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No.35044の一覧
[0] 魔王に寄生されています。【現代・異能物?】[遅筆](2012/09/16 23:55)
[1] :002[遅筆](2012/09/16 23:56)
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[6] :009[遅筆](2015/10/11 00:04)
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[35044] 魔王に寄生されています。【現代・異能物?】
Name: 遅筆◆8cf7725c ID:7fd91c56 次を表示する
Date: 2012/09/16 23:55
 自分で書いた物のジャンルに疑問符が付くという不思議な事態。
 背中合わせではお世話になりました。今回のはがらりと雰囲気が変わるかもしれませんし、変わってないかもしれません。
 どうぞ、よろしくお願いします。

 前書きも程々にして、皆様にお楽しみいただければ幸いです。

:001

 薄暗い部屋の中で俺は目覚めた。
 酷い寝汗を手の甲で拭いつつ、荒い息を吐く。凄く嫌な夢を見た。否、途中までは凄まじく幸せだったのだ。空から美女が降ってきたのだから。
「まるで漫画やアニメのような展開だ!」と思いつつも、俺はその子に手を伸ばす。お姫様抱っこができるよう腕で受け止める。
 しかしながら柔らかな美女の身体が、腕の中にすとんと落ちた時のことだ。俺は自らの目を疑った。
 何故なら獅子座流星群をも凌ぐ勢いで、続々と降り注ぐ女の子。いやいやいや、受け止められねえよ! と突っ込む間もなく、俺の上に降り注いでくる。いや、幸せだったけど死ぬ。圧死する――と言うところで、俺は目覚めた。

 何だろう、欲求不満なのだろうか。息を整えて、冷静に考えてみる。
 そこで未だ腹部に残る圧迫感に気づいた。俺は布団をめくり、その正体を確かめる。まぁ予想通り、そこには金髪の女が涎を垂らしながら、幸せそうに寝てやがった。妙な圧迫感の正体は押しつけられている豊満な双丘であった。

「……おい」

 柔らかな金髪が包み込む女の頭を叩くが反応はない。ただの屍のふりだ。こいつ、絶対に起きてやがる。

「どけ」

 再び叩いてみるが、やはり反応はゼロ。これがおかしいのだ。いくら寝ていても、無視できないぐらいの強さで叩いている。その行動自体が男として、どうなのだろうと思われても仕方がない。
 ただ、後々に分かるだろう。俺がこの女に対し、まったくもって容赦しない理由が。

「ネア、いい加減にしろ」

 女の名を呼んでみたが、やはり反応はない。それどころか寝相の振りをして、俺の腰に手を回した。離れる気皆無である。
 仏の顔も三度まで――俺は実力行使に移る。今までパーで叩いていた手をチョキに切り替える。人差し指と中指を揃えて補強しつつ、それをネアのわき腹に打ち込んだ。
 威力があるわけではない。ただ、わき腹を突かれた時の筆舌に尽くしがたい奇妙なダメージ。あれを堪えきれる人類は存在しないと思う。

「うがっ」

 酷い悲鳴を上げて、ネアは転がってゆく。そのままベッドの端を過ぎ、転げ落ちた。どすんと派手な音と更なる悲鳴を重ねた後に、ネアは沈黙した。
 やがてベッドの下からぬっと顔を出したネアは、非難の視線を俺に向けた。

「広いベッドやし、ちょっとぐらいええやんか。まったく……紳士性の欠片もないなぁ」

 紳士性って何だよと思いつつも、俺はそれを口に出さず、肩を竦めるに留めた。
 邪魔者の排除は済んだ。再びベッドに横たわり、眠ろうとするが、既に差し込みつつある弱々しい日差しが気になり、時刻を確認する。案の定、寝直すには少し遅すぎる時間であった。

 しばしの逡巡を経て、仕方なく俺は起き上がった。ネアを跨ぎ、台所へと向かう。狭いワンルームなので数歩で到着だ。蛇口から出てくる水は温い。しかしながら贅沢はできないので、薬品の臭いがする水道水で我慢するしかなかった。

「今日も行くん?」

 俺は頷く。これでも俺は大学生で、平日には講義があるのだから当然だ。
 とは言え、在学四年目の俺は、講義よりも大切な目的があった。

「……やっぱり探しにいくん?」

「そうだ」

「私……そんなに魅力無いのかな?」

「何の話だ」

 俺は仕事を探しに行くのだ。ネアの魅力は関係ない。
 しかしながらネアは止まらない。その身を震わせながら口を開く。

「知ってるで……この世にはショーフとかソープとか呼ばれる物があるってことを!」

 雀の鳴き声が開けっ放しの窓から聞こえてくる程度で、早朝の静寂は穏やかだった。日差しがあるため、不気味さも無い。
 俺は朝食の準備をすべく、ネアに背を向けて冷蔵庫を開いた。
 つまるところ、完全なる無視だった。

「ち、ちょ、何か言うてよ!」

 やがて俺の華麗なるスルーに歓声が湧いた。それでも俺は冷静に対処する。

「うるさい、黙ってろ。次にその口から変な日本語を発してみろ。縫いつけて一生開かないようにしてやる」

「何それ怖い!」

「冗談だ」

 とは言え、ネアになら、それぐらいやっても大丈夫な気がしなくもないが。

「やったら、もっと冗談らしく言うて!」

 ネア曰く、俺は冷静に冷酷なことを言うから、余計に怖いらしい。個人的には恐怖を与えぬよう、穏やかに諭すように言っているつもりだ。ただ「それはそれで怖い」とネアは言う。

「ネア、うるさい。本当に口を縫うぞ」

 そう言うと、ネアは両手で口を塞ぐ。そして震えにも似た小刻みな首肯を繰り返した。

「そんな怖い罰、いつから生まれたんや……」

 いや、生まれてもないし、存在もしない。ただ、それを教えるとネアは調子に乗るので、俺は適当に相槌を打つだけに留めた。

「日本人は穏やかで我慢強く、彼らの成す国は世界一治安が良いって聞いてたのに……」

「どうだろうな」

 俺は海外を知らないから比較はできない。ただ優秀な捜査能力が犯罪の抑止の一翼を担っていることは間違いないだろう。
 抑止力によって保たれた平和と考えると、ふと核の存在が脳裏に浮かんだが、どうでもいい話だ。刹那で霧散する。

 ハムとチーズ、その上からマヨネーズを少々かけたトーストをオーブンに二つ並べた。同時にフライパンに油をしいてから熱し、生卵を二つ放り込んで、水も入れて蓋をした。トーストと目玉焼き――男ができる料理なんて、この程度だ。
 一人暮らしをして、もう三年以上になる。しかしながら進歩など無きに等しい。最低限の自炊ができれば、それで良かったからだ。

 ただ、そんな質素な朝食でも、涎を垂れながら待つ者が一人だけいた。あれほど騒いでいたのに、今は驚くほど静かで、テーブルの前にて正座待機している。一見しただけで、そのそわそわ感が伝わってくる。早くしろと無言の催促――視線が俺の背中に突き刺さる。

「皿、二枚」

「御意」

 俺の言葉に、ネアは恭しく頷き、俺の傍に皿を持ってきた。それに目玉焼きを乗せ、オーブンに入れっぱなしのトーストも取り出した。

「あ、こら待て」

 トーストを渡す前に、ネアは早くも目玉焼きにかぶりつこうとする。ただ抑止も虚しく終わり、二口ほどで目玉焼きの姿が消え去った――俺のもだ。

「ん」

 それだけでは済まさないつもりのようで、ネアは俺に手を差し出した。トーストを寄越せと催促しているのだ。俺の目玉焼きまで食べた上で。

「お前は目玉焼き二枚、俺はトースト二枚。これで平等だ」

「数やない、質や」

「数も食う奴が何を言う」

「質のええモンをいっぱい食べれたら幸せやんか!」

「そうだな。ただ、後々に響くぞ」

 月末の食費に思いを馳せると、悲惨な光景が思い浮かんだので、それを振り払うように首を振った。
 そもそもネアが食事を取ること事態がおかしいのだ――と言えば、まるで人でないような表現であるが、決して大げさではない。コイツは人外だ。そのため、ネアの扱いは非常に雑なのだ。

 ただ、その点を指摘すると、「分かってないなぁ」と半笑いで肩を竦める。もう一回、頭を叩いておいた。

「私は、この世の美味しい物のすべてをコンプリートするって夢があるんや……!」

 夢が無いと生きていかれへんで、とネアは語る。
 ただ、夢は人にすがりついて、叶えるものではない。

「だったら一人で生活しながら、その夢を叶えろ」

 つまり出て行けと言っているのだが、もちろん本気ではない……いや半分ぐらいは本気かもしれない。
 何度も言うが、ネアは人外だ。家を出ていったところで、それほど心配は無かった。

「なっ……出て行け言うんか!?」

「何度も言っている」

 そう、過去に何度もだ。

「こ、この人でなしー!」

「お前がな」

 ちなみに言うと、ネアの言うことは間違っていない。
 ただ、これだけは自身の養護のために言っておく。俺の場合は完全なる事故だ。しかも巻き込まれで、過失は相手にあった。
 しかしながら不用心であったことは認める。しかしながら、それらも今更悔いたところで、どうしようも無かった。

「知ってる……知ってるんやで! この世の中、ミブンショーメーできな、何もでけへんのやろ!?」

「そうだな」

「私、ミブンショーメーでけへん!」

 ネアは立派に育った二つの果実を誇らしげに突き出した。
 しかしながら立派なのは胸だけだ。言っていることは、残念と言える領域を遙かに越えている。

「だから、俺に寄生すると?」

「キセイ? なにそれ美味しいの?」

 ネアは可愛らしく首を傾げながら、そんなことを言う。

「寄生虫の寄生だ。俺にすがりついて生きていくのか、って訊いている」

「ああ、うん」

 コイツ即答しやがった。
 いや、予想の範囲内ではある。ただ、ここまで潔いと、俺が間違っているような錯覚に陥りそうだ。

 しかしながら、それも仕方ないのかもしれない。何しろ、コイツは人外――そもそも現代の法治国家日本で生きてゆくには、少々どころか、かなり過激な存在なのだ。

「そんなことより、トースト」

 ネアの言葉にはっとする。未だ俺の両手にある二枚のトーストは、少し冷めていた。

 恐らく二枚とも食べようとしたら、手負いの獣のごとく襲いかかってくることは明白だ。
 俺は渋々ながら一枚のトーストを手渡した。それを美味しそうに頬張るネアを一瞥して、自らのトーストにかじりつく。不味くはないが、実に普通の味であった。チーズが冷めているせいだろう。

 さっと食事を済ませて、テレビをつける。朝はニュースぐらいしかやっていなかった。それらをぼんやりと眺めながら、ゆっくりと着替えを進めてゆく。
 黒いパンツに上はカッター、ネクタイは家を出る前に絞めようと、そのままにしておいた。

 穏やかに過ぎる朝の時間も良い。早起きも悪くないもんだと思いつつも、二度寝の心地よさも忘れられない。結局は欲望に負け、後者を取るのは人の性だと言っても過言ではないだろう。

「ところでネア」

「ん」

「離れろ」

 先ほどから子泣き爺よろしく、俺の背中に張り付いているネア。
 背中には押しつけられる超質量の物体。
 しかしながら二枚のシャツを越えて尚、その柔らかさは主張を留めようとはしない。
 コイツ、わざとやっているなら、あざとい。ただ、そんなことは一切考えていないだろう。

「嫌」

「重い、どけ」

「うりうりー」

 俺に身を預け、楽しそうにネアは笑う。そう、コイツはどこまでも無邪気なのだ。

「……邪気が無いと言うのも、これまた面白い表現だ」

「ん、何?」

「何でもない」と俺が首を振ると、ネアはそれ以上尋ねることはなかった。
 その代わりに、俺の耳を甘噛みした。背徳的な快感が背筋を走り、脳髄を痺れさせる。あまりにも不意打ちすぎたのだ。

「かまえ」

「カッターに皺が寄るから離れろ」

「離れたら逃げるやろ?」

「当然だ」

「やから嫌」

 ネアは俺の首を絞めるように抱きついた。
 一瞬、このまま引きずって行ってやろうかと考える。ただ、このままネアをぶら下げて会社の面接に行ったら、落とされることは間違いない。
「ネクタイです」と通すのも無理がある。

「俺は忙しいんだ、早く離れろ」

 もちろん嘘だが、もう家を出ても悪くない時刻であった。
 大切な面接だ。時間には、ゆとりを持った方がいい。

「やーやー! かーまーえー!」

「うぜえ、いい加減にしろ」

 ついに実力行使に出る。腕を無理矢理引き剥がそうしてはみるものの、ネアは本気で首を絞めにきている。殺す気か。

 本日二回目、指先一つでダウンさせる必殺技を行使する。
 しかも今回は諸手突きだ。勘を頼りに、ネアのわき腹を狙って手を振るう。

「ぐぅっぇ」

 蛙が潰されたら、こんな声で鳴くのかもしれない。そんな酷い声を漏らしながら、ネアは転がっていった。
 更に転がりすぎて、ネアは柱で後頭部を打った。あれは痛い。

 痛みに悶絶し、うずくまるネア。
 襟元を正しながら、それを見下ろす俺。
 この後、包丁が出てきて、サスペンス的な状態になりそうなワンシーンであった。

「帰ってきたら、だ」

 諭すように言うが、ネアは目尻に涙を溜めたまま、俺を睨みつける。
 しばらく睨み合いが続いたが、やがてネアはそっぽを向いてしまった。機嫌を損ねてしまったらしい。
 とは言え、大事な面接を捨ててまで、ネアの相手はしていられない。今の内にと準備を進めた。

 後はネクタイを締めて準備は済む。この時、俺は油断していたことを認めざるを得ない。ここまで妨害の無かったネアが急に動き出すとは思いもしなかったのだ。
 俺が掴む前に、ネアはネクタイをかっさらっていった。

「……ネア」

「ん」

 ネクタイをくわえながら、ネアは微笑む。しかしながら警戒を怠らない様は、まるで猫のようであった。

「返せ」

「やら」

 俺が距離を詰めると、ネアもじりと下がる。不用意に飛び込めば、躱されることは間違いない。逃げる側は大胆さも必要だが、追い詰める場合は慎重に行動しなければならないのだ。
 と言うか、朝っぱらから随分とかまってやったような気がするのだが、気のせいだろうか。

「俺が仕事を見つけなければ、お金が底を尽きる」

 ネアがぴくりと反応を示す。この説明は今までに口が酸っぱくなるほど言ってきたからだ。

「そうするとご飯が食べれなくなる」

「……」

「共倒れだが、それでいいのか?」

 ネアの目が僅かに泳ぐが、未だ返す素振りを見せない。
 仕方ない。俺は最終手段を使うことにする。

「プリン」

「ふぁふぁっふぁ」

 餌に飛びつく畜生のように、ネアは俺の足下に駆け寄ってきた。お座りしている良い子の頭を撫でながら、ネクタイを受け取る

「よーしよし、良い子だ」

「えへへー」

 ネアは嬉しそうに頬を弛めた。もしネアに犬の尻尾があれば、元気よく振っていただろう。

「大人しくしてるんだぞ」

「分かってるって」

 家を出る前に一度だけ念押しする。既にゲームの準備をしているため、恐らく大丈夫だろう。と言うか、ネアに関しては何も心配していない。

「誰が来ても、ドアを開けるなよ」

「分かってるってば」

 しつこいなぁとネアが眉をひそめる。

「食べ物で釣られるなよ」

「……」

「おい、返事」

 不安が拭いきれないが、もう時間に余裕はない。俺は革靴を履いて、家を出た。
 アパートの二階から錆びた階段を軋ませながら下る。少し早足で道に出た時、後ろで扉の開く音がした。

「いってらー」

 振り返ると、ネアがひらひらと手を振っていた。

「鍵はちゃんと閉めろよ」

 あと――と俺は付け加える。

「さっさと戻れ」

 ネアは上はぶかぶかのシャツ一枚に下はパンツのみ。外に出ていい格好ではなかった。
 強烈な魔王の見送りに、俺は嘆息しつつも駅に向かうのであった。


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