、程々にしたまえ」「……は、はい……」 千早はそういうと宿舎へと戻っていた。「旦那……俺は旦那のあんな表情今まで見たことねえ……もしかしたら旦那はよほどの修羅場を潜ってきたかも知れねえな」「あ、あたし……とんでもない事を……」 普段飄々と振る舞う千早の見たことの無い表情を見てしまったティアナはショックを受けてしまう。「そう思うんだったら、今日の所は休んで、明日旦那と話をしたらどうだ?」「……解りました」 静かに頷くと宿舎へと歩き出すティアナ、その後ろ姿を見ながらヴァイスはため息をつきながら見送るのであった…… 廊下を静かに歩く千早、その表情は普段とは違い切れが無くなっていた<マスター>「……」<凹むくらいならかっこつけないでください>「言うな……流石に化物は無いだろう?まったく……」<流石の変態マスターでも化物は堪えますか?>「そうだな、ロリコンや変態は褒め言葉なんだが……」<どこに称賛する所があるか解りかねますが?>「何を言う。ガングニールよ、君こそショタコンではないか?」<ショタコンは至高です。例えるなら大地のような広大な心です。母性と同じなんです>「ロリコンだってそうだ。例えるなら大海原のように包み込む深き心……それは父性と同じ」<半ズボン万歳>「ブルマに栄光あれ」<マスター>「ガングニールよ」「<やはり幼女(少年)は素晴らしいな(ですね)>」「む?」<どうされました?>「さて、私は一体何に凹んでいたのだったかな?」<さあ?私達には些細なことだったと思います>「そうだな、しかし、今日は色々とあって疲れた。『はじめてのおつかいミッドチルダ編』を見て眠るか」<はい、おつかいを終えて安堵して母親に抱きつく場面を見れば疲れも吹っ飛ぶことでしょう>「そうだな……やはり母親と戯れる子供の笑顔は癒される。願わくば世界中の子供たちが幸せであるように」<そうですね……せめて目の届く範囲だけは幸せにしたいと思います>「そうだな、そのために私は強くなくてはならない……誰かに疎まれようが、蔑まれようが、それが私がロリコンとしての存在意義。ついてきてくれるか?ガングニール」<私はいつまでもマスターと共にあります>「ありがとう……」 一言礼を言うと、晴れやかな表情で歩いて行く……最上千早、言われなれない中傷には打たれ弱いがすぐ忘れる都合のいい頭をしているのである…… 最近シリアスな展開が多いな……多分シリアスだよ?うん、しかし、この調子でいくとフェイトさんどうなるんだろう? 修正しました