2000年2月1日0330 新潟佐渡島沿い海岸 旧国道沿い
白き光が満ち溢れたその後、穴からの増援は途絶えた、だが海岸からのBETAは止まらない。
大量の戦術機だった物の残骸、BETAだった物の残骸、地獄の中心に置いて多くの衛士が戦い続けていた。
予想外の地中からの侵攻とは別に、本来の間引くためのBETAを相手に。
「HQより各員へ通達する、10分後、該当エリアに支援砲撃を開始する。
該当エリアの衛士は即時被害想定エリア内より退去せよ!繰り返す……」
該当エリア、それは穴の周辺を指していた。
「私と02でエアー01を戦術機事運ぶ、残りは周辺警戒」
『了解』
翼を失った吹雪を不知火2機で運びヴァルキリーズは撤退する。
「殿下、A-01の撤退を確認しました。殿下も……」
「なりません、あの穴を塞がない限り我等に勝利は有りません」
青き武御雷の進言を一刀する、紫の武御雷は満身創痍だった。
片腕を失い、返り血に染まりながらも立ち続ける、煌武院悠陽は撤退を認めない。
「殿下、あの穴は我等にお任せください。殿下は一時撤退後、再編成をしBETA一掃の陣頭指揮を」
「崇宰、そなた……」
今まで一度も発言せずに、将軍を守り続けたもう一つのの青き武御雷、五摂家 崇宰家現当主 崇宰 泰蔵は懇願する。
「殿下、一時撤退は不名誉では御座いません」
我に任せよ、その任は我が成すべき事だと。
「殿下、私は確信しました、香月博士を推した我等は必ずや勝利しましょう」
「月詠、臨時編入の貴様はここまでだ。以降、斉御司の元に付け……」
悠陽の了解を取らずに泰蔵は捲くし立てる。
「第3斯衛大隊各機へ告ぐ、我等の忠義を見せる時が来た。総員あの穴へ突撃し奥地にてS-11で自決せよ。
これは無駄死にではない。国を、民を、未来を、人類へ勝利を、総員突撃!」
『了解』
青き武御雷を先頭に、大隊であった戦術機10機が穴に突撃する。
「殿下、お下がりを……我等はあの者の忠義に答えねば成りますまい」
「……わかりました」
一機、又一機と戦術機が自決していく。その中、泰蔵は後悔と歓喜により涙を流す。
許されぬ愛を貫き、子を為した息子を守るために除名した。だが息子は斯衛に恥じぬ戦いで死亡した。
生かせたいが為に勘当をした意味等なかったのだ、そして孫である将登は横浜で行方不明に。
この不条理な世界を恨んだ、軍人である自分より周りが先に死ぬ耐えていく。
憎きは世界、憎きはBETA、憎きは自分だと後悔し続けてきた。
鎧衣課長の報告を聞いた時、疑ってしまった。ハイヴからの生還者の名前に、存在に。
今日の今日までは信じて居なかった、信じる事が出来なかった、田中マサトという存在を。
だが見た、通常有り得ぬ、空を駆け続ける戦術機を、未来を、希望を、あれは息子の生き写しだと。
今まで何もしてやれなかった、本土進攻で守りきれなかった自分を責め悔やむ。
だがそれも此処までだ、息子に託せ無かった物を孫に託そうでは無いか。
「皆の者、大儀であった。集結しS-11の一斉爆破を持ってこの穴を塞ぐ」
『了解』
さぁBETA供、我等斯衛が意地を噛み締めろ。老いぼれの命はくれてやる、対価に望むは……
5発のS-11を持って穴は塞がり、周辺に砲撃の爆音が鳴り響く。
「これをもって佐渡島ハイヴ間引き作戦を終了とします」
2000年2月2日 国連太平洋方面第11軍横浜基地 B19F 香月研究室
「伊隅、貴女相当焦っていたみたいね」
「まぁ仕方ないけどね」と付け足す香月夕呼の問いかけに、伊隅は複雑な顔をする。
突如出現したBETAから将軍を救うために、不知火でXM2を駆使し駆けつけた。
だが、着いた時にはBETAの死骸の山が積み上げられていた。
エアー01、空と言うアドバンテージ最大限に生かし疾走する、田中マサト。
鉄の雨を降らしBETAの壁を穴だらけにし、到着した頃には将軍までの道は彼が作っていた。
事前通知により、最優先で守るべき対象とされていた、彼の全力に、自分達では追いつけなかった。
苦虫を噛み潰す、穴から出現したBETAも、穴の中に居たBETAも彼一人で相手にしていた。
自分達はXM2で慢心してしまったのではないか?特殊部隊が聞いて呆れると……
「A-01も生き残りは3人ね、次の総合演習が終わる頃までは実質休業ね」
彼が撃墜されてから自分達部隊は一瞬にして壊滅に追い込まれた。
そう、戦術機が8機から2機に減っては壊滅なのだ。
「おまけに大声で田中って叫んじゃうから上層部にばれちゃったじゃない」
今回の任務は失敗だ、取り乱し、自分の責任により多くの衛士を失い、結果彼は……
「まぁ状況が状況だった事は認めてあげる、最低限生きてはいるしね。
悔やむのは全てが終わった後よ、貴女をまだ死なせる訳にはいかないんだから」
「了解」
「今回の間引き作戦で判明した事が二つあるわ。
一つ目、佐渡島ハイヴが既に飽和状態で有った事、これによりハイヴ蔦部が本州まで伸びていた。
二つ目、BETAの最優先目標の変更、最初はいつも通りだったけど途中で変わったわよね?」
「地中からのBETA出現ですか?」
確認するような香月の発言に、伊隅は問いで返す。
「惜しい、BETAの地中からの出現はハイヴの巨大化が原因よ。
最初の段階に置いて、地上のBETAは帝国日本海軍を狙っていた、集積機器の一番多い船をね。
彼らの頑張りもあったでしょうけど、90分を経過した頃、BETAは本土に侵攻開始。
同時に地中からBETAの出現、何故か武御雷の正面に展開。そして将軍機を包囲」
わかる?と目で語りかけてくる香月に、伊隅は推測を口にする。
「指揮官を狙っていると言う事ですか?」
有り得ない、そうであれば対BETA戦術は、今のままでは通用しない。
「その後、彼が上空からBETAを片っ端から排除、佐渡島本土に居た光線級の動きが変わる、
戦艦へのレーザー照射を止め、全ての光線級が彼を目標にレーザー照射を開始する」
「報告通り回避能力の高さだけは一級品ね」と笑いながら香月は続ける。
「そして彼は穴の中へ、レコーダーを見る限りでは中で彼は一度も攻撃していないわ。
最後のS-11を使うまで、延々と飛び回り回避に専念していた。それにより穴からの援軍は停止」
語られる言葉の意味を噛み締めている伊隅を一瞥し香月は続ける。
「これらの事よりBETAの最優先目標の変更を確認。
無人有人問わず、機械の精度と量だけを目標としていたBETAは、有人の集積機器の塊。
つまり最も強いであろう戦術機を、最優先に狙っている事が判明したわ」
絶句している伊隅を気にすることなく香月は呟く。
「つまりBETAに、武御雷よりも、XM2と飛行ユニットの方が脅威と認定されたわ。
彼との戦いは貴女達ヴァルキリーズの負け、日本政府との戦いは私達の勝利よ」
伊隅が退出した事を確認し香月は一枚の書類を見る。
「まぁあれだけ田中って叫べば、そりゃばれるよわね。よりによって殿下か……」
出頭要請書
崇宰 将登 以上の者を帝都へ出頭する事を望む。
日本帝国国務全権代行 征夷大将軍 煌武院 悠陽
日本政府が求めてきたカードは最強のカード、田中マサトの引渡しであった。
「そういえば彼が今、意識不明なのは知っていないのかしら?」