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No.34934の一覧
[0] ソードアート・オンライン 逆行の黒の剣士(SAO)[陰陽師](2012/11/26 22:54)
[1] 第一話[陰陽師](2012/09/16 19:22)
[2] 第二話[陰陽師](2012/09/16 19:26)
[3] 第三話[陰陽師](2012/09/23 19:06)
[4] 第四話[陰陽師](2012/10/07 19:11)
[5] 第五話[陰陽師](2012/10/15 16:58)
[6] 第六話[陰陽師](2012/10/15 17:03)
[7] 第七話[陰陽師](2012/10/28 23:08)
[8] 第八話[陰陽師](2012/11/13 21:34)
[9] 第九話[陰陽師](2012/12/10 22:21)
[10] 外伝1[陰陽師](2012/11/26 22:47)
[11] 外伝2[陰陽師](2012/10/28 23:01)
[12] 外伝3[陰陽師](2012/11/26 22:53)
[13] 外伝4(New)[陰陽師](2012/12/10 22:18)
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[34934] 第二話
Name: 陰陽師◆c99ced91 ID:9d53e911 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/16 19:26

「・・・・・・ト君」

誰かが自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。

「・・・・・リト君。・・・・・・・起きてよ」

その声は段々と大きくなってくる。

「キリト君。ねぇ、キリト君ってば」
「えっ・・・・・あっ・・・・・・」

ゆさゆさとキリトは自分の身体が揺らされているのに気がついた。
ハッとなり、目を開けるとそこには一人の少女の姿があった。

「ア、 スナ・・・・?」
「寝ぼけてるの? もうお昼前だよ?」

言って、時計をキリトに見せる少女――アスナ。時刻は十一時半。上半身をガバッと起き上がらせ、キリトは周囲を見渡す。
そこは小さな木でできた家。キリトは今、ベッドの上にいた。
おかしい。自分はさっきまで、仮の寝床で剣を抱えたまま、座って眠りについたはずだ。

「ここは・・・・・・」
「もう。今日のキリト君は本当におかしいよ。せっかくの新婚だって言うのに」
「しん、こん?」

鸚鵡返しのようにキリトは聞き返してしまった。

「酷い! いくら寝ぼけてるからってそれも忘れちゃうの!?」

キリトの言葉にアスナは声を大にして怒りをあらわにする。

「わぁぁっ! ごめん、アスナ! 俺、すっごく寝ぼけてた!」

咄嗟に両手を合わせ平謝りするキリト。そんな姿にまだ頬を膨らませながらも、アスナはしぶしぶ怒りの矛を収める。

「本当に酷いよ、キリト君。せっかくキリト君と気持ちが通じ合ったって思ってたのに」

どこか悲しそうに言うアスナの姿に、キリトの胸が激しく痛んだ。

「ごめんって、アスナ。その、俺だってアスナと気持ちが通じ合って、その・・・・・すごく嬉しい」

キリトの口から漏れる嘘偽り無い言葉。それを聞いて、アスナは笑顔を浮かべる。

「うん。許してあげる。じゃあお寝坊さんは早く着替えてね。今からご飯にしよう」

そういいながら、アスナはキリトに背を向け、キッチンの方に向かっていく。
そんなアスナの姿にキリトもまた笑顔を浮かべる。

ああ、あれは夢だったのか。自分はどうやらずいぶんと寝ぼけていたらしい。
そうだ。アスナが死ぬなんてことがありえるはずが無い。彼女は強い。
それにその彼女を自分が守るのだ。 絶対に彼女を死なせるはずがない。
だからアレは夢・・・・・・・・。
今のこれが現実・・・・・・。

「ねぇ、キリト君」

歩みを止め、振り返りアスナはキリトの名前を呼ぶ。

「?」
「大好きだよ、キリト君。ずっと一緒だからね。だから、一人でどこにも行かないでね」

心配そうな表情を浮かべるアスナ。そんな彼女に苦笑しながらも、キリトはこう告げる。

「ああ、絶対にアスナを一人にしない。ずっと一緒にいよう、アスナ」

キリトはベッドからおり、アスナの傍まで歩くと彼女を抱きしめようと腕を伸ばす。彼女との距離が縮まり、彼女をその手に抱こうとした。
だが・・・・・・・。

「えっ?」

彼女の身体を腕がすり抜ける。

「アスナ?」

驚き、アスナの顔を見る。彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「・・・・・・・・・ごめんね、キリト君。約束、守れない・・・・・・・」
「・・・・・・アスナ?」

彼女の姿が消えていく。光の粒子となり、キリトの前から徐々にその身体が失われていく。

「アスナ!? 待ってくれ! アスナ!」

消え行く彼女を必死で掴もうと腕を振るが、キリトの腕は彼女の身体をすり抜けるだけだった。

「さようなら、キリト君・・・・・・・・」

最後にパリンと砕け散るような音が響き、彼女の姿がキリトの前から完全に消え去った。

「アスナぁぁぁぁっっ!!!」

キリトの絶叫が周囲へと響き渡った。



「!?」

キリトは自身の身体を激しく震わせ、知らず知らずのうちにその手を虚空に向けて伸ばしていた。
もしこれが生身だったら、キリトは全身に汗を大量にかいていただろう。
はぁ、はぁと息を荒くしながら、キリトは伸ばした己の腕を見る。

「はは、ははははは、あはははははは・・・・・・・・」

笑いがこみ上げてくる。何が夢だ。アスナを失ったのは現実だ。それから目を逸らし、都合のいい夢を見るなんて、何てバカらしい事か。
心のどこかで、まだアスナを求めている。彼女が自分の傍にいてくれたら。
そんな資格、今の自分にあるはずが無いのに・・・・・・・。
それに今の何も知らないアスナを隣において、それで幸せになれるのか。なれるはずが無い。

「どこまで馬鹿なんだろうな、俺」

立ち上がり、剣を背負う。ウインドウを開いて時刻を確認する。三時間は眠れた。これでも多いほうだ。今日はあんな夢を見たから、少し寝すぎてしまったようだ。

第二十五層をクリアしてから十日。攻略は順調である。
アインクラッド解放軍、聖竜連合、血盟騎士団の三大ギルドに加え、他の有力ギルドの連携で、あれ以降はキリトもあまりボス攻略戦では活躍していない。
これは他のギルドがキリトにばかり頼る現状では後々に、彼に万が一のことがあれば、それだけで戦術が崩壊すると言う危惧から来るものであった。

これを提案したのがディアベルとそしてヒースクリフだった。
前者はそれもあったが、純粋にキリトを心配しての物だった。あまりにも二十五層でのキリトの戦い方が自分の身を省みないものであったため、強制的にでも一度下がらせる必要を感じたからだ。
それにディアベルよりもまだ幼いキリトが、あのような無茶をするのを見ていられなかったと言うのもある。

以前からディアベルはキリトがビーターと名乗った後でも、彼を擁護し続けてきた。
キリトのもたらす情報やアイテムの重要性や、キリト自身の力によるところも大きかったが、それでもディアベルは他のプレイヤーが嫉妬や嫌悪感を顕にする中、エギルやクラインと言うメンバーと共に、彼がこれ以上孤立しないように手を回してきた。

同じアインクラッド解放軍のリーダーであるシンカーにも協力を要請し、悪い噂を駆逐、あるいは悪名が広がらないように、キリトの功績を広く伝え彼の立場を回復させようとした。

だが悪い噂や悪名は、得てして功績よりも広まりやすい。特に嫉妬深いネットプレイヤーの、それも前線に立つ人間からしてみれば、その強さは嫉妬の対象以外の何物でもなかった。ゆえにキリトの孤立は止められなかった。

もっともキリト自身、そんな状況に自分自身を追い込むようにしていたのだから、ディアベルやシンカー、クラインやエギルがいくら頑張ろうがその流れは止まる事はなかった。

そしてヒースクリフ。彼もディアベルと同じように、キリト一人が突出する事態はあまり好ましくないと意見し、彼抜きでも戦い抜けるように全体の更なるレベルアップや攻略方法の確立を優先すべきだと主張した。

この結果、キリトは一時的にボス攻略や前線から離れる事になった。いくらキリトが突出した強さを誇ろうとも、たった一人でボス攻略は出来ない。
彼が囮役を引き受けることは出来ても、一人で決定打を放つことは出来ない。まだ二刀流は習得できていないのだ。

(・・・・・・・・あの男に勝つにはシステムスキルに頼ってちゃだめだ。システム外スキルの構築。それさえ出来れば・・・・・)

そう。キリトは何度も何度もあの戦いをシュミレーションしなおしていた。二度の決闘。あの状態のヒースクリフとならば、裏ワザやGM権限さえ使われなければ、さほど隔絶した差は存在しない。

もしヒースクリフが百層の最終ボスの魔王ヒースクリフ状態で現われたのなら、一対一で勝利を収める可能性は極めて低いが、それでも勝つための筋道を作る。

(俺がこれだけ一人で突出しすぎたせいで、最強の騎士の称号は今の所、あいつじゃなくて俺のものだ。あの男が言っていた最終的なシナリオの流れを考えるなら、絶対にどこかで一度俺に勝負を挑んでくるはずだ)

このソードアート・オンラインのシナリオでは、九十五層でヒースクリフはその正体を露見させる。あの時、ヒースクリフはそう言った。
最強の騎士であり、最強の騎士団を指揮するユニークスキル『神聖剣』の使い手たる、プレイヤーの希望を一身に背負う存在が、一転して最強最悪の敵として君臨する。

確かにシナリオとしては盛り上がるだろうが、このデスゲームに強制的に参加させられているプレイヤーからすれば、これ以上の悪夢は無いだろう。
だが現状、まだヒースクリフは神聖剣のユニークスキルを発現させていない。まだ時期ではないと言うことだろう。
発現させれば、キリトを超える最強のプレイヤーになるだろう。

しかしそれでも他のプレイヤー達は納得しないだろう。
ビーターであり、これまで数限りない活躍を見せたキリトと神聖剣を発動させただけの一介のプレイヤー。

これがキリトの記憶にある前回の五十層での、ヒースクリフがたった一人で前線を維持し伝説となった攻防戦後であれば話は違うだろうが、それまでならば誰もが疑問を浮かべるだろう。

果たしてどちらが最強騎士なのか。

そうなればあの男の正体を露見させる第一段階は達成される。
ヒースクリフにしてみても、最強の騎士の称号は今後のシナリオのためにも是が非でも手中に収めておきたいところだろう。

仮に五十層後であっても、キリトもヒースクリフに負けないほどに力を上げるつもりなのだから、客観的に見てそこまで隔絶した差があるようには見えないだろう。

ゆえに一対一の決闘と言う流れに持って行きやすい。
最強の騎士の称号を懸けて、とでも言えば向こうも話には乗るだろう。
仮にキリトとしてはそこでは敗北してもいい。否、敗北が前提なのだ。ただしそれは神聖剣の能力を分析とオーバーアシストの使用と言う二つを達成させてからだ。

特にオーバーアシストの使用は、ヒースクリフの正体である茅場晶彦に迫るヒントの一つとして、相手に提示するためのものだ。

これを使われないと、何故正体に至ったのかと言う道筋が立てられない。他にも幾つかヒースクリフから情報を引き出す努力はするが、今回は圏内事件が起こる状況にはすでにないため、GMしか知り得ない情報を引き出すと言う手も使えない。
むしろこちらが口を滑らせてしまう可能性も十分に考えられる。

(今のうちにスキルのアップだ。ボス攻略中じゃ出来ないシステム外スキルの発動の割合も増やさないといけないからな)

そう考えながら、キリトは迷宮区を進む。すべてはあの男に勝つために・・・・・・。




(ふむ。これはどうしたものかな)

ヒースクリフこと、茅場晶彦は一人手元のある情報を見ながら考え事をしていた。
手元に映し出されたのは、一人のプレイヤーの情報。言うまでもなくキリトである。
突出した力を持つ黒の剣士。βテスト経験者。

だがキリトはあまりにもこの世界を熟知している。知りすぎていると言っても過言ではない。あまりにもイレギュラーな存在だった。
何らかのズルを行っているのかとも考えた。しかし監視やデータを検証したが、彼が何らかの不正行為を行った形跡はない。
このゲームのルールにのっとり、キリトは力を上げている。

不正アクセスによる、データの回覧。その可能性を考え、システムの根幹であるカーディナルも念のためにシステムを洗いなおした。
しかしそのような事実は無い。それにこのSAOはベータ版よりもさらに容量を増し、新しい項目やシステムを積み込んでいる。さらにはモンスターの能力や出現も変化を起こさせている。

自分以外に、この世界の情報を完全に把握するものはいない。この世界は茅場晶彦が一人で作り上げたのだ。
ハッキング以外のやり方で、この世界の情報を知る手段は無い。ゲームソフト自体の解析も不可能。それにそれをしようにもプレイヤーはこの世界から脱出する方法などはクリアする以外に無いのだ。

(本来ならあまり見過ごせないことだが………しかし)

ヒースクリフは口元を面白そうに吊り上げる。なぜだろう。心が躍ると言うのだろうか、彼をもっと見てみたいと思う気持ちが沸きあがる。

GMとしてみるなら、この世界の安定と公平さを望む立場からすれば、キリトの存在はあまり面白い存在ではないはずなのに。
どちらかと言えば、早急に何らかの手段を持って排除しなければならない。

(いや、違う。私は求めているのだ。こういう私自身が想像しえない、私の思惑の外の存在を……)

自身の内心を、茅場晶彦は考える。
彼は天才であった。昔から並大抵のことは一通りこなせた。むろん、苦手な分野という物は存在するが、こと自分が進んだ分野においてはほかの人間の追随を許さなかった。

自らの知識を、能力をフルに使い作り上げたこの世界。この世界の創造こそ、創造してからの鑑賞こそが彼の目的であり、夢であった。
しかしわかりきった事象など何の面白味もない。自分だけが何もかも知っていると言うのは、確かに優越感を得られるだろう。神のごとき視点で他者を見る。これ以上の快楽はない。

だが逆にそこには未知に対する期待も新しいことを成し得た、知った時に生まれる感嘆や驚愕、感動もない。
停滞した世界しか存在しなくなる。
俗にいえば、ロマンがない。

茅場晶彦は科学者であり、狂人であり、異端児ではあったが、彼は彼なりの美学を持ち、独自の感性を持っていた。
このアインクラッドを想像したことからもわかるとおり、彼はロマンチストでもあった。

子供のころからの夢。この空想の世界を現実のものにする。
仮想世界の存在であっても、どこかに本当にこの世界が、このアインクラッドと言う城が存在するのではないか。そんな想像を掻き立てられる。
そんな中に、彼の予想を、予測を上回る活躍をする人間が現れた。

ゲームとしてみれば、本当に異物でしかないかもしれない。しかしだからこそ面白い。
自分の城に、世界に現れた未知の存在。
彼は今後、いったい、どんな行動を取るのだろう。どんな予想外な事態を見せてくれるのだろう。起こしてくれるのだろう。
ああ、面白い。

「本当に君は面白い」

小さくつぶやく。
本来なら、最強の騎士の称号は、ヒースクリフと言う名の存在に与えられるはずだった。
最強のギルドの称号ともに、神聖剣という名の称号とともに。
しかし、それは現在、彼自身のものだ。

勇者。
孤独であり、孤高である姿に、いっそヒースクリフは美しいとも思えてしまった。
彼ならば、間違いなく自分を倒し得る十のユニークスキルのうちの一つを必ず取得するだろう。どこか確信めいた予感があった。

MMOに魔王と戦うオンリーワンの勇者は必要ないし、存在してはいけない。そしてゲームバランスを破壊する可能性があるユニークスキルもまた、本来は存在してはならない。
逸脱した力であるユニークスキル。神聖剣だけならば、シナリオ上必要だ。
天地逆転する驚愕のストーリーを盛り上げるためにも、そう言った舞台装置は必要なのだ。
残り九個のスキルはあってはならないはずなのだ。そして本来ならたった一人の勇者の存在など不要のはずだ。

「……私は求めているのだろうな」

彼――-茅場晶彦がほかに何を求めているのか。それを知るのは、本人のみ。

「さて。私もそろそろ本腰を入れるとしよう。彼にばかり活躍されては、このヒースクリフの意味もない」

立ち上がり、ヒースクリフは装備を身に纏う。

「私は高みで待とう、キリト君。本当なら、君のためにもう少し難易度を上げたいところだが、それは公平ではない」

キリト自身の正体がつかめず、ある意味チートであり、あまりにも知りすぎているため、何らかのペナルティや少々難易度の変更を行いたいところだが、それでは今のこの状況を、ほかのプレイヤーを一気に失いかねないし、何より今のまま彼を見続けていたと言う葛藤が彼の中に生まれたからである。

「上がってきたまえ。そして見せてくれ、私の世界で君がどのような物語を紡ぐのか」

ヒースクリフ、最強の盾にして剣、神聖剣が動き出す。



このゲームが開始されてから四か月。
あの二十五層攻略から一か月。最前線は多少キリトの離脱により攻略速度を落としたものの、すでに三十八層まで進んでいた。

攻略は順調である。前線メンバーも、極端に大きな被害を受けることもなく進んでいる。だが時折、調子に乗ったプレイヤーのミスで被害がでることもあり、ここまでに聞いた話では二人が命を落としたらしい。全体の死者も九百人を超えた。
それでもだんだんと死者の数は少なくなってきており、この世界の情勢も落ち着いてきた。

索敵スキルを鍛えつつ、この世界に流通する新聞に目を通すキリト。彼が大きく目を引いたのは、ヒースクリフの記事。

血盟騎士団団長・ヒースクリフが神聖剣を取得したと。
思ったよりも早かった。そう考えながらキリトは記事を端まで見る。
前回、あの男がユニークスキルを発現させたのは、もう少し後になってからだと記憶している。
いや、あれは発現と言うよりも解禁と言う方が正しいだろう。それを早めたのはキリトの存在が影響しているのは想像に難くない。

対して自分はまだ二刀流を取得していない。あれはゲーム開始から一年後のことだった。まだ半年も経過していないから、気が早いのは理解できるがそれでも一刻も早い取得が望まれる。
二刀流の熟練度を早いうちから高めなければならないのと、二刀流によるソードスキルに頼らない戦術を構築する必要があるからだ。
しかし………。

「最強騎士、そして最強ギルドの称号を取得なるか、か」

記事の見出しにはヒースクリフが神聖剣を得たことにより、今まで最強のギルドの名を争ってきたアインクラッド解放軍と聖竜連合から一歩抜きんでることになった。
デイアベルと聖竜連合のリーダーもプレイヤーとしては優秀だが、ヒースクリフには劣る。

記事にはビーター・黒の剣士キリトと神聖剣・ヒースクリフ、果たしてどちらが強いのかと書かれている。
現状では、キリトはヒースクリフに勝つのは不可能だと思っている。
神聖剣に勝つには、あの圧倒的防御力を打ち抜く、圧倒的な手数と攻撃力が必要となる。唯一、二刀流だけがそれを成し得る可能性を秘めている。

もし片手剣のみならば、否、二刀流以外ならば、あの防御を突破することはおそらく不可能だろう。
全十あるユニークスキルの残り八つがどんなものかはわからないが、あれを完全に上回るスキルは存在しないだろう。

「いや、これは俺の役目だ。俺があいつの神聖剣をつぶす」

拳を握りしめ、キリトは感情を高ぶらせる。
だが不意に、キリトは血盟騎士団の団員紹介の項目に目を通し、疑問を浮かべた。

「……やっぱりアスナの名前はないか」

そこには副団長から上位十名の名前が書かれた項目があったのだが、アスナの名前がそこに乗っていなかった。
前回の彼女は副団長として血盟騎士団にその身を置いていた。今回は自分が攻略に参加していた時はまだ彼女の姿を見ることはなかった。

自分が大きく動きすぎたことで、以前とはだいぶ流れが変わっている。攻略自体も順調だし、彼女自身が攻略に参加しない、まだ参加していないと言うのは十分に考えられるが……。

キリト自身、なぜこんなことを考えるのか理解できなかった。
彼女が前線に出なければ、それだけで彼女が危険な目に合うことは少なくなる。自分自身も彼女を目にすることで、あのアスナを思い出さなくて済む。重ねなくて済む。
そういう意味ではこの状況はキリトの望み通りのはずなのに。

「なんで、まだアスナを求めてるんだよ、俺は……」

うつむき、顔を隠す。
やめろよ、思い出すなよ。
心の中でつぶやく。あんな夢を見たからか。あの幸せだった、二十二層での思い出が、キリトの中にあふれ出る。

一人が当たり前になったのに。一人の方が落ち着くようになったのに。
どうしてこんなにも胸が締め付けられるように苦しいんだ。どうしてこんなにも涙が出てくるんだ。

やめろ、やめてくれ……。
本当は気づいてた。本当は、一人が嫌だと言うことを。気付かないようにしていた。気付いていないようにしていた。
自分はただ怖いだけなんだ。傷つくことが、失うことが。

あの時、はじまりの街で彼女に言われた言葉。
自分を知らなかった、最愛の少女。
もしまた、彼女に拒絶されたら。もしまた彼女を失ったら。
きっと自分は生きていられない。きっと自分は、もう立ち上がることができない。

だからそうならないように、必死に弱さを隠してきた。強さを求めていた。
でも不意に一人になることで、その弱さは露呈する。
攻略を続けていた時は、周囲から嫌われ、白い目を向けられていても、まだ他人とのつながりを感じることができた。

ボスを倒すためと言う目的を掲げることで、それ以外のことを考える必要がなかった。
それにエギルやクライン、ディアベルと言う、自分を気にかけてくれる人がいると言うのを感じるだけで、キリトは知らず知らずのうちに救われていた。

だが今の、一人の状況が長く続くと、考えてはいけない、考える事が許されない思考が浮かんできてしまう。
弱い自分があふれ出す。キリトは両手で自分の体を抱きかかえる。
あまりにも情けなく、あまりにも弱い自分が嫌になる。

求めるな。願うな。望むな。
もう今更だ。もうどうあっても、自分は彼女と共に歩む事は出来ない。
ビーターと言う悪名は、彼女との接点をより無くすためのものでもあった。前以上に悪名を轟かせれば、彼女は決して自分を好きにはならない。

多分、彼女に恨んで欲しかったのかもしれない。彼女を守れなかった自分を罰して欲しかった。
逃げ道を自らの手で潰した。そうする事で、強くなろうとした。
なのに・・・・・・・

「何でだよ、何で・・・・・・・。アスナ、俺・・・・・・・」
それでもキリトはアスナを求めてしまう。
彼女の声が聞きたい。彼女の笑顔が見たい。彼女と一緒にいたい・・・・・・・。

『大丈夫だよ、パパ』

不意に、声が聞こえる。
ハッとなり、キリトは顔を上げる。周囲には誰もいない。今、キリトがいる場所は、他のプレイヤーが知るはずもない場所。
まだ情報を開示していない、キリトだけが知っている場所なのだ。
そこに声が聞こえるはずが無い。誰かが来るはずが無い。

しかし彼の索敵スキルがこちらに近づいてくる存在を察知している。
数は一人。真っ直ぐにこちらに向かっている。かなり速い速度だ。
キリトは背中に剣の鞘を回し、右手で剣を抜き構える。何者であろうとも、すぐに対処できるように・・・・・・。

だが近づいてくるものの姿を見た瞬間、キリトは驚愕の表情を浮かべ、その動きを止めた。
キリトの目に映る存在。白い純白の服を着て、腰に細剣を携えた一人の少女。
全力で走ってきたのか、キリトの姿を確認すると立ち止まり、少々肩で息をしながらも、呼吸を整え、彼女は満面の笑みを浮かべ・・・・・・。

「・・・・・・・・ただいま、キリト君」

少女―――アスナはキリトにそう告げるのだった。




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