『…なさいよ…起きなさいよ……起きろって言ってんでしょ!!このモジャモジャー!!』
気を失っていた銀時を叩き起こすリタ。
『痛ってぇー!?』
強引に起こされ一瞬何が起きたかわからなくなる銀時。
『やっと起きたわね。どんだけ寝たら気が済むのよアンタは。もうスッカリ暗なっちゃたじゃない!!』
リタの言葉の通り,いつの間にか辺りは,お互いの顔がハッキリ見えないぐらい薄暗くなっている。そこで,ある疑問が1つ浮かんできた。
<寝てた?>
自分が多少いい加減な性格なのは自負しているが,いくらなんでもこんな草原のど真ん中,しかも人間を襲うような得体の知れない生物がいるところで寝るだろうか?
『寝てた…?なんで俺こんなトコで寝てたんだっけ?確か…何か急に地面から水が吹き出してブッ飛とんでった気が…なぁ?何があったかわかるか?』
試しに問いかけてみる。すると少し困った表情でリタが答えた。
『…私が魔術を発動させたのよ。』
『…はぁ?まだ言ってんのお前?だいたいそんなゲームみたいな…』
と言いかけた時ある事を思い出す。
『アクアレイザー!!』
確かこの女がなんか中2設定ッポイ言葉を叫んだ直後に水が吹き出してきたんだった。それにコイツがカマキリ達に囲まれてる時にもそれッポイ事言ったら急に岩が現れたよな… 。
『……マジでお前あんな事できんの?』
もう理解するしかない。コレが現実なんだだと悟った銀時はそう聞き返す。
『だからさっきからそう言ってるし,さっきの魔物にも使ってたでしょ?理解できた?』
『……念の為に聞くんだけどよ……ここって江戸じゃねぇよな?それどころか,この世界は地球ですらねぇよな?』
今自分がいる世界が江戸…地球ですらない事は,初めてこの世界に来た時からだいたい分かってはいた。だが,心のドコかではまだ信じきれていなかったのだろう。今自分がおかれてる状況をより鮮明にする為に銀時は問いかけた。
『江戸?地球?何言ってんのアンタ?もしかしてアタシを試してんの?』
バカにされていると思ったのか,質問に答えないリタ。
『…悪りぃがマジな話だ。ちゃんと答えてくれや』
それまでと違い真剣な表情をみせる銀時。
『…わかったわ。この世界はテルカ・リュミレース。そして今いる場所はトリビキア大陸のヘリオードっていう街の近郊よ。』
急に雰囲気が代わり,冗談ではないと悟ったのか,リタも真面目に返答する。
リタの話で不鮮明だった状況が鮮明になった。自分がいる場所は地球ではないという事。この世界では魔術や魔物と呼ばれる生物が存在する事。そして自分は占いの通り,凛々の明星達を見つけ,この世界を災厄から守るのしか方法はないのだと。
『そうか…。何とか理解出来たわ。サンキューな。』
リタに素直にお礼を言う銀時。
『ねぇ…アンタは一体何者なの?』
リタが銀時と出会った時から思っていた疑問を口にする。
『まぁ…話すと長くなんだけどよ……なぁ?とりあえず先に移動しねぇか?こんな巨大カマキリがいるようなトコじゃなんか落ち着かねぇしよ。近くに街があんだろ?とりあえず詳しい事はそこで説明するからよ。』
『そうね。私もヘリオードの魔導器(あのコ)が気になるし…それにこれ以上暗くなる前に移動する方が無難ね。じゃぁ行くわよ。』
『おお。』
説明は街に着いてからという事になった2人はヘリオードに向かって出発した。勿論,銀時は道を知らないのでリタが先導して歩く。
『あ。』
出発してしばらくした時だった。前を歩いていたリタが何か思いついたのか急に立ち止まった。そして少し後ろを歩いていた銀時に振り返った。
『アタシはリタ。リタ・モルディオ。アンタの名前は?』
『…急に止まったかと思えば自己紹介かよ。』
リタの思ってもみなかった行動に苦笑いする銀時。
『俺は銀時。坂田銀時だ。まぁとりあえずよろしく頼むわ。』
『ぇえ。よろしく。そ…それと…さっきは2回も魔物から守ってくれて…あ…ありがと…。それから…魔術でブッ飛ばしたのは,さすがにやりすぎたわ…ゴメン。』
うつむき,時々言葉を詰まらせながらもお礼と謝罪を口にするリタ。その姿は先ほどまでの大人びていた感じと違い,普通の少女そのものだった。<急にどうしたんだコイツ!?アレか!?いわゆるツンデレってやつかァァ!?>
『ま…まぁ,今さらそんな事気にすんなって。それにブッ飛ばされたのは俺に非があった訳だしよ。まぁとにかく街へ行こうぜ。もう銀さん腹ペコで死にそうなんだわ。それに糖分も足んねぇしよ。』
『何よそれ〃。』
『…ふ~ん。笑うと割りと可愛いくなるじゃねぇか。』
笑ったリタを見て何気なく可愛いという銀時。勿論大きな意味はない。
しかし,こういった事に全くといっていい程免疫のないのがこの魔導少女である。
『〃〃なななな…何言ってんのよ!!』
赤面しながら叫ぶリタ。そして動揺を落ち着かせる為に早足で再び進み始めた。
『あ!!コラ!!置いてくなっての!!』
こうして2人は再びヘリオードを目指して歩き始めた。
なんとかヘリオードに辿り着いた2人は街の食堂いた。
『くっ~!!やっぱ甘い物はたまんねぇなオイ!!まさかこんなトコでパフェが食えるなんて思ってなかったぜ~。』
大好物のパフェが食べれて幸せそうな銀時。そんな様子をテーブルに肘をつき,顎を手に乗せ呆れながら見ていたリタが口を開いた。
『はぁ…いい加減満足した?そろそろ本題に入ってもいいかしら?』
『何の話だっけ?』
スッカリ忘れている様子の銀時。
『アンタが何者かって話よ!!』
『あ~そういやそうだったな…あ!!すんませ~ん。パフェもう1つ追加でぇ。』
『そうなのよ!!てゆーか何なの!?まだ食べんのアンタ!?』
顎を乗せていた手を離し,両手でテーブルを叩く。勢いよく叩き過ぎたのか少しばかり手が痛くなったリタ。
『ったく,そうカリカリすんなっての。とりあえずカルシウム摂れカルシウム。それに甘い物は別腹ってよく言うだろう?甘党の中では常識だよ?絶対テストにでっからこれ。堀田先生も言ってたろうが。』
『そんな常識知らないわよ!!何よテストって!!そんな問題出るわけないでしょ!!それに誰よ!!堀田先生って!!……ほんとアンタと話すのはなんか疲れるわ…いいから早く教えなさいよ。』
『堀田先生か?堀田先生はな…』
『アンタの事に決まってんでしょ!!』
スッカリ銀時のペースにはまってしまったリタは凄い勢いでツッコミを入れていく。
『わ,わかったわかった。わかったから!!説明するからとりあえず落ち着け?な?』
どんどんヒートアップしていくリタを落ち着かせようとする銀時。
『ふぅ…で?どうなのよ?』
どうやらリタもヒートダウンしたようで,落ち着いた様子で。再度問いかけた。
『まぁ信じがたい話なんだけどよ…』
銀時はこれ迄の経緯を一通り説明した。自分は地球という星に住んでいた事。そこで万事屋をしていた事。占いの通りこの世界に飛ばされた事。そして帰るには凛々の明星という人物達とこの世界を災厄から救うしかないという事を。
『ってな感じなんだわ。…信じてもらえたか?』
リタに問いかける銀時。
『馬鹿っポイ…と言いたいトコだけど,こんな嘘付いてもアンタには何のメリットもないだろうし,この世界では子供でも知ってるような事も本当に知らないみたいだし信じる事にするわ。』
とりあえず自分の話を信じてくれてひと安心の銀時。
『なら次はこの世界についてもう少し詳しく教えてくれるか?』
『そうね。確かに,ある程度はこの世界について知っておいたほうがいいわね。』
今度はリタがこの世界について説明し始めた。魔導器の事。ギルドと帝国の事。各都市が結界に守られてる事。魔物の事。それからユーリやエステルと旅をしていた事を簡単に説明した。特に魔導器とエステルとの事を話してる時は何処か嬉しそうに見えた。
『まぁだいたいこんな感じね。どう?少しはこの世界についてわかった?』
一通り説明し終えたリタが確認する。
『大体はな。やっぱりこの世界と俺のいた世界は全然違ってるって事がよ~くわかったわ。それと…』
ニヤリと笑う銀時。
『?それと何よ?』
急にニヤリとした銀時に不思議そうに聞き返すリタ。
『オメェがエステルって子の事をスゲェ好きって事がひしひしと伝わってきたよ。いや~是非とも一度会ってみてぇな。』
『なっ…!!〃そ…そんな事一言も言ってないじゃないの!!』
『エステルって子の話してる時のオメェの表情みりゃ誰でもわかるっての。』
ニヤニヤしながらリタをからかう銀時は非常に楽しそうだ。
『も~!!〃何なのよ~!!違うって言ってんでしょ~!』
『あ~わかりました,わかりました。俺の勘違いでした。どうもすいませんでしたー。』
キーキー叫ぶリタを適当あしらう銀時。
『ふぁ~あ…てゆーか,もう銀さん眠たくなってきたわ…。そろそろ宿屋行こうぜ宿屋。』
『ったく勝手なんだから…宿屋はこっちよ!!』
リタはブツブツ文句を言いいながら宿屋までの道案内を始めた。
『ねぇアンタ明日はどうすんの?』
宿屋に行く途中でリタが問いかける。
『ん?そうだな…とりあえずなんか知ってるヤツがいねぇか探してみるかな。お前はどうすんだ?何か用事あったんだろ?』
『アタシはこの街の結界魔導器の調査。ちょっと気になる事があるから。』
話が終わったとほぼ同時に宿屋に着いた2人。宿屋でチェックインし個々の部屋の前に辿り着く。
『じゃあまた明日ね。おやすみ。』
『あぁそうだ。おいリタ。』
部屋に入ろうとしたリタを呼び止める銀時。
『どうしたのよ?』
『今日は色々助かったわ。マジで感謝してっからよ。サンキューな。』
お礼を言う銀時。一方のリタは例によって例のごとくまた赤面していた。
『いいわよ別に…〃じゃあね。』
『おう。』
各自部屋に入る2人。銀時は備え付けのシャワーを軽く浴びると,かなり疲れていたのか,倒れ込むようにベッドに横たわった。
『…ふぅ…アイツら心配してっかもなァ…』
新八と神楽の顔を思い浮かべながらそう呟いた銀時が眠りに落ちるのに,そう時間はかからなかった。