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No.35248の一覧
[0] 【弱虫ペダル×オバドラ】オールスター自転車競技選手権【アオバ×のりりん×かもめ】[アムザック](2012/09/25 00:42)
[1] まえがき&登場人物紹介[アムザック](2012/09/23 01:07)
[2] 練習編 1[アムザック](2012/09/25 00:44)
[3] 練習編 2[アムザック](2012/10/05 02:53)
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[35248] 【弱虫ペダル×オバドラ】オールスター自転車競技選手権【アオバ×のりりん×かもめ】
Name: アムザック◆9d0eb50c ID:70ffbdb4 次を表示する
Date: 2012/09/25 00:42
※ご挨拶、前書きはプロローグ終了後の登場人物紹介の際に失礼いたします※
・本作は自転車漫画・小説・映画の多重クロスSSです
・メインに入る5作品中半分くらい知らなくてもお楽しみいただける作りにするつもりではございます
・登場人物の人数の関係や名前の読みの類似や重複の為、例外を除いて地文の人名は原作で多用されているものに準拠します



【秋期全日本自転車競技選手権大会 ロードレース団体】


 サイクルロードレース、と言われてその内容を知るものは日本ではまだ少ない。グランツールと呼ばれる3大大会が開かれる欧州は勿論、近年世界王者を生み出したアメリカにおいてもその理解は深い。競技という意味においては日本は完全な自転車後進国なのだ。
 尤も、その内容を教えられた者がみな驚きの表情を見せるのは何も理解が浅いから、という理由だけではない。
 高校生のレースであっても、1日当たり50kmから100kmを越える道のりを山を越え谷を越え、ライバルと競い合いながら連日走り続けるのだ。自転車を交通手段として見ている普通の人間には完全に未知の領域だ。

 ある少年にとってもかつてはそうだった。だが移動手段でしかなかった自転車はある日を境に翼となった。
 そう、かつて一人で秋葉原へと繰り出すだけが楽しみだった小野田坂道は厳しい練習を乗り越え、過酷な夏のインターハイを見事戦い抜いた。
 最早かつての頼りなさげなヲタク少年はどこにもいない。
 だから部室で着替えていて突如自分の携帯からアニソンが流れだしたとしても、
「あ、ス、スミマセン。これはその、昨日は休みだったもので、あのその」
 まぁ多少は焦るかもしれない。
「そ、その、『ラブ☆ヒメ』の新主題歌が発売されたので、嬉しくてついですね」
 あたふたとして携帯を取りこぼす坂道に対して巻島がタマ虫色の長髪に覆われた後頭部をポリポリとかきながら助け船を出した。
「別にいいから、とりあえず電話出ろっショ」
「あ、ハイ。そそそそうですね。あ、もしもし? 鳴子くん?」
 電話をとった小野田の背中を眺めながら巻島が肩を竦めると、田所がニヤニヤと笑って見せた。

 鳴子がOBの寒咲通司からの差し入れを受け取って戻ると千葉県総北高校自転車部のメンバーが一堂に会した。
 エースの3年金城真護とそのアシストの1年今泉俊輔、スプリンターの3年田所迅と1年鳴子章吉、クライマーの3年巻島祐介と1年小野田坂道からなる夏のインハイメンバーと、2年の手嶋純太、青八木一、マネージャーで1年の寒咲幹、その他幾人かのメンバー達は部室へと集合していた。

 真剣な表情で見守る者、不安げに視線を動かす者、不敵な笑みを浮かべる者がいる中で、部長である金城は口を開いた。
「知っての通り今日集まって貰ったのは全アマの出場メンバー発表の為だ。だがお前達には先に言っておかなければならないことがある」
 全日本アマチュア自転車競技選手権、間近に迫る秋に控えた大会である。
 重い口振りから金城の言わんとすることは皆が予想できた。
「俺は今回、出場しない」
 夏のインターハイで箱根学園と壮絶な戦いを繰り広げた結果、金城は左膝を痛め棄権を余儀なくされたのだ。そして自転車選手にとって生命線とも言われる膝の治療は我慢との戦いだ。自転車に乗りたくても乗れない。漕ぎたくても漕げない。出場したくてもできないのだ。
「今泉。コイツはお前に託す。誰よりも早くゴールへ叩き込め!」
「うすっ!」
 箱から取り出されたイエローカラーのチームジャージが今泉の手に収まる。
「巻島、田所。今泉を頼む」
「おうよ」
「ショ」
 更に2枚のジャージが取り出される。
「鳴子。存分に目立ってこい」
「ほな、やったりますわ」
 更に1枚。
「手嶋、青八木。お前達の同調直列走法<ストレートツイン>、全国に見せてやれ」
「「はい」」
 更に2枚。
 都合6枚のジャージ、6人の出場メンバー達は運命を共にし、過酷な戦いを勝ち抜いて勝利をつかみ取らなければならないのだ。

「え?」
 何だか違和感を感じた。
 何だろうか。考えたが分からない。気のせいだろうか。
「ちょ、部長さん。何の冗談か知りまへんが、小野田くんを忘れとりますで」
 鳴子の口から自分の名前が出てきて初めて、小野田は違和感の正体に気づいた。
 続くように今泉も1歩前へ踏み出した。
「手嶋先輩も青八木先輩も確かに速い。ですが勝ちに行くなら小野田の常識を外れた登坂力は必要です。俺をエースとしてくれるのであれば、小野田は入れて下さい」
 だが2人に対して答えたのは金城では無かった。
「確かに小野田は速ぇ。だがな」
「それでも誰かが入れ替わんなきゃなんないっショ」
 田所と巻島の態度は落ち着いたものだった。かといって事前に知らされていた様には見えない。2人の様子は鳴子と今泉にも若干の冷静さを取り戻させた。
「当然ウチは夏のインハイで上位って括りの中に入ってるっショ」
「つーことは、出場できねぇのさ。秋も全く同じ編成じゃな」
「前回怪我でリタイヤした金城は編成の変更枠には数えられない。つまり、最低でも金城以外に1人は入れ替えなきゃならなかったっショ」

 手嶋と青八木のコンビは他チームに対するマークやカーブの多い下りでのアタックを得意とする。入れ替えるとなればスプリンターではなくクライマーとなるのは必然であった。そして本格的なクライマーが1人となるのであれば臨機応変に事態に対応出来る巻島が残ることになる。
「仕方ないよ鳴子くん。元々夏のインターハイに出れたのが奇跡みたいなものだし……」
 小野田にも当然出場したい気持ちはあった。だがあの夏の楽しさを知っているからこそ、それを他者から奪う様な真似は出来ようはずもなかった。
 だが、そんな様子を見て金城は小さく笑って見せた。
「気の早い奴らだな。全アマに出場する巻島、田所、手嶋、青八木、鳴子、今泉、そして小野田は各自、体調管理を怠るなよ」
 金城の台詞に全員が眉根を寄せて指折り数えた。
 高校ロードレースは1チーム最大6人である。



「学連……選抜ですか?」
 神奈川県桜ヶ丘高校の部室棟で、3年の寺尾晃一の言葉を反芻する様に1年の篠崎ミコトは振り向いた。
「うん、学連選抜。今度の全アマで採用されてるんだ」
 再度同じ言葉を繰り返して、寺尾はふといやな予感に苛まれた。
「学連と言えば学生連盟。そこの選抜、ということはつまり……す、優れた選手の集まりということでは!? 夏の大会でのボクの成績はそんなにも凄いものだったんですか!? うぉぉぉぉボクはやります。やってやりますよ寺尾さん!!」
 しかし時すでに遅し。人一倍思いこみが激しい少年、篠崎は天井へ向けて叫びだしてしまった。
 篠崎ミコト。ほんの数ヶ月前までは一人で絵を描く以外には、なんの取り柄もない地味な少年であった。ある意味ではよく居る様な、どこかで聞いた様な少年は人一倍の溢れるやる気と人数倍の努力、そして僅かばかり持ち合わせていた才能で夏の高校選抜自転車競技選手権大会においては好成績を納めていた。

「あ、いや篠崎くん。学連選抜っていうのはどっちかっていうと……あぁ聞いてない……」
 クルクルと回転して時に拳を突きだし、時に足を上げて興奮する篠崎をどうしたものかと狼狽える寺尾の横をその時、大柄な金髪がのそのそと横切った。
「たわけものが」
「へぶぅ!」
 愛の鞭、もとい愛の蹴りで盛大の吹っ飛ばされた篠崎は一瞬にして冷静さを取り戻す。
「よ、遥輔さんっ!」
 現れたのは無冠の帝王、3年の深澤遥輔であった。
「いいかチビスケ。学連選抜ってのはな、言わばノケ者どもの集まりだ」
「の、のけ者? 遥輔さん達はボ、ボクが邪魔であるとっ?」
 女の子座りで蹴られた頬を押さえつつ、今度は篠崎が狼狽する。
 すかさず口を開くのは当然フォローの鬼、寺尾だ。
「そうじゃないよ、篠崎くん。僕と遥輔は前回の怪我が直ってないし、そもそもウチは朝日さんを入れても5人だからフルメンバーでの団体戦には望めない。だから遥輔はキミを学連選抜に推薦したんだ」
 優しく微笑みながら話す寺尾の様子に篠崎も徐々に落ち着きを取り戻す。
「確かに遥輔の言うことはあながち間違いじゃない。学連選抜は別に優秀な選手を集めたものではないんだ。今のウチみたいに団体戦に出場する人数の足りないチームやそもそも自転車競技部が無い学校の選手にチャンスを与える為の制度だからね。でも、それでもレースに出たいという人に残された、学校という枠組みに囚われない唯一の手段でもあるんだ」
 顔も知らない寄せ集めのメンバーでチーム組んでレースに出ろと言うのだ。
 少し前までの篠崎ミコトであったなら、この提案に躊躇しただろう。
 だが、自分に自信が持てず、引っ込み思案だった少年はもういない。
「出ます! 寺尾さんっ! 遥輔さんっ! 篠崎ミコト、お二人の名に恥じぬ戦いをして参ります!!」
 即答する篠崎に、2人は思わず微笑む。
「おう、行ってこい小僧」
「行ってらっしゃい。篠崎くん」



 1週間後、晴れて学連選手の一員となった小野田坂道は初の合同練習の集合場所へと訪れていた。
 電車での輪行を経て、とある峠のふもとの駐車場へと到着したのだが若干早く着きすぎた様で、周辺にそれらしいサイクリストは見あたらない。
 どんな形であれ走れるのは嬉しい。タイミングが合えば鳴子達と競い合う場面もあるかも知れない。だが、初対面の人間が何人も集まる場にたった1人で放り込まれるというのは小野田には些か敷居が高すぎる。
 なんとも落ち着かない。今泉や鳴子と出会った時はまだ相応の切っ掛けがあったから良かったが、今回はそういう訳でもない。
(ど、どんな人が来るんだろう……怖い人だったらどうしよう)
 緊張からかついつい悪い状況を脳内シミュレートしてしまう。
「あの~」
(金髪で大きな人とか、眼鏡にオールバックで全身真っ黒な人とか……)
「あの~ですね」
(マズいよ、ドキドキしてきた。鳴子くんみたいにしてれば皆と仲良くなれるうのかな……)
「あの~こんにちは……」
 その時、小野田は眼前に同じ年頃の少年が立っているのに初めて気が付いた。
「あ、ここ、こここここんにちは」
「あ、えっとボクは篠崎ミコトと申しましてですね。もしかして学連の選手なんじゃないかな~なんて思っちゃたりしまして」
 何となく真波山岳に似た雰囲気を感じた。初対面ながらも柔らかい物腰からおっとりした性格が伺えるが、ウェアの上からでも長い手足と柔軟性のある筋肉がハッキリ分かる。


「あの~」
「あ、ス、スススミマセン。ぼ、ぼぼぼぼ僕は、小野田坂道と申す者でございまして。総北高校で1年生をやっています」
 緊張しながら話しかけた篠崎であったが、逆に相手を驚かせてしまった様だ。
「あ、ボクの方こそ急に話しかけてしまってすみません。ボクも1年なんですよ。改めまして、篠崎ミコトです」
 篠崎も初対面の相手と話すのは決して得意ではないが、小野田の緊張具合は微笑ましいものがあった。と、同時に篠崎のちょっとだけワルな部分が顔を出してしまう。
「ひょっとしてひょっとすると、小野田くんは自転車レースは初めてですか?」
「あ、いえ、僕は」
「でも大丈夫です。実はですね、こう見えてもボクは高校選抜レースの出場経験があるんですよ。しかも、しかもですよ。アンカーで」
 気弱なくせにちょっとだけお調子者な側面を持ち合わせてしまっている困ったちゃんな篠崎であったが小野田からは素直な尊敬の眼差しが送られた。
「おぉ、スゴイですね! 篠崎くんはその脹ら脛からお察しするとスプリンターですか?」
「分かるんですか? ほほう、小野田くんも実はただ者ではありませんね」
 だがそんな篠崎の側面は2人が打ち解ける切っ掛けになった様で、小野田からも徐々に緊張の色は消えていった。

 そんな時であった。集合場所である駐車場に品の悪い怒声が響いた。
 見れば数人の青年と少女達がいい争っている。
「おいおい、チャリンコ乗り風情が何言ってくれちゃってんだよ、チンタラ走ってんのがいけねぇんだろ」
 青年達はその格好からオートバイ乗りであることが伺えた。
「何言ってんだ。アンタ等さっきの下り、精々60kmくらいしか出てないだろ。自転車でもっと速く下る奴なんて山ほどいるよ」
 対して少女達もボーイッシュな茶髪のショートカット娘を筆頭に一歩も引く様子は無い。
「それに、いくら速くても見晴らしの悪いカーブでセンターラインを割っていい理由にはなりませんが」
「でしょでしょ!」
「……(ちょっと、アナタどうにかしなさいよ)」
「(おめぇ、無茶言うなよ)……まぁまぁ、双方待ちねぇ。ここはひとつ、この彩果さんの顔を立ててだな」
 どうやらオートバイ乗りの走行マナーに少女達の内一人が苦言を呈した様だ。
 少女達の内2人がサイクルウェア姿であることからロードバイク乗りであることが分かった。

 少女達に大柄な男たちが群がる様子を見て、2人は自然と歩みを進めた。
 気弱な癖に見て見ぬフリ、という物を知らぬ少年達は生唾を飲みつつ口を開く。
「あのぅ、それぐらいでいいんじゃないでしょうかね」
「そうですね。つ、次から気を付ければ良いわけですし」
 だが突如割って入ってきた少年2人にオートバイ乗り達は更に苛立ちを露わにした。
「何だテメェらも仲間か、そろいもそろってダセェ服着やがって」
 強面で凄まれ小野田と篠崎は思わず後ずさるが、割って入った手前逃げる訳にもいかない。
 ましてや2人は今や手にしてしまっているのだ。信じたものを貫き通す強い心を。ただし主にサドルの上での話だが。
 品の悪い男達とは言え先ほどまでは少女達相手に遠慮もあったのかも知れない。少年2人は容赦なく胸ぐらを掴まれ引き寄せられる。
「あぁ、ちょ、暴力反対です。ここは話し合いというのはいかがでしょう?」
 元々少女達が正論であるため溜まっていた怒りもあるのだろう。
 男は容赦なく拳を振り上げた。

「やいやいやいやい、ちょっと待ちやがれこの野郎!」
 そこへ新たな声が飛ぶ。
 見ればサイクルウェア姿の金髪少年がのしのしと歩みを進めてくる。
「あぁん。またチャリンコ野郎か。そろってダセェ格好しやがって」
 だが3人目の少年は引かなかった。
「マナー違反に自転車もバイクもあるか馬鹿野郎!! エンジン付きなら交通違反も許されるのかよ」
 小野田の胸ぐらを掴んでいた手を引っ剥がすと、少年は男にガンを飛ばして尚もまくし立てる。
「文句があるってんならこの小林モリオが相手になってやるぜ! 今ならついでに道交法の講習も付けてやる!」
 一触即発かとも思われたがモリオと名乗る少年の人一倍の大声のお陰で周辺一帯から注目が集まってしまい、オートバイ乗り達も逆に手が出しづらくなってしまった。
 何しろ相手は少女が含まれる上に、どちらに非があるのかは先ほどの大声で暴露されてしまっているのだ。
 結果的に男達は「今日はこれくらいにしてやる」等というありがちな捨て台詞を吐いてそそくさと立ち去るしか無くなってしまった。



「ビ、ビックリした~」
 思わず腰が抜けそうになるのを堪える小野田に、モリオがニッカリと笑って手を差し出した。
「アンタなかなかやるじゃねーか。俺は小林モリオ、高1だ。あそこにあんのは相棒の蚊トンボ」
 モリオが親指で指した先にはクロモリのホリゾンタルフレームが見えた。
「あ、ありがとうございます。ボクもクロモリなんですよ。小野田坂道です」
 昔なら性格を問わず声の大きい、男らしい相手は小野田の苦手とする相手であったが今は仲良くなれそうな気がした。何となく根が鳴子に似ている様にも見える。
「ボクは篠崎ミコトです。ところでつかぬことをお伺いしますが小林さんも、もしかして……」
 篠崎も小野田も最早初心者ではない。相手がホビーライダーなのか、競技をしに来たのかは目を見れば何となく分かった。
「あ、やっぱり2人も? 同じ学連チームの仲間って訳だな」

「おぉ~。これが都会の男の友情ってやつでしょでしょ!」
 その時、興奮気味に少女の声が響いた。
 先ほど3人が、正確にはモリオが助けた5人組の内の1人だ。
 二股に分かれたポニーテールがフリフリ動いてあどけなさを強調している。
「いや~小林さんだっけ。あんたぁ今時珍しい『漢』だねぇ! この彩果さんも思わずじ~んときちまったよ! よっしゃ任せな! あんた達は必ずアタシ達が勝たせてやるぜ!」
 続いて妙にジジ臭い黒髪ショートカットの少女。
「ん? 勝たせてやるぜ……って?」

 少女の謎の台詞に思わず首を傾げるモリオであったが、すぐに補足が入った。
「はじめまして、豊珠高校自転車部の部長、松竹梅雪見です。本日は学連選抜チームの皆さんをサポートするマネージャーとして来ました」
 絹の様な金髪をヘアバンドで纏めた少女であった。
 モリオの非常に良く知る相手にもオジョーサマというのはいるが、それとは明らかに違った雰囲気のお嬢様だ。
「私は島野いるかでしょでしょ!」
 続いてポニーテール少女。
「同じく川越彩果でぃ! 大船に乗ったつもりでいな、1年坊ども」
 更に続いて小江戸っ子少女。
「……加藤です」
 更に続いて黒髪の美少女。否、超絶美少女。否、超銀河的練馬美少女。
「……(いやいや、ナギサにぶっ殺される。で、でも見るだけなら)」
「……(いや、いやいやいや、ボクには深澤さんというものが)」
「……(いや、いやいやいやいや、ボクにはラブ☆ヒメが。じゃなくて寒咲さん、でもなくて、いやいや)」
「あれれ、皆さんどうしたんでしょでしょ」
「みなまで言ってやるな、いるかよ。加藤さんを見たんじゃ並の男子は骨抜きよ」

「しかしスゴイですね。何だか寄せ集めだなんて脅されていましたがマネージャーが5人も居るなんて」
「あぁ、俺もその辺のサポートは期待出来ないってアオバの親父さんから聞いてきたんだけどな」
 篠崎とモリオの発言に、雪見が微笑みながら答えた。
「今年から、学連チームはマネージャーも希望者を募ってのボランティアになったんです。他に希望している学校があればまだまだ来るかもしれませんよ。あ、それと……」
「ところでアンタ。どこに『マネージャー』が5人も居るって?」
 雪見の言葉を遮って茶髪の少女が前に出た。先刻真っ先にオートバイ乗り達と言い争っていた少女だ。
「え?」
「ど、どこって……」
「1、2、3、4、5」
 いるか、彩果、加藤、雪見、そして茶髪少女。何度数えても5人だ。
 だが雪見は笑って茶髪少女を紹介してみせる。
「こちらは箕輪晶さん。私と同じ3年生です。私たちも先ほど出会ったばかりなのですが彼女は」
「アタシは選手として来たんだよ」
 少女は不愉快気に語って見せた。
「えぇ!!」
「じょ、女性でも出場出来るんですか」
 驚きを隠せない小野田と篠崎をよそに、モリオは冷静であった。
「あぁ俺もナギサと出場枠を駆けて争ったからなぁ」
 男子顔負けのクライマーが身近にいる上に、当人は最後まで出場する気満々だったのだからそれは当然だ。
「女子はなかなか人数が集まらないだけで競技出場自体は問題ねーんだよ。あとお前等アタシの足引っ張ったらコロスから」
 さらりと恐ろしいことを言ってのける少女に、篠崎は身震いした。
「こ、この人、遥輔さんと同じ人種だ」

 ふと駐車場へミニバンが入ってくる。
 屋根に積まれた2台のロードバイクから乗員が何者なのかは明らかだ。
「えー今は箕輪先輩と、小野田くん、小林くんとボクだから、ひょっとしたら」
「あぁ、モリオでいーぜ」
「あれに乗ってるかもでしょでしょ!!」
 駆け寄る少年少女達に対して、出てきたのはサイクルウェア姿の美人女性だ。
 素晴らしいプロポーションは再度少年達の視線を泳がせたが、歳の頃は高校生には見えない。そもそも出てきたのは運転席からだ。
 続いて助手席、後部座席から少女達がワラワラと出てくる。
「こんにちは。学連チームの選手さん達で間違い無いかしら」
 美人運転手は歩み寄りつつ挨拶をしてくる。
「はい、でしょでしょ!」
 もじもじする男子3人に代わっているかが元気よく答えた。
「初めまして。私は皆さんの顧問役を勤める森四季です。ヨロシク。で、ウチの南鎌倉高校の生徒から何人かマネージャーをと思ったんだけど……ちょっと多すぎたかしら」
 車から出てきた少女は5人だ。
「いえ、そんな事は無いっす。ロードレースといや補給が命。マネージャーは何人いたって困りません!」
 全力で歓迎するモリオに軽蔑や尊敬、哀れみの眼差しが多方から向けられる。
「ま、それもそうね。元気に走ってくれるならそれが一番だしネ」
 四季先生は意地悪っぽく笑みを浮かべると少女達の自己紹介を促す。
「こんにちは、舞春ひろみです」
 セミロングの少女。
「比嘉夏海です。よろしく」
 続いて色黒のショートカット少女。
「えと、秋月巴です」
 更に続いて黒髪ロングの眼鏡少女。
「神倉冬音よ」
 更に続いて黒髪ツインテールの少女。雪見とは違った意味でお嬢様っぽい。

 人間には学習能力がある。
「それで、そちらのお方が選手でいらっしゃる……?」
 なのでモリオはこんな質問を投げかけてみた。
 ただ正確には晶の件で学習したという訳ではない。
 車から降りてきた5人の少女の内、1人だけが明らかに異彩を放っていたのだ。
 四季先生を除けば一人だけサイクルウェアであるとか、そんな理由ではない。
 あえて言うならば、雰囲気だ。自転車に跨がることで初めて彼女という存在が完成するかの様な、彼女自身が自転車の一部であるかの様な不思議な雰囲気を纏っている。
「よく分かったわね。たまたま途中で見かけて拾ったんだけど彼女ここまで自走で来たんですって。凄いわよね」
 そんな四季先生の言葉とともに、自転車を降ろした少女が歩み寄ってきた。
 近くで見るとこれまた美少女だ。いるかやひろみの様な無邪気な可愛さとも、彩果や晶、夏美の様なボーイッシュな魅力とも違う。清純というかちょっと昔のアイドルの様な美しさがあった。
「……(加藤さんは別格として、松竹梅先輩もいいが、あの秋月って子も可愛い、だがこのお方も相当! いやいやいや、ナギサに牽き摺り殺される)」
「……(加藤さんは天上人としても、っていやいや、もう浮気はしませんよ深澤さん! ボクの天岩戸の様に堅い心、見ていて下さい!)」
「……(さ、さっきから凄い可愛い子ばかりで、いやいやボクにはラブ☆ヒメが)」
 そんな少年達の心情など知る由もなく少女は口を開いた。
「どうも、織田輪たい。よろしくけんね」
 一瞬時が止まった気がした。特に男子3人の中で。
「や~私、今までチームでレースばしたことなかとよ。ばってんえらい楽しみたいね」
 とてもとても流暢な博多弁に驚かされた一同であったが、ともあれこれでメンバーの内5人が揃ったこととなった。

 集まったメンバーを眺めて、四季先生は手元の資料に目を落とした。
「小野田坂道くん、篠崎ミコトくん、小林モリオくん、箕輪晶さん、織田輪さん、これであと1人が到着すれば全員集合ね。最初は軽く自己紹介をかねたミーティングから。あとでゲストも呼んであるから、練習はそれからね」
「なんだ、アタシ達には知らされてないのに、メンバー知ってたのかよセンセ」
 冗談めかして言われた晶の台詞に、四季先生も笑って答えた。
「そりゃあ顧問ですから。ちなみに最後の1人は、え~と、み……」
 その時一同の背後からカチャっというギアチェンジ独特の金属音が響いた。
 各々聞き慣れた音色に思わず振り向いたが、その中でも小野田は一際目を丸くした。

 それは、ふと夏の激戦が脳裏をよぎったからなのかも知れない。
「なんや……」

 これから彼と共に走れるという高揚感からなのかも知れない。
「学連なんてザクばかりやと思うとったけど、へえ……」

 あるいは、柄にもなく勝利がぐっと近づいたことに興奮したのかも知れない。
「ただの量産型やないのも、何人か混ざっとるようやね」

 小野田坂道は今、期待に大きく胸震えていた。



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