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No.34934の一覧
[0] ソードアート・オンライン 逆行の黒の剣士(SAO)[陰陽師](2012/11/26 22:54)
[1] 第一話[陰陽師](2012/09/16 19:22)
[2] 第二話[陰陽師](2012/09/16 19:26)
[3] 第三話[陰陽師](2012/09/23 19:06)
[4] 第四話[陰陽師](2012/10/07 19:11)
[5] 第五話[陰陽師](2012/10/15 16:58)
[6] 第六話[陰陽師](2012/10/15 17:03)
[7] 第七話[陰陽師](2012/10/28 23:08)
[8] 第八話[陰陽師](2012/11/13 21:34)
[9] 第九話[陰陽師](2012/12/10 22:21)
[10] 外伝1[陰陽師](2012/11/26 22:47)
[11] 外伝2[陰陽師](2012/10/28 23:01)
[12] 外伝3[陰陽師](2012/11/26 22:53)
[13] 外伝4(New)[陰陽師](2012/12/10 22:18)
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[34934] 第九話
Name: 陰陽師◆c99ced91 ID:e383b2ec 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/10 22:21
「ふーん。まあ事情は大体わかったわ」

アスナは散々リズに質問され、真っ白に燃え尽きていた。
いや、喋れない内容などは隠し、できる限り一度目のエピソードを交えて話をした。

そしてあまり使いたくはなかったが、リアルで若干の面識があると言う禁じ手も使用した。
この世界において、リアルの話はご法度と言う暗黙の了解は、この二度目の今回も同じように広がっていた。

だからこそ、これを出せばリズも引き下がるしかない。
さすがにリズにも全部が全部を語るわけにはいかないし、言ったところで信じてもらえるかどうかも怪しい。

さらに茅場晶彦がこの会話を聞いていないとも限らない。だからこそ、嘘ではあるが、リアルで多少面識があったと言う逃げ道を用いた。

「ま、まあこんな感じかな。リズも納得してくれた?」

アスナは恐る恐るリズに聞くが、リズは難しい顔をしたまま考え込む。隣のキリトはと言うと、なぜかピナとじゃれ合っている。

単調なアルゴリズムでしか動かないはずのモンスターが、まるで本当に生きているかのように、キリトと戯れている。その姿にアスナは癒されなくもないが、少しはこっちも助けてくれと言いたくなる。

キリトはキリトでリズに口撃されるのが嫌なのか、これ幸いとじゃれつくピナとそれを楽しそうに眺めるシリカの相手をしている。

「うーん。なんでこんなにもなつくのかな。まるで本当のペットみたいだし」

猫や犬を撫でるように、ピナを撫でるキリト。くすぐったそうにしているが、嫌がっているようには見えない。

「私以外でこんなに懐くのはキリトさんが初めてですよ! リズさんにだって、ここまでなつかないのに」
「ピナ……って言うかSAOでテイムできるモンスターって、基本単純なアルゴリズムでしか動かないはずなのにな。シリカを守ったって言う時もそうだし、この行動も……。プログラムにしても、高度すぎるよな」

いささか疑問を覚えなくもない。茅場晶彦の差し金かと思わなくもないが、あの男がこんな事をする理由もない。
監視するだけならば、こんな方法を使わなくてもやりようがいくつもあるのだ。

「きっとピナはキリトさんに感謝してるんですよ。助けてくれたって」
「うーん、どうかな。それに俺は手を貸しただけで助けたのはシリカだし」
「そんなことないですよ」

キリトはシリカと会話を続けながらも、頭の中でピナについて考える。

(まさか中の人とかいないよな……。あれ、何言ってるんだ、俺?)

とどこか電波を受信した。

「しかしあんたたちもよく結婚したわね。この世界じゃ、恋人関係も少ないって言うのに、結婚って」
「まあね。でも楽しいよ、結婚生活」
「はいはい、のろけ話はもうおなか一杯よ」

と、アスナとの会話の中でのろけ話も出ていたのだろう。リズはバッサリと切り捨てた。

「もう。そんな風に言わないでよ。あっ、それで話は変わるんだけど、今のリズの鍛冶スキルってどれくらい?」
「なによ、いきなり。まあそれなりにはあるわよ。今で六百くらい」
「六百か……」
「何よ、これでも鍛冶職人の間じゃ高い方よ」
「うん、それは分かってる。でも今、私たちが探してるのは、マスタースミスなの。ちょっとキリト君の剣をね」
「剣って……、ああキリトって二刀流だったのよね。新聞で見たわ」

アスナの言葉にリズは思い出したように呟く。

「そうなの。一本はモンスタードロップであるんだけど、それに見合うもう一本がないの。で、その剣を作るために素材を取りに行きたいんだけど、入手条件にパーティーにマスタースミスがいないとダメって縛りがあるのよ」
「なにそれ。そんな情報どこから……。そう言えばキリトってビーターで色々知ってるんだっけ」

不意にリズが漏らした一言に、アスナは表情をきつくした。
ビーターはキリト自身が名乗りだしたし、今なお使い続けているが、リズの口からキリトがいるこの場所で聞きたくはなかった。

「アスナ、表情がきつくなってるぞ。別に俺がビーターだっていうのは事実なんだから」

アスナの頭に軽く手を置く。それに振り返るアスナの顔は、どこかキリトに抗議しているようだった。

「別にリズも悪気があって言ってるわけじゃないだろうし」
「ちょっと、いきなり呼び捨て?」
「あっ、ごめん。気に障った?」

キリトはつい以前の癖でリズの名前を呼んでしまった。以前に比べて随分と緩んでいるようだ。これではいけないと、キリトは気を引き締める。

「いいわよ、もうそれで。あたしも呼び捨てだし。それよりもそれってどこで手に入るの?」

鍛冶職人として、素材アイテムの情報はそれなりに興味があるようだ。しかもビーターであるキリトが持ってきた情報。
つまりはかなりのレアアイテムか有望なアイテムと言うことになる。

「五十五層の西にある山」
「ぶっ! 五十五層って、最前線近くじゃないの!」
「そうだよ。だからマスタースミスでレベルの高い奴を探してるんだけど」
「悪かったわね、マスターでもレベルが高くもなくて」
「いや、別にそんなこと言ってないんだけど……」

リズの言葉にキリトはたじろぐ。あれ、リズってこんなにきつい性格だったか? とキリトは思った。
まあ最初は結構きつかったが、仲良くなってからのイメージが強いため、どうしても違和感が生まれる。

リズとてもともと性格的にきつい方ではない。鍛冶職人として接客も行う彼女からしてみれば、自分自身でもそう思うほどきつい態度だろう。

(何やってるんだろうな、あたし……)

アスナもシリカでさえもキリトの事を信用し、信頼している。それは彼の事をよく知るからだろう。
アスナは三ヶ月も行動を共にして、夫婦にまでなった。

シリカはピナの件でキリトに多大な恩があり、また短い間ではあったが行動を共にした。
自分だけが、キリトと言う人間をよく知らない。人づてに聞いた話や噂などはよく知っている。

でも目の前の男を見ていると、どうにもそれらと結びつかない。
なんとなく、自分だけがのけ者にされているような、そんな気がしている。
この感情はなんなのだろうか。

「……とにかく、鍛冶職人の中でもマスターの称号を持っている人はいないはずよ。多分よくてもあたしよりも百位上ぐらいだろうから」
「じゃあこのクエストは無理だね。剣は他のを探すしかないか」
「でもこれ以外にめぼしいのを知らないんだよな。プレイヤーメイドでもエリュシデータに匹敵するのは今のところないだろうし」

アスナの言葉にキリトもお手上げだと漏らす。

「今まで作ったあたしの剣じゃダメなの?」
「うーん。たぶん無理かな。エリュシデータは五十層のボスのドロップアイテムだから、ボーナス性もあって、現状じゃプレイヤーメイドの剣じゃ話にならない。唯一同等のものが作れる可能性があるのが、さっき言った素材からだし」

リズの言葉にキリトは残念そうに返す。今回も試してもいいが、前回同様ポキポキと折りそうで、さらに彼女を怒らせそうでやめることにした。

「それじゃあお手上げね。あたしも鍛冶スキルは上げるから、その時まで待ってもらえれば同行するけど、それじゃあ遅いのよね?」
「……できれば早い目がいいけど、こればっかりはどうにもならないからな。今はマスタースミスが現れるのを待つよ」
「それかアルゴさんに頼んで情報を流して、誰かに取ってきてもらってからそれを買い取る?」
「それしかないかな。できればしたくないけど」

ダークリパルサーの性能から考えて、あれはランダム作成でも製作できる数が限られている武器のような気がする。
さすがにあの階層のアイテムで一本限定と言うことはないだろうが、それでも二ケタに届く数が作成できるかと言われれば疑問である。

「まっ、この話はおいおいだな。一応、アルゴには頼んでおくか」
「そうだね。あっ、そう言えば今日ってアルゴさんが来る日じゃなかったっけ?」
「そう言えば定期的に情報を渡す日だったな。戻るのもあれだし、今日はここに来てもらうか」

この階層ならば、それなりの店もあるだろう。いや、キリトとしてはアスナの料理が食べたいのだが、たまには休んでもらう日も作るべきだろう。

「なんだったら、この階層のうまい料理屋にでも行くか。俺が出すよ」

ストレージ共有のため、お金も共有になってしまうのだが、そこは目をつぶってもらうしかない。

「いいよ、キリト君。今日も私が作るから。それに前にアルゴさんにリクエスト貰ってるし」
「あいつ、アスナにリクエストまで出してたのかよ」

にはははと笑う髭の顔を思い出し、キリトは難しい顔をする。アスナは俺の奥さんだぞと、内心呟く。
いや、アルゴは女だから別に嫁を取られる心配はないのだが、それでもアスナに関して言えば独占欲が強い。

男として狭量かもしれないが、それはそれ、これはこれである。
キリトとしては一度アスナを死なせてしまったと言うトラウマもあるため、その傾向が強いのかもしれない。

「そう言えばアスナって料理スキル上げてたわよね」
「うん。今は九百目前かな」
「ぶっ! どんだけスキル上げてるのよ!? しかもそれで攻略組って……」

スキルの向上は反復を続けなければならない。アスナはかつて料理スキルをコンプリートした時の味を取り戻すために、日夜修練に明け暮れている。
それでいて攻略に必要なスキルも上げているのだから、キリトとしては頭が下がるばかりだ。

尤も、SAO内においてスキルでもこう言った娯楽関係のスキルは割とポイントが上がりやすくなっていた。
これは茅場晶彦が非生産系スキルをほかの戦闘系、あるいは戦闘補助系や武器や防具作成などの生産スキルと同じに上昇率にすると、それを取得しようと考えるプレイヤーが少なくなると考えたからであろうか。

それともそれ以外の思惑があるのかはわからないが、それら三つのスキルよりも上昇しやすくなる仕様である。ゆえにアスナでも戦闘系スキルを上げながらの合間でも、それなりに上昇させることが可能なのである。
キリトがかつて、釣りスキルを取得してからそんなに時間が経っていない間でも、八百を超える数字になれたのが証拠だ。

「うーん。毎日キリト君に料理を作ってあげたり、合間を見て研究をしてたりしたら、いつの間にかね」
「……キリトも大概だと思ったけど、あんたも十分おかしい。うん、おかしいわ」

大事なことなので二度言いました。

「ひどいな、リズ」
「でもまあ、おかげで俺はアスナのおいしい料理を毎日食べられるんだけど」
「あー、もう! このバカップルめ! イチィチャなら余所でやれ!」

なんだか無性に腹が立ってきたリズ。そんなリズに苦笑しながらもアスナは彼女をなだめる。

「ごめんね、リズ。じゃあお詫びに今日は私がご馳走するから」
「そう? じゃあキリトがおいしいって言う料理、堪能させてもらおうじゃない」
「シリカちゃんもキリト君もいい?」
「あ、はい。私もアスナさんの料理食べたいです!」
「シェフにお任せします」

アスナの言葉にシリカとキリトも同意する。

「うん。じゃあ期待しててね」

こうして簡単な晩餐が行われることになる。

「ちょっ、なにこれ!?」
「お、おいしいです!」

晩餐に出されたのは、変哲もない料理だが味付けが違う。リズもシリカもこの世界に来てしょうゆやマヨネーズを使う料理を食べたことはなかった。
特にしょうゆ。
日本人ならばこれの虜になるのは当然である。

さらにこの世界に本来標準として取り扱われていない調味料。
刺身などを食べようにも、しょうゆがなければかなり残念な味になる。
しかしアスナは今回はしょうゆを取り出した。そのほかにも煮付けなども出す。日本人ならば涙目になる食事ばかりだ。

リズもシリカもおいしいおいしいと箸を進めている。キリトなどは黙々とアスナの料理を堪能している。

「すごい、よくこんなに完璧に再現できるわね」
「アインクラッドにあって、現在見つかってて手に入る調味料が味覚再生エンジンに与えるパラメーターを解析して作ったの」

どこか自慢げに言うアスナ。実際、これは前の世界でも一年の修行と研鑽の成果なのだから当然だ。
まあこれもキリトが以前に案内してくれた、ラーメンのようなものを食べたのがそもそもの始まりだ。

「これ、売り出したらすごく儲かるわね……」
「それはダメだ!」

リズの言葉に横合いからキリトがいきなり反論した。

「俺の分が無くなったら困る!」

と割と真顔で言う姿にシリカとリズはあっけにとられながらも、数秒して笑い出した。

「もうキリト君てば……」

そんなキリトにアスナも呆れ顔をする。

「けどもうすぐこれの作り方も流すわよ。別に私しか作れないわけじゃないし、ある程度料理スキルを上げてて、調味料さえそろえば誰でも作れるから」

でも次の軍主催のイベントまでは隠していたいと言うのがアスナの本音だった。今は味噌の味も再現しようと頑張っている。

「っと、そろそろアルゴが来る時間だな。って、あれ?」

キリトは自分の視界にメッセージが届いたと言う表示が出た。差出人はアルゴだった。

「アルゴさんから?」
「あ、ああ。ええと、少し話があるから出てこれるか、だって」
「キリト君一人で?」
「そうみたいだ。三十五層には来てるみたいだから、少し出てくる」

おそらくは情報屋の仕事に関する件だろう。ここにはリズやシリカもいる。アスナだけならばともかく、この二人に対してはアルゴは心を許していないだろう。
いや、キリトとアスナに関しても心を許しているかと言われれば疑問である。

「アスナはここで待っててくれ。たぶん、そう時間もかからないから」
「わかった。あとアルゴさんにも料理ありますって伝えといてくれる?」
「了解」

キリトは俺の分も残しておいてと念を押しながら、部屋を後にする。
だがこの時、キリトはまだ気づいていなかった。アルゴの話が彼にとって、過去と再び向き合わなければならないものであると言うことに。



「悪いネ、キー坊。わざわざ出てきてもらっテ」

宿屋から少し離れた一角。人通りのない場所で、キリトとアルゴは落ち合っていた。

「別に。こっちも色々としてもらってるんだ。それにこんな場所でってことは、厄介ごとなんだろ?」

キリトもアルゴがこんな人通りの少ない場所に自分を呼んだことから見て、まず間違いなく厄介ごとであると想像できた。

「いや、厄介ごとは厄介ごとなんだけどもネ。今回はいつもと少し違うんだヨ」
「いつもと違う?」

アルゴの言葉にキリトは首をかしげた。

「そっ。別に誰かに聞かれて困るってことはないケド、クライアントの事も含めて他のプレイヤーに聞かれることは避けたかったカラ」
「まあアスナ以外もいたからな」
「ところで第二十五層の迷宮区はキー坊も知ってるよナ?」
「ああ。クォーターポイントでそれなりの難易度が高かった場所だな」

クォーターポイントと言うこともあり、ボスだけでなく迷宮区事体も今までに比べれば、格段に難しいエリアだった。
そこは以前の記憶などを頼りに、何とか短時間で攻略できたのだが、それでも一度目の世界ではそれなりに犠牲者が出ていた。
さらに聞いた話では隠しイベント的なダンジョンも存在していたらしい。

「そこがどうしたんだよ?」
「そうだネ。じゃあちょっと順を追って話すヨ。オイラは今回、ちょっと変わった依頼を受けタ。いつものような交渉の類なんだケド、武器の売買や情報の提供と言ったものじゃなイ。純粋なクエスト達成の依頼だっタ」
「クエスト達成?」

キリトは首をかしげる。確かにプレイヤーがほかのプレイヤーにクエスト攻略を依頼することはある。報酬はアイテムだったりコルだったり様々だが。

「そう。二十五層であるクエストが発生しタ。それをクリアして欲しいと言う依頼」
「そりゃアルゴに依頼するのはお門違いだろ? それともあれか。クリアできそうなプレイヤーをアルゴに探して欲しいってことか?」

だがそれにしてもアルゴに頼むのは珍しい。こう言う場合は新聞広告に出すなり、大規模ギルドに頼むなり、方法は数多くある。
特にこの世界では軍において、そう言ったクエストをこなす専用の部署が存在している。軍に依頼すればクエストの内容によって、適任のプレイヤーが派遣される。

難易度が高ければ、一時的にせよ最前線の攻略組からプレイヤーを呼び戻し、クエストに当てることもある。
血盟騎士団や聖竜連合も、レアアイテムや資金集めのためにこう言った活動には熱心とまではいかずとも、それなりに参加しているはずだ。

「キー坊は察しがよくて助かル。そう言う事だヨ。裏も取ってきてるんだが、今までそのクエストに挑んですでに十人以上が断念してル。元々依頼を出したギルドでは手に負えず、ほかのプレイヤーに協力を頼んだらしイ。けどそれも失敗。さらに軍でも手に負えなかったらみたいダ。最前線組もナ」
「ちょっと待て。さすがにそれはあり得ないだろ。最前線ならともかく、二十五層程度で攻略組がクリアできないクエストなんて発生するのか?」

キリトの疑問も尤もだ。アルゴでさえ、そんなクエスト存在するはずがないと思っていた。
何かの間違いや、イベントに挑んだプレイヤーのレベルが低すぎたのではないか、彼女もそう考えていた。

「けど事実だったんだヨ。それに血盟騎士団や聖竜連合の一部のプレイヤーでも無理だったようだシ。あっ、もちろんヒースクリフ団長とかはチャレンジしてないケド」
「………そりゃそうだろ。あいつはボス攻略以外興味ないからな」

ヒースクリフはこういった類のイベントには一切参加しない。レベル上げやアイテム確保は自力でしており、GMとしてのズルはしていないが、キリトと同様に自分に最も最適な装備やアイテムの類だけを選り好み、レべリングも効率化している。

またGMであり、ゲーム内におけるクエスト用NPCであるからこそ、特殊クエストをはじめとするボス攻略以外のカーディナルが作成するイベントには不参加を決め込んでいる。

前の世界においてのラフコフ討伐の時でさえも、ヒースクリフは動かなかった。GMとして公平であるべきと言う信念の下に。

「けどそれ以外にも優秀なプレイヤーは多いだろ。今の最前線の平均レベルは六十以上だ」
「問題はそのクエストの内容。ソロでしかイベントを受けられなイ」
「それにしてもおかしくないか? ソロイベントなんて珍しくもなんともないし、攻略組の連中でもクリアできないイベントなんて」

「……クエスト内容がおかしすぎなんだヨ。二十五層に発生するイベントにしては内容が難しすぎル。七匹の小人型モンスターを撃破。レベルも高い上にそれをソロで攻略せヨ。しかもエリアは結晶無効化エリアときたもんダ」
「なんつうクエストだよ。けどそれだとかなりのレアアイテムも期待できるんだろ?」
「いいや、アイテムやコルでの報酬は無しみたいだヨ。モンスター撃破の際の経験値やコルはあっても、それ以外は一切ナシ」

いや、それイベントとしてどうなんだとキリトは思った。じゃあ何のために行うクエストだ。

「キー坊の疑問も当然だネ。実はこのクエストはプレイヤー救出イベントなんだヨ」
「プレイヤー救出イベント?」
「そう。依頼してきたギルドのメンバーの一人が、そのクエストの発生に巻き込まれ、囚われタ。内容は説明したとおり。メンバーではソロでの救出は不可能。軍をはじめ、ほかのプレイヤーにも依頼を出したが、ことごとく失敗。で、オイラに白羽の矢が立ったわけダ」
「つまり俺への依頼か?」
「そう言う事。しかも時間制限ありで、クエストの期間は一月。それを過ぎるとクエストが自動的に消滅。囚われたプレイヤーがどうなるかハ、まああまりいい予感はしないナ」

クエスト失敗で囚われたプレイヤーは強制的に排除。このゲームでならありそうだ。

「向こうとしては何とか仲間を助けたいケド、すでに大多数は失敗。現時点でこのクエストへのうまみはほとんどない上に、攻略の難しさからほかのプレイヤーも二の足を踏んでル。ましてや結晶無効化エリア。余程の強さじゃないと、すぐにゲームオーバー。最初にクエストに挑んだギルドのメンバーは運が良かっタ。結晶無効化エリアだと気が付いた後、敵に吹っ飛ばされて、イベントホールからたまたま外に出たっテ。悪運が強いネ」

何というか、それは悪運が強いと言うか、出来過ぎと言うか。とにかく死者が出ないようで何よりだ。

「だからこそ、キー坊への依頼ダ。最強剣士として名高く、二刀流の使い手。ただ向こうとしてももう報酬にできる物が何もないから、直接話し合いで交渉したいそうダ」
「アルゴへの支払いもあるだろうからな。俺は別に良いぜ。二刀流もあるから、まあ何とかなると思う」

と言うよりも人命救助の依頼ならば、キリトとしても無下にするつもりはない。おそらくは今の自分ならばそう難しくはないだろう。

「交渉もせずに即決カ。アーちゃんと会う前だったら、こんなに簡単には言わなかっただろうネ」
「うるさい。とっとと相手に連絡しろよ。明日にはクエストを受けに行くって。俺はとっとと戻ってアスナの飯の残りを食うんだよ」

アルゴの分もあるとアスナからの伝言も忘れない。

「それは楽しみだネ。メッセージを送るから、少し待ってて欲しイ」
「あいよ。ところでその依頼人はどこの誰なんだ? クエストを受けるのを承諾したんだ。名前くらい教えて貰わないと」

キリトは軽い気持ちでアルゴに聞いた。

「ああ、ギルドの名前は月夜の黒猫団って言うそうダ」

直後、彼女の口から出たギルドの名前にキリトの表情は一変した。

「どうかしたのか、キー坊?」
「い、いや。アルゴ、依頼人の名前はもしかしてケイタって奴か?」
「よく知ってるネ。そうそう。クライアントからは名前は明かしていいって言われてるから、あとで教えるつもりだったケド」
「じゃあ、あと一つだけ教えてくれ。……そのクエストに囚われているプレイヤーの名前は」
「ああ、サチって名前のプレイヤーダ」

その名前を聞いた直後、キリトの表情は完全に消え失せた。




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