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No.34934の一覧
[0] ソードアート・オンライン 逆行の黒の剣士(SAO)[陰陽師](2012/11/26 22:54)
[1] 第一話[陰陽師](2012/09/16 19:22)
[2] 第二話[陰陽師](2012/09/16 19:26)
[3] 第三話[陰陽師](2012/09/23 19:06)
[4] 第四話[陰陽師](2012/10/07 19:11)
[5] 第五話[陰陽師](2012/10/15 16:58)
[6] 第六話[陰陽師](2012/10/15 17:03)
[7] 第七話[陰陽師](2012/10/28 23:08)
[8] 第八話[陰陽師](2012/11/13 21:34)
[9] 第九話[陰陽師](2012/12/10 22:21)
[10] 外伝1[陰陽師](2012/11/26 22:47)
[11] 外伝2[陰陽師](2012/10/28 23:01)
[12] 外伝3[陰陽師](2012/11/26 22:53)
[13] 外伝4(New)[陰陽師](2012/12/10 22:18)
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[34934] 第六話
Name: 陰陽師◆c99ced91 ID:e383b2ec 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/15 17:03

第五十層攻略完了。
キリトはボスが倒れ、勝利宣言が出されたのを確認すると、一度だけ息を吐き、緊張を解いた。

何とか勝つことができた。二刀流を取得したことや、アスナが隣にいたこと、ヒースクリフの援護などもあり、勝利できるとは思っていたが、やはりクォーターポイントのボスは強敵だ。
ぎりぎり、スターバースト・ストリームを使える熟練度に達していたからよかったものの、あれがなければ、最後のライフを削りきるのはかなり苦労しただろう。

ピシッ

嫌な音がキリトの耳に届いた。自分の握っている二本の剣を見る。二本とも刀身にひびが入り、それが全体に広がっていく。全体に広がりつくすと、剣は粉々に砕け散った。

やはりと、キリトは思った。
この剣もかなりの耐久値を持っていても、今の二刀流の技を使うには無理があった。ボス戦を含む戦闘中の耐久値切れによる破損を防ぐため、できる限りの強化を施してはいたが、それでもスターバースト・ストリームには耐えきれなかったか。
むしろ、よくここまで持ってくれたと言うのが、正直な感想だった。

(ありがとうな)

ここまでともに戦い続けてくれた武器に礼を述べる。

「剣、壊れちゃったね」

自らの剣を鞘に納めながら、アスナがキリトの隣にやってくる。

「まあ、仕方がないかな。さすがにここのボスの防御力と二刀流のソードスキルに耐えるのは、あの剣じゃ無理があったみたいだし」

アスナの言葉にキリトは苦笑しながら答える。
愛用した剣が無くなったのはつらいが、このボス戦でのラストアタックボーナスで得た武器もある。
前の世界でも最後まで愛用していた、黒の片手剣「エリュシデータ」。このボス戦においてドロップした物は、今回もキリトのストレージに収納された。
操作を行うと、即座に背中に剣が装備される。やはりこれが一番なじむ。

「アスナもお疲れ様」
「キリト君も」

お互いに労いの言葉をかける。このまま二人だけの世界に突入しかけようとしたが、周囲からの多くの視線がそれを邪魔した。

「………これ、説明しないとダメかな」
「あははは。ほんと、どうしようか」

視線を集めているキリトとアスナはどうしようかとお互いに顔を見合わせる。

「ええと、キリト、だよな、お前? 双子の兄弟とかそんなんじゃないよな?」

いつの間にか、キリトのそばにやってきたクラインが、怪訝そうな顔をしながら訪ねてくる。隣にはエギルもいるが、こちらも困惑している。

「いや、本人だよ。って、なんでそんなこと聞くんだよ?」
「いやいやいや。お前、マジ何があった!? 前と全然違うじゃねぇか!?」

ビフォー、アフターと、クラインが前のキリトと今のキリトの姿を浮かべながら、キリトに詰め寄る。

ビフォー。

誰とも組まず、近寄りがたい雰囲気をだし、口数も少なく、どこか影を落とした表情を作っていた。さらに目に生気もあまりなく、どちらかと言えば病んでいるイメージが強い。

アフター。

隣に美少女をはべらせている。雰囲気も良くなっており、近寄りがたいオーラもない。口数も以前に比べると多い。表情も明るくなっており、笑顔まで浮かべる始末。目には生気が宿り、しかも桃色空間まで発生させる始末。

「いや、なんだよ、美少女をはべらせたり、桃色空間って」

キリト自身突っ込みを入れるが、クラインは説明しろこら、とさらに詰め寄る。周囲もうんうんと頷いている。

「あー。まあ、その、いろいろあって」

少しだけ視線を逸らしながら、キリトは頭をポリポリとかく。
本当に色々あった。アスナとの再会やら、一緒のレベル上げやら、新婚のやり直しやら……。

「って、マジでお前その美人は誰だ!? つうか、あの剣二本はなんだ!? ああ、もう! 突っ込みどころが多すぎて、何から突っ込んでいいかわからねぇ!」

クラインはキリトに詰め寄ったもの、聞きたいことが多すぎて混乱している。この場にいたほかの面々も同じであった。
疑問が多すぎて、何がなんやら。今回のボス攻略の話が霞むくらいに、今のキリトの状態に対する疑問が大きすぎた。

「まあクライン君、待ちたまえ。こう矢継ぎ早ではキリト君も説明しにくいだろう」
「そうだな。じゃあ済まないが、また俺が仕切らせてもらってもいいかな? 多分、ここにいる全員が君にいろいろと聞きたいことがあるだろうから」

ヒースクリフとディアベルがそれぞれに代表して話をすることで、今の話を進めようとした。
キリトもディアベルならばと頷く。

正直なところ、ディアベル程リーダーに向く人間をキリトは、この世界で知らない。ヒースクリフの場合もそうだが、人間性と言う意味ではディアベルの足元にも及ばない。

と言うか、茅場晶彦だし。ぶっちゃけ嫌いだし、とキリトは内心で思った。

ディアベルが司会進行してくれるならば、話も進みやすいしあとあとのフォローもしてくれるだろう。
と言うよりもフォローしてくれなければまずい。キリトは自分の事はよくてもアスナにさまざまな火の粉が飛び散るのだけは、何としても阻止しようとしていた。

この世界には男が大半ゆえに、女性であるアスナに対する反感は少ないとは予想している。
アスナの性格が、いわゆる最低系であるならばまだしも、人当たりもいいし、自分の容姿や能力を鼻にかけたり、他人を見下したりもしない。
ならば向けられる反感はキリト一人になると予想される。

それでもディアベルのフォローがあるのとないのでは、かなり話が違ってくる。
比喩でもなんでもなく、ディアベルはこの世界において最も影響力があるプレイヤーの一人なのだ。

攻略組で指揮を執り、軍においてもシンカーと並ぶリーダーの一人。さわやかで人当たりもよく、面倒見も良くてイケメンで腕も立つ。女にはモテモテであるし、それを鼻にもかけず、女性とのお付き合いを断り、ただ仲間のために攻略を目指すと言うその姿勢が、ほかのプレイヤー達から好感を得ている。

彼に心酔するキバオウのような人間が、それこそこのアインクラッドには山ほどいるのだ。
本当に、前の世界では惜しい人物を初期に失ったものだ。
その彼がフォローしてくれれば、アスナに対する風当たりはかなり小さくなる……。

(いや、待て。もしディアベルの機嫌そこなえたら、かなりやばい?)

そこで不意に思い浮かぶ。もう一度今の自分の状況をキリトは考えなおす。

一つビーター。
前から言われていた、大勢のプレイヤーから忌み嫌われる悪名。自らが名乗ったこともあるし、七十五層までの知識があるから仕方がないし、悪名でも色々と役に立つから重宝している。

二つ最強の剣士。
レベルも前線を離れたが、アスナと共にかなり上げた上に、スキルも必要なものの熟練度はコンプリートかその手前に近いものが大半だ。おそらくレベルも未だにトップであろう。

三つ二刀流。
アスナとのレベル上げで、ようやく取得したユニークスキル。神聖剣と同じで残り九千人以上のプレイヤーの中でも、たったの十人――神聖剣を除けばあと九人――しか取得できない、最高クラスのスキルの一つ。

四つアスナ。
最高のパートナーにして、キリトの嫁、奥さん。美人であり、強い。しかも料理スキルもコンプリートにこそ至っていないが、最高クラス。

(………やばい、もし俺じゃない誰かだったら、絶対に嫉妬してる。つうかむしろ殺意まで沸くぞ、これ)

ネットゲーマーは嫉妬深い。それは肌身に感じている。
客観的に見て、キリトの今の状況は完全に勝ち組通り越して、まさしくチートである。いや、客観的に見なくても十分チートだ。
キバオウではないが、こんな奴が目の前にいたら、自分でもなんでや! チートや! と叫びたくなる。 

ダラダラと汗が全身に吹き上がる気がした。アバターであるために、そんなことない筈なのに。
おかしい。こんな状況は前から慣れていたはずなのに。一層から前線を離れる二十五層までずっと白い目で見られて耐性がついていたはずなのだが……。

その考えに思い至って、若干顔を青ざめさせながら、ディアベルを見る。少しだけ難しい顔をしている。
ディアベルも人間なのだ。嫉妬心がないわけではないだろう。今までは攻略に必要であり、キリトの事をずっと擁護してくれていたが、二刀流に美人のパートナーまで連れてきたら、果たしてどんな気持ちを抱くのか。

キリトは今までディアベルが自分を擁護してくれたのは、命を助けたことによる恩返しと、幾ばくかの同情ゆえではないかと考えてきた。
キリトのおかげで、元βテスターの大半は恨みを買わずに済んでいる。元βテスターと知られても、キリトと言う明確な嫌悪の対象がいるため、ほかの人間に向けられる感情は少なかった。

しかし今はどうだ。完全に勝ち組である。少しでも勝ち誇ったことを口に出せば、即座に集団でPKしかねない。
いや、多分やる。仮にヒースクリフがそんな立場なら、自分は迷わず殺しにかかる。ほかのプレイヤーも同じだろう。

(これ、もしかしなくても詰んだか………)

そんなキリトの心配をよそに、ディアベルが話を進めていく。

「まずは最初に、キリト君。今回は援護ありがとう。君が居なかったら、この攻略はきっと失敗していたし、キバオウさんはじめ、大勢の仲間が死んでいたはずだ。ありがとう」
「い、いや、俺も遅くなって、そのすいませんでした。もう少し早く来れたらよかったんですが……」

できる限り丁寧に言う。ここでディアベルはじめ、全員の機嫌を損ねれば、即座にPK。そんな考えが思い浮かんだがゆえに、キリトは今までにないほどに下手に出る。
そんなキリトに周囲は……。

「あれ、本当にビーターか?」
「つうか、性格変わりすぎじゃねぇか?」
「いや、そもそもあの隣の美少女マジ誰?」

など口々に言う。

「そんなことはないさ。元々君を前線から遠ざけたのは俺達なんだ。その君に感謝こそすれ、文句を言うのは筋違いさ。君へはこの攻略の話を持って行ってなかったんだから」

ディアベルはどこまでも穏やかに言う。君には何の責任もないと。

「そう言ってもらえると、助かります」
「じゃあ済まないが、いくつか教えてくれ。色々と聞きたいことが多いんだけど、ええと、どれからにしたらいいのか」

ディアベルも何から聞いていいのか、迷っているようだ。そりゃ、これだけ聞きたいことが多ければ仕方がないかもしれないが。

「ふむ。ならばまずは私から質問してもいいかな?」

迷っているディアベルの横から声をかけたのは、ヒースクリフだった。キリトは無言で頷く。さて、何を聞いてくるか。やはり二刀流のことか。

「そちらの女性、アスナ君だったか。彼女との馴れ初めを聞きたい」
「はっ?」

一瞬、キリトは変な顔をした。てっきりヒースクリフの事だから、二刀流の事を先に聞いてくるのかと思った。彼としてみれば、最強の剣士の地位を脅かす新しい脅威をキリトが引っさげてきたのだ。予想はしていたが、先にこちらを聞くものだとばかり予想していたが。

「馴れ初め、ですか?」

隣のアスナも聞き返す。ヒースクリフはうむと首を縦に振る。

「おそらくはこの場にいる全員が思っていることだろう。私としても晴天の霹靂だった。キリト君はずっと一人でソロプレイを続けるものだと思っていたからね。私としてはいつか君をギルドに勧誘したいとは常々思っていたが……。それが突然パートナーをつれて来るとは」

本当に君は予想外だよと笑っているが、なぜだろう。目が笑っていない気がした。
しかもアスナはなぜか、ヒースクリフがこの泥棒猫! と目で訴えているような気もした。いや、あの団長がそんな事を思うはずがないと、自分の勘違いだとアスナは言い聞かせる。

「ああ、その、アスナとは二十五層を離れた後に迷宮区で出会って、色々あって、そのままコンビを……」
「ふむ。そのままコンビを組んで結婚したと」
「ええ、まあ……」
「「「「「「「「「「な、なにぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!!!!!???????」」」」」」

怒号が響き渡った。思わぬ声の衝撃に、キリトは顔をしかめた。周囲が一斉に驚きの声を上げたのだ。

「け、結婚ってキリト、お前……、って本当だ!? 左手の薬指に指輪が!?」

今まで気が付いていなかったクラインが代表して声を上げる。周囲の全員がキリトとアスナの左手の薬指を注視する。そこには銀色に輝く指輪がはめられていた。

「ちょっ、待て、キリト! お前、本当に何があった!? 攻略を外されて、自暴自棄になったからってそんな! いや、マジでうらやましいけどな!? こんな美人で可愛い女の子と結婚とか! しかもすげぇ強いし! いやいや、それでもありえねぇ!?」

キリトの肩をつかんで前後に揺さぶるクライン。いや、混乱しすぎだろとキリトは内心突っ込む。

「ま、まあアスナの事はそんな感じだ。話し出すと長くなるし、さすがに出会ってから、ここまでの事をいちいちこと細かく説明してる時間はないだろ」

それに話せない内容が山ほどある。出会って二年以上ですとはさすがに言えない。今回、アスナは前とは違い、第一層攻略時には居なかった。彼女の存在を知る者は少ないだろう。
軍に所属していたと言っても、ディアベルもキバオウも前線に常に出ており、女性プレイヤーとは言えいちいち、中層から下層のプレイヤー全員を覚えてはいまい。

と言うか、語りだしたら赤裸々な新婚生活まで話さなければならなく、間違いなくのろけ話も含まれそうだ。言う方も嫌だろうし、聞く方も嫌だろう。
いや、周囲はもっと情報寄越せと視線で訴えかけているが、それをディアベルが制した。

「よし、わかった。アスナ君って言ったか。俺はディアベル。軍の攻略担当だ。キリト君とコンビを組むってことは、これからは攻略組の仲間だな。よろしく頼む」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」

ディアベルの言葉にアスナは頭を下げる。

「キリト君をよろしく頼む。彼は何かと無理や無茶をするからね。俺達がいくら言っても聞いてはくれなかったが、君が言ってくれれば大丈夫だろう。さっきの攻略戦も凄かった。俺にはあんな戦い方はできない。これからも俺達に力を貸してほしい」

ディアベルも頭を下げる。それを見るとキリトも同じように頭を下げた。

「……ディアベル、今までその、色々とありがとうございます。これからも、よろしくお願いします」

その光景に、また周囲は

「おい、ビーターが頭を下げたぞ!?」
「ディアベルさん、マジぱねぇ!」
「美少女最高! でも人妻……」
「つうかビーター、爆発しろ!」
「おい、壁もってこい!」

などと口々に言い合う。

「てか、あの子、マジでヤバくね?」
「あのビーターを骨抜きにしたのか!?」
「いや、あれはデレさせたのでは?」
「ビーターを攻略した、だと?」
「なんでや!? そんなのチートやないか!?」

と周囲は騒然としたものだった。
なぜかヒースクリフはどこか苦虫をすりつぶしたような顔をしていたのだが、気のせいだろうか。

「ああ、一緒に攻略を目指そう! それと俺に対しては今までどおりの口調でいい。攻略の仲間には変わりはないからな」

笑顔を浮かべて言うディアベルに、あんたどこまでいい人なんだとキリトは思った。前の世界の第一層で、少しだけ裏工作をされたりはしたが、それもこのゲームを攻略するために必要な行為だったからだ。
ディアベルの本質は、やはり他人の事を第一に考えるタイプなのだろ。
じゃあ口調は崩すとキリトは言った。やはりキリトはある程度崩したしゃべり方の方がらしい。改まったしゃべり方など、違和感しかないと周囲も思っていた。

「けどやっぱり俺達には君の力が必要だ、キリト君。今回の攻略戦でそれが証明された。君とアスナ君、そしてヒースクリフさんの三人が前線にいてくれれば、それだけでみんなの希望になる」
「いや、俺はそんな大層なものじゃ。それに希望って言えばディアベルの方が……」
「俺は君たちほど強くはない。みんなを何とか纏められても、今回みたいに犠牲者を出しかけた。俺は前にも言ったけど気持ち的にナイトはできても、やっぱり勇者はできないさ」

何とかなく、キリトはあんたの方が勇者っぽいと言うか、勇者の中の勇者で勇者王な気がするんだけどと言いかけたが、口に出さないようにした。
代わりにキリトは首を横に振った。

「そうでもないと思う。やっぱりほかのプレイヤーには俺みたいなのより、ディアベルの方がよっぽど必要なはずだ」

今もなお、こうして自分のようなプレイヤーを排斥せず、仲間だと言ってくれる男。やはりこの世界にはディアベルが必要だ。彼こそ、英雄になるべきだ。

「はは、ありがとう、キリト君。じゃあこの話はここまで。みんなも二人の関係は気になるとは思うが、結婚までしていると言うのは、相当な関係だ。二人の信頼関係がうかがえると俺は思う」
「………確かに結婚すればストレージが共有化される。レアアイテムの独占もできない。もっともキリト君は今までレアアイテムの独占などしていなかったから、その限りではないだろうが」

しかしあのキリト君が結婚か……、などとぶつぶつ呟くヒースクリフ。あんたもどうした、とキリトは疑問を浮かべる。そんなに俺がアスナと結婚したのがおかしいか。
最後に一方的に離婚を切り出された場合はどうすればいいか、アドバイスまでくれる始末。大きなお世話で、そんなことは絶対にないとキリトは言い切ったのだが。

「これからもレアアイテムの独占はしない。情報も同じだ。俺とアスナの必要な分は確保するが、それ以外は今までどおりにする。約束する」
「いや、俺は別に疑ってないさ。みんなもそれでいいね!」

ディアベルに言われては何も言えない。ここで意見できる人間はそう多くはない。

「じゃあ次はその二本の剣についてだ。ソードスキルまで使っていたが……」
「エクストラスキルの二刀流。ついこの間、取得したところなんだけど出現条件は不明なんだ。スキルの出し方がわかっていれば、すぐにでも公開したいんだけど」

そうすれば攻略組全体のレベルが飛躍的に、それこそ段違いに上がるはずだったからだ。
その言葉に周囲がざわざわと騒ぎ始める。

エクストラスキル。
これまでにもいくつか確認されている。体術、カタナなど、十種類以上あり、さまざまだが、取得条件が難しく、強力なスキルが多い。
その中でも二刀流と言うのは、今まで誰も聞いたことがない。情報屋のリストにも載っていない。

ユニークスキル。
神聖剣と同じ、たった一人しか取得できない能力。その可能性が高い。
だがこの場にいるほとんどの人間は恨めしそうにキリトを見るが、あのビーターならばあり得ると心の中で思っていた。

彼の強さ、能力、知識、情報はそれこそ隔絶していた。前線を離れた後でも、彼と鼠のアルゴのもたらす情報は、大勢のプレイヤーに重宝されていた。
キリトが嘘をついていると言う可能性も否定できないが、これまでも多くのレアアイテム、レアスキルの情報を惜しげもなく放出していることから、その可能性は低いと考えられた。

これはキリトの意図しないことだったが、彼が自分に本当に必要ないものは、仮に装備できても手を付けずに情報を回したり、入手したレアアイテムでも即座に他人に安価で売買していたためであった。
ゆえにキリトを毛嫌いしているプレイヤーも、その言葉に嘘はないだろうと考えたのだ。

それでも羨ましいと思う気持ちはある。あのスキルが欲しいと嫉む気持ちはある。
しかしそれを言葉にすることはできない。しつこく聞くこともできるかもしれないが、相手はあのビーターである。下手につついて、これ以降の情報が回されなくなれば、それこそまずい。
であるからこそ、プレイヤー達は歯ぎしりして睨むしかできない。

(羨ましい)
(欲しい)
(あのビーターがっ)
(どれだけチートなんだよ)
(美人の奥さん)
(俺も彼女が欲しい)
(なんでや)
(私のキリト君が)

などなど、様々だった。ある意味、ラフィン・コフィンをキリトがつぶしておいて正解だったかもしれない。
もしPoHが生きていれば、大勢のプレイヤーの心理を巧みに操り、キリトを殺す、あるいは絶望させようと暗躍しただろう。

あるいは赤目のザザ、ジョニー・ブラックがいれば、それこそカップルには死を! などとあの手、この手で大勢のプレイヤーを巻き込んでキリト達を殺しにかかっていただろう。
キリトはあまり褒められはしないが、ラフィン・コフィンを殲滅したことで、ほかの大勢のプレイヤーを救うと同時に、自らの身をも守ったと言うのは皮肉な話である。

「そうか。わかった。俺達も取得できればそれだけで攻略は進むのに、残念だ」
「ああ。俺もそれは思う。何かわかったら、すぐに公開する」

そう言うキリトだが、本人はそれがユニークスキルだと言うことを知っているため、それが公開されることはないと、内心謝罪する。
しかしこれでようやく並び立った。ちらりとヒースクリフを見ると、キリトと目があった。
先ほどとは打って変わり、どこか楽しそうな笑みを浮かべている。
どこか不快感をキリトは感じつつも、それを表に出さないようにする。

(俺がユニークスキルを取得するのを待ってた、もしくは予想してたのか。ああ、お前を倒す二刀流を手に入れてきたぜ)

これで条件の一つはまたクリアされた。あとはヒースクリフと決闘を行い、相手の正体を露見させるだけ。

(問題はタイミング。前と同じで七十五層後でもいいが、それだと犠牲者が出すぎる)

前回の七十五層戦は十四名もの犠牲者を出した。TOPクラスの実力を持つメンバーがである。
ならばその前のタイミング。
だが今はまだ早い。熟練度がコンプリートしていないし、ヒースクリフの神聖剣を攻略するためのシステム外スキルの構築も終わっていない。

焦る必要はない。まだゲーム開始から半年だ。前の世界では二年で七十五層到着。今のペースならばあと半年、長くても一年以内にそこまで到達できる。
半年もの猶予があるし、まだプレイヤーの死者もぎりぎり千人に届くか届かないか位だ。

さすがにこの先一年で、前と同じほどの死者が出るとは考えられないが、救える命なら救いたいと思う。
アスナと合流してから、どうにも心に余裕が戻ってきたようだ。

(別に英雄になりたいわけじゃないんだけどな)

心で息を吐き、そしてもう一度表情を引き締める。
それから先はいくつかこまごました質問をされたが、答えられるところは答え、言えない個所は言葉を濁した。
そうしてそれなりの長い時間を質問攻めにあったキリトとアスナは、ようやく解放されることとなる。

「じゃあ質問はこれくらいでいいか?」
「ああ、みんなも大体これでいいかな? あと最後に俺からの頼みだ!」

ディアベルは声を最後に声を張り上げた。

「おそらくほとんどのみんなはキリト君に思う所があるだろう。俺も結構複雑だ! けどそれでも彼はこれからも必要な人間だ! 彼が、そして彼女がいなかったら、俺も含めて、大勢がここで命を落としただろう!」

その言葉に多くのプレイヤーは何も言えない。キバオウとクラインは二人が乱入しなければ、間違いなく命を落としていた。
仮にこの場を二人の犠牲だけで退いても、またこのボスの攻略の際にも必ず犠牲者が出ただろう。

「だから彼に対して無意味に突っかかるのは極力やめて欲しい。妬みや嫉み、不快感は絶対にあるとは思う。俺だってそうだ! それでも彼は攻略組の仲間だ。ギルドが違っても、ビーターであっても、大勢のプレイヤーをこの世界から解放しようと頑張っている、俺達の仲間だ! だからその感情はこのゲームがクリアされるまで、胸の内にしまっていてくれ!」

その演説にキリトは目頭が熱くなるのを感じた。そんなキリトの手をアスナは優しく握る。

「おい、ビーター!」
「キバオウ……」
「ビーター。わいはお前が嫌いや。前からもそうやったし、これからもたぶんそうや。でもジブンに命を助けてもらった恩を忘れるほど、わいも子供やない。まあディアベルはんと違って、わいはお前を絶対に認めへんけどな!」

キバオウはそれだけ言うとキリトに背を向けた。

「それでも一緒に攻略を目指すって言うのは認めたる。それと……すまんかったな。助けてもろて」

最後の方はどこか照れくさそうに、言うキバオウはわいが言いたいのはそれだけや! と言いながら、ずかずかとどこか恥ずかしそうにボスの部屋を後にする。それに苦笑しながら軍の面々も後に続く。ディアベルも苦笑しながら、ではこの場は解散しようと告げて、彼らの後に続く。

ほかのギルドもディアベルの言葉に理解は示していたが、納得はできないのかどこか苦々しげな表情を浮かべる者が多かったが、この場で騒ぎ立てるつもりもないと、それぞれが攻略の場を後にしていく。

「キリト君。次の攻略でも君と肩を並べられることを願うよ。そしてアスナ君。君とも長い付き合いになるだろう。……君の活躍も楽しみにしているよ」

ヒースクリフもそれだけ言うと血盟騎士団をひきつれて、この場を後にする。
ぞろぞろとボス部屋から出ていくほかの面々を見ながら

「アクティベートは誰がやるんだよ」

と小さく呟くと、横からクラインに小突かれた。

「んなもん、お前に決まってんだろ、キリト」
「ったく。お前は本当においしいところを持ってくな、キリト」

クラインの隣にはいつの間にかエギルもやってきていた。

「クライン、エギル」
「みんな、お前の事を認めてるんだよ。そりゃ、嫉妬深い奴とか、未だにお前を毛嫌いしてるやつはいるだろうけど、全員が全員じゃねぇよ」
「そう言うことだ。今回の事も、お前ならあり得るってみんな思ってるだろ。まあお前が女を連れて来るとは誰も予想してなかったがな。しかも結婚までとは……」

クラインがキリトをフォローしたのを見て、エギルも口を開く。エギルの方はどこか呆れているが。
ある意味、結婚までしていたから、周囲の嫉妬は小さかったのかもしれない。
この世界での結婚は、ストレージ共有化と言うメリット同時にデメリットも存在するシステムに変更される。

仲のいい恋人でも、結婚に至るまでにはならない。女性プレイヤーが少ないと言うのもあるが、結婚と言うのはそれなりの重みがある。それは現実でも、この世界でも変わらない。
むしろ彼女を持っている男は妬ましいが、結婚した男はあまり妬ましいとは感じないと思うのに似ているかもしれない。

もしこれが女性ばかりのギルドにキリトがいたり、アスナと結婚しておらず、ただの恋人だったなら、嫉妬の嵐は今の数倍以上に膨れ上がっただろう。

「ったく。一月前にうちに顔を出した時は、もうアスナちゃんがいたのか?」
「あー、その、実はそうなんだ。その、ありがとうな、クラインもエギルも。特にエギル、この間の売買で結構なコルを出してくれて」

照れ臭そうに頬をかきながら、キリトは礼を述べる。そんな姿にクラインは一丁前に恥ずかしやがりやがってと、うりうりとキリトの頭を撫でる。
ほんの少し前までは、キリトとこんなやり取りができるとは思っていなかった。キリトもやめろよと口で言いながらも、どこかそれを受け入れていた。
本当に別人じゃないかと思う位の変わりようだ。それができたのは……。

「どうかしましたか?」

クラインとエギルはアスナを見る。彼女がこのキリトをこんな風に変えたのか。いったい何をどうすれば、こんな風にできるのか。
結婚しているエギルにしてみれば、女は男を変えると知っているだけに、ただただ苦笑するしかない。ただそこに至るまでは、並々ならない苦労があっただろう。

「いや、なんでもないですよ、うん。って、キリト、マジで美人だな、おい」

キリトとクラインは未だにじゃれ合っているのを、アスナは楽しそうに眺める。エギルもこの二人のこんな光景が見れるとは、本当に想像できなかった。

「なにはともかく、キリト、アスナちゃん、お疲れ様だな」
「ありがとうございます、エギルさん。クラインさんもお疲れ様です」

あれ、そう言えば自己紹介したかと二人が疑問詞を浮かべていると、アスナは「キリト君からお二人の事はよく聞いています」と笑顔で答えた。
どんな話か気になったが、今度またじっくり聞いてやろうと、エギルとクラインは顔を見合わせた。

「まあそれはともかくアスナさん。キリトをよろしくお願いします。まあ知ってるとは思いますが、こんな奴なので」
「こんな奴とは失礼な」

どこかぶっきらぼうに言うキリトにアスナも苦笑する。

「そう言うなって、キリト。本当に少し前のお前は酷かったんだからな」

キリトもアスナと合流する前の自分をかんがみて、確かにあの時は荒れていたからなと、何も言えなくなった。

「はい、任されました」

笑うアスナにキリトはそんな笑わなくてもと文句を言う。そんな姿にクラインもエギルも笑う。

こうして、一つの幕が閉じ、新たな幕が開く。
キリトとアスナの新しい攻略がまた、始まる。



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