国王を連れた行列が、綺麗に整備された街道を真っ直ぐに進んでいく。 魔法の力で進む国王専用車の周囲では、仰々しくメッポーに騎乗した騎士が守りを固めている。 車の窓から見える騎士の姿は、いたって真面目なもの。車のフロントガラスからは、騎士が騎乗するメッポーが速度を揃えて進んでいるのが見える。騎士の騎乗姿は、旅の疲れを表に見せない立派な姿勢だ。さすがは国王の率いる行進である。 都市部からは離れた街道だが、王国最強の近衛騎士団に喧嘩を売るような山賊はいないはずだ。騎士達にかかれば、百人を超えた山賊集団でも軽く打ちのめすだろう。 ちなみに、この国における山賊というやつは、大抵が鋼鉄の国から流入した流民だったり破壊工作員だったりするらしい。ゆえに、鋼鉄の国が塩の国に併合され領土内が安定してしまえば、隣国であるアルイブキラは山賊の類が減っていくだろうと想定される。 と、そんなことを国王が車内でぺらぺらとしゃべっていた。 私は国王の話を聞きながら、窓の外を眺めた。国王専用車はガラス窓が側面に備え付けてあるが、車内に涼しい風を吹き込ませるために私の座る席側の窓だけは開けられていた。賊によって車外から矢が射かけられたら危険極まりないが、開いた窓から国王には射線は通っていない。 エアコン機能がこの車に備え付けられていたら窓を開ける必要も無いのだが、この世界の表層の住民にそこまでハイテクを求めるのも酷だろう。「今日は、次の村で宿泊だったわね」 国王の話が途切れた後、パレスナ王妃がそのようなことを国王に尋ねた。国王も、それに「ああ」と頷き、二人で窓の外を眺めた。 空に浮かぶ人工太陽の光は、天辺の位置からはやや西側に傾いている。人工太陽は魔法で作られた照明だが、本物の太陽と同じように時間経過でその位置を変える。 夕刻まではまだまだ時間はあるが、これから行くのは王都のような街灯など存在しない地方の農村だ。人工太陽が沈んだら就寝の時間である。 農民は富裕層なので、明かりを灯すための油代が出せないほどではないし、光の魔法を習得するだけの教養もあるだろう。 それでも、スイッチ一つで蛍光灯が灯るという前世ほどの利便性はないため、日が沈みきったら活動の時間は終わりである。 その代わり朝は日の出とともに活動を開始する。 これは、農民に限ったわけではなくこの王国の民全体でも言えること。王都だって、魔法の街灯はあるが夜出歩くのは遊び人くらいだ。つまりはそう、今の私は前世とは比べものにならないほど早寝早起きということだな。「お、畑が見えてきたねー」「そうね。何を育てているのかしらね」「向日葵麦だね」 窓の外を見ながら、国王とパレスナ王妃が会話をしている。 向日葵麦はこの国における主要穀物で、前世における麦のような性質を持ち、粉にすればパンの材料になる。 車は進み、向日葵麦畑が近づいてくる。それにつれて、本日のお話し相手を担当している、侍女メイヤの顔つきが悪くなっていった。 うっすらと堆肥の臭いがしてきたからだ。 だが、パレスナ王妃や国王は臭いを気にした様子は見せない。国王は農村の視察など慣れたものだし、パレスナ王妃は領主の娘なので農村にも訪れたことは何度もあるだろう。一方、メイヤは魔法使い系の貴族の出。都会っ子なのだ。「それにしても、野宿があると思っていたけれど、意外とそんな機会はないのね」 窓の外から目を離さず、パレスナ王妃が言った。「そうだねー。この街道は西に向かって流れる大河に沿って作られているんだけど、川の近くというのは農業用水が確保できるってことだから、自然と農村が集中して作られることになるわけだね」 さすが国王は地理に強いのか、そうパレスナ王妃に向けて解説した。「私が思うに、この国は川沿いに関わらず村と村の間の距離が短い気がしますね」 そう私は国王とパレスナ王妃の会話に乗った。 この国は、前世の日本ほど人口密度は高くない。当然だ。だがそれでも、この世界に限って言えば、この国は人口密度が高めだ。きっと、豊富な食料資源による恩恵だろう。 そして、国王の言うとおり、川の側には農村が並んでいる。この国では大雨による増水という現象が、農閑期である雨期以外に存在しないので、川の水は全て農業用水として安全に利用できるのだ。 そんなことを念頭に置きながら、私は続けて言う。「そういえば、大河の傍には農村がある一方、町の多くは大河から離れた場所にありますよね。水の傍は農地優先だからですかね?」「そうだねー」 国王が肯定の相づちを返す。 大人口を抱える町のそばに大きな川がないと、飲料水や生活用水の確保に難儀しそうなものである。 だが、そこは惑星とは違う世界樹の上。町の飲料水は、王族が国土調整して地面から水を湧かせて、それを町中に用水路として引いている。ちなみに地方の町のトイレは汲み取り式だ。汲み取った物は、魔法で処理されて肥料となる。人糞肥料に付きものの寄生虫の類も、高度な魔法で全て死滅するらしい。「町と言えば、この国の都市部ではおおよそどこでも公衆浴場があるのが他の国との違いですね」 私がそう言うと、パレスナ王妃は目をまたたかせた。「あら、そうなの?」「ええ、風呂の文化が存在しない国も多いですよ」 地方の町では王都周辺のように天然温泉があるとまではいかない。それでも、町民は数日に一度は公衆浴場に通うようだ。 おかげで町は清潔に保たれ、疫病の類も発生しにくい。そのおかげで、この国の平均寿命は七十歳弱と、制限された文明レベルにしてはなかなかに高い。というか『幹』側としては総人口を抑える必要があるのに、この国は平均寿命が高すぎる。 なお、公衆浴場があるので、大きな町の周囲では薪を確保するための林業が盛んだ。木を植え、育て、切る。管理された林業である。「植物が育ちやすいこの国では木材が豊富で、短い冬も燃料には事欠かないのも、この国が豊かといえる一つの要素ですね」「ありがたいことだよね。でもね、キリリン。最近農村部では冬場の燃料が不足しているんだよねー」 国王の言葉に、私の顔は引きつった。「どういうことかしら?」「どういうことなんだろうね。キリリン、説明してみて?」 ニヤニヤ笑う国王が、私の発言をうながしてくる。「……農村では、冬に木材で暖を取るのはイケてない扱いのようなんですね。自分達で育てた向日葵麦の麦わらを炭にして、それで暖まるのが農民の風流な生き方なんだそうです。でも、麦わらは近年不足気味でして……」 向日葵麦の麦わらは、麦わらと言うかぶっとい茎だ。木の小枝ほど太い。麦から連想して私が勝手に日本語訳で、麦わらと呼んでいるだけである。「言われてみれば、農村の囲炉裏の炭火って、向日葵麦の麦わらだった気がするわね。でも、なんでわざわざ薪を使わずそんなことを?」 パレスナ王妃が不思議そうな顔をして尋ねてくる。「そこはまあ、そういう流行だとしか……」 いや本当、そうだとしか解らない。どうなっているんだ。 その答えを知っていたのは、国王であった。「あー、農民の人達はエリート意識が強くてね? 安い木材で冬を越えるというのが、我慢ならない種族ってわけ」「安い代替品があるのに、流行だとか風流だとかで冬の寒さを我慢するのは、ちょっと理解できませんわね」 シティガールのメイヤがあきれた風にそう言った。 でもメイヤさん。流行とか気にするのは、貴女の在住している王都こそ激しいと思う所存ですよ?「しかし、なんで向日葵麦の麦わらが不足しているのかしら? 向日葵麦が不作だなんて、聞いたことないわよ?」「そこなんだよねー。まあ、大体キリリンのせい。全部キリン・セト・ウィーワチッタって奴が悪いんだ」 パレスナ王妃の疑問の声を受けて、国王が突然私を口撃し始める。 国王の言葉に、パレスナ王妃とメイヤはまたもや疑問符を頭に浮かべた。「ほらほら、キリリン白状しなよ。自分の悪行を」 くっ、こいつめ。「はあ……実は上質紙って、向日葵麦の麦わらが原料なんですよね」 私はそう言葉を放つが、まだ二人はピンとこないようだ。「私は前世の知識からくる様々な商品アイデアをティニク商会に流しているんですが……カードや漫画や推理小説がこの国で当たってしまいまして」 ティニク商会が上質紙を使う事業を推し進めた結果、上質紙の材料に向日葵麦の麦わらを使うせいで、冬の農村では麦わら炭が不足して困ったことになったわけだ。 このことは以前にも国王直々に苦言を言われた。「娯楽で燃料不足になるのも、風流で冬の寒さを我慢するのも、どっちもお馬鹿だね」 じっと私の腕の中で黙っていたキリンゼラーが、そんな感じに解りやすく人間の愚かさを語ってくれましたとさ。◆◇◆◇◆ その後一行は無事に村に到着し、私達は車から降りた。 村は野獣や魔物の侵入を守るための塀が村をぐるりと囲み、その塀の外側に畑が広がっている形だ。 車の停車位置は、村の中央の広場。その広場の中心には、世界樹教の施設が建てられている。あちこちの村々でよく見る木造建築の教会である。「ようこそおいでくださいました!」 村の顔役達だろうか、幾人かの男達が複数名広場に並んで国王を迎え入れていた。「うん、ご苦労。今晩は世話になるよ」 そう国王が彼らに言葉をかけると、村人達はうやうやしく平民の礼を返した。 そして、男達の中から年かさの男が一名、前に出てきた。「今夜は歓迎の宴を開かせていただきます。わたくし、この村の粉挽きをしております。なんなりとお申し付けください」 そうして私達は村の集会場に案内され、宴の用意が始められた。 国王とパレスナ王妃が座る席から少し離れて、侍女の席に私は座る。すると、横に座ったメイヤが少し興奮したように話しかけてきた。「キリンさんキリンさん、粉挽き! 粉挽きですって!」「うん? 粉挽きがどうかしたかい」「村長ではなく粉挽きが陛下の案内役になるとは、本当に『ミニーヤ村の恋愛事情』で読んだ通り、粉挽きはあれなんですね!」「ああ、あれね。代官」「そう、代官ですわ!」 粉挽きとは、水車を使って向日葵麦を麦粉にする職人のことだ。 その粉挽きだが、この国の農村部では代官が就く役職なのだ。 代官は村人達から税の他にも、水車の使用料を徴収する。水車はある種の精密機械ともいえるため、高価であり領主の持ち物なのだ。 なので、水車を村人達が勝手に使わないよう、代官は粉挽きを兼任するのだ。 ちなみに風車は存在しない。世界樹の上は風が弱いからな。「それでそれで、粉挽きは杜氏でもあるのですよね!?」「そうだね。向日葵麦で酒を造っているね」「はああ、本で読んだとおりですわー」 嬉しそうにメイヤがキャッキャとはしゃぐ。 代官は税と水車利用料を村から吸い上げる。そしてその資金で村から作物を買い取り、酒造を行なう。 結果、本来なら税を搾り取っていくため険悪な仲になるはずの代官と農民だが、酒の力と作物購入のお得意様という関係上、仲はそこまで悪くならないのだとか。「本では、粉挽きに酒造にと仕事が多いので、代官は大所帯と書いてありました。ここの代官はどうなのでしょう」「この村はホドラント領ですから、ファミー様に聞けば知っているかもしれないね」 はしゃぐメイヤに、私はそう応えた。 代官は税を取り立てる役人だから、領主の家の分家だとか、もしくは後を継げない三男四男の血筋だとかが任されたりするようだ。「はあ、本の中の世界がこうして広がっているのは、ちょっと素敵ですね」「ずいぶんと気に入っているようだね、『ミニーヤ村の恋愛事情』」『ミニーヤ村の恋愛事情』とは、王妹のナシーが書いた恋愛小説だ。メイヤは確か、カヤ嬢に勧められて読んでいたはずだ。「今回の旅程で農村を経由すると知って、カヤさんに借りて再読してきたんです」「なるほど」 シティガールのメイヤにとって、農村の生活というのは新鮮に映るようだな。 そうして宴が始まり、代官自慢の酒も出され場は盛り上がっていった。 メイヤも途中で席を外して、ファミー嬢の方へと向かっていた。面識はさほどないはずだが、酒の勢いで絡みに行ったのだろうか。まあ、彼女も一流の侍女だからハメを外しすぎるということはないだろう。 私は一人、向日葵麦から作られた酒を飲む。 すると、私の席の近くにこの村の村長が近づいてきた。「キリン様、ご無沙汰しております」 小声で村長が私に話しかけてくる。「ああ、どうだい調子は」「おかげさまで。ですが、一応確認のほどを……」「今夜にでも見に行く」「それはそれは……」 この村の村長とは、ちょっとした知り合いだ。だが、あまりそれを周囲には知られたくない。意を汲んでくれたのか、村長はすぐに離れていった。 そして酒宴は進み、料理も見事に平らげられ、場はお開きになった。 国王夫妻と護衛の騎士数名は代官宅へ泊まり、夜番担当の騎士がその周囲を固める。 私達侍女とファミー嬢は村長宅へ。残りの騎士達はこの集会場で雑魚寝だ。キリンゼラーの使い魔は護衛という名目でパレスナ王妃に預けてある。 やがて夜も深まってきた頃。私は布団から抜け出した。 居間に出ると、そこには村長が待ち構えていた。「お待ちしておりました」「行こうか」 小声で言葉を交わし、そのまま村長宅を出る。 空には人工月が浮かんでいるが、月明かりだけでは暗いため小さな明かりの魔法を使い村の中を歩く。 案内されたのは、小さな小屋。魔法の明かりを灯しながら中に入ると、小屋には地下への階段があり、私達はそこを下っていく。 ひやりと肌に冷たい空気が触れる。土壁の地下室。ここは村の氷室(ひむろ)だ。 氷室とは、広い穴を地下へと掘り、そこに冬場の雪や氷を積んだ一種の冷蔵室のことだ。夏場でも氷室の中では、氷が溶けきらずに残るほど冷却の持続力がある。 その氷室に、私達の秘密のスポットがあった。 魔法の明かりを氷室に照らし、私は“確認”をする。「良く育っている。不調もない……」「それはようございました。では、手はず通り王都に……」「ああ、順次送ってくれ。ふふふ、王都の民もこんなところで育てられているとは思うまい……」「全てはキリン様のおかげですな。貴族の方々が手玉に取られる姿が見えるようでございます」「くくく、村長、おぬしも悪よのう」「いえいえ、キリン様ほどでは……」 二人してほくそ笑んでいた、そのときだ。「何をしているお前達!」 突如氷室の中が強い光で照らされ、入口から何者かが侵入してきた。「な、何奴!?」 村長が、焦ったように振り向く。「村長、この顔を見忘れたのかい?」 そこにいたのは、国王であった。その隣には、近衛騎士のオルトの姿も見える。「へ、陛下! これは御無礼を! なにとぞお許しください!」 村長は慌てて平民の礼を取った。 さらに、国王の後ろから代官とパレスナ王妃が入室してきた。「うわっ、何よこれ!? キリン、どういうこと!?」 氷室の中を見て、パレスナ王妃が悲鳴じみた声を上げる。 彼女の視線の先にあったのは――「……氷蜘蛛の巣です」 私は苦々しい思いで、この氷室の秘密をパレスナ王妃に告げた。 氷室の中には食料ではなく、白い蜘蛛の巣が張り巡らされているのだ。 氷蜘蛛とは、寒い場所でしか生きられない特殊な生態を持っている肉食の虫である。 その大きさは人間の頭ほど。「キリン! つまりこれは……!」「はい……」 私は観念して、言う。「この村は、スパイダーシルクの生産地です」「スパイダーシルク! ティニク商会の秘宝! こんなところにあったのね!」 パレスナ王妃がものすごく嬉しそうな顔で叫んだ。「うんうん、一度俺も視察したいと思っていたんだ。キリリン達は秘密にしたがっているみたいだから、こうして夜の訪問になったけれどね」 氷室の中を眺め回しながら、国王が言う。 あああ! もう!「陛下……なんでパレスナ様も連れてきたんですか。秘密の場所だから、余計な人にバレたくなかったのに……」「いやあ、ごめん、キリリン。夜中に一人で抜け出そうとしたら見とがめられてね。ついてきちゃった」 この村は、ティニク商会の秘密工場だ。 秘密とは言っても、脱税の類をしているわけではない。しっかりスパイダーシルク生産分の税金を納めているので、国王はこの村でこれが生産されていることを知っていたのだろう。 当然代官もここの存在を知っている。この氷室まで国王達を案内したのも代官だろうな。 しかしだ。国を相手する以外には、本当に秘密の場所である。 スパイダーシルクは、この国と周辺諸国に対しては、ティニク商会が独占的に扱っている高級繊維なのだ。貴族相手に爆発的に売れている大人気商品。ティニク商会の会頭ゼリンはその在庫を絞ったり放出したりと、見事に貴族達を手玉に取っている。 秘密が余計なところにバレて、万が一氷蜘蛛が他所の商会にでも持ち出されてしまえば、大損なのである。 そして、ティニク商会に氷蜘蛛を持ち込んだのはこの私。スパイダーシルクでもたらされる膨大な利益の一部は、私の懐に入ってくるのである。 私は資産家で、金は腐るほど持っているが、だからといって商売の種を他所の商会に持っていかれるのは面白くない。 ゆえに。「パレスナ様! オルト! この場所、本当に秘密ですからね! 誰かにばらすと捻り切りますからね!」「ねじ……!? ねえキリン、この場所の秘密は解ったけれど、貴女はこんな夜中にここへ何をしにきたの?」 パレスナ王妃の質問に、私はもうどうでもいいやという思いで答える。「冷房用魔法道具の動作確認です」 そう、この氷室には冷房装置が備え付けてある。もはや氷室でもなんでもない。 もしこの魔法道具が壊れてしまえば、氷蜘蛛は全滅してしまうかもしれない。一応、氷室らしく冬の間にできる氷や雪をしっかり貯めているようであるが。「なるほど、氷蜘蛛だから冷やす必要があるのね。そういえば、私も一匹巣ごとゼリンに見せられて、トレーディングカードゲーム用の絵に描いたことがあるわね。そのときは王都だったから、王都に生産拠点があるとばかり思っていたわ」「ああ、後宮で飾っていた絵画ですね……」 パレスナ王妃が後宮の薔薇の宮に居た頃、確かに飾ってあった。どこで氷蜘蛛なんて見たのかと少し不思議に思っていたが、そういうことか。 しかし、まいったな。オルトはまあ口が堅いだろうが、パレスナ王妃は本当にここのことを秘密にしてくれるだろうか。 村長なんか、氷室の中だというのに脂汗をかいているぞ。「パレスナ様、なにとぞスパイダーシルクのことは内密に……」 私はそうパレスナ王妃に懇願した。 なにとぞ! なにとぞー!「え、いいわよ?」「え、いいのですか?」「いいわよ。そんなに拝まなくても……」 本当か。本当だろうな!?「キリンだけでなくティニク商会の秘密でしょう? そんな重大な秘密を漏らした日には、どんな不都合があるか。私はそんな愚かな女じゃないわよ」「本当ですか!? 信じてますよ!?」「疑い深いわねー。私、そんなにキリンに信用されてないのかしら。副隊長には何も言っていないのに……」 うっ、確かにオルトなら大丈夫で、パレスナ王妃はやばいと無意識に思い込んでいた。「もう少し、キリンに頼りにしてもらえるよう考えた方が良いのかしら……」 パレスナ王妃の言葉を聞きながら、私は手ぬぐいで汗を拭く村長の肩を叩いて、彼を安心させてあげるのであった。 そんなうっかり秘密バレ事件を起こしながらも、私達の旅路はまだ続く。