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No.35040の一覧
[0] 虚無を継ぐもの【別作品】[未禿](2012/09/09 20:32)
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[35040] 06
Name: 未禿◆9ec629f4 ID:254975be 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/27 20:00
 ハントはぐるりと周囲を見回し、ナヴコムの会議室に勢揃いした二十数名もの科学者たちの顔ぶれを眺めた。
 彼らは医学、生命学、物理学、航空宇宙、社会学、歴史学、宗教学、言語学などなど、実に様々な分野の科学者たちであり、いずれも各分野のエキスパートたちだ。
 かく言うハントも原子物理学のエキスパートなのだが、トライマグニスコープの開発者である点を除けば、この会議に出席する必要性は無さそうに思えた。なぜならルイズの調査に原子物理学が必要だとは思えなかったからだ。
 むしろ警察官を呼ぶべきだろう。
 その点、生物学者であるダンチェッカー教授は役立つ気満々だった。
 彼は長々と10分間にも渡って自分調査報告を喋り続けた。
「……以上のように、皮膚、骨格、代謝、食物、いずれをとってもルイズは現代人そのものです。単にホモ・サピエンスであると言うだけでなく、彼女を取り巻く環境もまた現代と同様だと言う事です。平和で、食料も安定しており、医学も発達している。麻疹や水疱瘡も、6千年前の医学では考えられないほど適切に治療されております。もし炭素年代測定が無かったならば、わたしは彼女を現代人と断定した事でしょう」
 以前ハントがルイズの死体を見せて貰ったとき、ダンチェッカーはルイズのことを普通の人間だとしきりに言っていた。どうやらそれはルイズが現代人だと言う意味だったようだ。
 彼の意見を聞いていると、まるで炭素年代測定の方が間違っていて、ルイズは単なる現代人のような気がしてくる。
 だが炭素年代測定は精度の高い、確立された測定技術であり、たとえ月面で発見されたルイズであっても、高い精度で彼女の生きていた時期を推測する事ができる。
 いくらダンチェッカーが自論を展開しても引っくり返す事など不可能だ。

「ありがとうございました、教授」
 コールドウェルが言うと、ダンチェッカーはようやく着席した。
 やっと終わった、と言わんばかりに表情を緩める科学者がちらほら居るが、コールドウェルは気にしていなかった。
 今回の会議は彼の呼びかけで開催されたのだが、彼はこの会議をルイズ分析の意思決定の場と見なしているらしく、あらゆる公式・非公式の情報をこの場で発表させ、科学者たちに意見交換させるつもりである。
 ちなみに彼の隣にはガーランドもいて、書記役を担当している。
「ではブレンザー博士、お願いします」
 コールドウェルが促すと、歴史工学者のゴルダーン・ブレンザーが立ち上がった。
「ルイズの所持品に付いてですが、詳細は中間報告書をご覧頂くとして、概要を述べさせていただきます。
 結論からいえば、彼女の所持品はいずれも6千年前の物では有り得ないと言う事です」
 会議室内に低いざわめきが広まった。ダンチェッカーに引き続き、ブレンザーもまた炭素年代測定の結果に疑問を投げかけたのだ。
 彼は会議室のスクリーンにルイズのブラウスの写真を映し出した。
「ルイズのブラウスです。
 ご覧のように干からびておりますが、ブラウスそのものは普通の絹で出来ており、炭素年代測定では6千年前の物と判明しております。
 ですが6千年前に彼女がどうやって絹を入手したのか、甚だ疑問であります。
 なぜなら6世紀になるまで、絹は中国以外では生産されていないからであります」
 堅苦しい口調で喋るブレンザー。
 ダンチェッカーのせいで重苦しくなっていた会議室の空気は、ますます重くなっていく。
 彼は続けた。
「6千年前の中国において、絹の生産そのものは始まっておりました。
 ですから6千年前にもシルクロードがあり、それがルイズの出身国にまで伝わったのだろう、と仰る方もいらっしゃるかも知れません。
 しかし古代エジプトで見つかった最古の絹は3千年前であります。それより古い絹が発見されていないことから考えると、それ以前にシルクロードがあったと考えるのは無理があるのです。
 無論、ルイズ自身が中国に住んでいたと考えるのにも非常に無理があります」
 彼の報告を聞きながら、何人もの科学者たちが椅子に座ったまま身じろぎする。ルイズに関する報告は矛盾ばかりで、さすがの一流科学者たちもうんざりしてきているのだ。
 しかしブレンザーはまだ続けた。
「このボタン穴にも重大な疑問があります」
 彼はブラウスの写真を拡大し、ボタン穴を映し出した。
「ルイズのボタン穴は極めて精巧にできており、現代のブラウスと比べて何ら遜色がありません。このようなボタン穴を縫うためには、細くて丈夫で精巧な針が必要となります。すなわち鉄です。鉄の針が必要となるのです。
 しかし世界最古の鉄器文明は紀元前15世紀ごろであり、ルイズの時代に鉄器が存在する筈がありません。このようなボタン穴を縫う事は不可能な筈なのです」
 ルイズの硬貨には銅貨も含まれていたのだから、青銅の針を使ったのではないか、と考える者もいた。
 しかしブレンザーは、青銅の針では強度が足りず、ルイズのボタン穴を縫えるような細い針は作れないと主張した。仮に細い青銅針を作れたとしても、耐久性が低すぎて、ブラウス1枚縫ううちに先端が劣化して刺さらなくなってしまうのだ。
 本当に6千年前に鉄器が存在したのだろうか?
 この矛盾に会議室は騒然となった。

 混乱した状況に更なる追い打ちをかけたのは、比較解剖学の権威であるショーン教授だった。
「我々のグループはルイズ本人および所持品の遺伝子分析を行って来ました。
 その結果、ルイズにつきましては普通のホモ・サピエンスだと言う事が分かっております。これはダンチェッカー教授の報告にもあったとおりです。
 しかし……」
 彼は会議室のスクリーンにルイズのマントを映し出して続けた。
「……問題はこのマントです。
 遺伝子分析の結果、このマントの元となった生物は、我々が知るいかなる種にも属さない、未知の生物だと言う事が分かりました」
 会議室は爆発を起こしたような大騒ぎとなった。
「何ですか未知の生物とは?」
「未知なんて大袈裟な!」
「マンモスか何かの、絶滅した生物の皮でしょう?」
 口々に発現する科学者たち。普段冷静な彼らがここまで激昂するのも珍しい。
 ハントが思わずダンチェッカーを見ると、どうやら彼も驚いているらしく、すぐ隣に座った学者と何やら言い争っている。
 喧騒の中、ショーンは声を張り上げた。
「未知の生物です!
 この生物の遺伝子は、脊椎動物である点を除き、いかなる生物とも類縁関係が無いのです!
 哺乳類でもない!
 爬虫類でもない!
 鳥類でもない!
 両生類でもない!
 魚類でもないのです!
 全く独立した、未知の、新しい生物なのです!」
 この報告に科学者たちはついにパニックに陥り、コールドウェルは会議の中断を宣言した。


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