私が生を受けて幾年月、なんどか選択を迫られる事があった。その度に幾度と無く楔を砕いてきた。烈火の将として、何度も死線をくぐり抜けてきた。敵ならば斬る、味方なら守る。しかし、今回はかなり困難な選択肢になるだろう……何故なら「シグナム?申し訳ないんだけど、貴方の下着貸してくれないかしら?」 屈託ない笑顔で下着を貸せと要求してくる変態がそこにいた。目の前の女性が最上であることは解った。恐らくヴィータ辺りに教わったのであろう。しかし、よりにもよって女の姿とは、久しぶりに嫌な汗が背中から流れてきた。さあ、どうしたものか……敵ならば容赦なく斬り捨てるのであるが、残念な事に味方である。否、味方ではないな……「ん?もしかして私だと気づいてないのかしら?剣閃は冴えてても、おつむは鈍いのね」 ああ、やっぱり斬ろう。これは事故だ……仕方が無いはずだ、うん。 そう思っていた矢先「シグナムさんっ!避けてぇえ!!!」<Divine Shooter> 桃色に光る光弾が私の前をすり抜けていくと目の前の変態を巻き込み吹き飛ばしていく。それは一瞬の出来事だった。声がした方へと死線を移すと息を切らしながら仁王立ちする少女の姿が見える ……高町、気持ちは解るが、私に当たったらどうするのだ?そんな風に思えるほどギリギリの距離を通過していった桃色の光弾。周りに気を使う余裕が無かったのか?<Flash Move> 唖然としていたら今度は黒と金色の影が私の前を通り過ぎていくのを確認した。この間実に数秒である。通り過ぎた影を目で追っていくと……「なのは、いくらなんでもやりすぎ……」 今度はテスタロッサが、あの変態を抱えながら高町に抗議している。確かにやりすぎかも知れん。知れんが、何故胸を揉無必要がある?そこは関係無いと思うぞ?「大丈夫?千早君?」 ……テスタロッサ、声をかける場所が違うだろ、胸に声をかけても仕方が無いと私は思うぞ「酷い目にあったわ……」 それは私が言いたい。やはり一言文句を言ってやろうと私は変態へと視線を向ける「いい加減に……」 そこまで言いかけて、私は絶句した。テスタロッサに抱えられながら立ち上がろうとした彼女のスカートがはだけ、あられもない格好をしていた。それだけなら今は同性だ。窘めるだけですむ。しかし、あろうことかこの変態は……「な、なななな!!!何故何も穿いてない!!!」「あっ……」「なぁあ!!?」 すっとんきょうな声と絶叫が同時に木霊する……というかなんだこの状況は……誰か説明をしてくれ「ま、いっか。見られて困るものじゃないし」 何も無かったかのように、誇りをはたきながら立ち上がると、そのままシグナムの方へと向かう。そうして思考が停止していた彼女の目の前までやってくると「で?どうするの?」 上目遣いで彼女を見つめる。その表情に少し後ずさると「……どうするとは?」「だから、下着」「貴様、自分の言っている事が理解できているのだろうな?」「うん、だから下着」「理解しているなら私が貴様に下着を貸す訳が無いだろう」「なんで?」「当たり前だ」「本当にいいの?」「……」「このままじゃ、私ノーパンよ?」「知ったことではない」 腕を組むとそっぽを向くシグナム、これ以上の問答は無用とばかりに無視を決め込むが「ふ~ん、じゃあ、私、これからキャロちゃんとエリオ君とこ行くけど……このままでいいのね?」 邪悪な笑みを浮かべながらとんでもない事を言い出した「それは……」「それはちょっと困るかな?キャロは大丈夫だとして、エリオには教育的に不適切だと思う」「フェイトちゃん、どっちにしても不適切だよ」「キャロは女の子だし、それに千早君がそんな醜態を見せるわけないし」「当たり前よ。あの子たちに見せるわけないじゃない?でも、もしかしたらってね」「ぐっ……私を脅迫するつもりか……」「脅迫だなんて人聞きの悪い。お願いよ?」「そもそも、なんでその姿なんだ。それなら普段の姿で会えばいいではないか?」「だって、最近近づかせてくれないし、それにこの姿の方が色々と安心でしょ?」 言いながらくるりと一回転する千早、どこが大丈夫なんだろうかという表情で困惑するシグナム。苦笑するなのは。そして、目を輝かせるフェイト。「どこが安全だ。何も履いていない貴様が会うなど不安しか浮かばん」「なら下着頂戴」「やらん」「ケチ」「そういう問題ではない」 それから「下着くれ」「やらん」のやり取りが続く。いい加減にうっとおしくなってたので止めようとなのはが前に出ようとすると「あ、なのはさん、それからフェイトさんにシグナム副隊長……誰ですか?」「キャロちょっと待ってよ……え?」 ちょうどそこへ二人が通りかかってくる「ん、キャロもエリオも今からご飯かな?」「はい、シャワーも浴びたのでエリオ君と一緒に」「そうなんだ。二人共今日も頑張った?」「はい……だといいんですが」「大丈夫だよ、二人共すごく良くなってきてるから」「ありがとうございます」「そうなんだ。なのはの教導が厳しくて泣いてないか心配だったから」「それはどういう意味かな?フェイトちゃん」「だって、無茶しそうだし」 苦笑いを浮かべながら談笑しだす二人。その横で睨み合う、シグナムと千早「あ、あの……」 今にもつかみ合いになりそうな二人に近づくキャロ「ん?」「え、えと、もしかして最上陸尉ですか?」 おずおずと質問する彼女に満面の笑みで「Piacere!その通りよ」「やっぱり」「え、ええ!!?」 その答えに驚く二人、返答がイタリア語なのは誰も突っ込まない……「どうして女性になっているのですか?」「どうしてって……んー君達ともっと仲良くなるためかしら?」「仲良くって……今でも仲いいですよ」「なんていうのかしらね……んー?」 首を捻りながら考えると、「!?」 何故か急に、彼女から距離をあける千早「?どうしたんですか?」「ん、なんでもない……」 そう言いつつシグナムの後ろに隠れ出す「何をしている?」「黙って、今は駄目なの」 意味がわからん。というより、先程までと態度が全然違う姿を見て違和感を感じる「私、何か嫌なこと聞いたのかな?エリオ君」「んー違うと思うよ」 不安な表情で話しだす二人を見て「ほら、お前が変な行動するから二人が困惑しているぞ変態」「うるさい。ともかく今は駄目なの」「意味がわからん」「そうだよ?あんなに会いたがってたのに急にどうしたの?」「ん、今はちょっと……」 なんかモジモジしだした。気持ち悪い……「とりあえず気色悪いから、離れてもらえるか?」「それは困るのよ。ほら、だって今私履いてないじゃない?」「何を今更……お前、まさか……恥ずかしいとか言うんじゃないだろうな?」 呆れた表情で質問するシグナムに頬を染めながら「あ、当たり前じゃない」「貴様、先程私にしたことを忘れたとは言わせないんだが?」「シグナムは別にいいの。でも、この子達は別」「意味がわからん」「どうでもいいから、早くパンツよこしなさい!」「わけが解からん逆切れをするなぁ!」「貴方それでも騎士なの!?それでよく烈火の将とか言えるわね!」「騎士は関係無い!」 再び喧嘩しだす二人「あ、あの……」「パンツって……」 そんな彼女らを見て困惑するキャロとエリオ、二人を見かねたなのはが「キャロにエリオ?とりあえず長くなりそうだから、先に行こっか?」「ん、なのは。そうだね。二人共一緒に食べようか?」「はい!」「解りました」 苦笑しながら二人を誘って、食堂へと向かうなのはとフェイト。その後ろでは未だに言い合うシグナムと千早がいた……「だから!貴様は、前から何度も言っているが……」「貴方だって、無駄に太もも晒してるじゃないの!?」「一緒にするなぁあ!!」 彼女の気苦労が絶えることは一生無いのかも知れない……とはいえ、唯一の防波堤である彼女にはこれからも頑張ってもらおうと心の中でエールを送るなのはであった…… ちなみに、その後合流したはやてと共に3時間説教された事は言うまでもない。最上千早、彼はいつも自由である…… そういえば、彼女との絡み書くの忘れてたので追加。シグナム大好きな獅子座でした。二人の絡みが一番楽しいんですがどうでしょう?