細い山道を歩いていく。
目印の黒い石を見つけて、獣道へ曲がって、だんだん見えてくるその小さなおうち。
「やれ、また来たのかい」
呆れたように呟くその人は、ずず、とお茶を啜る。
縁側に靴を脱ぎながら登って、お盆をはさんでその人の隣に座った。
もう一つ、おいてある湯呑みにお茶を注いで、一息つく。
「お茶、いつも熱いねえ」
「そうかい」
いつものことだけど、その人には角がない。どうしてないんだろうと気になっている。ちらりと見て、角を探す。
「なんだい」
「なんでもないよ」
ずっと昔から、その人はここに住んでいる。
なにがあったのか私は知らないけど、さびしんじゃないかと、ここに来ている。
ぴこぴことボタンを押して、ゲームを使う。
「それはなんだい」
「ゲーム機」
「携帯かね」
「うん。この前買ってもらった」
「そういうものかい」
ひとり納得したその人のとなりで、ぴこぴことボタンを押す。
一緒に買ってもらったソフトはなかなかおもしろくて、もっとやりたい。
持ってるとだんだん重たくなってきて、膝の上においてやったり、くふうが必要だけど。
「……風が強いね」
「うん」
「寒くないかい」
「うん」
ぴこぴことボタンを押す。ほんとうはかちかちとも鳴っているけど、気分的にはぴこぴこ。
しかしほんとうにこれ、おもしろい。なんだろう、育成ゲームなのかアドベンチャーなのかRPGなのかわからないけど。
「背が曲がるよ」
「うん」
背を伸ばしてゲームをぷれいする。
そこで、はっと気付いた。もしかして、隣にいてもさみしいのか。
珍しくよく話しかけてくるその人に、ゲームをぴこぴこ操作して、レポートにきろくする。
「あのねえ」
「げーむは止めるのかい」
「まだするけど、でも、お話もしたいんだよ」
「そうかい」
ずず、とお茶を啜るその人。
ああ、いつも通りになってきたなと私は笑った。
「ねえ」
「なんだい」
そっと白黒の体に触ってみる。
ずず、とお茶を啜るために湯呑を持つ前足には、ちゃんと蹄がついている。
「あなたはいつ未来を言うの?」
「言わないさ」
「どうして?」
「言わないよ」
「そう」
何度も尋ねたことを、今日も繰り返してから、思いついたことを聞いてみる。
「ねえ、あなたはいつ蹄がついたの?」
「それはね」
その人は、こうしてふしぎな話をしてくれる。
私はそれを聞きながら、いつも昔話ばかりだなと思った。
その人は、どうして件なのに予言しない?