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No.35120の一覧
[0] 【こち亀】 「両さん vs TASさん」 の巻[MUMU](2012/09/30 19:44)
[1] 「両さん vs TASさん」 の巻 前編[MUMU](2012/09/14 21:22)
[2] 「両さん vs TASさん」 の巻 後編[MUMU](2012/11/19 07:12)
[3] 「豆鉄TAS事情!?」 の巻 前編[MUMU](2012/11/17 09:32)
[4] 「豆鉄TAS事情!?」 の巻 後編[MUMU](2012/09/22 15:27)
[5] 「両津流? TASタイピング」 の巻 前編[MUMU](2012/10/09 06:08)
[6] 「両津流? TASタイピング」 の巻 後編[MUMU](2012/10/01 09:42)
[7] 「最強? 死神刑事!」 の巻  前編[MUMU](2012/10/20 12:23)
[8] 「最強? 死神刑事!」 の巻  後編[MUMU](2012/10/21 21:15)
[9] 「特典フィルム活用法?」 の巻 前編[MUMU](2012/11/17 01:09)
[10] 「特典フィルム活用法?」 の巻 後編[MUMU](2012/11/19 07:10)
[11] 「思い出の一夜」 の巻 前編[MUMU](2013/02/22 18:13)
[12] 「思い出の一夜」 の巻 後編[MUMU](2013/02/22 18:15)
[13] 「両さん夏を売る」 の巻 前編[MUMU](2013/08/25 21:23)
[14] 「両さん夏を売る」 の巻 後編[MUMU](2015/03/01 08:34)
[15] 「携帯ウェザリング事情」 の巻[MUMU](2014/07/27 21:10)
[16] 「時代劇は爆発だ!」 の巻 前編[MUMU](2015/02/27 16:19)
[17] 「時代劇は爆発だ!」 の巻 後編[MUMU](2015/02/27 16:21)
[18] 「いざゆけ! 鉄子の部屋!」 の巻[MUMU](2015/12/31 23:06)
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[35120] 「両さん vs TASさん」 の巻 前編
Name: MUMU◆c85b040a ID:35a2442b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/14 21:22
両さんvsTASさん、の巻






「馬鹿者!!!!」



大原部長の胴間声が音圧となって爆発し、ガタついた派出所の戸を吹き飛ばし、道路にいた通行人をなぎ倒し、ガードレールをへしゃげさせ、環状七号道路を走っていたフェアレディZをメンコのように回転させつつ跳ね飛ばす。

「お前は勤務中にこんなもので遊びおって!!」
「ぶ、部長、落ち着いて、誤解なんですよ!」

Mの字型に繋がった眉をゆがめて言い訳を始めるのは両津勘吉。警視庁始まって以来の問題児と言われ、書いた始末書は実に10万枚以上。警視庁を不発弾で爆破させたり、豪華客船で勝鬨橋をへし折ったりと数多くの悪伝説を残す人物である。
彼の机にはノートPCが置かれ、その画面上では猿のようなキャラクターが乗ったゴーカートが表示されていた。どうやら勤務時間中にゲームをしていたことを叱責されたものらしい。

「これは趣味ではなく副業なんです。このゲームで全国一位のタイムを出せば賞金が…」
「なお悪いだろうがバカモノ!」

部長はおもむろにノートPCを手に取り、それに繋がるコントローラーも引き抜く。

「すべて没収だ!」
「ひょわ!? 部長それだけは!」

両津は部長に取りすがり、一瞬で目から涙を溢れさせ、30半ばの顔を思い切りゆがめて懇願する。

「お願いします部長~~! それの賞金がないと今月の食費が~!」
「お前など一ヶ月ほど飲まず食わずぐらいで丁度いい!」

そのまま部長は派出所の外へと出て行き、そこへ待たせていたパトカーに乗り込む。

「待たせたな、出してくれ」
「は、はあ…」

もう何度も見ているとはいえ、子供のように地面をのたうって泣く三十路男というのはインパクトのある光景だった。送迎役の巡査はあまり目を合わせないようにして、そそくさと車を出してしまう。
クラウンセダンの低い排気音が遠ざかり、その間ずっと両津は泣きわめいていた。

「せ、先輩…」

さすがに不憫に思って中川が声をかけようとすると、急にがばりと起き上がる。

「うわっ」 
「よし、部長は行ったな」

と、派出所の中へと引き返し、ほとんど自分専用にしている机の引き出しを開け、底板を外す。中には光沢ある赤色のミニノートが隠されていた。

「虎の子のミニノートだけは死守した!」
「そんな所に…」

先ほどまで泣きわめいた面影など微塵もなく、再びノートPCを開き、足元のダンボールから新たなコントロールパッドを取り出して接続する。

「くそっ、せっかくいいタイムが出ていたのにやり直しになってしまった。また最初からだ」
「? そっちのノートにも同じゲーム入れてたんですか?」
「リモートプレイというやつだ。すべてのゲームはこっちのPCにのみインストールしてある。そこから同期を取ってさっき没収されたノートに映像を出力し、こちらの操作も一度引き出しの中のノートを迂回して反映させるのだ! 没収されたほうのノートにはリモートプレイ用のソフトしか入っておらん!」
「手の込んだことを…」
「それにしてもこのゲームのタイムアタックはもう限界だな。現状2位のやつとは2秒以上の差をつけたし、もう抜かれることもないだろ」

画面上では猿の様なキャラがカートを駆り、すさまじい速さでコースを疾走している。なぜか道を走ることが少なく、ヤシの木を駆け上がって他のヤシの木に飛び移ったり、トーテムポールにわざとぶつかって90度ターンしたりといった妙な挙動が多い。

「以前みたいにバグでショートカットが見つかったりするのでは?」

確か以前も同じような挑戦をしていたことを思い出す。警視庁でも有数の武道家であり、ゲーマーでもある左近寺巡査と組んで挑戦したゲーム大会でのことだ。練習中にショートカットを発見したことで優勝を確信した両津は、優勝賞金をあてこんで大会直前まで飲み歩き、同じバグを多数のプレイヤーが発見していたことに気付かず、大会で追い詰められることになったという。

「心配無用」

だが両津はあっさりと断言する。

「明度を調節してポリゴンフレームを見えやすくして、全てのポリゴンの継ぎ目に衝突する作業を行った。現在見つかっているもの以外でバグやショートカット、急加速など妙な挙動が起こる要素は1ミリもない」
「……はあ」
「500時間も使って調べたんだぞ、パーフェクトだ。これで賞金の20万円はわしのものだ」
「間違いなく普通に働いたほうがいいですね…」

よく晴れた昼下がり、いつもどおりの両津と中川がいる派出所の風景である。

「こんにちは」

と、そこで派出所に客が訪れる。ランドセルを背負った小学生である。その目は妙に冷めたものを感じさせる細目で、7:3に分けられた前髪、しっかりと伸びた背筋が礼儀正しさを感じさせる。
よく見ればランドセルの表面は革ではなくFPR樹脂であり、背負いベルトには様々なつなぎ目やスイッチなどが見え、複雑な機構を備えていることが分かる。

「おう、+(プラス)か。久しぶりだな」

電極+(でんきょく ぷらす)という名のこの少年。家電、およびハイテク産業の大手である「スーパー電子工業」の御曹子であり、英才教育を受け小学生ながら株式投資やゲーム開発、およびゲーム開発会社の経営を手がけるスーパー小学生である。父親の開発した製品のモニターになることが多く、その所持品から靴下に至るまでハイテク装備の塊だという。
なぜか両津とは気の合うところがあるのか、ときおり行動を共にしている。

「ランドセルの充電をしたいのですが、500Vのコンセントありますか?」
「あるわけないだろ・・」だみ声を出して突っ込む両津。
「しょうがない、アダプターを使いましょう」

ランドセルの下部からコードが延び、それをコンセントに繋げる。

「ここのコンセント使用してよろしいですか?」
「ああ、構わんぞ。というか500Vでの充電なんてどんな規格なんだ」
「父さんの会社で開発した直・交流兼用急速充電規格ですね。CHAdeMOとの互換性を実現してます」
「CHAdeMOだと!?」

CHAdeMOとは電気自動車の急速充電規格であり、日本独自の仕様として世界への普及が期待されている技術である。最大500V/100アンペアの充電に対応するが、これはエアコンなら数十台分に匹敵する電流量である。

「朝、ランドセルが充電できてないときなどに急速充電があると便利ですからね。わが社のランドセルなら急速充電により16秒でフル充電しますよ。短時間ですがバッテリーが150度ぐらいに熱されるのが欠点ですが」
「あぶねえ・・」
「おや、『ペポサルレーシングforPC』ですか?」

と、そこで机の上のPCに気付いた+が問いかける。

「おう、タイムアタックコンテストに応募しようと思ってな」
「なるほど、僕も現在タイムアタックを模索中なんですよ」
「ほう?」

これです、と電極+は1枚の紙を見せる。

「えーとなになに…? SFCの『スーパーマリンワールド』タイムアタックコンテスト…。優勝賞金は30万ユーロ…」
「ベルギーのソフト開発会社が企画したイベントなのでユーロ建てでの支払いのようですね。開発元の杏仁堂の許諾は受けてないと思いますが…」
「中川、30万ユーロっていくらだ?」
「いま1ユーロが丁度100円ぐらいですから、3000万円ですよ」

3000万円だと!!?? と叫んだ両津の声は、ほとんど爆発音に近かったので全員の耳を聾しただけで誰も聞き取れなかった。

「せ…先輩、声が大きすぎ…」
「これはおいしい! スーパーマリンワールドなら散々やりこんだソフトだ! この1位わしが貰った!!」

両津が美味しい話に飛びつく速度は磁石に対する砂鉄よりも早い。目をらんらんと輝かせ、もう賞金を獲った時のことしか考えていない、という顔をしている。

「両津さん、その大会に挑戦する気ですか?」
「もちろんだ! 悪いな+、賞金はわしが貰うぞ!」
「いえ、挑戦するのは構いませんが、それは普通のプレイによる大会とは趣旨が違いますよ」
「なんだと?」
「それは、TASによるタイムアタックコンテストなんです」

「TAS…だと?」





「TASというのはTools-Assisted Speedrunの略ですね。90年代終わりごろにDooomというゲームにおいて、とあるユーザーがソースコードを改竄することでゲームスピードを遅らせ、また短い区切りでのセーブ&ロードを可能にしたことが発端といわれています」
「するとどうなるんだ?」

派出所の奥にある座敷に移動した三人は、お茶を飲みながら電極+の説明を聞いていた。スーパー小学生というだけあり、ランドセルからは高性能ノートPC、投射型キーボード、8ボタン式レーザーマウスといったものがすぐに出てくる。
画面上ではインターネットを介して動画サイトが開かれ、とあるアクションゲームの画面が表示されていた。悪魔城ドキキャラシリーズのようだが、その登場人物がバックステップ、素振りによる硬直キャンセル、挙動のバグを利用したハイジャンプなどで悪魔城を縦横無尽に突き進んでいく。

「なんだこの変態じみた動きは…」

両津も何度かクリアしているゲームであったし、挙動バグも攻略に利用した記憶があるが、これはほとんど常時それを発動させている。床と天井をジグザグに跳ね回りながら突き進む主人公は凄いのを通り越して少し気持ち悪い。

「もちろん手動操作でこのような動きは不可能です。ゲームの処理速度を限界まで遅らせた上でのフレーム単位での入力、または一定の入力をマクロで組んで操作しなければいけません。また敵に当たらないように、セーブ&ロードを繰り返して出現位置を調整したり、微妙にタイミングをずらして出現する瞬間を変えたりしているんです」
「なぜそんなことをするんだ?」
「一つはこういった動画自体の娯楽性ですね。挙動が面白かったり、あるいはバグを含めた知識が共有されることで、実際の攻略にも役立ったりしますから」
「なるほど」
「もう一つはプログラミング技術への挑戦という点です。最適なタイムを出すためにはゲームを解析し、最適なツールを活用しなければいけないので、そういうのがプログラマーたちの情熱をかき立ててるようですね」

そういえば先ほどのタイムアタックコンテストの主催はソフト開発会社だったことを両津は思い出す。だから大金を出してコンテストを開いたということか。

「そして競技性ですね。TASの動画が投稿されるTAS-VIDEOSや、こういった動画サイトに動画を上げることで、他のTASプレイヤーがより早いタイムを模索し、それによって競い合いの面白さが生まれるようです。TASがあくまでも『実機で可能な操作』だけが認められているのもそのためですね。内部数値やプログラム自体を書き換えるチート行為や、エミュレータの挙動の不備を突いた短縮は原則として認められません」
「うーむ、よく分かった」

両津は何度も首を上下させてうなずく。知ってる漢字はたぶん電極+よりも少ない両津勘吉だが、ゲームやプラモなど、趣味の分野においては驚異的な集中力を示す。

「で、スーパーマリンワールドのTASはどんな感じなんだ?」
「世界で最も有名なシリーズですからね。全世界販売本数は実に2300万本。当然、TASにおいても最も研究が盛んなソフトの一つですよ」

しかし、と電極+は間を置いてから続ける。

「さすがに研究もやりつくした感がありまして…。ほぼ全てのショートカット、バグ利用、特殊な操作によるスピードアップなどは出し尽くされた印象です。ですので、先ほどお見せしたコンテストの告知…。あれは競技会というよりは、新種の蝶を見つけろですとか、500キロで走る車を作れといった、新たな突破口の発見に付けられる懸賞金のようなものなんですね。ご理解いただけましたでしょうか」
「どうでもいいがお前の喋り方って役人みたいだな…」

両津の発言に、中川が心の中で同意する。

「う~~~~む」

両津は腕を組んで眉間にしわを寄せている。格闘ゲームでは全国一位の腕前、他にもレースゲームやスポーツゲームで数多くの優勝を獲得してきた両津だが、さすがにあんな常軌を逸した操作ができるものだろうか?

「先輩、これはさすがにムリですよ。あきらめましょう」

短い足であぐらを組む両津とは対照的に、中川と電極+はきちんと背筋の伸びた正座のままである。

「いや! わしはやるぞ! 3000万を逃してなるものか!!」

押入れを開ける、そこにはゲームの歴史がそのまま入ってるような状態だった。PS3やXbox360のような最新ゲーム機を始め、旧世代機が数十種、金庫のダイヤルのようなものが一つついているだけの、テレビに接続するブロック崩しまである。
SFCとスーパーマリンワールドのソフトを取り出す。あまりホコリがついていないところを見ると時々取り出して遊んでいるようだ。

「ムリだと思いますが…」

あまり表情の乱れない電極+が、少しだけ困った顔になってつぶやいた。






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