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No.35040の一覧
[0] 虚無を継ぐもの【別作品】[未禿](2012/09/09 20:32)
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[35040] 04
Name: 未禿◆9ec629f4 ID:254975be 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/17 23:56
 トライマグニスコープが稼動を始めると、ハントとグレイは大忙しとなった。
 実際にスコープを使う際、最も困難なのは、透視したい対象物の特性に合わせてスコープを微調整する作業である。
 例えば手帳の場合、透視したいのは手帳の全体像ではなく、各ページに書かれた文章である。したがって3次元で得られた透視画像から、それぞれのページを抽出する作業が必要になる。そしてそのページの表面に染み込んでいるインクの分子を検出し、どんな文字が書かれているのかを映像化しなければならない。
 手帳は経年変化のために変質しているだけでなく、微妙に変形もしている。そのため各ページを抽出するには単純な2次元スキャンでは駄目で、手帳を3次元スキャンしたうえで変形にあわせて2次元化する必要がある。
 ハントはグレイと共にそれらの問題に取り組むこととなった。
「まだちょっとおかしいぞ。表裏が分離できてない」
「そう言われても…… またZ軸オフセット関数を微調整するしかありませんよ?」
 天才的物理学者と、超一流の技術者。2人がたかが手帳の分析にこんなに苦労しているとは、スコープの動作原理を知らない者には想像も付かないだろう。
 ハントはうんざりしたように両眉をしかめて言った。
「1ページ読むたびにZ軸を微調整するのは嫌だな。時間がいくらあっても足りやしない。自動化する上手い方法は無いかな?」
 トライマグニスコープのスクリーンには、ルイズの手帳の1ページが映し出されている。そこにはルイズの出身地で使われていたらしき未知の文字が綴られているが、明らかに2つのページが重なってしまっている。スコープはまだページの表裏を分離できていないのである。
「羊皮紙の厚みが不均一なんですよ。しかも1枚の羊皮紙の中でも場所によって厚かったり薄かったり。いいかげんうんざりですよ」
 グレイも眉間に皺を寄せ、疲れた様子である。
 手帳を開く事ができない以上、中身を読むためにはスコープで分析するしかない。しかしトライマグニスコープは3次元透視装置なのであってドキュメント・スキャナではない。そもそもページの境目を検出するだけでも大変な作業が必要なのだ。
 グレイは妥協案を提示した。
「表裏の分離はルイズの使う文字が判明した後でやった方が良くないですか? とりあえずスキャンだけ先に済ませるべきだ思うんですが」
 しかしハントは反対した。
「文字が完全に分かっているのならね。でも現段階では我々は彼女の文字を知らないし、先入観はできるだけ排除したいんだよ。後で思わぬ見落としがあった、なんて事になったら、大勢の研究者の何年にも渡る研究が徒労になりかねない」
 古代エジプト語の研究にどれほど多くの研究者が挑み、どれほど多くの失敗が積み重ねられたは、あまり知られていない。
 このルイズの手帳の研究は、古代エジプト語以上に険しく困難な道のりとなるだろう。

 数時間後、ハントとグレイはどうにか表裏分離のアルゴリズムを完成させ、とあるページの判読に成功した。
 それは何かの表らしかった。
 表は全部で6個あり、1ページの中に横2縦3個に並べられている。それぞれの表は5行9列なのだが、1行目と1列目はどうやら見出しになっているらしい。つまり実質的にこれらの表は4行8列なのだ。
 そして各マス目は、文字列が書かれている物と書かれていない物とが不規則に並んでいる。ある表は大部分が文字列で埋まっている一方、ほとんど空白の表もある。
 だが、この表の最大の特徴は内容ではない。
 ハントとグレイがこのページに注目したのは、この表が何かの方法で印刷された物だったからである。
「驚いたなあ……」
「凸版印刷ですかね? 6千年前に印刷技術があったなんて、世界中の歴史学者が引っくり返りますよ」
 グレイは背筋を伸ばすかのように、椅子の背もたれに反り返りながら続けた。
「ってことは、彼女の本も印刷なんでしょうね?」
「先にそっちを分析した方が良かったかも知れんな」
 ハントも同意する。
 ルイズの本は今、手元には無い。歴史工学者のゴルダーン・ブレンザー博士が分析中なのだ。
 グレイは元の姿勢に戻ると、コンソールを操作し、問題のページをプリントアウトしてハントに手渡した。
 それをしげしげと眺めるハント。
「どの表も縦横の見出しは印刷だな。台詞も全部同じだ。同じ表なんだ」
 彼が言うとグレイが反論した。
「いや、タイトルは違うじゃないですか。同じ体裁の別々の表と考えるべきだと思いますよ。実際、ルイズが書き込んでいる内容は違っていますし」
「書き込まれた内容に統一性は無いな……ちょっと待った」
 ハントは紙の上端に印刷された文字列を指差して続けた。
「これは左端で切れてるんじゃないか?」
 ページ全体の見出しと思われる文章は、ハントの言う通りページ左側にはみ出しているように見える。
「ええと……」
 グレイはスコープに向き直り、現状を確認してから答えた。
「今見てるのは奇数ページですから、おっしゃる通りですね。こいつは見開きページの右側でしょう」
 と言うわけで、直ちに左側のページの判読を始める2人。
 結果得られたのは、手帳の見開きのページに並ぶ合計12個の謎の表だった。
「我らがトライマグニスコープの、最初の成果って訳ですね」
 グレイが満足そうに言うと、ハントは手で「いっぱいやろう」という仕草をしながら言った。
「成果と言うにはささやかだが、とりあえずコールドウェルに見せに行こうじゃないか」
 コールドウェルのオフィスに高級ワインが常備されている事は言うまでもない。


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