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No.34934の一覧
[0] ソードアート・オンライン 逆行の黒の剣士(SAO)[陰陽師](2012/11/26 22:54)
[1] 第一話[陰陽師](2012/09/16 19:22)
[2] 第二話[陰陽師](2012/09/16 19:26)
[3] 第三話[陰陽師](2012/09/23 19:06)
[4] 第四話[陰陽師](2012/10/07 19:11)
[5] 第五話[陰陽師](2012/10/15 16:58)
[6] 第六話[陰陽師](2012/10/15 17:03)
[7] 第七話[陰陽師](2012/10/28 23:08)
[8] 第八話[陰陽師](2012/11/13 21:34)
[9] 第九話[陰陽師](2012/12/10 22:21)
[10] 外伝1[陰陽師](2012/11/26 22:47)
[11] 外伝2[陰陽師](2012/10/28 23:01)
[12] 外伝3[陰陽師](2012/11/26 22:53)
[13] 外伝4(New)[陰陽師](2012/12/10 22:18)
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[34934] 第四話
Name: 陰陽師◆c99ced91 ID:e383b2ec 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/07 19:11
涙がようやく止まったのを見計らい。キリトは自身の目元を拭った。
散々泣いて、少しは楽になった。
アスナへの想いは確かにこの胸にある。今も尚、と言うよりは、さらにと言ったところだろう。
彼女が自分の知るアスナであった。戻った、と言うべきなのか。
彼女は生きていた。生きていてくれた。それだけが救いだった。
彼女を拒絶したのことは、辛かった。アスナにも辛い思いをさせてしまった。

それでもこれが最善だとキリトは自分に言い聞かせる。今の自分と行動を共にすれば、アスナは必ず嫉妬の対処になる。ビーターの悪名の被害を受ける。
彼女が他の誰かから誹謗中傷を受けるのは、断じて認められない。もしそんな事をいうやつが目の前にいれば、即座に殴りかかるかもしれない。

「でも良かった。アスナが無事で。生きててくれて・・・・・・・」

無事生きていたと言っていい状況なのかは不明だが、それでもキリトは救われたような気がした。
彼女のためにも、攻略を急ぐ必要がある。彼女を無事に、今度こそ絶対に、この世界から助け出す。

本当は隣にいて欲しいと思っているが、あの光景がキリトの脳裏に浮かぶ。
ヒースクリフの攻撃から自分を守るために、その身を犠牲にしたあの時が……。

—――キリト君は、わたしが守る―――

彼女は自らが口にした通りに、キリトを守った。
でもキリトは彼女を守りきれなかった。
何かを失うのは、もう嫌だ……。大切な人なら、なおさら。

「俺は大丈夫だから、アスナ……」

しかしキリトは気が付いていない。否、理解が足りていなかった。キリトにとってアスナが何ものにも代えられない程に大切な人であったように、アスナにとってもキリトは何ものにも代えられない人であると言うことを。
その彼女が現在、どれだけ傷ついているかを、彼は甘く見ていた。




アスナの前にそれは突然姿を現した。
その身にあまり似合わないナイフを持った猿人。三十五層の森に出現するドランクエイプに似ているが、こちらはそれよりも小柄であり、メイスではなく小さなナイフを持っていると言う違いがある。

これも迷宮区に出現するモンスターの一種である。キリトがいたのは、安全区ではあったが、迷宮区の中であった。
アスナはそこから離れたのだが、キリトからもたらされた拒絶の言葉に動揺し、混乱した結果、来た道ではなく、未だマッピングの済んでいない場所に迷い込んでしまった。

今のアスナでもこの程度が一体ならば難なく倒せる。それだけの安全マージンは取り、この層までやってきたのだ。
しかしいくらレベルが高くても、スキルが高くても、このゲームで生き残るのは簡単ではない。

このフルダイブゲームにおいて、そのプレイヤーの精神状態が戦いを左右すると言っても過言ではない。
焦りや油断、慢心と言った感情が、プレイヤーの命を奪う。これは現実でもゲームでも変わらない。

アスナの今の精神状態は最悪と言っていいものだった。動きにキレがない。頭では戦わなければと思っているのに、何度も何度もキリトの姿が脳裏をよぎる。
彼からの拒絶の言葉が、アスナの精神を揺さぶる。

(ダメ……集中しなきゃ)

自分に言い聞かせるが、心は一向に落ち着かない。
相手はナイフと言うこともあり、リーチはこちらが上だがその分俊敏性が早かった。むろん、アスナよりも早いと言うことはないが、重武装タイプのプレイヤーならばかなり苦戦するだろう。

―――もう、一緒にはいられない――――

キリトに拒絶された言葉が頭から離れない。
私はずっとキリト君と一緒にいたいのに……。
キリトがあんなことを言ったのには訳がある。それをアスナは理解している。かつて所属していたギルドが自分のせいで全滅したと言う話をキリトから聞いている。
それがトラウマとなり、以降はずっと一人で行動していた。

アスナがキリトの心を癒し、二人で行動を共にするようになった。ともに支えあい、お互いが切り離すことのできない存在になったとアスナは思っていたし、事実その通りだった。
それがアスナの死という物に触れたことで、刺激され、再び誰かといることに恐怖を感じるようになった。

キリトの場合はすでにアスナの事を想いながらも、自分の意思を固めていた。それが歪で自己満足的なものでしかなくとも。
だがアスナの場合は、心の整理をする時間がほとんどなかった。ゆえに今の状況を招いた。
結果、彼女は命の危機を迎える。

いつもの彼女なら、難なく倒せるであろう相手。しかし勝てない。ならば離脱しかない。転移結晶は現在、アスナは持っている。もしもの時のために用意しておいた。
思考がまとまらない中、何とか離脱と言う選択肢を頭に思い浮かべることができた彼女は、まだ自暴自棄になってはいなかった。

しかし彼女の不運は続いた。
転移結晶を手に持ち、転移を試みようとした瞬間、わずかに敵の攻撃がアスナの体に触れる。それだけならばたいしたダメージはなかったが直後、アスナは自身の体の自由を奪われた。

(っ、麻痺!?)

剣と結晶を手から落としてしまう。掠っただけで麻痺。あまりにも強力な麻痺だった。もともとアスナは俊敏性を上げるために防御力を犠牲にしていた。さらに装備も同じで動きやすいものを選択していたことが仇となった。
鎧ならば麻痺効果のナイフを通さなかっただろうが、アスナの装備ではそれを防ぐことはかなわなかった。どさりと仰向けに倒れこむ。

麻痺状態の時はシステムメニューを開けない。動かせるのは口と左手の肘から下のみ。
こういった場合、左側のポーチに解毒結晶や転移結晶を用意し、それを使用すると言うのがセオリーだ。

アスナもその例に倣い、常にこの二つを左手のポーチに入れている。尤も転移結晶は麻痺のせいで落としてしまったが、まだ解毒結晶は残っている。
アスナは何とか動く左手で、解毒結晶を取出し、解毒を試みる。
だがそんなアスナの動きに反応したのか、猿人は仰向けに倒れるアスナに馬乗りとなった。

デジタルのデータとはいえ、猿に馬乗りにされると言うことにひどい嫌悪感を抱くことになったが、それを考えている余裕はなかった。
そのまま猿人は連続でナイフをアスナに向けて振り下ろす。解毒が終わった直後にまたしても麻痺が発生した。
解毒結晶は一つしかなかった。それに複数用意していたとしても、この状況では意味がない。

「っ!」

何とか唇をかみしめ、恐怖に耐える。こんな状況は今までに経験したことはなかった。動けないまま、攻撃を受けた経験などない。今まで麻痺状態になっても、近くには必ず誰かいた。
けれども今は一人。

アスナは怖いと思った。死と言う物が、身近に近づいてくる気がした。
何度もその体をナイフがえぐる。それ自体の攻撃力は大したことはないが、何度も連続して体に突き刺さられると言う行為が、アスナの精神を削っていく。
痛みはないが、じわじわとライフを削られていくことに、焦燥感は増していく。グリーンからイエローに……。ついにレッドにまで、ライフが落ち込む。

(ダメ、これ以上は!)

あと数回、ナイフを振り下ろされれば死ぬ。
しかし何もできない。何とか動く左手でナイフを止めようとするが、アスナの筋力パラメーターでは何もできなかった。猿人の腕を止めることも、ナイフを止めることも。

絶望だけが広がる。もう終わりは近い。
ああ、私死ぬんだな……。
あきらめにも似た気持ちがアスナの中に広がる。
キリトが自分が死んだと知れば、どう思うだろう。
悲しむだろうか。苦しむだろうか。

不意に、キリトの今にも泣きそうな顔が浮かぶ。何度か見たことがある、彼の辛そうな顔。
黒猫団の死を語る時。逃げたいと言っていた時。
強い彼と弱い彼。そのどちらもキリトだった。
うぬぼれではないが、多分自分が死ねばキリトは傷つく。きっと自分のせいにしてしまうはずだ。

(……ダメ、それだけは絶対!)

だから死ねない。諦めない。何とか、何とか生き残る。最後の最後まで……。
あの時、麻痺から回復した時のように、何とか動いてとアスナは必死に願う。
しかし根性論だけでは、精神論だけでは、奇跡など起きない。

あれは本当の奇跡。あるいはアイテムとなったユイの心が起こした事象だったのかもしれない。
簡単に起きないからこそ奇跡。
もうライフがゼロに限りなく近い。後一撃、振り下ろされただけで終わる。

(本当に、これで終わりなの? ……キリト君!)

ごめんなさいと、目を閉じキリトに謝るアスナ。
直後、疾風が駆け抜ける。黒の疾風が……。

「えっ?」

アスナに乗りかかっていたモンスターが宙を舞った。宙を舞う猿人はそのままポリゴンを四散させた。
自らにかかってていた負荷が消えたのを感じ、目を開ける。そこには剣を振りぬいた黒の剣士、キリトがいた。
その顔は蒼白となっており、どこか息も荒いような気がした。

「アスナ! 生きてるよな、アスナ!?」

なんか似たような事が前にもあったかなと、アスナは場違いなことをお一瞬考えてしまった。あの時とは立場が逆だが。
キリトは即座に回復結晶を使い、アスナのHPを全快にする。

「キリト、君?」
「よかった。アスナが無事で、よかった」

本当に安心したような顔をしながら、キリトは気が抜けたのかガクリと膝をついた。

「ごめん、アスナ。俺のせいでアスナをこんな目に……」
「ち、違うよ、キリト君! これは私のせいでキリト君のせいじゃ……。それよりもどうしてここに?」

アスナは自分が思った疑問を口にする。キリトがここに駆けつける理由がわからない。
前回、キリトのピンチをアスナが救えたのは、訓練のために出かけた彼の位置をマップでをモニターしていて、同行者の反応が喪失したため、何かあったと思い彼の下に向かったからだ。
今回はキリトとお互いにメンバー登録をしていないので、位置や情報を知るすべはなかったはず……。

「ユイが、教えてくれた」
「ユイちゃんが?」
「ああ。パパの馬鹿って、怒られた。本当に馬鹿だよな、俺」

どこか自嘲しているようなキリトのつぶやきにアスナは、何と言って良いのか言葉に困った。

「ユイがある程度事情を教えてくれた。俺に接触するのは危険だから今まで何も言えなかったってことも、アスナが俺の所に来れた理由も」

短い時間だったが、キリトは実体化したユイからあらましを聞いた。茅場晶彦に目をつけられた場合、どうなるかお互いに理解している。
仮にユイがアスナの下に出向いて、モンスターを消去すると言う方法を取れなくもなかったが、そちらの方がリスクが大きすぎた。カーディナルに、茅場晶彦に目をつけられるどころではなく、エラーとして報告され、確実に彼らの目に留まる。
ユイは確実に削除され、そこからアスナに、その前に接触していたキリトに波及するのは目に見えていた。

ならばまだリスクが少ない方を選ぶ。またアスナを拒絶したキリトに文句の一つも言いたかったと言うこともあるし、二人をこのままにしておけなかったと言うこともある。

「でもアスナがヤバいって。だからユイは危険を承知で俺の所に来てくれた」
「そんな! じゃあユイちゃんは!?」
「いや、今のところ大丈夫だって言ってた。監視も今はないし、ログもある程度誤魔化せるって……」
「そう、なの?」
「わからない。けど俺の事は自業自得だ。それよりも……アスナが死ぬ方が何倍も嫌だ」

アスナが死ぬかもしれないと言われた時、全身に悪寒が走ったような気がした。恐怖した。自分が死ぬことよりも、彼女が死ぬことが何倍も怖かった。
だからキリトは走った。以前、自分を助けに来てくれたアスナのように、俊敏パラメーター補正の限界を超えていただろう。
あの時のアスナもこんな気持ちだったのだろうか。
とにかく、アスナを見つけ、モンスターを撃破し今に至ると言うわけだ。

「とにかく、ここは危ない。一度転移結晶でどこか安全なところに」
「うん。そうだね。……ねぇ、キリト君。少しだけでいいの。キリト君のそばにいていい?」
「アスナ?」
「迷惑なのはわかってる。でもほんの少しだけでいいから」

迷惑なんかじゃない。そうキリトは言いたかったが、言えなかった。代わりにできたことは頷くことだけ。
そのあとはお互いに無言で転移結晶を使った。行先は、あの思い出の場所、二十二層だった。



二十二層の森の中。キリトとアスナはお互いに装備を解除し、無言のまま歩いていた。
アスナは実にひと月ぶりであった。キリトはここに来ると思い出が多すぎて泣いてしまいそうだったので、極力来ないようにしていた。最後に来たのは、この層を攻略した時以来だろう。
ここに来た理由はモンスターが出ないこと。あまり人がいないこともあったが、けじめをつけるならばこことお互いが思ったからだろう。

「懐かしいね、ここ」
「そうだな」

うれしそうに微笑むアスナに、キリトも心なしか表情を和らげていた。昔みたいに笑うことはまだできていない。でもほんの少しだけ、あの頃に戻ったような気がした。

「あの頃は、本当に楽しかったね。今でも時々思い出すの。夢のような時間だったって。キリト君がいて、ユイちゃんがいて。本当の家族みたいで。ずっとあの時間が続けばいいなって思ってた」

キリトもアスナの言葉にそれがずっと続けば、どれだけ幸せだっただろうかと思った。

「でも二週間で終わったよな」
「うん。それですぐあの戦いだったもんね」

お互いに思い出す七十五層の戦い。ヒースクリフの正体の露見と決闘。そしてアスナと自分の死。

「ごめんね、キリト君。私のせいで、またキリト君にいろいろと背負わせて。一緒に背負うって言ったのに……」
「違う。全部俺のせいだ。君を守るって言っておいて、結局君に守られて、君を、見殺しにした!」

叫ぶようにキリトは胸の内を吐露する。

「俺は何も守れなかったんだ。黒猫団もサチもアスナも!」
「違うよ、キリト君! あれは私が勝手に! キリト君はなにも悪くないよ!」

叫ぶキリトにアスナは必死に悪くないと言うが、キリトは聞き入れない。なおもキリトは自分のせいだとアスナに謝罪する。
だがアスナはそんな言葉聞きたくなかった。キリトにこれ以上苦しんでほしくなかった。

「キリト君!」

アスナがキリトの名を呼んだ時、アスナは思わずキリトの体を抱きしめていた。

「もうやめて、キリト君! どうしてそんなに自分を責めるの!? なんで全部背負おうとするの!?」

アスナは泣いていた。すべてを一人で背負おうとするキリトに。自分が悪いと子供のように駄々をこねているようなキリトに。

「そんなキリト君、見たくないよ! あの時の、クラディールの時もそうだよ! キリト君が悪いなら私はどうなの!? 一緒に背負うって言ってキリト君に背負わせてばかりの私は!?」

キリトに影響されたのか、アスナも今まで心のうちにためていた思いを吐き出した。

「私が守りたかったのは、キリト君の命もだけど、キリト君の全部を守りたかった。優しいキリト君を守りたかった! でも結局またキリト君を傷つけて、つらい思いをさせて」
「アスナ……それは俺が」
「もう嫌! そんなの聞きたくない! 私はキリト君に笑っていて欲しかった。私も、笑ってるキリト君が一番好きだった! でも私はそんなキリト君の笑顔を奪った!」
「待ってくれ、アスナ! それは絶対に違う!」

泣きじゃくるアスナの肩をつかみ、少しだけ彼女を離れさせる。そしてそのままキリトは彼女の顔を見据える。

「違う。本当に違うんだ、アスナ。アスナのせいじゃない。それは、本当なんだ。だから頼む。泣かないでくれ。アスナが泣いてるところなんて、見たくないんだ」
「私だって同じだよ、キリト君。キリト君がつらい顔をしてるところなんて見たくない」

お互いにお互いを大切に思っている。それは昔も、今も変わらない。
それが感じ取れるだけに、キリトも何も言えなくなった。なんとなく、叫んでた自分がガキっぽく思えてしまった。
そして思う。やはり自分はアスナを求めてしまうと。アスナが好きだ。愛している。
思わず、今度はキリトからアスナを抱きしめた。

「キリト君?」
「………アスナが死んだとき、何も考えられなくなった。さっきもすごく怖かった」

もう一度アスナを失う。それも自分が知っているアスナを。本当に怖かった。これ以上の恐怖はないと思える程に。

「自分が許せなかったんだ。アスナを守れなかった自分が……。また守れなかったらどうしようって」
「……それは私も同じだよ、キリト君」

自分を抱きしめるキリトの体にそっとアスナも腕を回す。

「記憶が戻ってからこの一か月、キリト君にどう謝ったらいいのかって、ずっと考えてた。私がキリト君につらい思いをさせたから……」
「アスナ……」
「どうしたらいいのかなって、ずっと考えてた。どうすればキリト君は許してくれるのかなって、ユイちゃんにも相談してたんだよ」
「許すも何もアスナは何も悪くないって」
「そうやってすぐ自分が悪いって言う」

アスナの言葉にキリトは知らず知らずのうちに苦笑した。

「キリト君と再会できてすごくうれしかった。また一緒にいられるって考えたら、もうほかに何もいらないって思える程に」

そう言ってアスナはよりキリトを抱きしめる腕に力を込めた。もう話したくないと言わんばかりに。

「でもそれは私のわがままだったんだね」
「それは違う」

キリトは自分でも驚くほどにすぐにアスナの言葉を否定した。

「俺もうれしかった。アスナが俺の名前を呼んでくれて。もう二度とないって思ってた。もう俺が大好きだったアスナは死んだんだって思ってたから。結局、自分の事だけ考えて、アスナの気持ちを考えてなかったんだ」

その結果、アスナは命の危険にさらされた。

「自分でもどうしていいのかわからないんだ。でも怖いんだ。また君を失ったらどうしようかって。俺と一緒にいて、君までほかのプレイヤーから嫉まれたらどうしようかって……」
「………ありがとう、キリト君」
「アスナ?」
「ずっと私の事を考えてくれてたんだね。私も本当はね、怖かったんだよ。キリト君がいなくなったらどうしようかって。多分、もう耐えられない。前に言ったでしょ、自殺するって。もしキリト君が死んだら、私も後を追おうって、本気で考えてたんだから」
「……やっぱり、本気だったんだな」
「うん。今はまた背負わせちゃうって思うから、やりたくはないけど気持ちとしては本当かな。毎日に絶望するよ。キリト君がいない世界なんて、もう考えられなかったから」

その思いはキリトもよくわかる。ヒースクリフとの戦いでアスナを死なせた時に、キリトは嫌と言うほど味わったから。

「ねえキリト君。私はキリト君と一緒にいたい。これからもずっと。この気持に嘘はつけないから」
「俺も……アスナと一緒にいたい」

自然とそんな言葉が出てきた。キリトもアスナと同じだった。この気持に嘘はつきたくない。
一緒にいられないとアスナに言っておきながら、現金なものだとキリト自身も思うが、もうアスナを放したくはなかった。
キリトの言葉にアスナは驚きの表情を浮かべた。

「な、なんだよ。そんなに驚かなくても」
「ううん。あ、その、すごくうれしいんだよ!? でもまたダメって言われるかなって思ってたから。あっ、その場合は、ちゃんと離れるつもりだったんだよ。でも勘違いしないでね。私のキリト君への想いがこれくらいで無くなるはずないから。ただ離れて私も軍でキリト君をサポートしていこうって思ってたから」
「あれ? 今ってアスナは軍の所属なの?」
「そうだよ。攻略組一歩手前で記憶が戻ったの。それにキリト君が今まで頑張ってくれたおかげで、今の軍は凄くいいギルドなんだよ。まあ大きすぎていろいろと大変みたいだけど」

今回は血盟騎士団には入るつもりはないとアスナはきっぱりと言った。あのギルドに対して思いがないわけではないが、すべてを知った後では不信感しか出てこない。

「別に副団長とかの役職もないから、抜けるのは簡単だし。キリト君と一緒にいられるなら、私はずっと一緒にいたい」
「……ありがとう、アスナ」

もう一度、アスナを強く抱きしめる。アスナもうれしそうにキリトのぬくもりを感じる。

「キリト君。次は絶対にキリト君を残して死なないから」
「俺も……今度こそ絶対に君を死なせない。一緒に、現実世界に帰ろう」
「うん。大好きだよ、キリト君。一緒に戻って、ずっと一緒にいようね」

二人の距離が縮まり、どちらともなく口づけをかわす。
この日、この世界において一つの転機が訪れる。
のちに夫婦剣、最強夫婦、白黒夫婦などと語られる黒と白のコンビの再誕であった。




ゲームが開始されてから半年が経過した。
キリトが前線から抜け、アスナが再会してから二カ月が経過していた。
その間に各ギルドは順調にレベルを上げ、攻略に対してもある程度の余裕を持てるようになってきた。

それに伴い各ギルド間のいざこざも増えるようになってきた。特に血盟騎士団とアインクラッド解放軍、聖竜連合の三陣営の争いが活発化してきた。
軍は数こそ多いものの、最前線に参加できるほどのプレイヤーは五十人程度である。

ディアベル、キバオウの二人を先頭にかなりの実力者ぞろいではあるが、神聖剣を擁するヒースクリフとその彼が鍛えている血盟騎士団の団員達の前では一歩劣ってしまうのが現状だった。
キバオウはヒースクリフの事もあまり好きではない。それは嫉妬に似た感情であろう。

「けっ、すかしやがって」
「まあまあキバオウさん。落ち着いてください」
「せやけどディアベルはん。あいついっつも同じような表情でわいらを見てるんやで。なんつうか見下してるみたいな。あんなチートなスキルがあるからって、わいらの事を馬鹿にしとんのや」

いつも表情を崩さずにいて、偉ぶることもない。そんな彼に好感を抱くプレイヤーが多いが、キバオウは逆にその余裕の態度が癪に障る。
ギルドの長としても、ほとんどすべてを副団長以下部下に任せている。自ら命令を発することはほとんどない。

「そうかな。俺はあの人はいい人に思えるんですけど。話してみると結構話の分かる人ですよ、キバオウさん」
「かぁー! ディアベルはん! 騙されたあかん! あれは絶対に腹に一物抱え取るタイプやって! わいが言うんやから間違いない!」

自信満々に言うキバオウにディアベルは苦笑するしかない。途中から最近は出しゃばらんようになったけど、あのビーターの小僧も絶対に憎たらしい奴やから、気を許したらあかんとしきりにディアベルに言う。そんな光景に軍の面々は笑いをこぼす。

現在は五十層。ゲームも中盤に差し掛かったところである。半年で半分。かなりいいペースであろう。
攻略の糸口が見え、このまま進めば一年。長くても二年かからずにこの世界から脱出できる。それが希望となり、多くのプレイヤー達は絶望せずにこのゲームに挑んでいる。

職人クラスも攻略の手助けをと、自らのスキルを上げていく。そして日ごとに最前線へと参加するプレイヤーも増えていく。

「よう、クライン。お前も今回は参加するのか?」
「おっ、エギル。まあ俺達も一応は攻略組のギルドだし」

軍や血盟騎士団から少し離れた場所で、いつも通り会話をしているのはエギルとクラインだった。
この二人はキリトと言う共通の話題もあり、会えばしきりに会話をしていた。またクラインはじめ、風林火山の面々はエギルのお得意様と言ったところであった。

「最近はどうよ。まーたあこぎな商売して儲けてるんじゃねぇの?」
「おいおい。人聞きの悪いことを言うな。こっちはいつでもお客様第一の良心的な商売だぜ」
「じゃあこの間のあれ、まけてくれてもよかったじゃん」
「それはそれ、これはこれだ」

などと二人して笑いあう。が、不意にクラインは話題を変えた。

「ところで、エギル。最近キリトの奴そっちに顔を出してるか?」
「………いや、最後に来たのは一月ほど前だ。だがなんつうか、どこか憑き物が落ちたような顔をしてたぞ」

エギルはあの時のキリトの顔を思い出す。何か大量にいろいろと仕入れて帰って行った。それもどこかうれしそうに。ついでに少し金が必要になったと、集めてきたレアアイテムを換金してくれと頼んだ。

「なんつうか、あいつが笑うのを初めてみた」
「笑った!? キリトが!?」

エギルの言葉にクラインが驚きの声を上げた。クラインがキリトの笑ったところを見たのは、はじまりの街で別れる直前だ。
それ以降、キリトが笑う所をクラインは見たことがなかった。

「それにあいつ、今回に限って交渉してきたぞ。いつもは俺の言い値でいいって言うのに。つうか、なんかいつもに比べておかしかった。いや、あれの方が前よりもマシだが。本当にキリトかと疑ったぞ」

まるで信じられないものを見たと言う顔をするエギルに、逆にクラインも心配になってきた。

「……何があったんだ、キリトの奴」
「………わからん。女でもできたか?」
「あのキリトに限って?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「ないな」
「自分で言っといてなんだが、そりゃないわ」

と二人してうんうんと頷く。あのキリトに女など。ただでさえコンビも組もうとしない人間不信に近いあれを攻略するなど、一人でボスに挑むようなものだろう。色香に迷うと言う可能性もなくはないが、このゲームでは性欲など発生しないのだ。

まあ一応男女の営みをできなくはないが、ほとんど隠しコマンドみたいなもので、知っている人間はまだ多くない。
だから二人はキリトは本当に大丈夫なのかと思った。攻略から外され、やけになってなければいいが。

「まあやけになってるって風には見えなかったから、それだけは安心だと思うが」
「それならいいけど。エギル、またあいつが来たら、それとなくフォローしてやってくれよ。あいつ、危なっかしいから」

そう言ってクラインは頭を下げる。彼からしてみれば、キリトは生意気な弟のようなものだった。
そんなクラインにエギルは笑みを浮かべる。良い奴だとは知っていたが、中々どうして。彼自身もクラインが頼まなくてもキリトの事を助けるつもりだった。

お得意様と言うことだけではない。キリトがどれだけ努力し、苦労しているかを知っているからだ。
それに大人として、子供を助け見守るのも務めであろう。

「任せとけ。あいつのためなら、俺もなんだってしてやる」

キリトの知らぬ間に、男達はできの悪い弟を助けるために協力することを約束する。

「準備は整った! みんな、行こうか!」

ディアベルの号令で、この階層のボスの攻略が始まる。敵は金属製の仏像めいた多腕型ボス。情報収集の段階でこのボスの強さが尋常でないと言うことは知られていた。
それぞれのギルドの偵察部隊が必死に集めた情報だった。
その結果、この敵は動きも早いうえに、攻撃速度、威力、手数とも今までの比ではないと判明した。

これを受け、大人数によるそれぞれに役割を分担した攻略に挑むことで決定した。三大ギルドのリーダーが無茶を言い出すタイプではなかったのが幸いだった。
五十層攻略が開始される。



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