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No.35120の一覧
[0] 【こち亀】 「両さん vs TASさん」 の巻[MUMU](2012/09/30 19:44)
[1] 「両さん vs TASさん」 の巻 前編[MUMU](2012/09/14 21:22)
[2] 「両さん vs TASさん」 の巻 後編[MUMU](2012/11/19 07:12)
[3] 「豆鉄TAS事情!?」 の巻 前編[MUMU](2012/11/17 09:32)
[4] 「豆鉄TAS事情!?」 の巻 後編[MUMU](2012/09/22 15:27)
[5] 「両津流? TASタイピング」 の巻 前編[MUMU](2012/10/09 06:08)
[6] 「両津流? TASタイピング」 の巻 後編[MUMU](2012/10/01 09:42)
[7] 「最強? 死神刑事!」 の巻  前編[MUMU](2012/10/20 12:23)
[8] 「最強? 死神刑事!」 の巻  後編[MUMU](2012/10/21 21:15)
[9] 「特典フィルム活用法?」 の巻 前編[MUMU](2012/11/17 01:09)
[10] 「特典フィルム活用法?」 の巻 後編[MUMU](2012/11/19 07:10)
[11] 「思い出の一夜」 の巻 前編[MUMU](2013/02/22 18:13)
[12] 「思い出の一夜」 の巻 後編[MUMU](2013/02/22 18:15)
[13] 「両さん夏を売る」 の巻 前編[MUMU](2013/08/25 21:23)
[14] 「両さん夏を売る」 の巻 後編[MUMU](2015/03/01 08:34)
[15] 「携帯ウェザリング事情」 の巻[MUMU](2014/07/27 21:10)
[16] 「時代劇は爆発だ!」 の巻 前編[MUMU](2015/02/27 16:19)
[17] 「時代劇は爆発だ!」 の巻 後編[MUMU](2015/02/27 16:21)
[18] 「いざゆけ! 鉄子の部屋!」 の巻[MUMU](2015/12/31 23:06)
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[35120] 「豆鉄TAS事情!?」 の巻 前編
Name: MUMU◆c85b040a ID:0cc55bb1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/17 09:32
「豆鉄TAS事情!?」 の巻






『グェッヘッヘ! 38だな 274億6000万円を捨ててやるぞ! よろこべ!』
「ぬおっ!?」

壁一面を埋め尽くす144インチプロジェクションテレビが構える部屋で、両津勘吉の叫びがこだまする。

『りょうつ社長 お金が足りません!
どの物件を 売りましょう』

東側の壁一面にはアルメリック、HPDなど海外メーカーのサーフボードが並んでいる。どれも日本の波に合うようにオーダーされた特注品であり、カラーリングや細かな部分のシェイブ(削り)は持ち主が海外に渡り、直接打ち合わせて決定したものだという。
他にもダイビング用のウェットスーツやタンク、ラクロスのラケットにオンライン対応の電子ダーツ、LEDで装飾されたエレキギターに高級アンプ。そして部屋の中央にはエプソン製のフルHDプロジェクターが鎮座していた。

「ちくしょう、また負けた!」
「まだまだ甘いな勘吉」

そう語るのは両津勘吉の祖父にして当年105歳、佃島に住む両津勘兵衛である。もとは長屋に住んでいたが、その土地をあっさり売り払って以降、その敷地に建てられた高層マンションの上層階に住んでいる。その部屋は完全に主の趣味の城と化していた。

「くそっ! わしだけスリの銀次の被害がでかすぎるぞ!」
「当然だ」

落ち着いた調子で答える勘兵衛。立派にたくわえられた八の字の髭と、派手ながらシックな風格を感じさせる水色のアロハシャツがよく調和している。

「スリの銀次は駅マスやカード売り場には出ない。現金を大量に持っているときは赤、青、黄色マスは避けるのが定石だ」
「う、しかしつい目の前に青マスがあると…」
「それにお前は高額物件ばかり買いすぎだ。安くてもイベントで臨時収入があったり、何度も寄れて増資しやすい物件などのほうが価値は高い」
「うーむ…、なるほど」

真珠湾を経験している元軍人だけあり、両津家を代表するほどの道楽者であってもその話しぶりには威厳のようなものが感じられる。孫の顔に指を突きつけ、至らぬ点をこんこんと説き伏せる様はまるで高徳の僧のようでもある。
内容が豆三郎電鉄、通称「豆鉄」についてなのが少し悲しいが。
この「豆鉄」、元々は豆三郎というキャラクターが活躍するRPGのシリーズであったものを、主要キャラをそのままボードゲームに登場させた第一作が好評を呼び、1988年にファミコン版の第一作が発売されて以降、あらゆるハードで20作以上開発された長寿シリーズである。
シリーズを重ねるごとに新たな駅やシステムが登場するマイナーチェンジを繰り返しているが、鉄道を駆使して全国各地を回り、物件を買い集めたり目的地に一等で入って賞金を得たり、時には貧乏神にとりつかれて手痛い被害を受けたり、という点はだいたい共通している。

「カードも重要だな、特に進行系カードは常に2枚以上持っておかねばならん。だから急行周遊などを売ってるカード売り場は必ず把握しておく、カード駅は年数によって出るカードが違うから、それを考慮して利用するのがいいだろうな」
「うーむ、じじいのくせに細かい…」
「お前は目的地ばかり目指すからカードが足りなくなるんだ。特にハワイが目的地のときは要注意だぞ。そこに一位で入ってもすぐ次の目的地に入られたら、ハワイ周辺で貧乏神を抱えて行動することになるからな。先の先を読まねばいかん」
「うーむ、いろいろ考えてるんだな…」
「わしら老人はこういうゲームのほうが好きだ、よくRGCの仲間とプレイしておる」
「105歳で豆鉄を99年プレイしてるのお前ぐらいだぞ…」

RGCとはリョーツ・ゲーム・カンパニーの略であり、両津勘兵衛が仲間を集めて立ち上げたベンチャー系ゲーム会社である。中心となるスタッフの平均年齢は90に迫るほどであるが、業績はきわめて好調で、年商200億を売り上げるという。

「もういいや、そろそろ帰るよ」
「なんだもう帰るのか」
「それにしても、来るたびボードが増えるな、ちゃんと使ってるのかこれ」
「なかなかしっくり来るのがなくてな」

勘兵衛も部屋を見回して言う。

「最近は素材からこだわっておる。現在主流のポリエステルは万能型だし、カーボンやエポキシ樹脂もそれぞれの良さがあるが、研究するうちに南洋の木材も悪くないと思えてきてな。近々新しいブランドを立ち上げようと計画中だ」
「木製サーフボードかよ。懐かしい響きだな」
「50年代に戻ってバルサ材の復権を果たしてみせるぞ。若かりし日のボードの感触を皆に伝えたくてな」
「1950年代ならお前すでに若くないだろ…」
「ほっとけ!」





「それで、また負けちゃったんですか?」
「そうなんだよちくしょう。ああいうゲームはじじいのほうが上手だ」

派出所の昼下がり、いつものように自分の机でプラモを作る両津と、書類整理をする中川というメンバーである。

「このところずっと爺さんの豆鉄に付き合ってるが、どうも敗因がよく分からんのだ。いつのまにかジワジワと差をつけられて、そのうちキング貧乏神にメチャクチャに荒らされて負けるんだ。わしの運はよほど悪いらしい」
「それは違うな、両津くん」

颯爽と登場するのはマドロスパイプをくわえた白髪の紳士である。小ぶりな丸眼鏡や檜皮色のトレンチコートにそこはかとない知性を感じさせる。

「あっ教授、お久しぶりです」

中川がそう挨拶する人物は江崎コロ助。元ケンブリッジ大学の教授であり、中川の恩師でもある。専門は機械工学だが、その知識と技術は多方面に及び、地ビールの生産などを手がけたこともある。

「よお教授じゃないか。それは違うって、豆鉄わかるのか?」
「うむ」

あちこちの国に転任するたびにその国の文化に影響される人物ではあるが、基本は英国紳士を意識することが多く、ゆっくりと落ち着いた話し方をする。

「正月には娘たちが帰ってくるからな。大人数で盛り上がるゲームといえばやはり豆鉄だ。財界人や政治家の中にも愛好者は多いぞ」
「なるほど」
「春子、夏子、秋子、冬子ともあのゲームが好きでな、正月に帰ってきたときは必ずプレイしておる」
「あのゲーム最大4人までだろ、じゃあ教授はやってないんじゃ…」「先輩、しーっ…」

両津の発言を制止する中川。さいわい江崎教授のほうは、まるで秋の空を見つめる詩人のような様子で真夏の空を眺めていたため、細かな発言には気付かなかったようだ。

「察するに、両津くんはほとんど常に目的地に向かっているのではないか?」
「う、当たっている…」
「やはりそうか」
「だって目的地に入るほうが大事だろ。貧乏神だって追い返せるし」
「短期的にはそうだ。それに貧乏神を追い返すというのも重要なポイントだ。豆鉄で最も大事なことは『いかに貧乏神を付けないか』だからな」

議論をする際、相手の言い分を部分的に肯定したり、状況を限定した上でじっくりと諭していく、というスタイルは教授ならではの技術であろうか。大原部長にマンガを認めさせたこともある江崎教授だけに、その話の進め方にはスキがない。

「しかし進行系カードを揃えず突き進んではいずれ必ず息切れするし、いざという時に対応できない。相手の貧乏神がキング貧乏神に進化した瞬間、リニアカードでなすられる、という事態もあるのが豆鉄だ」
「うっ…まさに昨日それを…」
「君のことだから不必要に青マス黄マスに止まり続けてスリの銀次に会ったり…」「うっ」
「高額物件を優先するから物件数が少なくなり、貧乏神にあっさり売られたり…」「うっ」
「進行系を持たずに離島に行くから、そこで貧乏神を抱えて孤立するハメになる」「うぐぐ…」

見事に全部当てられている。気押されるようにのけぞる両津。

「そして北海道あたりの止まりにくい駅が目的地の場合、低い確率の出目に期待をかけて、青筋を立てて奇声を上げながらサイコロを振るのだろう?」
「目に浮かぶようですね…」「うるさい!!」

顔を真っ赤にしつつ、どかんと机を両手で叩く。その弾みで1/8ロールスロイスのプラモデルがばらばらになって散らばった。

「何しにきたんだ一体!」
「うむ、実はその『豆鉄』についてなんだ。あれにはスマートフォン向けのオンライン版が出ていることは知っているかね?」
「『豆鉄おんらいん』だろ、知ってるよ。マップは小さめだしカードは少ないしであまりプレイしてないけどな」
「これには5年間モードで獲得資金を競うスコアアタックモードがあるのだが、その上位十名ほどが999兆9999億9999万円というカウンターストップの金額をたたき出しているんだ」
「5年でカンストかよ!」

資金が100兆を越えるなど、よほどゲームを有利に進めて、他のプレイヤーが補助に回り続けたとしても滅多にありえることではない。両津も99年モードで何度も遊んでいるが、最大でも50兆かそこらだったはずだ。

「どうやらプレイヤーの一部が不正を行っているらしい。私は開発会社から外部顧問として相談を受けることがあるのだが…、メーカー側もあまりにも異常なスコアの上、ハッキングの形跡もつかめないので見当がつかないらしい。――それで不正なら両津くんだろうと思って相談に来たわけだ」
「なぜ不正ならわしなんだ、こら」

しかし…、と両津は少し考え込んでから答える。

「999兆ってことはわざと貧乏神を付けて、大逆転イベントで所持金を4倍にしてるんだろ。それを繰り返すしかないはずだ」

「豆鉄おんらいん」の貧乏神は勝手に物件を売り払ったり、カードを二倍の値段で買ってきたりといった悪行を働くが、そのうちの一つが大逆転パネルというイベントである。これは4×4の16枚のパネルの中から一枚を選び、一枚だけ存在する当たりを引けば所持金が4倍に。しかしそれ以外を引けば所持金が半分になるというイベントである。
計算上、これを行うと所持金が0.56倍になる。つまり稀に勝つ場合があったとしても、回数を重ねれば絶対に損をするイベントである。
中川が暗算し、両津の背中から声をかける。

「先輩、1億から始めたとしても12回勝たなければ999兆はムリですよ」
「大逆転イベントは発生率からして低いのだぞ、5年間モードでとてもそんな回数は…」
「やってるんだよ、これもTASの一種だ」

両津は目を鋭く光らせて言う。

「TAS? あれは確かツールを用いてゲームスピードを遅くしたり、セーブ&ロードを繰り返して乱数を調節することだろう?」

江崎教授が言う。教授の本来の専門分野は機械工学であるため、一般常識としてそのぐらいは知っているということか。

「そうだよ、だから乱数を調節して、自由にイベントを出してるんだ」
「まさか? オンラインゲームならゲームデータはサーバー側で管理してるはずですよ。乱数を調節するにはそれを読み取らないと」

中川が言う。近年ではゲーム機だけでなく、携帯電話やスマートフォンなどにもオンラインゲームが普及しているため、あらゆる分野において深く関わる存在となっていた。もちろん中川にも十分な知識がある。

「やり方は色々あるぞ、『状況再現』という手もある」
「状況再現?」
「もともとRPGなんかでRTA(リアルタイムアタック)のために編み出された手法だ。電源を入れた瞬間からボタンを押しっぱなしにして操作したり、連打装置を使うと同じ入力を寸分の狂いもなく再現することができる。これを利用して都合のいい乱数になるパターンを再現、確実に敵から逃げたりレアなアイテムを手に入れたりできるんだ。入力をマクロで組んでおけばボタン押しっぱなしなんて手を使う必要もない」
「なるほど…」
「あとはツールで乱数を読み取る方法もあるだろう。他にはサイコロの目押しなんかもあるな。豆鉄のサイコロは実は目押しできるんだぞ」
「そうなのかね?」
「オンライン仕様だと家庭用と同じにはいかんだろうがな。それでも方法はあるはずだ。貧乏神に大逆転イベントを出させる乱数を見つけたやつがいるんだろうな。しかも当たりパネルの位置も固定で」

と、そこで中川は帽子のつばを手で持ち、困ったような顔で言う。

「しかし…ただゲームで一位になるためにそこまでしますかね?」
「あ ま い」

これがフキダシなら派出所の半分を埋め尽くすほど存在感のある言い方で、両津が断言する。

「今はオンラインゲームでもツールや不正行為の雨アラレだ。ツールを使って本来は見えない敵のステータスを見たり、本来は入手できないアイテムを強引に入手したりな。「豆鉄おんらいん」の乱数が単純なものなら、調整できる可能性は十分ある」
「最近はそこまでやるんですか…」
「ガキは不正をやりたがるもんだ。わしらがガキの頃も、ベーゴマやメンコで勝つためには手段を選ばなかったぞ。メンコなら裏にロウを塗って飛びにくくしたり、ベーゴマなら鉛を乗せて重くしたりな。相手の体調が悪いときに勝負を挑むなんてこともある。わしなど無敵だったが、カゼひいて40度の熱があるときに学校行ったら朝から晩までベーゴマ勝負を挑まれ続けたぞ。意識がモウロウとなりながら全部勝ったけどな」
「学校に行く時点ですごすぎるんですが…」

木製の校舎をバックに、顔を真っ赤にして荒い息をつきながらベーゴマをする両津少年が目に浮かぶようである。かなり明確にイメージできるのは、目の前の両津巡査長が少年の頃からあまり変わってないからだろうか。

「ともかくセキュリティの強化と乱数テーブルの複雑化だ。まずはそれで対応していくしかないな」
「なるほど…、メーカーに伝えておこう」
「不正をする連中は匿名掲示板とかSNSで情報をやり取りするからな。わしの知る範囲でそういう場所をいくつか教えておこう。まず2ちゃんねるでは…」
「ふーむ、なるほど…」
「さすが先輩だ、こういう問題には頼りになるなあ」

てきぱきと対応策を打ち出して行く両津に、中川も心憎いものを見る笑みを浮かべるのだった。







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