八神家でコントばっかりやってて主人公不在のSSはこちらです。
夜も深まってきた八神家の食卓。
団欒とした空気の中、一人空気を読まないかのように浮いた存在が居た。
ご存知八神シグナムである。
彼女はそのうちシグナム・Y・ハルハラになるのだろうか。
それともシグナム・Y・スプリングフィールドになるのだろうか。
後者の場合はなんか別の魔法漫画とのクロス作品みたいなので取り合えず却下である。
おかしい。
しいて言えばシグナムがおかしい。
かわいい系のオーラを全開にし、イスにちょこんと座る彼女は最早烈火の将などではなく、完全に恋する乙女だった。
別に勝負をしていないのにはやてを襲う敗北感。
「女子力……」
ヴィータが思わず呟く。
戦闘力たったの2か、ゴミめ。
そんな幻聴が聞こえた気がした。
そういえばさっきから妙にいい匂いがしないだろうか。
ファブリーズの新作かな、などという冗談すら浮かばない、シグナムから流れてくる匂いだった。
「……仕事の会食以外で最後に香水使ったのっていつやったっけ」
「地球でやったはやて達の成人のお祝いかな……ってそんなに自分を追い詰めちゃだめだって!」
ちなみにはやてはフェイトと同じ歳。
1話の冒頭を読者の皆様は覚えているだろうか。
つまり2年前である。
「何ちゃっかり自分は違いますみたいな顔しとんねんヴィータ!!」
「アタシは毎日教導が終ったあとちゃんとエイトフォーしてるもん!」
「ヴィータそれ香水ちゃう……制汗スプレーや」
「え?女子高生向けの香水だろ?地球じゃラブプラス起動したDSだって使ってるんだぜ、ニンテンドーも使ってるんだから間違いねーよ」
「アカン、どこからツッコミ入れればいいか本気でわからへん」
※余談ですがラブプラスにエイトフォーをかけるとねねさんの香りがするという実話が存在します
「しかし驚いたな……細かなしぐさまで変わっている。デバイスを放せば、お前も女なのだな。いや、女になったのか。お前の成長を、仲間として俺は嬉しく思う」
「ザフィーラも良い事言ってシメに入らんといて!」
「フッ、ここは素直に礼を言っておこう」
「俺もそうだな……散歩以外の趣味でも作ってみるのも、案外悪くないのやもしれん。現状への満足は成長を阻害する。お前のヒトの心への理解の欲求を近くで見て、本当にそう思うよ」
「スルー……やと……?!」
自分の扱いに戦慄するはやて。
この短い間に随分何度も戦慄しているが、着替えただけでここまで変わるシグナムは確かにビックリだ。
シャッハとかティアナ辺りが目撃したら驚愕のあまり顎が外れてしまうかもしれない。
そういえばティアナも結構リボンとかのアクセサリーや私服のセンスがよかったような……
がたん!
はやては突然立ち上がり、吼える。
「顎外れろ!!」
「はやてちゃん本気で収集つかなくなるのでこれ以上脱線しないで欲しいです」
「あ、すいません」
リィンフォースが腰に両手を当てぷんすか!といった感じではやてにストップを掛ける。
あれ?何でこんな流れに?
とても理不尽……でもないがどこか釈然としないものを感じながらはやては席に着いた。
「でもシグナムを見る限りもう十分に恋してると思うんやけどなぁ……まだ足りないん?」
「私もその片鱗を掴み取った感覚はあるのですが……まだ確信には至らず……春原にも辛い思いはさせてしまっているとは理解しているのですが」
そりゃなぁ。
こんだけかわいいシグナムが隣に居てキスまでしかできないとか拷問やろなぁ。
「あら?でも片鱗は掴んだんか」
「えぇ、主はやて。私は恋の淵に手を掛け、ある言葉の意味を理解できました」
「ほうほう、ちょっとはやてちゃんに報告してみい。参考にするから」
必死すぎる。
ヴィータは目頭を押さえて首を振った。
そういえばこの手の話題に食いつきそうなシャマルは……と見てみると、メモを片手に目を見開いていた。
正直キモイがそっとしておくのが仲間のやさしさだろう。
『話してみると何気に頼れる良い人 三年連続1位 (部下へのアンケートによる)』のヴィータは伊達ではない。
「実は私は……3年程前からずっと不調が続いておりまして」
「えぇ?気付かんかったんやけど!普通にショックやわそれ」
「いえ、体調面では問題が無かったのですが……どうにもデバイスが重く感じたり、仕事にやる気がでなかったり、気付けば遠くを見ていたりと……無気力、というのでしょうか。胸に穴が開いたような、何か大切な物を失くしてしまったかのような感覚に、いつも苛まれていたのです」
「くっ……まだダメや……静まれウチの左手……!」
はやての右手は今にもスナップを利かせそうな左手を押さえている。
「五月病か!」という叫びもなんとか飲み込んだ。
「私も流石におかしいと調べたのですが……バイタルチェックに問題は無く、しかし調子の良い時と悪い時の周期があったため、そこから原因を逆算してみる事にしました」
「ふむふむ」
「そして、春原との因果関係が統計的に明らかになったのです。具体的に春原に会うと症状が改善され、春原と長く会わないと症状が悪化しました」
「そこは統計的に出す所やないやろ……」
「ふむ。情緒、といった物ですか。まだ私には理解が及びませんが……そこで私は、私の状態が人間のとある症状と酷似していると気付きました。それは」
「それが恋に落ちるって現象やな」
「いえ麻薬中毒の患者と非常に近い行動パターンが検出されたのです」
「台無しすぎるやろ常識的に」
「成る程『恋は麻薬』とは、このような状態を指し示す物だと。またプログラム体である私でも脳内麻薬は精製できるのだと知りました」
「なんやろ、今急に圭一くんに謝りたくなってきたわ」
「つまり……その時のシグナムの思考データをトレースすれば私も愛されふわモテガールにっ!!」
「ないわー」
ぐっとこぶしを握るシャマルを一撃で切り捨てるはやて。
今宵も虎鉄は血を求めていた。
「ま、シグナムも室内でコートはそろそろ暑いやろ。皺にならないように衣装ケースの奥に仕舞い込まずにちゃんとクローゼットにかけるんやで。こっちはあとは片付けだけやし、今日は寝とき」
「では、お先に失礼します。主」
退室するシグナムを見送ると、はやては両手を組んだまま上に「んっ!」と伸ばし、続いて「ほぅ…」と溜息をついた。
「まさかバトルマニアに女子力で完敗するとは……」
「元からだろ、はやての場合」
「ちょっヴィータ!それは聞き捨てならんで!アレは私の女子力が低いんやない、シグナムが高すぎるだけや!!」
「いや、な?落ち着けってはやて。ならちょっと立ってみなよ。ザフィーラはちょっと後ろ向いてろ」
「なんやねんなんやねんホント、ちょっと今日のヴィータははやてちゃんに対する優しさがたりないんとちゃう?……ってきゃあっ!!」
ヴィータは立ち上がったはやてに近づくと、突然はやてのTシャツをめくり上げ、ホットパンツをずりおろした。
「ほらやっぱり」
「な、ななななにすんねん!」
ずざざっ!とはやては後ずさり、衣服をなおしながら叫ぶ。
しかしヴィータは全く動じずに答えた。
「ぱんつが水色の縞々でブラがピンクの花柄ってズレすぎだろ。休日だからって下着くらいタンスの上から使うのやめよーぜはやて」
「ぐああっ!!」
「シグナムは常在戦場だからな。アイツなら今も下着の上下は揃ってる筈だ」
ぐっと胸を押さえてうずくまるはやて。
今日一番の衝撃、ブレイカー級が直撃だった。
まさか、まさか合法ロリに下着の組み合わせについて指摘されるとは!!
しかしどこからどう見ても悪いのははやてである。
「終った……グッバイ、私の青春」
「大丈夫だって。青春に期限なんてないってエ○レカセブンでやってたし」
「エウ○カが言うなら間違いないな」
少年ハ○トによりはやては立ち直った。
どこに立ち直る要素があったのかは若干疑問である。
「それに圭一のヤツ、昔ははやての事好きだったって言ってたぜ?」
「え?それマジバナ?」
「ちょ、はやて近い。顔が近い」
「いやそれ超重要情報やん。何ではやてちゃんに報告がないねん。庭先にロストロギア落ちてんのに放置するようなもんやろ」
「時期が時期だったしなぁ。ホラあたしが去年フられた時にさ、ちょっと圭一と飲んだんだよ。そん時に聞いた」
「圭一くんとサシで飲むヴィータとかいろんな意味で想定外すぎるわ。っていうかヴィータってお酒飲んだりしたっけ?」
「あぁ、アイツほらビールとか嫌いだろ。カシスリキュールとか瓶で持ってるからアイスティーで割ったりして飲んだりしてさ」
「それ去年仕事後に缶ビールばっかり飲んでみんなに苦い顔されたウチへの当て付けか」
「ちげーよ!……んでまぁアタシはそのカシスをハーゲンダッツに掛けてさ」
「それ飲んだって言わへんからな普通」
「でまぁ……美味しかったよ」
「終わりか!!」
「落ち着けって。んでそん時にじゃあ誰と付き合ってんだって話になってさ。当てれたら教えるから5人まで上げてみろって言われてよ」
「まぁ5人だったらシグナムは出てこんよな……ん?候補つったらウチとなのはちゃんとフェイトちゃんと……あと2人誰を上げたん?」
「大学の友達とティアナだけど」
「私じゃないの?!」
「シャマルはちょっと皿洗いしてような。そもそも圭一くんティアナと面識ないやろ」
「いやーそうなんだけどさー、アイツきっとティアナみたいなヤツ好きだぜ……誰それとか言われたけど。まぁそん時は酔ってたしそのへんまで頭回らなかった。下はアタシから上はリンディさんまで守備範囲とか言ってたし。でなのはから順番に聞いたけどアタシの中じゃ本命はフェイトだったんだよね」
「え?ウチ大穴扱い?っていうか今色々と聞き捨てならない言葉が聞こえたんやけど」
「あん時は確か……」
「CMはいりまーす!」
※ちなみに主人公含めなのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかの成人パーティーは翠屋で行われ、地球産まれ以外の参加者はハラオウン家ご一行とフェイトの家族扱いのエリオとキャロ。
ヴィヴィオは夜だったのでお留守番で、地球側のお祝いということでシャーリー、スバル、ティアナ達は来ていなかった。
酒の入った桃子が「ちょっとあの棚の上のお茶の葉を取りたいんだけれど……(チラッチラッ」などとはっちゃけ始め、後半は参加者全員に踏みしめられる事になった圭一である。
後日ばっちりすずかが撮影したテープを体で買取るハメになったのは言うまでも無い。
~~~~~~~~~
なのは「ひとつだけ、わからない物語があるの。
何のとりえも無い女の子が、魔法に出会って、空を飛べるようになったの。
魔法の力で、いろんな人を助けられるようになったの。好きになった人が居て、結婚したの。
小説家になりたいっていう好きな人を支えたくて、仕事に一生懸命になったの。
家事も頑張ったの。
でも夫は女の子の前から姿を消してしまったの。何が悪かったのかな」
ユーノ「物語は、ちゃんと理にかなっているよ。
主人公は完璧だし、周りもちゃんとやってる。
女の子は誰かを助けるために、夫を助けるために空で戦いエースになった。
小説家になりたかった男は結局、命を削っても一作も作り出す事ができなかった。
それでそろそろ、才能が無い小説家志望が、良くある不治の病で物語から消える。それだけさ。
想定外だったのは、女優が控え室まで夫役の俳優を追いかけてきた事くらいかな」
なのは「ユーノ君……」
ユーノ「なのは……僕は……君を……」
リリカルデットエンド にじファンにて絶賛公開停止中!!
~~~~~~~~~
「CMあけまーす!圭一さんスタンバイいいですか?回想編スタート5秒前……3、2……」
バレンタインも3週間が過ぎ、世の中のチョコを貰えた男子はさてお返しは何にしようかと頭を捻る頃。
(ちなみにこの年(時系列的に去年)のホワイトデーにシグナムにプレゼントしたのが前回登場した鍵型ネックレス)
「いい事思いついた。このカシスとハーゲンダッツをミキサーにかけてシェイクにすると……?」
「圭一っ!お前天才か!!………ってちげーよ!!お前の彼女だよ彼女!!」
大学三年生を間近に控えた青年、踏み台の転生者こと春原圭一と鉄球の騎士八神ヴィータは男女間のアレを肴に海鳴市のとあるアパートで酒を飲んでいた。
圭一は手に持っていたカシスのアイスティー割りをぐいっと飲み干すと、カシスリキュールとアイスティーをコップに注ぎ始める。
カシスはドンキで、水出し紅茶は100均でそろえている辺り、大学生の彼の懐事情が伺えた。
予防線を張るが、彼の好物はハーゲンダッツと広島焼きである。
流石にいつ来るかも解らないヴィータのために買いためる余裕は無かった。
この頃はしょっちゅうタカられていたが。
「わかった、どうせなのはだろ?」
「ぶっぶー。残念賞のヴィータさんには駅前でもらったこのアメ玉つき英会話教室のパンフレットを……」
「え、だって仲良くなかったかお前ら。去年の成人パーティーだって楽しそうにしてたじゃん」
「いや高町さんとは仲は良い方だと思うけどさ……アレから丸一年連絡何もとってないし」
「でもどうなんだよ。なのはだって黙ってれば美人じゃんか。胸もでけーし」
「んー。まぁ確かに美人になった。スタイルも良いし性格も明るい。落ち込んでたら励ましてくれそうだし子供の面倒見もよさそうだよな……だけどまぁ、高町さんは無いな」
「えぇー?もういーじゃんなのはで。どこが気に入らねーんだよ」
圭一はかき混ぜていたコップをちゃぶ台の上にの置くと、腕を組んで「むぅ」と唸った。
「俺になー。リンカーコアがあれば多分もうちょっと話は変わってくると思うんだけど」
「リンカーコアは関係無いだろ」
「男にはあるんだよ。いいかいヴィータさん。大学生くらいになると、だいたいの男ってのは女と付き合う時に、『この女と将来結婚するんだろうか?』っていうシミュレーションをするモンなんだよ」
「アイツ子供の面倒見はいいぜ?お前も言ってたじゃんか」
「いや、そういうのじゃ無くてさ。例えば今なんかがそうだけど、俺って高町さんへの連絡方法って無いじゃん?そりゃ親御さんが倒れたりしたらクロノ君の別荘?ハラオウン家の海鳴出張所に駆け込むくらいはするけどさ」
「まぁ、そうだな」
「そうなるとだよ、高町さん側から俺に対する強い好意が無いとそもそも関係として成り立たないわけだ」
「あぁー、つまりアレか?なのはから告白したらアリってヤツか?とんだチキンだなお前」
「いやそれだけじゃなくてさ。将来どうすんの?って話だよな。結婚したとして地球とミッドのどっちで暮らすんだよ。最初から別居だったら結婚する意味ねーしさ。ミッドじゃ俺ミッド語覚えなきゃ就職すら怪しいじゃん。嫁さんが高収入のエリートでさ。それってなんか辛くね?っていうか俺大学行ってる意味なくね?んで高町さんも魔法から離れられないじゃん」
「………んっんー。んー。あー、解るっちゃ解るんだけどよぉ……なんかこう釈然としねぇなぁ……もうっとこう……若さに任せて何も考えずに付き合っちまえばいいのに」
「だから仮に付き合いはじめても長続きしねーって言ってるわけで」
「よし、じゃあフェイトだ。アイツ惚れた相手には一途そうだし。結婚する頃にはエリオもキャロも独り立ちしてるだろ」
「エリオ?…あぁあのボーズ達か。そういや女の子の方から翠屋経由で伝言あったな」
「おいキャロに手ェ出したら犯罪だぞ」
「いやボーズと地球でデートしたいからデートコースのプラン作るの手伝って欲しいんだってよ。去年の成人パーティーで応援するぜっ!って言ったの覚えてたらしい」
「そうかぁ、アイツらがなぁ……って違ぇーよ!フェイトの話だよ!」
「フェイトさん?それこそ無いわ。無い無い」
「贅沢すぎだろお前。フェイトの何処が不満なんだよ」
「フェイトのお袋かアンタ……何でこう男心がわかんないかなぁ」
圭一はふぅ、と酒臭い息を吐くと天井を見上げて目を閉じた。
10秒ほどそうしたあと、つい、とヴィータに視線を戻す。
「アイツってさ、なんつーの?『美女!説明終了!!』って感じじゃん?美人過ぎるって言うの?俺の知り合いってやたら美人多いけどさ、ブッ千切りじゃんアイツ。アイツを超えるどころか並ぶくらいの美女なんて見たことも無い」
「いいじゃねーかそんだけ美女なら」
「だからそこが無いんだよ」
圭一は首を振ってヴィータを否定すると続けた。
「男が美女を連れて歩く時の頭の中は2パターンだ。『俺の彼女こんな美女なんだぜ!』か『何でこんな美女が俺の彼女なんだろう』ってのな。心の中じゃどこか不安があるのさ。彼女にとって自分は本当に価値がある人間なのか。他にもっといい男がいればそっちに行っちまうんじゃないか……ってな」
「おめーの器がちっちぇえだけじゃん」
「あぁそうさ。俺の器は小さいんだ。俺だってイケメンを自負してるし、正直たまに『ちょっと髪切ればルル様に激似!』とかキモイ事思うけどさ。それでもアイツの隣に歩く時は劣等感を隠し切れんわ。……まぁそうだな。そんなの気にならない位お互いに好き合ってれば違うかもしれないけど。……アイツ俺のこと知り合い以上友達以下くらいにしか思って無いだろうしなぁ。ミッドから集団里帰りしてきて皆でパーティーしてる時も殆ど会話した事ないし。こっち居た頃は人見知り激しかったしな」
「お前めんどくさいな」
「男の本音なんてそんなもんさ」
圭一はぐい、と手元の酒を飲み、ヴィータはかき混ぜてシェイク化したアイス(カシス入り)を口に運んだ。
「じゃあまさかよぉ……はやてじゃねぇだろうな」
「一緒に暮らしてれば解るだろ」
後から振り返るとえらい皮肉である。
「でも八神だったらそうだな、付き合ったら楽しそうだ」
「おいここまできてはやてだけオッケーなのかよ」
「昔好きだったしな」
「あぁ?!だったらお前………そういや闇の書でごたごたしてた頃一番見舞いに来てたのってお前だったか」
「俺あの頃いろいろあって男友達少なくてなー。今だから言えるけど八神ってヒッキーだったからマンガとかゲームとかイロイロやっててさ、話が合うのって八神しかいなかったんだよ」
「………思い出した。そういやガキのクセに毎回なんかフルーツ持ってきてたよな。そういやアレどうしたんだ?」
「高町さんの実家に頭下げて高校に入ったら金作って払うからって安くわけてもらったんだよ」
「そこでコネ使った上に後で払う気満々なのがお前らしいよな」
「まぁいろいろあってチャラになったんだけどさ。正直あそこいいフルーツ使ってるから無利子分割払いでも高校生には辛かった」
「チャラってお前……いや、察した。でもなー、いくら趣味が合うからってガキの頃マンガの話で盛り上がったからって付き合うのはちょっと違うだろ」
「あぁ違う違う、それ当時の話な。今はそうだなぁ……例えば高町さんとかフェイトさんと居る時はさ、ちょっと良い所見せたいっていうか、背伸びしてなきゃいけないっていうか……常に気を張ってる感じなんだよな」
「どう見ても自然体なんだが」
「いや一緒に居るだけで気ぃ使うっていうか神経磨り減るんだよ。その辺り八神はなんつーの?そういう無駄な努力とか笑い飛ばしてくれそうっていうかさ。自然体で居られるって言うか……一緒に居て楽なんだよな。逆説的に言うと高町さんとフェイトさんは一緒に居て疲れる」
「身も蓋もねー」
「でも一番重要なのはソレだろ。一緒に居て疲れるようなヤツとは付き合えない。どんなに相手が上玉でもな」
「ちぇっそうかよ………となると……ティアナとか?」
「いや誰?」
「そういやお前会った事無いな。解りやすく言うとホラ、なのはの部下だよ」
「へぇー」
「あークソッ!だめだワカんねぇ!んじゃ大学の友達だろ?それしかねー」
「ぶっぶー、正解はヴィータさんの知り合いの中に居る、でしたー」
「マジかよ!あとは……リンディさんくらいしか残ってないぞ……あとはアルフくらいか?」
「クロノ君のお袋さんなら守備範囲だけど流石にこの歳で同世代の息子とか無いわ」
「年上趣味だったのか?!」
「いやヴィータさんも全然守備範囲だけど」
「テメー!!アタシはもっと年上だっつってんだろ!!」
「アイスのおかわりくう?」
「食べる!!」
~~~~回想終了~~~
「って事があってさ……はやて?」
話が終ってふとヴィータがはやてに視線を戻そうと見上げると、はやての姿はそこには無かった。
部屋を出て行く気配はしなかったが、はて……と見回すと、居た。
「ウチは……ウチはなんてもったいない事を……」
『orz』のポーズで足元に崩れ落ちる夜天の王。
中学校の卒業式、もしあの場ではやてが圭一に告白でもしていた場合、歴史は変わったのかもしれない。
ふと、ヴィータは気付く。
例えばシグナムとなのはを比べた場合、シグナムが美人よりでなのはが可愛いよりになる。
『いや一緒に居るだけで気ぃ使うっていうか神経磨り減るんだよ』
ならシグナムと一緒に居ても劣等感を覚えたりはしないのだろうか。
しかし、彼らは実際7年間付き合いが続いているという。
『……まぁそうだな。そんなの気にならない位お互いに好き合ってれば違うかもしれないけど』
「あぁ、そうだな」
「やろやろ?しまったぁ……ウチのバラ色の青春が……」
アタシが認めるよ。
確かにお前らは、恋人だ。